第1 改正の対象と企業対応の出発点
1 令和8年10月1日に変わるもの
令和8年4月28日に,短時間・有期雇用労働法施行規則及び関係する指針・告示が改正され,令和8年10月1日から施行・適用される。今回の中心は,短時間・有期雇用労働法8条・9条又は労働者派遣法30条の3・30条の4の法律本文を改めることではなく,省令による雇入れ時の明示事項の追加と,同一労働同一賃金ガイドライン等の見直しである。
同一労働同一賃金ガイドラインの正式名称は「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」である。ガイドラインは,法律が禁止する不合理な待遇差について原則,具体例及び留意事項を示すものであり,記載された例だけを守れば免責される基準ではない。記載のない待遇又は具体例と異なる制度であっても,法8条等により不合理と判断される可能性がある。
2 対象となる労働者を先に分類する
直接雇用では,①1週間の所定労働時間が同一事業主に雇用される通常の労働者より短い短時間労働者,②期間の定めのある労働契約を締結している有期雇用労働者を確認する。パート,アルバイト,契約社員,嘱託社員等の呼称ではなく,契約期間及び所定労働時間によって判断する。
派遣労働者については,派遣元が派遣先均等・均衡方式を採用しているのか,労働者派遣法30条の4の労使協定方式を採用しているのかを分ける。無期雇用フルタイム労働者及び勤務地・職務等を限定した多様な正社員は,短時間・有期雇用労働法8条の直接の対象とならない場合があるが,労働契約法3条2項による均衡の考慮は別に残る。
3 最初に作成すべき待遇一覧表
企業対応は,就業規則の文言を改めることから始めるのではなく,雇用区分ごとの待遇一覧表を作ることから始めるべきである。基本給,昇給,賞与,退職手当,各種手当,休職・休暇,福利厚生,教育訓練,安全管理及び正社員転換制度について,規程上の内容と実際の運用を分けて記載する。
待遇差がある項目については,比較対象となる通常の労働者,待遇の性質・目的,職務内容,責任の程度,職務内容・配置の変更範囲,その他の事情及び裏付け資料を一枚の検討票に集約する。この検討票が,制度改定,労働者への説明及び将来の紛争対応に共通する基礎資料となる。
第2 新たに明記された六つの待遇と記載が拡充された待遇
1 六つの新規項目
改正前のガイドラインに具体的な記載がなく,令和8年改正で新たに明記された待遇は,退職手当,無事故手当,家族手当,住宅手当,夏季冬季休暇及び褒賞の六項目である。厚生労働省Q&Aによれば,褒賞以外の五項目は最高裁判決を,褒賞はメトロコマース事件東京高裁判決を踏まえて追加された。
| 待遇 | 改正ガイドラインの考え方 | 企業が確認する資料 |
|---|---|---|
| 退職手当 | 労務対価の後払い,功労報償等の目的が短時間・有期雇用労働者にも妥当する場合,職務内容等の相違に応じた均衡を検討する | 退職金規程,算定基礎,勤続実績,基本給又は一時金との関係,制度制定時の労使協議 |
| 無事故手当 | 業務の内容が同一であれば,通常の労働者と同一の支給を原則とする | 対象業務,事故責任,支給・不支給要件,実際の運転又は作業内容 |
| 家族手当 | 更新を反復するなど相応に継続的な勤務が見込まれる者について,制度目的が同様に妥当するかを検討する | 契約期間,更新回数,全社の更新実態,扶養要件,支給実績 |
| 住宅手当 | 転居を伴う配置変更の有無に応じて支給する制度では,転居を伴う変更範囲が同一の者に同一の支給を原則とする | 転勤規程,転居命令の実績,勤務地限定の合意,転勤のない正社員への支給実績 |
| 夏季冬季休暇 | 繁忙期だけの短期雇用等を除き,休暇の目的が同様に妥当する者には同一の付与を原則とする | 休暇規程,契約期間,更新実績,勤務時期,付与・取得実績 |
| 褒賞 | 一定期間勤続した労働者への褒賞は,同一期間勤続した者に同一の付与を原則とする | 勤続期間の計算方法,表彰規程,更新期間の通算,記念品・休暇・金銭の内容 |
この表の「同一の支給・付与」は,短時間労働者の所定労働時間を考慮せず,常に全く同じ金額又は日数を与えるという意味ではない。厚生労働省Q&Aは,待遇の性質・目的が労働時間の長短にかかわらず同様に妥当するかを検討し,労使で議論する必要があるとしている。
2 賞与及び病気休職・病気休暇
