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労災保険の給付内容―給付の種類,金額及び令和8年改正(AI作成)

第1 この記事の対象と労災保険給付の全体像

1 この記事が扱う範囲

労災保険(労働者災害補償保険)は,業務上の事由,複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に対して保険給付を行う制度である(労災保険法1条)。この記事は,そのうち給付の内容,すなわち,どの給付が,どういう要件で,いくら支払われるのかを,条文,省令,厚生労働大臣告示,行政通達及び裁判例で確認できる範囲に限って整理するものである。作成に当たっては,条文はe-Gov法令検索の現行条文,改正内容は厚生労働省が公表した新旧対照条文,金額は改定の根拠となった厚生労働省の公表資料に当たり,AIによる調査結果を一次資料と照合した上で記載している。

給付の前提となる業務起因性や通勤該当性の判断,特別加入の可否,保険料及びメリット制,損害賠償額の計算における控除の順序,不服申立ての手続については,それぞれ別の記事で扱っているため,この記事では給付内容の理解に必要な限度で触れるにとどめる。業務起因性の具体的な判断については「地震後に私物を取りに職場へ戻った際のガス爆発は労災か」及び「業務による精神障害の労災・公務災害―民間労働者と司法修習生の比較」を,保険関係の成立及び保険料については「労働保険の加入・保険料・労災給付・雇用保険の手続」を参照されたい。

金額は改定が頻繁であるため,この記事では令和8年7月31日時点で施行されている額と,同年8月1日から適用される額とを区別して示す。

2 給付の4系列と3つの名称体系

労災保険法7条1項は,保険給付を,①業務災害に関する保険給付,②複数業務要因災害に関する保険給付,③通勤災害に関する保険給付,④二次健康診断等給付の4種類に分ける。このうち②は,令和2年法律第14号により新設され,同年9月1日から施行されたもので,複数の事業に使用される労働者について,一つの事業の業務だけでは業務災害と認められない場合に,二以上の事業の業務上の負荷を総合的に評価する仕組みである。

給付の名称は,同じ内容の給付であっても,どの災害に係るものかによって3通りに書き分けられる。業務災害に係るものには「補償」の語が入り(療養補償給付,休業補償給付等),複数業務要因災害に係るものには「複数事業労働者」が冠され(複数事業労働者療養給付等),通勤災害に係るものには「補償」が付かない(療養給付,休業給付等)。「補償」の語の有無は単なる呼称の違いではなく,業務災害に関する保険給付が労働基準法75条から77条まで,79条及び80条の災害補償の事由が生じた場合に行われるものとされていること(労災保険法12条の8第2項),すなわち使用者の災害補償責任を国が肩代わりする性質を持つことを反映している。

業務災害複数業務要因災害通勤災害
療養補償給付複数事業労働者療養給付療養給付
休業補償給付複数事業労働者休業給付休業給付
障害補償給付複数事業労働者障害給付障害給付
遺族補償給付複数事業労働者遺族給付遺族給付
葬祭料複数事業労働者葬祭給付葬祭給付
傷病補償年金複数事業労働者傷病年金傷病年金
介護補償給付複数事業労働者介護給付介護給付

複数業務要因災害の対象となる疾病は,労働基準法施行規則別表第1の2第8号(脳・心臓疾患)及び第9号(精神障害)並びにその他二以上の事業の業務を要因とすることの明らかな疾病に限られる(労災保険法施行規則18条の3の6)。したがって,複数業務要因災害の給付は,実際上は過重労働による脳・心臓疾患及び精神障害の事案が中心となる。

第2 給付額の土台となる給付基礎日額

1 原則と複数事業労働者の合算

給付基礎日額は,労働基準法12条の平均賃金に相当する額である(労災保険法8条1項)。平均賃金を算定すべき事由の発生した日は,負傷若しくは死亡の原因である事故が発生した日又は診断によって疾病の発生が確定した日(算定事由発生日)となる。平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められるときは,厚生労働省令で定めるところにより政府が算定する額による(同条2項)。じん肺にかかったことにより保険給付を受けることとなった労働者について,粉じん作業以外の作業に常時従事することとなった日を基準に算定した平均賃金相当額の方が高い場合にその額によるとされているのは,この特例の一つである(労災保険法施行規則9条1項2号)。

複数事業労働者については,事業ごとに算定した給付基礎日額に相当する額を合算した額を基礎として政府が算定する(労災保険法8条3項,同法施行規則9条の2の2)。令和2年改正前は災害が発生した事業場の賃金のみで算定されていたため,副業先の賃金が補償に反映されないという問題があったが,この改正により合算されることとなった。

2 最低保障額と令和8年8月1日からの改定

給付基礎日額には最低保障額があり,労災保険法施行規則9条1項5号は基準額を4,180円と規定しているが,同条2項から4項までにより毎年度自動的に変更され,厚生労働大臣が7月31日までに告示する(自動変更対象額)。令和8年8月1日以降に適用される自動変更対象額は4,350円であり,改定前の4,250円から100円引き上げられた

