第1 結論及び資料の位置付け
1 結論
大阪高裁民事部の主任決議集からは,書類の題名ではなく内容に応じて処理すること,当事者及び参加人ごとに送達・提出期限を管理すること,記録の所在を確かめて緊急処理を引き継ぐことなど,電子化後も有用な実務上の視点を学ぶことができる。
他方,同決議集には,紙の事件記録,郵便切手,ファクシミリ,書類の編てつ及び紙の副本を前提とする記載が多い。令和8年5月21日に施行された改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則の下では,これらを現在の取扱いとしてそのまま用いることはできない。
したがって,同決議集は,現在の法令又は大阪高裁の現行運用を証明する資料ではなく,令和3年3月15日時点の内部事務資料として読み,現行法令及び裁判所の公式案内と照合して利用すべきである。
2 対象資料
本記事の対象は,大阪高裁民事部の主任決議集(令和3年3月15日改訂)である。
このPDFは,大阪高裁民事部における主任書記官の決議又は申合せを集約したものと読める。しかし,裁判所ウェブサイトで公開された法令・通達又は裁判例ではなく,大阪高裁の現行版原本との同一性も確認できていない。
そのため,個別事件で裁判所の取扱いを予測する資料としては有用であるものの,法的根拠を示す場合は,民事訴訟法,民事訴訟規則,裁判所の公式案内及び必要に応じて判例を別途確認する必要がある。
第2 令和8年5月21日前後で取扱いを分ける必要
1 新事件
裁判所の「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」によれば,令和8年5月21日に改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則が施行された。
改正後の新事件では,弁護士等の訴訟代理人は原則としてオンラインで申立てその他の提出をし,手数料及び裁判所が定める費用も電子納付する。裁判所のシステムを利用した送達,電子訴訟記録の閲覧及び事件管理が制度の中心となる。
したがって,新事件について,主任決議集の郵便切手,紙の正本・副本,ファクシミリ提出,紙記録の編てつ順序等の記載を現在の通常運用として引用するのは適切でない。
2 旧事件
令和8年5月21日より前に提起された事件には経過措置がある。旧事件の上訴であっても,手続の各場面について新旧いずれの規定が適用されるかを,施行日だけで一律に判断することはできない。
とりわけ,上告,上告受理申立て,抗告並びに費用の予納については,改正後の民事訴訟規則及び附則に個別の経過措置がある。そのため,事件の第一審提起日,現在の審級及び対象手続を組み合わせて確認する必要がある。
3 民事執行等
裁判所の公式案内によれば,民事訴訟のデジタル化が全面施行された後も,民事執行,民事保全,倒産及び家事事件等のデジタル化は別の施行日程に従う。
主任決議集の内容を検討するときは,「民事訴訟がデジタル化されたから,全ての関連手続が同じ取扱いになった」と考えず,対象となる手続類型を先に確定する必要がある。
第3 旧紙運用を現在の実務へ読み替える方法
1 提出方法,手数料及び郵便費用
主任決議集では,窓口又は郵送による提出,収入印紙,郵便切手及びファクシミリを前提とする記載が多い。
現在は,まず事件が新事件か旧事件か,提出者がオンライン提出義務者か,対象書面がシステム提出の対象かを確認する。その上で,手数料及び費用の電子納付の要否,紙提出が許される例外並びに旧事件の取扱いを確認する。
上訴の具体的な提出先,提出時期及びmints上の操作は,mintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法で整理している。
2 送達及び通知
主任決議集の郵便送達及びファクシミリ送信に関する記載は,現在のシステム送達へ機械的に置き換えることはできない。
現行の民事訴訟規則189条は,上告提起通知書について,原則として裁判所の使用に係る電子計算機から送達すべき電子書類を当事者のファイルへ記録する方法を定める。もっとも,システム送達の通知メールは送達そのものではなく,送達の効力発生時点は法令に従って別に判定する必要がある。
期限管理では,メール受信日時だけでなく,事件管理画面の送達記録及び対象書類を確認する。詳しくは,mintsのシステム送達と期限管理で説明している。
3 副本及び記録送付
紙の副本の必要部数は,電子送達を受ける者の有無により変わる。例えば,現行の民事訴訟規則195条は,上告理由書について,電子送達を受ける旨の届出をしていない被上告人の数に応じた写しの添付を求める。
したがって,「相手方の人数分の副本を常に用意する」という旧来の処理を一般化せず,当事者ごとの電子送達の可否と適用条文を確認する必要がある。
また,紙の記録送付を前提とした「記録がどの庁にあるか」という発想は,電子記録の管理主体及びアクセス権限の確認へ読み替える。現行の民事訴訟規則197条及び202条は,上告事件及び上告受理申立事件について,原裁判所から上告裁判所への事件の管理の移転を定めている。
4 閲覧制限,秘密保持及び記録保存
主任決議集が扱う閲覧等制限,秘密記載部分及び記録保存は,電子化後も重要である。ただし,紙記録の袋とじ又は編てつ方法ではなく,閲覧等制限の申立て,秘密記載部分の特定,閲覧権限及び電子記録への反映という観点で確認する。
閲覧等制限の申立てについては,mintsにおける閲覧等制限の申立てを参照する必要がある。
