メインコンテンツへスキップ
       

学習オフの生成AIに秘密情報を入力することは第三者開示に当たるか(AI作成)

第1 結論と記事の対象

1 学習オフだけで結論は決まらない

学習履歴をオフにした生成AIへの秘密情報の入力は,それだけで秘密保持契約(NDA)上の第三者開示になるわけでも,ならないわけでもない。
クラウド型の生成AIでは入力がサービス提供事業者の計算環境へ送信されるため,技術的な意味で「誰にも渡していない」とはいえないが,NDAに違反するかは,契約文言と実際のデータ処理を踏まえた契約解釈によって決まる。

本記事では,①生成AIへの入力が明示的に禁止されていないこと,②入力がモデルの学習・改善に使われないこと,③事業者が回答生成等の業務目的に限って処理すること,④正当な理由のない人的閲覧と他の利用者への出力が予定されていないこと,⑤同等の秘密保持義務,保存・削除及び再委託管理が確保されていること,⑥元のNDAが委託先への開示を許すか,少なくとも業務上通常の委託として黙示に許容すると解釈できることを満たす業務用環境であれば,原則として利用可能と整理する。
この場合は,AI提供事業者を情報の独自利用者ではなく,利用者の指示に従って機械処理を行う受託者又は業務補助者と位置付けることができるからである。

他方,消費者向けサービスで学習設定だけをオフにした場合,保存,人的アクセス,再委託及び外部ツールへの送信がどのように扱われるかは別途確認しなければならない。
「学習オフ」という一つの表示だけを根拠として秘密情報を入力することはできない。

2 本記事で扱う「第三者開示」の範囲

本記事が主として扱うのは,取引先からNDAに基づいて受領した秘密情報を,外部のクラウド型生成AIへ入力する場面である。
自社設備内で処理が完結するオンプレミス型AI,公知情報だけを扱う場合及びAI提供事業者との開発委託契約自体を検討する場合は,結論を左右する事情が異なるため,必要な範囲でのみ触れる。

「第三者開示」には,①情報が外部の計算環境へ送られたという技術上の事実,②NDA上禁止された第三者開示,③個人情報保護法27条の第三者提供,④不正競争防止法上の営業秘密性の維持という別々の問題が含まれ得る。
これらを一つの言葉で処理すると,個人情報保護法上は委託に当たるからNDAにも違反しない,あるいは外部送信したから営業秘密性を必ず失うといった誤った一般化が生じる。

令和8年9月6日現在,日本で生成AIへの秘密情報入力がNDA上の第三者開示に当たるかを直接判断した公刊裁判例は確認できない。
同日,判例秘書の判例検索において,任意語を「生成AI」「生成AI」「ChatGPT」「チャットGPT」「大規模言語モデル」「LLM」として検索したところ,該当は10件であった。
うち3件は,「LLM」が法学修士(LL.M.)に一致したことによるものであり,平成14年から平成16年までの留学費用返還請求事件等である。
残る7件は,地位確認,原状回復,オンライン記事掲載差止め,特許料納付書等の却下処分取消し及び不正競争に関するものであって,いずれも本記事の論点を判断したものではない。
同日の解説(コメント)検索でも該当は2件にとどまり,いずれも同一の不正競争事件に対するものであった。

したがって,以下の結論は,条文,行政資料,契約実務及び文献上の対立説を踏まえた現時点の契約解釈である。

第2 「学習履歴オフ」が止める処理と止めない処理

1 学習への不使用と回答生成のための処理は別である

学習オフは,通常,入力及び出力を基盤モデルの訓練又は改善に使わないという目的制限を意味する。
これに対し,回答を生成するには,事業者側のシステムが入力を受信し,トークン化その他の処理を行い,モデルへ渡して出力を返す必要がある。