3 スライド制と年齢階層別の最低・最高限度額

被災時の賃金水準のまま補償を続けると,過去に被災した労働者と近年被災した労働者との間で補償水準に差が生じるため,賃金水準の変動を給付基礎日額に反映させるスライド制が設けられている。休業(補償)等給付については,四半期ごとの平均給与額が算定事由発生日の属する四半期のそれと比べて110パーセントを超え又は90パーセントを下るに至った場合に,その翌々四半期から改定される(労災保険法8条の2第1項2号)。年金たる保険給付については,算定事由発生日の属する年度の翌々年度の8月分以後,年度ごとの平均給与額の比率を基準として厚生労働大臣が定める率により改定される(同法8条の3第1項2号)。厚生労働省によれば,令和8年8月1日以降に適用される年金のスライド率は,現役労働者の平均給与額が上昇していることから改定前と比べて平均で2.33パーセント増のプラス改定となり,令和8年10月支払分から約18万人の労災年金受給者の年金額が変更される。

さらに,年金たる保険給付及び療養開始後1年6か月を経過した後に支給する休業(補償)等給付については,年齢階層別に給付基礎日額の最低限度額及び最高限度額が定められている(労災保険法8条の2第2項,同法8条の3第2項)。これは,賃金水準が一般的に低い若年時に被災した労働者の給付額が生涯据え置かれることによる格差を調整するためのものである。年齢階層は20歳未満から70歳以上までの12階層とされ(同法施行規則9条の3),額は賃金構造基本統計の調査結果に基づいて毎年定められる(同規則9条の4)。

年齢階層最低限度額最高限度額
19歳以下5,682円14,450円
20歳以上25歳未満6,221円14,450円
25歳以上30歳未満6,852円16,486円
30歳以上35歳未満7,146円20,499円
35歳以上40歳未満7,420円22,399円
40歳以上45歳未満7,727円24,827円
45歳以上50歳未満7,833円25,746円
50歳以上55歳未満7,778円26,264円
55歳以上60歳未満7,467円27,053円
60歳以上65歳未満6,509円23,364円
65歳以上70歳未満4,350円17,709円
70歳以上4,350円14,450円

上記は令和8年8月1日から令和9年7月31日までに適用される額であり,改定前と比較して最低限度額及び最高限度額のいずれも全ての年齢階層で増額されている。遺族(補償)等年金について適用される年齢階層は,死亡がなかったものとして計算した場合の当該労働者の基準日における年齢によることに注意を要する(労災保険法8条の3第2項の読替え)。

第3 個別の給付の内容と額

1 療養(補償)等給付

療養(補償)等給付は,現物給付である「療養の給付」を原則とする(労災保険法13条1項)。その範囲は,政府が必要と認めるものに限り,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③処置,手術その他の治療,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護,⑥移送である(同条2項)。労災指定医療機関以外で受診した場合など療養の給付をすることが困難な場合には,療養の費用の支給に代えられる(同条3項)。

自己負担は生じないのが原則であるが,通勤災害の療養給付を受ける労働者からは,200円(健康保険法上の日雇特例被保険者である労働者は100円)を超えない範囲で一部負担金が徴収され,実際の額は200円と定められている(労災保険法31条2項,同法施行規則44条の2第2項)。ただし,第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける者,療養の開始後3日以内に死亡した者その他休業給付を受けない者,同一の通勤災害について既に一部負担金を納付した者は除かれる(同規則44条の2第1項)。この一部負担金は,通勤災害が事業主の支配下で生じたものではないことに由来する制度上の区別であり,業務災害には存在しない。

療養補償給付の支給要件である業務起因性については,基礎疾患を有する労働者の事案でも業務との相当因果関係が肯定されることがある。最三小判平成16年9月7日(集民215号41頁,平成12年(行ヒ)第320号)は,ヘリコバクター・ピロリ菌感染という基礎疾患及び慢性十二指腸かいようの既往症を有する貿易会社の営業員が,4日間の国内出張後に12日間で六つの国と地域を回り休日もなく連日商談,接待等のため長時間の勤務を続けた末に発症したせん孔性十二指腸かいようについて,異例に強い精神的及び肉体的な負担が掛かっていたものと考えられ他に確たる発症因子があったことがうかがわれないなどとして,業務上の疾病に当たると判断した。

2 休業(補償)等給付

休業(補償)等給付は,療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第4日目から支給され,額は1日につき給付基礎日額の100分の60である(労災保険法14条1項)。所定労働時間のうち一部についてのみ労働する日(部分算定日)については,給付基礎日額から当該日に支払われる賃金の額を控除して得た額の100分の60となる。これに休業特別支給金として給付基礎日額の100分の20が加わるため(労働者災害補償保険特別支給金支給規則3条1項),実質的な補償率は100分の80となる。同一の事由により厚生年金保険の障害厚生年金又は国民年金の障害基礎年金を受けることができるときは,政令で定める率を乗じた額に減額される(労災保険法14条2項)。

