第1 この記事が扱う対象
1 距骨下関節固定術という手術
距骨下関節は,距骨と踵骨との間にある関節であり,足を内側へ向ける内がえしと外側へ向ける外がえしの運動を主に担っている。踵骨の関節内骨折や距骨骨折の後には,関節面の不整合から外傷性の距骨下関節症が生じ,保存的な治療で疼痛が取れない場合に,距骨と踵骨とをスクリュー等で固定して関節としての動きを失わせる距骨下関節固定術(subtalar arthrodesis)が行われる。踵骨骨折の観血的整復固定術と同時に行う一次固定と,骨癒合後に疼痛が残存した段階で行う二次固定とがあり,いずれも骨癒合率は9割を超えるものの,深部の手術部位感染が6%から8%程度に生じ,抜釘を要する例も15%程度に及ぶと報告されている。
本記事は,この距骨下関節固定術を受けた被害者について,自動車損害賠償保障法施行令別表第二又は労働者災害補償保険法施行規則別表第一の後遺障害等級をどのように当てはめるかを扱う。関節を一つ固定したのだから足関節の用を廃したものとして第8級7号に当たるのではないか,という直感的な理解は,後述するとおり認定基準の構造上採用されていない。この乖離を出発点として,実際に取り得る構成と,そのために必要な資料を整理する。本記事の内容は生成AIを用いて作成した一般的な情報提供であり,個別の事案に対する法的助言ではない。
2 射程と時点
等級の文言は,令和8年8月8日時点でe-Gov法令検索により確認した自動車損害賠償保障法施行令別表第二及び労働者災害補償保険法施行規則別表第一による。認定基準は,平成16年7月1日以後に支給事由が生じたものに適用される平成16年6月4日基発第0604003号「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」及びその別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」による。自賠責保険がこの労災の基準に準拠する根拠は,平成13年金融庁・国土交通省告示第1号(自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準)第3が,等級の認定は原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う旨を定めていることにある。
なお,距骨骨折そのものの等級認定,踵骨骨折そのものの等級認定,足関節の可動域制限による第12級7号の一般的な枠組みについては,それぞれ別の記事で扱っている。本記事は,これらと重複する説明を避け,距骨下関節を固定したという事実が等級の当てはめにどのような固有の問題を生じさせるかに絞る。
第2 距骨下関節は等級表にいう「三大関節」ではない
1 下肢の機能障害は三段階しかない
自動車損害賠償保障法施行令別表第二は,下肢の関節の機能障害について,第8級7号「一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの」,第10級11号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」,第12級7号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」の三段階だけを定めている。労働者災害補償保険法施行規則別表第一も同じ三段階であるが,第10級については同表に「五 削除」があるため号がずれ,第10級10号となる。神経症状の号数も,自賠責が第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」であるのに対し,労災は第12級12号「局部にがん固な神経症状を残すもの」であって,表記まで異なる。
認定基準は,「下肢の用を全廃したもの」を「3大関節(股関節,ひざ関節及び足関節)のすべてが強直したもの」と定義している。ここに距骨下関節は含まれていない。すなわち,第8級7号の「用を廃した」という文言は,股関節,膝関節及び足関節についてのみ用意されたものであり,これらに含まれない関節を固定しても,文言の上でこの号に当たる余地はない。
2 認定基準が距骨下関節を評価対象から外している三つの規定
