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保管証書遺言とは―令和8年民法等改正で新設された第4の遺言方式,成立要件及び施行時期(AI作成)

第1 保管証書遺言の位置付けと本記事の範囲

1 新設された第4の遺言方式であること

保管証書遺言とは,令和8年6月17日に成立し,同月24日に法律第45号として公布された「民法等の一部を改正する法律」により新設された遺言の方式であり,遺言者がパソコン等で作成した遺言のデータ又はその印刷物を法務局に提供し,法務局の遺言書保管官の面前で遺言の全文を口述する等の方式によって成立するものをいう(民法967条,968条の2)。
現行民法967条は遺言の普通方式を自筆証書,公正証書又は秘密証書の3類型に限っているが,改正後の967条はこれに「保管証書」を加え,4類型とする。

2 本記事の基準日及び対象範囲

本記事は,2026年8月30日を基準日として,保管証書遺言の法的根拠,成立要件,作成手続,効果,既存の自筆証書遺言書保管制度との異同及び施行時期を対象とする。
保管証書遺言の創設は,成年後見制度の抜本的な見直し(後見・保佐の制度を廃止して「補助」に一元化する改正等)と同じ令和8年法律第45号に含まれているが,成年後見制度の見直しの内容自体は,対象とする規律も施行時期も異なる別個の改正事項であるため,本記事の対象としない。
なお,保管証書遺言に関する改正規定は,本記事作成時点では未施行であり,現に保管証書遺言を作成することはできない(詳細は第8で述べる。)。

第2 保管証書遺言の法的根拠及び新設の経緯

1 根拠法令

保管証書遺言の根拠となる規定は,令和8年法律第45号による改正後の民法968条の2及び968条の3であり,これに伴い「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(平成30年法律第73号。以下「遺言書保管法」という。)も改正される。
遺言の方式に保管証書を加える967条の改正は前記第1-1で述べたとおりであり,968条の2及び968条の3は,その保管証書遺言について,成立に必要な具体的な方式を定める規定である(要件の内容は第3で述べる。)。

2 法制審議会における審議経過

法務省民事局の公表資料によれば,法務大臣は令和6年2月,成年後見制度及び遺言制度の見直しについて法制審議会に諮問し,これを受けて法制審議会に設けられた民法(成年後見等関係)部会及び民法(遺言関係)部会が同年4月から調査審議を開始した。
法制審議会は令和8年に要綱を取りまとめて法務大臣に答申し,同年4月に法律案が閣議決定され,同年6月の参議院本会議において法律案が可決・成立した。

3 制度創設の背景となった課題

法務省民事局の公表資料は,遺言制度の見直しの背景として次の課題を挙げている。
①自筆証書遺言はその本文を遺言者本人が手書きしなければならず,負担が大きいこと
②デジタル機器が普及し,日常的に手書きする機会が減少していること
③既存の自筆証書遺言書保管制度を利用するためには,本人が法務局に出頭して対面で手続をする必要があること
④相続登記の促進による所有者不明土地問題等の社会課題の解決という観点から,遺言の重要性が高まっていること
これらの課題を踏まえ,デジタル技術の進展・普及に対応した遺言制度の必要性が指摘され,保管証書遺言の創設に至ったものと整理できる。

第3 保管証書遺言の成立要件

1 二段階の方式(民法968条の2)

法務省民事局の公表資料及び新旧対照条文によれば,新設される民法968条の2は,保管証書によって遺言をするには次に掲げる方式に従わなければならないと定める。
①遺言者が,遺言の全文(電磁的記録に記録された場合にあっては,署名又はこれに代わる措置として法務省令で定めるものを講じたもの)が記載され,又は記録された証書を,遺言書保管官に提供すること
②遺言者が,遺言書保管官の面前で,その証書に記載され,又は記録された遺言の全文を口述すること
すなわち,保管証書遺言は,遺言の全文を記載・記録した証書等を遺言書保管官に提供する行為と,遺言書保管官の面前で遺言の全文を口述する行為という,二段階の方式を組み合わせた遺言方式である。

