男女雇用機会均等法に関するメモ書き


目次
1 総論
2 昭和61年3月31日以前の女性保護
3 募集・採用,配置・昇進についての差別解消
4 深夜業の解禁
5 坑内労働の解禁
6 セクハラ等の防止
7 セクハラ等に関する判例
8 妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いの禁止
9 女性労働者に対する積極的差別解消措置
10 国際婦人年
11 女子差別撤廃条約
12 関連記事その他

1 総論
(1) 男女雇用機会均等法は,勤労婦人福祉法(昭和47年7月1日法律第113号)の一部改正により成立しました(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律(昭和60年6月1日法律第45号)参照)。
(2) 男女雇用機会均等法制定後の大きな改正法は以下のとおりです。
① 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働省関係法律の整備に関する法律(平成9年6月18日法律第92号)
→ 原則として平成11年4月1日施行でした。
② 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律(平成18年6月21日法律第82号)
→ 原則として平成19年4月1日施行でした。
(3) 男女雇用機会均等法の制定当初の名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」でしたが,平成11年4月1日以降は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」となっています。
(4) ①勤労婦人福祉法が施行された昭和47年7月1日以降は「勤労婦人」という表現であり,②男女雇用機会均等法が施行された昭和61年4月1日以降は「女子労働者」という表現であり,③改正男女雇用機会均等法が施行された平成11年4月1日以降は「女性労働者」という表現になっています。

2 昭和61年3月31日以前の女性保護
(1) 男女雇用機会均等法は昭和61年4月1日に施行されましたところ,それ以前の女性保護は以下のとおりでした(厚生労働省HPの「男女雇用機会均等法の変遷」参照)。
① 残業:原則として1日2時間,週6時間,1年150時間まで
② 深夜業(夜10時から昼5時まで):原則禁止。一部の業務のみOK
③ 危険有害業務:ボイラー,クレーン等の取扱い,5メートル以上の高所作業,深さ5メートル以上の穴の中の作業その他の禁止
④ 帰郷旅費支給の義務付け
⑤ 母性保護
(2) 日本看護協会HP「看護職の夜間勤務に関連する社会と行政の動き」が載っています。

3 募集・採用,配置・昇進についての差別解消
(1) 昭和61年4月1日以降,募集・採用,配置・昇進についての均等な取扱いについては事業主の努力義務となりました。
(2)ア 平成11年4月1日以降,募集・採用,配置・昇進について,女性であることを理由とする差別的取扱いが禁止されることとなりました。
イ 労務安全情報センターHP「「改正男女雇用機会均等法・改正労基法」解説とQ&A」には以下の記載があります。
① 現行法では、「事業主は、労働者の募集及び採用について、女子に対して男子と均等な機会を与えるように努めなければならない」(事業主の努力義務)こととなっており、均等な機会が確保されていない場合には、改善の努力が求められます。
    平成11年4月の改正法施行後は、「事業主は、労働者の募集及び採用について、女性に対して男性と均等な機会を与えなければならない」と女性に対する差別を禁止する規定となります。この改正によって、事業主は法違反状態がある場合には、直ちに是正を求められることとなります。
② 配置・昇進については、現行法では、「事業主は、労働者の配置及び昇進について、女子労働者に対して男子労働者と均等な取扱いをするように努めなければならない」(事業主の努力義務)こととなっていますが、平成11年4月の改正法施行後は、「事業主は、労働者の配置、昇進及び教育訓練について、労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない」と女性に対する差別を禁止する規定となります。
    また、教育訓練について、現行法においては労働省令で差別が禁止される対象範囲を限定していますが、平成11年4月の改正法施行後は、この限定がなくなります。
(3)ア 平成19年4月1日以降,募集・採用,配置・昇進等について,男女双方に対し,性別を理由とする差別的取扱いが禁止されることとなりましたし,差別的取扱いの禁止の対象に,降格,職種の変更,雇用形態の変更,退職勧奨及び労働契約の更新が追加されました。
イ 栃木労働局HPに「平成19年4月1日から改正男女雇用機会均等法が施行されました」が載っています。

