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公正証書の閲覧・謄本を請求できる「利害関係人」の判断基準と異議申立て(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 検討の対象と時点

公証人法は,公正証書の原本の閲覧及び謄本の交付を請求できる者を,嘱託人,その承継人及び利害関係を有する第三者に限っている。相続人や受遺者であれば当然に請求できると考えられがちであるが,条文上の請求権者は「利害関係を有する第三者」という抽象的な文言で定められているにとどまり,どのような事情があれば該当するかは,公表された法令の条文だけからは分からない。本記事では,情報公開請求により法務省から開示を受けた行政先例(民事局長回答及び通達)に基づいて,この該当性がどのように判断されてきたかを生成AIを用いて整理し,あわせて,閲覧又は謄本の交付を公証人から拒否された場合に,公証人法78条に基づいて法務局長,地方法務局長及び法務大臣に対してすることができる異議申立ての制度を説明する。

本記事は,令和8年8月9日現在の公証人法に基づいて検討する。公証人法は,令和5年法律第53号による改正(令和7年10月1日施行)により条番号が改められており,公正証書原本の閲覧は現行42条,謄本等の交付は現行43条にそれぞれ定められている。改正前は,閲覧が44条,謄本の交付が51条であった。本記事が引用する行政先例は改正前の条番号が付された時期に発せられたものであるが,その判断の実質は現行42条及び43条の「利害関係を有する第三者」の解釈として引き継がれている。他方,法務局長,地方法務局長及び法務大臣への異議申立てを定める78条は,今回の改正の対象になっておらず,条番号及び文言のいずれも変わっていない。

公正証書の原本,正本及び謄本の違いや,令和7年10月1日の電子化後にそれぞれを請求できる者の対応関係については,「公正証書遺言の原本,正本等及び謄本等―電子化後の違いと請求できる人」で整理した。遺言公正証書の保存期間,全国の公証役場を対象とする遺言検索システムの具体的な利用方法及び謄本の郵送請求については,「公正証書遺言の保存期間及び検索方法-必要書類,謄本請求及び手数料」で整理した。本記事は,これらと重複する範囲を避け,請求権者としての「利害関係を有する第三者」に該当するかどうかの判断基準と,請求を拒否された場合の異議申立ての制度という2点に絞って検討する。

第2 「利害関係を有する第三者」の意義

1 条文の文言と趣旨

公証人法42条1項は,嘱託人,その承継人又は利害関係を有する第三者が,公証人に対し,当該公証人の保存する公正証書又はその附属書類の閲覧を請求することができると定める。同法43条1項は,同じ主体に謄本又は抄本の交付等を認める。承継人は承継の事実を,利害関係を有する第三者は利害関係を有することを,それぞれ書面又は電磁的記録によって証する必要がある。閲覧については42条3項及び4項が,謄本等については43条2項が準用する42条3項から5項までが,それぞれこの点を定めている。これに対し,正本の交付を請求できるのは嘱託人又はその承継人に限られる(44条1項)。同条2項が準用する範囲には42条4項が含まれておらず,正本については,利害関係を有する第三者による請求そのものが制度上想定されていない。

改正前の44条1項は,文語体で「嘱託人,其ノ承継人又ハ証書ノ趣旨ニ付法律上利害ノ関係ヲ有スルコトヲ証明シタル者ハ証書ノ原本ノ閲覧ヲ請求スルコトヲ得」と定めていた。現行42条の「利害関係を有する第三者」という平易な表現は,この改正前の文言を口語化したものであり,実質的な内容は変わっていない。日本公証人連合会編『新訂公証人法』は,公証人法4条が公証人の事件漏泄禁止の原則を定めている一方で,42条1項が法律上の利害関係人に対して証書原本の開示を認めているのはその例外であり,このような閲覧請求権が認められているのは,公正証書に私署証書とは異なる強い証拠力及び執行力が与えられていることによると説明する。すなわち,単に事実上又は経済上の利害があるというだけでは足りず,証書の趣旨について法律上の利害関係を有することが必要である。

2 行政先例にみる該当性の判断(昭和36年民事局長回答)

