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「学習に使わない」と書いてあっても―AIサービス規約の派生データ条項(ログ・分類結果・利用統計・フィードバック)の読み方と弁護士の守秘義務(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 扱う問い

法律事務所や企業が生成AIその他のAIサービスを選ぶとき,「入力したデータを学習に使わない」と規約に書かれているかどうかがまず確認される。
しかし,AIサービスの提供者の手元には,入力と出力そのもののほかに,入力から派生したデータが残る。
例えば,処理の記録(ログ),トークン数等の利用状況,安全確認のための分類結果,評価ボタンによるフィードバック及び利用から得た知見である。

本記事は,こうした派生データを提供者がどこまで使えるかを定める規約の条項(以下「派生データ条項」という。)に着目し,主要な提供者の規約の書き方,弁護士の守秘義務及び個人情報保護法との関係,並びに規約を読むときの確認項目を整理する。

基準日は令和8年9月19日であり,各社の規約・公式資料はこの日に確認したものである。
規約は予告の上で変更されることがあるため,導入や更新のときは改めて原文を確認する必要がある。
本記事で規約の意味を述べる部分は,規約の文言から読み取れる範囲の整理であり,各社の実際の運用を確認したものではない。
英文の規約・公式資料の訳は,本記事によるものである。

2 結論の要旨

「学習に使わない」という条項は,入力と出力(以下「顧客データ」という。)をモデルの訓練に使わないことを約束するものであり,派生データの扱いまで決めているとは限らない。
令和8年9月に判定専用AI「Jev」を公開した米国のTypeSafe AIの利用契約は,顧客データを学習に使わないとしながら,ログ,ハッシュ,要約統計,分類結果及び利用から得た知見を「テレメトリ」と定義し,同社が制限なく処理できると定めている。

弁護士の立場からは,①依頼者の相談内容がどの分類に振り分けられたかという情報自体が秘密になり得ること,②弁護士職務基本規程23条が秘密を他に漏らすことだけでなく「利用」することも禁じていること,③個人情報保護法上,委託先は委託された業務の範囲外で個人データを統計情報に加工して自社のために使うことはできないとされていることから,派生データ条項は学習条項と同じ重さで確認すべきである。

第2 派生データとは何か

1 顧客データと派生データの区別

AIサービスの規約は,利用者が送る入力(プロンプト,文書等)と,AIが返す出力を「顧客データ」「顧客コンテンツ」等と呼び,その扱いを定めることが多い。
これに対し,本記事でいう派生データとは,顧客データを処理する過程で生まれ,又は顧客データから作られるデータである。

派生データには,顧客データの一部をそのまま含むもの(例えば,フィードバックに添付される会話全体)と,含まないもの(例えば,トークン数)がある。
分類結果のように,文言そのものは含まなくても,内容を要約した情報になるものもある。

2 主な種類

派生データの主な種類は,次のとおりである。
①ログ=いつ,どのアカウントが,どの機能を使ったかの記録。障害対応や不正利用の監視のために,顧客データの一部を含んで一定期間保存されることがある
②利用状況のデータ=トークン数,応答時間,エラー,安全フィルタが作動したかどうか等
③分類結果=安全確認のための自動分類器が付けたラベル,利用状況の把握のための分類等
④利用統計=多数の利用者のデータを集計した統計
⑤フィードバック=評価ボタンや自由記述による利用者の評価。会話全体が添付されることがある
⑥知見(learnings)=利用から得られた知見。何を含むかは規約の定義による

第3 主要な提供者の規約の書き方

1 TypeSafe AI(Jev)

TypeSafe AIのMaster Customer Agreement(令和8年8月27日更新)は,4.1で,顧客データを同社の義務の履行のためにだけ処理するとし,顧客の事前の同意なく顧客データを学習用のデータセットに含めないと定めている。
ただし,ここでいう学習は,モデルの重みを変えることと狭く定義されている。

他方,同じ4.1は,顧客データからテレメトリを導き出し,生成するための処理を認めている。
そして4.3は,テレメトリを「本サービスに関連して生成される情報」と定義し,その例として,技術ログ,ハッシュ,要約統計及び分類結果,指標並びに顧客の本サービスの利用に関する知見を挙げた上で,同社はテレメトリを,本サービス又は同社の他の製品・サービスの改善を含め,制限なく処理できるとしている。

