公正証書遺言の原本は公証人側で保存されるため,遺言者の手元に正本又は謄本が見当たらなくても,原本まで失われたことを意味しない。
遺言者の死亡後は,公証役場の遺言検索によって公正証書遺言の有無と保管公証役場を調べ,必要に応じて保管公証役場から謄本等を取得することができる。
この記事では,公正証書遺言の保存期間,検索対象,申出をすることができる者,必要書類,謄本の郵送請求及び現行手数料を説明する。
第1 公正証書遺言の保存期間
1 法令上の原則は20年であること
公証人法施行規則70条1項1号は,公正証書,公正証書原簿その他同号所定の情報又は書類の保存期間を20年と定めている。
遺言公正証書の情報又は書類については,同条2項により,原則として当該年度の翌年から保存期間を起算する。
もっとも,同条3項は,保存期間満了後も,特別の事由により保存の必要があるときは,その事由のある間保存しなければならないと定めている。
2 遺言公正証書は長期間保存されること
日本公証人連合会は,遺言公正証書を公証人法施行規則70条3項の「特別の事由」に該当するものとして扱っている。
そのため,遺言公正証書は,遺言者の死亡後50年,証書作成後140年又は遺言者の生後170年間保存する取扱いである(日本公証人連合会「公正証書遺言は,どのくらいの期間,保存されるのですか?」)。
したがって,公正証書一般について定められた20年が経過しただけで,遺言公正証書が当然に廃棄されたと判断することはできない。
3 原本の二重保存及び電子原本の保存
日本公証人連合会は,東日本大震災を踏まえ,遺言公正証書の原本,正本及び謄本が全て滅失する事態に備えて,原本を電磁的記録化し,原本とは別に保存する二重保存を導入した。
この取扱いは平成25年7月1日に東京,横浜,大阪及び名古屋市内で始まり,平成26年4月1日から全国で実施された(日本公証人連合会「安心・安全のため遺言公正証書の原本を二重に保存します!!」)。
また,令和7年10月1日以後に指定公証人が作成する公正証書は,電磁的記録で作成することが困難な場合を除き,原則としてPDF形式の電磁的記録が原本となる。
電子原本は,日本公証人連合会が運営するシステムのうち当該公証人が管理する領域に保存される(日本公証人連合会「公正証書のデジタル化とはどういうものですか?」)。
第2 公正証書遺言を検索できる範囲
1 昭和64年1月1日以後の遺言公正証書が対象であること
日本公証人連合会は,昭和64年1月1日以後に作成された遺言公正証書について,遺言者の氏名,生年月日,作成年月日等をデータベース化している(日本公証人連合会「サイトのご利用にあたって」)。
同会の遺言Q&Aでは,この対象期間を「平成元年以降」と表現している(日本公証人連合会「亡くなった方について,公正証書遺言が作成されているかどうかを調べることができますか?」)。
昭和64年1月1日より前に作成された遺言公正証書は全国検索の対象ではないため,作成時期又は作成公証役場に心当たりがある場合には,当該公証役場へ個別に確認する必要がある。
2 検索で判明する事項と判明しない事項
データベースには,作成公証役場名,公証人名,遺言者の氏名,生年月日及び作成年月日等が登録されている。
検索結果により,遺言公正証書の有無及び保管公証役場を確認することができる。
全国のどの公証役場で作成された遺言公正証書であっても,最寄りの公証役場から検索の申出をすることができる。
もっとも,検索だけでは遺言の内容は判明しないため,内容を確認するには,検索で判明した保管公証役場に謄本等を別途請求する必要がある。
3 検索を申し出ることができる者,申出先及び費用
遺言者の生存中は,遺言者本人だけが検索を申し出ることができる。
遺言者の死亡後は,相続人,受遺者,遺言執行者その他の利害関係人が検索を申し出ることができる。
遺言検索は最寄りの公証役場に申し出ることができ,検索の申出自体は無料である。
第3 遺言検索の必要書類
1 相続人本人が申し出る場合
相続人本人が遺言者の死亡後に検索を申し出る場合は,次の資料を準備する必要がある。