待期期間の3日間について,業務災害の場合は使用者が労働基準法76条により休業補償を行う義務を負うが,これを受けられない一定の場合には,社会復帰促進等事業として休業補償特別援護金(休業補償給付の3日分に相当する額)が支給される(労災保険法施行規則35条)。刑事施設,労役場その他これらに準ずる施設に拘禁されている場合又は少年院その他これに準ずる施設に収容されている場合には,休業(補償)等給付は行われない(労災保険法14条の2,同法施行規則12条の4)。

支給要件のうち「賃金を受けない」の意義について,最一小判昭和58年10月13日(民集37巻8号1108頁,昭和58年(行ツ)第4号)は,「労働者災害補償保険法一四条一項所定の休業補償給付は,労働者が業務上の傷病による療養のため労働不能の状態にあつて賃金を受けることができない場合であれば,休日,出勤停止の懲戒処分等のため雇用契約上賃金請求権が発生しない日についても,支給される」と判示した。給付の要件が労働契約上の賃金請求権の有無から切り離されていることを示す判断であり,休職期間中や懲戒処分期間中の請求可否を検討する際の出発点となる。

3 傷病(補償)等年金

傷病(補償)等年金は,療養の開始後1年6か月を経過した日において,又はその日の後に,①負傷又は疾病が治っていないこと,②障害の程度が厚生労働省令で定める傷病等級(労災保険法施行規則別表第2)に該当することの双方に該当する場合に,その状態が継続している間支給される(労災保険法12条の8第3項)。他の給付と異なり労働者の請求に基づかず職権により支給決定される点,及び傷病(補償)等年金を受ける者には休業(補償)等給付が行われない点(同法18条2項)に特色がある。傷病等級の障害の程度は,6か月以上の期間にわたって存する障害の状態により認定される(同法施行規則18条2項)。

額は,傷病等級第1級が給付基礎日額の313日分,第2級が277日分,第3級が245日分である(同法別表第1)。これに傷病特別支給金(第1級114万円,第2級107万円,第3級100万円)及び傷病特別年金(算定基礎日額の313日分,277日分又は245日分)が加わる(特別支給金支給規則5条の2,11条,別表第1の2,別表第2)。

なお,療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又はその日の後に傷病補償年金を受けることとなった場合には,労働基準法19条1項の解雇制限の適用については,使用者が同法81条の打切補償を支払ったものとみなされる(労災保険法19条)。療養中の解雇制限が無期限には続かないことを意味する規定である。

4 障害(補償)等給付

障害(補償)等給付は,傷病が治ったとき身体に障害が存する場合に,障害等級(労災保険法施行規則別表第1)に応じて,第1級から第7級までは年金,第8級から第14級までは一時金として支給される(労災保険法15条)。

障害等級障害(補償)等年金障害等級障害(補償)等一時金
第1級給付基礎日額313日分第8級給付基礎日額503日分
第2級277日分第9級391日分
第3級245日分第10級302日分
第4級213日分第11級223日分
第5級184日分第12級156日分
第6級156日分第13級101日分
第7級131日分第14級56日分

障害が二以上ある場合には重い方の等級によるのが原則であるが,第13級以上に該当する障害が二以上あるときは1級,第8級以上が二以上あるときは2級,第5級以上が二以上あるときは3級を繰り上げる(同法施行規則14条3項)。ただし,繰上げ後の等級が第8級以下である場合において,各障害の等級に応ずる給付額の合算額が繰上げ後の等級に応ずる額に満たないときは,その合算額による。既に身体障害のあった者が同一部位について障害の程度を加重した場合には,現在の等級に応ずる額から既存障害の等級に応ずる額を差し引いた額となり,既存障害が一時金で現在が年金であるときは,一時金の額を25で除した額を控除する(同条5項)。この「25で除する」という処理は,一時金と年金という給付形式の違いを換算するための技術的な規定である。

障害等級表のうち外貌の醜状に関する部分は,かつて男女で等級が異なっていたが,現行の別表第1では,第7級12号「外貌に著しい醜状を残すもの」,第9級11号の2「外貌に相当程度の醜状を残すもの」,第12級14号「外貌に醜状を残すもの」とされ,男女の区別は置かれていない。この改正は平成23年2月1日厚生労働省令第13号によるものであり,同省令附則3条1項は,施行前に生じた障害補償給付又は障害給付の支給事由に係る障害については従前の例によると定めている。したがって,施行前に生じた障害の等級を検討する際は,改正前の別表によらなければならない。

