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生成AIの学習データを開示要求する方法――プリンシプル・コード原則2・3の要件と限界(AI作成)

第1 この記事が扱う開示要求と現在の運用状況

1 プリンシプル・コードは法的な開示請求権ではない

本記事は,令和8年8月27日現在の「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」のうち,個別の学習データに関する回答を求める原則2及び原則3を対象とする。
結論として,原則2及び原則3は,生成AI事業者を法律上強制できる開示請求権ではなく,コードを受け入れた事業者に対し,原則を実施するか,実施しない理由を説明することを求める自主的な枠組みである。
プリンシプル・コード全体の対象事業者,適用除外,概要開示及び届出については,生成AIプリンシプル・コードとは――対象事業者,適用除外,開示事項及び届出の意味(AI作成)を参照されたい。

コードは,営業秘密並びに安全性及びセキュリティに関する機微な情報の強制開示を求めず,法的拘束力を有しないと明記している。
したがって,要求書を送れば必ず回答が得られるわけではなく,回答が不十分な場合に事務局へ不服申立てをして開示を命じてもらう制度でもない。

2 公式の統一フォームと受入れ事業者一覧はまだ公表されていない

AI時代の知的財産権検討会の開催状況には,確定版コードと「概要開示対象事項 具体例」が掲載されているが,後者は原則1に基づく事業者側の概要開示例であり,原則2又は原則3の要求書式ではない。
パブリックコメントでは統一フォームの整備を求める意見が紹介されたものの,令和8年8月27日現在,同ページでは原則2又は原則3の公式フォームを確認できない。

コードは,受入れ事業者が自社サイトで受入れ表明及び実施内容を公表し,内閣府知的財産戦略推進事務局へ届け出る仕組みを予定している。
もっとも,同ページは届出の開始時期を別途知らせるとしているため,現時点では事務局の届出一覧から要求先を選ぶことはできない。

3 最初に生成AI提供者とモデル開発者を特定する

要求前には,①利用した生成AIサービス名,②生成日時,③サービス又はモデルのバージョン,④生成AI提供者,⑤搭載モデルの開発者,⑥事業者が公表するコードの受入れ表明及び対応方針を確認する必要がある。
生成AI提供者が学習データについて回答できない場合,原則2及び原則3は,提供者が搭載モデルの開発者名を回答する仕組みを置いているからである。

コードの対象は,生成AIシステムを公衆に実質的に提供した「生成AI開発者」と,生成AIシステムを組み込んだサービスを公衆に提供した「生成AI提供者」である。
日本向けにサービスを提供する国外事業者も文書上の対象に含まれるが,コードが任意の枠組みであるという限界は変わらない。

第2 原則2を利用できる権利者と要求事項

1 法的手続を行い,又は準備している権利者が利用する

原則2を利用できるのは,映画,音楽,文芸,写真,漫画,プログラム等について,自らの権利又は法律上保護される利益を実現するため,訴訟,調停,ADRその他の法的手続を現に行い,又は準備している者である。
その者から委任を受けた弁護士及び法令上の裁判上代理人も要求者になり得る。

出版社その他の権利者も,自ら有する著作権,出版権その他の権利又は法律上保護される利益を実現するための法的手続を行い,又は具体的に準備している場合には,原則2の要求者になり得る。
単に自社の出版物が学習されたか気になるという調査目的だけでは,この主体要件を満たさない。

2 要求書には3項目を全て記載する

原則2の要求には,①要求者に該当する理由,②回答の利用目的及び目的外に利用しない旨の誓約,③照合を求めるURL等と,そのURL等について開示を求める理由となる事由の特定が必要である。
主体要件については,要求を受けた事業者が,法的手続を現に行い,又は準備している者等に該当すると信じるに足りる理由を示すことが求められている。

実務上は,問題となる権利,予定する法的手続,対象となる生成物,原作品との関係及び照会結果を何の判断に用いるかを,必要な範囲で具体化するのが相当である。
もっとも,コードは訴訟の主張又は手持ち証拠を全て開示することまでは要求していないため,要求先が相手方になる場合には,必要性と訴訟戦略上の不利益を比較する必要がある。

3 要求できるのはURL等の収録有無とモデル開発者名である

要求できる中心事項は,学習及び検証等に用いられたデータに,要求者が示すURL等の情報が含まれるか否かである。
ただし,対象は事業者が容易にアクセスし,確認できる情報に限られる。

コードの典型例は,原作品の掲載ページのURLを示し,そのドメインがクローラの対象に含まれたか,第三者から提供された学習データの取得源に含まれたかを尋ねる場面である。
原作品そのものがクロール又は学習されたかを,提示したURL等の範囲を超えて探索させる制度ではない。