主要な企業向けサービスも,顧客データをモデル学習に用いないことと,顧客の指示に従って回答を生成するためにデータを処理することを分けて説明している。
したがって,学習オフは他の利用者のためのモデル改善に情報が流用される経路を閉じる重要な条件であるが,AI提供事業者のシステムへ情報が送られないことを意味しない。

2 履歴,保存,人的アクセス及び外部連携は別の設定である

会話履歴を利用者の画面に残さないことと,安全性確認又は障害対応のためのログを事業者が一定期間保持することも別である。
さらに,正当な理由のない人的アクセスが禁止されているか,サポート又は不正利用調査で誰が閲覧できるか,再委託先がどのように処理するか,削除後のバックアップがどうなるかは,学習設定からは分からない。

検索,コネクタ,プラグイン又はAIエージェントが有効な場合は,AI提供事業者以外の外部サービスにも入力の一部が送られ得る。
本体の生成AIが非学習であっても,接続先の利用規約,保存及び再利用条件は別に適用されるため,外部機能ごとに受領者を確認する必要がある。

他方,コネクタ等を経由して取り込んだ情報が,本体の学習対象からは外れる場合もある。
Anthropicは,消費者向けプラン(Claude Free,Pro及びMax並びにこれらのアカウントによるClaude Codeの利用)について,モデル改善に用いられ得るのは会話及びコーディングセッションであり,コネクタ(Google Drive等)並びにリモート及びローカルのMCPサーバーから取り込んだ生のコンテンツは含まれないが,会話に直接複写された場合は含まれ得ると説明している。
同じ資料であっても,コネクタを通じて参照させるのか,本文に貼り付けて会話の一部にするのかによって扱いが分かれることになる。
外部連携を「送信が増える方向」だけで捉えず,自らのどの操作がどちらに当たるかを,サービスごとの説明で確認する必要がある。

なお、学習利用、画面上の履歴、事業者の安全対策ログ及びプロンプトキャッシュも、それぞれ別に確認する必要があります。OpenAIのAPI向け公式資料は、プロンプトキャッシュにはトークン文字列自体ではなく、処理済みの中間表現であるKV tensorsが保存されると説明しています。ただし、その保存期間及び利用条件は対象モデル・設定によって異なり、この説明を他社サービス又はすべてのOpenAI製品へ一般化することはできません。

また、トークン自体を保存しないという技術的説明だけで、秘密保持契約上又は弁護士職務上の「第三者開示」に当たるかが決まるわけではありません。実際に利用するサービス、プラン、モデル、地域、保持期間、組織設定及び外部コネクタの送信先を確認し、契約文言と具体的情報の性質に即して判断する必要があります。プロンプトキャッシュ及び利用量管理については、弁護士がCodexを長時間・並列利用する際の使用量管理-プロンプトキャッシュ、プラグイン、heartbeat及び監査ログ(AI作成)を参照してください。

3 利用形態によって評価が変わる

利用形態技術上の情報移転NDA上の評価の目安
オンプレミス又は外部送信のないローカルAI組織外への送信を避け得る通常は外部の第三者開示の問題が生じにくい。ただし,遠隔保守,利用状況送信及びモデル供給元を確認する。
企業向け又はAPIで,非学習,目的限定,同等の秘密保持義務及び保存管理があるAI提供事業者が受託処理するNDAの委託先例外又は当事者の合理的意思により,許容される可能性が高い。
消費者向けサービスで学習設定だけをオフにした提供者への送信,保存等が残り得る学習オフだけでは判断できず,規約,人的アクセス,保存及び再委託を追加確認する。
入力を汎用モデルの学習・改善に使用する提供者が自己目的で継続利用し得る目的外利用及び第三者開示に当たる危険が高い。原則として入力しない。
外部コネクタ又はAIエージェントを利用する接続先にも送信され得る接続先ごとにNDA上の許容,利用規約及び保存条件を確認する。

