目次
1 総論
2 労災保険に特別加入できる人
3 労働保険事務組合
4 一人親方として特別加入できる事業
5 特定作業従事者として特別加入できる作業者
6 一人親方団体
7 関連記事その他
1 総論
(1) 労災保険は本来,労働者を保護するためのものです。
しかし,労働者ではないものの,労働者に準じて保護するのが適当であると認められる一定の人は,労災保険に特別に任意加入できますところ,これを労災保険の特別加入制度といいます(労災保険法33条ないし37条)。
(2) 労災保険の特別加入であっても,特別支給金が存在します(労災保険サイトの「特別加入制度」参照)。
2 労災保険に特別加入できる人
(1) 労災保険に特別加入できるのは以下の4種類の人です。
① 中小事業主(労災保険法33条1号・労災保険法施行規則46条の16)
② 一人親方(労災保険法33条3号・労災保険法施行規則46条の17)
③ 特定作業従事者(労災保険法33条5号・労災保険法施行規則46条の18)
④ 海外派遣者(労災保険法33条6号及び7号)
(2) 中小事業の事業主は第一種特別加入となり,一人親方及び特定作業従事者は第二種特別加入であり,海外派遣者は第三種特別加入となります(外部HPの「第1種・第2種特別加入の違いと定義」参照)。
(3)ア 自転車配達員及びITフリーランスは令和3年9月から,あん摩マッサージ指圧師,はり師及びきゅう師は令和4年4月から,歯科技工士は令和4年7月から労災保険に特別加入できるようになりました。
イ 令和5年11月7日現在,企業に属さないフリーランス(個人事業主)として働く人たちの生活を保障するため,厚生労働省は任意で労災保険に加入できる制度を,配達員などの一部業種から,原則として全業種に広げる方向で議論を進めています(WEB労政時報の「フリー全業種、労災対象へ 保険加入270万人に拡大」参照)。
3 労働保険事務組合
(1) 中小事業主が労災保険に特別加入する場合,労災保険事務組合に加入する必要があります(労災保険法33条1項1号)。
(2) 労働保険事務組合は,事業主の委託を受けて,事業主が行うべき労働保険の事務を処理することについて,厚生労働大臣の認可を受けた中小事業主等の団体をいいます(労働保険の保険料の徴収等に関する法律33条参照)。
(3) 大阪府にある労働保険事務組合については,大阪労働局HPの「大阪労働局管轄 事務組合名簿」に載っています。
例えば,大阪弁護士会所属の弁護士の場合,大阪弁護士協同組合(天満労基署の管轄です。)の労働保険事務組合事業を利用することができます(大阪弁護士協同組合HPの「保険事業」参照)。
(4) 厚生労働省HPの「労災保険事務組合制度」には,労働保険事務組合に委託できる業務として以下の記載があります((1)ないし(5)を①ないし⑤に変えています。)。
① 概算保険料、確定保険料などの申告及び納付に関する事務
② 保険関係成立届、任意加入の申請、雇用保険の事業所設置届の提出等に関する事務
③ 労災保険の特別加入の申請等に関する事務
④ 雇用保険の被保険者に関する届出等の事務
⑤ その他労働保険についての申請、届出、報告に関する事務
なお、印紙保険料に関する事務並びに労災保険及び雇用保険の保険給付に関する請求等の事務は、労働保険事務組合が行うことのできる事務から除かれています
4 一人親方として特別加入できる事業
(1) 一人親方として特別加入できる事業は以下のとおりであり(労災保険法施行規則46条の17),平成27年4月1日施行の「第二種特別加入保険料率表」によれば,括弧内の数字は保険料率です。
① 個人タクシー業者,個人貨物運送業者(1.3%)
・ 例えば,個人タクシー,バイク便配送員です。
② 建設業の一人親方等(1.9%)
・ 例えば,大工,電気工事屋です。
③ 漁船による自営漁業者(4.6%)
・ 例えば,漁師です。
④ 林業の一人親方等(5.2%)
・ 例えば,植林をする人です。
⑤ 医薬品の配置販売業者(0.7%)
・ 例えば,置き薬を販売する人です。
⑥ 再生資源取扱事業(1.4%)
・ 例えば,廃品回収業者です。
⑦ 船員が行う事業(4.9%)
・ 例えば,船員です。
(2)ア 一人親方の場合,給付基礎日額については,申請に基づいて都道府県労働局長が決定します。
そして,年間保険料は,保険料算定基礎額(給付基礎日額×365)にそれぞれの事業に定められた保険料率を乗じたものとなります。
イ 厚生労働省HPの「5 給付基礎日額・保険料」が分かりやすいです。
(3) 個人タクシー業者,個人貨物運送業者及び漁船による自営漁業者の場合,通勤災害の保護の対象となっていません(厚生労働省HPの「6 補償の対象となる範囲」参照)。
(4) 平成25年4月1日,総排気量125cc以下のバイク(原動機付自転車)を使用して貨物運送事業を行う自営業者も労災保険に特別加入できるようになりました(外部HPの「労災保険 特別加入者の範囲拡大(バイク便)」参照)。
(5) バイク便の配送員等が労働者に該当するかどうかについては,「バイシクルメッセンジャー及びバイクライダーの労働者性について」(平成19年9月27日付の厚生労働省労働基準局長の文書)が参考になります。
最大の問題はあらゆる労働法規の脱法だ。
委託された業務に対して報酬が支払われる形式のため、時間外、休日、深夜労働手当などはつかない。また最低賃金の保障や解雇規制もなく、職を失っても失業保険が使えない。全額自己負担で、国民健康保険、国民年金に加入となる。https://t.co/PDLzNTZAeo— Konno Mamoru (@funkykong555) November 30, 2021
5 特定作業従事者として特別加入できる作業者
・ 特定作業従事者として特別加入できる作業者は以下のとおりです(労災保険法施行規則46条の18)。
① 特定農作業従事者
② 指定農業機械作業従事者
③ 国又は地方公共団体が実施する訓練従事者
④ 家内労働者及びその補助者
⑤ 労働組合等の常勤役員
⑥ 介護作業従事者
6 一人親方団体
(1) 第二種特別加入者が労災保険に特別加入する場合,一人親方団体に加入する必要があり,一人親方団体が特別加入者から見て事業主に当たることとなります。
(2) 大阪府にある一人親方団体については,大阪労働局HPの「大阪労働局管轄 一人親方団体名簿」に載っています。
7 関連記事その他
(1) 労働保険の特別加入制度に関する詳細については,厚生労働省の以下のパンフレットが分かりやすいです。
① 特別加入制度のしおり(中小事業主等用)
② 特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)
③ 特別加入制度のしおり(特定作業従事者用)
④ 特別加入制度のしおり(海外派遣者用)
(2) 被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え,その損害を賠償した場合には,被用者は,使用者の事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について,使用者に対して求償することができます(最高裁令和2年2月28日判決)。
(3) アイアンドアイHPに「運送と配送の違いは?「輸送・運送・配送」の言葉の意味と使い分け」が載っています。
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 労災保険特別加入関係事務取扱手引(平成27年3月25日最終改正)
イ 以下の記事も参照して下さい。
・ 労災保険の給付内容
・ 労災保険に関する書類の開示請求方法
・ 弁護士の社会保険
・ 民間労働者と司法修習生との比較
・ 業務が原因で心の病を発症した場合における,民間労働者と司法修習生の比較
・ 平成30年度全国労災補償課長会議資料
・ 厚生労働省労働基準局の,労災保険に係る訴訟に関する対応の強化について