賞与は,労務対価の後払い,功労報償,生活費補助,意欲向上等の複数の性質・目的を持ち得ることが明記された。その目的が短時間・有期雇用労働者にも妥当するのに,職務内容等の相違に応じた均衡のとれた賞与を支給しない場合は,不合理となり得る。正社員だけを対象とする制度であるという説明では足りず,算定項目,評価基準,対象期間及び実際の貢献を確認する必要がある。
病気休職・病気休暇については,療養への専念という目的に加え,相応に継続的な勤務が見込まれる者への休職期間中の給与保障も検討対象となることが明確化された。「相応に継続的な勤務」に一律の年数基準はなく,契約期間,更新回数及び企業内の更新実態に基づいて個別に判断する。
3 六項目以外の待遇も点検する
改正で名称が追加された待遇だけを監査対象とすることはできない。基本給,役職手当,特殊作業手当,通勤手当,精皆勤手当,食事手当,福利厚生施設,教育訓練等も,引き続き短時間・有期雇用労働法8条等の対象である。名称が異なる一時金,慰労金又は特別休暇についても,実質的な性質・目的に従って対応する待遇との関係を確認する必要がある。
第3 雇入れ時の明示と待遇差の説明方法
1 労働条件通知書等への追加事項
令和8年10月1日以後,短時間・有期雇用労働者を雇い入れる際には,通常の労働者との待遇の相違の内容及び理由等について説明を求めることができる旨を明示する必要がある。従来から必要である昇給,賞与,退職手当の有無及び相談窓口の明示とは別の事項であるため,労働条件通知書,雇用契約書及び採用時説明資料の様式を点検する必要がある。
派遣労働者については,派遣元が,派遣労働者として雇い入れようとするときと,労働者派遣をしようとするときの双方について様式を確認する。厚生労働省は,派遣先均等・均衡方式と労使協定方式に分けた様式例を公表している。
2 説明資料に必要な内容
労働者から説明を求められた場合,待遇差の内容だけでなく,その理由及び待遇決定時に考慮した事項を説明できる状態にする。改正後の雇用管理指針は,資料を活用した口頭説明,又は説明すべき事項を全て記載し,労働者が容易に理解できる資料の交付等を説明方法として示している。
説明資料には,①比較対象とした通常の労働者又は雇用区分,②待遇ごとの性質・目的,③職務内容及び責任の相違,④配置・転勤・職務変更の範囲と実績,⑤評価基準,経験及び能力,⑥更新・勤続実態,⑦労使協議の経緯を,待遇ごとに記載するべきである。「正社員と役割が違う」「将来の期待が違う」という抽象語だけでは,待遇差との関係を確認できない。
3 説明不足が実体判断にも影響する
改正ガイドラインは,事業主が十分な説明を行わなかった場合や,短時間・有期雇用労働者の意向を十分に考慮せず一方的に待遇を決定した場合に,その事実が「その他の事情」となり,待遇差の不合理性を基礎付ける事情として考慮され得ることを明記した。説明義務への対応と法8条の実体判断は別の制度であるが,説明過程の不備が実体判断と無関係ではなくなった点に注意を要する。
そのため,説明請求の受付窓口,回答期限,事実確認の担当部署,回答の承認者及び記録保存方法を決めておく必要がある。人事担当者がその場で推測して回答するのではなく,待遇別検討票及び最新の人事実績に基づいて回答する運用が望ましい。
第4 待遇差を判断する法的枠組み
1 待遇ごとに性質・目的を認定する
短時間・有期雇用労働法8条の均衡待遇は,基本給,賞与,手当,休暇等を一括して比較するものではなく,個々の待遇ごとに不合理な相違があるかを判断する。まず就業規則の名称だけでなく,支給条件,算定方法,制度沿革及び実際の運用から待遇の性質・目的を認定し,その目的に関連する事情を選んで比較する。
待遇差が存在する側は,職務内容,職務内容・配置の変更範囲及びその他の事情の全てを常に同じ比重で示せばよいわけではない。例えば無事故手当では実際の運転業務と事故責任が中心となり,転居対応の住宅手当では転居を伴う異動の範囲及び実績が中心となる。
2 規程と人事運用の実態を一致させる
転勤可能性,管理職登用,職務変更又は緊急時対応を待遇差の理由とする場合,規程上の可能性だけでなく,過去の異動命令,登用実績,職務命令,決裁権限及び教育訓練の実態を確認する必要がある。制度上は全国転勤があるものの実際には対象者全員が同一地域で勤務している場合や,非正規労働者にも実質的に同じ責任を負わせている場合には,規程上の区別だけでは説明しにくい。
また,有期契約と正社員との間に別の無期社員区分を設けても,それだけで有期契約と正社員との待遇差が法8条の対象外になるわけではない。比較対象を恣意的に狭めず,待遇制度全体と各雇用区分の実態を確認する必要がある。
