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個人名・屋号を貸した後の事業譲渡―名板貸人は譲受人の債務まで負うか(AI作成)

名義を貸した相手が事業を第三者に譲り渡し、その第三者も同じ名前で取引を始めたとき、名義人はどこまで責任を負うのか。最初の使用許諾と譲渡後の使用を分けて判断する。以下は令和8年10月2日現在の法令に基づく整理である。平成15年度司法試験商法第2問のような旧法事案には、出題当時の条文を適用する。

第1 誰の、いつの債務かを先に確定する

甲がAに名称の使用を認め、AがBに事業を譲渡した場合、①甲とAの名義使用、②甲とBの名義使用、③AとBの事業譲渡という三つの関係がある。Aと取引したCの債権、譲渡後にBと取引したDの債権は、成立時期も責任根拠も異なる。

BがAの債務を負うかは、事業譲渡契約、商号続用、債務引受広告などの問題である。甲がBの新しい債務を負うかは、Bによる名義使用を甲に帰属させられるかという別の問題である。事業譲渡の事実だけで、甲のAへの許諾が当然にBへ移るわけではない。

第2 旧商法と現行法で条文の対象が違う

平成15年当時の旧商法23条は、自己の「氏、氏名又ハ商号」を他人に使用させて営業を行うことを許諾した者の責任を定めていた。著名人が個人名を貸した設例では、この文言が出発点となる。

現行の商法14条と会社法9条の文言は「自己の商号」である。単なる個人名やブランド名を貸しただけで、現行の両条を当然に直接適用できると書くのは正確でない。個人名を商号として用いているか、名義人自身が誤認を生む外観の作出に関与したかを個別に検討する。旧法の結論を現行法にそのまま移さない。

第3 最初の営業者への名義使用許諾

名板貸人の責任を検討するには、名義人がAによる営業上の使用を許諾した範囲、顧客から見た営業主体の表示、相手方の誤認を確認する。書面契約だけでなく、看板、広告、契約書、領収書、ウェブサイト、名義人の発言や関与も重要である。

名前が商品や店の品質を示すだけなのか、それとも甲自身が営業するように見せるものなのかを分ける。裁判所公開の平成15年2月28日判決では、ゴルフクラブの表示だけで結論を出さず、入会案内、通知、振込先、領収書に実際の契約主体が明示されていたことなどが検討された。個々の表示が誰を営業主体と示していたかが要点である。

第4 事業譲渡後の使用は改めて判断する

Aへの許諾があっても、Bがその許諾の相手方になるとは限らない。甲がBへの譲渡を承認したか、譲渡後の名称使用を明示又は黙示に認めたか、広告・開店・取引に関与したかを時系列で確かめる。単にBの使用を知らず、差止めをしていないだけで、黙示の許諾が成立したと即断してはならない。

逆に、甲が譲渡を知り、Bを自ら紹介し、甲の名を冠した新店舗の広告や取引書類を承認したなどの事情があれば、Aへの当初の許諾とは別に、Bとの関係で責任の基礎となるかを検討する。名義使用許諾が立証できない場合も、甲が営業主体について誤認を招く外観を自ら作ったかという問題は残る。ただし、外観への関与と第三者の誤認を具体的な証拠で示す必要がある。

第5 旧債務と新債務を混同しない

Aと取引したCが甲に請求する場合、Cの取引時点で甲の名義がどう使われ、甲が何を許し、Cが誰を営業主体と理解したかを調べる。譲渡後にBと取引したDが甲に請求する場合は、Bの取引時点での甲の許諾又は外観作出への関与を別途立証する必要がある。Cに対する責任を認めることと、Dに対する責任を認めることは同義ではない。

一方、CがBにAの旧債務を請求する場合は、会社法22条、商法17条の商号続用責任や債務引受広告を検討する。商号以外の屋号や名称でも、それが営業主体を表示する機能を持つ場合には類推適用が争点となり得る。

最高裁平成16年2月20日判決は、ゴルフクラブ名の続用について、会員が同一主体による営業継続、又は主体は変わっても旧債務を引き受けたと信じることが無理からぬ場合を示し、譲受人が譲受後遅滞なく会員の施設優先利用を拒否したなどの特段の事情を検討させた。この判決は平成15年度試験の出題後のものであり、当時の判例として扱わない。

第6 実務で収集する資料

① 名称使用契約の原本、許諾範囲、譲渡・再許諾の条項
② AからBへの譲渡契約、効力発生日、甲への通知と回答
③ 譲渡前後の看板、広告、ウェブ画面、SNS、ドメイン、電話番号
④ C・Dそれぞれの契約書、請求書、領収書、振込先
⑤ 誰が店舗を運営すると説明したかを示すメール、案内、録音
⑥ 甲が名称使用を承認、宣伝、抗議又は中止要求した日時と記録
⑦ 債権者が当該表示をいつ見て、誰を営業主体と理解したかの資料

取引相手の誤認や、その認識に著しい落ち度があったかは、実際に相手方が接した資料に即して判断する。看板やウェブ画面の存在だけで誤認を推定せず、契約書や振込先に記載された主体との整合も調べる。

第7 名義人・譲受人が備えるべきこと

名義使用契約には、許諾する名称、用途、対象店舗、期間、事業譲渡時の扱い、再許諾の可否、表示の事前承認、終了後の撤去・周知を具体的に定める。譲渡時には、甲がBの使用を認めるかを改めて書面化する。認めない場合は、Bへの中止要求と、取引先に対する営業主体の明確な告知を検討する。

Bは、名称を続用する前に、甲の許諾、Aの旧債務、顧客・取引先への表示を調査する。営業主体の変更と旧債務の扱いを契約書、ウェブサイト、店頭表示、顧客通知で矛盾なく伝える。商号続用については法定の登記・通知の要件と時期も確認する。事業譲渡に伴う旧債権者の請求については、関連記事「事業譲渡で残存債権者は譲受会社に請求できるか」も参照されたい。

第8 参照した一次資料と判断の範囲

① e-Gov法令検索・商法14条、17条、同・会社法9条、22条、23条。
② 最高裁平成16年2月20日判決本文(ゴルフクラブ名と旧債務)。
③ 裁判所公開の平成15年2月28日判決本文(表示・契約書類と名板貸責任)。

個人名・ブランド名と現行法の商号の関係、Bへの黙示の許諾、第三者の誤認は事実により結論が変わる。ここで挙げた裁判例から、名義人がすべての譲受人の債務を負うという一般則は導けない。