この定義には,顧客データを除く旨の文言も,匿名化又は集計されたものに限る旨の文言もない。
例示は「such as(例えば)」で始まるので,列挙に限られるものでもない。
また,同社のデータ処理補遺(令和8年4月24日更新)は,個人データの処理をサービスの提供と文書化された指示に従うものに限り,利用契約と矛盾するときは補遺が優先すると定めているが,補遺の本文にはテレメトリの語が出てこない。
そのため,テレメトリの生成が補遺でいう「指示」に含まれるのか,補遺の目的の限定が優先するのかは,文言だけでは決まらない。
なお,準拠法は米国デラウェア州法及び米国法である(15.2)。

2 Anthropic

AnthropicのCommercial Terms of Service(令和7年6月17日発効)は,同社は本サービスの顧客コンテンツ(入力と出力)でモデルを訓練してはならないと定めている。
同社のデータ処理補遺(令和7年2月24日発効)は,顧客の個人データの処理をサービスの提供又は維持のためのものに限り,その内容にサービスの品質・安全性の確認とデバッグを含めている。
本記事の基準日に確認した範囲では,利用データや集計データを同社自身の目的に使えるとする条項は,これらの文書には見当たらなかった。

もっとも,フィードバックについては別の扱いがある。
同社のプライバシーセンターの説明によれば,法人向けプランでも,利用者が評価ボタンでフィードバックを送ると,関連する会話全体が最長5年間保存され,利用者ID等との紐付けを外した上で,サービスの分析,研究及びモデルの訓練に使われることがある。
TeamプランとEnterpriseプランでは,管理者が組織の設定で評価ボタンを無効にできる。

3 OpenAI

OpenAIのServices Agreement(令和7年12月1日更新)は,4.2で,顧客が明示的に同意しない限り,顧客コンテンツをサービスの開発又は改善に使わないと定めている。
他方,9.3は,顧客がフィードバックを提供した場合,同社がそれを制限なく,対価なしに利用できるとしている。

また,同社の法人向けのプライバシーに関する説明(令和8年1月8日更新)は,契約書ではないが,業務データを自動の分類器や安全ツールにかけることがあり,それにはサービスの利用状況をよりよく理解するためのものも含むとした上で,作られた分類は業務データについてのメタデータであり,業務データそのものは含まないと説明している。
分類結果を顧客データとは別のメタデータとして扱うという考え方が,公式の説明の中で示されていることになる。

4 Google

GoogleのGemini API追加利用規約(令和8年3月23日発効)は,有償サービスについて,プロンプトと応答を製品の改善に使わないとしている。
他方,有償サービスの提供中に収集するその他のデータとして,アカウント情報,請求履歴,直接の連絡とフィードバック及び利用の詳細(プロンプトごとのトークン数,安全フィルタの作動,品質・性能指標,機器の識別子,IPアドレス等)を挙げ,これらはGoogleが管理者(controller)として扱うデータの保護条件とプライバシーポリシーに従うとしている。
つまり,派生データは,顧客の指示に従って処理される顧客データとは別の規律の下に置かれている。

なお,同じ規約によれば,無償サービスでは,プロンプトと応答が製品の改善に使われ,人が確認することもある。

5 Microsoft

MicrosoftのProducts and Services Data Protection Addendum(令和8年5月版)は,顧客がMicrosoftに対し,仮名化された識別子を含むデータ(利用ログ等)から集計された統計的な非個人データを作ること,及び顧客データに関する統計を計算することを許諾する旨の条項を置いている。
ただし,この条項は,顧客データの内容にアクセスし,又は分析することなく行うものに限り,目的も,請求・アカウント管理,報酬計算,内部報告・事業計画及び財務報告に限っている。

派生データの利用を認めつつ,その範囲を「内容に触れない」「目的を限る」の2つで絞る書き方であり,TypeSafe AIの「制限なく」とは対照的である。
なお,このデータ保護補遺には学習の禁止を明記した条項は見当たらず,Microsoft 365 Copilotについては,製品資料で,プロンプト,応答及びMicrosoft Graphを通じてアクセスしたデータを基盤となる大規模言語モデルの訓練に使わないと説明されている。

6 比較

以上をまとめると,次のとおりである(令和8年9月19日時点の各社の規約・公式資料による)。

提供者顧客データの学習派生データフィードバック
TypeSafe AI事前の同意なく学習用データセットに含めないテレメトリ(ログ・分類結果・知見等)を制限なく処理できる制限なく利用できる
Anthropic訓練してはならない自社目的の利用を認める条項は見当たらない会話全体を最長5年保存し訓練に使うことがある(管理者が無効化できる)
OpenAI明示の同意がない限り開発・改善に使わない分類結果をメタデータとして扱う旨の説明がある制限なく利用できる
Google(Gemini API有償)製品の改善に使わない利用の詳細等は管理者として扱うデータの規律による同左
Microsoft製品資料で基盤モデルの訓練に使わないと説明内容に触れない集計・統計に限り,目的も限定任意であり,Copilotの改善に使うが基盤モデルの訓練には使わず,管理者が管理できると製品資料で説明

