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神戸地裁事務分配等規程における引用条文の改め忘れ――一時保護状導入による条番号のずれ(AI作成)

第1 対象と記事の射程

神戸地方裁判所は,毎年度,本庁及び伊丹支部・尼崎支部・明石支部における事件の配点方法を定める「神戸地方裁判所事務分配等規程」を策定しており,山中弁護士のブログの別記事では令和2年度分から令和8年度分までの規程原本のPDFが掲載されている。この規程の刑事編について,令和5年度版から令和8年度版までの原本PDFを条文単位で照合したところ,令和7年6月1日に施行された改正児童福祉法(一時保護開始時の司法審査の導入)に対応して第28条が新設された結果,後続する条文の番号が1つずつ繰り下がったにもかかわらず,2箇所の引用条文が旧条番号である「第29条」のまま改められていないことが判明した。この状態は令和7年度版で生じ,令和8年度版(現行)でも修正されていない。

以下では,山中弁護士に開示された規程原本のPDFを比較する形で,条番号のずれの内容,これが生じた経緯及び民事編との違いを整理する。個別の事件における配点の帰結を論じるものではなく,神戸地裁の事務分配等規程という開示資料そのものを対象とする。

第2 条文引用のずれの内容

1 令和7年6月1日改正で新設された第28条

児童福祉法33条は,児童相談所長又は都道府県知事が児童の一時保護を開始する場合,原則として一時保護を開始した日から起算して7日以内に,これらの者の所属する官公署の所在地を管轄する地方裁判所,家庭裁判所又は簡易裁判所の裁判官に一時保護状を請求しなければならないと定める(同条3項)。同条7項ただし書は,裁判官が一時保護状の請求を却下する裁判をした場合に,児童相談所長又は都道府県知事がその裁判の取消しを請求できる場合を定め,同条8項は「前項ただし書の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は,合議体で決定をしなければならない。」と定めている。

この一時保護開始時の司法審査の仕組みは,令和4年法律第66号による児童福祉法改正で設けられたものである。こども家庭庁が公表した資料は,「令和4年6月に成立した児童福祉法改正法において,一時保護の開始時の司法審査を導入(令和7年6月1日施行)。」としている。厚生労働省が公表した改正法の概要でも,この部分の施行期日は「公布後3年以内で政令で定める日」とされ,同じ改正法の他の多くの事項(原則令和6年4月1日施行)とは別に扱われていた。

神戸地裁の事務分配等規程(刑事編)は,この改正に対応して第28条を新設し,「児童福祉法に規定する一時保護状の請求却下の裁判に対する取消請求事件の配付については,本庁刑事部所属の裁判官の協議による。」と定めた。令和5年度版及び令和6年度版の規程原本には「一時保護」という語自体が1件も出現しないのに対し,令和7年度版(令和7年6月1日現在)及び令和8年度版(令和8年4月1日現在)ではこの第28条から一時保護状関係の記載が現れる。なお,神戸地裁の事務分配の原本PDFのうち,令和7年度版のみが「令和7年4月1日現在」ではなく「令和7年6月1日現在」という他の年度とは異なる基準日で山中弁護士に開示されており,この基準日は一時保護状関連規定の施行日と一致する。

2 繰り下がった条番号と繰り下がらなかった引用

第28条の新設により,旧規程で第28条以下であった各条は,令和7年度版及び令和8年度版でそれぞれ1つずつ後ろの番号に繰り下がった。次の表は,令和5年度版・令和6年度版(一時保護状導入前)と令和7年度版・令和8年度版(導入後,現行)の対応関係を,規程原本のPDFに基づいて整理したものである。

令和5・6年度版令和7・8年度版(現行)見出し・内容
(なし)第28条児童福祉法に規定する一時保護状の請求却下の裁判に対する取消請求事件の配付(新設)
第28条第29条令状事件等――本庁所属の裁判官が協議して担当する
第29条第30条前審関与事件等――次順位の部と振り替えて配付する
第30条第31条忌避事件等――「前条の例による」
第31条第32条その他の除斥原因等――「第29条の例による」
第32条第33条関連事件
第33条第34条常任委員会の承認による配付替え
第34条第35条振替え等の調整――「第29条から前条までの規定により」

このうち,第31条(忌避事件等,現行)は「前条の例による」という相対的な参照を用いているため,条番号が繰り下がっても自動的に新しい第30条(前審関与事件等)を指すことになり,内容は変わらない。これに対し,旧第31条(その他の除斥原因等)と旧第34条(振替え等の調整)は,いずれも「第29条」という条番号を直接記載する形で引用していたところ,条文の見出し・内容自体は1つ後ろの第32条・第35条にそのまま引き継がれた一方で,引用されている「第29条」という数字は書き換えられなかった。

3 もう一つの誤り――第35条

現行規程の第32条(その他の除斥原因等)は,「事件の配付を受けるべき部に,前2条以外の除斥原因のある職員又は勾留に関する処分並びに麻薬特例法第5章又は組織的犯罪処罰法第4章若しくは第6章の保全に関する処分,起訴前の証拠調べ及び起訴議決に係る事件についての指定弁護士の指定をした裁判官が属するときは,第29条の例による。」と定める。令和5年度版・令和6年度版では,この規定に対応する条(当時の第31条)が同じく「第29条の例による」としていたが,当時の第29条は「前審関与事件等」(次順位の部と振り替えて配付する)であり,引用として整合していた。しかし現行規程では,第29条は新しい番号を得た「令状事件等」(本庁所属の裁判官が協議して担当する)であり,振替えに関する規定である旧第29条は第30条に移っている。