なお,968条の2各号の文言は,法務省が公表した縦書きの新旧対照条文(画像形式のPDF)を確認して要旨を整理したものであり,条文の実質的内容としては確認できたものの,一字一句の完全な逐語性までを保証するものではないため,実務で条文を逐語引用する必要がある場面では,官報又は施行後にe-Gov法令検索に掲載される正式な条文で再確認されたい。

2 電磁的記録による作成と署名に代わる措置

保管証書遺言の最大の特色は,自筆証書遺言と異なり,遺言者が手書きする必要がないことである。
法務省民事局の公表資料によれば,パソコン等を用いて作成したデータそのもの,又はこれをプリントアウトしたものを保管の申請の対象とすることができ,電磁的記録によって遺言の全文を記録する場合には,署名又はこれに代わる措置として法務省令で定めるもの(電子署名を想定しているとされる)を講ずる必要がある。
この「法務省令で定めるもの」の具体的な内容は,本記事作成時点では確定していないと考えられる(詳細は第8-3で述べる。)。

3 遺言書保管官の意義

保管証書遺言にいう「遺言書保管官」は,遺言書保管法4条に規定する遺言書保管官をいい,既存の自筆証書遺言書保管制度において自筆証書遺言を保管する際にも本人確認等を行っている法務局の職員である。
保管証書遺言においても,同じ地位の者が,証書の提供の受領及び口述の聴取という中核的な役割を担う。

4 口がきけない者の特則(民法968条の3)

新設される民法968条の3は,口がきけない者が保管証書遺言をする場合の特則を定め,口がきけない者は,遺言書保管官の面前で,通訳人の通訳による申述又は自書によって,968条の2が定める口述に代えることができるとされている。

第4 作成手続の具体的な流れ

1 保管申請とオンライン利用

法務省民事局の公表資料によれば,保管証書遺言の保管申請はオンラインによって行うことができ,遺言の内容を記録したデータそのものによる申請のほか,これをプリントアウトしたものによる申請も可能とされる。

2 本人確認とウェブ会議の利用

遺言者が遺言書保管官の面前で全文を口述する手続についても,遺言書保管官においてウェブ会議の利用が相当と認めるときは,ウェブ会議による方法によることができ,これにより既存の自筆証書遺言書保管制度で必要とされていた法務局への出頭を要しない手続が可能になる。
遺言書保管官は,対面又はウェブ会議のいずれの場合にも本人確認を行い,第三者によるなりすましを防止することとされているが,法務省民事局の公表資料は,本人確認の具体的な方法(本人確認書類の種類等)にまでは立ち入っておらず,この点は実際に制定される政令・省令を待って確認する必要がある事項である。

3 財産目録の口述省略

保管証書遺言では,遺言者が遺言の全文を口述する原則を維持しつつ,遺言書保管官が財産目録を遺言者に閲覧させることその他法務省令で定める措置を講じたときは,遺言者は,当該目録の全部又は一部について口述に代えてこれを遺言書保管官に閲覧させることができるとされており,遺産の内容が多岐にわたる場合等に財産目録部分まで逐一口頭で述べる負担を避けることができるものと考えられる。

第5 保管証書遺言の効果

1 検認手続の不要化

法務省民事局の公表資料によれば,保管証書遺言についても,相続開始後の家庭裁判所における検認手続は不要とされており,この点は既存の自筆証書遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言について検認が不要とされているのと同様の扱いである。
もっとも,検認を要しないことは遺言の有効性そのものが保証されることを意味しない。
検認は遺言の有効・無効を判断する手続ではなく,遺言書の現状を確認して偽造・変造を防止するための証拠保全的な手続であるから,この点は保管証書遺言においても異ならないと考えられる。