認定基準の別添は,関節の機能障害を評価するに当たり,まず部位ごとに主要運動と参考運動を定める表を置いている。この表に掲げられた部位は,せき柱(頸部),せき柱(胸腰部),肩関節,ひじ関節,手関節,前腕,股関節,ひざ関節,足関節,母指並びに手指及び足指の11部位であり,距骨下関節も足部も掲げられていない。足関節の主要運動は屈曲・伸展のみで,参考運動の欄は空欄である。
次に,同じ別添の「ホ 下肢」の測定表に掲げられた部位は,股,膝及び足の三つだけである。足については,屈曲(底屈)の参考可動域角度45度,伸展(背屈)の参考可動域角度20度,基本軸を腓骨への垂直線,移動軸を第5中足骨とし,膝関節を屈曲位で行うと定められている。内がえし・外がえしも,足部の外転・内転も,この表には存在しない。
そして,別添は「測定要領に定めた主要運動及び参考運動以外の運動については,関節の機能障害の評価の対象としないものであること」と明文で述べている。以上の三つを併せれば,距骨下関節の内がえし・外がえしがどれほど失われても,それ自体を関節可動域制限として等級に反映させる回路は,認定基準の中に用意されていないことになる。距骨下関節固定術を受けたことのみを理由として第12級7号ないし第8級7号を主張しても,認定基準に従う限り認められないという結論は,この条文構造から直接導かれる。
3 認定基準自身が「足関節と踵骨とは別の部位である」と述べていること
認定基準は,併合の例を挙げる箇所で,「踵骨骨折治ゆ後に疼痛を残し(第12級の12),同一下肢の足関節の機能に障害を残す(12級の7)場合は,併合第11級とする」とした上,注として「足関節は,脛骨・腓骨と距骨とにより構成され,一方,踵骨は,距骨との間で距骨下関節を構成し,舟状骨,距骨及び立方骨との間でショパール関節を構成している。このように,足関節と踵骨とは別の部位である」と明記している。
この注は,被害者側にとって二つの意味を持つ。一方では,距骨下関節が足関節と別の部位である以上,距骨下関節の障害を足関節の機能障害として評価することはできないという,前項の結論を裏づける。他方では,別の部位であるからこそ両者を併合することができるのであって,足関節の可動域制限による第12級7号と,踵骨部ないし距骨下関節部の疼痛による第12級13号(労災は第12級12号)とを組み合わせて併合第11級とする構成が,認定基準自身の例示として用意されていることになる。距骨下関節固定術の事案で最も現実的な到達点は,この併合第11級である。
なお,欠損障害の条文には距骨も踵骨も明示されている。「下肢を足関節以上で失ったもの」(第5級3号)には「足関節において,脛骨及び腓骨と距骨とを離断したもの」が,「リスフラン関節以上で失ったもの」(第7級8号)には「足根骨(踵骨,距骨,舟状骨,立方骨及び3個の楔状骨からなる。)において切断したもの」が,それぞれ含まれる。欠損障害では足根骨を名指ししながら,機能障害では三大関節しか掲げないという非対称が,距骨下関節をめぐる制度上の空隙を生んでいると整理することができる。
第3 裁判例
1 踵骨内の人工骨を足関節の人工関節と同視できないとした事例
東京地方裁判所令和3年4月13日判決(令和元年(行ウ)第609号,障害補償給付一時金給付変更決定処分取消請求事件,裁判所HP未掲載)は,三大関節でない部位の障害を三大関節の機能障害として評価できるかを正面から判断した事例である。原告は,ミキサー車後部の踏み台から転落して左踵骨粉砕骨折を負い,粉砕した踵骨の空洞部分に人工骨を埋め込む手術を受けた。労働基準監督署長は,当初,左踵骨部のがん固な疼痛を第12級の12,左踵骨内の人工骨の残存を第10級の10と評価して併合第9級とし,障害補償給付一時金等552万3568円を支給したが,後に人工骨の残存についての評価が誤りであったとして,等級を第12級の12に変更する決定をした。
