第1 高等裁判所支部の設置根拠と法的性質
1 裁判所法22条1項と高等裁判所支部設置規則
高等裁判所の支部(以下「高裁支部」という。)は,裁判所法22条1項が「最高裁判所は、高等裁判所の事務の一部を取り扱わせるため、その高等裁判所の管轄区域内に、高等裁判所の支部を設けることができる。」と定めているのを受けて,高等裁判所支部設置規則(昭和23年2月20日最高裁判所規則第1号)によって設置されている。同規則は昭和23年3月1日から施行され,その1条1項は「別表のとおり高等裁判所の支部を設ける。」と定めるだけで,支部の設置場所は別表に委ねられている。なお,高裁支部の設置は最高裁判所規則事項であって法律事項ではないから,支部の新設及び廃止は国会の議決を経ずに最高裁判所の規則制定によって行われる。
2 支部が取り扱う事務――裁判所法16条3号及び4号に掲げるものを除く事項
高等裁判所支部設置規則1条2項は,「支部においては、その所在地を管轄する高等裁判所の権限に属する事項のうち、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第十六条第三号及び第四号に掲げるものを除く事項に関する事務を取り扱う。」と定めている。すなわち,高裁支部が取り扱えないのは,裁判所法16条が高等裁判所の裁判権として掲げる4つの事項のうち,同条3号及び4号の2つだけであり,それ以外はすべて支部が取り扱う建前である。
除外される第一のものは,裁判所法16条3号の「刑事に関するものを除いて、地方裁判所の第二審判決及び簡易裁判所の判決に対する上告」である。したがって,地方裁判所が控訴審として下した民事事件の判決(いわゆるレ号事件の判決)に対する上告事件は高裁支部では取り扱われないが,除外はレ号事件に限られず,簡易裁判所の判決に対する民事の上告事件も同様に本庁の扱いとなる。広島高等裁判所は,その紹介ページで高等裁判所の裁判権として「地方裁判所の民事第二審判決に対する上告」を挙げており,名古屋高等裁判所も,金沢支部について「民事に関する事件のうち地方裁判所の第二審判決に対する上告事件など,一部のものについては本庁が取り扱います」と説明している。
除外される第二のものは,裁判所法16条4号の「刑法第七十七条乃至第七十九条の罪に係る訴訟の第一審」,すなわち内乱,予備及び陰謀並びに内乱等幇助の各罪に係る訴訟の第一審である。この類型が支部から外されているのは,裁判所法18条2項ただし書が,同法16条4号の訴訟については合議体の裁判官の員数を5人と定めているためであると考えられる。高裁支部に配置される裁判官は多くて6人程度であり,通常は3人の合議体を編成するのが限度であるから,5人の合議体を常態として構成することは想定しにくい。
3 支部の担当区域は「管轄」ではなく「事務分配」である
高等裁判所支部設置規則の別表は,「名称」と「所在地」の2欄だけで構成されており,管轄区域の欄がない。この点は,地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則の別表が名称・所在地・権限(甲号乙号の別)・管轄区域の欄を備えているのと対照的である。高裁支部がどの地域からの事件を取り扱うかは,規則ではなく,下級裁判所事務処理規則6条1項が定める裁判事務の分配,すなわち当該高等裁判所の裁判官会議が毎年あらかじめ定める事務分配によって決まる。同規則7条は,一の部の事務が多すぎる場合や裁判官の退官・転官等の場合を除き,司法年度中はこれを変更しないものとしている。
このため,本記事では,第2で掲げる各支部の担当区域は,訴訟法上の「管轄」ではなく事務分配の結果を示すものと整理する。学説上も,同一裁判所内のどの裁判体が事件を取り扱うかを定める事務分配は管轄と区別すべきものとされ,本庁と支部との間は同一裁判所内の事務分配の関係にすぎないから両者の間で事件の移送をすることは許されず,本庁と支部との間の事件の移動は「回付」と呼ばれている(秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅰ〔第3版〕』(日本評論社,2021年)236頁~237頁,383頁)。
同書が引用する裁判例として,名古屋高等裁判所第二部決定昭和29年11月25日(昭和29年(ラ)第42号移送申立却下決定に対する抗告事件,棄却,高等裁判所判例集7巻10号822頁)がある。同決定の判示事項は「家庭裁判所支部係属事件につきその本庁へ移送の申立をなすことの許否」であり,その裁判要旨は「家庭裁判所支部係属事件について当事者は同支部に対し本庁へ事件を送付するの行政処分の発動を促すことができるに止まり、管轄移送の申立をなすことはできない。」というものである。家庭裁判所の支部に関する判断であるが,本庁と支部との関係を事務分配の問題と捉える点は高裁支部にも当てはまる。
4 知的財産高等裁判所は東京高等裁判所の特別の支部である
知的財産高等裁判所(知財高裁)は,知的財産高等裁判所設置法2条柱書が「裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第二十二条第一項の規定にかかわらず、特別の支部として、東京高等裁判所に知的財産高等裁判所を設ける。」と定めているとおり,東京高等裁判所の特別の支部である。もっとも,高等裁判所支部設置規則の別表には掲げられておらず,平成17年2月14日最高裁判所規則第7号によって新設された同規則2条が「知的財産高等裁判所設置法(平成十六年法律第百十九号)第二条の規定により設置される知的財産高等裁判所は、これを東京都に置く。」と定めている。
知財高裁には,通常の高裁支部にはない自律性が法律で与えられている。すなわち,最高裁判所は知財高裁に勤務する裁判官のうち1人に「知的財産高等裁判所長」を命ずるものとされ(同法3条2項),知財高裁における裁判事務の分配その他の司法行政事務は知財高裁に勤務する裁判官の会議の議によるものとされ(同法4条1項),知財高裁には独自の事務局が置かれる(同法5条)。通常の高裁支部では,支部長は下級裁判所事務処理規則3条により定められ,事務分配は本庁の裁判官会議が定めるのであるから,知財高裁の扱いは明らかに特別である。
