損益相殺

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目次
1 労災保険法に基づく保険給付は,慰謝料等には充当されないこと
2 休業給付及び療養給付と損益相殺
3 遺族補償年金と損益相殺
4 損益相殺と過失相殺の両方が絡んだ場合の請求額の計算
5 労災保険の特別支給金は損益相殺の対象とならないこと
6 労災保険の受給権者と損害賠償請求権者が異なる場合,損益相殺の対象とならないこと
7 労災保険給付における,企業内労災補償,示談金,和解金,見舞金等の取扱い
8 生計維持関係の認定基準
9の1 自賠責保険金,搭乗者傷害保険金,人身傷害補償保険及び政府保障事業による填補と損益相殺
9の2 遺族年金及び生命保険金と損益相殺
9の3 租税及び養育費と損益相殺
10 人身傷害補償保険の保険金と税金(参考)
11 共同不法行為に関するメモ書き(参考)
12 相殺の抗弁に関するメモ書き(参考)
13 遅延損害金に関するメモ書き(参考)
14 時効中断に関するメモ書き(参考)
15 失業保険の受給期間の延長(参考)
16 関連記事その他

1 労災保険法に基づく保険給付は,慰謝料等には充当されないこと
(1) 慰謝料に対応する労災保険給付は存在しないところ,労災保険給付が現に認定された逸失利益の額を上回るとしても,当該超過分を財産的損害のうちの積極損害(例えば,治療費)や精神的損害(慰謝料)をてん補するものとして,保険給付額をこれらとの関係で控除することは許されません最高裁昭和62年7月10日判決。なお,先例として,最高裁昭和58年4月19日判決)。
    なぜなら,民事上の損害賠償の対象となる損害のうち,労災保険法による休業補償給付及び傷病補償年金並びに厚生年金保険法による障害厚生年金が対象とする損害と同性質である点で,その間で同一の事由の関係にあることを肯定することができるのは、財産的損害のうちの消極損害(いわゆる逸失利益)のみだからです。
(2) 労災保険及び人身傷害補償保険に関する損益相殺について判示した裁判例として,京都地裁平成31年1月30日判決があります。

2 休業給付及び療養給付と損益相殺
(1)ア 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労災保険法に基づく各種保険給付を受けたときは,これらの社会保険給付は,それぞれの制度の趣旨目的に従い,特定の損害について必要額をてん補するために支給されるものであるから,同給付については,てん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整が行われます(最高裁平成22年10月15日判決。なお,先例として最高裁平成22年9月13日判決参照)。
イ 具体的には,労災保険の休業給付及び障害一時金は,休業損害及び後遺障害による逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整が行われます(最高裁平成22年10月15日判決)。
(2)ア 休業給付は,休業損害の元本との間で損益相殺的な調整が行われるべきであり,その制度の予定するところに従って,てん補の対象となる損害が現実化する都度,これに対応して支給されたものといえる場合(=制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情がない場合),そのてん補の対象となる損害は,交通事故が発生した日にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整がなされます(最高裁平成22年10月15日判決)。
イ 療養給付については治療費等の療養に要する費用の元本との間で,交通事故が発生した日にてん補されたものと法的に評価して,同様の損益相殺的な調整がなされます(最高裁平成22年9月13日判決)。
ウ 障害一時金については後遺障害による逸失利益の元本との間で,交通事故が発生した日にてん補されたものと法的に評価して,同様の損益相殺的な調整がなされます(最高裁平成22年10月15日判決)。
(3) 最高裁平成22年9月13日判決に関する最高裁判所判例解説民事編平成22年(下巻)584頁には以下の記載があります。
(注6) 前掲最二小判昭和62年7月10日の判例解説(田中壯太「最高裁判所判例解説民事篇昭和62年度」427頁)は,労災保険給付につき,①療養補償給付と損害賠償の費目中の「治療費」(積極損害の一部)が,②葬祭料と損害賠償の費目中の「葬祭費用」(積極損害の一部)が,③休業補償給付,障害補償給付,遺族補償給付及び傷病補償年金と損害賠償の費目中の消極損害(逸失利益)が,それぞれ「同一の事由」の関係にあり,厚生年金保険法に基づく年金給付についても,労災保険給付についての考え方が基本的に妥当すると述べる。国民年金法や各共済組合法に基づく年金給付についても,労災保険給付や厚生年金保険法に基づく年金給付との給付目的や支給要件の類似性等に照らせば,以上と同様の考え方が基本的に妥当すると考えてよいであろう。