障害特別支給金は一時金として支給され,第1級342万円,第2級320万円,第3級300万円,第4級264万円,第5級225万円,第6級192万円,第7級159万円,第8級65万円,第9級50万円,第10級39万円,第11級29万円,第12級20万円,第13級14万円,第14級8万円である(特別支給金支給規則4条,別表第1)。これに加えて,障害特別年金又は障害特別一時金が,算定基礎日額に障害(補償)等給付と同じ日数を乗じた額で支給される(同規則7条,8条,別表第2,別表第3)。

5 遺族(補償)等給付

遺族(補償)等年金を受けることができる遺族は,労働者の配偶者,子,父母,孫,祖父母及び兄弟姉妹であって,労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた者である(労災保険法16条の2第1項)。もっとも,妻以外の者には年齢又は障害の要件があり,夫,父母及び祖父母は60歳以上であること,子及び孫は18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあること,兄弟姉妹は同期間にあるか又は60歳以上であることが必要であり,これらに該当しない者は厚生労働省令で定める障害の状態にあることを要する。加えて,労働者災害補償保険法の一部を改正する法律(昭和40年法律第130号)附則43条1項により,死亡の当時55歳以上60歳未満であった夫,父母,祖父母及び兄弟姉妹も受給資格者とされるが,60歳に達する月までの間はその支給が停止される(同条3項)。この年齢要件及び若年停止は,後述する令和8年法律第60号により夫について撤廃される。

受給権者は,配偶者,子,父母,孫,祖父母,兄弟姉妹の順位による最先順位者1名のみであり(同法16条の2第3項),年金額は受給権者及びこれと生計を同じくする受給資格者の人数に応じ,1人が給付基礎日額の153日分(55歳以上の妻又は厚生労働省令で定める障害の状態にある妻は175日分),2人が201日分,3人が223日分,4人以上が245日分である(同法別表第1)。

受給権は,受給権者が死亡したとき,婚姻をしたとき,直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったとき,離縁により死亡した労働者との親族関係が終了したとき等に消滅する(同法16条の4第1項)。最二小判昭和53年11月20日(集民125号701頁,昭和52年(行ツ)第40号)は,受給権取得前から直系血族又は直系姻族以外の者の事実上の養子であった者が,受給権取得後に養子縁組の届出をして法律上の養子となったときも,同項3号の「養子となつたとき」に当たり受給権は消滅すると判断した。事実上の養子縁組関係が先行していたことは,届出による失権を妨げないという趣旨である。

死亡当時に年金の受給資格者がない場合,及び受給権が全て消滅した時点で支給された年金額の合計が一時金の額に満たない場合には,遺族(補償)等一時金として給付基礎日額の1,000日分(後者の場合は既支給額を控除した額)が支給される(同法16条の6,別表第2)。遺族特別支給金は300万円であり,受給者が2人以上のときは300万円をその人数で除した額となる(特別支給金支給規則5条3項)。労働者を故意に死亡させた者は遺族とされない(労災保険法16条の9第1項)。

6 葬祭料等,介護(補償)等給付及び二次健康診断等給付

葬祭料及び葬祭給付の額は,令和8年4月1日から,330,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合には給付基礎日額の60日分)となった(労災保険法施行規則17条)。改定前の定額部分は315,000円であり,厚生労働省の資料によれば,通常葬祭に要する費用がその時々の物価によって上下することから,定額部分は消費者物価指数を基に毎年度見直されている。解説記事等では改定前の315,000円が記載されていることがあるため,令和8年4月1日以後に支給事由が生じた事案では現行額を確認する必要がある。

介護(補償)等給付は,障害(補償)等年金又は傷病(補償)等年金の受給権者が,その支給事由となる障害であって厚生労働省令で定める程度のものにより常時又は随時介護を要する状態にあり,かつ,現に介護を受けている場合に,月を単位として支給される(労災保険法12条の8第4項,19条の2)。障害者支援施設に入所して生活介護を受けている間,厚生労働大臣が定める施設(特別養護老人ホーム等)に入所している間及び病院又は診療所に入院している間は除かれる。額は,介護に要する費用として支出された額を上限額の範囲で支給するものとし,支出額が最低保障額に満たないとき又は費用を支出せず親族等の介護を受けた日があるときは最低保障額が支給される(同法施行規則18条の3の4)。

区分最高限度額最低保障額
常時介護を要する状態186,050円90,790円
随時介護を要する状態92,980円45,400円

最低保障額は令和8年4月1日に改定されたもので,改定前は常時介護が85,490円,随時介護が42,700円であった。厚生労働省の資料によれば,最低保障額は最低賃金法に規定する最低賃金の全国加重平均額を基に毎年度見直され,最高限度額は特別養護老人ホームの介護職員の平均基本給が公表され次第,速やかに改定の要否等を検討するものとされている。したがって,最低保障額と最高限度額とでは改定の時期及び根拠指標が異なる。

