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令和8年4月施行の改正女性活躍推進法――情報公表義務,算定方法及びえるぼしプラス(AI作成)

第1 この記事が扱う改正内容

1 令和8年4月施行部分の中心

令和8年4月1日施行の改正女性活躍推進法では,常時雇用する労働者が101人以上の一般事業主について,「男女間賃金差異」と「管理職に占める女性労働者の割合」の公表が必須となった。本記事は,令和7年法律第63号による改正のうち,企業の情報公表,一般事業主行動計画及び女性の健康支援に関する認定制度を対象とし,令和8年4月から企業が確認すべき事項を整理するものである。

今回の改正は,男女間賃金差異について一定の許容値又は達成目標を定めるものではない。女性管理職比率についても,企業が必ず達成すべき一律の法定割合は設けられていない。公表された数値は,求職者の企業選択に資するとともに,事業主が採用,配置,育成,昇進及び賃金制度の課題を分析するための情報として位置付けられる。

2 法改正の背景となる数値

厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査によれば,一般労働者の所定内給与額は男性37万3400円,女性28万5900円であり,単純比は約76.6%である。ただし,これは令和7年6月分の所定内給与額による統計であり,女性活躍推進法に基づいて各企業が算定する平均年間賃金の比率とは対象期間及び賃金範囲が異なる。

また,令和6年度雇用均等基本調査によれば,令和6年10月1日現在の管理職等に占める女性の割合は,部長相当職8.7%,課長相当職12.3%,係長相当職21.1%であった。政府は国会審議において,女性管理職比率,男女間賃金差異及び平均勤続年数の改善は緩やかであり,取組の加速が必要であると説明している。

第2 公布日,令和8年4月及び同年10月の施行事項

1 施行日は一つではないこと

改正法は,第217回国会で令和7年6月4日に成立し,同月11日に令和7年法律第63号として公布された。女性活躍推進法に関する改正事項は,公布日,令和8年4月1日及び同年10月1日の三つの時点に分かれる。

時点主な改正内容
令和7年6月11日女性の健康上の特性への留意を基本原則に追加,法の有効期限を令和18年3月31日まで延長
令和8年4月1日男女間賃金差異・女性管理職比率の公表対象拡大,行動計画の基礎項目追加,えるぼしプラス等の開始
令和8年10月1日プラチナえるぼし認定企業に,求職者等へのセクシュアルハラスメント防止措置の内容の公表を追加

女性の健康上の特性に留意する旨の法2条1項の改正及び法律の有効期限の延長は,令和8年4月ではなく公布日の令和7年6月11日に施行されている。他方,男女間賃金差異及び女性管理職比率の公表義務の拡大は,令和8年4月1日施行である。

2 法の有効期限

女性活躍推進法は,当初,令和8年3月31日までの時限法であった。令和7年改正により,有効期限は令和18年3月31日まで10年間延長された。改正法には施行後5年を経過した場合の検討条項も置かれており,情報公表の対象範囲や是正措置の在り方は,将来の見直し対象となり得る。

第3 企業規模別の情報公表義務

1 301人以上と101人以上300人以下の違い

女性活躍推進法20条及び関係省令による企業規模別の最低公表項目は,次のとおりである。

常時雇用する労働者数必ず公表する項目追加して選択する項目最低公表数
301人以上男女間賃金差異,女性管理職比率「職業生活に関する機会の提供」から1項目以上,かつ「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」から1項目以上4項目
101人以上300人以下男女間賃金差異,女性管理職比率前記二つの区分の全項目から1項目以上3項目
100人以下法的義務なし全項目から1項目以上の公表が努力義務1項目以上

301人以上の事業主について,追加の2項目を同じ区分から選ぶことはできない。機会提供と両立環境の各区分から少なくとも1項目ずつ選択する必要がある。これに対し,101人以上300人以下の事業主は,両区分の全項目から1項目以上を選択すれば足りる。

2 「常時雇用する労働者」の意味

企業規模を判定する「常時雇用する労働者」には,期間の定めなく雇用される者のほか,期間雇用者でも,過去1年以上引き続き雇用されている者又は雇入れ時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者を含む。正社員,パート,契約社員,アルバイト等の名称だけでは決まらない。

企業規模を判定する母集団と,義務対象となった後に男女間賃金差異等を集計する母集団は,同一とは限らない。厚生労働省Q&Aは,101人以上の事業主に該当した後の状況把握及び情報公表では,1年以上雇用される見込みがない者等を含め,その雇用する全ての労働者を原則として対象とする旨を示している。