同判決は,認定基準において三大関節とは股関節,膝関節及び足関節であり,足関節と踵骨は別の部位であるとされていることを確認した上で,人工骨は「粉砕骨折した左踵骨の空洞部分に埋めこまれたものであって左踵骨内にとどまるものである」から「足関節に人工関節及び人工骨頭をそう入置換されているものとは認めることはできない」と判示した。原告は,人工骨が足関節を構成する距骨や腓骨に極めて近接しているという特殊性から,実質的に足関節の障害と同視できる旨を主張したが,同判決は,左足関節の可動域角度が健側の4分の3以下には制限されていない以上,近接していることを理由に第10級の10に該当するというべき根拠は証拠上見当たらないとして,これを採用しなかった。判断枠組みとしても,認定基準は医学的知見等を踏まえた相応の合理性を備えたものであるから,特段の事情のない限り等級の認定は認定基準に従って行うのが相当であるとしている。
この判示は人工骨に関するものであるが,「踵骨の内部にとどまる医療的処置は足関節に対する処置ではない」という論理は,「距骨下関節の固定は足関節の強直ではない」という命題とそのまま重なる。距骨下関節固定術を第8級7号と構成する主張は,この判決の射程によって否定されると考えられる。なお,同判決は,授益的な行政処分の職権取消しについても,労災保険の財源が事業主から徴収される保険料であること等を踏まえ,過誤払を維持することは公益に著しく反するとして,変更決定を適法とし,原告の請求を棄却している。
2 距踵関節の不整合を疼痛としてのみ評価した事例
横浜地方裁判所平成4年9月24日判決(平成元年(行ウ)第18号,労働災害障害補償給付支給の処分取消請求事件,労働判例621号51頁,裁判所HP未掲載)は,港湾荷役作業中の左踵骨骨折の事案である。同判決は,原告の疼痛について,受傷により踵骨が内側に湾曲して距踵関節の不整合が生じたことに起因し,これに左変形性距踵関節症,腓骨筋腱腱鞘炎及び左扁平足障害が重なって生じたものであり,疲れたとき,寒い日や雨の日,長く歩いた後,階段を降りた後などに特に強く痛みを感じると認定した上で,これを第12級の12に当たるとした。
足関節の運動機能障害については,測定値の採否が結論を決めた。裁判所が採用した値は,右足が背屈15度・底屈50度の合計65度であるのに対し,左足が背屈12度ないし15度・底屈40度の合計52度ないし55度というものであり,健側比は約8割で4分の3以下に達しない。これに対し,原告側の医師が作成した書証には,右足が背屈16度・底屈63度の合計79度,左足が背屈3度・底屈50度の合計53度との記載があり,この数値であれば健側比は約67%となって第12級7号の要件を満たすことになるが,同判決は「この測定結果は,他の各医師の測定結果や右認定の原告の症状に照らして採用し難い」としてこれを排斥した。結論として,足関節の運動機能障害は第10級の10にも第12級の7にも当たらず,障害等級表のいずれにも該当しないとされ,原告の請求は棄却された。
同判決は,等級の当てはめについて一般論も述べている。すなわち,関節の機能障害や疼痛のように評価判断を含むものを一義的に当てはめられるように定めるのは困難であり,「一四〇種程度の分類をもってあらゆる身体障害を漏れなく定めることも不可能である」から,「結局は,当該障害と障害等級表の各等級に定められた他の障害の程度と比較して相当と認められる等級を判断するほかない」というものである。もっとも同判決は,この一般論を述べた上で,認定基準の定めには合理性があるとして,これに従った処分を相当としている。相当等級の考え方が開かれていることと,個別事案でそれが認められることとは別の問題であることが示されているといえる。
同判決が原告に不利に働かせた事実として,杖をついてゆっくりであれば3500メートル程度は続けて歩けること,受傷後も受傷前と同じ港湾荷役の現場作業に従事していること,ベーラー角の異常も距踵関節の不整合も極めて軽微でエックス線画像ではほとんど判らずCT検査をして初めて発見し得る程度のものであることが挙げられている。
3 踵部の荷重障害を第8級相当とした事例と,足関節可動域制限の吸収
横浜地方裁判所平成27年1月22日判決(平成24年(ワ)第1958号,損害賠償請求事件,裁判所HP未掲載)は,自動二輪車とバスとの交通事故により左踵骨開放骨折等を負った事案について,別の構成を示している。同判決は,左踵部の植皮部に皮下軟部組織欠損,知覚脱失,皮膚の非薄化による易損性・易感染性が生じ,荷重がかかると損傷して出血する上,痛みの感覚もないため本人が気付くことができない状態にあると認定し,左踵部を免荷して保護する硬性補装具を必要とする荷重障害の後遺障害を負ったと認めた。
