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「国保逃れ」と社会保険料削減ビジネス―名目的役員・短時間勤務の被保険者資格と資格喪失後の対応(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 「国保逃れ」という呼び方と法的な問題

本記事は,個人事業主又はフリーランス等が,法人の名目的な役員又は勤務時間が極端に短い正規型労働者となり,健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格を取得する仕組みについて,令和8年9月16日現在の法令,行政通知及び裁判例に基づいて整理するものである。
厚生労働省の資料は「いわゆる社会保険料削減ビジネス」と表現しており,本記事で「国保逃れ」という場合も,報道又はSNSで用いられる通称を示すにすぎない。

事業所に使用されている実態があり,法定要件を満たす者が健康保険及び厚生年金保険に加入すること自体は適法である。
問題は,役員又は労働者という契約上の肩書だけを作り,事業所との実質的な使用関係,経常的な労務又はその対価としての経常的な報酬を欠くのに,被保険者資格を取得する場合である。

2 被保険者資格は二段階で判断する

被保険者資格は,次の二段階を分けて検討する必要がある。
① 契約名ではなく,事業所との間に実態上の使用関係又は常用的使用関係があるか。
② ①を満たす者について,健康保険法及び厚生年金保険法の適用除外又は短時間労働者に関する加入要件を満たすか。

したがって,所定労働時間,所定労働日数又は月額賃金を数値要件に合わせただけでは,第一段階の使用関係を代替できない。
反対に,勤務時間が短いこと又は役員が定期的に出勤しないことだけで,当然に資格が否定されるわけでもない。

第2 厚生労働省の調査と令和8年9月14日通知

1 調査で確認された数値

第85回社会保障審議会年金事業管理部会資料4によれば,令和8年8月31日現在,いわゆる社会保険料削減ビジネスを行っていると疑われるため調査を実施した事業所は45社であった。
このうち38社は,事業所調査による指導後に対象者全員の被保険者資格喪失届を提出し,指導により資格を喪失した人数は1万1610人であり,その余の事業所は調査継続中とされた。

厚生労働省は,同年9月14日,役員型について同年3月18日通知を改正し,これとは別に,勤務時間が短い正規型労働者に関する通知を発出した。
短時間正規型の通知は,報道発表を含む5頁版と,第85回部会参考資料3の4頁版があるが,通知本文の内容は同じである。

2 数値から読み取れないこと

前記数値は,日本年金機構による行政調査及び指導の集計である。
「38社について違法が裁判で確定した」「1万1610人全員に故意があった」「資格喪失届を提出した者は刑事責任を負う」といった意味ではない。

行政指導に応じた資格喪失届の提出,行政処分,加入者本人の故意又は不正,事業者との契約責任及び刑事責任は,それぞれ根拠と要件が異なる。
具体的案件では,通知の文言と事実を対応させ,問題ごとに分けて判断する必要がある。

第3 役員型の被保険者資格

1 経営参画を内容とする経常的な労務

令和8年3月18日通知及び同年9月14日改正後の全文は,法人役員である個人事業主等について,法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供と,その対価として経常的に支払われる報酬を基本とする。
単なる自己研さん,活動報告又は情報共有,事業紹介への協力,役員相互の研さん又は互助的な紹介だけでは,経営参画を内容とする経常的な労務とは認められにくい。

他方,出勤回数だけで結論を出すべきではない。
決裁権のある担当業務,職員に対する指揮監督,役員間の取りまとめ,代表者への報告,事業計画又は予算への関与等を,実際の資料により確認する必要がある。

2 労務の対価としての経常的な報酬

役員報酬という名目で支払われていても,加入者が法人又は関係法人へ会費,研修費,広告料,掲載料,参加費,コンサルタント料,協力金又は委託費等を支払い,実質的に自己資金が報酬へ戻っているにすぎない場合は,労務の対価性が疑われる。
報酬を上回る会費等を支払う場合だけでなく,報酬の大部分を恒常的に費消する場合又は関係法人を介して資金を移動する場合も,個別具体的な判断の対象となる。

したがって,「手数料が役員報酬以下なら安全」という基準はない。
報酬と反対方向の支払を別契約又は別法人に分けても,加入条件との結び付き,資金の最終的な帰属及び各取引の実益から実質が審査される。