4 深夜業等の解禁
(1) 昭和61年4月1日以降,女性の深夜業可能な業務が拡大されました。
(2)ア 平成11年4月1日以降,改正労働基準法に基づき,女性労働者にかかる時間外労働,休日労働及び深夜業の規制が解消され,母性保護以外の女性保護規定が廃止されました。
イ 厚生労働省HPに「深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針」(平成10年3月13日付の労働省女性局長の文書)が載っています。
ウ 厚生労働省HPの「働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について」に,①男女雇用機会均等法における母性健康管理の措置及び②労働基準法における母性保護規定が載っています。
(3)ア 事業主は,妊産婦が請求した場合,深夜業をさせてはなりません(労働基準法66条3項)。
イ 事業の正常な運営を妨げる場合を除き,家族的責任を有する労働者の深夜業は原則として禁止されています(育児介護休業法19条)。

5 坑内労働の解禁
(1)ア 坑内労働としては,鉱山におけるものと,ずい道工事その他鉱山以外におけるものがありますところ,厚生労働省HPの「女性の坑内労働に係る専門家会合報告書(案)」には以下の記載があります。
最近のずい道工事等を用途別に見ると、道路41%、鉄道24%、水路21%、洞道管路6%、地下街等1%、その他7%であり、道路、鉄道及び水路で全体の8割以上を占めている。近年の傾向としては、ずい道工事等全体は請負額、工区数ともにやや減少しているが、その中で道路の割合はやや増加している。
イ ①隧道(ずいどう)とは,トンネルのことであり,②洞道(とうどう)とは,通信ケーブル,送電線,ガス管等のインフラ用として,地下に設けられたトンネルのうち,人間が入れるものをいい,③管路(かんろ)とは,洞道から分岐して人間が入れない管をいいます。
(2) 昭和61年4月1日以降,臨時の必要のため坑内で行われる業務については,女性の坑内労働が解禁されました。
(3) 平成19年4月1日以降,妊産婦でない18歳以上の女性は坑内労働に従事できることになりました。

6 セクハラ等の防止
(1) 平成11年4月1日以降,事業主は,職場におけるセクシュアルハラスメント(いわゆる「セクハラ」です。)を防止するため,雇用管理上必要な配慮をしなければならなくなりました。
(2)ア 平成19年4月1日以降,セクハラの保護対象が男性にも広がるとともに,事業主の配慮義務が措置義務になりました。
イ 大阪労働局HPに「男女雇用機会均等法におけるセクシュアルハラスメント対策について」が載っています。
(3)ア 平成29年1月1日以降,事業主は,妊娠・出産等に関するハラスメント(いわゆる「マタニティ・ハラスメント」(略称は「マタハラ」です。)です。)の防止措置義務を負うことになりましたから,事業主としては,例えば,セクハラに関する相談窓口を設置する必要があります。
イ THE STAR社会保険労務士法人HP「平成29年1月男女雇用機会均等法改正!マタハラ防止対策が義務化」(2016年9月16日付)が載っています。
(4)ア 令和2年6月1日以降,パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)に基づき,パワハラ防止について事業主の責任が強化されましたから,事業主としては,例えば,パワハラに関する相談窓口を設置する必要があります。
イ ツギノジダイHP「パワハラ防止法への具体的対応とは 中小企業は2022年4月から義務化」が載っています。

7 セクハラ等に関する判例
(1) 最高裁平成27年2月26日判決は, 職場における性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた懲戒処分が懲戒権を濫用したものとはいえず有効であるとされた事例です。
(2) 最高裁令和4年6月14日判決は,地方公共団体の職員が暴行等を理由とする懲戒処分の停職期間中に同僚等に対して行った同処分に関する働き掛けを理由とする停職6月の懲戒処分が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(3)  最高裁令和4年9月13日判決は,部下への暴行等を繰り返す行為をした地方公共団体の職員が地方公務員法28条1項3号に該当するとしてされた分限免職処分が違法であるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。


