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秘密証書遺言の作成方法,効力,検認及び令和8年改正(AI作成)

第1 秘密証書遺言の位置付け

1 内容を秘密にしたまま存在を明確にする遺言であること

秘密証書遺言は,自筆証書遺言及び公正証書遺言と並ぶ普通方式の遺言であり,民法967条及び970条に根拠がある。遺言者は内容を記載した証書を封じた状態で公証人1人及び証人2人以上の前に提出するため,公証人と証人に遺言内容を示さずに,封書を自己の遺言書として提出した事実と提出日を明確にできる。

公証人は封書の中身を読まず,本文の法律的な不備,財産の特定,遺留分への影響又は遺言者本人の署名押印を中身から点検するものではない。したがって,秘密証書遺言は公正証書遺言のように本文の作成過程へ公証人が関与する制度ではなく,公証人の関与があることだけで内容や方式の有効性まで保証されるわけではない。

2 利用件数が少ないこと

法務省の公表資料によれば,令和6年に作成された秘密証書遺言に係る公正証書は64件であり,同年の遺言公正証書の作成件数12万8378件と比べて極めて少ない。秘密性を維持できる一方で,原本を自ら保管し,死亡後に家庭裁判所の検認を受け,本文の不備も自ら防ぐ必要があるという制度構造が,利用場面を限定していると考えられる。

本記事は,令和8年8月9日現在の現行法を基準として,秘密証書遺言の作成要件,筆者,証人,費用,保管,検認及び方式不備の効果を説明し,公布済みで未施行の改正を別に示すものである。個別の相続関係,財産内容及び遺言能力によって必要な条項と証拠は異なるため,特定の事案に対する法的助言を示すものではない。

第2 現行法による作成方法

1 民法970条1項の4段階

秘密証書遺言は,次の4段階を順に満たす必要がある。①遺言者が遺言証書に署名し,押印する。②遺言者が証書を封じ,証書に用いた印章と同じ印章で封印する。③遺言者が公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出し,自己の遺言書である旨並びに筆者の氏名及び住所を申述する。④公証人が提出日と申述内容を封紙に記載した後,遺言者及び証人とともに封紙へ署名し,押印する。

本文は遺言者が全文を自書する必要がなく,パソコンによる作成又は第三者による筆記も可能である。ただし,本文末尾の遺言者の署名は本人が行う必要があり,現行法では本文への押印及び同じ印章による封印も必要である。公証人と証人の面前に提出する前に封をするため,中身を見せて不備を直してもらう手続ではない。

2 本文の日付と訂正

秘密証書遺言の本文については,自筆証書遺言と異なり,日付の記載自体は方式要件ではない。公証人が封紙に記載するのは封書の提出日であり,本文を実際に作成した日と常に一致するとは限らないため,作成時の遺言能力や複数の遺言の先後が問題となり得る事案では,本文にも正確な作成日を記載しておくことが望ましい。

加除その他の変更には,民法970条2項が準用する同法968条3項の方式が必要である。すなわち,遺言者が変更場所を指示し,変更した旨を付記して署名し,変更場所に押印しなければならない。訂正方法に疑義を残すより,封をする前に本文を清書し直して署名押印する方が,後日の方式争いを避けやすい。

3 口がきけない者及び成年被後見人の特則

口がきけない者は,民法972条により,通訳人の通訳によって申述し,又は封紙に自書して,口頭の申述に代えることができる。その場合,公証人は通訳又は自書によって申述がされた旨を封紙に記載するため,通常の申述を単に省略できるわけではない。

成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時に遺言をするには,民法973条により医師2人以上の立会いが必要である。秘密証書遺言の場合,立会医師は,遺言時に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を封紙に記載して署名押印しなければならず,通常の秘密証書遺言より関係者と方式が増える。

第3 遺言本文の作成者である「筆者」

1 パソコンを実際に操作した者が筆者となること

民法970条1項3号の「筆者」は,遺言内容を考えた者又は末尾に署名した者と常に一致するものではなく,現実に本文を筆記した者をいう。パソコンで作成した場合は,本文を入力して印字した者を正確に特定し,その氏名及び住所を公証人と証人に申述する必要がある。複数人が入力又は修正した場合には,作業分担を事前に整理し,公証人へ具体的に伝える必要がある。