① 遺言者が死亡した事実を証明する除籍謄本等
② 申出人が遺言者の相続人であることを証明する戸籍謄本等
③ 申出人のマイナンバーカード,運転免許証等の顔写真付き公的身分証明書
顔写真付き公的身分証明書に代えて,実印及び発行後3か月以内の印鑑登録証明書を使用することもできる。
戸籍の範囲は相続関係によって異なるため,来所前に公証役場へ連絡し,手元の戸籍で足りるかを確認するのが安全である。
2 相続人以外又は代理人が申し出る場合
受遺者,遺言執行者その他の利害関係人は,遺言者の死亡及び本人確認の資料に加え,自己の利害関係を示す資料を求められる。
代理人による申出では,委任状,委任者の印鑑登録証明書その他の資料が必要となる場合がある。
利害関係及び代理権をどの資料で証明するかは事案によって異なるため,申出先の公証役場へ事前に確認する必要がある。
第4 検索後の謄本請求
1 検索と謄本請求は別の手続であること
遺言検索は,遺言公正証書の有無と保管公証役場を確認する手続であり,遺言の内容を開示する手続ではない。
遺言の内容を確認するには,検索結果に示された保管公証役場へ,公正証書遺言の謄本等の交付を請求する必要がある。
遺言検索が無料であっても,謄本等の交付には手数料がかかる。
2 謄本は郵送でも請求できること
遺言公正証書の謄本は,保管公証役場に出向かなくても郵送で請求することができる(日本公証人連合会「遺言公正証書の謄本の請求は,遺言書を保管している公証役場に出向く必要がありますか?」)。
郵送請求では,謄本請求書,遺言者の死亡を証明する書類,相続関係を証明する戸籍謄本及び請求者の本人確認資料等が必要である。
顔写真付き公的身分証明書を本人確認資料とする場合には,補充的にテレビ電話による本人確認が行われる。
請求書の様式,必要通数,交付形式,送付方法及び費用の納付方法は,郵送前に保管公証役場へ確認する必要がある。
3 令和7年10月1日以後の交付手数料
日本公証人連合会の公証人手数料表によれば,公正証書に関する書面の交付手数料は1枚につき300円である。
公正証書に関する電磁的記録の提供手数料は,1件につき2500円である。
これらは令和7年10月1日に施行された手数料であり,郵送に要する実費その他の取扱いは保管公証役場への確認を要する。
4 検認の要否と検索制度の限界
公正証書による遺言には家庭裁判所の検認手続が適用されない(民法1004条2項,裁判所「遺言書の検認」)。
もっとも,遺言検索及び謄本交付は,遺言の有効性,複数の遺言がある場合の優先関係又は個別の相続手続に使用できる証明情報の形式を判断する手続ではない。
複数の遺言が判明した場合又は遺言の有効性に争いがある場合には,各遺言の作成年月日及び内容を確認した上で,別途の法的検討を要する。
第5 関連記事
公正証書遺言の原本と証明情報では,電子原本と,従来の正本又は謄本に相当する証明情報との違いを説明している。
公正証書遺言の口授では,公正証書遺言の作成時に必要となる口授の内容を説明している。
第6 出典
1 法令
2 文献
① 東京弁護士会弁護士業務改革委員会遺言相続法律支援プロジェクトチーム編『ケーススタディ 遺言・相続の法律実務』ぎょうせい,2022年,17頁
② 田村洋三・小圷眞史編著『第3版 実務相続関係訴訟―遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル』日本加除出版,2020年,426頁~427頁
③ 森公任・森元みのり『弁護士のための遺産相続実務のポイント』日本加除出版,2019年,32頁
④ 奈良恒則ほか『3訂版 相続相談標準ハンドブック』日本法令,2024年,60頁
3 ウェブ資料
① 日本公証人連合会「亡くなった方について,公正証書遺言が作成されているかどうかを調べることができますか?」
② 日本公証人連合会「遺言公正証書の謄本の請求は,遺言書を保管している公証役場に出向く必要がありますか?」
③ 日本公証人連合会「公正証書遺言は,どのくらいの期間,保存されるのですか?」
④ 日本公証人連合会「公正証書のデジタル化とはどういうものですか?」