第1 最初に区別したい四つの仕組み
1 養育費の請求権と,実際にお金を受け取る仕組み
養育費が支払われなくなったときは,相手から未払分を回収する問題と,当面の子の生活費を確保する問題を並行して考える必要がある。
回収に時間がかかる場合でも,生活支援の相談を回収手続の終了まで待つ必要はない。
「養育費の立替払い」という言葉だけでは,誰が,何を根拠に,いくら支払う制度なのかは分からない。
①一定の要件に基づく公的給付,②保証会社との契約による立替保証,③保証料・文書作成費用・執行費用に対する自治体の補助,④父母間の養育費を請求・回収する制度を分けることが出発点となる。
この記事は,令和8年10月16日に確認した国・自治体の公式案内を基に,日本で支援先や保証契約を選ぶ際の確認事項を説明する。
自治体の例は大阪市を中心とし,その条件を全国の自治体に共通するものとして扱わない。
2 法定養育費は,国が立て替える給付ではない
法務省の改正法案内で説明される法定養育費は,取決めをしないまま離婚した場合等に,所定の要件で父母間に生じる養育費の請求権である。
国が未払額を全額支払う立替給付とは性質が異なり,請求権が生じることだけで現実の入金が保障されるわけではない。
発生要件,経過措置,金額及び先取特権の詳細は,法定養育費と養育費債権の先取特権を参照されたい。
私的な取決め,法定養育費,保証会社の保証対象を同じ金額・同じ期間のものと決め付けないことが必要である。
第2 民間の養育費保証を利用する場合
1 保証料の補助と,保証会社による支払は別である
東京都の養育費確保支援事業の案内は,保証会社による養育費の立替え,受取者への支払及び支払義務者への請求を行う保証契約について,初回保証料を助成対象としている。
ここで自治体が助成するのは保証契約の費用であり,自治体自身が毎月の養育費を支払うという説明ではない。
同事業の対象地域は東京都内の町村であり,区市についてはそれぞれの制度を確認する必要がある。
保証料の補助を受けられることと,保証会社の審査に通り,個々の未払いについて保証金の支払を受けられることも別の問題である。
契約締結前に,自治体の補助要件と保証会社の契約条件の両方を確認する。
2 契約前に書面で確認する事項
保証契約を検討する際は,広告の「立替」「保証」という表示だけで判断せず,契約書・約款・重要な条件の説明を取り寄せることが望ましい。
次の事項は,保証の範囲と実際の入金時期を把握するための実務上の確認項目であり,すべての会社に共通する契約条件を述べるものではない。
①誰が契約者・保証金の受取人となり,どの養育費の取決めを対象とするか。
②契約前から滞納している分も対象となるか,将来の不払いだけを対象とするか。
③月額の上限,支払回数,累計限度額及び保証期間がそれぞれいくら・いつまでか。
④初回保証料,更新料その他の費用を誰が負担し,解約時に返金があるか。
⑤不払いの連絡期限,請求書類,支払までの日数及び保証されない場合が何か。
⑥養育費の増減,支払終期,監護者の変更又は直接入金があった場合に,どのような届出が必要か。
保証会社が支払った後は,同じ月分について誰が義務者への請求・回収を行うかも確認する。
義務者からの直接入金や差押えによる回収が重なった場合は,保証会社への連絡と精算が必要となるため,月別の請求額・入金額・保証金額を分けて記録しておくことが望ましい。
第3 大阪市で利用を検討できる三つの費用補助
1 養育費の保証促進補助金
大阪市の保証促進補助金は,養育費保証契約の保証料として本人が負担する費用を対象とする。
補助額は月額養育費と5万円のうち少ない額を基準とし,予算の範囲内で交付される。
月額養育費を毎月5万円まで市が立て替える制度ではない。
大阪市内に住むひとり親で,対象の子を現に扶養し,養育費に関する債務名義を持つこと,児童扶養手当の受給又は同程度の所得水準,1年以上の保証契約及び過去の補助歴等の要件がある。
申請期限は,保証契約を締結した日の属する年度の翌年度4月30日までであり,土日祝日に当たる場合はその前日と案内されている。
2 公正証書等作成促進補助金
