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国税不服審判所――組織,審査請求手続,裁決の効力及び裁判例(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 対象と基準時

国税不服審判所は,税務署長,国税局長又は税関長等がした国税に関する処分について,納税者等からの審査請求を調査・審理し,裁決を行う行政機関である。本記事は,令和8年8月9日現在の法令及び公表資料に基づき,国税不服審判所の法的位置付け,沿革,組織,審査請求手続,裁決の効力,統計,公表裁決事例並びに制度に直接関係する裁判例を整理するものである。生成AIを用いて資料を収集・整理した上で,条文,数値及び判示内容を公表原文と照合した。

本記事の中心は国税不服審判所という制度であり,特定の税目における個別の課税要件や個別事件の勝敗を扱うものではない。また,歴代所長の氏名,在任期間及び経歴は,「歴代の国税不服審判所長」に分けて掲載している。

2 主な結論

国税不服審判所は,裁判所でも国税庁から法的に独立した行政委員会でもなく,国税庁に置かれた特別の機関である。他方,課税・徴収を担当する税務署及び国税局からは分離され,審査請求人と原処分庁の双方の主張を聴く第三者的な権利救済機能を担う。したがって,「国税庁から独立した第三者機関」と表現するよりも,「国税庁の特別の機関であり,執行機関から分離された第三者的審査機関」と表現する方が正確である。

審理対象については原処分全体の当否を検討する総額主義が基礎にある一方,実際の調査・審理は当事者の主張から明らかになった争点を中心に行われる。担当審判官には職権調査権があるが,審査請求人が申し立てた調査をすべて実施する義務があるわけではなく,調査の必要性及び方法には合理的な裁量が認められている。

第2 国税不服審判所の法的位置付け

1 国税庁に置かれる特別の機関

財務省設置法22条は「国税庁に,国税不服審判所を置く」と定め,同条2項は,そのほかの事項を国税通則法及び同法に基づく命令に委ねている。国税通則法78条1項は,国税不服審判所を,国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対する裁決を行う機関と定めている。

国税不服審判所の公式説明によれば,国税不服審判所は国税庁の特別の機関であるが,執行機関である国税局及び税務署から分離された別個の機関である。審査請求人と原処分庁の双方の主張を聴き,必要に応じて自ら調査し,公正な第三者的立場で審理した上で裁決することにより,納税者の正当な権利利益の救済と税務行政の適正な運営の確保を図ることが使命とされている。

2 国税庁長官がした処分との区別

国税通則法75条1項は,税務署長,国税局長又は税関長がした処分について,再調査の請求又は国税不服審判所長への審査請求を選択できると定める。他方,国税庁長官がした処分については国税庁長官に対する審査請求となり,国税不服審判所長が裁決する事件とはならないため,「国税に関する審査請求はすべて国税不服審判所が扱う」という理解は正確でない。

3 行政部内の最終判断

国税不服審判所長の裁決は行政部内の最終判断であり,原処分庁は裁決に不服があっても訴訟を提起できない。もっとも,審査請求人は,後述する不服申立前置及び出訴期間の規律に従い,原処分又は裁決固有の違法を裁判所で争うことができる。

第3 協議団から国税不服審判所への沿革

1 協議団の設置と審判所の発足

昭和24年9月のシャウプ勧告は,更正・決定に対する異議申立ての処理機関として,税務署及び国税局単位に協議団を置くことを勧告した。これを受けて昭和25年7月に国税庁及び国税局の附属機関として協議団が設置され,昭和43年7月の税制調査会答申は,協議団に代わる第三者的立場の新しい審理・裁決機構として国税不服審判所を設けることを求めた。

昭和45年法律第8号の施行により協議団は廃止され,同年5月1日に国税不服審判所が国税庁の附属機関として発足した。その後,昭和59年7月の国家行政組織法等の改正に伴い,「附属機関」から現在の「特別の機関」に改められた。制度創設から50年間の組織・事件処理・人事及び裁決事例の推移は,国税不服審判所「国税不服審判所の50年」にまとめられている。