3 遺族補償年金と損益相殺
(1)ア  労働者災害補償保険法又は厚生年金保険法に基づき政府が将来にわたり継続して保険金を給付することが確定していても,いまだ現実の給付がない以上,将来の給付額を受給権者の使用者に対する損害賠償債権額から控除することを要しません(最高裁昭和52年10月25日判決。なお,先例として,最高裁昭和52年5月27日判決参照)。
イ 最高裁昭和52年5月27日判決及び最高裁昭和52年10月25日判決からすれば,労災保険から将来にわたり給付されることが予定される年金については損害賠償額から差し引かれないこととなり,事業主の損害賠償が行われた後は,保険給付の支給停止の明文の根拠を欠くため結果的に二重填補・二重負担の事態を招き,事業主の有する労災保険における保険利益が失われることとなりました。
    そこで,このような不合理な自体を解消するため,昭和55年の労災保険法改正により,事業主の行う民事損害賠償と労災保険給付との調整を定める労災保険法64条が追加されました。
(2)ア 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,損害賠償額を算定するに当たり,上記の遺族補償年金につき,その塡補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行われるのであって(最高裁大法廷平成27年3月4日判決),この点については,休業補償給付及び療養補償給付の損益相殺と同じ取扱いです。
イ いまだ支給を受けることが確定していない遺族補償年金(「事実審の口頭弁論終結後に支給される遺族補償年金」とほぼ同じです。)の額についてまで損害額から控除する必要はありません(地方公務員等共済組合法に基づく遺族年金に関する最高裁大法廷平成5年3月24日判決参照)。

4 損益相殺と過失相殺の両方が絡んだ場合の請求額の計算
(1) 労災保険法に基づく保険給付の原因となった交通事故が第三者の行為により惹起され,第三者が当該行為によって生じた損害につき賠償責任を負う場合において,当該交通事故により被害を受けた労働者に過失があるため損害賠償額を定めるにつきこれを一定の割合で斟酌すべきときは,保険給付の原因となった事由と同一の事由による損害の賠償額を算定するには,当該損害の額から過失割合による減額をし,その残額から当該保険給付の価額を控除する方法によることとなります(最高裁平成元年4月11日判決。なお,先例として,最高裁昭和55年12月18日判決)。
    つまり,労災保険の損益相殺と過失相殺の両方が絡んだ場合の請求額の計算式は,請求額=損害額×(1-被請求者の過失割合)-労災保険の控除利益額になるということです。
(2)ア 労災保険と同じように過失相殺後に控除されるものとしては,自賠責保険及び加害者加入の任意保険があるのに対し,過失相殺前に控除されるもの(過失がある被害者に有利な方式です。)としては,健康保険の療養給付,老齢基礎年金及び老齢厚生年金並びに所得補償保険があります(交通事故サポートセンターHPの「過失相殺と損益相殺はどちらを先に行うべきか」参照。なお,健康保険の療養給付につき最高裁平成10年9月10日判決,所得補償保険につき最高裁平成元年1月19日判決)。
イ 自賠法72条1項後段に基づく政府保障事業の場合,国民健康保険給付は過失相殺後に控除されます(最高裁平成17年6月2日判決)。
(3)ア バスの乗客の事故に関する名古屋地裁平成15年3月24日判決(判例秘書に掲載)は「健康保険法による健康保険給付は,被害者の過失を重視することなく,社会保障の一環として支払われるべきものであることに鑑みれば,過失相殺の負担は保険者等に帰せしめるのが妥当であるから,健康保険法による傷病手当金及び高額療養費の各給付は,過失相殺前にこれを損害から控除すべきである。」と判示しています。
イ 協会けんぽの高額療養費は,保険医療機関等から提出される診療報酬明細書の確認が必要である点で診療月から3ヵ月以上かかることから,協会けんぽでは高額療養費が支給されるまでの間,高額療養費支給見込み額の8割相当額を無利子で貸し付けを行う高額医療費貸付制度があります(協会けんぽHPの「高額療養費について」参照)。