二次健康診断等給付は,労働安全衛生法66条1項の健康診断(一次健康診断)において,血圧検査,血液検査その他業務上の事由による脳血管疾患及び心臓疾患の発生にかかわる身体の状態に関する検査であって厚生労働省令で定めるものが行われ,そのいずれの項目にも異常の所見があると診断された労働者に対し,請求に基づいて行われる(労災保険法26条1項)。給付の範囲は,脳血管及び心臓の状態を把握するために必要な検査を行う医師による健康診断(1年度につき1回)及びその結果に基づく医師又は保健師による特定保健指導(二次健康診断ごとに1回)である(同条2項)。既に脳血管疾患又は心臓疾患の症状を有すると認められる労働者は対象から除かれる。災害が発生していなくても支給される予防的給付であり,労災保険法7条1項が他の3系列と別建てにしているのはこのためである。

7 前払一時金及び差額一時金

年金給付には,当分の間の措置として前払一時金の制度がある。障害(補償)等年金前払一時金は,障害等級ごとの最高限度額(第1級1,340日分,第2級1,190日分,第3級1,050日分,第4級920日分,第5級790日分,第6級670日分,第7級560日分)の範囲内で,給付基礎日額の200日分,400日分,600日分,800日分,1,000日分又は1,200日分から選択する(労災保険法附則58条1項,59条,同法施行規則附則25項)。遺族(補償)等年金前払一時金は,給付基礎日額の200日分,400日分,600日分,800日分又は1,000日分である(同法附則60条2項,同法施行規則附則31項)。いずれも支給されると,各月の年金額の合計が前払一時金の額に達するまで年金の支給が停止される。請求は年金の請求と同時に行うのが原則であるが,年金の支給決定の通知があった日の翌日から起算して1年を経過する日までの間は,年金を請求した後でも請求することができる(同規則附則26項)。消滅時効はいずれも2年である。

障害(補償)等年金差額一時金は,障害(補償)等年金の受給権者が死亡した時点で,既に支給された年金額と前払一時金額の合計が上記の最高限度額に満たない場合に,その差額を遺族に支給するものである(労災保険法附則58条1項)。消滅時効は5年である(同条3項)。既支給額を現在価値に評価し直すための換算率は,スライド率等と併せて毎年公表されている。

第4 特別支給金及び社会復帰促進等事業の給付

1 特別支給金は保険給付ではない

特別支給金は,労災保険法29条1項の社会復帰促進等事業として支給されるものであり,保険給付ではない(労働者災害補償保険特別支給金支給規則1条)。休業特別支給金,障害特別支給金,遺族特別支給金及び傷病特別支給金のほか,賞与等の特別給与を算定の基礎とする障害特別年金,障害特別一時金,遺族特別年金,遺族特別一時金及び傷病特別年金がある(同規則2条)。特別給与を基礎とする給付の算定に用いる算定基礎年額は,負傷又は発病の日以前1年間に支払われた特別給与の総額であるが,給付基礎年額の100分の20に相当する額を超えるときはその額とされ,さらに150万円を超えるときは150万円が上限となる(同規則6条3項,5項)。賞与の多寡が補償額に無限に反映されるわけではない。

特別支給金が保険給付ではないことは,損害賠償額の算定において実質的な意味を持つ。最二小判平成8年2月23日(民集50巻2号249頁,平成6年(オ)第992号)は,「労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和四九年労働省令第三〇号)による特別支給金は,被災労働者の損害額から控除することができない」と判示した。この結論は,行政実務における取扱いとも一致しており,昭和56年6月12日発基第60号「民事損害賠償が行われた際の労災保険給付の支給調整に関する基準」は,支給調整を行う保険給付を限定した上で「特別支給金については支給調整を行わない」と明記している。

2 社会復帰促進等事業による援護費等

社会復帰促進等事業としては,義肢等補装具費の支給,外科後処置,労災はり・きゅう施術特別援護措置,アフターケア及びアフターケア通院費の支給,振動障害者社会復帰援護金の支給並びに頭頸部外傷症候群等に対する職能回復援護が行われる(労災保険法施行規則24条から31条まで)。また,被災労働者及びその遺族の援護として,労災就学援護費,労災就労保育援護費,休業補償特別援護金及び長期家族介護者援護金が支給される(同規則32条から36条まで)。労災就学援護費の額は,令和8年4月1日から,小学校等が月額16,000円,中学校等が月額21,000円(通信制課程は18,000円),高等学校等が月額21,000円(通信制課程は18,000円),大学等が月額39,000円(通信による教育を行う課程は30,000円)とされ,学校教育法の改正に伴って専修学校の専攻科が支給対象に追加された。労災就労保育援護費は要保育児1人につき月額9,000円,長期家族介護者援護金は100万円(受給できる遺族が2人以上の場合は按分)である。