2 昭和45年の国会附帯決議

衆議院大蔵委員会昭和45年3月4日附帯決議は,人事及び運営面の独立性を強化すること,将来における独立した租税審判所及び審査請求と訴訟との選択制を引き続き検討すること,質問検査権を新たな脱税摘発のために用いないこと並びに裁決理由を詳細に示すことなどを求めた。

参議院大蔵委員会昭和45年3月24日附帯決議は,納税者の権利救済という使命を踏まえ,総額主義に偏することなく争点主義の精神を取り入れること及び質問検査権を濫用しないことなどを求めた。現在の争点中心の運営は,創設時から問題とされてきた権利救済,職権調査及び税務行政の統一性の均衡の上に位置付けられる。

3 平成28年施行の制度改正

平成26年法律第69号による国税通則法改正は平成28年4月1日に施行され,再調査の請求を経ない直接審査請求の全面化,不服申立期間の2か月から3か月への延長,口頭意見陳述における原処分庁への発問,職権収集資料を含む閲覧・写し交付及び審理手続終結の通知などが導入された。この改正により,処分庁による再調査を先に利用するか,国税不服審判所へ直接進むかを納税者が選択する現在の制度が形成された。

第4 組織,所長,合議体及び外部専門家

1 本部,支部及び支所

国税不服審判所は,本部のほか,全国12支部及び7支所で構成される。国税不服審判所組織規則の令和8年7月10日施行時点の定数は,国税審判官180人,国税副審判官89人であり,国税審査官は174人以内である。支部及び支所の所在地・管轄並びに審査請求書の提出先は,全国の相談・手続窓口で確認できる。

2 国税不服審判所長

国税通則法78条2項により,国税不服審判所長は国税庁長官が財務大臣の承認を受けて任命する。国税通則法は所長の法定任期を定めていないため,歴代名簿上おおむね2年前後で交代していることを「任期2年」と言い換えることはできない。歴代所長及び在任期間は,「歴代の国税不服審判所長」に掲載している。

3 担当審判官と参加審判官

国税通則法94条により,所長は事件ごとに担当審判官1名及び参加審判官2名以上を指定する。原処分又は再調査決定に関与した者,審査請求人,その配偶者・一定範囲の親族,代理人等は指定対象から除外される。国税副審判官のうち所長が指名した者は国税審判官の職務を行うことができるが,担当審判官の職務を行うことはできない。

担当審判官及び参加審判官は合議体として調査・審理の結果を検討し,議決を行う。通常事件では,所長はこの議決に基づいて裁決しなければならないため,裁決は所長が単独で事件記録を審査して決める仕組みではない。

4 民間専門家の外部登用

国税不服審判所は平成19年7月から,弁護士,税理士,公認会計士及び大学教員等を任期付の国税審判官として外部登用しており,平成25年7月には事件担当審判官の半数程度が外部登用者となった。令和9年7月採用分の募集要項では,採用予定は15名程度,任用期間は原則3年であり,採用前に勤務した法人又は代理人等として関与した個人・法人に関連する事件は担当できないとされている。

外部登用の職務内容及び研修を具体的に確認する資料として,令和元年7月採用の国税審判官の研修資料がある。また,日本弁護士連合会『自由と正義』2024年2月号47頁~56頁には「国税不服審判所における弁護士出身審判官の来し方と展望」が掲載されている。

第5 審査請求の入口

1 直接審査請求と再調査の請求

税務署長,国税局長又は税関長がした処分に不服がある者は,原則として,処分庁に対する再調査の請求と国税不服審判所長に対する審査請求のいずれかを選択できる。再調査の請求を選択し,再調査決定後の処分になお不服がある場合は,その後に審査請求をすることができる。また,再調査の請求から3か月を経過しても決定がない場合又は決定を経ないことについて正当な理由がある場合には,再調査決定を待たずに審査請求へ進むことができる。

2 不服申立期間

直接審査請求は,原則として,処分があったことを知った日,処分通知を受けた場合はその受領日の翌日から起算して3か月以内にしなければならない。再調査決定後の審査請求は,再調査決定書の謄本の送達を受けた日の翌日から起算して1か月以内である。さらに,処分日の翌日から1年を経過した後は,処分を知った時期にかかわらず原則として不服申立てができず,いずれについても正当な理由がある場合だけが例外となる。