もっとも,知財高裁が訴訟法上は東京高等裁判所の支部であって独自の管轄権を有しないことは,通常の支部と変わらないと解されている(前掲コンメンタール民事訴訟法Ⅰ236頁)。このことは条文上も現れており,いわゆる大合議の根拠規定である民事訴訟法310条の2は,「……控訴が提起された東京高等裁判所においては、当該控訴に係る事件について、五人の裁判官の合議体で審理及び裁判をする旨の決定をその合議体ですることができる。」と,あくまで東京高等裁判所を主語として規定している。
第2 高等裁判所支部の一覧と担当区域
1 別表に掲げられた6つの支部
高等裁判所支部設置規則の別表に掲げられている支部は,次の6つである。名称の順序は別表の掲載順である。
| 名称 | 所在地 |
|---|---|
| 名古屋高等裁判所金沢支部 | 金沢市 |
| 広島高等裁判所岡山支部 | 岡山市 |
| 広島高等裁判所松江支部 | 松江市 |
| 福岡高等裁判所宮崎支部 | 宮崎市 |
| 福岡高等裁判所那覇支部 | 那覇市 |
| 仙台高等裁判所秋田支部 | 秋田市 |
2 各支部の担当区域
各支部が取り扱う地域は,裁判所ウェブサイトの都道府県別の管轄区域表によって確認することができる。同表は簡易裁判所の区ごとに高等裁判所の本庁及び支部を示しており,これを集計すると次のとおりとなる。前記第1の3のとおり,これは事務分配の結果である。
| 支部 | 担当する地域 |
|---|---|
| 名古屋高裁金沢支部 | 石川県,富山県,福井県の各全域 |
| 広島高裁岡山支部 | 岡山県の全域 |
| 広島高裁松江支部 | 島根県の全域,鳥取県の全域 |
| 福岡高裁宮崎支部 | 宮崎県の全域,鹿児島県の全域,大分県のうち佐伯簡易裁判所の区(大分地方・家庭裁判所佐伯支部の管内) |
| 福岡高裁那覇支部 | 沖縄県の全域 |
| 仙台高裁秋田支部 | 秋田県の全域,山形県のうち鶴岡簡易裁判所及び酒田簡易裁判所の区,青森県のうち弘前簡易裁判所,五所川原簡易裁判所及び鰺ケ沢簡易裁判所の区 |
松江支部については,かつて島根県西部(松江地方裁判所浜田支部及び益田支部の管内並びに松江家庭裁判所川本出張所の管内)が広島高等裁判所本庁の担当とされていたが,島根県内の管轄区域表を確認すると,現在は浜田・川本・益田の各区を含む島根県内の全区分について高等裁判所の支部欄が「広島高等裁判所松江支部」となっている。担当区域の変更が事務分配によって行われる以上,その変更時期を公表資料から特定することは難しく,本記事では現在の状態のみを示すこととする。
1つの県だけを担当する支部が岡山支部と那覇支部の2つにとどまることについては,次の投稿がある。
広島高裁岡山支部の管轄は岡山のみ。
鳥取は広島高裁松江支部の管轄。
ひとつの都道府県のみを管轄する高裁支部は、広島高裁岡山支部と福岡高裁那覇支部のみ。
岡山から広島へは、のぞみで40分。
この事実から、広島高裁岡山支部の異常性がご理解いただけるはず。
— やつはし (@yatsuhashidayo) May 23, 2021
3 知的財産高等裁判所が取り扱う事件
知財高裁は,東京高等裁判所の管轄に属する事件のうち,知的財産高等裁判所設置法2条各号に掲げる知的財産に関する事件を取り扱う。同条1号は,特許権,実用新案権,意匠権,商標権,回路配置利用権,著作者の権利,出版権,著作隣接権若しくは育成者権に関する訴え又は不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴えについて地方裁判所が第一審としてした終局判決に対する控訴に係る訴訟事件であってその審理に専門的な知見を要するものを掲げ,同条2号は特許法178条1項の訴え等のいわゆる審決取消訴訟を掲げる。
このうち,特許権,実用新案権,回路配置利用権及びプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え(民事訴訟法6条1項の「特許権等に関する訴え」)については,第一審が東京地方裁判所又は大阪地方裁判所の専属管轄とされ(同項),大阪地方裁判所が第一審としてした終局判決に対する控訴は東京高等裁判所の専属管轄とされている(同条3項本文)。その結果,特許権等に関する訴えの控訴事件は全国から東京高等裁判所に集まり,知財高裁が取り扱うことになる。もっとも,同条3項ただし書は,同法20条の2第1項の規定により移送された訴訟に係る訴えについての終局判決に対する控訴を除外している。
意匠権,商標権,著作権(プログラムの著作物を除く。),不正競争等に関する訴えは民事訴訟法6条の対象外であるから,その控訴事件は通常の控訴管轄に従って各高等裁判所に係属し,そのうち東京高等裁判所の管轄に属するものを知財高裁が取り扱うことになる。
第3 高等裁判所支部が第一審として審理する事件
1 選挙訴訟
高裁支部は控訴審専用の裁判所ではない。前記第1の2のとおり,高等裁判所支部設置規則1条2項が除外しているのは裁判所法16条3号及び4号だけであるから,裁判所法以外の法律が高等裁判所に第一審の裁判権を与えている事件も,高裁支部が取り扱うことになる。
その代表が選挙訴訟である。公職選挙法204条は,衆議院議員又は参議院議員の選挙の効力に関する訴訟について,選挙人又は公職の候補者等が都道府県の選挙管理委員会又は中央選挙管理会を被告として当該選挙の日から30日以内に高等裁判所に訴訟を提起することができる旨を定めており,同法203条は,地方公共団体の議会の議員及び長の選挙の効力に関する訴訟について同様の定めを置いている(第1号法定受託事務としての選挙無効訴訟も参照)。高等裁判所は本庁が8庁,支部が6庁であるから,いわゆる一票の格差を争う選挙無効訴訟は,全国14の庁に一斉に提起されるのが通例となっている。
実際,裁判所ウェブサイトの裁判例検索では,福岡高等裁判所那覇支部が第一審として言い渡した選挙無効請求事件の裁判例として,令和4年2月24日判決(令和3年(行ケ)第1号,棄却),令和7年2月18日判決(令和6年(行ケ)第2号,人口比例選挙請求事件),令和7年11月12日判決(令和7年(行ケ)第3号),令和8年5月20日判決(令和8年(行ケ)第1号)を確認することができる。