3 資格を否定する方向だけに読まない

日本年金機構の疑義照会回答(厚生年金保険・適用)は,法人代表者について,定期的な出勤がないことだけで資格を否定しないとする。
また,経営状況により役員報酬が一時的に低下する場合について,一律の最低金額を設定して資格を否定するのは妥当でないとし,報酬決定の経過,兼職状況及び業務内容等による総合判断を求めている。

もっとも,業務内容に対して報酬が1円であるなど,対価として相応しいか疑わしい場合まで資格を肯定する趣旨ではない。
令和8年通知と疑義照会回答を併せて読み,形式的な低報酬又は出勤回数だけでなく,継続的な経営参画と報酬の実質を確認すべきである。

第4 勤務時間が短い正規型労働者の被保険者資格

1 令和8年9月14日通知の判断枠組み

短時間正規型の通知は,契約の文言だけでなく,労働日数,労働時間,就労形態及び勤務内容等の実態から,事業所との常用的使用関係を個別具体的に総合判断するとする。
その上で,①報酬が業務の対価として経常的な支払とは認められない場合と,②業務が経常的な労務の提供とは認められない場合の双方に該当するときは,原則として被保険者資格を有しないものとして取り扱う。

①又は②の一方だけに該当すると認められる場合は,それだけで一律に資格を否定せず,就労の実態に照らして常用的使用関係を総合判断する。
通知は「極端に短い」労働時間について固定的な週又は月の時間数を定めていない。

2 報酬の対価性が疑われる事情

報酬を上回る会費等,個人事業を第三者へ委託した外形を作って委託費等を給与へ戻す資金循環,給与の大部分を恒常的に費消する支払及び関係法人を介した実質的な資金移動は,報酬の対価性を否定する方向の事情となる。
支払の名称ではなく,雇用されるための実質的条件か,法人に独立した役務又は便益があるか,金額が合理的か,加入者以外にも同じ条件で提供されているかを確認する必要がある。

3 経常的な労務と認められにくい事情

労働時間が常態的に極端に短く,社会通念上,経常的に労務を提供しているとはいえない場合は,常用的使用関係を否定する方向となる。
自己学習,アンケート,勉強会,活動報告,情報共有,紹介又は相互扶助にとどまる業務,個人事業の活動を形式的に事業所業務へ付け替えたもの,その他資格取得のためだけの実質の乏しい業務も同様である。

もっとも,短時間でも事業所に具体的な成果又は実益をもたらし,指揮命令,勤務管理,成果物及び報酬請求権が継続している事案は別に評価される。
広告又は契約書に書かれた業務名ではなく,日ごとの実作業を裏付ける客観資料が重要となる。

第5 事業所側及び加入者側が確保すべき資料

1 事業所側の資料

事業所側は,調査後に肩書又は業務内容を書き換える前に,従前の広告,募集ページ,説明資料,契約書,役員就任資料,給与台帳,振込記録,会費等の請求書,業務指示,勤怠,成果物及び法人の会計資料を保全すべきである。
関係法人がある場合は,加入者からの支払,法人間送金及び報酬支払を一枚の資金循環図にし,各支払の契約根拠と事業上の実益を示す必要がある。

対象者ごとに,役員として行使した権限又は労働者として行った作業,日時,指示者,成果及び法人への効用を整理する。
形式的な議事録又は後日作成した報告書だけで過去の実態を上書きしてはならない。

2 加入者側の資料

加入者側は,資格取得日及び資格喪失日,資格喪失届の理由,行政からの通知到達日,契約締結時の説明,実際の労働日数・労働時間,指示,成果物,報酬を請求できる根拠並びに会費等の反対方向の支払を確保すべきである。
メール,チャット,オンライン会議記録,勤怠,端末ログ,成果物の作成履歴,振込明細及び請求書は,日付と相互の対応を保った状態で保存する必要がある。

事業所が指導後に対象者全員の資格喪失届を提出したことは,直ちに加入者本人の虚偽申告又は故意が認定されたことを意味しない。
誰がどの説明をし,加入者がどの事実を認識し,実際にどの業務を行ったかを分けて整理すべきである。

第6 資格喪失後に分けて検討すべき問題

1 資格喪失日と医療保険・年金の切替え

最初に確認すべきなのは,資格喪失届の提出日ではなく,行政上認定された資格喪失日である。
資格喪失日が過去に遡る場合,国民健康保険又は他の医療保険への加入,国民年金の種別変更,既に受けた給付及び保険料の精算が問題となり得る。