期間計算では,処分通知書,再調査決定書及び送達関係資料を保存し,「通知書に記載された日」ではなく実際の受領日を確認する必要がある。審査請求書は処分庁を経由して提出することもでき,その場合は処分庁への提出時に審査請求がされたものとみなされる。

3 審査請求書と補正

国税通則法87条により,審査請求書には,処分の内容,処分があったことを知った年月日,審査請求の趣旨・理由及び請求年月日等を記載する。請求の趣旨では取消し又は変更を求める範囲を明らかにし,請求の理由では処分通知書等に示された処分理由に対する主張を明らかにする必要がある。審査請求書の作成・提出案内には様式及び記載例が掲載されている。

記載事項に不備がある場合,所長は相当の期間を定めて補正を求め,軽微な不備は職権で補正できる。補正期間内に補正しない場合又は不適法で補正できないことが明らかな場合は,通常の審理手続を経ない却下裁決となり得る。

第6 答弁書から審理終結まで

1 答弁書,反論書及び証拠

審査請求書を受理すると,所長は,直ちに却下する場合を除き,原処分庁に答弁書を提出させる。答弁書には審査請求の趣旨及び理由に対応した原処分庁の主張が記載され,審査請求人及び参加人へ送付される。審査請求人は答弁書に対する反論書と証拠書類等を提出できるため,処分理由,答弁書の主張,証拠及び税額への影響を対応させて反論することになる。

2 口頭意見陳述

審査請求人又は参加人から申立てがあった場合,担当審判官は口頭で意見を述べる機会を与えなければならない。申立人は担当審判官の許可を得て原処分庁に質問できるため,口頭意見陳述は,書面を読み上げる場に限られず,処分理由又は証拠評価の不明点を原処分庁に確認する手続としても利用できる。

3 質問,提出要求,検査及び鑑定

国税通則法97条により,担当審判官は,審理に必要があるとき,申立て又は職権により,審理関係人・参考人への質問,帳簿書類等の提出要求・留置,物件の検査及び鑑定を行うことができる。ただし,調査の申立ては職権発動を求める端緒であり,申立てどおりの方法による調査を実施する法的義務まで生じさせるものではない。

裁判例は,調査の必要性,調査対象及び方法の選択について担当審判官の合理的な裁量を認めている。このため,調査を求める側は,単に「調査が必要である」と述べるのではなく,①確認対象となる具体的事実,②資料又は情報の保有者,③想定する調査方法,④調査結果が争点及び税額へ与える影響を示すことが実務上有用である。

4 閲覧・写しの交付と審理終結

審理関係人は,審理手続が終結するまで,提出された証拠書類等及び担当審判官が提出要求により収集した資料の閲覧又は写しの交付を求めることができる。担当審判官は,第三者の利益を害するおそれその他の正当な理由がなければ,閲覧又は交付を拒むことができない。写しの交付には実費の範囲内の手数料が必要となるが,特別の理由がある場合の減免制度もある。

担当審判官は必要な審理を終えたと認めると審理手続を終結し,その旨を審理関係人に通知する。閲覧等を求められるのは終結までであり,反論書・証拠書類等について提出期限が定められることもあるため,終結通知を待ってから主張・証拠を整理するのでは遅い。国税不服審判所「審理と裁決」は,答弁書,反論書,口頭意見陳述,証拠提出,閲覧及び裁決までの流れを説明している。

第7 総額主義と争点主義的運営

1 審理対象は原処分全体であること

課税処分に対する審査請求では,原処分により確定された税額等の総額の当否が審理対象となり,審判所は審査請求人が指摘した違法事由だけに拘束されない。国税通則法98条3項が認容裁決として原処分の取消し又は変更を認め,104条が関連する更正決定等の併合審理を認める一方,審査請求人の不利益に原処分を変更することを禁止していることも,この構造と整合する。