もっとも,どのような場合に法律上の利害関係が認められるかについて,条文自体は一般的な基準を示していない。この点を正面から扱った先例として,昭和36年5月8日民事甲1107号法務省民事局長回答がある。同回答は,横浜地方法務局長からの照会に対する回答であり,遺産分割事件の処理に関連して,横浜家庭裁判所長から寄せられた4つの質問について,次のとおり判断した。第一に,改正前44条1項による閲覧の請求は,嘱託人の相続人の一人からもすることができる。第二に,同項にいう承継人には,遺産分割前の相続財産管理人も含まれる。第三に,同項にいう利害関係人に該当するかどうかは,個別的な事例ごとに判断すべきである。第四に,家庭裁判所は,家事審判規則8条に基づいて,公正証書の謄本の取り寄せ,閲覧又は謄写をすることはできない。

この回答のうち実務上とりわけ重要なのは,第三の判断である。照会元の横浜地方法務局長は,「証書により判明する範囲内において財産上,身分上の利害の関係を有する者」という定義を示した上で照会したが,法務省民事局はこの定義をそのまま是認せず,具体的な事例について個別に検討すべきであるとするにとどめた。利害関係人の範囲について包括的な定義を示すことを避け,事案ごとの判断に委ねる姿勢は,この回答以降の先例にも引き継がれている。また,第四の判断は,家庭裁判所という機関自体は,たとえ遺産分割事件を処理するために公正証書の内容を確認する必要があっても,公証人法上の請求権者には当たらないことを示している。

3 行政先例にみる該当性の判断(昭和39年民事局長回答)

利害関係人に該当しないと判断された事例として,昭和39年9月5日民事甲2920号法務省民事局長回答がある。同回答は,静岡地方法務局長からの照会に対するものであり,税務署職員が,第三者に対する租税債権の存在を証明した上で公正証書原本の閲覧を請求してきた場合について,改正前44条1項にいう「証書ノ趣旨ニ付法律上利害ノ関係ヲ有スルコトヲ証明シタル者」には該当せず,閲覧を許すべきではないと判断した。この事案における税務署職員は,公正証書の当事者ではなく,その当事者の一方に対して租税債権を有するにすぎない第三者の立場にあった。したがって,この回答は,公正証書に記載された法律行為の当事者そのものではない者が,別の法律関係に基づく債権者であるという事情だけを理由に閲覧を求めても,当然には法律上の利害関係を基礎づけないことを示している。

第3 遺言公正証書における利害関係人の特則

1 遺言者の生存中は利害関係人が存在しないこと

遺言公正証書については,通常の公正証書とは異なる考慮が必要になる。民法985条1項は,遺言は遺言者の死亡の時からその効力を生ずると定めている。相続人となるべき者や受遺者となるべき者であっても,遺言者の生存中は,その地位はいまだ確定した権利義務として発生していない。そのため,遺言者が生存している間は,遺言者本人以外の者について,遺言公正証書の閲覧又は謄本の交付を基礎づける法律上の利害関係は生じないと解されている。遺言者の死亡後は,相続人,受遺者,遺言執行者その他の者が,それぞれの承継又は利害関係を示す資料を提出して,公証人法42条又は43条に基づく請求をすることができる。

2 法定後見人からの請求も制限されること

遺言者が生存中に判断能力を欠く状態となり,法定後見人が選任された場合であっても,この制限は変わらない。この点を扱った先例として,昭和63年12月2日民一6767号法務省民事局長通達がある。同通達に至る経緯は次のとおりである。当時,禁治産の宣告を受けた遺言者が正常な判断能力を有していた時期に作成した公正証書遺言について,その法定後見人である妻から謄本の交付請求があったところ,作成を担当した公証人は,法定後見人の代理権が禁治産者の療養看護及び財産管理に限られ遺言には及ばないことなどを理由に応じるべきでないと考える一方で,遺言証書の作成自体には一身専属性が認められるとしても,作成済みの証書の謄本を求めることにまで一身専属性が及ぶとは考え難く,法定代理人からの請求は本人と同じ資格での請求として認めざるを得ないという見解もあり得るとして,所属する地方法務局に照会した。照会を受けた地方法務局は,後者の見解,すなわち謄本の交付に応ずべきであるという見解を相当と考え,法務省に照会した。

これに対し,法務省民事局長は,地方法務局が示した見解を採らず,禁治産者がした公正証書遺言につき,その後見人からの謄本の交付請求があった場合は応じることができないと結論付けた。日本公証人連合会編『新訂公証人法』は,この先例について,法定後見人も閲覧が制限されるものとされていると説明した上で,遺言公正証書作成後に後見開始の審判を受けた者の成年後見人であっても,謄本の交付を受けることができないとされていると述べており,禁治産及び法定後見人という改正前の用語で示された先例を,現行の成年後見制度における成年被後見人及び成年後見人の関係にもそのまま当てはまるものとして扱っている。この特則は,遺言者が生存している間に限られるものであり,遺言者の死亡後は,元の法定後見人であった者も,相続人その他の資格に基づいて,通常の利害関係人としての請求をすることができる。