同様に,現行規程の第35条(振替え等の調整)は,「第29条から前条までの規定により事件を他の部へ振り替え,又は移したときは,関係部に配付すべき新件で調整する。」と定める。令和5年度版・令和6年度版では,対応する条(当時の第34条)が「第29条から前条まで」(当時の第29条から第33条まで)としており,これは前審関与事件等(振替え),忌避事件等(前条の例による=振替え),その他の除斥原因等(第29条の例による=振替え),関連事件(移すことができる)及び常任委員会の承認による配付替え(移すことができる)という,部の振替え又は移しを定める一連の規定を過不足なく指していた。現行規程では,この範囲の始点である「第29条」がそのまま据え置かれているため,文言上は新しい第29条(令状事件等)からの範囲を指すことになる。

第3 条文どおりに読んだ場合に生じる不整合

現行規程の第29条(令状事件等)は,各種令状請求事件や第1回公判期日前の勾留に関する処分などについて,「本庁所属の裁判官が協議して担当する」という処理方法を定めるものであり,事件の配付先を他の部に振り替えたり移したりする規定ではない。これに対し,第32条(その他の除斥原因等)が定める場面は,本来配付を受けるべき部に,勾留に関する処分等をした裁判官が属している場合の処理であり,除斥・忌避に関する第30条(前審関与事件等)・第31条(忌避事件等)と同じ構造の規定である。第31条が「前条の例による」として第30条(振替え)を指しているのと平仄を合わせるならば,第32条も本来は「第30条の例による」を意味していたはずであり,これを文言どおり「第29条の例による」と読むと,除斥原因のある裁判官が属する部への配付という場面に,性質の異なる令状事件等の処理方法を当てはめることになり,規定として意味を成さない。

第35条についても同様の不整合が生じる。振替え等の調整を定める第35条は,部の振替え又は移しを定める規定群を集めて引用する規定であるところ,現行規程の第29条(令状事件等)は振替えを伴わない処理方法であるから,これを「第29条から前条まで」の範囲に含めることは,規定の趣旨と整合しない。振替え又は移しを定める規定は,現行の条番号では第30条(前審関与事件等)から始まっており,第35条の引用は本来「第30条から前条まで」であるべきことになる。

第4 民事編との対比

同じ神戸地裁事務分配等規程の民事編は,一時保護状関係の事件を新しい条を立てずに処理している。現行規程の第8条(雑事件)は,「第5条及び第7条に掲げた以外の申立て又は申請事件(児童福祉法に規定する一時保護状請求事件及び一時保護状請求却下の裁判に対する取消請求事件を除く。)は,第3民事部に配付する。」と定めており,括弧書きで一時保護状関係の事件を除外する形で対応している。この結果,民事編では条を新設する必要が生じず,第9条(再審及び差戻し事件等)以下の条番号に変動はない。

現行規程の第12条(その他の除斥原因)は「第10条の例による」とし,第10条(前審関与事件)が定める振替えの規定を正しく指しており,第15条(振替え等の調整)も「第10条から前条までの規定により」として,振替え又は移しを定める第10条から第14条までを過不足なく指している。刑事編と民事編は同じ制度改正への対応を迫られたが,刑事編は条を新設したために後続の条番号がすべて移動し,民事編は既存の条の括弧書きを書き換えるにとどめたために条番号が動かなかったという違いが,引用のずれが刑事編にのみ生じた理由である。

第5 令和8年度版でも修正されていない

神戸地裁が山中弁護士に開示した令和8年度版(令和8年4月1日現在)の事務分配等規程を確認したところ,第32条・第35条の引用は令和7年度版から変更されておらず,いずれも「第29条」を引用したままである。

令和5年度版から令和8年度版までの各原本PDFは,いずれもスキャンによって作成された別個のファイルであり,ページ数及び作成日時が年度ごとに異なる(令和5年度版57頁・令和5年6月11日作成,令和6年度版59頁・令和6年7月6日作成,令和7年度版60頁・令和7年7月13日作成,令和8年度版60頁・令和8年6月5日作成)。したがって令和8年度版は令和7年度版の使い回しではなく,毎年度改定される規程の中で,この2箇所の引用だけが少なくとも2回の改定作業を通じて据え置かれていることになる。

第6 事務分配等規程の位置付けと入手方法

各地方裁判所が司法行政事務を行うことについて,裁判所法29条2項は「各地方裁判所が司法行政事務を行うのは,裁判官会議の議によるものとし,各地方裁判所長が,これを総括する。」と定めている。どの部にどの事件を配付するかという事務分配は,この司法行政事務の一環として,各庁の裁判官会議の議を経て定められており,神戸地裁を含む各地方裁判所が事務分配等規程を毎年度改定しているのはこのためである。

神戸地裁の令和2年度分から令和8年度分までの事務分配等規程の原本PDF(本記事で取り上げた令和5年度版から令和8年度版を含む。)は,別記事「神戸地裁の事務分配等」にまとめて掲載されている。事務分配という仕組みが「管轄」とは異なる概念であることについては,別記事「高等裁判所支部――設置根拠,担当区域,取り扱う事務及び沿革」で整理している。司法行政事務の内容については,別記事「下級裁判所の裁判官会議に属するとされる司法行政事務」で整理している。

出典

法令

公文書

神戸地方裁判所事務分配等規程(原本PDF,山中弁護士ブログ掲載)

ウェブ資料