2 調査・審理は争点を中心に行うこと

不服審査基本通達97―1は,原処分の全体についてその適否を判断することを前提としつつ,審査請求人と原処分庁の主張によって明らかになった争点に主眼を置き,効率的に調査・審理を行うとしている。争点主義的運営は,審判所を当事者の主張だけに拘束する制度ではなく,原処分の不足した調査を補強するための無限定な再調査を避け,争点及び争点関連事項へ調査を集中させる運営原則である。

3 不意打ちの回避

総額主義の下では,当事者が直接主張していない事実又は項目が判断の基礎となることがあり得る。もっとも,審査請求人に反論・反証の機会を与えないまま新たな事実認定を決定的な根拠とすれば,第三者的審理及び手続保障との緊張が生じる。現在の到達点は,「審理対象は原処分の総額,調査運営は争点中心,争点外の事実を用いる場合は不意打ちを避ける」と整理できる。

第8 国税庁長官通達と国税通則法99条

1 通達の法的性質

最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決は,財産評価基本通達について,上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず,国民に対して直接の法的効力を有する根拠はないと判示した。通達は課税庁内部の統一運用を支えるが,法令そのものではない。通達一般の判例上の位置付けは,「通達の法的性質に関する最高裁判決等のメモ書き」でも整理している。

2 通達と異なる解釈を採る場合の手続

国税通則法99条により,国税不服審判所長は,国税庁長官通達に示された法令解釈と異なる解釈で裁決するとき,又は他の国税処分における法令解釈の重要な先例となる裁決をするときは,あらかじめ国税庁長官へ意見を通知しなければならない。国税庁長官は,所長の意見が審査請求人の主張を認容するもので,かつ,その意見を相当と認める場合を除き,所長と共同して国税審議会に諮問し,所長は国税審議会の議決に基づいて裁決する。

この仕組みは,個別事件における通達と異なる法令解釈の可能性を認めながら,全国的な税務行政の法令解釈の統一性を調整するものである。大阪地方裁判所平成28年4月7日判決は,審査請求人が通達と異なる解釈を主張しただけで通知義務が生じるのではなく,所長が実際にその解釈で裁決すると判断した場合に99条が問題となるとした。

3 申出・通知の実績

国税庁70年史によれば,平成26年4月の改正前に国税庁長官へ意見を申し出た事例は9件であり,「申出」が「通知」に改められた後は同史の対象時点まで通知例がなかった。同史より後の通知件数について継続的に公表された統計は確認できないため,現在まで通知例がないと断定することはできない。

第9 裁決,徴収及び裁判所への出訴

1 却下,棄却及び認容

法定期間経過後の請求その他不適法な審査請求は却下され,理由がない審査請求は棄却される。理由がある場合は,原処分の全部若しくは一部の取消し又は変更が行われるが,原処分より審査請求人に不利益な処分へ変更することはできない。通常事件では,所長は担当審判官及び参加審判官の議決に基づいて裁決し,裁決書には主文,事案の概要,審理関係人の主張の要旨及び理由を記載して所長が記名押印する。

2 裁決の拘束力

国税通則法102条により,裁決は関係行政庁を拘束する。申請又は請求に基づく処分が手続の違法・不当を理由に取り消された場合等には,処分庁は裁決の趣旨に従って改めて処分しなければならない。他方,神戸地方裁判所令和3年12月23日判決は,同条の「関係行政庁」に国税不服審判所長自身は含まれず,過去の裁決が別事件の所長を法的に拘束するものではないとした。

3 審査請求と国税の徴収

審査請求をしても,原則として処分の効力,処分の執行又は手続の続行は停止しない。ただし,差押財産の換価は,価額が著しく減少するおそれがある場合又は不服申立人から別段の申出がある場合を除き,裁決まで行うことができない。また,所長は,必要があると認める場合,徴収所轄庁の意見を聴いた上で,徴収猶予又は滞納処分続行停止を求めることができ,担保提供等の要件を満たす場合には差押えをしないこと又は差押解除を求めることができる。

