弁護士会の役員の社会保険加入義務と日本弁護士国民年金基金


目次
1 法人の代表者の社会保険加入義務(一般論)
2 弁護士会役員と,弁護士会との使用関係の有無
3 弁護士会の役員が社会保険に加入した場合,日本弁護士国民年金基金を脱退しなければならないこと
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1 法人の代表者の社会保険加入義務(一般論)
(1) 厚生省の見解
・ 法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について(昭和24年7月28日付の厚生省保険局長通知)には以下の記載があります。
   法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であつて、他面その法人の業務の一部を担任している者は、その限度において使用関係にある者として、健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取扱つて来たのであるが、今後これら法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。
(2) 日本年金機構の見解
ア 社会保険適用研究室HP「法人事業所の役員」に掲載されている,法人の代表者の被保険者資格について(受付番号2010-77 平成22年3月10日付の日本年金機構厚生年金保険部適用規格指導グループの回答)には以下の記載があります。
    労務の対償として報酬を受けている法人の代表者又は役員かどうかについては、その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるかを基準として判断されたい。
(判断の材料例)
① 当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか。
② 当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか。
③ 当該法人の役員会等に出席しているかどうか。
④ 当該法人の役員への連絡調整又は職員に対する指揮監督に従事しているかどうか。
⑤ 当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか。
⑥ 当該法人等より支払いを受ける報酬が社会通念上労務の内容に相応したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか。
    なお、上記①~⑥はあくまで例として示すものであり、それぞれの事案ごとに実態を踏まえて判断されたい。
イ 日本年金機構HPの「主な疑義照会と回答について」に載っている「疑義照会回答(厚生年金保険 適用)」末尾7頁には以下の記載があります。
    実費弁償程度の水準については、主に会議に出席するための旅費、業務を遂行するために必要となった経費について、一旦、立替払いし、これに対して、事業所が弁償等のみのために支払する費用をもって報酬としている場合を想定しているものであり、もともと報酬ではないので、「法人の経営に対する参画を内容とする労務の対価」には、該当しないと考えます。
   ただし、この弁償等行う金額を超え、定期的に支払われているような場合は、報酬と見るべきと考えます。

2 弁護士会役員と,弁護士会との使用関係の有無
(1) 日弁連の会長(月額105万円の報酬)及び副会長(月額50万円の報酬)の場合
ア(ア) 日弁連会長の報酬は月額105万円であり(会長報酬規則3条1項),日弁連副会長の報酬は月額50万円です(副会長報酬規則3条1項)。
(イ) 平成30年度以降,女性枠の2人の副会長に対しては,副会長報酬とは別に月額20万円の男女共同参画推進支援費が支給されています(男女共同参画推進特別措置実施のための副会長に対する経済的支援に関する規則2条1項)。
イ 法人との使用関係の有無に関する具体的な判断材料を当てはめると以下のとおりと思います。
① 弁護士会館に定期的に出勤していると思います。
② 東京三弁護士会,大阪弁護士会及び愛知県弁護士会出身の副会長は所属会の会長を兼任していますから,日弁連における職が所属会の会長よりも主であるとは限りません。
   これに対して,会長及びそれ以外の副会長は所属会の会長を兼任していませんから,日弁連における職が主たるものであると思います。
③ 正副会長会に出席しています。
④ 日弁連の役員への連絡調整又は日弁連事務局に対する指揮監督に従事していると思います。
⑤ 日弁連において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないと思います。
⑥ 日弁連により支払を受ける報酬は社会通念上労務の内容に相当したものであると思います。
ウ 平成27年度日弁連副会長・東弁会長の伊藤茂昭弁護士の「白い雲」HP「2015年4月の活動日誌」には「4月からは、東弁会長と日弁連副会長の兼務という激動の日々がはじまった。弁護士会館の6階の会長室と、16階の副会長室を行き来する毎日であるが、職務の7割程度は日弁連の担当業務に忙殺されている。」と書いてあります。
(2) 日弁連の事務総長及び事務次長の場合
ア 弁護士職員報酬規則に基づき,日弁連経理委員会が決定するところの,給与,賞与及び退職慰労金を支給されます。
イ 日弁連の事務総長の場合,日弁連における職が主たるものであると思いますが,日弁連の事務次長の場合,日弁連における職が主たるものであるかどうかは不明です。
ウ 前述した②以外の判断材料については,日弁連の会長及び副会長と同じであると思います。
(3) 単位弁護士会の会長の場合
ア 小規模弁護士会も含めて,単位弁護士会の会長が主たる職であると思います。
イ 報酬を支給されている場合,実費弁償程度の水準ではないと思います。
ウ 前述した②以外の判断材料については,日弁連の会長及び副会長と同じであると思います。
(4) 単位弁護士会の副会長の場合
ア 弁護士会の規模によっては,単位弁護士会の副会長が主たる職ではないと思います。
イ 報酬を支給されている場合,実費弁償程度の水準ではないと思います。
ウ 前述した②以外の判断材料については,日弁連の会長及び副会長と同じであると思います。