2 通知制度及び証明書の交付請求等

保管証書遺言についても,遺言者があらかじめ指定した者に対し,遺言者の死亡後,遺言書が保管されている旨を通知する制度が設けられ,この通知により相続登記をはじめとする遺言の執行が円滑化されることが期待されている。
相続開始後,相続人等は,保管されている遺言書の証明書の交付請求や閲覧請求をすることができ,証明書の形式はデータ・書面のいずれも選択でき,オンラインによる請求も可能とされているほか,遺言書が保管されている旨は,請求をした相続人以外の他の相続人にも通知される取扱いとされている。

第6 既存の自筆証書遺言書保管制度との異同

1 対象となる遺言の方式が異なること

既存の自筆証書遺言書保管制度は,遺言書保管法に基づき令和2年7月10日から運用が開始された制度であり,遺言者本人が民法968条所定の方式に従って作成した自筆証書遺言(遺言者が全文・日付・氏名を自書した書面)を,法務局が原本として保管するものである。
これに対し,保管証書遺言は,そもそも民法上の遺言の方式として新設されるものであり,自筆証書によらずパソコン等で作成した遺言そのものが,遺言書保管官の面前における口述という手続を経ることによって有効に成立する。
すなわち,既存の自筆証書遺言書保管制度が「既に成立した自筆証書遺言を法務局が保管するサービス」であるのに対し,保管証書遺言は「法務局における手続を経ることによって遺言そのものが成立する新たな方式」であるという点で,本記事では両者は制度の性質を異にするものと整理する。

2 出頭を要しない点への対応及び既存制度側のデジタル化

既存の自筆証書遺言書保管制度は,保管の申請に際して遺言者本人が法務局に出頭することが必要とされてきたところ,法務省民事局の公表資料はこの点を課題として指摘しており,保管証書遺言では前記第4のとおりウェブ会議の利用が可能とされ,この課題に対応するものと位置付けられる。
法務省民事局の公表資料によれば,保管証書遺言の創設と併せて,既存の自筆証書遺言書保管制度についても,オンラインによる保管申請及び証明書の交付請求等,並びにウェブ会議を利用した各種手続を可能とするデジタル化が図られるとされており,令和8年改正は保管証書遺言という新方式を創設するにとどまらず,従来からの自筆証書遺言書保管制度の使い勝手も併せて改善するものである。

第7 同時に改正された周辺事項

保管証書遺言の創設と同じ令和8年法律第45号により,遺言制度に関して次の周辺事項も併せて改正されている。
いずれも保管証書遺言そのものではないが,遺言実務全体に関わる改正であるため,参考として触れる。

1 押印要件の任意化

自筆証書遺言,秘密証書遺言及び特別の方式による遺言について,遺言者及び証人等の押印要件が廃止され,押印は任意のものとされる(民法968条,970条,976条,979条,980条関係)。
新旧対照条文を確認したところ,現行968条1項が「遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない」と定めるのに対し,改正後は「これに印を押さなければならない」との部分が削除され,自書のみで足りることとされている。
また,自筆証書中の加除その他の変更についても,現行法が変更場所への押印を求めているのに対し,改正後は署名のみで足りることとされており,公正証書遺言における遺言者等の押印要件は,これに先立ち令和5年の公証人法改正により既に廃止されている。
この押印要件の任意化は,保管証書遺言関係とは異なり,公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行される。

2 特別の方式による遺言のデジタル化及び証人等の欠格事由の拡張

死亡の危急に迫った者の遺言(死亡危急時遺言)について,パソコン等で作成したデータを遺言とすることや,遺言作成状況を録音・録画することにより証人一人以上の立会い(ウェブ会議の利用を含む。)で作成する方式が追加され(民法976条の2関係),船舶遭難者遺言についても録音・録画による方式が追加されるほか,大規模地震等の「天災その他避けることのできない事変」の場合にも作成できることとされる(民法979条,979条の2関係)。
これらの特別の方式による遺言も,押印要件の任意化と同じく公布の日から1年以内に施行される。
また,証人及び立会人の欠格事由が拡張され,受遺者本人だけでなくその被用者(受遺者が法人の場合には,その被用者及び役員)も欠格事由に加えられる(民法974条関係)。
法務省民事局の公表資料は,単身高齢者の増加に伴い高齢者施設等への遺贈が行われる例が増えている一方,受遺者の従業員等が証人の欠格事由とされていなかったという課題を踏まえたものと説明している。