4 原処分取消訴訟と裁決取消訴訟

国税通則法115条により,国税処分の取消訴訟は,原則として審査請求の裁決を経た後でなければ提起できない。ただし,審査請求から3か月を経過しても裁決がない場合,著しい損害を避ける緊急の必要がある場合又は裁決を経ないことについて正当な理由がある場合等は例外となる。

行政事件訴訟法10条2項により,原処分と棄却裁決の双方について取消訴訟を提起できる場合,裁決取消訴訟で原処分の違法を理由とすることはできない。原処分の課税要件,事実認定又は法令解釈の違法は原処分取消訴訟で争い,合議体の構成,審理手続又は裁決理由等に固有の違法は裁決取消訴訟で争うという区別が必要である。

審査請求を経た場合の取消訴訟は,原則として裁決があったことを知った日から6か月又は裁決の日から1年を経過すると提起できない。送達を受けた者及び受領権限の有無によって起算点が問題となることがあるため,裁決書の受領日及び受領者を記録し,具体的事件では直ちに出訴期間を確認する必要がある。本記事は一般的な制度説明であり,個別事件の期間判断を代替するものではない。

第10 令和7年度の審査請求実績

1 発生件数と直接審査請求

国税不服審判所「令和7年度における審査請求の概要」によれば,令和7年度の新規審査請求は3159件であり,内訳は直接審査請求2522件,再調査の請求を経た審査請求637件であった。直接審査請求の割合は,2522件を3159件で除した79.8%であり,平成28年改正後は直接審査請求が主要な経路となっている。

2 処理件数,認容割合及び処理期間

令和7年度の処理件数は3128件であり,内訳は取下げ348件,却下379件,棄却2175件,一部認容146件及び全部認容80件であった。認容は合計226件,認容割合は7.2%であり,1年以内処理割合は98.8%,年度末未済は3036件であった。

認容割合7.2%は,認容226件を取下げ・却下を含む処理総数3128件で除した行政統計であり,事実関係,税目,争点及び証拠の異なる個別事件の勝敗可能性を直接示す数値ではない。また,単年度の割合だけで制度の救済機能を評価することはできず,全部認容と一部認容の区別,取下げ・却下の規模及び処理期間も併せて読む必要がある。

第11 公表裁決事例と関連資料の探し方

1 公表される裁決は一部であること

国税不服審判所「公表裁決事例集等の紹介」によれば,国税不服審判所は,先例となるような裁決を選んで公表している。令和8年8月9日現在,公表裁決事例では平成4年以降平成21年までの裁決事例集掲載全文及び平成22年1月から令和7年12月までの公表裁決全文を閲覧でき,裁決要旨の検索では平成8年7月1日から令和7年12月31日までの裁決要旨又は争点項目を検索できる。

公表対象は「先例となるような裁決」であり,すべての裁決が公表されるわけではない。したがって,検索結果に該当裁決がないことは,同種事件又は同種判断が存在しないことを意味しない。また,裁決は別事件の所長を法的に拘束する判例ではないため,公表裁決を利用するときは,法令の適用時点,事実関係及び争点の共通性を確認する必要がある。

2 組織運営及び研修に関する公開資料

組織運営を具体的に確認できる資料として,①令和元年9月6日開催の全国国税不服審判所長会議に関する文書,②令和元年10月11日開催の全国国税不服審判所部長審判官会議に関する文書,③令和元年11月19日開催の全国国税不服審判所管理課長会議に関する文書がある。これらは令和元年当時の会議資料であり,現在の定員・役職又は運用を示す場合には現行法令及び最新公表資料との照合が必要である。

国税庁及び国税局から見た審判所関係事項は,「国税庁長官及び東京国税局長の事務引継資料」に含まれている。また,平成28年改正前後の制度資料を含む「国税不服審判所の概要(令和元年度の文書)」も参照できるが,期間,手続名称,定員及び統計は本記事記載の現行資料を優先すべきである。

