第1 控訴の利益の基本
1 第一審主文と申立てを比較する
控訴の利益は,原則として第一審で求めた裁判と実際の主文を比較して判断する。請求が全部認容された原告は,理由に不満があっても通常は控訴できない。
2 理由中の判断だけを争うことはできない
判決理由に不利な認定があっても,主文で全部勝訴していれば,その理由だけの変更を求める控訴は原則として許されない。既判力その他の効果が問題となる場合は,別途検討する。
第2 最高裁令和5年3月24日判決
1 事案の特殊性
最高裁令和5年3月24日判決は,事件を審理した裁判官が判決書の原本に基づかずに判決を言い渡したという重大な手続問題がある事案で,全部勝訴した原告の控訴の利益を認めた。
2 一般化には注意が必要である
この判決は,全部勝訴者が理由に不満を持つだけで控訴できるとしたものではない。判決としての適法性に関わる特殊な事情を踏まえて理解する必要がある。
第3 控訴の利益を確認する手順
1 申立てと主文を対照する
第一審の最終的な請求の趣旨,訴えの変更,請求の放棄・認諾及び主文を対照する。予備的請求がある場合は,主位的請求との関係も確認する。
2 不利益の法的性質を特定する
経済的不満ではなく,主文又は判決の法的効力による不利益を特定する。控訴以外の手段で解決すべき問題かも検討する。
第4 不適法控訴のリスク
1 期間内でも利益がなければ却下される
控訴期間内の申立てであっても,控訴の利益を欠けば不適法となる。控訴状では,どの主文部分についてどのような変更を求めるかを明示する。
2 相手方の附帯控訴
自分の控訴により,相手方が附帯控訴をして第一審判決より有利な変更を求める可能性がある。控訴の利益と訴訟戦略は分けて検討する。
第5 根拠資料及び関連記事
民事訴訟法(e-Gov法令検索)及び最高裁令和5年3月24日判決を確認した。
不利益変更禁止は,民事控訴審の不利益変更禁止を参照されたい。