これらの給付は保険給付ではないが,その支給決定が行政処分に当たるかが争われた。最一小判平成15年9月4日(集民210号385頁,平成11年(行ヒ)第99号)は,「労働基準監督署長が労働者災害補償保険法(平成一一年法律第一六〇号による改正前のもの)二三条に基づいて行う労災就学援護費の支給に関する決定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる」と判断した。もっとも,これらの給付に関する決定への不服申立ては,従来,保険給付とは異なり行政不服審査法の対象とされてきたため,同一事案の同一の争点について異なる判断がされ得るという問題が残されていた。この点は,次に述べる令和8年改正で立法的に整理された。

第5 令和8年法律第60号による給付内容の見直し

1 遺族補償年金の夫に係る要件の撤廃

労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第60号)は,令和8年7月17日に公布され,令和9年4月1日から施行される。厚生労働省が公表した新旧対照条文によれば,改正後の労災保険法16条の2第1項ただし書は「ただし,配偶者以外の者にあつては,労働者の死亡の当時次の各号に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。」となり,改正前の「妻(婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)以外の者」という文言から改められる。同項1号も「父母又は祖父母については,六十歳以上であること。」となり,「夫」が削除される。同項4号からも同様に「夫」が削られる。

これに伴い,昭和40年法律第130号附則43条,昭和48年法律第85号附則5条及び令和2年法律第14号附則7条からも「夫」が削除されるため(改正法附則15条,21条,24条),55歳以上60歳未満の夫について60歳まで支給を停止する若年停止も適用されなくなる。改正後は,夫は妻と同様に,年齢又は障害の要件を問わず受給資格者となる。

この改正の位置付けを理解する上では,先行する裁判例との関係が重要である。最三小判平成29年3月21日(集民255号55頁,平成27年(行ツ)第375号)は,地方公務員災害補償法について,「地方公務員災害補償法三二条一項ただし書及び附則七条の二第二項のうち,死亡した職員の夫について,当該職員の死亡の当時一定の年齢に達していることを遺族補償年金の受給の要件としている部分は,憲法一四条一項に違反しない」と判断していた。今回の改正は,違憲判断を受けた是正ではなく,合憲との判断が示された後に,立法政策として男女による取扱いの差を解消するものと整理することができる。

2 遺族が1人の場合の年金額の一律175日分化

新旧対照条文によれば,改正後の労災保険法別表第1の遺族補償年金の項は「一 一人 給付基礎日額の一七五日分」となり,55歳以上の妻又は一定の障害の状態にある妻についてのみ175日分とする現行のただし書は削除される。厚生労働省の概要資料は,現行の153日分(妻のみ,かつ55歳以上又は一定の障害の状態にある場合には175日分)から,一律で175日分に改めるものであると説明している。遺族が1人の事案では,遺族の性別,年齢及び障害の有無を問わず給付基礎日額の22日分が増額されることになる。

3 消滅時効の5年化

改正後の労災保険法42条1項ただし書は,「これらの保険給付(二次健康診断等給付を除く。)の原因である事故に係る疾病が,その性質上,……災害補償の事由若しくは……給付を支給すべき事由に該当するものかどうかを容易に判断することができない疾病として政令で定めるものである場合には,当該保険給付を受ける権利については,この項本文中『二年』とあるのは,『五年』とする。」と定める。厚生労働省の概要資料は,政令で定める疾病として脳・心臓疾患,精神疾患及び石綿関連疾病を想定していると明記している。労働基準法115条にも同旨の改正が加えられ,同法上の災害補償請求権についても,同様の疾病については5年となる。この改正の背景として,同概要資料は,令和2年の労働基準法改正法案に対する附帯決議において災害補償請求権の消滅時効期間について検討を行うことが明記されていたことを挙げている。もっとも,対象疾病を定める政令は令和8年7月31日時点で制定されておらず,具体的な範囲は政令の内容による。

4 その他の改正並びに施行日及び経過措置

そのほか,①一人親方等の特別加入に係る手続等を行う団体を「承認団体」として法令に位置付け,労災保険に係る業務や業務災害の防止に関する活動を適切に実施すること等の要件を法令に規定するとともに,業務改善命令及び命令違反時の保険関係の消滅を可能とすること,②社会復帰促進等事業に関する決定への不服申立てを行政不服審査法の対象から労働保険審査官及び労働保険審査会法の対象に移し,審査請求先及び再審査請求先を労災保険給付に関する決定への不服申立てと同様とすること,③労災保険の適用事業に関する暫定措置を廃止し,現在任意適用とされている農林水産業の小規模な個人経営の事業の一部も適用事業とすることが定められた。このうち③の施行は公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日とされており(改正法附則1条2号),厚生労働省の概要資料は施行までに5年程度の準備期間を設ける想定であるとしている。特別加入制度の現行の枠組みについては「労災保険の特別加入制度」を参照されたい。

経過措置として,改正法附則2条1項は,施行日前において支給すべき事由が生じた遺族補償年金等における遺族の範囲及び順位,受給権の消滅並びに支給の停止に係る規定の適用については従前の例によるものとし,同条2項は,施行日前の期間に係る遺族補償年金等の額についても従前の例によるものとしている。また,同附則5条は,施行日前に生じた政令で定める疾病に相当する疾病による事故を原因とする保険給付を受ける権利の消滅時効についても従前の例によると定める。したがって,遺族の範囲及び年金額の見直しは,基本的には令和9年4月1日以後に支給事由が生じた事案から適用されることになる。