第12 国税不服審判所の制度に関する裁判例

裁判所公式検索で「国税不服審判所長」を全文検索すると,令和8年8月9日現在で652件が表示されるが,その大部分は裁決行政庁が定型的に記載された個別税目の事件である。本記事では,この652件から制度論に関する複数の検索語で抽出した47件の判決全文を確認し,さらに国税庁「税務訴訟資料」に掲載された裁判所HP未掲載判決を追加して,国税不服審判所の組織,審理手続,裁決の効力及び不服申立前置に直接関係する判決を整理した。

もっとも,裁判所HPには全判決が掲載されておらず,判例秘書及びD1-Lawの全件横断検索は完遂していない。このため,以下は公表原文を確認できた制度関係裁判例であり,非公刊・未掲載裁判例を含む絶対的な全件一覧ではない。

1 方式の欠缺,不服申立前置及び出訴期間

最高裁昭和36年7月21日第二小法廷判決(昭和34年(オ)第973号,民集15巻7号1966頁)は,国税不服審判所発足前の旧所得税法の事件で,審査請求への証拠書類添付を絶対的な方式要件とはせず,不添付を理由とする補正命令及び却下を違法とした。また,行政庁が誤って審査請求を却下した場合でも,行政庁に処分を再審理する機会が与えられていた以上,不服申立前置を満たすとした。

東京高等裁判所昭和53年6月21日判決(昭和51年(行コ)第86号)は,裁決書の訂正は新たな裁決ではなく,出訴期間を再起算させないとした。他方,国税副審判官による誤った教示を考慮し,訴訟行為の追完を認めて原判決を取り消し,差し戻した。

大阪地方裁判所令和7年4月24日判決(令和6年(行ウ)第38号)は,裁決書を受領する権限を与えられた妻が裁決書を受領して裁決を知った日から出訴期間が進行するとした。また,本人が法律の意味を誤解していたという主観的事情は,期間徒過の正当な理由にならないと判断した。

2 担当者の関与と裁決固有の瑕疵

東京地方裁判所昭和48年11月28日判決(昭和46年(行ウ)第182号)は,旧協議団における同一納税者の先行事件に関与した者が,後行事件で国税副審判官として調査・審理を補助しても,当時の法令上直ちに裁決が違法となるものではないとした。もっとも,現行の国税通則法94条2項には原処分又は再調査決定に関与した者等を担当審判官・参加審判官から除外する規定があるため,この判決は旧制度下の判断として読む必要がある。

東京地方裁判所平成元年11月7日判決(昭和57年(行ウ)第169号)は,裁決取消訴訟では裁決固有の瑕疵だけを争うことができるとの区別を前提に,実際に担当審判官等が調査・審理を行ったと認定して審理不尽の主張を退けた。

3 職権調査の裁量

東京地方裁判所平成24年2月10日判決(税務訴訟資料262号順号11876,裁判所HP未掲載)は,質問検査又は釈明を行うか,その相手方及び方法をどう選択するかは担当審判官の広い裁量に属するとし,審査請求人に反論・反証の機会が実質的に与えられていたことも重視した。

大阪地方裁判所平成28年11月17日判決(税務訴訟資料266号順号12935,裁判所HP未掲載)は,国税通則法97条1項の調査必要性判断を担当審判官の合理的裁量に委ね,その判断が著しく合理性を欠き,裁量権を逸脱又は濫用した場合でなければ,特定の調査をしなかったことだけで裁決は違法にならないとした。東京地方裁判所令和5年8月1日判決(税務訴訟資料273号順号13870,裁判所HP未掲載)も,調査の申立ては職権発動の端緒であり,必要性及び方法は合理的裁量に属するとしている。

4 通達離脱と裁決の拘束力

大阪地方裁判所平成28年4月7日判決(税務訴訟資料266号順号12839,裁判所HP未掲載)は,国税通則法99条の通知が必要となるのは,所長が実際に通達と異なる解釈又は重要な先例となる解釈により裁決すると判断した場合であり,審査請求人がそのような解釈を主張しただけでは通知義務は発生しないとした。