3 弁護士会の役員が社会保険に加入した場合,日本弁護士国民年金基金を脱退しなければならないこと
(1)ア 弁護士会の役員が社会保険に加入する場合,国民年金第1号被保険者ではないこととなります。
   そのため,60歳未満の弁護士(60歳以上65歳未満で国民年金に任意加入している弁護士を含む。)が仮に日本弁護士国民年金基金に加入していた場合,同基金を脱退することとなります。
イ 日本弁護士国民年金基金HPの「国民年金基金に二度目の加入」には以下の記載があります。
   国民年金基金の資格喪失事由に「国民年金の第1号被保険者の資格を喪失したとき」というものがあります。
   東パブ(山中注:弁護士法人東京パブリック法律事務所のこと。)が弁護士法人であるため、その構成員となった私自身も厚生年金に加入することになりました。この加入により、自動的に国民年金を脱退することになります。このため、私の知らない間に国民年金基金の資格を喪失してしまっていたというわけでした。
(2)ア 国民年金基金を脱退した後に同基金に再加入する場合の掛金は,再加入時の金額となりますから,平成31年3月31日までに同基金に加入していた場合,弁護士会の役員を退任した後に再加入しなければならないとすると,年金額が減少します。
イ 弁護士登録直後に日本弁護士国民年金基金に加入したと仮定した場合,修習期別の予定利率は,現時点も含めて以下のとおりです。
① 46期までの予定利率は      5.5%
② 47期から51期までの予定利率は4.75%
③ 52期から54期までの予定利率は 4.0%
④ 55期から56期までの予定利率は 3.0%
⑤ 57期から66期までの予定利率は1.75%
・ 新61期が登録した後の平成21年4月1日,予定死亡率の見直しにより年金額が減りました。
⑥ 67期以降の予定利率は      1.5%
・ 71期が登録した後の平成31年4月1日,予定死亡率の見直しにより年金額が減りました。
ウ 40年の納付済期間がないため老齢基礎年金を満額受給できない場合などで年金額の増額を希望する場合,65歳までの間,国民年金に任意加入できます(日本年金機構HPの「任意加入制度」参照)。
   そのため,国民年金に任意加入している場合,60歳以上65歳未満の弁護士についても以上と同じ取扱いとなります。
(3)ア 30歳0月の女性が日本弁護士国民年金基金に加入して年金月額を3万円とするための毎月の掛金額は,平成7年3月31日以前の加入であれば男女を問わず5100円であったのに対し,平成31年4月1日以降の加入であれば1万5450円(男性の場合)又は1万7985円(女性の場合)です。
イ 日本弁護士国民年金基金のコラム「陽だまり」には,弁護士会役員経験者を含むベテラン弁護士が,日本弁護士国民年金基金に関する個人的感想とかを投稿しています。
(4) 令和2年度の日弁連副会長でいえば,15人の副会長のうちの13人が46期以上です。

日本弁護士国民年金基金の総括表(平成31年3月22日の第6回財政再計算報告書からの抜粋)

4 関連記事その他
(1) 相談室Q&Aの「非常勤役員は社会保険や労働保険の適用対象となるのか」には,「非常勤役員の社会保険の適用については適用事業所との実質的な使用関係の有無により判断される。一方、労働保険は原則として適用されない。」と書いてあります。
(2) 以下の記事も参照して下さい。
・ 日本弁護士国民年金基金
 日本弁護士国民年金基金の年金月額を3万円とするための掛金額の推移
・ 日弁連の会長及び副会長
・ 日弁連の事務総長及び事務次長
・ 日弁連役員に関する記事の一覧
 国民年金基金及び確定拠出年金に関する国会答弁
・ 個人型確定拠出年金(iDeCo)
・ 弁護士の社会保険


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