最高裁大法廷は平成27年12月16日、旧民法733条1項の再婚禁止期間のうち100日を超える部分が平成20年当時には違憲であったと判断した。しかし、国会がその時点まで改廃しなかったことについては国家賠償法上の違法性を否定し、賠償請求を棄却した。違憲判断と個別の賠償請求の成否は別の問題である。本稿は、判例秘書収録の判決本文で確認できた一つの後続訴訟の第一審・控訴審を紹介し、時効と損害立証の検討方法を示す。
第1 平成27年大法廷判決の射程
大法廷は、平成20年に前婚を解消した女性の事件で、100日超過部分の違憲性を認めた。他方、国会議員による立法不作為が国家賠償法1条1項上違法となるには、違憲性が明白であるのに正当な理由なく長期にわたって改廃を怠ったといえる場合などであるとし、平成20年当時についてその要件を満たさないと判断した。判決が慰謝料を算定したわけではなく、請求は棄却された。平成27年大法廷判決全文を参照されたい。
平成7年判決との違いは、再婚禁止期間の平成7年・平成27年最高裁判決と国家賠償で検討した。本稿で扱う平成30年の二判決は、これら最高裁判決とは別の事件であり、同じ訴訟の第一審と控訴審である。
第2 平成30年東京地裁・高裁判決
1 届出、請求と結論
東京地裁平成30年3月13日判決(平成27年(ワ)第28945号、判例秘書文献番号L07331663)によれば、女性は平成27年5月15日に離婚し、同年7月10日に新たな相手との婚姻届を提出したが受理されず、同年11月22日に婚姻した。7月10日の届出は離婚から約56日後であり、100日を経過する前である。この時点の不受理を、最高裁が違憲とした「100日超過部分」による不受理と表現してはならない。
女性、新たな配偶者及び子がそれぞれ100万円の慰謝料を請求したが、東京地裁は請求を棄却した。請求額の合計300万円は認容額ではない。判決は、100日経過後も再婚できなかったという主張も検討した上で、当該時期の立法不作為について国賠法上の違法性を認めなかった。
東京高裁平成30年9月27日判決(平成30年(ネ)第1602号、判例秘書文献番号L07320602)も控訴を棄却した。高裁判決の事件番号と年月日は東京高裁の特別保存事件一覧でも確認できる。ただし、同一覧は判決理由を掲載する資料ではない。本稿の地裁・高裁の認定及び判断は判例秘書収録の各判決本文による。
2 判決が判断していないこと
両判決は立法不作為の国賠法上の違法性を否定して請求を退けた。消滅時効の起算点や完成の有無を確定した事例でも、慰謝料の相当額を算定した事例でもない。したがって、「平成30年判決が時効は3年と判断した」「慰謝料を1人100万円と認定した」という紹介は誤りである。
平成27年(ワ)の事件番号から、訴えの提起年は平成27年と分かるが、提訴の具体的な月日をこの番号だけで確定できない。「平成27年大法廷判決後に提起された訴訟」とも断定しない。
第3 消滅時効を調べる順序
1 適用法と起算点
国家賠償法4条により、同法に特別の規定がない事項には民法を適用する。令和2年4月1日の改正民法施行前の不法行為に係る旧民法724条は、損害及び加害者を知った時から3年、行為時から20年という期間を定めていた。改正後の民法724条も一般の不法行為について主観的起算点から3年、行為時から20年を定め、724条の2は生命・身体侵害による損害賠償請求の主観的期間を5年とする。改正法附則の経過措置も確認する必要がある。
精神的苦痛を請求するというだけで724条の2の5年になるわけではない。また、最高裁の平成27年判決が出た日を一律に時効の起算日とする根拠もない。届出の不受理、100日経過後の取扱い、婚姻が成立した日、損害を認識した経緯、請求権者ごとの認識及び訴訟上の手続を時系列に置き、適用法・経過措置・時効の完成猶予や更新の有無を個別に調べる。
2 実務で集める資料
戸籍謄本、離婚届と婚姻届の写し、不受理証明又は窓口の記録、届出時の説明、再提出の記録、当事者間の連絡、婚姻が遅れたことによる具体的な不利益の資料を確保する。損害の発生・認識時期が争われるときは、単なる後日の陳述だけに依存しない。各請求権者について何をいつ知ったかを分けて記録する。
第4 損害額と因果関係の立証
違憲とされた規定が適用された事実だけで慰謝料額は決まらない。受理されなかった届出が100日以内か以後か、100日経過後に再届出したか、他の婚姻障害がなかったか、いつ婚姻できたか、どの不利益が行政の取扱い又は立法不作為と結び付くかを確認する。婚姻できなかった期間、生活上・身分上の影響、支出の領収書、精神的苦痛を裏付ける資料を整理し、請求権者ごとの損害と因果関係を主張立証する。
平成27年大法廷事件の請求額や平成30年東京訴訟の「各100万円」は当事者の請求であり、裁判所の賠償額の相場ではない。ここで確認した判決に認容例はなく、違法性が否定されたため、損害額についての裁判所の積極的な算定判断も得られない。
第5 時期による戸籍実務と調査の限界
平成27年大法廷判決後、法務省は改正までの間、離婚から100日経過後の婚姻届を受理する取扱いを市区町村に通知した。法務省の判決説明資料にその旨が記されている。平成28年6月7日に禁止期間は法定の100日に短縮され、令和6年4月1日に廃止された。過去の不受理を評価するときは、各届出日の法令と通知、実際の窓口対応を分ける。平成28年改正の法務省説明及び令和6年施行の法務省説明を参照されたい。
本稿の後続裁判例の確認範囲は、判例秘書で確認した前記一訴訟の二判決と、裁判所ウェブサイト等で確認できた資料である。未掲載判決や和解、訴訟外の解決を含め、全国の請求例がこれだけであるとは断定できない。両判決の本文は判例秘書で照合したが、裁判所ウェブサイトの判決全文は確認できていない。個別事件を扱う際は判決原本・訴訟記録と、適用時点の法令・通知を追加で確認する。