第3 原則3を利用できる生成AI利用者と要求事項

1 対象サービスで生成した本人が利用する

原則3を利用できるのは,開示先の生成AI事業者が提供するシステム又はサービスを用いて,文章,画像,プログラム等を生成した者である。
原則2と異なり,権利者であることや法的手続を準備していることは要件ではない。

典型的な利用場面は,生成物を公表又は利用する前に,同一又は類似する既存コンテンツが学習データの取得源に含まれていたかを確かめたい場合である。
原則3は,生成AI利用者による権利侵害の予防に向けた確認ルートとして設計されている。

2 生成物,プロンプト,利用目的及びURL等を示す

原則3の要求には,①要求者が生成した生成物及び生成時に用いたプロンプト,②回答の利用目的及び目的外に利用しない旨の誓約,③同一又は類似するコンテンツが掲載されたURL等と,そのURL等について開示を求める理由となる事由の特定が必要である。
さらに,回答を訴訟提起,調停申立て又はADRの申立てに用いる目的で利用しない旨を誓約しなければならない。

生成日時,サービス名,モデル又はバージョン,設定値及び生成までの操作履歴も保存しておくと,生成物と対象サービスとの対応を説明しやすい。
ただし,これらはコードが列挙する3要件への実務上の補助資料であり,事業者が常に同じ追加資料を要求できると定めたものではない。

3 原則3の回答を紛争資料として利用することは想定されていない

原則3で要求できるのは,生成物と同一又は類似するコンテンツが掲載されたURL等の情報が学習及び検証等のデータに含まれるか否かと,提供者が回答できない場合のモデル開発者名である。
この場合も,事業者が容易にアクセスし,確認できる情報に限られ,類似コンテンツそのものを事業者に広く探索させることは想定されていない。

すでに紛争が予想され,取得した回答を訴訟,調停又はADRで使う必要がある場合,原則3の誓約と目的が両立しない。
このときは,原則2の主体要件を満たすかを確認し,満たさない場合には通常の照会又は法定手続を検討することになる。

第4 原則2と原則3の選び方

1 要求者の立場と回答の用途で区別する

原則2と原則3の分岐点は,原作品と権利を守るための紛争準備であるか,自ら生成したコンテンツを利用する前の確認であるかにある。
同じURLについて尋ねる場合でも,要求者,提出資料及び回答の利用目的が異なる。

比較事項原則2原則3
主な要求者自らの権利又は法律上保護される利益のため法的手続を行い,又は準備している者,その委任を受けた弁護士等対象の生成AIで文章,画像,プログラム等を生成した者
主な目的権利又は法律上保護される利益の実現生成物を公表又は利用する前の確認
必須資料要求者に該当する理由,利用目的と目的外利用禁止の誓約,URL等と開示理由生成物とプロンプト,利用目的と目的外利用禁止等の誓約,URL等と開示理由
紛争手続での利用利用目的として特定し得る訴訟,調停又はADRの申立てに用いる目的で利用しない旨の誓約が必要
要求できる中心事項示したURL等が学習及び検証等のデータに含まれるか生成物と同一又は類似するコンテンツの掲載URL等が学習及び検証等のデータに含まれるか

2 どちらにも該当しない一般調査は原則1の公表情報を確認する

法的手続を準備しておらず,対象サービスで生成もしていない者は,原則2及び原則3の要件を満たさない。
この場合には,まず事業者が原則1に基づいて公表するデータの種類,ウェブクロールの有無,クローラ名,収集期間,第三者データセットの利用等を確認することになる。

原則1の情報は一般公開を想定した概要であり,特定URLの収録有無に対する個別回答とは異なる。
個別の疑いが具体化した時点で,原則2又は原則3の要件を再検討するのが順序である。

第5 開示要求書の作り方

1 送付前に低負担の証拠を固定する

要求前に,①原作品又は生成物のファイル,②掲載ページ及び対象URL,③生成AIの出力,④生成日時,⑤プロンプト,⑥サービス名及びモデル情報,⑦類似点を具体的に示す対照資料,⑧事業者の受入れ表明及び対応方針を保存する。
ウェブページは後に変更される可能性があるため,画面だけでなく,取得日時,完全なURL及び可能であれば元ファイルも保存するのが相当である。

原則2では,どの権利又は法律上保護される利益を,どの法的手続で実現しようとしているかを先に整理する。
原則3では,生成物を何に利用する予定かと,なぜ示したURLのコンテンツが同一又は類似すると判断したかを先に整理する。