2 地方自治法上の国と普通地方公共団体との間の訴訟
地方自治法251条の5第1項は,国地方係争処理委員会への審査の申出をした普通地方公共団体の長その他の執行機関が,違法な国の関与の取消し又は国の不作為の違法の確認を求める訴えを高等裁判所に提起することができる旨を定め,同条3項は「第一項の訴えは、当該普通地方公共団体の区域を管轄する高等裁判所の管轄に専属する。」と定めている。同法251条の7は各大臣が普通地方公共団体の不作為の違法の確認を求める訴えについて同条3項から6項までを準用しており,同法245条の8はいわゆる代執行訴訟について定めている。
沖縄県が当事者となるこれらの訴訟は,福岡高等裁判所那覇支部が第一審として審理している。裁判所ウェブサイトで確認できる裁判例として,令和5年12月20日判決(令和5年(行ケ)第5号,地方自治法245条の8第3項の規定に基づく埋立地用途変更・設計概要変更承認命令請求事件),令和6年2月15日判決(令和5年(行ケ)第4号,地方自治法251条の5に基づく違法な国の関与(是正の指示)の取消請求事件,棄却),令和5年3月16日判決(令和4年(行ケ)第3号,棄却)などがある。高裁支部が事実審の第一審として大規模な行政訴訟を担当している実例である。
3 行政事件訴訟法の特定管轄裁判所には高裁支部の所在地は含まれない
これに対し,国を被告とする取消訴訟の提訴先を広げる行政事件訴訟法12条4項の「特定管轄裁判所」,すなわち「原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所」には,高裁支部の所在地を管轄する地方裁判所は含まれない。平成16年5月12日の衆議院法務委員会において,佐々木秀典委員から「高裁支部がたしか六カ所かな、六支部あると思うんですが、この支部も入るんですか、入らないんですか」と問われた山崎潮司法制度改革推進本部事務局長は,「高裁の支部所在地の地方裁判所ですね、これは入らないということで考えております」と答弁し,その理由として裁判所の専門性を集中させる必要と当事者の便宜との調和を挙げている。
この論点には前史がある。平成11年の行政機関の保有する情報の公開に関する法律の制定過程では,衆議院の修正によって特定管轄裁判所の制度が創設されたが,参議院において,特定管轄裁判所に那覇地方裁判所を加える修正案が参議院の会を代表して椎名素夫理事から提出された。椎名理事は,その提案理由として,沖縄県は全県が離島である上に県庁所在地から高等裁判所所在地に行くのにも航空機を要すること,各県の県庁所在地から高等裁判所の所在地への交通費をもとに訴訟費用を比較すると最も費用を要するのが沖縄県で190万円となり,これは第2位の青森県の約2倍であるとの試算があることを挙げている(平成11年4月27日参議院総務委員会)。
この修正案は賛成少数で否決され,代わりに,法律案附則の施行4年後の見直し条項に情報公開訴訟の管轄のあり方の検討を加える修正が全会一致で可決された(平成11年4月28日参議院本会議における竹村泰子委員長の報告)。その後,平成16年の行政事件訴訟法改正によって特定管轄裁判所の制度が一般化されたが,那覇地方裁判所を加える特則は設けられておらず,現行の情報公開法21条は訴訟の移送の特例を定めるにとどまっている。
第4 支部の設置及び廃止の沿革
1 規則の制定及び改正の一覧
高等裁判所支部設置規則の制定及び改正の経過は次のとおりである。設置又は廃止の効力が生ずるのは規則の日付ではなく施行日であるから,両者を区別する必要がある。たとえば名古屋高等裁判所の紹介ページは金沢支部の設置を「昭和23年5月10日」としているが,これは規則の日付であり,設置の効力が生じたのは同月15日である。
| 規則 | 施行日 | 内容 |
|---|---|---|
| 昭和23年2月20日最高裁判所規則第1号(制定) | 昭和23年3月1日 | 広島高裁松江支部及び札幌高裁函館支部を設置 |
| 昭和23年5月10日最高裁判所規則第5号 | 昭和23年5月15日 | 名古屋高裁金沢支部を追加 |
| 昭和23年8月31日最高裁判所規則第18号 | 昭和23年9月1日 | 福岡高裁宮崎支部を追加 |
| 昭和23年9月18日最高裁判所規則第19号 | 昭和23年10月1日 | 広島高裁岡山支部を追加 |
| 昭和24年3月5日最高裁判所規則第4号 | 昭和24年3月10日 | 仙台高裁秋田支部を追加 |
| 昭和26年5月15日最高裁判所規則第5号 | 昭和26年6月1日 | 本則第2項を全部改め,支部の取扱事務を「裁判所法16条3号及び4号に掲げるものを除く事項」とした |
| 昭和46年6月28日最高裁判所規則第10号 | 昭和46年8月1日 | 「別表中札幌高等裁判所函館支部の項を削る」 |
| 昭和47年5月2日最高裁判所規則第2号1条 | 昭和47年5月15日 | 福岡高裁那覇支部を追加(沖縄の復帰に伴う関係最高裁判所規則の改正に関する規則) |
| 平成17年2月14日最高裁判所規則第7号1条 | 平成17年4月1日 | 本則を第1条とし,第2条(知財高裁は東京都に置く)を追加 |
したがって,札幌高裁函館支部は,昭和46年8月1日施行の規則改正により同年7月31日限りで廃止されたことになる。また,現行の1条2項という条名は,平成17年改正によって本則が第1条とされた結果であって,制定当時の規則には条名がなく,2項構成の本則のみが置かれていた。
2 支部が置かれた理由
高裁支部が置かれた理由については,平成11年3月23日の衆議院法務委員会における浜野惺最高裁判所事務総局総務局長の答弁が最も体系的である。同答弁によれば,戦前の裁判所構成法の下で現在の高等裁判所に相当したのは控訴院であり,東京,大阪,名古屋,広島,長崎,宮城及び函館の7か所に置かれていたが,控訴院には支部の制度がなかった。