3 抽象的な人材確保目的は免責理由にならない
正社員として職務を遂行できる人材を確保・定着させる目的は,待遇制度の背景事情になり得る。しかし改正ガイドラインは,その目的だけから直ちに待遇差が不合理でないと認められるものではないことを明記した。人材確保という目的と,問題となる退職手当,賞与又は手当の具体的な支給条件との関係を説明しなければならない。
十分な労使交渉を経て,ある待遇の有無又は内容が他の待遇との組合せで決められた事情は考慮され得る。もっとも,後から「基本給に含めた」と説明するだけでは足りず,交渉資料,賃金設計,代償関係及び労働者への説明から実際の組合せを確認する必要がある。
4 定年後再雇用及び無期転換
定年後再雇用であること,定年前に退職金を受け取ったこと,老齢厚生年金等を受給できることは,「その他の事情」となり得る。しかし,これらの事情だけで全ての待遇差が合理化されるわけではなく,基本給,賞与,家族手当等を待遇ごとに検討する必要がある。
無期転換後の無期フルタイム労働者は,原則として短時間・有期雇用労働法8条の直接の適用対象ではない。改正ガイドラインは,無期転換後の待遇点検を新たな法的義務として設けたものではなく,労働契約法3条2項による均衡の考慮に当たりガイドラインの趣旨を考慮すべきこと,転換前に不合理な待遇差を点検・解消すべきことを留意事項として示したものである。
第5 直接雇用の企業が施行前に行う作業
1 待遇監査を六段階で実施する
施行前の作業は,次の六段階で進めることができる。①全雇用区分と対象人数を確定する,②全待遇を一覧化する,③比較対象となる通常の労働者を選定する,④待遇差とその理由を資料に結び付ける,⑤不合理となる可能性がある制度又は運用を是正する,⑥規程・通知書・説明資料・社内手順を改訂する,という順序である。
初期調査では,雇用契約書,就業規則,賃金規程,退職金規程,休職・休暇規程及び直近の支給実績を確認する。制度上の相違が判明した後に,職務分担表,組織図,異動履歴,評価資料,更新履歴及び労使協議記録を追加し,結論を左右する事実に絞って調査を深める。
2 待遇別検討票を保存する
待遇別検討票には,少なくとも次の項目を設けるべきである。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 対象待遇 | 名称,金額・日数,支給又は付与の条件 |
| 比較対象 | 通常の労働者の区分,選定理由,代替候補 |
| 性質・目的 | 制度制定時の目的,現在の実態,複合目的の有無 |
| 職務内容 | 業務,責任,権限,成果指標 |
| 変更範囲 | 転勤,配置転換,職務変更,昇進の制度と実績 |
| その他の事情 | 経験,能力,勤続・更新,労使交渉,代替待遇,定年後再雇用等 |
| 暫定評価 | 維持,是正,追加調査及びその理由 |
| 根拠資料 | 規程,実績表,議事録,説明資料の保存先 |
この検討票は,一度作成して終了する資料ではない。賃金制度,組織,転勤運用又は契約更新の実態が変われば,待遇差の評価も変わり得るため,少なくとも制度改定時及び定期的な労務監査時に更新する必要がある。
3 就業規則の変更と労使手続
待遇差を解消する方法は,短時間・有期雇用労働者の待遇改善を基本とする。正社員の待遇を引き下げて差をなくす場合には,同一労働同一賃金への対応とは別に,労働契約法9条・10条による就業規則の不利益変更の成否を検討しなければならない。
変更の必要性,労働者が受ける不利益の程度,変更後の内容の相当性,労働組合等との交渉状況及び他の事情を記録し,必要に応じて経過措置,代償措置及び施行猶予を設ける。単に「法改正対応」であると説明するだけでは,各変更の合理性を示したことにはならない。
4 説明担当者を訓練する
人事担当者及び現場管理職には,均等待遇と均衡待遇の違い,待遇ごとの判断,説明請求への対応及び回答してはならない推測を教育する。説明の窓口を現場管理職に任せる場合も,回答内容を人事部門が確認できる仕組みを設ける必要がある。
労働者から説明を求めたことを理由として,不利益な取扱いをすることは許されない。説明請求,回答資料及びその後の人事措置を記録し,不利益取扱いの疑いを生じさせない運用を整えるべきである。
第6 派遣元及び派遣先が行う作業
1 派遣元の対応
