第1 裁判員裁判にも通常の上訴制度が適用される
1 職業裁判官のみの控訴審が審査する
裁判員裁判であっても,事実誤認又は量刑不当があれば控訴審で破棄され得る。裁判員の判断を常に最終とする制度ではない。
2 国民参加の趣旨を踏まえる
もっとも,第一審で直接証拠調べを行い,裁判員と裁判官が共同で判断した意味を踏まえ,控訴審は事後審としての役割を徹底する必要がある。
3 裁判員と構成裁判官の権限の区別
裁判員法6条1項は,事実の認定,法令の適用及び刑の量定を構成裁判官と裁判員の合議によるものとし,同条2項は,法令の解釈に係る判断,訴訟手続に関する判断等を構成裁判官の合議によるものとしている。
東京高裁令和元年12月6日判決(平成31年(う)第201号)は,第一審の裁判所が公判前整理手続で,具体的な事実関係を前提に危険運転致死傷罪は成立しないとの見解を構成裁判官だけで表明したことは,法令の適用についての判断を裁判員との合議を経ずに示したもので,裁判員法6条に違反するとした。
同判決は,第一審が裁判員との評議を経て見解を変更し,当事者に主張と反証の機会を改めて与えないまま有罪としたことも違法であるとして,第一審判決を破棄し,事件を差し戻した。
詳しくは,東名高速あおり運転事件の控訴審判決と裁判員法6条―公判前整理手続での見解表明,差戻し後の懲役18年及び上告棄却で扱っている。
第2 事実誤認の審査
1 論理則・経験則違反を具体的に示す
最高裁平成24年2月13日判決(平成23年(あ)第757号・刑集66巻4号482頁)は,第一審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを控訴審が具体的に示す必要があるとした。
最高裁令和3年1月29日判決(令和2年(あ)第96号・刑集75巻1号1頁)は,殺人等の事件で事故の相手方に対する殺意を認めた第一審判決に事実誤認があるとした控訴審判決を,論理則,経験則等に照らして不合理な点があることを十分に示したものとは評価できないとして破棄し,被告人の控訴を棄却した。
同事件の控訴審判決は,差戻し後は裁判員の参加する合議体で審理を尽くすべきであるとして第一審判決を破棄し差し戻していたが,最高裁は差し戻さず,懲役24年とした第一審判決を維持した。
2 別の心証を述べるだけでは足りない
控訴審が記録から異なる印象を持ったというだけで破棄することはできない。第一審の推認過程のどこに客観的な不合理があるかを示す。
第3 量刑不当の審査
1 量刑傾向と犯情
最高裁平成27年2月3日判決は,死刑選択の場面で先例の集積からうかがわれる傾向を検討し,その傾向と異なる判断をする場合は具体的で説得的な根拠を示す必要があるとした。
2 職業裁判官の感覚への置換を避ける
裁判員裁判の量刑を,控訴審裁判官の量刑感覚と異なるというだけで変更してはならない。他方,犯情評価の誤り又は量刑傾向からの説明できない乖離があれば審査対象となる。
第4 控訴趣意書の実務
1 第一審判決を基準にする
第一審の証拠評価又は量刑理由を正確に要約し,その具体的な不合理を示す。第一審弁論の再掲だけでは足りない。
2 新証拠の位置付け
新証拠がある場合は,第一審判断の不合理を明らかにするものか,判決後の情状に関するものかを区別する。
第5 根拠資料及び関連記事
刑事訴訟法(e-Gov法令検索),最高裁平成24年2月13日判決及び最高裁平成27年2月3日判決を確認した。
最高裁令和3年1月29日判決(裁判所HP),東京高裁令和元年12月6日判決(裁判所HP)及び裁判員の参加する刑事裁判に関する法律6条(e-Gov法令検索)も確認した。
事実誤認は刑事控訴の事実誤認,量刑不当は刑事控訴の量刑不当を参照されたい。