第6 給付額が毎年2系統で改定される仕組み

労災保険の給付額は,一つの改定日にまとめて見直されるのではなく,性質の異なる2系統の改定が並行している。この構造を把握しておかないと,参照した資料の数値がいつ時点のものかを見誤ることになる。

第1の系統は毎年4月1日の改定であり,省令改正によって行われる。葬祭料等の定額部分は消費者物価指数,介護(補償)等給付の最低保障額は最低賃金の全国加重平均額,労災就学援護費は子供の学習費調査及び消費者物価指数を,それぞれ根拠指標としている。令和8年4月1日の改定は,労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第57号)により行われた。

第2の系統は毎年8月1日の改定であり,厚生労働大臣の告示によって行われる。年金たる保険給付のスライド率及び給付基礎日額の最低保障額(自動変更対象額)は毎月勤労統計の平均給与額を,年齢階層別の最低・最高限度額は賃金構造基本統計を根拠指標としている。このうち自動変更対象額は労災保険法施行規則9条4項により,年齢階層別の最低・最高限度額は同規則9条の4第7項により,いずれもその年の7月31日までに告示すべきものとされているため,スライド率を含む改定内容が公表されるのは毎年7月末である。

いずれの系統も統計に連動して動くため,過去の解説記事,書籍又は行政資料に記載された金額は,参照時点で既に改定されている可能性が高い。金額を検討する際は,改定日の前後どちらに支給事由が生じたかを確認した上で,その時点の条文又は告示に当たる必要がある。

第7 給付をめぐる主要な裁判例

1 損害賠償との調整の枠組み

労災保険給付と民事損害賠償との調整は,実務上最も争われる領域である。条文上は,第三者の行為によって生じた事故については,政府が先に給付をしたときは給付の価額の限度で損害賠償請求権を取得し(労災保険法12条の4第1項),第三者から先に同一の事由について損害賠償を受けたときはその価額の限度で保険給付をしないことができる(同条2項)。事業主の責任が問題となる場合については,同法附則64条が,年金給付に係る前払一時金を請求できる場合における事業主の損害賠償の履行の猶予及び免責を定め,同条2項が厚生労働大臣の定める基準による支給調整を定めている。この基準が前記の昭和56年6月12日発基第60号であり,同基準は,障害(補償)給付,遺族(補償)給付,傷病(補償)年金及び休業(補償)給付を逸失利益に,療養(補償)給付を療養費に,葬祭料(葬祭給付)を葬祭費用にそれぞれ対応させた上で,調整対象給付期間を,前払一時金最高限度額相当期間の終了する月から起算して9年が経過するまでの期間と就労可能年齢を超えるに至るまでの期間のいずれか短い期間に限っている。同基準は,企業内労災補償について,制度を定めた労働協約,就業規則その他の規程の文面上労災保険給付相当分を含むことが明らかである場合を除き支給調整を行わないこと,労災保険給付が将来にわたり支給されることを前提としてこれに上積みして支払われる示談金及び和解金についても支給調整を行わないことを明示している。

裁判例は,控除の対象を限定する方向で確立している。最三小判昭和52年10月25日(民集31巻6号836頁,昭和50年(オ)第621号)は,将来にわたり継続して保険給付をすることが確定していても現実の給付がない以上は将来の給付額を控除することを要しないとし,最三小判昭和58年4月19日(民集37巻3号321頁,昭和55年(オ)第82号)は,「労働者災害補償保険法による障害補償一時金及び休業補償給付は,被災労働者の精神上の損害を填補するためのものではなく,これを同人の慰藉料から控除すべきではない」と判示した。過失相殺との先後については,最三小判平成元年4月11日(民集43巻4号209頁,昭和63年(オ)第462号)が,「右損害の額から過失割合による減額をし,その残額から労働者災害補償保険法に基づく保険給付の価額を控除するのが相当である」として控除前相殺の立場を明らかにしている。

損益相殺的な調整の対象及び時期については,最大判平成27年3月4日(民集69巻2号178頁,平成24年(受)第1478号)が,遺族補償年金について「その塡補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきである」とし,かつ,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り不法行為の時に塡補されたものと法的に評価すべきものとした。この判断は,遅延損害金への充当を否定して元本から控除する点で,計算結果に直接影響する。具体的な計算順序については「損益相殺とは―労災保険給付・年金・保険金の控除と計算順序」で扱っている。また,使用者が労働者に損害賠償債務を履行した場合の求償の可否について,最一小判平成元年4月27日(民集43巻4号278頁,昭和59年(オ)第3号)は,損害賠償債務を履行した使用者は,賠償された損害に対応する労災保険法に基づく保険給付請求権を代位取得しないと判断している。労災保険給付を受けられる可能性がある事案での示談の進め方については「労災保険又は障害年金を支給される可能性がある事案における示談」を参照されたい。