派遣元は,派遣先均等・均衡方式と労使協定方式のいずれを採用するかを確認し,方式に応じて賃金,賞与,手当,福利厚生,教育訓練等を点検する。労使協定方式であっても,ガイドライン上の全待遇が自動的に協定で処理されるわけではなく,協定対象となる賃金と,派遣先からの情報を踏まえて扱う教育訓練・福利厚生等を区別する必要がある。
令和8年10月1日以後の雇入れ時及び派遣時の明示様式を改訂し,説明請求の受付・回答手順を整える。協定対象派遣労働者については,適用する一般賃金水準,能力・経験調整指数,昇給の仕組み,評価記録及び協定の有効期間も最新の資料と一致させる必要がある。
2 派遣先の対応
派遣先は,比較対象労働者の待遇情報,教育訓練及び福利厚生施設に関する情報を正確に提供し,変更があれば派遣元へ通知する。比較対象労働者の選定又は待遇情報が不正確であれば,派遣元が適法な待遇を設計できない。
派遣契約の価格が待遇改善に必要な費用を反映しているかも確認する必要がある。派遣料金の交渉では,賃金だけでなく,評価制度,教育訓練,福利厚生及び雇用管理に要する費用を含めて検討し,派遣元と派遣先の責任分担を契約書と実際の運用で一致させるべきである。
第7 企業対応に直接関係する裁判例
1 待遇名だけで結論を横展開しない
裁判例は,同じ名称の待遇について常に同じ結論を示しているわけではない。各事件の職務内容,変更範囲,制度目的,勤続実態及び労使交渉が異なるため,自社に有利な結論だけを取り出して制度を維持することはできない。
| 裁判例 | 主な判断 | 企業実務への意味 |
|---|---|---|
| 最高裁平成30年6月1日第二小法廷判決・平成28年(受)第2099号・第2100号(ハマキョウレックス事件),民集72巻2号88頁 | 無事故手当等の不支給を不合理とし,住宅手当は職務・配置変更範囲の相違等から不合理でないとした | 手当名ではなく,安全確保又は転居対応という個別目的と実態を対応させる |
| 最高裁平成30年6月1日第二小法廷判決・平成29年(受)第442号(長澤運輸事件),民集72巻2号202頁 | 定年後再雇用をその他の事情として考慮し,精勤手当の不支給等を不合理とする一方,基本給等の相違は不合理でないとした | 定年後再雇用という事情だけで結論を出さず,待遇別の目的と待遇相互の関係を確認する |
| 最高裁令和2年10月13日第三小法廷判決・令和元年(受)第1055号・第1056号(大阪医科薬科大学事件),裁判集民事264号63頁 | 賞与及び私傷病欠勤中の賃金不支給を不合理でないとした | 賞与・病気休職も審査対象であり,結論は目的,職務,変更範囲及び雇用実態による |
| 最高裁令和2年10月13日第三小法廷判決・令和元年(受)第1190号・第1191号(メトロコマース事件),民集74巻7号1901頁 | 退職金不支給を不合理でないとしたが,退職金も旧労働契約法20条の審査対象になることを示した | 退職手当を雇用区分だけで除外せず,複合的な目的,職務,変更範囲及び登用制度等を検討する |
| 最高裁令和2年10月15日第一小法廷判決・令和元年(受)第794号・第795号(日本郵便大阪事件) | 扶養手当,年末年始勤務手当,祝日給,夏季冬季休暇及び病気休暇について,待遇差の全部又は一部を不合理とした | 更新を反復する有期労働者にも生活保障又は継続勤務確保等の目的が及ぶかを確認する |
| 最高裁令和2年10月15日第一小法廷判決・令和元年(受)第777号・第778号(日本郵便東京事件) | 住居手当,年末年始勤務手当,夏季冬季休暇及び病気休暇の相違を不合理とし,祝日給の相違は不合理でないとした | 同じ企業でも雇用区分,支給条件及び審理対象となった待遇を区別する |
| 最高裁令和2年10月15日第一小法廷判決・平成30年(受)第1519号(日本郵便佐賀事件),裁判集民事264号95頁 | 夏季冬季休暇を与えない相違を不合理とした | 契約期間が短いという形式だけでなく,更新及び通年勤務の見込みを確認する |
| 最高裁令和5年7月20日第一小法廷判決・令和4年(受)第1293号(名古屋自動車学校事件),裁判集民事270号133頁 | 基本給・賞与の性質・目的を具体的に認定せず,定年時基本給の60%という数値を中心に不合理性を判断した原判決を破棄した | 一定割合を安全基準として使用せず,基本給の各構成要素と労使交渉を確認する |
2 令和8年までの近時判決
名古屋高裁令和8年2月26日判決・令和5年(ネ)第641号は,名古屋自動車学校事件の差戻審として,職務内容等が実質的に同じであること,基本給制度の目的に関する具体的説明及び労使交渉等を検討し,基本給及び一時金・賞与の一部を不合理と判断した。定年後再雇用,退職金又は公的給付が存在することだけで待遇差が合理化されるわけではないことを示す。
