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弁護士の守秘義務(AI作成)

弁護士に相談したり事件を依頼したりすると,「話した内容や渡した資料はどこまで秘密として守られるのか」「裁判や捜査,国会の場で弁護士が私のことを話してしまうことはないのか」といった疑問を持たれることがあります。この記事では,弁護士の守秘義務の根拠と範囲,守秘義務が例外的に解除される場合,証言や押収を拒める場面,司法修習生が事件記録に触れること,及び依頼者側でも第三者に見せない方がよい文書について,条文と最高裁判例を確認しながら整理します。条文は令和7年6月1日施行の拘禁刑への一本化を含む現行の内容によります。

第1 弁護士の守秘義務と秘密漏示罪

1 守秘義務の根拠と対象

(1) 二つの根拠と「依頼者」の範囲

弁護士の守秘義務には,二つの根拠があります。一つは法律で,弁護士法23条本文は「弁護士又は弁護士であつた者は,その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し,義務を負う。」と定めています。守秘義務が「権利」でもあるのは,後で述べる証言拒絶権など,弁護士が秘密を守るために外部の要求を拒める場面があるからです。この秘密保持の権利・義務は,弁護士の使命に基づく誠実義務(弁護士法1条2項)の一つの内容とも位置づけられ,弁護士という職業の存立を支えるものと理解されています。

もう一つは日本弁護士連合会の会規である弁護士職務基本規程で,同規程23条は「弁護士は,正当な理由なく,依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし,又は利用してはならない。」と定めています。「漏らす」だけでなく「利用」も禁じられている点が特徴です。

ここでいう「依頼者」は,現に個別の事件を依頼した人に限られません。日弁連「解説弁護士職務基本規程」によれば,次の人も含まれると解されています。

  • 受任には至らなかった相談者
  • 顧問先
  • 事件が終了した過去の依頼者
  • 組織内弁護士(企業などに雇用されて働く弁護士)の雇用主

したがって,相談したものの依頼を見送った場合や,事件がすでに終わっている場合でも,弁護士の守秘義務は続きます。

(2) 「職務上知り得た秘密」の意味と範囲

弁護士法23条が守るのは「職務上知り得た秘密」です。これは弁護士が職務を行う過程で知り得た秘密という意味で,職務とは関係なく知った秘密は含まれません。例えば,弁護士会の会務活動を通じて知った事柄を漏らしても,この条文の違反にはならないと解されています。

ここでいう「秘密」は,本人が特に秘匿しておきたいと考える性質のもの(主観的な秘密)に限られず,一般の人の立場からみて秘匿しておきたいと考える性質のもの(客観的な秘密)も含むと解されています。例えば,ある人が誰に事件を依頼しているかという委任関係の存否自体も,その人が法的紛争の当事者であることに関わる事実として,秘密に当たり得ます。

秘密の「主体」については議論があります。弁護士職務基本規程23条は「依頼者について」と定めていますが,弁護士法23条は文言上,秘密の主体を依頼者に限定していません。この点について,弁護士の守秘義務は依頼者はもとより第三者の秘密やプライバシーにも及ぶと理解するのが実務の一般的な考え方です。少なくとも,弁護士がその職務であるからこそ取り扱うことができる情報については,職務への信頼を守る観点から,依頼者以外の秘密も守秘義務の対象になると解されています。もっとも,依頼者と同じ信頼関係があるわけではない第三者の秘密をどこまで守るべきかは,後述する「正当な理由」の判断の中で,事案ごとに調整されることになります。

(3) 同じ法律事務所の弁護士も義務を負う

守秘義務を負うのは,直接担当した弁護士だけではありません。弁護士職務基本規程56条は「所属弁護士は,他の所属弁護士の依頼者について執務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らし,又は利用してはならない。その共同事務所の所属弁護士でなくなつた後も,同様とする。」と定めています。