5 労災保険の特別支給金は損益相殺の対象とならないこと
    労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和49年12月28日労働省令第30号。公布日施行であり,昭和49年11月1日から適用)に基づく休業特別支給金,障害特別支給金等の特別支給金の支給は,労働者災害補償保険法に基づく本来の保険給付ではなく,労働福祉事業の一環として,被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり(労働者災害補償保険法23条1項2号,同規則1条),使用者又は第三者の損害賠償義務の履行と特別支給金の支給との関係について,保険給付の場合のような調整規定(同法64条,12条の4)もありません。
    このような保険給付と特別支給金との差異を考慮すると,特別支給金が被災労働者の損害を填補する性質を有するということはできず,被災労働者が労働者災害補償保険から受領した特別支給金をその損害額から控除することはできません(最高裁平成9年1月28日判決。なお,先例として,最高裁平成8年2月23日判決参照)。

6 労災保険の受給権者と損害賠償請求権者が異なる場合,損益相殺の対象とならないこと
(1) 不法行為の被害者の相続人が受給権を取得した遺族厚生年金を損害賠償の額から控除するに当たっては,現にその支給を受ける受給権者についてのみこれを行うべきものとされています(最高裁平成16年12月20日判決。なお,先例として,最高裁昭和50年10月24日判決参照)ところ,このことは遺族補償年金(業務災害)又は遺族年金(通勤災害)についても同じであると思います。
    そのため,例えば,通勤災害となる交通事故で死亡した子供の祖父母(55歳以上)が遺族年金を受領したとしても,当該遺族年金は,死亡した子供の両親(55歳未満)が有する損害賠償金から差し引かれることはないと思います。
(2) 通勤災害となる交通事故で死亡した子供の両親が損害賠償金を受領したとしても,当該損害賠償金は,死亡した子供の祖父母が有する遺族年金から差し引かれることはありません(民事損害賠償が行われた際の労災保険給付の支給調整に関する基準(労働者災害補償保険法第六七条第二項関係)について(昭和56年6月12日付の労働事務次官通達)「2 支給調整を行う労災給付」参照)。

 労災保険給付における,企業内労災補償,示談金,和解金,見舞金等の取扱い
・ 民事損害賠償が行われた際の労災保険給付の支給調整に関する基準(労働者災害補償保険法第六七条第二項関係)について(昭和56年6月12日付の労働事務次官通達)には「企業内労災補償、示談金、和解金、見舞金等の取扱い」として以下の記載があります。
イ 企業内労災補償
    企業内労災補償は、一般的にいつて労災保険給付が支給されることを前提としながらこれに上積みして給付する趣旨のものであるので、企業内労災補償については、その制度を定めた労働協約、就業規則その他の規程の文面上労災保険給付相当分を含むことが明らかである場合を除き、労災保険給付の支給調整を行わない。
ロ 示談金及び和解金
    労災保険給付が将来にわたり支給されることを前提としてこれに上積みして支払われる示談金及び和解金については、労災保険給付の支給調整を行わない。
ハ 見舞金等
    単なる見舞金等民事損害賠償の性質をもたないものについては、労災保険給付の支給調整を行わない。

8 生計維持関係の認定基準
(1) 労災保険の遺族補償年金の場合
ア 遺族補償年金の受給資格者について定める労災保険法16条の2第1項本文の「労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していた」に該当するためには,専ら又は主として労働者の収入によって生計を維持されていることを要せず,労働者の収入によって生計の一部を維持されていれば足りますから,いわゆる共稼ぎもこれに含まれます労働者災害補償保険法の一部を改正する法律第三条の規定の施行について(昭和41年1月31日付・基発第73号))。
イ 労災保険給付事務取扱手引(平成25年10月改訂版)76頁及び77頁に,生計維持関係の詳しい判断基準が載っています。
(2) 遺族厚生年金の場合
・ 遺族厚生年金の受給資格者について定める厚生年金保険法59条1項の「被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時(中略)その者によつて生計を維持したもの」につき,例えば,被保険者と同居していて,前年の所得が年額655.5万円未満であれば該当します(生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて〔厚生年金保険法〕(平成23年3月23日付の日本年金機構理事長あて厚生労働省年金局長通知))。
    つまり,労災保険の遺族補償年金よりも遺族の収入要件は緩やかなものになっています。