第4 閲覧・謄本の交付を拒否された場合の異議申立て

1 法務局長・地方法務局長への異議申出

公証人が閲覧又は謄本の交付の請求を拒否した場合,請求者は,公証人法78条1項に基づいて,公証人の事務取扱いに対する異議を,当該公証人が所属する法務局又は地方法務局の長に申し出ることができる。同項の異議を申し出ることができるのは,嘱託人又は利害関係人である。日本公証人連合会編『新訂公証人法』は,この異議申出の制度について,嘱託人自身のほか,その承継人も異議の申出ができるとした上で,異議の事由としては種々あり得るが,嘱託拒否,手数料の算定,原本閲覧拒否,正本又は謄本の交付拒否に対するものなどが考えられると説明している。したがって,公証人から閲覧又は謄本の交付を拒否された者が,自らを利害関係人に当たると考えるにもかかわらず請求が認められない場合には,この異議申出によって法務局長等の判断を求めることができる。

2 法務大臣へのさらなる異議申出及び異議申立ての限界

法務局長又は地方法務局長がした異議についての処分に対してなお不服がある者は,公証人法78条2項に基づいて,法務大臣に対してさらに異議を申し出ることができる。公証人法施行規則84条は,法務局長又は地方法務局長が78条1項の異議について処分をしたときは,速やかにその事情を具して法務大臣に報告しなければならないと定めており,法務局長等の判断は法務大臣による事後の把握の対象となる。

もっとも,この異議申出という方法による是正には限界がある。『新訂公証人法』は,異議が認められれば公証人に監督官からしかるべき命令がされ,それに沿って是正した事務処理がされることになるとしつつ,この方法によって公証人の事務の取扱いが是正されることには限界があり,例えば,完成した公正証書の取消しというようなことは,仮に代理人の委任状が偽造であったとしても不可能であって,別途民事訴訟によるほかないと説明している。閲覧又は謄本の交付を求める場面についても,異議申出はあくまで公証人に対する監督上の是正を求める手続であって,公正証書そのものの効力を争う手続ではない。裁判所ウェブサイトの裁判例検索では,利害関係人該当性又は公証人法78条の異議申立てそのものを正面から扱った裁判例は見当たらず,この分野は,行政先例に基づく公証人及び法務局長等の運用によって処理される実務が中心になっているとみられる。利害関係人に該当するかどうかの判断は事案ごとの事情によって異なるため,具体的な請求の可否については,請求先の公証役場又は所属する法務局に個別に確認する必要がある。

第5 関連記事

公正証書の原本,正本及び謄本の対応関係並びに令和7年10月1日の電子化後の違いについては,「公正証書遺言の原本,正本等及び謄本等―電子化後の違いと請求できる人」を参照されたい。遺言公正証書の保存期間,全国検索の対象範囲,必要書類及び謄本の郵送請求の具体的な手順については,「公正証書遺言の保存期間及び検索方法-必要書類,謄本請求及び手数料」を参照されたい。作成を担当した公証人と連絡が取れなくなった場合に,訴訟における主張立証の観点から資料をどのように取得するかについては,「公正証書遺言を作成した公証人と連絡が取れない場合の方式遵守の立証方法」を参照されたい。令和7年10月1日施行の公証人法改正に伴う手数料の変更については,「令和7年10月1日施行の公証人手数料令改正――公正証書作成手数料の新旧対照,引下げ項目及び経過措置」を参照されたい。

出典・参考資料

1 法令・通達

公証人法(明治41年法律第53号)42条,43条,44条及び78条(e-Gov法令検索)
公証人法施行規則(昭和24年法務府令第9号)84条(e-Gov法令検索)
民法(明治29年法律第89号)985条1項(e-Gov法令検索)
④昭和36年5月8日民事甲1107号法務省民事局長回答(法務省民事局『公証人法関係 解説・先例集〔三訂版〕先例編』平成18年3月,809頁~810頁。山中弁護士が情報公開請求により法務省から開示を受けた行政文書による)
⑤昭和39年9月5日民事甲2920号法務省民事局長回答(同811頁。同上)
⑥昭和63年12月2日民一6767号法務省民事局長通達(同818頁~819頁。同上)

2 文献

①日本公証人連合会編『新訂公証人法』ぎょうせい,2011年,14頁及び115頁~118頁