2 支給決定をめぐる訴訟と事業主の地位

支給決定の取消しを求める訴訟において,事業主がどのような地位に立つかについては,一見すると方向の異なる二つの最高裁判例がある。最一小決平成13年2月22日(集民201号201頁,平成12年(行フ)第3号)は,「労働者災害補償保険法に基づく保険給付の不支給決定取消訴訟において,事業主は,その事業が労働保険の保険料の徴収等に関する法律一二条三項各号所定の一定規模以上の事業である場合には,労働基準監督署長を補助するため訴訟に参加することが許される」とした。他方,最一小判令和6年7月4日(民集78巻3号662頁,令和5年(行ヒ)第108号)は,「労働保険の保険料の徴収等に関する法律(令和二年法律第一四号による改正前のもの)一二条三項所定の事業の事業主は,当該事業についてされた同項所定の労働者災害補償保険法……の規定による業務災害に関する保険給付の支給決定の取消訴訟の原告適格を有しない」と判断した。両者は矛盾するものではなく,メリット制を通じて保険料額に影響を受ける事業主に,訴訟参加によって主張の機会を認めることと,自ら支給決定の取消しを求める原告適格を認めることとを区別したものと理解できる。事業主としては,労働保険料の認定決定に対する不服の中で業務起因性を争うことになる。

手続面では,最一小判平成7年7月6日(民集49巻7号1833頁,平成4年(行ツ)第68号)が,「労働者災害補償保険法による保険給付に関する決定に不服のある者は,労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をした日から三箇月を経過しても決定がないときは,審査請求に対する決定及び労働保険審査会に対する再審査請求の手続を経ないで,処分の取消しの訴えを提起することができる」と判示している。現行法もこれと同旨を明文化しており(労災保険法38条2項),処分の取消しの訴えは審査官の決定を経た後でなければ提起することができない(同法40条)。不服申立ての具体的な流れについては「労災保険に関する審査請求及び再審査請求」を,監督署の保有資料の取得については「労災保険に関する書類の開示請求方法」を参照されたい。

特別加入者に係る給付については,最二小判平成24年2月24日(民集66巻3号1185頁,平成22年(行ヒ)第273号)が,建設の事業を行う事業主がその使用する労働者を個々の建設等の現場における事業にのみ従事させ本店等の事務所を拠点とする営業等の事業に従事させていないときは,上記営業等の事業について特別加入の承認を受けることはできず,その業務に起因する事業主又はその代表者の死亡等に関し遺族等が保険給付を受けることはできないと判断している。特別加入は労働者を使用する「事業」を単位として成立するという構造を示したものである。

第8 消滅時効と受給権の保護

保険給付を受ける権利は,療養補償給付,休業補償給付,葬祭料,介護補償給付,複数事業労働者療養給付,複数事業労働者休業給付,複数事業労働者葬祭給付,複数事業労働者介護給付,療養給付,休業給付,葬祭給付,介護給付及び二次健康診断等給付については行使することができる時から2年,障害補償給付,遺族補償給付,複数事業労働者障害給付,複数事業労働者遺族給付,障害給付及び遺族給付については5年を経過したときは,時効によって消滅する(労災保険法42条1項)。前払一時金の消滅時効は2年,差額一時金の消滅時効は5年である。審査請求及び再審査請求は,時効の完成猶予及び更新に関しては裁判上の請求とみなされる(同法38条3項)。消滅時効一般の考え方については「消滅時効に関するメモ書き」で整理している。

受給権については,労働者の退職によって変更されず,譲渡,担保供与及び差押えが禁止され(同法12条の5),保険給付として支給を受けた金品を標準として租税その他の公課を課すことができない(同法12条の6)。他方,労働者が故意に負傷,疾病,障害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは保険給付は行われず,故意の犯罪行為若しくは重大な過失により,又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより,これらを生じさせ,又は負傷,疾病若しくは障害の程度を増進させ,若しくはその回復を妨げたときは,保険給付の全部又は一部を行わないことができる(同法12条の2の2)。前者が絶対的な不支給であるのに対し,後者は行政庁の裁量的な判断による制限である点に違いがある。

事業主が故意又は重大な過失により保険関係成立届を提出していない期間中の事故,一般保険料を納付しない期間中の事故及び事業主の故意又は重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故については,政府は,労働基準法の規定による災害補償の価額の限度で,保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収することができる(労災保険法31条1項)。保険関係の届出をしないまま災害が発生した場合の帰結については「労災隠し」も参照されたい。行政の運用の実際を知る手掛かりとしては,情報公開請求により開示された「平成30年度全国労災補償課長会議資料」がある。

出典・参考資料

1 法令

2 裁判例

3 行政資料