そのため,依頼した弁護士と同じ共同事務所に所属する他の弁護士も,その事件について守秘義務を負い,しかも事務所を離れた後も義務は消えません。複数の弁護士が在籍する事務所に相談しても,秘密の保護が弱まるわけではないということです。

2 秘密漏示罪(刑法134条1項)

(1) 罰則の内容

守秘義務の違反には刑事罰も用意されています。刑法134条1項は,医師,薬剤師,助産師,弁護士,弁護人,公証人などやこれらの職にあった者が,正当な理由がないのに,その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは,「六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金」に処すると定めています。これが秘密漏示罪です。かつては「六月以下の懲役」でしたが,懲役と禁錮を一本化する刑法改正が令和7年6月1日に施行され,現在は「拘禁刑」となっています。

(2) 依頼者本人以外の秘密も対象になり得る

秘密漏示罪で守られる「人の秘密」は,依頼した本人の秘密に限られない場合があります。医師が裁判所から鑑定を命じられた事案について,最高裁は,医学的判断を内容とする鑑定を命じられた医師がその鑑定を行う過程で知り得た秘密を正当な理由なく漏らす行為は秘密漏示罪に当たるとし,同罪にいう「人の秘密」には鑑定対象者本人の秘密だけでなく,鑑定の過程で知り得た本人以外の者の秘密も含まれると判断しました(最高裁平成24年2月13日決定・刑集66巻4号405頁)。

この考え方は弁護士にも通じます。弁護士が事件処理の過程で知るのは依頼者本人の秘密に限らず,相手方や事件関係者の秘密に及ぶこともあり,前記(2)のとおり,そうした本人以外の秘密についても守秘義務が問題になり得ます。

第2 弁護士の証言拒絶権・押収拒絶権等

1 民事裁判での証言拒絶・文書提出拒絶

弁護士は,医師や歯科医師などと同じく,民事裁判で二つの拒絶権を持ちます。第一に,職務上知り得た事実で黙秘すべきものについては証言を拒めます(民事訴訟法197条1項2号)。第二に,そのような事実が記載された文書については提出を拒めます(民事訴訟法220条4号ハ)。

ここでいう「黙秘すべきもの」の意味について,最高裁は,一般に知られていない事実のうち,弁護士等に事務を依頼した本人が,これを秘匿することについて単に主観的な利益だけでなく客観的にみて保護に値する利益を有するものをいう,と判断しています(最高裁平成16年11月26日決定・民集58巻8号2393頁)。単に本人が知られたくないというだけでなく,秘匿することに客観的な保護価値があるかどうかで判断される,ということです。

もっとも,これらの拒絶権は絶対ではありません。黙秘の義務が免除された場合には,証言拒絶の規定は適用されず(民事訴訟法197条2項),文書提出の拒絶もできなくなります。免除の典型例は,依頼者本人が承諾した場合です。なお,弁護士が証言拒絶権や押収拒絶権を持ちながら,正当な理由なくこれを行使せずに秘密を明かした場合には,かえって守秘義務違反が問題になり得ると解されており,弁護士はこれらの権利を適切に行使することが求められます。

2 刑事裁判での押収拒絶・証言拒絶

刑事裁判でも,弁護士には二つの拒絶権があります。第一に,業務上の委託を受けて保管・所持する物で他人の秘密に関するものについては,押収を拒めます(刑事訴訟法105条。捜査段階の差押えにも同条が準用されます。刑事訴訟法222条1項)。第二に,業務上の委託を受けて知り得た事実で他人の秘密に関するものについては,証言を拒めます(刑事訴訟法149条)。

ただし,これらは押収や証言を拒める権利であって,捜索そのものを拒める権利(捜索拒絶権)ではありません。また,本人が承諾した場合や,拒絶が被告人のためだけにする権利の濫用と認められる場合には,拒絶できません。