その上で同判決は,硬性補装具を必要とする下肢の荷重障害は後遺障害等級表に規定する後遺障害には直接該当しないものの,同表備考6が各等級の後遺障害に相当するものを当該等級の後遺障害として取り扱うべきものとしていること,及び下肢の動揺関節については常に硬性補装具を必要とするものを第8級(用を廃したもの)に準ずる機能障害として取り扱うこととされていることを指摘し,原告の荷重障害は常に硬性補装具を必要とする歩行障害をもたらす点で動揺関節の後遺障害と同様といえるから,第8級に相当する機能障害と認められるとした。被告らが,硬性補装具は荷重支持性を補うものではないと争ったのに対しては,労働能力の喪失という観点からは,機能障害として重要なのは関節の安定性・支持性が保たれているかではなく荷重に耐えて歩行し得るかであるとして,これを採用しなかった。
注意を要するのは,この構成を採ると足関節の可動域制限が吸収されることである。同判決は,左足関節の可動域制限について「前記(2)の荷重障害と身体部位及び障害態様を同じくする同一系列の後遺障害である」とし,荷重障害を第8級に準じる機能障害として取り扱う理由を硬性補装具を装着しなければ歩行できないことに求める以上,歩行障害に係る左下肢の後遺障害は評価済みであるとして,足関節の可動域制限のみならず,下肢短縮障害,左下腿開放骨折後の変形障害,左踵部の疼痛・しびれ等の症状も,いずれも歩行障害として評価済みであるとした。結局,同判決が併合第7級とした内訳は,荷重障害(第8級相当)と,歩行障害とは無関係の醜状障害(第12級相当)である。
したがって,認定基準の例示する「足関節の可動域制限と踵骨部の疼痛とを併合して第11級」という構成と,踵部側で荷重障害の第8級相当を取りに行く構成とは,両立しない関係にある。距骨下関節固定術後に免荷用の硬性補装具を要する重篤な事案では後者を,そこまで至らない事案では前者を選ぶという択一の判断が必要になる。
第4 等級の当てはめとして現実に取り得る構成
1 足関節の可動域制限による第12級7号
距骨下関節を固定しても足関節の等級が問題になり得るのは,認定基準の測定方法が,基本軸を腓骨への垂直線,移動軸を第5中足骨としており,距腿関節単独の角度ではなく,下腿に対する足部全体の矢状面の運動を測っているからである。距骨下関節はこの底屈・背屈の運動にも実際に関与しているため,これを固定すれば,臨床的に測定される「足関節」の可動域の合計値は低下する。
もっとも,低下の幅を過大に見積もるべきではない。生体力学の研究では,足関節複合体の矢状面の運動のうち距腿関節が担う割合は約8割,距骨下関節が担う割合は約2割と報告されている。また,距骨下関節を含む後足部の固定術を受けた患者を長期に追跡した研究では,健側と比較して底屈が平均12度(約27%)減少した一方,背屈には有意な減少が認められなかったと報告されている。参考可動域角度は底屈45度と背屈20度の合計65度であるから,健側が65度である事案で底屈が12度失われても患側は53度となり,健側比は約82%にとどまって,第12級7号の要件である4分の3(48・75度)には届かない。
したがって,距骨下関節固定術を受けたことから直ちに第12級7号が導かれるわけではない。この等級に届くのは,距腿関節の側にも器質的な変化がある場合,すなわち距骨骨折後の変形治癒や骨壊死,脛骨遠位端の骨折の合併,外傷性の変形性足関節症の進行を伴う場合である。さらに,足関節には参考運動が定められていないため,主要運動が4分の3をわずかに(原則として5度)上回る場合に参考運動によって救済される仕組みが働かない。足関節は数値一本で決まるため,測定の当否がそのまま等級を左右する。
2 疼痛による第12級13号と併合第11級
距骨下関節固定術の後にも疼痛が残ることは少なくない。距骨下関節及び横足根関節の固定術を平均15年追跡した研究では,最終追跡時に84%の症例に疼痛が存在し,術後12か月時点と比較して疼痛が有意に増加していたと報告されている。骨癒合像,関節症性変化,偽関節等の器質的変化が画像で裏づけられれば第12級13号(労災は第12級12号)を,症状の連続性・一貫性にとどまる場合は第14級9号を検討することになる。