3 最初の公表時期

改正後の公表義務は,令和8年4月1日以後に終了する事業年度に係る情報を,その翌事業年度に公表する場合から適用される。公表時期は,対象事業年度の終了後おおむね3か月以内である。

事業年度最初に公表する対象期間公表時期の目安
7月1日~翌年6月30日令和7年7月1日~令和8年6月30日令和8年9月30日頃まで
1月1日~12月31日令和8年1月1日~同年12月31日令和9年3月31日頃まで
4月1日~翌年3月31日令和8年4月1日~令和9年3月31日令和9年6月30日頃まで

令和8年4月1日から全ての対象企業が直ちに新数値を公表するわけではない。各社の事業年度末によって,最初の公表対象期間及び公表時期が異なる。

4 公表場所と更新

情報は,求職者等が容易に閲覧できる方法により,おおむね年1回以上公表し,公表日を明らかにする。厚生労働省は「女性の活躍推進企業データベース」を最も適切な公表場所としているが,自社ウェブサイト等でも容易閲覧性を満たす方法で公表できる。最新情報は,通常,直近の事業年度から2事業年度以上前のものとならないよう更新する必要がある。

有価証券報告書に同じ数値を記載する企業であっても,女性活躍推進法が求める公表は求職者等の職業選択に資するためのものである。有価証券報告書に記載したことだけで,求職者等が容易に閲覧できるという要件を当然に満たすとは限らないため,女性の活躍推進企業データベース又は自社採用サイト等への掲載を別に確認する必要がある。

第4 男女間賃金差異の算定方法

1 三つの区分と算式

男女間賃金差異は,①全労働者,②正規雇用労働者及び③非正規雇用労働者の三つの区分について,次の算式で求め,小数点第2位を四捨五入して小数点第1位まで表示する。

女性の平均年間賃金÷男性の平均年間賃金×100

平均年間賃金は,原則として,対象事業年度における性別・区分別の賃金総額を,同じ性別・区分の人員数で除して算定する。正規雇用労働者には,期間の定めのないフルタイム労働者のほか,短時間正社員を含む。

2 賃金と人員数の範囲

賃金の範囲は,労働基準法11条の賃金を基本とする。退職手当及び通勤手当等の実費弁償的な給付は,男女に同じ基準を適用する限り,算定から除外できる。所得税法上の給与所得の源泉徴収票を基礎にする方法も認められている。

人員数は男女で同じ方法により把握し,年度間でも継続する必要がある。月ごとの平均人数又はフルタイム換算人数を使用する場合は,合理的な方法を男女に共通して適用し,その方法を公表時に注記する。算定方法を変更した場合も,数値の年度比較を誤らせないよう変更内容を明示する必要がある。派遣労働者の賃金差異は,派遣先ではなく派遣元事業主が算定する。

3 数値の読み方と説明欄

男女間賃金差異には,職種,等級,勤続年数,労働時間,採用時期,管理職比率,休業及び短時間勤務等が複合して影響する。例えば,女性の採用を急速に増やした企業では,勤続年数の短い女性が増えることにより,一時的に差異が拡大する場合がある。他方,差異が小さくても,特定の職種又は等級で女性の配置・昇進が制限されていれば,個別の雇用管理上の問題は残り得る。

このため,公表数値だけで企業の適法性又は取組の優劣を断定するのは適切でない。事業主は,職種,等級,勤続年数及び労働時間等に分解して原因を分析し,必要に応じて,女性の採用拡大,雇用管理区分ごとの構成,又は制度変更による影響を説明欄に記載することが考えられる。

第5 女性管理職比率の算定方法

1 算式と公表単位

女性管理職比率は,「女性管理職数÷管理職総数×100」により算定し,小数点第2位を四捨五入して小数点第1位まで表示する。直近の事業年度の実績及び公表日を明示する。

2 「管理職」の範囲

公表対象となる管理職は,役員を除く課長級以上である。課長級とは,通常「課長」と呼ばれる者であって,①その組織が2係以上からなるものの長,②その構成員が10人以上の組織の長,又は③これらに相当する責任,職務内容及び重要性を有する者をいう。企業の職制における最下位の管理職層であることも必要である。