9 自賠責保険金,搭乗者傷害保険金,人身傷害補償保険及び政府保障事業による填補と損益相殺
(1) 自賠責保険金と損益相殺
ア 不法行為による損害賠償債務は,不法行為の日に発生し,かつ,何らの催告を要することなく遅滞に陥ります(最高裁大法廷平成27年3月4日判決。なお,先例として,最高裁昭和37年9月4日判決参照)。
イ 自賠責保険金が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されます(最高裁平成16年12月20日判決)。
ウ 自賠責保険の場合,保険会社が損害賠償額の支払に当たって算定した損害の内訳は支払額を算出するために示した便宜上の計算根拠にすぎません(最高裁平成10年9月10日判決)。
(2) 搭乗者傷害保険金と損益相殺
ア 搭乗者傷害保険は,保険契約者及びその家族,知人等が被保険自動車に搭乗する機会が多いことにかんがみ,右の搭乗者又はその相続人に定額の保険金を給付することによって,これらの者を保護しようとするものですから,搭乗者傷害保険の死亡保険金は被保険者が被った損害をてん補する性質を有しません。
    そのため,自分の自動車保険から搭乗者傷害保険金を受領した場合,損害賠償金は削られません(最高裁平成7年1月30日判決)。
イ 加害者又は加害者側が搭乗者傷害保険の保険料を支払っていた場合(被害者が加害者の同乗者であった場合に当てはまる可能性があります),搭乗者傷害保険金は慰謝料減額事由として斟酌されることが多いです(たかつき法律事務所HPの「搭乗者傷害保険金は賠償金から差し引かれるのでしょうか?」参照)。
(3) 人身傷害補償保険と損益相殺
ア 保険会社は保険金請求権者の権利を害さない範囲内に限り保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害補償条項の被保険者である被害者に過失がある場合において,上記条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が民法上認められるべき過失相殺前の損害額を上回るときに限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得します(最高裁平成24年5月29日判決。なお,先例として,最高裁平成24年2月20日判決)。
イ  人身傷害保険について保険会社が被害者に対して自賠責保険分を含めて一括払することを合意した場合において,保険会社が自賠責保険から支払を受けた損害賠償額相当額を被害者の損害賠償請求権の額から控除することはできません(最高裁令和4年3月24日判決参照)。
(4) 政府保障事業による填補と損益相殺
・  被害者が自賠法73条1項所定の他法令給付(同項に掲げる法令に基づく同法72条1項による損害のてん補に相当する給付)に当たる年金の受給権を有する場合において,政府が同法72条1項によりてん補すべき損害額は,支給を受けることが確定した年金の額を控除するのではなく,当該受給権に基づき被害者が支給を受けることになる将来の給付分も含めた年金の額を控除して,これを算定すべきです(最高裁平成21年12月17日判決)。

9の2 遺族年金及び生命保険金と損益相殺
(1) 遺族年金と損益相殺
ア 国民年金法及び厚生年金保険法に基づく障害年金の受給権者が不法行為により死亡した場合において,その相続人のうちに,障害年金の受給権者の死亡を原因として遺族年金の受給権を取得した者があるときは,遺族年金の支給を受けるべき者につき,支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で,その者が加害者に対して賠償を求め得る損害額からこれを控除すべきものとされています(最高裁平成11年10月22日判決。なお,先例として,最高裁大法廷平成5年3月24日判決参照)。
イ 不法行為により死亡した被害者の相続人が,その死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得したときは,被害者が支給を受けるべき障害基礎年金等に係る逸失利益だけでなく,給与収入等を含めた逸失利益全般との関係で,支給を受けることが確定した遺族厚生年金を控除すべきものとされています(最高裁平成16年12月20日判決)。
(2) 生命保険金と損益相殺
ア  生命保険金は、不法行為による死亡に基づく損害賠償額から控除すべきではありません(最高裁昭和39年9月25日判決)。
イ 生命保険契約に付加された特約に基づいて被保険者である受傷者に支払われる傷害給付金又は入院給付金は、既に払い込んだ保険料の対価としての性質を有し、たまたまその負傷について第三者が受傷者に対し不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償義務を負う場合においても、右損害賠償額の算定に際し、いわゆる損益相殺として控除されるべき利益には当たりません(最高裁昭和55年5月1日判決。なお,先例として,最高裁昭和50年1月31日判決参照)。

9の3 租税及び養育費と損益相殺
(1) 租税と損益相殺
・ 不法行為の被害者が負傷のため営業上得べかりし利益を喪失したことによって被った損害額を算定するにあたっては,営業収益に対して課せられるべき所得税その他の租税額を控除すべきではありません(最高裁昭和45年7月24日判決)。
(2) 養育費と損益相殺
・ 交通事故により死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定については,幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなった場合においても,将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきではありません(最高裁昭和53年10月20日判決。なお,先例として,最高裁昭和39年6月24日判決参照)。

10 人身傷害補償保険の保険金と税金(参考)