裁判所法の下では,①区裁判所に対応する簡易裁判所の刑事事件の控訴が高等裁判所の権限となり,②執行事件及び破産事件が区裁判所から地方裁判所の権限に移された結果,その判断に対する不服抗告が高等裁判所に行くこととなった。従前は県単位の地方裁判所で完結していた事件について,高等裁判所の本庁所在地から遠方の他県に在住する当事者が本庁まで出向かなければならなくなったため,その不便を考慮して,本庁のほかに支部を設けて当事者等の利便を図ったというのが,同答弁の説明である。
同答弁は,支部の具体的な設置場所について,「裁判所法が施行されました時点では、当時の交通事情とか経済事情等を考慮して、昭和二十三年から二十四年にかけまして、金沢それから岡山、松江、宮崎、秋田及び函館の六カ所に支部が設置された」と述べ,函館支部の廃止理由を「交通事情の好転とか事件数の減少」と説明し,那覇支部については復帰に際して沖縄県が福岡高等裁判所の管轄区域とされた経緯に触れた上で,「琉球政府の、沖縄の地理的な特殊事情によって高等裁判所を設置することという要望がございまして、これを受けまして、高等裁判所支部設置規則の一部が改正されて、高等裁判所那覇支部が設置された」と述べている。
3 昭和26年改正による取扱事務の転換
制定当時の高等裁判所支部設置規則の本則第2項は,「支部においては、その所在地を管轄する高等裁判所の権限に属する事項のうち、裁判所法第十六條第一号及び第二号に掲げるものを取り扱う。」という積極列挙であった。つまり,当初の支部は控訴(同条1号)と抗告(同条2号)だけを扱う建前であった。
これが,昭和26年5月15日最高裁判所規則第5号(昭和26年6月1日施行)によって現在の消極列挙に改められ,同条3号及び4号を除くすべての事項に関する事務を取り扱うこととされた。同改正の附則2項は,「この規則施行の際現に名古屋高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所、仙台高等裁判所及び札幌高等裁判所において取扱中の事項に関する事務は、当該高等裁判所において取り扱う。」という経過措置を置いている。前記第3で述べたとおり,高裁支部が選挙訴訟や地方自治法上の訴訟の第一審を担当できるのは,この昭和26年改正の結果である。
第5 かつて存在した札幌高等裁判所函館支部
1 函館控訴裁判所から札幌控訴院へ
函館地方検察庁の沿革によれば,明治14年に「上等裁判所」を「控訴裁判所」,「地方裁判所」を「始審裁判所」,「区裁判所」を「治安裁判所」と改称する改編が行われ,函館控訴裁判所が設置されて函館,弘前及び八戸の各始審裁判所を管轄した。もっとも,札幌高等検察庁の沿革は函館控訴裁判所の設置を「明治15年1月」としており,制度上の設置と現実の開庁との間に時期のずれがある可能性がある。明治19年に函館控訴裁判所は函館控訴院と改称され,明治38年には弘前及び八戸の各始審裁判所の管轄が函館控訴院から宮城控訴院に変更された。
その後,函館控訴院ノ移転ニ関スル法律(大正10年4月8日法律第51号)及び大正10年12月6日勅令第453号により,大正10年12月に控訴院が函館から札幌に移転し,名称も札幌控訴院となった。したがって,大正10年12月までの函館には,現在の高等裁判所に相当する控訴院が置かれていたことになる。
2 函館支部の設置と廃止
札幌高等裁判所函館支部は,昭和23年3月1日,高等裁判所支部設置規則の制定と同時に,広島高等裁判所松江支部とともに最初に設置された支部である。しかし,昭和46年6月28日最高裁判所規則第10号が「別表中札幌高等裁判所函館支部の項を削る」と定め,同規則が昭和46年8月1日から施行されたことにより,昭和23年3月1日から昭和46年7月31日までの23年余りで廃止された。これに対応して,札幌高等検察庁函館支部も,昭和46年6月28日法務省令第36号により同年8月1日から廃止されている。
3 廃止に対する地元及び弁護士会の反対
函館支部の廃止には強い反対があった。昭和46年7月24日の参議院法務委員会において,佐々木静子委員は,官報に掲載された前記規則改正の内容と施行日を示した上で,「函館支部の廃止問題は、単に裁判所の問題ではなく、国民の権利を奪う重要な問題でございます。」と述べ,裁判所が地域住民の意見をどのような方法で聴取したのかをただしている。同委員は,函館市民からなる支部存置対策協議会の陳情書など多数の反対意見書が出ていること,日本弁護士連合会及び多数の単位弁護士会から反対意見の要望書が提出されていることを指摘し,最高裁判所,法務省及び弁護士会の三者協議による解決がとられなかった理由を問うている。
同委員はさらに,昭和45年5月13日に簡易裁判所の民事事物管轄の拡張に関する裁判所法の改正に際して参議院が「今後、司法制度の改正にあたっては、法曹三者の意見を一致させて実施するように努めなければならない。」との附帯決議をしていることを挙げ,今後この附帯決議を実現するための具体的な方策を質している。
当時の函館の弁護士会の反応については,次の投稿がある。
昭和40年代に札幌高裁函館支部廃止が議論されたときに、札幌弁護士会が諸手を挙げて賛成したことに激怒した函館弁護士会が、北海道弁連からの脱退を企てたことは語り継いでいきたい。 https://t.co/Yn6pRKoBWa
— くまちん(弁護士中村元弥) (@1961kumachin) June 20, 2021
第6 支部長,部及び司法行政ポストの格付け
1 支部長及び支部に置かれる部
裁判所法22条2項は「最高裁判所は、高等裁判所の支部に勤務する裁判官を定める。」と定めており,支部勤務発令は最高裁判所裁判官会議の決議事項とされている(「裁判所の人事行政事務の実情について」第1.1(1)ウ)。支部長については,下級裁判所事務処理規則3条が「高等裁判所、地方裁判所又は家庭裁判所の各支部に勤務する裁判官が一人のときは、その裁判官を支部長とし、二人以上のときは、最高裁判所がそのうちの一人に支部長を命ずる。」と定め,支部長は当該支部の事務を総括する。