最高裁平成14年9月24日第三小法廷判決は,市販の文例を参照してワープロを操作し,表題と本文を入力・印字した者を筆者とした。遺言者が自らを筆者であると述べ,実際の操作者の氏名及び住所を申述しなかったため,最高裁は民法970条1項3号の方式を欠くとして遺言を無効とした。

2 専門家の指示で事務職員が入力した事案

大阪高裁平成13年12月4日判決は,遺言書の内容と訂正箇所を決めて事務職員にワープロ入力を指示した弁護士を筆者と評価した上で,遺言者が自分を筆者と申述したことは軽微な瑕疵ではなく,遺言全体を無効にすると判断した。同判決は,方式を誤った遺言に基づいて財産を処分した弁護士の不法行為責任も認めており,筆者の特定が単なる形式的な呼称ではないことを示している。

これらの裁判例からは,遺言者の意思どおりに文章を入力しただけであっても,実際の入力者又は入力を組織的に指示した者が誰かを曖昧にしてはならないことが分かる。作成案,修正履歴及び最終印刷を誰が担当したかを確認し,公証人へ事前に説明することが安全である。

第4 証人,費用及び保管

1 証人2人以上の適格

秘密証書遺言には証人2人以上が必要であり,民法974条の欠格事由が適用される。現行法上,①未成年者,②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族,③公証人の配偶者,四親等内の親族,書記及び使用人は,証人になることができない。証人は遺言内容を読むものではないが,封書の提出と申述に立ち会い,封紙へ署名押印する。

大阪高裁平成19年3月16日判決は,遺言書の筆者であること自体は民法974条の欠格事由ではなく,筆者が証人を兼ねることを禁ずる規定もないとして,筆者と証人の兼任を方式違反としなかった。ただし,筆者が受遺者等の欠格者であれば別問題であり,後日の疑念を避けるためにも,遺言内容に利害を持たない者を選ぶのが安全である。

2 公証人手数料

公証人手数料令28条が定める秘密証書遺言の方式に関する公証人手数料は,1件1万3000円である。証人を自ら確保できず紹介を受ける場合の費用,専門家へ本文作成を依頼する費用及び公証役場までの移動費等はこの法定手数料に含まれないため,事前に個別確認を要する。

3 封書を遺言者側で保管すること

完成した封書そのものは公証役場に保管されず,遺言者側で保管する。公正証書遺言のように,死亡後に全国の公証役場で原本の保管先を検索し,謄本を請求する制度を前提にできないため,信頼できる保管者へ存在と保管場所を知らせるなど,秘密性と発見可能性を両立させる工夫が必要である。

保管者を増やせば内容漏えいの危険は増え,誰にも知らせなければ死後に発見されない危険が増える。公正証書遺言の保管と検索の仕組みは,公正証書遺言の保存期間及び検索方法で説明している。

第5 死亡後の検認及び開封

1 申立人,管轄及び費用

秘密証書遺言の保管者又はこれを発見した相続人は,遺言者の死亡を知った後,遅滞なく遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ遺言書を提出し,検認を請求しなければならない。裁判所の現行案内では,申立手数料は遺言書1通につき収入印紙800円であり,別に連絡用の郵便料を要する。検認後に遺言を執行するための検認済証明書には,遺言書1通につき収入印紙150円を要する。

標準的な添付資料には,遺言者の出生時から死亡時までの戸籍謄本等,相続人全員の戸籍謄本等が含まれ,相続関係によって追加資料が必要となる。戸籍の一部を申立前に取得できない場合の扱い,郵便料及び追加資料は申立先の家庭裁判所へ確認する必要がある。

2 検認は有効性を判断する手続ではないこと

検認は,相続人に遺言の存在と内容を知らせ,形状,加除訂正の状態,日付及び署名等を明確にして,検認後の偽造・変造を防止する手続である。遺言が有効か無効かを確定する審判ではないため,検認を終えた秘密証書遺言でも,方式,遺言能力又は内容の解釈が民事訴訟で争われることがある。

