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従業員を使用しない弁護士が企業の訴訟代理をする場合のフリーランス法(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 対象と基準時

本記事は,令和8年8月10日現在の法令と公表資料に基づき,企業が従業員を使用しない個人弁護士に自社の訴訟代理を委託する場合を扱う。顧問契約や個別の法律相談にも共通するが,訴訟委任に固有の役務提供日,役務提供場所,報酬設計及び代理権消滅の問題を中心とする。

2 結論

企業が従業員を使用しない個人弁護士に自社の訴訟代理を委託する取引には,原則として特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス法」という。)が適用される。公正取引委員会・厚生労働省のQ&A問4も,「企業から同社の訴訟の代理を受託する弁護士」を特定受託事業者の例として明示している。

この結論は,弁護士が日常語の「フリーランス」を名乗るか否かではなく,法2条の定義から導かれる。従業員を使用しない個人弁護士は同条1項1号の要件を満たし,企業が自社の訴訟のために弁護士の役務を利用することも,「その事業のために」他の事業者に役務の提供を委託する同条3項2号の業務委託に当たるからである。

3 適用判断の境界

契約当事者が弁護士法人で,個人弁護士は担当者にすぎない場合,個人弁護士が企業から直接受託したとは限らない。また,契約名が委任又は業務委託であっても,企業との実質的な関係が労働基準法上の労働者に当たるときは,フリーランス法ではなく個別的労働関係法令の問題となる。

フリーランス法は,自社で利用する役務の委託を含む点に特徴がある。資本金や従業員数によって適用範囲を判定する隣接制度とは要件が異なるため,必要に応じて「中小受託取引適正化法(取適法)の企業実務」と分けて検討する必要がある。

第2 対象となる弁護士

1 「従業員を使用」の基準

「従業員を使用」とは,原則として,1週間の所定労働時間が20時間以上であり,かつ,継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者を雇用することをいう。したがって,事務職員が一人でもいれば必ず適用外というわけではなく,労働時間と雇用見込みを確認する必要がある。

派遣労働者を受け入れることは,派遣先である弁護士自身が雇用することではないため,それだけで「従業員を使用」に当たるわけではない。同居の親族だけを使用する場合も原則として対象外であるが,親族以外の労働者も使用するときは別途の検討を要する。

2 共同事務所と弁護士法人

共同事務所に他の弁護士又は事務職員がいるという外観だけでは決まらない。誰が事務職員と雇用契約を締結し,賃金を負担し,指揮命令をしているかを実質的に確定すべきである。契約書,委任状,請求書及び報酬の帰属主体が食い違うときは,企業に役務提供を約した受任者を個別に確定する必要がある。

弁護士法人が契約当事者となる場合,法2条1項2号により,代表者が一人だけで,他の役員がなく,かつ,従業員を使用しない法人であれば特定受託事業者となり得る。通常の複数社員の弁護士法人は,この要件を満たさない。

3 判断時点と確認記録

従業員の有無は,企業が業務委託をする時点で判断する。受任後に弁護士が従業員を雇用し,又は従業員が退職しても,既にされた委託の適用関係は原則として変わらない。新たな事件の追加委託又は契約更新が新たな業務委託に当たるときは,その時点で再確認する。

法律上,企業に弁護士の雇用状況を一定の方法で調査する義務までが明記されているわけではない。もっとも,適用判断と後日の説明のため,週所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込みという基準を示し,電子メール等の記録が残る方法で回答を得ることが望ましい。

第3 企業に課される義務

1 義務の全体像

通常の株式会社のように,従業員を使用するか,二人以上の役員がいる法人は,法2条6項の特定業務委託事業者に当たる。その場合の主要な義務は,次のとおりである。

適用条件主な義務・禁止条文
委託期間を問わない取引条件を直ちに書面又は電磁的方法で明示する3条
委託期間を問わない役務提供日から60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を設定し,期日に支払う4条
1か月以上の委託報酬減額,買いたたき,購入・利用強制,不当な利益提供要請及び不当な内容変更等を禁止する5条
委託期間を問わないハラスメント対策の体制を整備する。広告等で募集するときは募集情報を正確かつ最新に保つ12条・14条
6か月以上の委託育児・介護等との両立へ配慮し,企業側の解除・不更新を原則30日前までに予告する13条・16条