8 妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いの禁止 
(1) 昭和61年4月1日以降,婚姻・妊娠・出産を理由として女性労働者を解雇することができなくなりました。
(2)ア 平成19年4月1日以降,婚姻・妊娠・出産を理由として女性労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをすることができなくなりました。
イ  最高裁平成26年10月23日判決は,女性労働者につき妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させる事業主の措置の,「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」9条3項の禁止する取扱いの該当性について判断した事例です。
(3) 女性にやさしい職場づくりナビ「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」が載っています。


9 女性労働者に対する積極的差別解消措置
(1) 平成11月4月1日以降,「事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。」という定めが追加されました(現在の男女雇用機会均等法8条(女性労働者についての措置に関する特例)です。)。
(2) 労務安全情報センターHP「「改正男女雇用機会均等法・改正労基法」解説とQ&A」には以下の記載があります。
    女性は細かい作業に向いている、女性特有の感性があるなどの先入観に基づき、一定の職務・職種について女性のみを募集・採用することは、かえって、女性の職域を限定したり、女性と男性の仕事を分離してしまうという弊害をもたらすものです。
    このように、一定の職種・職務について女性のみを募集、配置する等、女性のみを対象として又は女性を有利に取り扱うものとして実施される措置の中には、女性の職域の固定化や男女の職務分離をもたらすという弊害が認められるものがあります。
    そのー方で、「女性のみ」又は「女性優遇」の措置の中には、女性の能力発揮を促進し、男女の均等な機会及び待遇を実質的に確保するために望ましい措置もあります。
    今回の改正においては、「女性のみ」又は「女性優遇」の措置は、男女の均等な機会及び待遇を実質的に確保することを目的とした措置については、法に違反しない旨を明記するとともに、それ以外の措置については、女性に対する差別として禁止することとしました。
(3) 女性労働者の募集及び採用に関する優遇措置のうち,以下の取扱いは男女雇用機会均等法5条及び6条に違反しません(厚生労働省HPの「男女雇用機会均等法のあらまし」(令和4年10月)24頁及び25頁参照)。
女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない雇用管理区分*1における募集又は採用や、女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない*2役職についての募集又は採用に当たって、情報の提供について女性に有利な取扱いをすること、採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用することその他男性と比較して女性に有利な取扱いをすること。
*1 「雇用管理区分」とは職種、資格、雇用形態、就業形態等の労働者についての区分であって、当該区分に属している労働者と他の区分に属している労働者と異なる雇用管理を行うことを予定しているものをいいます。
(中略)

*2 「相当程度少ない」とは、日本の全労働者に占める女性労働者の割合を考慮して、4割を下回っていることをいいます。4割を下回っているかについては、雇用管理区分ごとに判断するものです。


10 国際婦人年
・ 1975年6月から7月にメキシコシティで国連が開催した国際婦人年世界会議では,国際婦人年の目標達成のためにその後10年にわたり国内,国際両面における行動への指針を与える「世界行動計画」が採択されました(内閣府男女共同参画局HPの「第2章 国際婦人年(昭和50年)から平成元年まで」参照)。

11 女子差別撤廃条約
・ 女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(略称は「女子差別撤廃条約」です。)は1979年12月18日に国連総会で採択され,1981年9月3日に発効し,1985年7月25日に我が国について発効しました(内閣府男女共同参画局HPの「女子差別撤廃条約」参照)。

12 関連記事その他
(1) おかんの給湯室HP「男女雇用機会均等法とは?差別となる取り扱いや措置について解説」(2022年7月14日付)に「男女雇用機会均等法の改正の流れ」等が載っています。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き


広告
スポンサーリンク