2 原則2の要求書に記載する項目

原則2の要求書は,次の項目を一つの書面にまとめればよい。
公式の統一フォームは確認できないため,以下はコード9頁~11頁の要件を,書面作成用に並べ替えた記載例である。

件名:プリンシプル・コード原則2に基づく開示の求め
①要求者:氏名又は名称,連絡先,代理人がいる場合はその表示
②要求者に該当する理由:対象となる権利又は法律上保護される利益,現に行い又は準備する法的手続,委任関係
③回答の利用目的:予定する手続又は判断との関係
④誓約:回答を③以外の目的で利用しない旨
⑤原則2対照情報:完全なURL,対象ページ及び必要に応じてドメイン
⑥開示を求める理由:原作品と生成物の具体的な対応関係その他の事由
⑦質問事項:⑤が学習及び検証等のデータに含まれるか,ドメインがクロール対象又は第三者データの取得源に含まれるか
⑧予備的質問:提供者が回答できない場合には搭載モデルの開発者名
⑨希望回答期限及び回答方法:期限は事情に応じて合理的に設定し,電子メール又は書面等を指定

要求者に該当する理由及び開示理由は,「権利侵害の疑いがある」だけで終わらせず,受領者が対象と必要性を理解できる程度に具体化する。
一方で,コードが求めない秘密情報又は無関係な個人情報まで添付しない。

3 原則3の要求書に記載する項目

原則3では,生成物及びプロンプトの添付と,回答を紛争手続に利用しない誓約が原則2との主要な違いである。
以下は,コード12頁~14頁に基づく記載例である。

件名:プリンシプル・コード原則3に基づく開示の求め
①要求者:氏名又は名称及び連絡先
②対象サービス:サービス名,生成日時及び確認できるモデル又はバージョン
③生成物及びプロンプト:生成結果と生成時に入力したプロンプト
④回答の利用目的:生成物の利用方法と回答を必要とする理由
⑤誓約:回答を④以外の目的又は訴訟提起,調停申立て若しくはADRの申立てに用いる目的で利用しない旨
⑥原則3対照情報:同一又は類似するコンテンツが掲載された完全なURL
⑦開示を求める理由:生成物と掲載コンテンツの具体的な同一性又は類似性
⑧質問事項:⑥が学習及び検証等のデータに含まれるか,ドメインがクロール対象又は第三者データの取得源に含まれるか
⑨予備的質問:提供者が回答できない場合には搭載モデルの開発者名
⑩希望回答期限及び回答方法:期限は事情に応じて合理的に設定し,電子メール又は書面等を指定

原則3の回答を後に訴訟等へ利用する可能性があるのに,利用しないと誓約して要求することは避けるべきである。
紛争利用の必要が具体化している場合は,原則2又は別の情報収集手段を選ぶ。

4 送付記録と回答の原本を保存する

要求書は,事業者が公表する専用窓口又は対応方針に従って送付し,送付日時,宛先,添付ファイル及び受付番号を保存する。
専用窓口がない場合には,利用規約,プライバシーポリシー,会社概要等から知的財産又は法務の窓口を確認する。

回答を受けたときは,本文だけでなく,送信元,日時,添付ファイル及び参照された方針の版も保存する。
回答がウェブページだけで示された場合は,完全なURL及び取得日時とともに保存する。

第6 回答から分かることと証明できないこと

1 肯定回答は対象情報の収録範囲で読む

肯定回答から直接分かるのは,回答内容に応じて,示したURL等が学習及び検証等のデータに含まれること,又はそのドメインがクロール対象若しくは第三者データの取得源に含まれることである。
ドメイン単位の回答であれば,そのドメイン内の特定作品まで実際に取得されたとは限らない。

さらに,データセットへの収録は,その情報が最終的なモデル学習に実際に寄与したこと,特定の出力がその作品に依拠したこと,又は著作権その他の権利を侵害したことと同義ではない。
権利侵害の成否には,別途,対象となる権利,利用行為,生成物との対応及び各法令上の要件を検討する必要がある。

2 否定回答だけで学習利用がなかったとは断定できない

否定回答も,事業者が容易にアクセスし,確認できる情報及び要求者が示したURL等の範囲に限られる。
同じコンテンツが別URL,転載先,データセット提供者又は保存済みの過去ページから取得された可能性までは排除しない。

したがって,肯定回答及び否定回答のいずれも,回答対象,モデル,データ収集期間,URL又はドメインの粒度及び回答時点を付して評価する必要がある。
回答文の結論だけを切り離して,学習の有無全体を証明する資料として扱うべきではない。