支部に部を置くことができることは,下級裁判所事務処理規則4条1項が「各高等裁判所及び各地方裁判所に部を置く。高等裁判所及び地方裁判所の支部並びに家庭裁判所及び家庭裁判所の支部に部を置くことができる。」と定めていることによる。同条5項は,支部長が属する部については支部長が部の事務を総括するものとしている。実際の構成の例として,名古屋高等裁判所は,金沢支部に民事及び行政に関する事件を担当する第1部と刑事に関する事件を担当する第2部があり,それぞれ3人ずつの裁判官で構成されていると説明している。
2 司法行政ポストの格付け
高等裁判所の司法行政ポストの格付けについて,本記事では,高裁長官,知財高裁所長,知財高裁部総括,高裁本庁部総括,部が設置されている高裁支部の支部長,高裁支部部総括,部が設置されていない高裁支部の部総括の順に序列を整理する。この整理は,西川伸一「高裁支部長就任者のキャリアパス分析――その経歴的資源に着目して――」政經論叢80巻3・4号223頁~246頁(明治大学政治経済研究所,2012年)の分析を踏まえたものであり,同論文は明治大学学術成果リポジトリで公開されている。関連する分析として,地家裁の部総括が年度途中に高裁判事になった場合の,その後のキャリア分析及び高等裁判所事務局長も参照されたい。
3 知的財産高等裁判所長の特別扱い
前記第1の4のとおり,知財高裁の長は「支部長」ではなく「知的財産高等裁判所長」であり,知的財産高等裁判所設置法3条2項によって最高裁判所が命ずる。下級裁判所事務処理規則も平成17年改正で対応しており,同規則4条5項は部の事務を総括する裁判官について「知的財産高等裁判所長」を高等裁判所長官等と並べて掲げ,同規則6条3項は知財高裁における裁判事務の分配等を知財高裁に勤務する裁判官の会議の議によるものとしている。司法行政上の位置付けが通常の高裁支部長と異なることは,この条文構造からも読み取ることができる。
第7 臨時司法制度調査会意見書と高等裁判所支部の廃止論
1 決議要目の記載
臨時司法制度調査会は,臨時司法制度調査会設置法(昭和37年5月11日法律第122号)により内閣に設置され,昭和37年9月1日から2年間,法曹一元の制度及び裁判官・検察官の任用制度等について調査審議し,昭和39年8月28日に意見書を決定した。同意見書の決議要目には,次の記載がある。
第八 裁判所の配置等
一 高等裁判所支部の廃止
高等裁判所の支部を原則として廃止すること。
二 地方裁判所・家庭裁判所支部の整理統合
地方裁判所及び家庭裁判所の支部を整理統合して、甲号、乙号の別を廃し、現在の乙号支部を原則として廃止すること。
三 簡易裁判所の名称の変更
簡易裁判所の名称を「区裁判所」(仮称)に改めること。
四 簡易裁判所の整理統合
人口、交通事情等の社会事情の著しい変動に伴い、簡易裁判所を整理統合することを考慮すること。
五 簡易裁判所の事務移転
最高裁判所は、簡易裁判所の調停を除く事務の全部又は一部を他の簡易裁判所に取り扱わせることができるものとすること。
2 意見書本文の記載
臨時司法制度調査会意見書本文には,次の記載がある(156頁及び157頁)。
(高等裁判所支部の廃止、地方裁判所・家庭裁判所支部の整理統合)
高等裁判所の支部は、戦後の交通の不便、当時の経済事情等を考慮し、昭和二三年から昭和二四年にかげて設けられたものであるが、現在においては、すでに社会事情も著しい変化を遂げ、交通事情も好転しているので、なおこれらを存置する必要があるかどうかが問題となる。
また、地方裁判所の支部は、裁判所法施行の際、経過的に裁判所法施行令によってその当時設置されていた各区裁判所の所在地に設けたものとされ、地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則においても、原則として、この状態を引き継ぎ、家庭裁判所の支部も同一の地に設けられることとなったものであるが、現在、これらの支部のうち、特に権限乙号のものについては、事件数が少なく、限られた裁判官数をもつてしては、これにあまねく裁判官を配置することが必ずしも合理的でないため、裁判官が配置されていない庁が相当の数にのぼり、また、合議体を構成するに足りる員数の裁判官が配置されていない権限甲号の支部も相当数ある。その結果、これらの裁判官が配置されていない庁等における事件処理のために、他の庁(本庁又は他の支部)から出張する裁判官の時間的な損失も無視することができず、これらは訴訟を遅延させる原因ともなつている。
そこで、裁判所全体の配置を適正化し、事務処理の能率、適正化を図る見地から(イ)高等裁判所の支部を廃止すること及び(ロ)地方裁判所及び家庭裁刺所の支部については、権限による区別を廃し、かつ、現在の権限乙号の支部は、一部事件数の多いものを除いて廃止するとともに、権限甲号の支部のうち事件数の少ないものを廃止して、整理統合を図ることが適当ではないかという問題があるが、この問題については、他面、国民の利便を十分考慮して慎重に決定されるべきであるという要請も忘れてはならない。
なお,右の引用中「現在」とあるのは意見書決定当時(昭和39年8月)を指す。同意見書本文には,審議の経過として次の記載もある(160頁)。
(高等裁判所支部の廃止)
審議の過程においては、(イ)本頂を含め、裁判所の配置の問題は、関係事務当局において検討すべき問題であって、当調査会で取り上げるべき問題ではないとする意見、(ロ)高等裁判所の支部を廃止することを可とするが、これに代え、高等裁判所の裁判官が管内の各地方裁判所の所在地に巡回して裁判をする制度を採用すべきであるとの意見があったほかは、前記問題の所在に摘記した趣旨により高等裁判所の支部を廃止することに賛成する意見が多数を占めた。(ハ)支部において事件処理に十分な裁判官の数を得られないまま裁判を受けている現状よりも、本庁においてより適正な裁判を受けることの方が国民にとっても利益であるとの意見も述べられた。なお、(ニ)原則として支部の廃止に賛成するが、すべての支部を一律に廃止することには問題かあるので、個々に具体的事備を検討した上、必要欠くべからざる支部は存置すべきであるとする意見があった。
以上のような検討の結果、当調査会は、この問題については一致した結論を得ることができなかったので、採決の結果、三分の二以上の多数の意見により、前記結論の一のとおり決定した。
3 その後の経過