「課長代理」「課長補佐」等は一般に管理職へ含まれないが,名称だけで判断するものでもない。金融庁は,有価証券報告書レビューにおいて,企業独自の「課長代理以上」という定義を用いるのではなく,女性活躍推進法に基づく管理職の定義を用いる必要があると指摘している。企業は,組織図,職務権限,部下人数,決裁権,評価権及び最下位管理職層との関係を確認して集計する必要がある。

第6 一般事業主行動計画への影響

1 五つの基礎項目

常時雇用する労働者が101人以上の事業主は,一般事業主行動計画を策定する際,①採用した労働者に占める女性労働者の割合,②男女の平均継続勤務年数の差異,③労働者の各月ごとの平均残業時間等,④女性管理職比率及び⑤男女間賃金差異の五つの基礎項目を把握し,課題を分析する。

301人以上の事業主は,「職業生活に関する機会の提供」と「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の各区分から原則として1項目以上,合計2項目以上の数値目標を定める。101人以上300人以下の事業主は,1項目以上の数値目標を定める。

2 進行中の行動計画に関する経過措置

五つの基礎項目による状況把握は,計画期間の始期が令和8年4月1日以後である一般事業主行動計画に適用される。同日前から進行している計画を同日後に変更しても,そのことだけで新しい五項目による状況把握義務に切り替わるものではない。情報公表の経過措置と行動計画の経過措置は基準が異なるため,別々に判定する必要がある。

第7 女性の健康支援とえるぼしプラス

1 基本原則,行動計画及び認定制度の違い

女性活躍推進法2条1項には,女性の職業生活における活躍の推進を「女性の健康上の特性に留意して」行う旨が加えられた。行動計画策定指針は,健康課題に配慮した休暇,柔軟な働き方,研修及び相談体制等を取組例として示している。

これに対し,えるぼしプラス及びプラチナえるぼしプラスは,既存のえるぼし又はプラチナえるぼしの基準に加えて女性の健康支援に関する基準を満たした事業主が申請できる任意の認定制度である。プラス認定の基準を満たさないことだけで,直ちに女性活躍推進法違反となるものではない。

2 プラス認定の四つの基準

プラス認定では,次の全てを満たす必要がある。

①年次有給休暇を除く,女性の健康上の特性に配慮した休暇制度を設け,さらに,半日・時間単位年休,所定外労働の制限,時差出勤,フレックスタイム,短時間勤務又は在宅勤務のいずれかを利用できるようにすること。

②女性の健康上の特性への配慮に関する方針を示し,制度内容とともに労働者へ周知すること。

③研修その他,労働者の理解を促進する取組を実施すること。

④担当者を選任し,女性の健康上の特性に関する相談へ対応させ,担当者を労働者へ周知すること。

厚生労働省Q&Aは,月経,妊娠・出産,更年期及び不妊治療等を例示しているが,休暇等を女性だけが利用できる制度にする必要はない。多目的休暇又は男女を問わず利用できる柔軟な勤務制度も,要件を満たし得る。制度利用及び相談に伴う健康情報については,必要以上の申告を求めず,プライバシー保護及びハラスメント防止を制度設計に含める必要がある。

第8 行政上の履行確保と個別の雇用差別

1 未公表・虚偽公表への対応

厚生労働大臣は,女性活躍推進法30条に基づき,事業主に報告を求め,助言,指導又は勧告を行うことができる。事業主が法20条の情報を公表せず,又は虚偽の公表をし,勧告に従わないときは,法31条により,事業主名その他の事実を公表できる。

法30条に基づく報告をせず,又は虚偽の報告をした場合は,法39条により20万円以下の過料の対象となる。他方,法20条の公表を怠ったこと自体に,直ちに20万円以下の過料を科すという条文構造ではない。

2 公表数値と差別の法的判断

女性活躍推進法20条は求職者等に対する情報公表を定める規定であり,公表された男女間賃金差異から個々の労働者の差額賃金請求権が当然に生じるものではない。個別の紛争では,労働基準法4条,男女雇用機会均等法6条,賃金規程及び民法709条等に基づき,比較対象者,職務,責任,配置,評価,昇格,職種転換及び賃金決定過程が問題となる。