ここで重要なのが,前記第2の3で述べた併合の可否である。同一部位の器質的損傷に伴う疼痛は機能障害に含めて評価されるのが原則であるから,足関節の可動域制限で第12級7号が認められた場合,同じ足関節部の疼痛を別に立てることはできない。しかし距骨下関節は足関節と別の部位であるため,足関節の可動域制限による第12級7号と,距骨下関節部ないし踵骨部の疼痛による第12級13号とは併合することができ,認定基準はこれを併合第11級として例示している。距骨下関節固定術の事案では,疼痛の残存部位が距骨下関節部・踵骨部であることを診断書上明確にしておくことが,この併合を確保する鍵となる。
3 相当等級による構成の限界
自動車損害賠償保障法施行令別表第二の備考は,「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であつて,各等級の後遺障害に相当するものは,当該等級の後遺障害とする」と定めている。前記第3の3の裁判例が下肢の荷重障害を第8級相当としたのは,この規定によるものである。そうすると,距骨下関節の強直それ自体を相当等級として拾う構成も,条文の上では封じられていないことになる。
もっとも,この構成には二つの障害がある。第一に,認定基準が「測定要領に定めた主要運動及び参考運動以外の運動については,関節の機能障害の評価の対象としない」と明文で述べていることが,正面から立ちはだかる。第二に,認定基準は,せき柱の荷重機能障害,下肢の動揺関節,三大関節すべての機能障害というように,準用を認める場面をすべて明示列挙する構造を採っているところ,距骨下関節についてはそのような例示を置いていない。前記第3の1の裁判例が,距骨や腓骨に近接しているという特殊性を理由とする実質的同視論を退けたことも,同じ方向を向いている。
本記事の調査の範囲では,距骨下関節の可動域制限それ自体を相当等級として認めた自賠責の認定例又は裁判例を見出すことができなかった。したがって,この構成を主張すること自体は妨げられないとしても,これを前提として依頼者に見通しを説明することは適当でないと考えられる。実務上は,前記1及び2の構成を主軸に据え,相当等級は補充的な位置付けにとどめるのが穏当である。
第5 可動域測定をめぐる実務上の注意点
1 測定法の版の相違
日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会及び日本足の外科学会は,令和4年4月1日発効で「関節可動域表示ならびに測定法」を改訂した。改訂の主眼は足関節・足部・趾に関する用語であり,従前,内がえし・外がえしを3平面の複合運動,回外・回内を前額面の運動と定義していたのを,国際的な定義に合わせ,外がえし・内がえしを前額面の運動,回外・回内を複合運動と定義し直した。
この改訂により,足関節・足部の背屈0度から20度,底屈0度から45度という参考可動域角度自体は変わらなかったものの,基本軸が「矢状面における腓骨長軸への垂直線」,移動軸が「足底面」と改められた。他方,労災の認定基準の別添は,基本軸を「腓骨への垂直線」,移動軸を「第5中足骨」とする平成7年版のままである。4分の3の基準が48・75度,2分の1の基準が32・5度という僅差の世界では,どちらの測定法によったかが結論を左右し得るので,閾値に近い事案では主治医に測定方法を確認し,必要に応じて再測定を求めることになる。
なお,令和4年改訂版は「足関節・足部」を一つの部位名として掲げており,距骨下関節という部位名は用いていない。改訂版に内がえし・外がえしの参考可動域角度(内がえし0度から30度,外がえし0度から20度)が掲載されていることをもって,労災の等級認定においても距骨下関節が評価対象になったと解することはできない。
2 測定値が複数ある場合の採否
前記第3の2の裁判例が示すとおり,同一の患者について複数の医師が異なる可動域を測定していることは珍しくなく,どの測定値を採るかで等級が動く。同判決は,原告に有利な1通の測定結果を,他の医師の測定結果及び認定した症状との整合を理由に排斥した。逆に,複数回の測定が一貫していること,測定を依頼した経緯に不自然さがないこと,症状の訴えと数値とが整合していることは,測定値の信用性を支える事情となる。