3 依頼者との通信の傍受禁止と秘匿特権

依頼者と弁護士との間の電話などの通信は,裁判官が発する傍受令状(犯罪捜査のための通信傍受に関する法律3条1項)によっても,捜査機関は傍受できません。同法16条が,弁護士等との間の通信で,他人の依頼を受けて行うその業務に関するものと認められるものについて,傍受を禁じているからです(ただし,弁護士自身が被疑者として傍受令状に記載されている場合を除きます)。

ここでいう「傍受」とは,現に行われている他人間の通信について,その内容を知るため,当該通信の当事者のいずれの同意も得ないでこれを受けることをいいます(同法2条2項)。依頼者との相談内容が電話を通じて捜査機関に筒抜けになる,という事態は制度上想定されていないということです。

もっとも,こうした個別の規定はあるものの,日本には,依頼者と弁護士との相談内容そのものを一般的に秘匿できる「秘匿特権」(依頼者と弁護士との通信の秘密を手続全般で保護する制度)が確立しているわけではありません。諸外国では司法制度の原則として確立している一方,日本では各種手続において弁護士との相談内容が当然に秘密として扱われるわけではないため,依頼者が防御を十分に行えない,弁護士への相談をためらうといった弊害が指摘され,日弁連はこの権利の保障を提言しています。守秘義務や上記の拒絶権は,こうした保護を条文ごとに支える仕組みだといえます。

4 国会での証言・書類提出

(1) 証人として呼ばれた場合

各議院は,議案の審査や国政に関する調査のため,証人の出頭・証言や書類の提出を求めることができます(憲法62条参照)。弁護士がこうした証人として呼ばれた場合でも,業務上の委託を受けて知り得た事実で他人の秘密に関するものについては,宣誓,証言又は書類の提出を拒めます(議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律4条2項本文)。ただし,本人が承諾した場合はこの限りではありません(同項ただし書)。

(2) 参考人として招致された場合

これとは別に,衆議院又は参議院の委員会に「参考人」として招致される場合があります(衆議院規則85条の2,参議院規則186条参照)。参考人招致は弁護士に限られませんが,証人喚問とは異なり,出頭も証言も任意で,仮に事実と異なることを述べても偽証罪で処罰されることはありません。証人喚問と参考人招致は,法的な位置づけが大きく異なります。

第3 守秘義務が解除される場合

弁護士の守秘義務は絶対無制限ではなく,一定の場合に解除されます。弁護士法23条ただし書の「法律に別段の定めがある場合」と,弁護士職務基本規程23条の「正当な理由」がある場合です。守秘義務違反になるのは,職務上知り得た秘密を,正当な理由がないのに,まだ知らない第三者に知らせた場合であり,その判断は一般的・抽象的にではなく,事案ごとに具体的に行われるべきものと解されています。

1 法律に別段の定めがある場合

弁護士法23条ただし書は,法律に別段の定めがある場合を守秘義務の例外としています。民事事件では,黙秘の義務が免除された場合(民事訴訟法197条2項),例えば依頼者が承諾した場合がこれに当たります。刑事事件では,本人が承諾した場合や,証言拒絶が被告人のためだけにする権利の濫用と認められる場合(刑事訴訟法149条ただし書)に,拒絶できなくなります。

2 正当な理由がある場合

弁護士職務基本規程23条は「正当な理由」があれば秘密の開示・利用が許されるとしています。日弁連「解説弁護士職務基本規程」は,正当な理由が認められる場合として,主に次の三つを挙げています。

(1) 依頼者の承諾

依頼者の承諾がある場合です。承諾は依頼者の真意に基づくものである必要があり,弁護士が開示の必要性や方法を分かりやすく説明することが前提になります。明示の承諾でなくてもよい場合はありますが,黙示や推定的な承諾が認められるのは,依頼者と連絡がつかず,その名誉や信用を守る必要があるなど,緊急の必要がある場合に限られると解されています。自治体や弁護士会の法律相談を担当した弁護士が,相談後にその内容を自治体・弁護士会へ報告することは,相談者の黙示又は推定的な承諾があるものと理解されています。