臨時司法制度調査会意見書の提言のうち,裁判所の配置に関する部分がその後どこまで実現したかについては,昭和50年6月4日の衆議院法務委員会における田宮重男最高裁判所事務総局総務局長の答弁が端的である。同答弁は,交通事情や事件数から見てある程度整理すべき箇所があるとしつつ,「過去において整理のできたところというのは函館の高裁支部のみでございまして、あとは地方裁判所で二つばかり小さな支部を整理いたしましたが、そのような状況でございます」と述べ,整理は地元との十分な話し合いを前提とするため,具体的な箇所について実施を考えていることは一切ない旨を明らかにしている。結果として,臨時司法制度調査会が原則廃止を求めた高裁支部は,函館支部1庁を除いて現在まで存続している。
支部の配置は,そこに勤務する裁判官の任地の希望や処遇の問題とも結びついている。関連する議論として,弁護士から次の投稿がされている。
>希望が合致しない場合に支払われる手厚い手当があることだ。
田舎の方が給料高くて当たり前なのだ。そうすれば住宅学資ローンで高給ほしい稼ぎ頭が単身赴任覚悟で希望する
「望まない転勤」やめたら、新卒応募10倍に。「会社が回らなくなる」その疑念をどう払拭したのか https://t.co/28uTj4VGTD— 豪弁 足立敬太 @ザンギの極み💙💛 (@keita_adachi) March 26, 2022
第8 高等裁判所支部に関する国会答弁
1 昭和42年4月18日の答弁
寺田治郎最高裁判所事務総局総務局長は,昭和42年4月18日の衆議院法務委員会において,大竹太郎委員から裁判所の配置の適正化について問われ,高等裁判所の支部の廃止に関して次のとおり答弁している。同答弁は,臨時司法制度調査会での議論の中心が何であったか,最高裁判所がどのような手続を踏もうとしていたかを示している。
高等裁判所の支部につきましては、先ほどの臨司の意見書にも指摘されておるわけでございます。そのときに出ましたいろいろの議論の中の一番有力と申しますか考え方の中心は、最近、高等裁判所の支部についてもかなり交通の便利になったところがあるので、必ずしも支部を存置する必要がないのではないか。特に高等裁判所の支部の中の非常に小さなものにつきましては、実際上定員を三人くらいしか配置できないわけでございます。そうなりますと自然民事事件と刑事事件の双方を担当されるということになるわけでございます。
しかしながら、これは私どもの裁判官としての経験から申しましても、簡易裁判所とかまた地方裁判所程度ならばともかくも、高等裁判所において民、刑双方を担当するということは、裁判官としても非常に負担が重く、また自信の持てない面があるわけでございますし、また国民なり当事者の側からも、専門的な裁判官の裁判を受けるという面で、いわゆる権利の保護という面からも、必ずしも近くにあるということが便利であるというばかりではないのではないかというような議論であったわけでございます。
そういう関係で、いろいろ実態調査もし、またこれを廃止した場合の影響等も検討いたしたのでございますが、これを廃止しますということも非常に大きな問題でございますし、私どものほうには、規則については規則諮問委員会というものもございますので、さような委員会にはかりまして慎重な手続で進めてまいりたい、かように考えておるわけでございます。
しかしながら、その諮問委員会に付するにつきましても、まずもって日弁連と十分にお話し合いをした上でというふうに考えておりまして、現在までのところ、まだ日弁連のほうでは、やはりかなり問題ではないかというような御意向が強いようでございますので、もう少しいろいろお話し合いをし、また現地の御納得が得られるような手順と申しますか、時期を見ました上でというふうに考えておる次第でございます。
引用中の「規則諮問委員会」は最高裁判所規則制定諮問委員会を指す。高裁支部の設置及び廃止が規則事項であるため,最高裁判所は,規則制定諮問委員会への諮問という手続と,その前提としての日弁連との協議とを予定していたことが分かる。
2 昭和59年3月9日の答弁
9期の山口繁最高裁判所総務局長は,昭和59年3月9日の衆議院法務委員会において,神崎武法委員から,最高裁判所が当時提起していた裁判所の配置の見直しの方針が臨時司法制度調査会意見書と軌を一にするものかを問われ,次のとおり答弁している(ナンバリングは本記事で付した。)。
① 臨時司法制度調査会が、公的な機関としまして二年にわたる慎重な御審議の結果公表された御意見の中に、神崎委員御指摘のような整理統合の問題、事務移転等の問題が含まれているわけでございます。これらの御意見は、委員の方々の英知の結集あるいは所産でございまして、いろいろな見方もあろうかとは存じますが、一つの客観的なすぐれた御意見でございまして、裁判所としても十分にこれを尊重すべきであると考えていたわけでございます。
しかしながら、今回私どもがいたしております問題提起は、この臨司の御意見とは別個に、戦後の裁判所制度発足以来約四十年、臨司の意見書発表以来もう既に二十年近く経過しているわけでございまして、その間における人口動態あるいは交通事情の変化というものはまことに著しいものがございますのに、裁判所の配置自体は四十年前あるいは二十年前と全く変わっていない。そういうところから、事件の偏在現象であるとか、いろいろな問題が生じてきているわけでございまして、そのことによって裁判所を御利用いただく国民の方々に御迷惑をおかけしている事態が果たしてないであろうか。裁判所の配置を現在及び予想できる将来の社会事情にマッチするように見直しをして、司法全体の充実を図るのが国民の負託にこたえるゆえんではないと考えまして、問題提起をしたわけでございます。
② 臨司意見書が指摘をしております問題状況がますます拡大深刻化していることを背景にいたしましての問題提起でございますので、その意味では臨司の提言と全く無関係のものとは言い切れないかもしれませんけれども、我々といたしましては、臨司の提言をそのまま具体化しようと考えているわけではございません。基本的には、三者協議会あるいは法制審議会等の御審議を経て改めて方向づけがなされることを期待しているわけでございます。