封印のある遺言書は,家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ開封できない。家庭裁判所以外で開封し,又は検認の提出義務に違反して遺言を執行した者には,民法1005条により5万円以下の過料があり得るが,違反したことだけで遺言自体が無効になるわけではない。

第6 方式不備,遺言能力及び撤回

1 方式不備は原則として無効になること

民法960条は,遺言は法律に定める方式に従わなければすることができないと定める。本文への遺言者の署名押印がない,本文と封印で異なる印章を用いた,公証人又は適格な証人の人数が足りない,実際の筆者の氏名及び住所を正しく申述しないといった不備は,秘密証書遺言としての効力を失わせる原因となる。

もっとも,封紙上のすべての誤記又は記載欠如が直ちに無効になるわけではない。大阪高裁平成19年3月16日判決は,遺言者及び証人の住所が封紙に記載されていない点について,住所は人物を特定する要素の一つにすぎず,格別の事情がない限り直ちに公正証書を無効にしないとした。方式の目的,欠けた記載及び他の記載による人物特定の可否を区別して検討する必要がある。

2 自筆証書遺言として有効になる場合

民法971条は,秘密証書遺言が970条の方式を欠いて無効であっても,本文が自筆証書遺言の方式を備えているときは,自筆証書遺言として有効とする。したがって,遺言者が全文,日付及び氏名を自書し,現行の民法968条が求める押印等を備えた本文であれば,秘密証書遺言としての不備があっても救済される余地がある。

パソコン又は第三者の代筆で本文を作成した場合は,原則として自筆証書遺言の全文自書要件を満たさないため,971条による転換を期待できない。秘密証書遺言の利点である非自書と,方式不備時の救済可能性は両立しない場合がある。

3 遺言能力は方式とは別に判断されること

公証人と証人の前で封書を提出できたことは,遺言時の能力を判断する一資料にはなり得るが,遺言能力を確定的に証明するものではない。遺言者は遺言時に遺言内容と法的結果を理解して判断できる能力を有する必要があり,争いとなれば,遺言内容の複雑性,作成動機,作成時前後の言動,診療録,介護記録及び関係者の供述等が検討対象となる。

大阪高裁平成19年3月16日判決は,診断書だけでなく,医師の継続診療,具体的な問答,デイサービス記録,遺言内容の単純明快さ及び介護関係等を検討して遺言能力を肯定した。遺言能力の確認と記録化については,遺言者の遺言能力に疑問がある場合に公証人が取るべき具体的対応も参照されたい。

4 撤回及び破棄

遺言者は,民法1022条により,いつでも遺言の方式に従って先の遺言の全部又は一部を撤回できる。また,民法1024条により,遺言書を故意に破棄したときは,破棄した部分について遺言を撤回したものとみなされる。単なる紛失と故意の破棄は同じではないため,封書が見つからない場合に直ちに撤回が成立したと断定することはできない。

第7 自筆証書遺言及び公正証書遺言との比較

1 3方式の違い

比較項目自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言
本文の作成原則として全文を自書する遺言者の口授等に基づき公証人が作成するパソコン又は第三者による筆記が可能である
内容を知る者遺言者だけにできる公証人及び証人が内容を知る公証人及び証人にも内容を示さない
原本の保管遺言者側又は法務局公証人側遺言者側
家庭裁判所の検認法務局保管を利用しない場合は必要である不要である必要である
作成時の証人不要である2人以上必要である2人以上必要である
主な弱点自書方式と紛失・改変の危険内容を完全には秘密にできず費用を要する本文審査がなく,自己保管と検認を要する

秘密証書遺言が適するのは,全文を自書せずに内容を公証人や証人にも開示したくないという必要があり,かつ,本文の法的確認,適格な証人の確保,厳格な封印及び死後の発見可能性を別途確保できる場合である。単にパソコンで作成したいというだけなら,本文の確実性,原本保管及び検認不要という公正証書遺言の利点と比較する必要がある。