(2) 弁護士の自己防衛

弁護士自身を守るために必要な場合です。依頼事件に関連して弁護士自身が民事・刑事などの争いの当事者になったり,懲戒手続や紛議調停の場で自己の主張・立証のために必要であったりするときは,必要な限度で秘密の開示が許されます。弁護士自身の名誉を守り,重大な誤解を解くために必要な範囲でも同様です。

また,強制執行妨害罪,証拠隠滅罪,文書偽造罪などの嫌疑が弁護士自身に及んだときは,自らその嫌疑を晴らす必要があり,自己防衛のための秘密開示が許されることがあります。弁護士が弁護士会照会(弁護士法23条の2)や文書提出命令,捜査関係事項照会を受けたとき,捜査官の事情聴取や税務調査を受けるときも,これに準じて扱われます。もっとも,弁護士が依頼者に報酬を請求する訴訟を起こすような,弁護士が攻撃する側に立つ場面では,被疑者や懲戒対象となる場面と利益状況が異なるため,秘密の開示には慎重な判断が求められます。

(3) 公共の利益

公共の利益のために必要な場合です。日本では,依頼者が殺人や重大な傷害を犯そうとするなど人命に関わる場合には,これを防止するために秘密の開示を許すのが一般的な理解です。もっとも,そこでは,法益の重大性だけでなく,依頼者の犯罪の企図が明確であること,実行が差し迫っていること,結果が極めて重大であること,開示が不可欠であることといった要件をあわせて検討する必要があるとされ,しかもこの場合でも直ちに開示が義務づけられるわけではありません(開示が「許される」にとどまります)。財産に関わる犯罪の場合については,開示を許してよいかに争いがあり,より慎重な判断が求められます。

解説書は,依頼者との信頼関係を基礎とする守秘義務について,「公共の利益」との比較衡量を安易に行えば,弁護士の職務やこれに対する信頼を揺るがしかねないとして,慎重な運用を求めています。

なお,犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)との関係では,弁護士は「疑わしい取引の届出」の義務までは負わず,依頼者の本人特定事項の確認と取引記録の保存の義務を負うにとどまります。これは,弁護士に届出義務を課せば,依頼者が安心して秘密を打ち明けて相談できなくなり,弁護士の職務の適正な遂行を妨げるという理由から,日弁連が届出義務の導入に反対した経緯(いわゆるゲートキーパー問題)によるものです。日弁連は,これに対応する会規(依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程)を定めています。

第4 弁護士への相談と秘密保持契約(NDA)

1 秘密保持義務の例外に弁護士への開示が含まれるのが通常

取引の際に締結する秘密保持契約(NDA)では,受け取った秘密情報を相手方の同意なく第三者に開示しないことが定められます。もっとも,実務上のNDAには,一定の場合を秘密保持義務の例外とする条項が置かれるのが通常です。典型的な例外は,情報を開示した側の書面による同意を得て開示する場合や,自社の役職員・弁護士・公認会計士・税理士など,同等以上の守秘義務を負う専門家に必要な範囲で開示する場合,法令や監督官庁・取引所の規則に基づいて開示が求められる場合などです。

このように,NDAの例外条項では弁護士など守秘義務を負う専門家への開示があらかじめ想定されているのが一般的です。したがって,秘密保持義務を負う立場の人が,その義務の対象となる情報について外部の弁護士に相談することは,通常,NDAの秘密保持義務の例外に当たります。相談を受けた弁護士自身も守秘義務を負うため,情報が外部に広がる関係にはなりません。

2 M&AやNDAひな形での扱い

企業の合併・買収(M&A)の場面でも,秘密保持義務を負う買主が外部の弁護士に相談することは当然に予定されています。買収の検討には法務面の助言が不可欠だからです。

秘密保持契約や営業秘密の管理については,経済産業省が「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」として営業秘密の保護に関する情報を,またNDAのひな形(参考例)を公表しており,契約実務の参考にできます。こうした公的資料も踏まえると,専門家への相談を例外として明示しておくことは,NDA実務の一般的な取扱いといえます。

