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平成20年度最高裁民事破棄判決等の実情―52判決・3決定から学ぶ訴訟の入口・損害額認定・損益相殺と差戻審実務(AI作成)

平成20年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、増森珠美・清野正彦「最高裁民事破棄判決等の実情(上)(下)―平成二〇年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲

1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、平成20年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決及び破棄決定を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2043号3頁以下、2044号14頁以下)。
民集又は集民に登載された判決・決定は判示事項と要旨を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決・決定は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 52判決・3決定という数字の読み方

年次解説によれば、平成20年の新受件数は、上告事件2257件、上告受理申立て事件2653件の合計4910件であり、並行申立て(1801件)を1件と換算すると3109件である。既済件数は合計4634件であり、並行申立て(1682件)を1件と換算すると2952件である。許可抗告事件は新受58件、既済54件であった。

破棄判決は52件、破棄決定は3件である。この52件は判決書単位の数であり、上告と上告受理申立ての並行申立てがされた事件や、複数の当事者からの上訴を併合した事件を一通の判決書で処理したものは1件と数えている。年次解説の目次では、判決はすべて「論旨に基づいて破棄された判決」に分類されている。

年次解説の破棄事件判決一覧表の結果欄を数えると、差戻し(一部破棄差戻しを含む。)が28件、自判(一部破棄自判を含む。)が24件である。ただし、「自判」には、第一審判決を取り消して第一審へ差し戻したもの(土地区画整理事業計画の判決及び入会権確認の判決)も含まれている。