発注企業が代表者一人だけで,他の役員も従業員もいない法人であるときは,特定業務委託事業者に当たらないため,原則として3条の明示義務だけが適用される。企業という名称だけで義務の範囲を決めることはできない。

2 取引条件の明示

企業は,委託時に,①当事者を識別できる名称等,②業務委託日,③役務の内容,④役務提供の期日又は期間,⑤役務提供の場所,⑥検査をする場合の検査完了期日,⑦報酬の額又は算定方法,⑧報酬の支払期日等を,書面又は電磁的方法で直ちに明示しなければならない。委任状は訴訟代理権の範囲を示す書面であり,これらの取引条件を網羅するとは限らない。

委託時に日時や場所が定まっていないときは,未定である正当な理由と,その事項が決定する予定日を明示し,決定後直ちに補充明示する必要がある。「別途協議する」又は「決定次第通知する」という記載だけでは不十分である。

3 支払期日

特定業務委託事業者である企業は,役務提供を受けた日から60日以内の,できる限り短い期間内に支払期日を定め,その日に支払わなければならない。適法な支払期日を定めなかった場合は,法4条2項により役務提供日が支払期日とみなされる。

したがって,「請求書受領後某日以内」や「翌月末日まで」のように支払日を一日に特定できない表現は避け,「令和某年某月某日に支払う」と定める必要がある。請求書又は適格請求書の未提出だけを理由として,法定の支払期日を超えることもできない。

4 長期委託の追加義務

1か月以上の委託では,弁護士の責めに帰すべき理由がないのに報酬を減額し,著しく低い報酬を不当に定め,又は費用を負担せずに委託内容を変更してやり直しを求めること等が禁止される。訴訟方針の変更が必要な場合でも,追加対応の内容,責任の所在,追加費用及び報酬を書面等で整理する必要がある。

6か月以上の継続的業務委託では,育児又は介護等と業務の両立について申出があったときの配慮義務と,企業側から解除し又は更新しない場合の原則30日前予告及び請求時の理由開示が問題となる。6か月未満の委託でも,育児又は介護等との両立への配慮は努力義務である。

第4 中部電力に対する勧告

1 訴訟代理人契約を含む直接の行政執行

公正取引委員会は,令和8年2月27日,中部電力株式会社に対し,フリーランス法3条1項及び4条5項に違反したとして,同法8条1項及び2項に基づく勧告をした。中部電力が公表した違反事実の資料は,対象となった39名のうち6名の属性を「弁護士,医師等」とし,委託内容に「法律相談・訴訟代理人」を明記している。

したがって,企業が従業員を使用しない弁護士に訴訟代理を委託する場合の適用関係は,抽象的なQ&Aの例示にとどまらない。少なくとも3条の明示義務と4条の支払義務について,実際の勧告対象となった直接の行政執行例がある。

2 勧告から分かる明示の不備

①訴訟代理人契約に事件番号と係属裁判所が記載されていても,それだけでは役務提供場所を明示したことにならない。

②法律相談日や訴訟期日等が未定の場合,未定である理由と決定予定日を明示しなければならず,「別途協議」又は「決定次第通知」とするだけでは足りない。

③「令和某年某月某日までに支払う」という表現は,支払期日を一義的に定めたことにならない。適法な支払期日がなければ役務提供日が期日とみなされるため,契約上の期限内に支払ったつもりでも法定期日後となり得る。

