同一労働同一賃金


目次
1 総論
2 同一労働同一賃金に関する最高裁判例
3 無期雇用フルタイム労働者は同一労働同一賃金の対象外であること
4 派遣労働者の同一労働同一賃金
5 福利厚生施設の利用の機会の付与
6 関連記事その他

1 総論
(1) 令和2年4月1日の同一労働同一賃金の導入は,①同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と②非正規雇用労働者(有期雇用労働者,パートタイム労働者及び派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指すものであります(厚生労働省の「同一労働同一賃金特集ページ」参照)。
(2)ア ①正規雇用労働者と非正規雇用労働者の業務内容に違いがあれば,違いに応じた賃金を支払うというのが均衡待遇であり,②「職務内容」並びに「職務内容及び配置の変更の範囲」の2点で同じ業務内容であれば同じ賃金を支払うというのが均等待遇です(株式会社夢テクノロジーHPの「人事担当者が知っておきたい同一労働同一賃金:均等待遇と均衡待遇」参照)。
イ ①均衡待遇は,平成25年4月1日施行の労働契約法20条(有期雇用労働者を対象としたもの)及び平成27年4月1日施行の改正パートタイム労働法8条(短時間労働者を対象としたもの)で定められるようになりました。
    ②均等待遇は,平成20年4月1日施行の改正パートタイム労働法9条(短時間労働者を対象としたもの)で定められるようになりました。
ウ 独立行政法人日本スポーツ振興センターが被告となった東京地裁令和3年1月21日判決(判例秘書掲載)では,令和2年4月1日施行のパートタイム・有期雇用労働法8条(不合理な待遇の禁止)は旧労働契約法20条の内容を明確にして統合したものであるから. 同条に関する当事者の主張をパートタイム・有期雇用労働法8条の主張と整理した上で、判断されています。
エ 派遣労働者と派遣先の通常の労働者とに係る均等待遇を定めた改正労働者派遣法30条の3第2項は令和2年4月1日に施行されました。


2 同一労働同一賃金に関する最高裁判例
(1)ア 労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止を定めたものであり,令和2年4月1日以降のパートタイム・有期雇用労働法8条に相当する条文です。)に基づく同一労働同一賃金に関する最高裁判例としては以下のものがあります(東京都労働相談情報センターHPの「2-2-2 同一労働・同一賃金をめぐる最高裁判所判例」参照)。
① 最高裁平成30年6月1日判決ハマキョウレックス事件)
→ 原告はドライバーとして働く有期雇用労働者であり,通勤手当,皆勤手当,休職手当,作業手当及び無事故手当を支給しない待遇差は不合理であるとされました。
② 最高裁平成30年6月1日判決長澤運輸事件)
→ 原告は定年後に再雇用された嘱託乗務員であり,精勤手当及び時間外手当を支給しない待遇差は不合理であるとされました。
③ 最高裁令和2年10月13日判決大阪医科大学事件)
→ 原告はアルバイト職員であり,賞与のほか,私傷病による欠勤中の賃金を支給しない待遇差は不合理ではないとされました。
④ 最高裁令和2年10月13日判決メトロコマース事件)
→ 原告は有期労働契約社員であり,退職金を支給しない待遇差は不合理ではないとされました。
⑤ 最高裁令和2年10月15日判決(日本郵便事件。東京大阪及び佐賀があります。)
→ 原告は有期の時給制契約社員(いずれも契約更新を繰り返している社員)であり,年末年始勤務手当,年始期間の勤務に対する祝日給,扶養手当,病気休暇及び夏季冬季休暇を与えない待遇差は不合理であるとされました。
イ 名古屋自動車学校事件に関する最高裁令和5年7月20日判決は, 無期契約労働者と有期契約労働者との間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違の一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(2) 東京高裁令和2年6月24日判決(裁判長は36期の白井幸夫)は,家族手当及び住宅手当を大学の非常勤講師に支給しないことは不合理ではないと判断しました(note 9thの「中央学院事件・東京高判令2.6.24 ~職務の内容の相違は住宅手当等の不支給の不合理性判断に影響するか~【前編】」参照)。
(3) ビジネス法務2023年10月号75頁には,①基本給,賞与及び退職金については事業主の裁量が広く認められるのに対し,②諸手当及び福利厚生については裁判所が介入して適法・違法が判断されやすい傾向にあるという趣旨のことが書いてあります。


3 無期雇用フルタイム労働者は同一労働同一賃金の対象外であること
(1) COMPANY HP「同一労働同一賃金における企業が対応すべきポイントと手順【対応状況アンケート公開】」には以下の記載があります。
    厚生労働省によると、
・有期雇用契約労働者
・パートタイム労働者
・派遣労働者
の3種類を「非正規雇用労働者」と表現し、同一労働同一賃金の対象としています。
反対に、同一労働同一賃金の対象とならないのは「正社員(無期雇用フルタイム労働者)」と示されています。
(2)ア 無期雇用フルタイム労働者についても適用される労働契約法3条2項は「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。」と定めています。
イ 日本の人事部HPの「同一労働同一賃金に対応して無期転換することについての解説」には以下の記載があります。
    無期雇用フルタイム労働者は同一労働同一賃金の対象外ですが、同じ仕事を同じ責任の度合いで行っているのであれば、無期転換した社員はその待遇の差に不満を感じてしまいます。社員からの訴えによる労使トラブルやモチベーション低下、それらに伴う会社全体の生産性低下につながることもあるでしょう。
    既存の正社員との間に待遇格差を設けるのであれば、仕事内容や労働条件、責任度合いなどの違いを明確にし、無期転換する社員が納得できる合理的な理由の説明が必要です。