第5 司法修習生等による傍聴・記録の閲覧謄写

1 実務修習中の司法修習生の傍聴・記録閲覧

訴訟を提起すると,守秘義務の意義を理解している実務修習中の司法修習生が,法曹養成の一環として審理を傍聴したり,事件記録を閲覧したりすることがあります。これは司法修習の仕組みに基づくもので,依頼した弁護士の側で司法修習生の傍聴や記録閲覧を断ることはできません。

2 記録の閲覧謄写と依頼者の同意

依頼した弁護士は,将来の法律家の育成に協力するため,受任事件の記録について,依頼者の明示の同意を得なくても,実務修習中の司法修習生や,エクスターンシップ制度で受け入れた法科大学院生に閲覧・謄写(コピー)をさせることがあります。現在又は将来にわたって司法修習生等に記録を見せてほしくない場合は,あらかじめ依頼した弁護士にその旨を伝えておくとよいでしょう。

もっとも,記録に触れる修習生等が野放しになるわけではありません。弁護士職務基本規程19条は,弁護士は,事務職員,司法修習生その他の自らの職務に関与させた者が,その業務に関し違法・不当な行為に及んだり,法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし・利用したりすることのないよう,指導及び監督をしなければならないと定めています。修習生等の守秘は,指導する弁護士の監督義務によっても担保されています。

3 司法修習生と研修医の違い

司法修習生は,医師の臨床研修(医師法16条の2以下参照。2年以上の研修が必要です)を受ける研修医になぞらえて説明されることがあります。もっとも,両者には法的地位の違いがあります。

研修医は,医師国家試験に合格し医籍に登録されて厚生労働大臣の免許を受けた医師であり,医業を業として行う資格を持ちます(医師法17条)。そして最高裁は,臨床研修として指導医の指導の下で医療行為等に従事する研修医は,病院の開設者の指揮監督の下でこれを行ったと評価できる限り,労働基準法9条及び最低賃金法2条にいう労働者に当たると判断しました(最高裁平成17年6月3日判決・民集59巻5号938頁。関西医科大学研修医事件)。これに対し,司法修習生には研修医のような職務権限はなく,労働者としての位置づけもされていません。

第6 第三者に見せない方がよい文書

1 相手方の秘密・プライバシーへの配慮

弁護士職務基本規程18条は,弁護士は,事件記録を保管し,又は廃棄するに際して,秘密及びプライバシーに関する情報が漏れないよう注意しなければならないと定めています。ここでいう秘密・プライバシーには,依頼者のものが含まれるのはもちろん,前記第1のとおり,一定の限度で相手方のものも含まれます。

そのため,事件の報告として弁護士から送られてきた控え書類のうち,相手方の秘密やプライバシーが記載された文書を,事件と関係のない第三者に見せたりコピーを渡したりすることは避けた方がよいといえます。特に,コピーを第三者に渡すと,その人を通じてさらに別の人へ広がるおそれがあります。弁護士の側でも,相手方のプライバシーを依頼者に対して秘密にする必要がある場合には,相手方の住所などの連絡先(刑事事件については刑事訴訟法299条参照)を伏せた上で控え書類を渡すことがあります。

また,大阪弁護士会による照会(弁護士法23条の2)で取得した回答書などは,大阪弁護士会との関係で目的外の使用が禁じられており,内容によっては依頼者にコピーを渡せないことがあります(大阪弁護士会弁護士法第二十三条の二に基づく照会手続規則8条)。弁護士からの控え書類で初めて連絡先を知った事件関係者に,弁護士に無断で連絡を取ることも控えた方がよいでしょう。