4 Gemini API及びGoogle AI Studioの具体例

令和8年9月6日現在のGemini API追加利用規約では,Google AI Studioを直接利用する場合及びGemini APIの無償枠を利用する場合は無償サービスに区分される。
無償サービスでは,入力及び出力がGoogleの製品,サービス及び機械学習技術の提供,改善及び開発に用いられ,人による確認の対象となり得るため,Googleは秘密情報,個人情報その他の機微な情報を入力しないよう求めている。

これに対し,Google AI Studioは,有効な請求先が設定されたCloud Project又はGoogle Workspaceの企業向けアカウントから利用できる場合に有償サービスとして扱われる。
Gemini APIは,有効な請求先が設定されたCloud Projectを通じた利用だけが有償サービスとなり,有償サービスの入力及び出力はGoogleの製品改善には用いられないものの,不正利用の検知又は法令遵守のために限定的なログが保存される。

GoogleのZero Data Retentionに関する公式資料によれば,ZDRは対象プロジェクトについて事前の承認を受け,利用機能ごとの保存条件を確認する必要がある。
例えば,Google Searchによるグラウンディングでは,プロンプト,文脈情報及び出力が30日間保存され,この保存を無効にすることはできないとされており,Interactions API,Live API,Files API及び明示的キャッシュにもそれぞれ固有の保存条件がある。

したがって,「Gemini」という製品名,「API」という接続方法又は有償契約であることだけから,秘密情報を入力できると判断すべきではない。
実際に用いるアカウント,Cloud Project,請求設定,適用規約,ログの保存期間及び利用機能を一体として確認する必要があり,Gemini Enterprise for Legalは別の製品及び契約範囲として区別する必要がある。

第3 NDA上の第三者開示に当たるか

1 出発点は個々の契約文言である

NDAは,秘密情報の定義,利用目的,第三者の範囲,役職員・専門家・委託先への開示,need-to-know,同等の秘密保持義務,事前承諾,再委託,複製,保存,返還及び削除を契約ごとに定める。
外部AIへの入力禁止が明記されていれば,学習オフであっても黙示の承諾を認める余地は乏しい。

委託先への開示を認める条項がある場合は,AI提供事業者がその条項の委託先に含まれ,同等の秘密保持義務を負うかを確認する。
入力を自己のモデル改善に用いず,顧客の指示に従って処理し,再委託先にも同等の義務を課す企業向け契約であれば,通常のクラウド,翻訳,電子メール又は文書管理の受託者と同様に扱う余地がある。

委託先条項がない場合も,直ちに違反と決まるわけではない。
契約目的を遂行するために一般的なクラウド型業務ツールの利用が予定されていたか,AIが情報を独自利用せず,人が秘密を知ることが通常予定されていないか,情報の機密度と利用の必要性はどの程度かという事情から,当事者の合理的意思又は黙示の承諾を検討することになる。

2 NBL座談会の設例と見解のポイント

古川直裕・大井哲也・岡辺公志・柴山吉報・寺前翔平「座談会 クラウド・生成AI時代のNDAを考える」NBL1320号4頁~21頁は,第三者開示の論点について,①いわゆるクラウド例外の要件を満たすクラウドストレージ,②AIを含まないSaaS,③従来型AI(学習なし),④従来型AI(学習あり),⑤生成AI(学習なし)及び⑥生成AI(学習あり)の六つへの秘密情報の入力を比較している(同12頁)。
同座談会は,非学習生成AIだけを対象にしたものではなく,SaaSについても「非学習型SaaS」という設例ではない。

同12頁の「見解のポイント」では,古川,大井及び岡辺は,⑥だけがNDA違反となり得るとし,柴山及び寺前は,①はNDA違反にならず,②,③及び⑤は第三者開示に該当しない場合もあり得るが,それ以外は当事者の合理的意思を解釈する必要があり,④及び⑥は認められないことが多いと整理している。
ただし,座談会本文では,「開示」の意味,委託先への開示としての許容,第三者の範囲及び管理主体の変更を各発言者が別々に論じており,三名対二名の単純な開示否定説・肯定説として整理することはできない。