その結論と臨司の提言をどのように評価するかの問題はまた別にあろうかとは思いますけれども、私どもといたしましては、例えば、臨司の提言で御指摘のございましたような高裁支部の廃止あるいは乙号支部の原則的廃止あるいは簡裁の名称変更などは考えておりませんし、現在の簡易裁判所の性格あるいは理念というようなものを変えるつもりも全くないわけでございます。
昭和42年の答弁が高裁支部の廃止を検討課題として扱っていたのに対し,昭和59年の答弁は高裁支部の廃止を「考えておりません」と明言している点で,最高裁判所の立場の変化を読み取ることができる。
3 平成11年3月23日の答弁
前記第4の2のとおり,平成11年3月23日の衆議院法務委員会における浜野惺最高裁判所事務総局総務局長の答弁は,控訴院に支部制度がなかったこと,裁判所法の下で高等裁判所の権限が拡大した結果として支部が置かれたこと,6つの支部の設置と函館支部の廃止,那覇支部の設置経緯を一続きに説明している。高裁支部の存在理由を知るには,この答弁が出発点となる。
4 平成16年5月12日の答弁
前記第3の3のとおり,平成16年5月12日の衆議院法務委員会における山崎潮司法制度改革推進本部事務局長の答弁は,行政事件訴訟法12条4項の特定管轄裁判所に高裁支部の所在地を管轄する地方裁判所が含まれないことを明言したものである。高裁支部の所在地は,控訴審としての利便を提供する一方で,第一審の提訴先を広げる制度の基準点としては用いられていない。
なお,沖縄の復帰に伴う那覇支部の設置に関する答弁として,長井澄最高裁判所事務総局総務局長は,昭和46年12月10日の衆議院の連合審査会において,支部については最高裁判所の規則に委ねられているとした上で「那覇に福岡高等裁判所那覇支部を設置する方針でただいま諸般の準備を進め、法案が成立いたしましたら、即刻那覇支部設立の規則を制定いたしたい」と述べ,同月20日の参議院の連合審査会においても「那覇支部に福岡高等裁判所の支部を設置する方針を確定いたしまして、いま財政面で政府当局と折衝中でございます。」と述べている。
第9 高等検察庁支部
検察庁法2条4項は,「法務大臣は、必要と認めるときは、高等裁判所、地方裁判所又は家庭裁判所の支部にそれぞれ対応して高等検察庁又は地方検察庁の支部を設け、当該検察庁の事務の一部を取り扱わせることができる。」と定めている。これを受けて,昭和23年3月1日施行の検察庁法第二条第四項の規定による各高等裁判所支部に対応して各高等検察庁支部を設置する庁令(昭和23年2月21日法務庁令第1号)が,別表上欄記載の各高等裁判所支部に対応して別表下欄記載の各高等検察庁支部をそれぞれ設置している。
同庁令の別表に現在掲げられているのは,名古屋高等検察庁金沢支部(金沢市),広島高等検察庁岡山支部(岡山市),広島高等検察庁松江支部(松江市),福岡高等検察庁宮崎支部(宮崎市),福岡高等検察庁那覇支部(那覇市)及び仙台高等検察庁秋田支部(秋田市)の6つであり,6つの高裁支部と一対一で対応している。もっとも,知的財産高等裁判所は高等裁判所支部設置規則の別表に掲げられていないから,これに対応する高等検察庁支部も置かれていない。検察庁側の組織については検察庁の支部も参照されたい。
第10 弁護士会からの申入れ及び決議
1 鹿児島県弁護士会の申入書
鹿児島県弁護士会は,最高裁判所に対し,平成18年3月2日,「鹿児島地方裁判所での出張開廷等に関する申入書」を提出した。同申入書における申入の趣旨は,「福岡高等裁判所宮崎支部管轄の鹿児島地方裁判所管内の民事控訴事件について、鹿児島地方裁判所において出張開廷等なんらかの対策を実施されたい。」というものである(誤字と思われるものを補正した。)。前記第2の2のとおり,鹿児島県内の簡易裁判所の区は,奄美地区を含めてすべて福岡高等裁判所宮崎支部が担当しており,鹿児島市から宮崎市までの移動負担がこの申入れの背景にある。
2 日弁連の反対決議
日本弁護士連合会は,臨時司法制度調査会意見書に反対する運動の一環として,高等裁判所支部の廃止にも反対していた。昭和42年5月27日の第18回定期総会「司法制度の確立に関する宣言」の提案理由(議事録より)には,次の記載がある。
そこで、われわれは、昭和39年12月19日臨時総会において、簡易裁判所判事及び副検事に対する法曹資格及び弁護士資格を付与すること、簡易裁判所の事物管轄の拡張をすることに反対を決議いたしまして、さらにその後においても、高等裁判所支部の廃止や司法試験法の改正等に反対の決議を行うのみならず、これらの施策の実施を阻止するために一大運動を展開してきたことは皆様ご承知の通りであります。
日弁連側の当時の体制については,昭和45年5月7日の参議院法務委員会における鈴木匡参考人(日本弁護士連合会臨時司法制度調査会意見対策委員会委員長)の意見陳述が詳しい。同陳述によれば,臨司意見対策委員会は昭和39年9月12日の全体理事会の承認を経て設置され,昭和40年9月30日には最高裁判所との間でいわゆる「メモ」が取り交わされている。同参考人は,簡易裁判所の事物管轄の拡張に反対する理由の一つとして,「将来高裁支部の廃止とか地裁支部の統廃合もお考えになっておるのではなかろうか。もしそうだとすると、こうした支部の設置などにつきましては、市町村長を先頭にして地域住民の人がかなり誘致のために努力されたというようなこともあるはずです」と述べている。
第11 関連記事
以下の記事も参照されたい。
② 検察庁の支部
③ 裁判統計報告
⑥ 裁判所職員定員法の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等
出典
1 法令・規則
① 裁判所法(昭和22年法律第59号)16条,18条,22条――e-Gov法令検索(裁判所法)
② 高等裁判所支部設置規則(昭和23年2月20日最高裁判所規則第1号,最終改正平成17年2月14日最高裁判所規則第7号)1条,2条及び別表――高等裁判所支部設置規則(PDF)
③ 下級裁判所事務処理規則(昭和23年8月18日最高裁判所規則第16号)3条,4条,6条,7条――下級裁判所事務処理規則(PDF)