三陽物産事件の東京地裁平成6年6月16日判決は,勤務地限定・無限定という形式を採りながら,女性従業員の本人給を低く抑える結果を容認して制度を制定・運用したとして,労働基準法4条違反を認めた。昭和シェル石油事件の東京地裁平成15年1月29日判決は,著しい男女間格差について合理的理由が認められない場合の推認を示し,兼松事件の東京高裁平成20年1月31日判決は,コース別の職務,転勤可能性及び時期ごとの法制度を検討している。これらの判決は,集計値だけではなく,制度の設計と実際の運用を確認する必要があることを示している。

裁判所ウェブサイト及び公開判例データベースを「女性活躍推進法」「男女間賃金差異」「女性管理職」等で検索した範囲では,法20条の情報公表義務違反を直接判断した公表裁判例は確認できなかった。ただし,裁判所ウェブサイトに掲載されていないことは,裁判例が存在しないことを意味しない。男女雇用機会均等法の制度及び関連判例については,男女雇用機会均等法に関するメモ書きを,同一労働同一賃金との違いについては,同一労働同一賃金を参照されたい。

第9 企業が確認すべき実装事項

令和8年改正への対応では,次の事項を順に確認することになる。

①常時雇用する労働者数の判定方法を記録し,101人以上又は301人以上のどちらに該当するかを確定する。

②事業年度末と経過措置を突き合わせ,最初の公表対象期間及び公表期限を確定する。

③正規・非正規の区分,賃金から除外する給付,人員数又はフルタイム換算の方法を文書化し,男女及び年度間で統一する。

④女性管理職比率について,社内呼称ではなく,組織,人員,職務権限及び最下位管理職層との関係から対象者を確定する。

⑤公表数値を職種,等級,勤続年数,労働時間,採用時期及び管理職比率等に分解し,説明可能な要因と是正を要する雇用管理を区別する。

⑥一般事業主行動計画の計画期間の始期を確認し,新しい五つの基礎項目による状況把握が必要かを判定する。

⑦女性の活躍推進企業データベース,自社ウェブサイト,有価証券報告書及びサステナビリティ報告書等の数値と対象範囲を照合する。

⑧えるぼしプラスの取得を検討する場合は,休暇・柔軟勤務,方針・周知,研修及び相談担当者の四基準を満たすとともに,健康情報の秘密保持と不利益取扱い防止を制度へ組み込む。

⑨行政から算定根拠の説明を求められる場合に備え,原データ,算式,除外項目,管理職判定及び公表日時の記録を保存する。

第10 出典・参考資料

1 法令

女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号)2条,8条,20条,30条,31条,39条及び附則2条(e-Gov法令検索)

女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令(平成27年厚生労働省令第162号)

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)4条及び附則1条・6条・8条(衆議院)

2 厚生労働省・金融庁資料

厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」

厚生労働省「女性活躍推進法に基づくえるぼし認定・プラチナえるぼし認定のご案内」1頁・17頁・21頁~24頁(資料上の頁。PDF頁2・18・22~25)

厚生労働省「女性活躍推進法等の一部を改正する法律の施行について」

厚生労働省「男女の賃金の差異の算出及び公表の方法について」

厚生労働省「管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合の算出及び公表の方法について」

厚生労働省「女性活躍推進法に関するQ&A」

金融庁「令和6年度有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」39頁~40頁(資料上の頁。PDF頁40~41)

3 国会資料

第217回国会衆議院厚生労働委員会議録第16号・政府答弁(令和7年5月14日)

第217回国会参議院厚生労働委員会会議録第15号・政府答弁(令和7年5月27日)

参議院厚生労働委員会附帯決議(令和7年6月3日)

4 裁判例

東京地方裁判所平成6年6月16日判決・三陽物産事件(平成3年(ワ)第5511号・平成4年(ワ)第14509号,判例時報1502号32頁,判例タイムズ846号111頁,労働判例651号15頁。裁判所HP未掲載。全基連労働基準判例検索で判決理由確認)

東京地方裁判所平成15年1月29日判決・昭和シェル石油事件(平成6年(ワ)第4336号,労働判例846号10頁。裁判所ウェブサイト)

東京高等裁判所平成20年1月31日判決・兼松事件(平成15年(ネ)第6078号,判例時報2005号92頁,判例タイムズ1280号163頁,労働判例959号85頁。裁判所HP未掲載。全基連労働基準判例検索で判決理由確認)

5 統計・文献

厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」及び男女別結果表

厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」6頁(資料上の頁。PDF頁7)

③亀田康次・高谷知佐子・安倍嘉一・上田雅大『詳解 賃金関係法務』(商事法務,2024年)494頁~505頁