3 各発言者の見解

古川は,人が秘密情報を知る状態にならない機械処理を「開示」とみない立場を示し,②,③及び⑤のほか,従来型AIの④についても第三者開示に当たらないとする一方,⑥では他の利用者に元データが出力される可能性を理由にNDA違反の疑いを認めている(同12頁~16頁)。
大井は,②以降を委託先への提供として位置付け,明示の委託先条項がなくても黙示の許容又は当事者の合理的意思によって許されるとの構成を示しつつ,⑥には他の利用者への出力リスクがあるとしている(同13頁~16頁)。

岡辺は,NDAの第三者開示条項は利用目的にかかわらず開示行為自体を禁止するのが一般的であるとしつつ,第三者が秘密情報を閲覧することが想定されない場合には「開示」自体に当たらないとの構成も示し,⑥については他の利用者への出力可能性からNDA違反になるとしている(同13頁~17頁)。
柴山は,②,③及び⑤が第三者開示に該当しない場合を認め,仮に「開示」に当たるとしても委託先への開示として黙示の承諾を認める構成を示す一方,管理主体及び管理期間の変化も重視している(同12頁,14頁~17頁)。

寺前は,①をNDA違反でないとし,②,③及び⑤が第三者開示に該当しない場合を認めながら,現状では第三者サービスへ秘密情報を入力する場合に開示者の承諾を得るとの考え方も成り立ち得るとし,④及び⑥は認められないことが多いとの立場を示している(同12頁,14頁~16頁)。
したがって,同座談会の対立は,非学習かどうかだけでなく,人が閲覧する予定の有無,他の利用者への出力可能性,委託先としての位置付け,管理主体・管理期間の変化及び当事者の合理的意思をどこまで重視するかにある。

4 外国裁判例も利用条件によって結論を分けている

米国コロラド地区連邦地方裁判所のMorgan v. V2X, Inc.(2026年3月30日,No. 1:25-cv-01991-SKC-MDB, Doc. 65)は,秘密指定された資料を生成AIへ入力できる条件として,①提供者が入力を学習・改善に使わないこと,②サービス提供に必要な範囲を超えて開示しないこと及び③入力を削除できることを保護命令に定めた。
同決定は,生成AIを一律に禁止せず,非学習だけでなく開示制限と削除を組み合わせている点で参考になる。

これに対し,ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所のUnited States v. Bradley Heppner(2026年2月17日,No. 25-cr-00503-JSR, Doc. 27)は,被告人が消費者向けClaudeへ自ら入力した会話について,弁護士との通信ではなく,提供者へ情報を伝えていること等を理由に弁護士依頼者間秘匿特権を否定した。
同決定は,企業向け契約,ゼロデータリテンション又はNDA上の委託先例外を判断したものではないが,消費者向けAIを秘密の相手方と同視できないことを示す。

これらは米国の証拠開示及び秘匿特権に関する裁判例であり,日本のNDA解釈を直接決めるものではない。
もっとも,AIという名称ではなく,契約,学習,開示範囲及び削除可能性によって結論を分ける点は,本記事の条件付き評価と整合する。

5 本記事の判断

NDAが外部AIへの入力を禁じておらず,利用する生成AIが非学習,目的限定,非公開,人的アクセス制限,同等の秘密保持義務及び合理的な保存・削除を備え,業務遂行に必要な範囲で用いられる場合には,第三者開示禁止条項に反しないと評価するのが合理的である。
法的な説明は,①そもそも秘密を人に知られる状態へ置く「開示」に当たらない,②AI提供事業者は許容された委託先に当たる,③当事者の合理的意思又は黙示の承諾により許される,という複数の構成があり得る。

この結論は,情報が技術上は提供者のシステムへ送られることを否定するものではない。
むしろ,その送信を業務委託として契約上・技術上統制できているからこそ,禁止された第三者開示ではない,又は許容された開示であると評価するものである。