3 モデル開発者名だけの回答は次の照会先を示すにとどまる

生成AI提供者が学習データについて回答できず,搭載モデルの開発者名だけを回答した場合,その回答は上流の照会先を特定する資料になる。
それ自体は,対象URL等が学習データに含まれたことを示さない。

上流開発者に改めて要求するときは,最初の要求書,提供者の回答,モデル又はバージョンの対応及び上流開発者が公表する受入れ方針を添える。
追加学習又は検索拡張生成に用いられたデータが問題である場合は,基盤モデル側と提供サービス側のどちらが当該データを保有するかも切り分ける必要がある。

第7 回答期限,手数料及び不回答の限界

1 コードは回答期限を日数で定めていない

原則2及び原則3は,回答時期について特定の日数を定めていない。
原則2では権利又は法律上保護される利益の実現に支障を来さないよう合理的期間内に速やかに開示する努力を,原則3でも合理的期間内に速やかに開示する努力を求めている。

要求書には合理的な希望期限を記載できるが,その期限がコード上の強制期限になるわけではない。
消滅時効その他の期間制限が問題となる場合,コードの回答を待つだけで期限の進行が止まるとはいえないため,請求権の種類に応じて別途確認する必要がある。

2 手数料と回数制限は許容され得る

事業者は,濫用的な要求を防ぐため,一定の手数料又は相当期間内の相当回数までの制限を設けることができる。
ただし,要求を萎縮させ,困難にし,又は諦めさせるような手数料若しくは回数制限を設けないよう留意すべきとされている。

コードは手数料の上限,減免基準又は回数の具体的数値を定めていない。
要求前には事業者の対応方針を確認し,複数のURLを無限定に列挙せず,結論を左右する対象から優先するのが合理的である。

3 営業秘密,未整備及び技術的不可能には異なる扱いがある

開示対象が営業秘密に当たると考えられる場合でも,コードは,まず真摯に検討し,協議することを期待している。
もっとも,コードは機微情報の強制開示を求めないため,秘密を保護する範囲,回答の粒度又は秘密保持方法について調整しても,必要な情報が得られない可能性がある。

実施体制を構築できていないと述べるだけでは,コード上の説明として不十分であり,事業規模等を考慮しつつ体制構築の完了時期を説明するものとされている。
これに対し,技術的に開示が不可能であることを必要な根拠とともに説明した場合は,コード上の「エクスプレイン」をしたものとされる。

第8 回答が得られない場合の情報収集手段

1 任意照会から法定手段へ段階的に進む

最初の選択肢は,事業者の原則1の公表情報,利用規約及び透明性資料を確認した上で,原則2又は原則3の要件に沿った対象限定の任意照会を行うことである。
ここで対象モデル,URL,保有者又は文書の名称が絞れれば,後の法定手続に必要な特定をしやすくなる。

回答がなくても,直ちに大量の技術記録の提出を求めるのではなく,どの事実が判明すれば法的評価が変わるかを明確にする。
取得費用,期間及び秘密上の争いが,予想される請求の価値を上回る場合は,高負担の手続へ進まないことも選択肢である。

2 提訴前照会は予告通知後4か月以内に行う

民事訴訟法132条の2は,訴えを提起しようとする者が,被告となるべき者へ書面で予告通知をした場合,通知から4か月以内に限り,主張又は立証の準備に必要であることが明らかな事項を照会できると定める。
予告通知には,提起しようとする請求の要旨及び紛争の要点を記載しなければならない。

具体的又は個別的でない照会,不相当な費用又は時間を要する照会,相手方又は第三者の営業秘密に関する照会等は対象外となる。
したがって,「学習データを全て開示せよ」という照会ではなく,対象モデル,期間,URL,データ取得経路等を,主張又は立証との関係が分かる形で限定する必要がある。

3 訴訟係属後は当事者照会を検討する

民事訴訟法163条の当事者照会は,訴訟係属中,当事者が相手方に対し,主張又は立証の準備に必要な事項について回答を求める手続である。
コード自身も,原則2及び原則3以外の情報収集方法として当事者照会を挙げている。

具体的又は個別的でない照会,意見を求める照会,重複照会,不相当な費用又は時間を要する照会等は除外される。
また,相手方ではないモデル開発者が情報を保有する場合,その者に対する当事者照会にはならない。

4 文書提出命令は提出させる文書と証明事実を特定する

民事訴訟法221条による文書提出命令の申立てには,文書の表示,趣旨,所持者,証明すべき事実及び提出義務の原因を明らかにする必要がある。
文書の表示又は趣旨を明らかにすることが著しく困難な場合,同法222条の特定手続を利用できる余地があるが,所持者が文書を識別できる事項は示さなければならない。