公正取引委員会は,適法な支払期日を定めなかったため役務提供日が期日とみなされた12名に対する支払遅延と,60日を超える支払期日を設定した2名に対する支払遅延を認定した。これは弁護士だけの人数を示すものではないが,明示と支払管理を分けてはいけないことを示す。

3 勧告の射程

中部電力の公表資料は,法律相談日と訴訟期日を役務提供日の例として掲げている。もっとも,訴訟代理契約に含まれる相談,期日出頭,書面作成,証拠収集等の全行為を,必ず別個の役務として取り扱うとする一般基準までを示したものではない。何を一個の役務とするかは,契約の委託内容と報酬設計に応じて整合的に定める必要がある。

第5 訴訟委任契約の作り方

1 役務の日時と場所

委任契約書と3条の明示書面を別々に作成する必要はないが,従来型の弁護士委任契約書が当然に全明示事項を満たすわけではない。委託日,事件と任務の範囲,既に分かっている相談日・打合せ日・訴訟期日,裁判所・オンライン・企業会議室等の場所,未定理由,決定予定日,報酬の算定と支払日を点検すべきである。

裁判所が期日を指定したときや,打合せの日時・場所が決まったときは,当初の明示と関連付けられる方法で補充通知し,一連の記録を保存するという運用が必要になる。メール又は契約管理システムを用いる場合でも,どの委託のどの未定事項を補充したかが後から分かるようにする。

2 着手金,タイムチャージ及び成功報酬

着手金は,役務提供日より前に支払われる限り,通常は4条の支払遅延を生じないが,金額及び支払日の明示は必要である。タイムチャージは,時間単価と客観的な計算方法によって報酬額を確定できるようにする。月次締めであっても,個々の役務提供日から60日を超えないようにし,業務内容,時間数,単価及び支払日を対応させる必要がある。

成功報酬は,経済的利益の定義,算定式,発生条件及び支払日を客観的に確定できるようにすべきである。もっとも,判決言渡し,判決確定,和解成立又は現実の回収のいずれを4条の役務提供日とするかについて,訴訟代理契約に特化した公表解釈は確認できない。成功報酬の約定と委託する役務の単位を整合させて定める必要がある。

3 支払管理

契約部門が明示書面を作成しても,経理部門が通常の支払サイトに流すだけでは4条違反を防げない。役務の単位ごとに役務提供日,支払期日,請求書受領日,実際の支払日を対応させ,60日以内であることと支払期日の遵守を別々に確認する。

第6 解除・辞任と裁判例

1 民法651条とフリーランス法16条

民法651条1項は,委任の各当事者がいつでも解除できると定める。他方で,6か月以上の継続的業務委託を企業側から解除し,又は更新しないときは,フリーランス法16条により,省令上の例外を除き,少なくとも30日前までの予告が必要である。予告日から契約終了日までの間に弁護士が理由の開示を求めたときは,企業は原則として遅滞なく理由を開示する。

公正取引委員会・厚生労働省のQ&A問108は,16条が解除の効力自体を定める規定ではなく,解除の効力又は損害賠償は民事上の紛争として解決されるとしている。学説上は同法違反の私法上の効力をどう解するかに見解の対立があり,同条違反があるだけで解除を一律に無効とする裁判例は確認できない。

2 直接裁判例の公表状況

令和8年8月10日現在,裁判所HPで法律の正式名称,「フリーランス法」,「特定受託事業者」及び「フリーランス・事業者間取引適正化等法」を検索した範囲では,企業による弁護士への訴訟代理委託又は同法違反の私法上の効力を直接判断した裁判例は裁判所HP未掲載である。裁判所HPは全裁判例を収録しないため,これは裁判例が存在しないことを意味しない。