一方,NDAが委託先への開示を禁じ,書面承諾を要求している場合,AI事業者が入力を自己目的で使える場合,又は他の利用者への出力,正当な理由のない人的閲覧若しくは削除不能な長期保存が予定される場合には,この結論を採ることはできない。
機密度が特に高い情報では,ゼロデータリテンション,専用環境又はローカル処理へ保護水準を上げるべきである。

第4 目的外利用及び返還・削除義務も別に確認する

1 業務のためのAI処理は直ちに目的外利用ではない

契約で定めた業務を遂行するために生成AIで文書を要約し,検索し,又は案を作成することは,AIを手段として用いるものであり,それだけで目的外利用になるとは限らない。
これに対し,AI提供事業者が入力を全利用者向けモデルの改善に用いることや,受領者が別案件のために情報を再利用することは,元の契約目的を超える可能性が高い。

目的外利用を避けるには,AI提供事業者との契約で,入力の利用目的を回答生成,安全性確保その他のサービス提供に必要な範囲へ限定する必要がある。
利用者側でも,対象案件の作業に必要な部分だけを入力し,関係のない秘密情報を含むフォルダ全体を検索対象にしないことが求められる。

2 返還・削除条項は保存機能との整合を確認する

NDAが契約終了時又は開示者の請求時に秘密情報の返還・削除を求めている場合,AI提供事業者の会話履歴,ファイル,ベクトルストア,監査ログ及びバックアップを削除できるかが問題となる。
短期の安全管理ログと,利用者が削除するまで残るプロジェクト又はファイルは同じではないため,保存場所と削除方法を機能ごとに確認する。

返還・削除義務を技術的に履行できないサービスへ情報を入力すれば,入力時の第三者開示を許容できても,後に別の契約違反が生じ得る。
保存期間の短さだけでなく,削除要求,法令上の保持,バックアップ及び外部接続先に残る複製を確認する必要がある。

3 AIエージェントは受領者を増やすことがある

AIエージェントがクラウドストレージ,電子メール,検索又は社内システムから自律的に情報を取得し,外部ツールへ送る場合,利用者が個々の情報を入力していなくても第三者開示及び目的外利用が起こり得る。
接続可能な情報源,送信先,実行権限及び確認画面を組織側で制限し,秘密情報を含む領域を既定で検索対象にしない設計が必要である。

AIが別のAIへ処理を引き継ぐ場合も,モデルの変更と,秘密情報を取り扱う事業者の変更は区別する。同じ事業者内のモデル変更だけで別の第三者への開示が生じるとはいえず,反対に,同じモデル名でも処理を担う事業者が変わることがある。例えば,OpenRouterの公式技術文書「Provider Routing」は,同一モデルについて料金等に応じて提供者を選び,障害時には別の提供者へ切り替える仕組みを説明している。

NDA上は,窓口となるサービスの利用承諾が,切替先への提供まで含むかを確認する。別の事業者への送信が自動で行われることや,切替先も非学習であることだけで,開示者の承諾範囲が広がるわけではない。送信先の制限,ログ及び停止手段については,OpenAIの「AI暴走」と700のAIエージェント――2026年7月のHugging Face侵入事件の実態(AI作成)の第7・2も参照されたい。

第5 個人情報保護法及び営業秘密との関係

1 個人情報保護法上の委託先は同法の第三者に当たらない

個人情報保護法27条5項1号は,利用目的の達成に必要な範囲で個人データの取扱いを委託することに伴って提供される場合,提供先を同条の第三者に該当しないものとしている。
生成AI提供事業者が利用者の指示に従い,回答生成等の委託目的の範囲で処理する場合は,この委託として整理できる余地がある。

もっとも,委託先は情報を受け取っていないのではなく,委託元のために取り扱う者である。
同法25条は委託先に対する必要かつ適切な監督を要求しており,AI提供事業者の自己目的利用,再委託,保存及び安全管理を確認する必要がある。