具体的な遡及範囲,納付額,還付額及び医療費の調整方法は,対象期間,保険者,受診状況及び処分内容によって異なる。
資格喪失を知った時点で,年金事務所,従前の保険者及び新たな保険者に,書面を示して個別に確認する必要がある。

2 保険料・給付・契約責任等は別問題である

被保険者資格の有無と,既納保険料の精算,保険給付の返還,事業者に対する返金又は損害賠償,説明義務違反,税務処理及び刑事責任は同じ問題ではない。
資格が否定されたという一事から,事業者又は加入者のすべての責任を自動的に導くことはできない。

契約上の請求では,勧誘時の説明,規約,手数料の性質,解約条項,因果関係及び損害額を検討する。
行政対応では,届出者,処分名,理由,根拠資料及び不服申立期間を確認し,民事上の主張と混在させないことが重要である。

3 確認請求及び不服申立て

被保険者又は被保険者であった者は,日本年金機構の資格取得・資格喪失等確認請求により,被保険者資格の取得又は喪失の確認を求めることができる。
処分に不服がある場合は,社会保険審査官及び社会保険審査会法に基づく審査請求等が問題となる。

不服申立期間は処分の種類及び知った時期により管理する必要があるため,通知書の封筒,受領日及び説明記録を保存すべきである。
資格喪失届の提出だけで終わったのか,確認処分その他の不服申立ての対象となる処分があるのかを,最初に特定しなければならない。

第7 裁判例から分かる実態判断

1 東京地裁平成28年6月17日判決

東京地裁平成28年6月17日判決・平成24年(行ウ)第54号は,勤務時間の割合だけでなく,業務の準備時間,勤務日数,報酬及び雇用の継続性等を検討し,被保険者資格の確認請求を却下した処分を取り消した。
数値的な基準だけでなく,勤務の全体像を総合評価した事例である。

2 東京地裁平成28年11月1日判決

東京地裁平成28年11月1日判決・平成26年(行ウ)第363号は,契約形式だけでなく,会社の管理下における労務,報酬を受ける権利及び会社側の容認等から,事実上の使用関係を認定した。
届出又は契約書がないことだけで,実際の使用関係を否定できないことを示す。

3 東京地裁平成27年3月20日判決

東京地裁平成27年3月20日判決・平成24年(行ウ)第70号は,契約上の労働時間が1日5.9時間,週29.5時間とされていた事案で,配置義務,朝のミーティング,授業準備,打合せ,昼食指導及び掃除等の実態から,1日8時間,週40時間の労働を認定し,資格確認請求の却下処分を取り消して資格確認を命じた。
契約上の数値ではなく,指揮命令下にある客観的な実労働を把握すべきことを示す事例である。

以上の3件は,いずれも令和8年通知を直接適用した判決ではない。
もっとも,契約上の肩書又は労働時間ではなく,準備行為を含む実際の労務,報酬及び継続性から使用関係を判断するという点で参考となる。

第8 よくある誤解

① 法人の役員に就任し,役員報酬を受ければ必ず社会保険に加入できるという理解は誤りである。
② 手数料又は会費が報酬以下であれば資格が維持されるという安全基準はない。
③ 短時間労働者の法定数値要件を満たせば,使用関係の実態がなくても加入できるわけではない。
④ 勤務時間が短いこと又は定期出勤がないことだけで,直ちに資格が否定されるわけでもない。
⑤ 行政指導により資格喪失届が提出されたことは,加入者本人の故意又は刑事責任が確定したことを意味しない。
⑥ 判例データベースの限定的な検索で該当例が見つからないことは,裁判例が存在しないことの証明ではない。

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第10 出典

健康保険法及び厚生年金保険法
② 厚生労働省令和8年3月18日保保発0318第1号・年管管発0318第1号「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」。
③ 厚生労働省令和8年9月14日保保発0914第1号・年管管発0914第1号「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについての一部改正」。
④ 厚生労働省令和8年9月14日保保発0914第2号・年管管発0914第2号「勤務時間が短い正規型の労働者として事業所に使用されている個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」。
⑤ 第85回社会保障審議会年金事業管理部会資料4「いわゆる社会保険料削減ビジネスを行っていると疑われる事業所に対する事業所調査の状況について(報告)」。
⑥ 日本年金機構「疑義照会回答(厚生年金保険・適用)」。
⑦ 東京地裁平成28年6月17日判決・平成24年(行ウ)第54号,東京地裁平成28年11月1日判決・平成26年(行ウ)第363号及び東京地裁平成27年3月20日判決・平成24年(行ウ)第70号。