これらは旧来の上告制度ではなく現行民事訴訟法下の数字であるが、それでも、特定年度の判決書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 52判決・3決定の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成20年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果
1月18日・二小平成18年(受)第2268号第一の基本契約に係る過払金を第二の基本契約の借入金債務に充当することの可否差戻し
1月18日・二小平成17年(行ヒ)第304号土地開発公社が市との委託契約に基づいて先行取得した土地について市がその義務の履行として同公社から同土地を買い取る売買契約を締結することが違法となる場合差戻し
1月24日・一小平成18年(受)第1572号遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得する時期一部自判
1月24日・一小平成18年(受)第1154号労働者が労働基準法76条所定の休業補償と同一の事由について休業補償給付を受けるべき場合における使用者の休業補償義務の範囲自判
1月28日・二小平成17年(受)第1372号融資を実行した銀行の取締役の責任(拓銀栄木関係)一部自判
1月28日・二小平成17年(受)第1440号融資を実行した銀行の取締役の責任(拓銀カブトデコム関係)自判
2月15日・二小平成18年(受)第2084号有価証券募集の際の不実の目論見書の使用者の損害賠償責任差戻し
2月18日・一小平成19年(行ヒ)第138号原爆被爆者に対する援護に関する法律に基づく健康管理手当の受給権につき地方自治法236条の消滅時効を主張することの可否自判
2月19日・三小平成15年(行ツ)第157号・同年(行ヒ)第164号輸入しようとした写真集の関税定率法(平成17年法律第22号による改正前)21条1項4号「風俗を害すべき書籍、図画」該当性一部自判
2月22日・二小平成19年(受)第528号会社の貸付けと商行為性の推定差戻し
2月28日・一小平成19年(受)第733号保険金請求権の消滅時効と約款に基づく履行期の合意による延長差戻し
2月28日・一小平成17年(行ヒ)第47号生活保護開始決定の変更決定の適否自判
2月29日・二小平成19年(受)第955号他の相続人に無断で相続財産を葬儀費用に支出した相続人が不法行為責任を負うか一部差戻し
2月29日・二小平成18年(受)第192号賃料自動改定特約のある建物賃貸借契約の相当賃料額算定に当たり経済事情の変動等を考慮すべき期間差戻し
3月6日・一小平成19年(オ)第403号・同年(受)第454号住基ネットと憲法13条自判
3月7日・二小平成19年(受)第980号競売建物につき法定地上権を考慮せずに代金額を算定した原審の判断の当否一部差戻し
3月17日・一小平成18年(行ヒ)第168号公金の支出から1年を経過して住民監査請求がされたことについての正当な理由の有無差戻し
3月18日・三小平成18年(受)第2056号いわゆるわらの上からの養子に対する親子関係不存在確認請求と韓国法における権利濫用差戻し
3月27日・一小平成18年(受)第1870号労災に基づく損害賠償請求事件における使用者側の過失相殺の主張の可否差戻し
3月27日・一小平成18年(行ヒ)第102号土地の譲渡所得が確定申告において税額の計算の基礎とされていなかったことについての正当な理由の有無一部自判
4月15日・三小平成18年(受)第263号弁護士と受刑者との接見を許可しなかった刑務所長の措置の違法性自判
4月18日・二小平成19年(受)第1180号小学校の教室内の事故につき担任教諭の過失を認めた原審の判断の当否自判
4月24日・一小平成18年(受)第1632号チーム医療の総責任者の説明義務差戻し
6月4日・大法廷平成18年(行ツ)第135号国籍法3条1項の憲法適合性と日本国籍の取得の可否(退去強制令書発付処分取消等)自判
6月4日・大法廷平成19年(行ツ)第164号国籍法3条1項の憲法適合性と日本国籍の取得の可否(国籍確認)自判
6月10日・三小平成18年(受)第265号採石権侵害の不法行為による損害と民訴法248条一部差戻し
6月10日・三小平成19年(受)第569号ヤミ金融業者による高利の貸付けと損益相殺差戻し
6月10日・三小平成18年(受)第890号会社分割後のゴルフクラブの名称続用と会社法22条1項の類推適用自判
6月12日・一小平成19年(受)第808号ほか5件取材を受けた者が放送内容等について抱いた期待、信頼が侵害されたことを理由とする不法行為の成否自判
6月24日・三小平成19年(受)第1146号投資資金名目の詐欺と損益相殺差戻し
7月4日・二小平成19年(受)第1401号コンビニのフランチャイザーの加盟店に対する報告義務差戻し
7月4日・二小平成19年(受)第1386号・同年(オ)第1515号パトカーと衝突した自動二輪車の運転者の過失を同乗者の過失として過失相殺することの可否差戻し
7月8日・三小平成18年(受)第1214号パチンコ店開業妨害目的で診療所を開設するなどした医師等の不法行為責任一部差戻し
7月10日・一小平成19年(受)第1985号債権の一部についての前訴の確定判決の既判力差戻し
7月10日・一小平成19年(行ヒ)第318号特許異議申立事件係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合の許否の判断一部自判
7月15日・三小平成18年(受)第1877号瑕疵ある建物について建築士が不法行為責任を負う場合差戻し
7月17日・一小平成18年(受)第1818号訴え提起に同調しない入会権者を被告に加えた入会権確認の訴えの当事者適格自判
9月8日・二小平成19年(受)第46号不真正連帯債務関係にある被告らのうち一名に対する関係でのみ相殺の効力を認めた原審の判断の当否一部自判
9月8日・二小平成19年(行ヒ)第223号土人形等を指定商品とする商標の類否差戻し
9月10日・大法廷平成17年(行ヒ)第397号市町村施行の土地区画整理事業の事業計画の決定の行政処分該当性自判
9月12日・二小平成19年(オ)第1344号代表権の欠缺差戻し
9月12日・二小平成19年(受)第1040号子の友人が運転中に起こした事故と父親の自賠法3条にいう「運行供用者性」差戻し
10月7日・三小平成20年(受)第12号被害者側加入の人身傷害保険金を過失相殺後の損害額から控除した原審の判断の当否差戻し
10月10日・二小平成19年(受)第152号振込の原因となる法律関係が存在しない場合における預金の払戻請求と権利濫用差戻し
10月10日・二小平成19年(行ヒ)第68号20歳未満で統合失調症を発症したが医師の診断を受けた時点で20歳に達していた大学の学生等の障害基礎年金の受給権の有無自判
10月24日・二小平成19年(行ヒ)第285号都民税の減額更正により生じた過納金に係る還付加算金の起算日一部差戻し
11月7日・二小平成19年(受)第1878号目撃者に準ずる者の証人尋問を行わずに痴漢行為を認定した原審の判断の当否差戻し
11月25日・三小平成19年(行ヒ)第91号建築基準法42条2項所定の「現に建築物が立ち並んでいる道」該当性自判
11月27日・一小平成19年(行ヒ)第215号普通地方公共団体の予算執行職員等が地方自治法(平成18年法律第53号による改正前)243条の2第1項後段による損害賠償責任を負う場合自判
12月11日・一小平成20年(行ヒ)第29号遺産分割調停調書を添付してされた建物の所有権移転登記申請についての登記原因証明情報の提供の有無自判
12月19日・二小平成19年(行ヒ)第222号市町村施行の土地区画整理事業の事業計画の変更決定の行政処分該当性自判
12月19日・二小平成19年(受)第670号過払金返還の際に悪意の受益者が付すべき利息の利率差戻し