再委託について,個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-4-4は,委託元が再委託先,業務内容及び個人データの取扱方法等の事前報告を受け又は承認を行い,委託先を通じて又は必要に応じて自ら定期的に監査すること等により,委託先による再委託先の監督と再委託先の安全管理措置を十分に確認することが望ましいと説明している。

これは法25条の監督義務を具体化する説明であり,再委託のたびに個別の事前承諾を得ることを一律に義務付けたものではない。NDAが別途求める開示者の承諾の要否及び方法は,同ガイドラインとは分けて確認する。

個人情報保護委員会の令和5年6月2日の注意喚起は,個人データを含むプロンプトを本人同意なく入力する場合,提供事業者が当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めている。
これは非学習が重要な条件であることを示すが,非学習ならNDA上も常に第三者開示でないと述べた資料ではない。

令和8年法律第56号による改正後の個人情報保護法30条の3は,受託者自身に対し,委託された個人情報を委託業務の遂行に必要な範囲を超えて取り扱うことを禁止する。
同法58条の2は,取扱方法その他の委員会規則所定事項を委託契約で定め,その契約に従って取り扱う場合に一部規定を適用しない制度を設けるが,安全管理,漏えい等報告及び委託範囲を超える取扱いの禁止まで一律に免除するものではない。
学習オフという設定だけで,同条が予定する契約事項又はその遵守が確認されたことにはならず,具体的な契約,保存,再委託,国外取扱い及び事故報告を別途確認する必要がある。
改正法に基づく委託契約の全体像については,令和8年改正個人情報保護法に基づき,民間企業の個人情報保護規程で対応が必要な事項(AI作成)も参照されたい。

個人情報保護法上の委託処理と提供者の自己目的利用を分け,二次利用,ログ,再委託,国外処理及び削除を契約で確認する方法については,「令和8年改正個人情報保護法と委託契約-クラウド・生成AI利用で見直す事項」も参照されたい。

2 クラウド例外を生成AIへそのまま当てはめることはできない

個人情報保護委員会Q&A7-53は,クラウド事業者が契約上個人データを取り扱わず,適切なアクセス制御を行っている場合,個人データの提供にも委託にも当たらないとする。
しかし,生成AIは通常,回答を作るために入力内容を計算処理するため,単にデータを保管するだけの場面と同じではない。

生成AIについては,事業者が一切取り扱わないと擬制するよりも,利用目的,指示,秘密保持,再委託,保存及び削除を定めた委託として整理する方が実態に合う場合が多い。
個人情報保護法上の委託に当たっても,元のNDAがその委託を許容するかは別に確認する。

3 管理された委託で営業秘密性が当然に失われるわけではない

不正競争防止法2条6項の営業秘密には,秘密管理性,有用性及び非公知性が必要である。
守秘義務を負う委託先へ必要な範囲で情報を渡しただけで,直ちに非公知性を失うものではない。

他方,経済産業省の営業秘密管理指針は,生成AI提供事業者等の社外第三者に情報が提供される場合には秘密管理性が否定される場合もあり得るとする。
承認された企業向けAI,入力区分,利用記録及び社内ルールを整えず,従業員が個人アカウントへ秘密情報を入力する状態は,会社の秘密管理意思と管理措置を説明しにくくする。

第6 業務利用を認めるための判断手順

1 原則として利用可能と評価しやすい条件

次の条件を満たすほど,生成AIをNDA上許容された業務補助として扱いやすい。
①企業向けプラン又は管理されたAPIである,②入力及び出力が基盤モデルの学習・改善に使われない,③事業者による処理が顧客の指示及びサービス提供目的に限定される,④事業者及び再委託先が同等の秘密保持義務を負う,⑤正当な理由のない人的アクセスが制限される,⑥保存期間及び削除方法がNDAと整合する,⑦外部コネクタ及び共有機能を管理できる,⑧元のNDAが委託先への開示を許容し,又は業務上通常の委託として黙示の承諾を認められる,⑨入力を必要な範囲に限定し,利用者,日時,サービス及び設定を記録する。