第8 施行時期及び現時点での留意点

1 施行期日

保管証書遺言の創設に関する改正(民法968条の2,968条の3及び遺言書保管法関係の改正)は,公布の日(令和8年6月24日)から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日に施行される。
法務省民事局の公表資料は,この項目についてシステム改修を要するためとしており,押印要件の任意化等(公布から1年以内に施行)よりも施行までの期間が長く設定されている。

2 現時点では利用できないこと

本記事作成時点で,保管証書遺言関係の施行日を定める政令は制定されていないため,パソコン等で遺言を作成し,法務局にデータを提供して口述するという方法によって有効な遺言をすることは,現時点ではできない。
現時点で確実に遺言を残したい場合には,現行法上の自筆証書遺言,公正証書遺言又は秘密証書遺言のいずれかの方式によらざるを得ず,このうち自筆証書遺言については,令和2年7月10日から運用されている既存の自筆証書遺言書保管制度を利用することで,紛失,亡失及び相続人による破棄・隠匿・改ざんの危険を低減することができる。

3 運用細則は今後の政令・省令に委ねられていること

保管証書遺言に関する本人確認の具体的な方法,電子署名に代わる措置の内容,保管の手数料その他の運用細則は,法務省令等,今後制定される下位法令に委ねられている部分が多く,本記事作成時点では,これらの細目が確定しているとは確認できなかった。
したがって,施行が近づいた段階で,あらためて政令・省令の内容を確認する必要がある。

4 日本司法書士会連合会による指摘

日本司法書士会連合会は,令和8年2月12日付けの会長声明において,遺言関係の改正要綱案について,①遺言者が本人であること,②遺言書等の記録が真正に成立していること,③保管・管理記録により後日の検証可能性を高めること,④遺言が本人の真意に基づくものであることの4点の確保が重要であるとした上で,「デジタル技術のみではなく」,これらを確実に実現できる制度として構築することが重要であると指摘している。
この指摘は保管証書遺言の創設そのものに反対する趣旨のものではないが,利便性の向上のみに着目するのではなく,なりすましや遺言者の真意に基づかない遺言の作成を防止する仕組みが実効的に機能するかという観点からの検証が必要であることを示すものとして参考になる。

第9 目的別の関連記事案内

保管証書遺言と現行の遺言方式との違いを詳しく確認したい場合は,秘密証書遺言の作成方法,効力,検認及び令和8年改正及び自筆証書遺言の押印――必要な印と押し方・令和8年改正を参照されたい。
自筆証書遺言の有効性や相続欠格との関係を確認したい場合は,自筆証書遺言の訂正・破棄・隠匿と相続欠格事由及び自筆証書遺言の偽造と相続欠格――遺言無効との違い,立証方法及び裁判例を参照されたい。

第10 出典・参考資料

1 法令

民法(明治29年法律第89号)967条,968条。
②法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)4条。
③民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号,令和8年6月24日公布)本文及び新旧対照条文。

2 所管行政機関の解説・運用資料

①法務省民事局「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」。
②法務省民事局「民法等の一部を改正する法律の概要」(令和8年6月)。
③法務省「自筆証書遺言書保管制度」案内ページ。
④佐賀地方法務局・熊本地方法務局・鳥取地方法務局各「自筆証書遺言書保管制度」案内ページ(制度開始日の確認用)。

3 職能団体の意見書

①日本司法書士会連合会「民法(遺言関係)の改正に係る要綱に関する会長声明」(令和8年2月12日)。