(1)ア 日本損害保険協会HPの「保険金と税金」によれば,人身傷害補償保険の死亡保険金のうち被保険者自身の過失部分だけが課税対象となります(平成11年10月18日付の国税庁法令解釈通達「人身傷害補償保険金に係る所得税、相続税及び贈与税の取扱い等について」参照)。
    そして,被相続人が保険料を負担している場合は相続税となり,保険金受取人が保険料を負担している場合は所得税(一時所得)となり,第三者が保険料を負担している場合(例えば,父親が保険料を負担し,被保険者としての母親が死亡した場合において,子どもが保険金受取人となる場合)は贈与税となります。
イ リンク先の説明と異なり,搭乗者傷害保険の死亡保険金は定額の保険金給付であって損害をてん補する性質を有しません(最高裁平成7年1月30日判決)から,傷害保険の死亡保険金と同様にその全額が所得税(一時所得),相続税又は贈与税の課税対象になると思います。
ウ 死亡保険金の受取人が相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません。)である場合、全ての相続人が受け取った保険金の合計額が次の算式によって計算した非課税限度額を超えるとき、その超える部分が相続税の課税対象になります(国税庁タックスアンサーの「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」参照)。
500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額
(2) 心身に加えられた損害に起因して取得する保険金・共済金及び損害賠償金は非課税所得です(所得税法9条1項18号(令和3年度税制改正前の所得税法9条1項17号)及び所得税法施行令30条1号)。
    そのため,人身傷害補償保険の後遺障害保険金及び医療保険金は,被保険者自身の過失部分についても非課税となります。

11 共同不法行為に関するメモ書き(参考)
(1) 共同不法行為者の責任

ア 交通事故の被害者がその後に第二の交通事故により死亡した場合,最初の事故の後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たっては,死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではありません(最高裁平成8年5月31日判決)。
イ 交通事故と医療事故とが順次競合し,そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって,運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において,各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯責任を負うべきものであり,結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害額を案分し,責任を負うべき損害額を限定することはできません(最高裁平成13年3月13日判決)。
(2) 共同不法行為と過失相殺
ア 交通事故と医療事故とが順次競合し,そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって,運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において,過失相殺は,各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり,他の不法行為者と被害者との間における過失の割合をしんしゃくしてすることは許されません(最高裁平成13年3月13日判決)。
イ 複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(いわゆる絶対的過失割合)を認定することができるときには,絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について,加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負います(最高裁平成15年7月11日判決)。
(3) 共同不法行為者が損害の一部を支払った場合
・ 1つの交通事故について甲及び乙が被害者丙に対して連帯して損害賠償責任を負う場合において,乙の損害賠償責任についてのみ過失相殺がされ,両者の賠償すべき額が異なるときは,甲がした損害の一部てん補は,てん補額を丙が甲からてん補を受けるべき損害額から控除しその残損害額が乙の賠償すべき額を下回ることにならない限り,乙の賠償すべき額に影響しません(最高裁平成11年1月29日判決(判例秘書に掲載))。
(4) 共同不法行為者間の求償
ア 自賠責保険金は,被保険者の損害賠償債務の負担による損害をてん補するものであるから,共同不法行為者間の求償関係においては,被保険者の負担部分に充当されます(最高裁平成15年7月11日判決)。
イ 共同不法行為者の一人甲と被害者丙との間で成立した訴訟上の和解により,甲が丙の請求額の一部につき和解金を支払うとともに,丙が甲に対し残債務を免除した場合において,他の共同不法行為者乙に対しても残債務の免除の効力が及ぶときは,甲の乙に対する求償金額は,確定した損害額である右訴訟上の和解における甲の支払額を基準とし,双方の責任割合に従いその負担部分を定めて,これを算定すべきとされます(最高裁平成10年9月10日判決。なお,先例として,最高裁昭和63年7月1日判決及び最高裁平成3年10月25日判決参照)。
ウ 一問一答 民法(債権関係)改正119頁には以下の記載があります。
    例えば、旧法下の判例(最判昭和63年7月1日)は、一般的に不真正連帯債務と解されている共同不法行為に基づく損害賠償債務のケースで、弁済などをした連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、自己の負担部分を超えて共同の免責を得ていない限り、求償はできないとするが、一部しか弁済がされていない場合は、他の連帯俄務者は、弁済をした連帯債務者からの求償に応じるよりもむしろそれを被害者への賠償にあてることが被害者保護に資するという考え方にも合理性があるから、共同不法行為のケースには新法第442条第1項(改正の内容については、Q66参照)を適用しないという解釈もあり得るものと考えられる。
(5) その他
・  不真正連帯債務者中の一人と債権者との間で右債務者の反対債権をもってする相殺を認める判決が確定しても,右判決の効力は他の債務者に及ぶものではありません(最高裁昭和53年3月23日判決)。