これらを満たすサービスを組織が審査し,利用可能なプランと機能を明示する方法は,全てのAI利用を禁止するより実効的である。
禁止だけでは,従業員が管理外の個人アカウントを利用するシャドーAIを生じさせ,契約条件及び入力履歴を組織が把握できなくなるからである。

⑦の共有機能は,サービス側の機能追加によって既定の設定が変わることがある。
例えば,Google Workspaceの「Gemini Notebook」については,令和8年8月17日の告知で,ノートブックを他の利用者にコピーさせる設定が既定で有効とされ,管理者はこのコピー機能だけを個別に無効にすることはできないとされた。
コピーには,コピーする者がアクセス及びコピーの権限を持つドライブのファイルも含まれるから,秘密情報を含む資料を読み込ませたノートブックを共有すると,共有を解除しても,それまでに作成されたコピーは残り得ると考えられる。
秘密情報を含むノートブックは共有しないか,共有する前にコピーを許可する設定を外しておくことが考えられる。

2 確認が終わるまで入力を止める場合

次のいずれかに当たる場合は,確認又は承諾を得るまで入力を止めるべきである。
①NDAがAI又は外部クラウドへの入力を禁止している,②第三者への開示に事前の書面承諾が必要で委託先例外がない,③利用中のプラン及びアカウント種別が分からない,④学習,人的アクセス,保存,削除又は再委託の条件を確認できない,⑤入力が他の利用者のための学習又は出力に使われる,⑥契約終了時の削除義務を履行できない,⑦コネクタ又はAIエージェントの送信先を把握できない,⑧営業秘密,未出願発明,M&A,訴訟戦略その他の特に高い機密性に対して保護水準が足りない。

停止はAI利用そのものを断念することを意味しない。
企業向けプランへの切替え,外部機能の無効化,入力の最小化,取引先の包括承諾,ゼロデータリテンション,専用環境又はローカル処理によって条件を満たせるかを先に検討する。

3 今後のNDAにはサービス名より利用条件を定める

NDAへ特定の生成AI名だけを書き込むと,名称変更,新機能又はサービスの追加に対応しにくい。
業務遂行に必要なクラウド・AIサービスへの開示を認める条件として,①目的限定,②非学習,③同等の秘密保持義務,④人的アクセス制限,⑤再委託管理,⑥保存・削除,⑦事故通知及び⑧受領者の責任を定め,その条件を満たすサービスを社内の承認リストで管理する方が柔軟である。

開示者の関心が強い取引では,利用開始前の通知に加え,提供事業者又は再委託先の追加・変更時の通知及び一定期間内の異議申出を組み合わせる方法も考えられる。
これらの手続と承諾の範囲をNDAで合意しておけば,AI利用のたびに個別承諾を取り直す負担を避けながら,開示者が管理主体の変更を把握する機会を確保できる。

実務上は,社内の承認リストに自動切替えの候補となる処理事業者と,適用される非学習・保存・削除等の条件を含め,承認範囲外へ切り替わる場合は送信を止めて再確認する運用が考えられる。利用記録には,実際の処理事業者,利用日時,適用条件及び承認の根拠を追跡できる情報を残し,記録自体に秘密情報の本文を不用意に複製しないようにする。

特定モデルが利用できなくなる事情には,事業者の判断又は障害だけでなく,外国政府の輸出管理その他の規制措置も含まれ得る。
代替先への自動切替えは可用性を高める一方,未承認の事業者への送信を生じさせ得るため,停止条件と承認済み代替先を事前に定めておく必要がある。

秘密情報の入力又は第三者開示によって損害が生じた場合は,秘密保持義務の有無だけでなく,入力主体,利用企業の監督,AI提供者の説明,データ利用の実態及び損害との因果関係を分けて検討する必要がある。AI利用に伴う責任主体の整理については「AI利活用に伴う民事責任-補助/支援型AI・依拠/代替型AI・AIエージェントで誰が責任を負うか(AI作成)」参照。