記録の特別保存については,最高裁判所の事件記録等の特別保存に関する公式案内により,令和6年1月30日以降の新たな運用を確認すべきである。
第4 電子化後も有用な主任決議集の学び
1 書面の表題より内容を見ること
申立書,理由書又は補正書という題名だけで処理を決めず,誰が,どの事件で,どの裁判を求め,どの法的根拠を主張しているかを読む必要がある。
法律事務所でも,ファイル名又はmints上の書類名だけに依存せず,事件番号,当事者,提出先,対象裁判,申立ての趣旨及び理由を照合すべきである。
2 当事者及び参加人ごとに期限を管理すること
送達日は,当事者又は代理人ごとに異なることがある。共同訴訟,補助参加又は独立当事者参加がある事件では,単一の「事件の期限」だけを記録すると事故につながる。
期限台帳には,送達を受けた者,送達書類,送達の方法,効力発生日,法定期間,伸長の可否及び提出先を分けて記録する必要がある。
3 上訴理由書を自己完結させること
控訴理由書,上告理由書及び上告受理申立て理由書は,原判決のどの判断を,どの法的理由により争うかが書面だけで分かるように作成する必要がある。
長い書面では,冒頭に結論及び主要論点を示し,目次と見出しを付し,原判決の該当箇所,証拠及び引用判例を特定する。提出期限については,控訴理由書・上告理由書の提出期限を参照する必要がある。
4 記録の所在と緊急性を引き継ぐこと
上訴,執行停止,保全その他の緊急申立てでは,形式的な事件移転の時期と,裁判官又は書記官が実際に処理できる状態にあるかを区別して確認する必要がある。
法律事務所から裁判所へ照会するときは,事件番号,申立日,提出方法,緊急性の理由,現在の記録管理庁及び担当部を整理して伝えるとよい。
5 証明書等は目的から逆算すること
確定証明書,執行文,送達証明書その他の証明書は,取得自体が目的ではない。強制執行,登記,供託又は行政手続など,次の手続で何を証明する必要があるかを先に確認する。
その上で,必要な裁判書,確定範囲,送達対象者及び申請先を特定する必要がある。
第5 法律事務所の確認チェックリスト
1 事件及び適用法令
①第一審の提起日並びに事件が新事件か旧事件かを確認する。
②民事訴訟,民事執行,民事保全,倒産又は家事のいずれであるかを確認する。
③現行の法令,経過措置及び裁判所の公式案内を確認する。
2 提出及び送達
①提出先,提出方法,提出期限及びオンライン提出義務の有無を確認する。
②手数料及び費用の納付方法を確認する。
③当事者ごとに電子送達の可否及び送達の効力発生日を確認する。
④必要な写しの数を現行規則により確認する。
3 記録及び証拠
①事件番号,当事者及び対象書面の対応を確認する。
②記録の管理主体及び閲覧権限を確認する。
③秘密記載部分及び閲覧等制限の有無を確認する。
④旧内部資料を引用するときは,作成日及び現行性未確認の範囲を明示する。
第6 一次資料による裏付けの状況
1 確認できた事項
①令和8年5月21日に改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則が施行されたこと。
②弁護士等の訴訟代理人にはオンライン提出義務があり,新事件では電子納付,システム送達及び電子記録管理が制度の中心となること。
③現行の民事訴訟規則189条,194条,195条,197条及び202条に,上告提起通知,理由書提出期間,写し並びに事件管理移転の規定があること。
④事件記録等の特別保存について,令和6年1月30日から新たな運用が始まったこと。
2 資料に記載されているが,現在の運用とは限らない事項
主任決議集に記載された大阪高裁民事部の紙記録,郵便切手,ファクシミリ,編てつ及び庁内引継ぎの方法は,令和3年3月15日時点の内部資料の記載として確認できる。
しかし,それらが現在も大阪高裁で用いられているかは確認できていない。
3 本記事の推論
主任決議集の個別処理を,①書面の同定,②当事者別の期限管理,③記録の所在・管理主体の確認,④緊急性の引継ぎ,⑤次の手続から逆算した証明という抽象的な実務原則へ置き換える部分は,本記事の分析である。
4 未確認事項
①大阪高裁民事部における主任決議集の現行版の有無及び内容。
②令和8年5月21日施行後の大阪高裁各部における具体的な庁内運用。
③個別事件について,経過措置,システム障害,紙提出の例外又は部別運用が適用されるかどうか。
これらは,個別事件ごとに担当部への照会,現行の裁判所資料及び必要に応じた情報公開資料により確認する必要がある。
第7 関連記事及び出典
1 関連記事
①mintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法
②控訴理由書・上告理由書の提出期限―50日の性質と原裁判所の審査範囲
③mintsのシステム送達と期限管理
④mintsにおける閲覧等制限の申立て
⑤控訴審に関するメモ書き
⑥上告審に関するメモ書き
2 出典
①大阪高裁民事部の主任決議集(令和3年3月15日改訂)
②改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要(裁判所)
③民事訴訟規則等の一部を改正する規則を反映した参考資料(裁判所)
④事件記録等の特別保存について(裁判所)
対象PDFの同一性確認用SHA-256は,F12252D7352E5530F7C7965DF2E04DAEC979A1CC6809871CCC117594294E0BFAである。