12 相殺の抗弁に関するメモ書き(参考)
(1) 係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張すること(いわゆる相殺の抗弁後行型)は許されません(最高裁平成3年12月17日判決。なお,先例として,最高裁昭和63年3月15日判決参照)。
(2)  訴訟上の相殺の抗弁に対し訴訟上の相殺を再抗弁として主張することは,許されません(最高裁平成10年4月30日判決)。
(3)  一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えを提起している場合において,当該債権の残部を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは,債権の分割行使をすることが訴訟上の権利の濫用に当たるなど特段の事情の存しない限り,許されます(最高裁平成10年6月30日判決)。
(4) 本訴及び反訴が係属中に,反訴原告が,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは,異なる意思表示をしない限り,反訴を,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分を反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更するものとして,許されます(最高裁平成18年4月14日判決)。
(5) 抵当不動産の賃借人は,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後においても,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができます(最高裁平成21年7月3日判決)。
(6)  本訴において訴訟物となっている債権の全部又は一部が時効により消滅したと判断されることを条件として,反訴において,当該債権のうち時効により消滅した部分を自働債権として相殺の抗弁を主張することは許されます(最高裁平成27年12月14日判決)。
(7)  請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし,他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に,本訴原告が,反訴において,上記本訴請求債権を自働債権とし,上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許されます(最高裁令和2年9月11日判決)。

13 遅延損害金に関するメモ書き(参考)
(1) 一般論
ア 不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生と同時に,なんらの催告を要することなく,遅滞に陥ります(最高裁平成7年7月14日判決(判例秘書に掲載)。なお,先例として,最高裁昭和37年9月4日判決)。
イ  不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用の賠償債務は,当該不法行為の時に履行遅滞となります(最高裁昭和58年9月6日判決)。
ウ 同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする損害賠償債務は一個と解すべきであって,一体として損害発生の時に遅滞に陥るものであり,個々の損害費目ごとに遅滞の時期が異なるものではありません(最高裁昭和58年9月6日判決参照)から,同一の交通事故によって生じた身体傷害を理由として損害賠償を請求する事件において,個々の遅延損害金の起算日の特定を問題にする余地はありません(最高裁平成7年7月14日判決(判例秘書に掲載))。
(2) 労災保険及び厚生年金保険の場合,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないこと
ア 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整が行われます最高裁大法廷平成27年3月4日判決)。
イ 最高裁大法廷平成27年3月4日判決の事案では,葬祭料の他,事実審の口頭弁論終結時までの遺族補償年金が損益相殺の対象となりました。
ウ 遺族補償年金が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかである(民法491条1項参照)と判示した最高裁平成16年12月20日判決は,最高裁大法廷平成27年3月4日判決によって変更されました。
エ 最高裁平成16年12月20日判決は,死亡事案において,厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金が損害賠償債務の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,事故の日から上記年金の支払日までの間に発生した遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかであると判示しているものの,最高裁大法廷平成27年3月4日判決の判断内容からすれば,遺族厚生年金についても,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないことになると思います。
(3) その他
 二弁フロンティア2022年4月号「【前編】交通事故訴訟の最新の運用と留意点~東京地裁民事第27部(交通部)インタビュー~」には「民事交通訴訟では、共同不法行為者間の求償債務が問題となることもありますが、この求償債務については、期限の定めのない債務とみて、遅延損害金の起算日を求償金支払催告日の翌日とした判例(最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決・民集52巻6号1494頁)がありますので、催告日の翌日の法定利率によって遅延損害金を算定することとなります。」と書いてあります。
イ 不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできません(最高裁令和4年1月18日判決)。
ウ 「実務に役立つ交通事故判例-東京地裁民事第27部裁判例から」327頁には,東京地裁交通部の取扱いとして,「自賠責保険の損害賠償額については遅延損害金から充当され,対人賠償責任保険からの支払いは,損害費目との結び付きが明確であれば元本に充当する黙字の合意を認めている。」と書いてあります。