これを踏まえると,実務上は,症状固定時の後遺障害診断書1通に頼るのではなく,通院期間中の診療録に反復して測定値が記録されている状態を作っておくことが望ましい。また,健側についても必ず測定してもらう必要がある。等級の基準となる分母は参考可動域角度65度ではなく健側の実測値であり,健側が65度を上回る事案も現に存在するからである。
第6 立証資料
1 後遺障害診断書
距骨下関節固定術の事案で後遺障害診断書に記載を求めるべき事項は,①足関節の底屈・背屈について患側と健側の双方の他動値及び自動値,②その測定に用いた測定法の版,③距骨下関節の内がえし・外がえしの数値,④骨癒合の有無と時期,関節症性変化の有無,抜釘の要否,⑤「障害内容の増悪・緩解の見通し」欄の記載,⑥上前腸骨棘と下腿内果下端との間で測定した下肢長,である。
このうち③は,前記のとおりそれ自体では等級を生まないが,記載を求める意味がある。固定術が完成していること,及び内がえし・外がえしを要する動作が実際に失われていることを示す資料となり,労働能力喪失率や後遺障害慰謝料の増額を検討する際の基礎になるからである。また,固定材料が疼痛の原因となっている場合には,認定基準が固定材料の除去を待って認定する趣旨を述べていることから,抜釘後に症状固定日を置くことの当否を検討する必要が生じる。
2 画像及び検査
エックス線撮影は,正面像・側面像に加え,踵骨骨折の事案では軸射像及びアントンセン法による撮影が診断上の意味を持ち,ベーラー角(正常値は20度から40度)の減少が骨折及び変形の客観的な裏づけとなる。距骨下関節の癒合の判定については,近時の文献はCT検査による確認を標準的な指標としており,単純エックス線のみでは癒合の評価が困難な場合がある。距骨骨折を合併する事案では,受傷後6週を経過すればMRI検査及び骨シンチグラフィーにより骨壊死の診断が可能とされ,軟骨下骨の骨萎縮像(ホーキンス徴候)が認められれば血行が保たれていると評価される。
前記第3の2の裁判例が,距踵関節の不整合はエックス線画像ではほとんど判らずCT検査によって初めて発見し得る程度のものであったと認定して原告に不利に働かせていることからも,画像の選択と撮影範囲を早い段階で決めておくことの意味が分かる。
3 実生活上の支障
跛行,正座ができないこと,走れないこと,階段が困難であることといった支障は,それ自体では独立の等級を生まず,認定された等級に包括して評価されるのが裁判例の一貫した扱いである。したがってこれらは,等級を引き上げる材料としてではなく,労働能力喪失率,喪失期間及び後遺障害慰謝料の増額事由として主張することになる。
距骨下関節固定術に固有の支障として,記録化しておく価値が高いのは不整地の歩行である。後足部の固定術を受けた患者を追跡した複数の研究において,不整地の歩行に中等度から高度の困難を訴える者が3分の2から7割を超えるという結果が報告されており,健康関連QOLの身体機能スコアも一般人口の平均を大きく下回っている。また,片側の後足部固定術を受けた患者の三次元動作解析では,平地歩行の蹴り出し期に足関節の底屈がほぼ失われ,同じ時期に膝の屈曲角度が増大していること,階段の降段では立脚期を通じて膝屈曲角度が増大し背屈角度が減少していることが報告されている。すなわち,代償の主戦場は足部ではなく膝であり,破綻が現れるのは平地歩行ではなく不整地と階段である。「普通に歩けているから軽い」という評価に対しては,この点を具体的な作業場面に即して記録することが反論の基礎になる。
もっとも,反対方向の報告もある。片側の距骨下関節固定術後の三次元歩行解析において,患側と健側とで矢状面の総運動範囲に差はあるものの,歩行の型は全体として対称的であり,膝及び股関節への機能的影響は小さいと結論した研究がある。また,後足部の固定術と隣接関節の関節症との因果関係については,文献上のコンセンサスが得られておらず,画像所見と症状との相関も確立していないとする系統的レビューがある。主張を組み立てる際には,これらの反対資料が相手方から提出され得ることを前提にしておく必要がある。
4 将来の損害