4 派遣労働者の同一労働同一賃金
(1)ア 派遣労働者の待遇について,派遣元事業主には,①派遣先均等・均衡方式(派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇)(労働者派遣法30条の3)又は②労使協定方式(一定の要件を満たす労使協定による待遇)(労働者派遣法30条の4)のいずれかを確保することが令和2年4月1日より義務化されました。
イ 労使協定方式の場合,派遣先から派遣元に派遣契約締結前に提供する待遇情報は,①業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練の内容,及び②福利厚生施設(食堂,休憩室及び更衣室)の内容となります(労働者派遣法施行規則24条の4第2号)ところ,①及び②については,派遣先の通常の労働者との均等・均衡確保が必要となります(労働者派遣法40条2項及び3項)。
ウ 令和5年6月1日現在,派遣先均等・均衡方式が7.9%であり,労使協定方式が88.8%であり,併用が3.3%となっています(第365回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会(令和6年1月26日開催)労使協定書の賃金等の記載状況(一部事業所の集計結果(令和5年度))について(資料1-2)参照)。
(2) 派遣先指針9(1)には「派遣先は、その指揮命令の下に労働させている派遣労働者について、派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため、労働者派遣法第40条第1項から第3項までに定めるもののほか、セクシュアルハラスメントの防止等適切な就業環境の維持並びに派遣先が設置及び運営しセクシュアルハラスメントの防止等適切な就業環境の維持並びに派遣先が設置及び運営し、その雇用する労働者が通常利用している物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設等の施設の利用に関する便宜の供与の措置を講ずるように配慮しなければならないこと。」 と書いてあります。
(3)ア 厚生労働省HPの「派遣労働者の同一労働同一賃金について」「派遣労働者の≪同一労働同一賃金≫の概要(平成30年労働者派遣法改正~令和2年4月1日施行~)」が載っています。
イ パーソナルエクセルHRパートナーズHP「【おさらいリーガル知識】派遣先から派遣元への待遇情報の提供とは?」が載っています。
(4) ミカタ社会保険労務士法人HP「事業報告書の集計結果が、毎年1月・3月に公表されます」が載っています。

5 福利厚生施設の利用の機会の付与
(1) 給食施設,休憩室及び更衣室は健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものですから,これらの施設について通常の労働者に対して利用の機会を与える場合,短時間・有期雇用労働者に対しても利用の機会を与えなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法12条及び同法施行規則5条のほか,短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について(平成31年1月30日付の厚生労働省労働基準局長等の通知)第3・7(1)参照)。
(2) 給食施設,休憩室及び更衣室は業務の円滑な遂行に資するものですから,これらの施設について通常の労働者に対して利用の機会を与える場合,短時間・有期雇用労働者に対しても利用の機会を与えなければなりません(労働者派遣法40条3項及び同法施行規則32条の3のほか,働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備及び経過措置に関する省令等の公布について(平成30年12月28日付の厚生労働省職業安定局長の通知)第6・3(4)参照)。

6 関連記事その他

(1) パートタイム・有期雇用労働法8条の「待遇」には,基本的に,全ての賃金,教育訓練,福利厚生施設,休憩,休日,休暇,安全衛生,災害補償,解雇等の全ての待遇が含まれます(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について(平成31年1月30日付の厚生労働省労働基準局長等の通知)第3・3(6))。
(2) 同一労働同一賃金について事業者側が抱える問題点としては,①人件費が高くなること,②賃金格差が消えるわけではないこと,及び③労働者への説明が必要になることがあるみたいです(jinjerBlog「同一労働同一賃金の問題点と日本・海外との考え方の違い」参照)。
(3)ア 厚生労働省HPの「配偶者手当の在り方の検討」に,「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会報告書」 (平成28年4月)が載っています。
イ 厚生労働省HPの「女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)」には「令和4年7月8日に女性活躍推進法に関する制度改正がされ、情報公表項目に「男女の賃金の差異」を追加するともに、常時雇用する労働者が301人以上の一般事業主に対して、当該項目の公表が義務づけられることとなりました。」と書いてあります。
(4) 厚生労働省職業安定局の人材サービス総合サイト「許可・届出事業所の検索」において,労働者派遣事業の事業主を検索できます。
(5) ビジネス法務2023年10月号に「同一労働同一賃金
重要判例総まとめ」が載っています。
(6) 以下の記事も参照してください。
・ 労働協約
・ 職業安定法及び採用活動に関するメモ書き
・ 就業規則に関するメモ書き
・ 労働基準法に関するメモ書き


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