3 施行前の周辺裁判例

最高裁昭和58年9月20日第三小法廷判決(昭和56年(オ)第47号)は,会社と税理士との顧問契約を一個の委任契約とし,委任者である会社は,受任者の利益をも目的とする契約でない限り,民法651条1項により理由を告知せず解除できるとした。また,最高裁昭和43年9月3日第三小法廷判決(昭和42年(オ)第1384号,裁判集民事92号169頁)は,有償準委任に報酬特約があるだけでは受任者の利益をも目的とする委任とはいえず,報酬を失うことは同条2項の不利な時期には含まれないとした。

これらの判決はフリーランス法施行前の委任契約に関するもので,16条の30日前予告を否定する裁判例ではない。企業が訴訟代理契約を終了させるときは,民法上の解除と損害賠償,フリーランス法上の予告・理由開示,既履行分の報酬と費用負担を別々に確認すべきである。

4 訴訟代理権の消滅と辞任

訴訟代理権が消滅した場合,民事訴訟法59条が準用する同法36条1項により,本人又は代理人が相手方に通知しなければ,訴訟上その効力を生じない。企業側の解除は,契約が終了するかという問題と,従前の訴訟代理人の代理権消滅を訴訟上どのように効力発生させるかという問題とを分けて処理する必要がある。

東京地方裁判所平成13年12月17日判決(平成12年(ワ)第16386号)は,弁護士が離婚訴訟の委任契約を解除した事案で,辞任届を裁判所に速やかに提出しなかったことを極めて不適切と評価した。この判決もフリーランス法の判断ではないが,弁護士側から辞任する場合に,裁判所への届出,記録の引継ぎ及び期限管理を遅滞なく行う必要性を示す。

第7 企業と弁護士の実務チェック

1 委託前と契約時

①契約当事者が個人弁護士か弁護士法人か,報酬請求権が誰に帰属するかを確認する。

②弁護士が従業員を使用するかを,20時間・31日の基準を示して確認し,回答記録を保存する。

③委託日,役務内容,日時,場所,未定理由,決定予定日,報酬の額又は算定方法,支払日及び費用負担を書面又は電磁的方法で直ちに明示する。

2 受任後

①訴訟期日や打合せの日時・場所が決まったときは,当初の通知と関連付けて直ちに補充明示する。

②役務提供日から60日以内の一義的な支払日を設定し,請求書の受領と実際の支払を台帳で追跡する。

③企業側から契約を終了させるときは,6か月要件,30日前予告の例外,理由開示,既履行分の報酬・費用,代理権消滅の通知及び新代理人への引継ぎを別々に点検する。

本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,特定の個別事案に対する法的助言ではない。

第8 出典・参考資料

1 法令

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)2条~5条,8条,12条~16条(e-Gov法令検索)。

民法(明治29年法律第89号)643条,648条,648条の2,651条,653条及び656条(e-Gov法令検索)。

民事訴訟法(平成8年法律第109号)36条1項及び54条~59条(e-Gov法令検索)。

2 行政資料

①公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律Q&A」令和8年1月1日時点,14頁(問3・問4)及び問35,問39,問108等。

②公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」令和6年5月31日策定,令和7年10月1日改定,2頁,4頁,8頁~9頁,19頁~20頁及び41頁~47頁。

③公正取引委員会「中部電力株式会社に対する勧告について」令和8年2月27日。

④中部電力株式会社「本法違反として認定された事実の概要」令和8年2月27日,1頁~2頁。

3 裁判例

最高裁判所第三小法廷昭和43年9月3日判決(昭和42年(オ)第1384号報酬金請求事件,裁判集民事92号169頁,裁判所ウェブサイト)。

最高裁判所第三小法廷昭和58年9月20日判決(昭和56年(オ)第47号地位確認事件,裁判所ウェブサイト)。

東京地方裁判所平成13年12月17日判決(平成12年(ワ)第16386号報酬金請求本訴・慰謝料請求反訴事件,裁判所ウェブサイト)。

4 文献

①宇賀神崇『実務フロー順でわかるフリーランス法への対応』中央経済社,令和7年1月15日,29頁~33頁,43頁及び83頁~95頁。