なお,プライバシー侵害による損害賠償については,最高裁は,不快感等を超える損害の発生についての主張・立証がされていないということのみを理由に請求を否定することはできないと判断しています(最高裁平成29年10月23日判決・判時2367号3頁。個人情報の漏えいが問題となった事案で,原判決を破棄し差し戻したもの)。第三者への情報の拡散は,損害賠償の問題にも発展し得ます。

2 検察官開示記録の取扱い

依頼者について刑事事件が続いている場合,依頼した弁護士は,検察庁で,その事件に関する検察官の裁判所提出予定書類のコピー(検察官開示記録)を取り寄せることができます(刑事訴訟法299条1項,刑事訴訟規則178条の6第1項1号)。この記録は取扱いに厳しい制約があります。

検察官開示記録を,刑事裁判やその準備などの目的以外の目的で,人に交付し,提示し,又はインターネット上に提供することは禁止されており(刑事訴訟法281条の4),これに違反した場合には「一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金」に処せられることがあります(刑事訴訟法281条の5第1項)。この罰則も,かつては「一年以下の懲役」でしたが,令和7年6月1日施行の改正により現在は「拘禁刑」となっています。弁護士自身も,検察官開示記録を適正に管理し,その保管をみだりに他人にゆだねてはならないとされています(刑事訴訟法281条の3)。

刑事事件で裁判所に提出された書類については,弁護人であれば公訴提起後に閲覧・謄写ができ(刑事訴訟法40条),犯罪被害者等であれば第1回公判期日後に閲覧・謄写ができ(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律3条),一定の理由があれば判決確定後に閲覧・謄写ができる場合があります(刑事訴訟法53条,刑事確定訴訟記録法)。

これに対し,裁判所に提出されなかった書類は,弁護人・被告人以外の者が閲覧・謄写をすることがまずできず,秘密性が一段と高くなります。そのため,弁護人が証拠とすることに同意しなかった書類や,検察官が任意で記録開示に応じた書類など,裁判所に提出されなかった書類については,依頼した弁護士に無断で第三者に交付することは避けるべきです。なお,検察官開示記録をそのまま民事訴訟等に利用することは刑事訴訟法281条の4に違反するとの見解もあり,取扱いには注意が必要です。

出典

法令

  • 弁護士法1条・23条・23条の2(e-Gov法令検索)
  • 刑法134条1項(e-Gov法令検索。令和7年6月1日施行の拘禁刑への一本化を反映)
  • 民事訴訟法197条・220条(e-Gov法令検索)
  • 刑事訴訟法40条・53条・105条・149条・222条・281条の3〜281条の5・299条(e-Gov法令検索)
  • 刑事訴訟規則178条の6(e-Gov法令検索)
  • 犯罪捜査のための通信傍受に関する法律2条・3条・16条(e-Gov法令検索)
  • 議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律4条(e-Gov法令検索)
  • 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律3条(e-Gov法令検索)
  • 医師法16条の2・17条,労働基準法9条,最低賃金法2条(e-Gov法令検索)
  • 日本国憲法62条,衆議院規則85条の2,参議院規則186条
  • 弁護士職務基本規程18条・19条・23条・56条(日本弁護士連合会)

裁判例

  • 最高裁平成24年2月13日決定・刑集66巻4号405頁(秘密漏示) 裁判所ウェブサイト
  • 最高裁平成16年11月26日決定・民集58巻8号2393頁(文書提出命令) 裁判所ウェブサイト
  • 最高裁平成17年6月3日判決・民集59巻5号938頁(関西医科大学研修医事件・研修医の労働者性)
  • 最高裁平成29年10月23日判決・判時2367号3頁(個人情報漏えいとプライバシー侵害の損害) 裁判所ウェブサイト

文献・ウェブ資料

  • 日本弁護士連合会調査室編著「条解弁護士法」(第5版・弘文堂・2019年)
  • 日本弁護士連合会「解説弁護士職務基本規程」(第3版・2017年)
  • 経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」及び秘密保持契約書のひな形(参考例)