破棄決定3件は、いずれも許可抗告事件であり、次のとおりである。

決定日・法廷事件番号内容結果
3月26日・二小平成19年(許)第34号上告受理申立て理由書に所定の理由の記載がないとして上告受理申立てを却下した原決定の当否破棄
7月18日・二小平成20年(許)第12号簡易裁判所の管轄に属する訴訟について、被告の移送申立てを却下する地方裁判所の判断と裁量自判
12月16日・三小平成20年(許)第46号同上(専属的管轄合意に係る簡易裁判所への移送申立て)自判

第3 55件から見える五つの監査領域

1 訴訟の入口と手続の土台

代表権の欠缺が問題となった9月12日第二小法廷判決は、適式に選任された代表者による追認の主張について更に審理させるため、原判決を破棄して差し戻した。年次解説が摘記する判決文は、訴訟行為をするのに必要な授権の有無は職権探知事項であるとしている。

入会権確認の訴えについての7月17日第一小法廷判決は、入会集団の一部の構成員が、訴えの提起に同調しない構成員も被告に加え、構成員全員が訴訟当事者となる形式で第三者に対して入会権確認の訴えを提起することができるとして、原告適格を欠くとして訴えを却下した原判決を破棄し、第一審へ差し戻した。固有必要的共同訴訟であっても、非同調者がいることだけで権利確認の道が閉ざされるわけではない。

市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定(9月10日大法廷判決)及びその変更決定(12月19日第二小法廷判決)は、いずれも抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとされた。

破棄決定では、上告受理申立て理由書に経験則違反等の記載があるのに、所定の理由の記載がないとして申立てを却下した原決定が破棄された(3月26日第二小法廷決定)。簡易裁判所への移送申立てを却下する地方裁判所の判断は、専属的管轄の合意がある場合を含め、地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられるとされた(7月18日第二小法廷決定、12月16日第三小法廷決定)。

受任時、争点整理終結時及び上訴前には、代表権・授権、当事者の配置、処分性、上訴理由書の記載事項及び管轄を一覧にして点検するとよい。

2 事実認定と損害額の認定

痴漢行為の有無が争われた損害賠償請求事件(11月7日第二小法廷判決)では、目撃者が見付からない中で、電話を通じて当事者の発言を聞いていた人物が目撃証人に準ずる立場にある唯一の人物であったのに、その証人尋問をしないまま一方当事者の供述の信用性を肯定した原審の判断に、審理不尽の違法があるとされた。客観的証拠が乏しく、供述の信用性が正面から対立する事件では、その対立を解く鍵となる人証の申出を、採否の理由とともに記録に残すことが重要である。

一部請求後の残部請求が問題となった7月10日第一小法廷判決は、前訴において一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨が明示されていたとして、前訴の確定判決の既判力が後訴に及ばないとした。どのような場合に一部請求であることの明示があったといえるかの事例判断である。

採石権侵害の事件(6月10日第三小法廷判決)は、損害の発生が明らかな以上、損害額の立証が極めて困難であっても、民訴法248条により相当な損害額が認定されなければならないとした(第4の4)。

3 不当利得・過払金と損益相殺

平成20年度には、過払金の充当(1月18日第二小法廷判決)、悪意の受益者が付すべき利息の利率(12月19日第二小法廷判決)等、貸金業者に対する過払金返還請求に関する判決が含まれている。