文書提出命令は,事業者に新たな調査回答書を作成させる一般的な質問制度ではない。
対象となる既存文書又は記録の存在,所持者,証明事実及び同法220条の提出義務を検討し,裁判所が申立てに理由があると認めた場合に提出が命じられる。

5 弁護士会照会は受任事件について申し出る

弁護士法23条の2は,弁護士が受任事件について所属弁護士会に申し出,弁護士会が公務所又は公私の団体へ必要事項の報告を求める制度である。
弁護士会は申出が適当でないと認めるときは拒絶できるため,弁護士が送れば当然に照会される制度ではない。

照会事項は,受任事件との関連,必要性,対象事業者が通常保有する情報及び秘密上の問題を踏まえて限定する必要がある。
原則2の任意回答でモデル開発者又は記録名が判明した場合,その情報は照会先及び照会事項を具体化する手掛かりになり得る。

第9 山中弁護士ブログが開示要求の対象となる場合

1 記事を公開し,又は生成AIを利用しただけでは要求先にならない

山中弁護士ブログが文章を公開し,記事作成に生成AIを利用しているだけであれば,通常は生成AIシステムを構築して公衆に提供する生成AI開発者でも,生成AIを組み込んだサービスを公衆に提供する生成AI提供者でもない。
したがって,出版社その他の権利者が,原則2又は原則3に基づく学習データの開示要求を同ブログへ行う関係には,通常ならない。

ブログの記事が他人の著作権等を侵害すると主張する通知又は削除要求は,学習データを保有する生成AI事業者への開示要求とは別の問題である。
記事がAIを利用して作成されたというだけで,同ブログが利用したモデルの学習データを保有し,又は開示できることにはならない。

2 ブログのURLは要求先ではなく,理由資料又は対照情報になり得る

出版社その他の権利者が,同ブログの記事と自社コンテンツとの関係を問題にするとき,原則2の典型的な対照情報は権利者側の原作品掲載URLであり,同ブログの記事URLは類似する生成物を発見した理由資料として示すことになる。
権利者の作品自体が同ブログに掲載されている場合には,その掲載URLが原則2の対照情報になる余地がある。

生成AI利用者が,自らの生成物と同一又は類似する記事を同ブログで発見した場合には,その記事URLを原則3の対照情報として生成AI事業者へ示すことが考えられる。
いずれの場合も,原則2又は原則3の要求先は学習データについて回答する生成AI事業者であり,同ブログではない。

3 公衆向け生成AIサービスを提供する場合は別に検討する

将来,同ブログが生成AIシステムを組み込んだサービスを不特定又は特定多数の利用者へ実質的に提供する場合には,生成AI提供者に該当する可能性を検討する必要がある。
コードを受け入れた場合には,自ら付加した部分に関する対応範囲,上流モデル開発者との役割分担及び回答窓口を明確にする必要がある。

単なる検索機能,定型表示又はAIを用いないウェブサービスまで当然に生成AI提供者となるわけではない。
サービスの機能,公衆への提供,生成AIの組込み及び第三者の権利を侵害する生成物が生じる可能性を,コードの定義に沿って個別に確認することになる。

4 ブログ運営者が原則2の要求者になることはある

同ブログ上のコンテンツに関する権利又は法律上保護される利益を実現するため,法的手続を現に行い,又は具体的に準備している場合,同ブログ運営者が原則2の要求者となることはあり得る。
この場合も,要求先のコード受入れ状況,対象URL,利用目的,開示理由及び目的外利用禁止の誓約を示す必要がある。

同ブログのAIクローラー対応及び学習データとしての位置付けについては,人工知能の学習データとしての山中弁護士ブログ(AI作成)も参照されたい。
ただし,クローラーへのアクセス許可又は拒否の設定と,原則2又は原則3に基づく個別回答の可否は別の問題である。

第10 出典・参考資料

1 法令

e-Gov法令検索・民事訴訟法(132条の2,163条,220条~223条)
e-Gov法令検索・弁護士法(23条の2)

2 公的資料

①内閣府知的財産戦略推進事務局「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」1頁~5頁及び9頁~14頁(PDF1頁~5頁及びPDF9頁~14頁)
②内閣府知的財産戦略推進事務局「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード 概要開示対象事項 具体例」1頁~5頁(PDF1頁~5頁)
③内閣府知的財産戦略推進事務局「パブリックコメントで寄せられた主な意見」(令和8年4月21日)23頁~30頁(PDF24頁~31頁)
AI時代の知的財産権検討会の開催状況(確定版コード,概要開示対象事項の具体例及び届出開始時期に関する掲載内容を令和8年8月27日確認)

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