14 時効中断に関するメモ書き(参考)
(1)ア  不法行為による受傷の後遺症が顕在化したのちにおいて,症状は徐々に軽快こそすれ,悪化したとは認められないなど,受傷したのちの治療経過が原審認定のとおりである場合には,右後遺症が顕在化した時が民法724条にいう損害を知った時にあたり,その時から後遺症に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行します(最高裁昭和49年9月26日判決)。
イ 交通事故により負傷した者が,後遺障害について症状固定の診断を受け,これに基づき自動車保険料率算定会に対して自動車損害賠償責任保険の後遺障害等級の事前認定を申請したときは,その結果が非該当であり,その後の異議申立てによって等級認定がされたという事情があったとしても,上記後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効は,遅くとも上記症状固定の診断を受けた時から進行します(最高裁平成16年12月24日判決)。
(2) 数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合,債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど,残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生じ,債権者は,当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより,残部について消滅時効を確定的に中断することができます(最高裁平成25年6月6日判決)。
(3)ア 訴えの取下げが,権利主張を止めたものでもなく,権利についての判決による公権的判断を受ける機会を放棄したものでもないような場合には,訴えを取り下げても訴えの提起による時効中断の効力は存続します(最高裁昭和50年11月28日判決)。
イ 債権執行の申立てをした債権者が当該債権執行の手続において配当等により請求債権の一部について満足を得た後に当該申立てを取り下げた場合,当該申立てに係る差押えによる時効中断の効力が民法154条により初めから生じなかったことになるわけではない(高松高裁平成29年11月30日決定)のであって,このように解することは最高裁平成11年9月9日判決と相反するものではありません(最高裁平成30年12月18日決定)。
(4)  債権執行における差押えによる請求債権の消滅時効の中断の効力が生ずるためには,その債務者が当該差押えを了知し得る状態に置かれることを要しません(最高裁令和元年9月19日判決)。
(5) 弁護士による企業法律相談HPに債権回収時効一覧表が載っています。

15 失業保険の受給期間の延長(参考)
(1) ハタラクティブHP「失業保険は延長できる!必要書類や手続きのやり方を詳しく解説」には以下の記載があります。
・ 失業保険の受給期間内(原則離職日の翌日から1年間)であれば、延長は可能です。
    また、この期間中にやむを得ない理由で働けない状態が30日以上続いた場合、ハローワークへの申請によって、最長退職日の翌日から4年以内まで受給期間の延長ができます。
    通常の基本手当の受給期間と合わせて3年分の猶予が与えられるので、求職活動を始める際に生活を支援する支給が受けられるのは、非常にメリットが高いといえるでしょう。
・ 失業保険の受給期間延長を申請する際に注意しておきたいのは、「基本手当がもらえる期間が延びる」のではなく、「働ける状態になるまで基本手当の受給を保留しておくもの」であるということ。
(2) 東京労働局HPの「求職者給付に関するQ&A」には,「Q6 病気のためすぐに働くことができません。どのような手続きが必要ですか?」への回答として以下の記載があります。
A6 離職日の翌日から原則として、1年間である受給期間内に働くことができない状態が30日以上続いた場合は、「受給期間延長」の手続きを行うことで、働くことができない日数を受給期間に加算することができます。
  ◆受給期間の延長ができる理由
  (1)妊娠・出産・育児(3歳未満に限る)などにより働くことができない
  (2)病気やけがで働くことができない(健康保険の傷病手当、労災保険の休業補償を受給中の場合を含む)
  (3)親族等の介護のため働くことができない。(6親等内の血族、配偶者及び3親等以内の姻族)
  (4)事業主の命により海外勤務をする配偶者に同行
  (5)青年海外協力隊等公的機関が行う海外技術指導による海外派遣
  (6)60歳以上の定年等(60歳以上の定年後の継続雇用制度を利用し、被保険者として雇用され、その制度の終了により離職した方を含む)により離職し、しばらくの間休養する(船員であった方は年齢要件が異なります)
  ◆受給期間延長手続きを行う時期
  (1)受給期間の延長理由が(1)から(5)の方…
    離職の日(働くことができなくなった日)の翌日から30日過ぎてから早期に申請
   ※申請期間については、受給資格に係る離職の日の翌日から起算して4年を経過する日までの間(延長後の受給期間が4年に満たない場合は当該期間の最後の日までの間)ですが、受給期間延長の申請が遅い場合は、受給期間延長を行っても基本手当の所定給付日数の全てを受給できない可能性がありますので、30日以上職業に就くことができなくなった場合には、できるだけ早期に延長の申請をお願いします。
  (2)受給期間の延長理由が(6)の方…
    離職の日の翌日から2か月以内
 ※在職中に受給期間延長の申請手続きはできません。 
(3) てつづきの美学ブログ「失業手当の初回っていつもらえるの?退職してから振込までの日数を確認」には以下の記載があります。
自己都合で離職した人の場合は、2ヶ月間(※)の給付制限がありますので、初回の失業手当が支給されるのは、ハローワークで手続きをした日(受給資格決定日)から約3ヶ月後(実際に口座に入金されるのは数日後)となります。
(※離職日が2020年9月30日までの方は、給付制限は3ヶ月のため、支給まで期間は受給資格決定日から約4ヶ月後の入金となります。)
(4) 失業保険の受給期間延長の申請期限は平成29年4月1日に変更されています(厚生労働省HPの「平成29年4月1日から、雇用保険の基本手当について受給期間延長の申請期限を変更します」参照)ところ,てつづきの美学ブログ「受給期間延長申請書はどこでもらえるの?ハローワークに聞いてみた!」に受給期間延長申請書の画像データが載っています。
(5) 厚生労働省HPに「2022(令和4)年7月1日から 離職後に事業を開始等した方は雇用保険受給期間の特例を申請できます」が載っています。