国内のリーガルテックや,国産の大規模言語モデル又は国内のAI基盤を使ったサービスの規約については,国内のリーガルテック・国産AIの規約は入力データをどう扱うか―学習条項と派生データ条項の比較で同じ観点から比較している。

第4 弁護士の守秘義務との関係

1 弁護士法23条と弁護士職務基本規程23条

弁護士法23条本文は,「弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。」と定めている。
弁護士職務基本規程23条は,「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。」と定めている。

AIサービスへの入力が秘密を「他に漏らす」ことに当たるかについては,学習オフの生成AIに秘密情報を入力することは第三者開示に当たるかで,学習に使わないこと,業務目的に限って処理すること等を条件に整理している。
派生データ条項は,その条件のうち「業務目的に限って処理すること」が,顧客データ本体については守られていても,派生データについては外れることがあるという問題である。

2 分類結果も秘密になり得る

例えば,法律事務所がAIで問い合わせを「相続」「離婚」「破産」「刑事」等に振り分けたとき,ある人の問い合わせが「破産」に分類されたという情報は,相談の文言を含まなくても,それ自体が依頼者の秘密になり得る。
分類結果がアカウントや問い合わせと結び付いたまま提供者の手元に残り,提供者の目的で使えるのであれば,文言を学習に使わないことだけでは秘密の保持として十分でないことがある。

他方,多数の利用者の利用状況を集計した統計で,特定の依頼者との対応関係がないものは,秘密の問題になりにくいと考えられる。
したがって,派生データ条項を読むときは,派生データが個々の依頼や問い合わせと結び付いたままなのか,集計されて対応関係が失われたものなのかを見分ける必要がある。

3 規程23条の「利用」

規程23条は,秘密を「他に漏らす」ことと並んで「利用」することも禁じている。
提供者が依頼者の秘密から作った派生データを自社製品の改善に使うことは,弁護士自身の利用ではないが,弁護士が選んだサービスを通じて秘密が弁護士の業務以外の目的に使われることになる。
弁護士が派生データの利用を認める規約に同意して依頼者の秘密を入力することが「正当な理由」のある行為といえるかは,派生データの範囲と,依頼者の同意の有無によって判断が分かれ得ると考えられる。

第5 個人情報保護法との関係

1 委託として扱えるか

個人情報保護法27条5項1号は,個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って個人データが提供される場合,提供を受ける者は第三者に当たらないとしている。
AIサービスへの個人データの入力は,多くの場合この委託として整理され,委託元は同法25条により委託先を監督することになる。

個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A(以下「Q&A」という。)7-38は,委託先は委託に伴って提供された個人データを委託された業務の範囲内でのみ取り扱わなければならず,委託された業務の範囲外で個人データを統計情報に加工し,作成された統計情報を自社のために用いることはできないとしている。
Q&A7-40は,委託先が,委託された個人データを利用して取得した別の個人データについても,委託された業務以外に取り扱うことはできないとしている。
他方,Q&A7-39は,委託元の利用目的の達成に必要な範囲内である限り,委託先が委託された個人データを自社の分析技術の改善のために利用できるとしており,個別の事例ごとに判断するとしている。

派生データを「制限なく」使えるとする規約は,Q&A7-38が禁じる「委託された業務の範囲外」の利用を含み得るため,単純な委託として扱えるかを慎重に検討する必要がある。

2 統計情報は個人情報に当たらない

Q&A1-17は,統計情報(複数人の情報から共通要素に係る項目を抽出して同じ分類ごとに集計して得られる情報)は,特定の個人との対応関係が排斥されている限りにおいては,個人情報に当たらないとしている。
Microsoftのように「集計された統計的な非個人データ」に限る条項は,この考え方と整合的に書かれていると評価できる。
これに対し,個々の問い合わせに付けられた分類結果は,特定の個人との対応関係が残る限り,統計情報とはいえない。