神戸地方裁判所令和3年12月23日判決(税務訴訟資料271号順号13651,裁判所HP未掲載)は,国税通則法102条の「関係行政庁」に国税不服審判所長自身は含まれず,過去の裁決が別事件における所長を法的に拘束するものではないとした。公表裁決は法令解釈及び事実評価の参考となるが,判例と同じ意味での先例拘束性を有しない。

5 そのほかに原文を確認した制度関係裁判例

広島地方裁判所平成2年1月25日判決(昭和60年(行ウ)第15号)は,約1030日に及ぶ審査期間,担当審判官の指定時期及び併合審理等について,事件の複雑性及び処理経過等を踏まえて裁決固有の違法を否定した。大阪地方裁判所平成20年9月19日判決(税務訴訟資料258号順号11035)は,審査請求の取下げに錯誤無効を認めず,誤った教示に起因するなどの特段の事情があれば不服申立前置の例外となる余地を示しながら,事案ではこれを否定した。

神戸地方裁判所平成20年11月13日判決(税務訴訟資料258号順号11071)は,旧法下で,答弁書等以外の釈明方法を常に書面に限定する規定はなく,口頭で釈明を求めて録取書を作成する方法を所長の裁量の範囲内とした。東京地方裁判所平成21年5月13日判決(税務訴訟資料259号順号11201,裁判所HP未掲載)は,裁決を理由とする国家賠償について,付与された権限の趣旨に明らかに背いて権限を行使したと認められる特別の事情を要求し,国家賠償責任を否定した。

東京地方裁判所平成22年9月10日判決(税務訴訟資料260号順号11505,裁判所HP未掲載)は,合議・議決後の人事異動に伴う担当審判官等の変更通知の要否について,既に調査・審理の職務を終えた後の変更等を理由とする違法を否定した。大阪地方裁判所平成24年5月10日判決(税務訴訟資料262号順号11949,裁判所HP未掲載)は,原処分と裁決の取消しを併合請求した事案で,訴えの利益及び裁決固有の瑕疵を検討した。

東京地方裁判所平成24年9月5日判決(税務訴訟資料263号順号12374,裁判所HP未掲載)は,答弁書の送付,釈明,回答及び理由付記を踏まえて審理不尽を否定した。東京地方裁判所平成29年3月21日判決(税務訴訟資料267号順号13000,裁判所HP未掲載)は,審理,口頭説明及び理由付記等に関する複数の裁決固有の瑕疵の主張を排斥した。

神戸地方裁判所令和5年3月28日判決(税務訴訟資料273号順号13839,裁判所HP未掲載)は,担当審判官の人事異動による交代,面談,争点確認表及び審理終結等について必要な審理を終えたとの判断に違法はないとし,裁決固有の瑕疵は原処分の違法事由にならないとした。

第13 出典・参考資料

1 法令・通達

① e-Gov法令検索「財務省設置法」22条

② e-Gov法令検索「国税通則法」75条~115条

③ e-Gov法令検索「国税不服審判所組織令」及びe-Gov法令検索「国税不服審判所組織規則」

④ e-Gov法令検索「行政事件訴訟法」10条・14条

⑤ 国税庁長官「不服審査基本通達(審査請求関係)」。

2 裁判例

① 最高裁昭和36年7月21日第二小法廷判決,昭和34年(オ)第973号,民集15巻7号1966頁,裁判所公式PDF

② 東京地方裁判所昭和48年11月28日判決,昭和46年(行ウ)第182号,裁判所公式PDF

③ 東京高等裁判所昭和53年6月21日判決,昭和51年(行コ)第86号,裁判所公式PDF

④ 東京地方裁判所平成元年11月7日判決,昭和57年(行ウ)第169号,裁判所公式PDF

⑤ 東京地方裁判所平成24年2月10日判決,事件番号は国税庁公表版で伏字,税務訴訟資料262号順号11876,国税庁公表PDF(裁判所HP未掲載)。

⑥ 大阪地方裁判所平成28年4月7日判決,事件番号は国税庁公表版で伏字,税務訴訟資料266号順号12839,国税庁公表PDF(裁判所HP未掲載)。

⑦ 大阪地方裁判所平成28年11月17日判決,事件番号は国税庁公表版で伏字,税務訴訟資料266号順号12935,国税庁公表PDF(裁判所HP未掲載)。

⑧ 神戸地方裁判所令和3年12月23日判決,事件番号は国税庁公表版で伏字,税務訴訟資料271号順号13651,国税庁公表PDF(裁判所HP未掲載)。

⑨ 最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決,令和2年(行ヒ)第283号,民集76巻4号411頁,裁判所公式PDF