距骨下関節固定術の癒合率は,報告により90%から96%程度であるから,4%から1割程度は偽関節となる。近時の多施設研究では,60歳以上であることが偽関節の予測因子とされ,年齢及びBMIの上昇が癒合までの期間の延長と独立に関連するとも報告されている。抜釘を要する例が15%程度に及ぶことも既に述べたとおりである。さらに,距骨下関節及び横足根関節の固定術を平均15年追跡した研究では,最終追跡時における隣接関節の続発性関節症の頻度が,距腿関節73%,距舟関節65・8%,踵立方関節53・5%に及んだと報告されており,距腿関節の固定へ拡大する可能性を将来損害として検討する余地がある。
装具についても,将来の買替費用が問題となる。裁判例には,短下肢装具,ロフストランド杖及び足底装具について耐用年数と平均余命までの買換回数を考慮して将来装具費79万3086円を認めたものがある。労災の適用がある事案では,障害補償給付の支給決定を受けた者等に対する義肢等補装具費の支給制度を併せて検討することになる。示談に際しては,症状固定後に関節症が進行した場合の取扱いを留保しておくことが実務上の課題となる。
出典・参考資料
1 法令・告示・通達
①自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)別表第二及び同表備考(e-Gov法令検索)
②労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年労働省令第22号)別表第一(e-Gov法令検索)
③自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3(国土交通省)
④「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」について(平成16年6月4日基発第0604003号)及び別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」(厚生労働省法令等データベースサービス)
2 裁判例
①東京地方裁判所令和3年4月13日判決(令和元年(行ウ)第609号,障害補償給付一時金給付変更決定処分取消請求事件。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文確認)
②横浜地方裁判所平成4年9月24日判決(平成元年(行ウ)第18号,労働災害障害補償給付支給の処分取消請求事件,労働判例621号51頁。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文確認)
③横浜地方裁判所平成27年1月22日判決(平成24年(ワ)第1958号,損害賠償請求事件。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文確認)
3 公的資料
①関節可動域表示ならびに測定法改訂について(2022年4月改訂)(日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会・日本足の外科学会,The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 58巻10号1188頁~1200頁,J-STAGE)
4 文献
①Behling AV, Welte L, Rainbow MJ, Kelly L. “Human in vivo talocrural contributions to ankle joint complex kinematics during walking, running, and hopping.” Heliyon. 2025;11(1):e41301.
②Smith RW, Shen W, Dewitt S, Reischl SF. “Triple arthrodesis in adults with non-paralytic disease. A minimum ten-year follow-up study.” The Journal of Bone and Joint Surgery (American Volume). 2004;86(12):2707頁~2713頁.
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