④ 知的財産高等裁判所設置法(平成16年法律第119号)2条から5条まで及び附則――e-Gov法令検索(知的財産高等裁判所設置法)
⑤ 民事訴訟法(平成8年法律第109号)6条,310条の2――e-Gov法令検索(民事訴訟法)
⑥ 行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)12条――e-Gov法令検索(行政事件訴訟法)
⑦ 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)21条――e-Gov法令検索(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)
⑧ 地方自治法(昭和22年法律第67号)245条の8,251条の5,251条の7――e-Gov法令検索(地方自治法)
⑨ 公職選挙法(昭和25年法律第100号)203条,204条――e-Gov法令検索(公職選挙法)
⑩ 検察庁法(昭和22年法律第61号)2条――e-Gov法令検索(検察庁法)
⑪ 昭和23年法務庁令第1号(検察庁法第二条第四項の規定による各高等裁判所支部に対応して各高等検察庁支部を設置する庁令)及び別表――e-Gov法令検索(同庁令)
⑫ 函館控訴院ノ移転ニ関スル法律(大正10年4月8日法律第51号)――国立国会図書館デジタルコレクション
⑬ 大正10年12月6日勅令第453号――国立国会図書館デジタルコレクション
2 裁判例
① 名古屋高等裁判所第二部決定昭和29年11月25日(昭和29年(ラ)第42号移送申立却下決定に対する抗告事件,棄却,高等裁判所判例集7巻10号822頁)――裁判所ウェブサイト
② 福岡高等裁判所那覇支部判決令和5年12月20日(令和5年(行ケ)第5号 地方自治法第245条の8第3項の規定に基づく埋立地用途変更・設計概要変更承認命令請求事件)――裁判所ウェブサイト
③ 福岡高等裁判所那覇支部判決令和6年2月15日(令和5年(行ケ)第4号 地方自治法第251条の5に基づく違法な国の関与(是正の指示)の取消請求事件,棄却)――裁判所ウェブサイト
④ 福岡高等裁判所那覇支部判決令和5年3月16日(令和4年(行ケ)第3号 地方自治法第251条の5に基づく違法な国の関与(是正の指示)の取消請求事件,棄却)――裁判所ウェブサイト
⑤ 福岡高等裁判所那覇支部判決令和4年2月24日(令和3年(行ケ)第1号 選挙無効請求事件,棄却)――裁判所ウェブサイト
⑥ 福岡高等裁判所那覇支部判決令和7年2月18日(令和6年(行ケ)第2号 人口比例選挙請求事件)――裁判所ウェブサイト
⑦ 福岡高等裁判所那覇支部判決令和7年11月12日(令和7年(行ケ)第3号 選挙無効請求事件)――裁判所ウェブサイト
⑧ 福岡高等裁判所那覇支部判決令和8年5月20日(令和8年(行ケ)第1号 選挙無効請求事件)――裁判所ウェブサイト
3 国会会議録・公文書
① 第55回国会衆議院法務委員会会議録第4号(昭和42年4月18日)――寺田治郎最高裁判所事務総局総務局長の答弁。国会会議録検索システム
② 第63回国会参議院法務委員会会議録第14号(昭和45年5月7日)――鈴木匡参考人(日本弁護士連合会臨時司法制度調査会意見対策委員会委員長)の意見陳述
③ 第66回国会参議院法務委員会会議録第1号(昭和46年7月24日)――佐々木静子委員の質疑
④ 第67回国会衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会ほか連合審査会会議録第1号(昭和46年12月10日)及び第67回国会参議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会ほか連合審査会会議録第1号(昭和46年12月20日)――長井澄最高裁判所事務総局総務局長の答弁
⑤ 第75回国会衆議院法務委員会会議録第23号(昭和50年6月4日)――田宮重男最高裁判所事務総局総務局長の答弁
⑥ 第101回国会衆議院法務委員会会議録第4号(昭和59年3月9日)――山口繁最高裁判所総務局長の答弁
⑦ 第145回国会衆議院法務委員会会議録第4号(平成11年3月23日)――浜野惺最高裁判所事務総局総務局長の答弁
⑧ 第145回国会参議院総務委員会会議録第6号(平成11年4月27日)及び同参議院会議録(平成11年4月28日)――椎名素夫理事の修正案提案理由及び竹村泰子委員長の報告
⑨ 第159回国会衆議院法務委員会会議録第24号(平成16年5月12日)――山崎潮司法制度改革推進本部事務局長の答弁
⑩ 臨時司法制度調査会意見書(昭和39年8月28日付)――法務省ウェブサイト(意見書の抜粋PDF)
⑪ 臨時司法制度調査会の設置根拠,組織及び決議要目――司法制度改革審議会第2回配布資料「臨時司法制度調査会について」。インターネットアーカイブに保存された首相官邸ウェブサイトのページ
⑫ 「裁判所の人事行政事務の実情について」(平成27年5月26日の最高裁判所事務総局会議資料)――PDF
⑬ 日本弁護士連合会第18回定期総会「司法制度の確立に関する宣言」及びその提案理由(昭和42年5月27日)――日本弁護士連合会ウェブサイト
⑭ 鹿児島県弁護士会「鹿児島地方裁判所での出張開廷等に関する申入書」(平成18年3月2日)――鹿児島県弁護士会ウェブサイト
4 文献
① 秋山幹男=伊藤眞=垣内秀介=加藤新太郎=高田裕成=福田剛久=山本和彦『コンメンタール民事訴訟法Ⅰ〔第3版〕』(日本評論社,2021年)236頁~237頁,383頁
② 西川伸一「高裁支部長就任者のキャリアパス分析――その経歴的資源に着目して――」政經論叢80巻3・4号223頁~246頁(明治大学政治経済研究所,2012年)――明治大学学術成果リポジトリ
5 ウェブ資料
① 裁判所ウェブサイト「裁判所の管轄区域」の各都道府県別管轄区域表(島根県,鳥取県,岡山県,石川県,富山県,福井県,宮崎県,鹿児島県,大分県,沖縄県,秋田県,山形県,青森県)
② 名古屋高等裁判所の紹介(金沢支部の部の構成及び本庁が取り扱う事件)
③ 広島高等裁判所の紹介(高等裁判所の裁判権及び沿革)