損益相殺については、ヤミ金融業者による著しく高利の貸付け(6月10日第三小法廷判決、第4の3)のほか、投資資金名目の詐欺(6月24日第三小法廷判決)及び被害者側が加入していた人身傷害保険金の控除(10月7日第三小法廷判決)が問題となった。いずれも原判決が破棄されており、本記事では、被害者が受け取った金銭がどのような性質のもので、どの損害を填補するものかを特定しないまま、機械的に損害額から控除することへの是正として整理する。

4 契約・会社・取引の外観

コンビニエンスストアのフランチャイザーの加盟店に対する報告義務(7月4日第二小法廷判決)、賃料自動改定特約のある建物賃貸借の相当賃料額の算定(2月29日第二小法廷判決)、保険金請求権の消滅時効と約款に基づく履行期の延長の合意(2月28日第一小法廷判決)は、いずれも契約書の条項だけでなく、当事者間の実際の取引関係や合意の経過を見なければ結論が出ない事件である。

会社関係では、会社分割後のゴルフクラブの名称続用(第4の5)のほか、北海道拓殖銀行の取締役の融資判断に関する2件(1月28日第二小法廷判決)及び会社の貸付けと商行為性の推定(2月22日第二小法廷判決)がある。

5 行政・税・公金

国籍法3条1項の違憲判断(6月4日大法廷判決、第4の1)のほか、過少申告加算税の「正当な理由」(3月27日第一小法廷判決)、還付加算金の起算日(10月24日第二小法廷判決)、住民監査請求の期間制限と「正当な理由」(3月17日第一小法廷判決)、地方公共団体の予算執行職員等の賠償責任(11月27日第一小法廷判決)等、行政・税・公金に関する判決が多い。

税務・公金の事件では、どの項目について、いつ、誰が、どの情報を知り得たかを時系列で整理し、項目ごとに判断することが重要である。

第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決

1 国籍法3条1項の違憲判断―準正要件を除いた要件で国籍を取得する

最高裁平成20年6月4日大法廷判決(平成19年(行ツ)第164号、集民228号101頁)は、国籍法3条1項が、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子について、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した場合に限り届出による日本国籍の取得を認めていることによって生じる区別は、遅くとも上告人らが国籍取得届を提出した平成17年当時において、憲法14条1項に違反していたとした。
その上で、準正要件を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは、同項に基づいて日本国籍を取得するとして、原判決を破棄し、国の控訴を棄却した。
同日、同じ論点についての別件(平成18年(行ツ)第135号)も破棄自判とされている(本記事では年次解説による確認にとどまる)。

その後、国籍法は改正されているから、現在の事件では、改正後の条文と経過措置を確認する必要がある。

2 土地区画整理事業計画の決定の処分性―早い段階で争う道を開く

最高裁平成20年9月10日大法廷判決(平成17年(行ヒ)第397号、民集62巻8号2029頁)は、市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとした。
主文は、原判決のうち被上告人に関する部分を破棄し、同部分につき第一審判決を取り消して、本件を静岡地方裁判所に差し戻すものである。年次解説の一覧表では「破棄自判」に分類されているが、本案の審理はこれから第一審で行われる。

処分性が認められると、取消訴訟の出訴期間との関係も問題となる。計画段階の決定を争うかどうかは、後続の処分を待って争う場合との比較で、早めに判断する必要がある。

3 ヤミ金融業者の貸付けと損益相殺―民法708条の趣旨

最高裁平成20年6月10日第三小法廷判決(平成19年(受)第569号、民集62巻6号1488頁)は、社会の倫理、道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が、その行為に係る給付を受けて利益を得た場合には、加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく、被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において、その利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することも、民法708条の趣旨に反するものとして許されないとした。
ヤミ金融の組織に属する業者が年利数百%から数千%の著しく高利の貸付けの形をとって金員を交付した事案について、借主の損害額から貸付金相当額を控除した原判決を破棄し、高松高裁に差し戻した。

4 採石権侵害と民訴法248条―損害額が分からないことを理由に請求を棄却しない

最高裁平成20年6月10日第三小法廷判決(平成18年(受)第265号、集民228号181頁)は、採石権を有する土地で相手方が採石したとの事実が認定されており、損害が発生したことは明らかである以上、その後の適法な採石と区別できず損害額の立証が極めて困難であったとしても、民訴法248条により、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて相当な損害額が認定されなければならないとして、損害額を算定できないことを理由に請求を棄却した原判決の一部を破棄し、福岡高裁に差し戻した。