3 外国にある第三者への提供と注意喚起

提供者が外国にある場合,個人情報保護法28条1項の外国にある第三者への提供の制限も問題になる。
また,個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)は,個人情報取扱事業者が,あらかじめ本人の同意を得ることなく生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力し,当該個人データが「当該プロンプトに対する応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合」には,法の規定に違反することとなる可能性があるとし,提供事業者が個人データを「機械学習に利用しないこと等」を十分に確認するよう求めている。

この注意喚起が問題にしているのは,応答結果の出力以外の目的での取扱いであり,機械学習はその代表例として挙げられているにすぎない(「等」)。
派生データの自社目的での利用も,応答結果の出力以外の目的での取扱いに当たり得るから,注意喚起の趣旨からは,学習条項だけでなく派生データ条項も確認すべきことになる。

4 令和8年改正法30条の3

令和8年7月17日に公布された個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律(令和8年法律第56号)により新設される個人情報保護法30条の3は,他の個人情報取扱事業者又は行政機関等から個人情報の取扱いの全部又は一部の委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けた個人情報取扱事業者は,法令に基づく場合等を除くほか,その取扱いを委託された個人情報(当該事業者において個人関連情報となるものを除く。)を,当該委託を受けた業務の遂行に必要な範囲を超えて取り扱ってはならないと定めている。
同条の施行日は,公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日とされており,基準日現在では施行されていない。

施行後は,委託先であるAIサービスの提供者自身が,委託業務の範囲を超えた取扱いを法律上禁じられることになる。
もっとも,提供者が日本の個人情報取扱事業者として同法の適用を受けるか,派生データが提供者にとって個人情報に当たるかは,提供者ごと,データごとに検討する必要がある。
改正法と委託契約の見直しについては,令和8年改正個人情報保護法と委託契約-クラウド・生成AI利用で見直す事項(第30条の3・第58条の2)で扱っている。

第6 規約を読むときの確認項目

AIサービスの規約を読むときは,学習条項に加えて,次の点を確認することが考えられる。
①「学習」「訓練」「改善」の定義(モデルの重みの変更に限るのか,評価や製品改善を含むのか)
②ログ,テレメトリ,利用データ,メタデータ等の定義と,顧客データを含み得るか
③派生データを提供者が自社の目的(サービス改善,他製品の開発,研究等)に使えるか,その範囲と目的の限定
④派生データが集計・匿名化されたものに限られるか,個々の利用と結び付いたままか
⑤フィードバックを送ったときに何が送られ,何年保存され,何に使われるか,管理者がフィードバック機能を止められるか
⑥データ処理補遺と利用契約のどちらが優先するか
⑦保存期間,保存国及び再委託先
⑧準拠法と紛争解決の方法

事務所内の運用としては,次のような対応が考えられる。
①フィードバック機能(評価ボタン等)は,管理者の設定で止めるか,依頼者情報を含む会話では押さないことを所内のルールにする
②派生データを制限なく使える規約のサービスには,依頼者情報を入力しない
③許可サービスの台帳に,学習の扱いとは別に「派生データの扱い」の欄を設ける

許可サービスの台帳の作り方は,法律事務所の生成AI利用ガイドラインの作り方-許可サービス,入力情報,出力確認,委託先及び事故対応で扱っている。

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第8 出典

1 法令等

弁護士法23条(令和8年9月19日にe-Gov法令検索で現行条文を確認)
個人情報の保護に関する法律25条,27条5項1号,28条1項(同日に現行条文を確認)
③個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律(令和8年法律第56号)による改正後の個人情報の保護に関する法律30条の3(e-Gov法令検索の未施行の改正履歴で確認)
④日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」23条

2 個人情報保護委員会の資料

①個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」(令和7年7月1日更新)Q1-17,Q7-38~Q7-40
②個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)

3 AIサービスの規約・公式資料

①TypeSafe AI「Master Customer Agreement」(令和8年8月27日更新)4.1,4.3,15.2
②TypeSafe AI「Data Processing Addendum」(令和8年4月24日更新)
③Anthropic「Commercial Terms of Service」(令和7年6月17日発効)
④Anthropic「Data Processing Addendum」(令和7年2月24日発効)
⑤Anthropic Privacy Center「Is my data used for model training?
⑥OpenAI「Services Agreement」(令和7年12月1日更新)4.2,9.3
⑦OpenAI「Enterprise privacy」(令和8年1月8日更新)
⑧Google「Gemini API Additional Terms of Service」(令和8年3月23日発効)
⑨Microsoft「Products and Services Data Protection Addendum」(令和8年5月版)
⑩Microsoft「Data, Privacy, and Security for Microsoft 365 Copilot」(製品資料)