第7 出典・参考資料

1 法令

個人情報の保護に関する法律25条,27条1項・5項1号(e-Gov法令検索)
不正競争防止法2条6項(e-Gov法令検索)

2 公的資料

①個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日)
②個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」Q7-53(令和7年7月1日版)
③公正取引委員会「知的財産取引に関するガイドライン」(令和8年3月)12頁~13頁(PDF16頁~17頁)
④経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(令和7年2月)
⑤経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」掲載の営業秘密管理指針(最終改訂令和7年3月31日)
⑥個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-4-4「委託先の監督(法第25条関係)」(平成28年11月,令和8年6月一部改正)

3 裁判例

①United States District Court for the District of Colorado, Morgan v. V2X, Inc., No. 1:25-cv-01991-SKC-MDB, Doc. 65(2026年3月30日)
②United States District Court for the Southern District of New York, United States v. Bradley Heppner, No. 25-cr-00503-JSR, Doc. 27(2026年2月17日)

4 文献

①古川直裕・大井哲也・岡辺公志・柴山吉報・寺前翔平「座談会 クラウド・生成AI時代のNDAを考える」NBL1320号4頁~21頁(商事法務,2026年8月15日)
②辛川力太『生成AIの利活用と契約』(BUSINESS LAWYERS,2026年1月20日)16頁~23頁・44頁~45頁
③柴山吉報『クラウド・生成AI時代の情報管理とガバナンス』(BUSINESS LAWYERS,2026年8月20日)10頁~17頁・38頁~43頁

5 生成AI事業者の資料

①OpenAI「Business data privacy, security, and compliance
②Anthropic「Is my data used for model training?
③Google Workspace「Generative AI in Google Workspace Privacy Hub
④Microsoft「Data, Privacy, and Security for Microsoft 365 Copilot
⑤OpenRouter「Provider Routing」(提供者の選択・自動切替え・許可先限定に関する公式技術文書,令和8年8月30日確認)
⑥Google「Gemini API Additional Terms of Service」(令和8年9月6日確認)
⑦Google「Zero Data Retention」(令和8年9月6日確認)
⑧Google Workspace Updates「Make a copy of a notebook in Gemini Notebook」(令和8年8月17日公表,令和8年9月13日確認)
⑨OpenAI「Prompt caching」(令和8年9月14日確認)

6 関連記事

学習オフ設定のClaudeコード及びGoogle AI Ultraの利用は弁護士の守秘義務等に違反しないという個人的意見(AIリライト)
中国製AIの利用は弁護士の守秘義務に違反するか―DeepSeekと利用形態別の判断(AI作成)
シャドーAIの問題点――営業秘密,個人情報保護法及び懲戒処分をめぐる法的枠組み(AI作成)
弁護士の守秘義務(AI作成)
生成AIの学習データを開示要求する方法――プリンシプル・コード原則2・3の要件と限界(AI作成)
生成AIプリンシプル・コードとは――対象事業者,適用除外,開示事項及び届出の意味(AI作成)
AI時代に弁護士の価値は「作業時間」からどこへ移るか―一次資料,事実評価,戦略判断及び意思決定支援(AI作成)
Gemini Enterprise for Legalは日本の弁護士業務に活用できるか―Preview条項と導入条件(AI作成)
総務省「AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン」(令和8年3月公表)――対象・脅威・対策と実務上の限界(AI作成)
弁護士費用保険におけるAI利用-保険金査定・法律相談・弁護士紹介・利益相反(AI作成)
弁護士が事件の依頼を断るときの通知義務―弁護士法29条・職務基本規程34条とAIによる問い合わせの一次判定(AI作成)
弁護士がCodexを長時間・並列利用する際の使用量管理-プロンプトキャッシュ、プラグイン、heartbeat及び監査ログ(AI作成)