原告側は、損害発生の基礎事実と、数量・単価・期間等の推計資料を分けて提出しておくべきである。

5 会社分割とゴルフクラブの名称続用―会社法22条1項の類推適用

最高裁平成20年6月10日第三小法廷判決(平成18年(受)第890号、集民228号195頁)は、預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の事業主体を表示するものとして用いられている場合において、会社分割に伴いゴルフ場の事業を承継した会社がその名称を引き続き使用しているときは、会社分割後遅滞なく会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り、会社法22条1項の類推適用により、会員が分割をした会社に交付した預託金の返還義務を負うとした。原判決を破棄し、承継会社に預託金3500万円等の支払を命じた。

事業を承継する側は、名称の続用によって会員の信頼が生じることを前提に、承継しない債務の扱いを会員に明確に知らせる必要がある。

第5 破棄差戻し後まで見据える

結果欄で数えると、52判決中28件が差戻し(一部破棄差戻しを含む。)である。さらに、土地区画整理事業計画の判決や入会権確認の判決のように、一覧表で「自判」とされていても、第一審判決を取り消して第一審へ差し戻し、本案の審理がこれから始まるものもある。

破棄差戻しは上告人の最終勝訴を意味しない。上告段階から、最高裁に求める法的判断と、差戻し後に追加で主張立証すべき事実を分けて準備しておくべきである。差戻審の初動については、民事の破棄差戻審―拘束力,残存争点及び主張立証も参照されたい。

第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順

平成20年度の判決には、平成17年改正前の商法、改正前の監獄法、証券取引法、関税定率法、地方自治法、改正前の民法の遺留分減殺請求・時効の規定等を前提とするものが含まれている。国籍法3条1項も、大法廷判決の後に改正された。

古い判決を現在の事件で用いるときは、①判決が示した一般的な法理を特定し、②その前提となった判決当時の条文、③現行の条文、④施行日・経過措置、⑤後続判例を順に確認する。判旨が現在も参考になることと、当時の条文がそのまま現在の事件を規律することとは別である。

第7 受任後に作る四つの実務台帳

① 入口・手続台帳:代表権・授権、当事者の配置(非同調者を含む。)、処分性、出訴期間、管轄及び上訴理由書の記載事項を記載する。
② 証拠・損害台帳:争点ごとの決定的な人証・書証、その申出と採否、損害発生の基礎事実及び損害額の推計資料を分けて記載する。
③ 受領金台帳:被害者が受け取った金銭ごとに、その性質、給付の根拠、填補する損害項目及び損益相殺の可否を記載する。
④ 差戻審台帳:最高裁が確定した法的判断、拘束される事項、残された争点、追加証拠及び想定される主文を記載する。

汎用的な点検項目は、最高裁民事破棄判決から作る原判決監査チェックリストも参照されたい。前後の年度については、平成19年度最高裁民事破棄判決等の実情及び平成21年度最高裁民事破棄判決等の実情がある。

第8 出典及び確認状態

① 増森珠美・清野正彦「最高裁民事破棄判決等の実情(上)(下)―平成二〇年度―」判例時報2043号3頁以下、2044号14頁以下(年度集計・事件索引として利用した二次資料。上下とも通読した)
② 最高裁平成20年6月4日大法廷判決(平成19年(行ツ)第164号。裁判所公式全文)
③ 最高裁平成20年9月10日大法廷判決(平成17年(行ヒ)第397号。裁判所公式全文)
④ 最高裁平成20年6月10日第三小法廷判決・平成19年(受)第569号(裁判所公式全文)
⑤ 最高裁平成20年6月10日第三小法廷判決・平成18年(受)第265号(裁判所公式全文)
⑥ 最高裁平成20年6月10日第三小法廷判決・平成18年(受)第890号(裁判所公式全文)
⑦ 上記以外の47判決及び破棄決定3件:年次解説を確認したが、個別の本文は未照合である。

個別事件でこれらの判決を用いるときは、原判決、訴訟記録、現行法令、後続判例及び利用可能な認証データベースの本文を改めて確認する必要がある。