最高裁令和8年2月13日第二小法廷判決・令和6年(受)第2399号(日東電工事件)は,就業規則等に基づく具体的な賃金請求権がある場合の契約責任と不法行為責任の関係を判断したものである。扶養手当,リフレッシュ休暇等の待遇差について新しい一般的な不合理性基準を示した判決として扱うべきではない。
仙台高裁令和7年9月11日判決・令和7年(ネ)第104号は,無期フルタイムの限定的な雇用区分について短時間・有期雇用労働法8条の直接適用を否定した上で,労働契約法3条2項等を踏まえ,一部待遇差について不法行為責任を認めた。法8条の対象外であることと,格差の適法性とは同じではない。
第8 施行日までの実行順序
1 直ちに着手する事項
まず,短時間・有期雇用労働者,派遣労働者,無期転換者,多様な正社員及び定年後再雇用者の雇用区分を確定し,待遇一覧表を作成する。六つの新規項目と賞与・病気休職を優先しつつ,基本給その他の全待遇について差の有無を確認する。
次に,差がある項目について待遇別検討票を作り,規程上の制度と人事運用の実績を収集する。理由を説明できない待遇差は,追加調査をしても根拠が見つからないのか,制度目的と運用がずれているのか,待遇改善が必要なのかを区別する。
2 令和8年10月1日までに完了する事項
施行日までに,①労働条件通知書及び雇用契約書の明示文言,②相談・説明請求の窓口,③待遇差説明資料,④就業規則・賃金規程・退職金規程・休職休暇規程,⑤派遣元の雇入れ時・派遣時様式,⑥派遣先の待遇情報提供手順,⑦説明担当者向け研修を完成させる。
待遇を変更する場合は,給与計算,割増賃金の算定基礎,社会保険,退職給付会計,派遣料金等への影響も確認する。規程だけを改め,給与システム又は現場運用が従前のまま残ることを防ぐため,施行前に対象者別のテストと説明の模擬対応を行うことが望ましい。
3 施行後も更新する事項
施行後は,説明請求の内容,制度改定,転勤・配置転換の実績,契約更新の状況及び新しい裁判例を待遇別検討票へ反映する。令和8年改正は,雇用区分ごとの規程を一度整えれば終了する対応ではなく,待遇の説明と人事運用の実態を継続的に一致させる管理を求めるものである。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,個別企業の待遇差の適法性は,対象労働者,比較対象者,待遇の目的及び具体的な人事運用に基づいて別途判断する必要がある。
出典・参考資料
1 法令・告示・行政資料
①e-Gov法令検索「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」
②e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」
⑤厚生労働省「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(平成30年厚生労働省告示第430号,令和8年厚生労働省告示第203号による改正)改正後ガイドラインPDF3頁~19頁・25頁~42頁
⑥厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン新旧対照表」PDF
⑦厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン及び雇用管理指針に関するQ&A(令和8年改正)」PDF1頁~8頁
⑧厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン等の改正内容について(パートタイム・有期雇用労働法関連)」(令和8年6月作成)PDF
⑨厚生労働省「労働政策審議会に対する諮問及び答申並びに関係省令等の公布について」令和8年4月28日職発0428第9号・雇均発0428第1号PDF
⑪厚生労働省第26回同一労働同一賃金部会参考資料3「不合理な待遇差に関する裁判所における判断」PDF2頁~28頁
2 裁判例
前記第7記載の各裁判例及び各個別リンクによる。
3 文献
①荒木尚志・安西愈・野川忍編集『論点体系 判例労働法2 労働契約の終了・非正規雇用 第2版』第一法規,令和6年,200頁~208頁
②水町勇一郎「令和8年10月改定『同一労働同一賃金ガイドライン』セミナー講演録」『ビジネスガイド』令和8年5月号・第969号,日本法令,13頁~37頁