16 関連記事その他
(1)ア 労災保険法64条1項に基づく支払猶予の抗弁を請求異議訴訟で主張することはできないと解されています(大阪地裁平成6年11月11日判決(判例秘書に掲載))。
イ 大阪地裁平成27年3月20日判決(判例秘書に掲載)は,労働者災害補償保険法64条1項による支払猶予の抗弁を認め,同項に基づき損害賠償の履行猶予額を算定した事例です。
(2)  金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されません(最高裁平成10年6月12日判決)。
(3)ア 被害者が労災保険給付を受けてもなお塡補されない損害について直接請求権を行使する場合は,他方で労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され,被害者の直接請求権の額と国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときであっても,被害者は,国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限度で自賠法16条1項に基づき損害賠償額の支払を受けることができます最高裁平成30年9月27日判決)。
イ  被害者の有する自賠法16条1項に基づく請求権の額と労災保険法12条の4第1項により国に移転した上記請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超える場合であっても自賠責保険会社が国に対してした損害賠償額の支払は有効な弁済に当たります(最高裁令和4年7月14日判決)。
(4)ア 不法行為に基づく一個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合に,過失相殺をするにあたっては,損害の全額から過失割合による減額をし,その残額が請求額をこえないときは右残額を認容し,残額が請求額をこえるときは請求の全額を認容することができます(最高裁昭和48年4月5日判決)。
イ 交通事故による後遺症のために身体的機能の一部を喪失した場合においても,後遺症の程度が比較的軽微であって,しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないときは,特段の事情のない限り,労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害は認められません(最高裁昭和56年12月22日判決)。
(5) 被害者が不法行為によって死亡し,その損害賠償請求権を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平の見地から,その利益の額を相続人が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図ることが必要なときがあり得ます(最高裁大法廷平成27年3月4日判決。なお,先例として,最高裁大法廷平成5年3月24日判決)。
(6)ア 厚労省HPに以下の文書が載っています。
・ 「労災認定された傷病等に対して労災保険以外から給付等を受けていた場合における保険者等との調整について」(平成29年2月1日付けの厚生労働省労働基準局補償課長の通知) 
イ 協会けんぽHPの「事故にあったとき(第三者行為による傷病届等について)」に交通事故の場合の届書用紙及び記入例が載っています。
(7)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 労災保険給付等に係る支給決定証明願及び支払証明願の取扱について(平成29年3月31日付の厚生労働省労働基準局補償課長及び労災保険業務課長の書簡)
・ 労災保険給付事務取扱手引(令和3年9月1日改正版)
・ 第三者行為災害事務取扱手引(平成30年4月改正版)
・ 労災保険給付の請求人等に対する懇切・丁寧な対応の徹底について(平成22年3月25日付の厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長の書簡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 労災保険の給付内容
・ 労災保険に関する書類の開示請求方法
・ 労災保険の特別加入制度
・ 労災保険に関する審査請求及び再審査請求
・ 労災隠し
・ 弁護士の社会保険
・ 民間労働者と司法修習生との比較
・ 業務が原因で心の病を発症した場合における,民間労働者と司法修習生の比較
・ 平成30年度全国労災補償課長会議資料
・ 厚生労働省労働基準局の,労災保険に係る訴訟に関する対応の強化について

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