2 作成前後の確認事項

作成時には,①遺言者本人が最終本文の内容を理解しているか,②本文末尾へ本人が署名押印したか,③本文と封印に同じ印章を用いたか,④実際の筆者全員の氏名及び住所を確定したか,⑤証人2人が欠格者でないか,⑥公証人への申述と封紙の記載が一致するかを確認する必要がある。作成後には,⑦封書を開封せず安全に保管できるか,⑧死亡後に相続人又は保管者が封書を発見して検認を申し立てられるか,⑨後の遺言との先後関係を明確にできるかを確認する。

この確認過程で,筆者を一人に特定できない,遺言能力の記録が不足する,封書の安全な保管先がない又は死後の発見が期待できない場合には,秘密証書遺言による作成を一旦止め,公正証書遺言その他の方式を比較するのが合理的である。

第8 令和8年改正と施行前の注意

1 公布済みであるが現行要件はまだ変わっていないこと

民法等の一部を改正する法律は,令和8年6月24日に法律第45号として公布された。同法は秘密証書遺言の押印要件等を改めるが,その部分の施行日は公布日から1年以内の政令で定める日であり,令和8年8月9日現在,施行日は確認できない。このため,現在作成する秘密証書遺言には,なお現行の民法970条による本文への押印,同じ印章による封印並びに遺言者及び証人の封紙への押印が必要である。

施行前にされた遺言については,同法附則5条1項により,改正後の方式ではなく従前の例による。現在の方式に従って完成した遺言が,改正法の施行によって新方式へ作り直さなければならなくなるものではない。

2 施行後に変わる事項

改正後の民法970条1項では,①本文は遺言者の署名だけで足り,本文への押印を要しない,②証書に封をすれば足り,同じ印章による封印を要しない,③公証人は封紙に押印するが,遺言者及び証人は封紙へ署名すれば足りるという方式になる。筆者の氏名及び住所の申述,公証人1人と証人2人以上への提出及び公証人による提出日・申述の記載は維持されるため,押印が減っても筆者を正確に申述する必要性は変わらない。

証人の欠格事由も改正され,推定相続人とその配偶者・直系血族に加え,推定相続人でない受遺者については,その配偶者,直系血族及び被用者が欠格となり,受遺者が法人である場合はその被用者及び役員も欠格となる。改正法施行後に作成する場合は,押印の要否だけでなく,証人の関係者範囲を改正後の民法974条で改めて確認する必要がある。

3 保管証書遺言は別制度であること

同じ法律は,書面又は電磁的記録による遺言を法務局で保管する「保管証書遺言」も新設するが,その施行期限は公布日から3年以内の別の政令日である。秘密証書遺言の簡素化と保管証書遺言の創設は施行期日も制度構造も異なるため,現時点で秘密証書遺言を法務局へ保管申請できるわけではない。

第9 出典・参考資料

1 法令

e-Gov法令検索「民法」960条,967条~974条,1004条,1005条,1022条及び1024条。

e-Gov法令検索「公証人手数料令」28条。

2 裁判例

最高裁平成14年9月24日第三小法廷判決,平成14年(受)第432号,集民207号269頁,家庭裁判月報55巻3号72頁。

大阪高裁平成13年12月4日判決,平成13年(ネ)第2299号。

大阪高裁平成19年3月16日判決,平成18年(ネ)第2271号。

3 公的資料

日本公証人連合会「2 遺言」中「6 秘密証書遺言」

裁判所「遺言書の検認」

③ 法制審議会第203回会議配布資料民1-3「民法(成年後見等関係)等の改正に関する要綱案」14頁。

衆議院「民法等の一部を改正する法律案」本文及び法律案等審査経過概要

4 文献

① 日本公証人連合会編著『新版 証書の作成と文例 遺言編[三訂版]』立花書房,令和3年,221頁~224頁(PDF238頁~241頁)。

② 森公任・森元みのり『法律家のための遺言・遺留分実務のポイント』日本加除出版,令和3年,116頁~121頁(PDF128頁~133頁)。