⑩ 東京地方裁判所令和5年8月1日判決,事件番号は国税庁公表版で伏字,税務訴訟資料273号順号13870,国税庁公表PDF(裁判所HP未掲載)。

⑪ 大阪地方裁判所令和7年4月24日判決,令和6年(行ウ)第38号,裁判所公式PDF

⑫ 広島地方裁判所平成2年1月25日判決,昭和60年(行ウ)第15号,裁判所公式PDF

⑬ 大阪地方裁判所平成20年9月19日判決,税務訴訟資料258号順号11035,国税庁公表PDF

⑭ 神戸地方裁判所平成20年11月13日判決,税務訴訟資料258号順号11071,国税庁公表PDF

⑮ 東京地方裁判所平成21年5月13日判決,事件番号は国税庁公表版で伏字,税務訴訟資料259号順号11201,国税庁公表PDF(裁判所HP未掲載)。

⑯ 東京地方裁判所平成22年9月10日判決,事件番号は国税庁公表版で伏字,税務訴訟資料260号順号11505,国税庁公表PDF(裁判所HP未掲載)。

⑰ 大阪地方裁判所平成24年5月10日判決,事件番号は国税庁公表版で伏字,税務訴訟資料262号順号11949,国税庁公表PDF(裁判所HP未掲載)。

⑱ 東京地方裁判所平成24年9月5日判決,事件番号は国税庁公表版で伏字,税務訴訟資料263号順号12374,国税庁公表PDF(裁判所HP未掲載)。

⑲ 東京地方裁判所平成29年3月21日判決,事件番号は国税庁公表版で伏字,税務訴訟資料267号順号13000,国税庁公表PDF(裁判所HP未掲載)。

⑳ 神戸地方裁判所令和5年3月28日判決,事件番号は国税庁公表版で伏字,税務訴訟資料273号順号13839,国税庁公表PDF(裁判所HP未掲載)。

3 公的資料・統計

① 国税不服審判所「審判所の概要」「審理と裁決」「公表裁決事例集等の紹介」。

② 国税不服審判所「令和7年度における審査請求の概要」。

③ 国税不服審判所『国税不服審判所の50年』2020年。歴代幹部名簿は資料上177頁~187頁(PDF188頁~198頁)。

④ 国税庁『国税庁70年史』第2章第3節「国税不服審判所」。

⑤ 税務大学校論叢80号「第三者的機関としての国税不服審判所が行うべき審理の範囲」405頁~544頁。

⑥ 衆議院大蔵委員会昭和45年3月4日会議録及び参議院大蔵委員会昭和45年3月24日会議録

⑦ 国税不服審判所「審査請求書の提出」「提出先一覧」「国税審判官(特定任期付職員)の募集要項」。

⑧ 山中弁護士ブログ公開資料「令和元年7月採用の国税審判官の研修資料」「国税庁長官及び東京国税局長の事務引継資料」並びに令和元年の所長会議,部長審判官会議及び管理課長会議に関する公開文書。

4 文献

① 松井淑子『税理士・弁護士のための税務調査の後の不服申立手続ガイド』(日本加除出版,2014年)111頁~113頁。

② 水野武夫『違法・不当な行政からの権利救済』(法律文化社,2025年)241頁~268頁。

③ 森・濱田松本法律事務所編『企業訴訟実務問題シリーズ 税務訴訟』(中央経済社,2017年)51頁。

④ 岡田正則ほか『判例から考える行政救済法〔第2版〕』(日本評論社,2019年)101頁~102頁。

⑤ 日本弁護士連合会『自由と正義』2024年2月号「国税不服審判所における弁護士出身審判官の来し方と展望」47頁~56頁。