大阪市の公正証書等作成促進補助金は,養育費の取決めに必要な公証人手数料,調停申立て等の収入印紙,戸籍等の取得費用及び連絡用郵便切手代等を対象とする。
市の案内は,対象経費の全額を予算の範囲内で補助するとしているが,養育費の取決めに関係するあらゆる支出を無条件に補助する趣旨ではない。
対象者,対象となる債務名義,同内容の文書についての補助歴及び領収書等を確認する必要がある。
申請期限は,公正証書等を作成した日の属する年度の翌年度4月30日までであり,土日祝日に当たる場合はその前日とされる。
保証料補助とは別の制度なので,それぞれの対象経費と申請を整理する。
3 強制執行着手金補助金
大阪市の強制執行着手金補助金は,強制執行に関する着手金等と実費を,15万円を上限として予算の範囲内で補助する。
未払いの養育費債権と債務名義があること,対象の子を現に扶養していること,同一の子について他自治体を含む同種の弁護士費用補助を受けていないこと等が要件となる。
期限は,強制執行のための弁護士費用が確定した日の属する年度の翌年度4月30日までであり,土日祝日に当たる場合はその前日と案内されている。
保証契約日や公正証書作成日を基準とする他の補助と取り違えないことが必要である。
第4 費用を支払う前から確認したいこと
1 住所地,対象経費及び申請の順序
自治体ごとに,住所・所得・子の年齢,対象文書,対象経費,申請期限,事前相談の要否及び同種補助との重複制限が異なる。
全国一律に「契約前の申請が必須」又は「支払後ならいつでも申請できる」と考えず,契約や費用負担の前から住所地の窓口に確認することが望ましい。
大阪市では,区の保健福祉センターのひとり親家庭サポーターへ連絡の上,本人が申請するよう案内されている。
契約書,養育費の取決め文書,対象経費の領収書,戸籍・住民票,必要な所得資料等を,利用する補助ごとに確認して保管する。
2 契約書と領収書は費目を分ける
弁護士に依頼する場合は,合意形成,公正証書作成の支援,強制執行及び実費を見積書・契約書・請求書で区別すると,補助対象経費を窓口へ説明しやすくなる。
これは申請を円滑にするための書類整理の提案であり,費目を分ければ必ず補助対象になるという意味ではない。
保証契約日,文書作成日,費用確定日及び支払日は同じとは限らない。
日付を一つにまとめず,それぞれの証拠と申請期限を一覧にして管理することが望ましい。
第5 生活支援と養育費回収を並行して進める
1 生活費が不足するときの相談
こども家庭庁のひとり親家庭等関係の案内は,子育て・生活支援,就業支援,養育費確保等支援及び経済的支援を別々の柱として示し,児童扶養手当等の情報へ案内している。
養育費の回収を進めながら,住所地のひとり親相談窓口で,現在の収入・家賃・子の費用と,利用できる生活支援を相談することが望ましい。
公的支援の受給中に養育費又は保証金の入金があったときは,受給している制度の窓口へ入金内容を伝え,収入申告等の扱いを確認する。
養育費,保証金及び費用補助が,すべての給付や税務で一律に同じ扱いになるとは限らない。
2 回収のために残す記録
養育費を定めた文書,月別の支払期日・請求額・入金額・未払残額,相手の勤務先・預貯金の情報及び保証会社との連絡記録を整理する。
保証会社による支払と義務者本人からの支払を分け,回収済みの月分を重ねて請求しないようにする。
取決め文書の選び方は,養育費の取り決め方で,未払時の履行勧告,差押え及び情報取得等は,養育費を払わない場合の回収方法で説明している。
保証・費用補助の利用と,養育費の適正額の確定・執行可能な文書の確保を組み合わせて検討することが必要である。
第6 出典
①法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について」:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.html
②東京都福祉局「東京都養育費確保支援事業」:https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/hitorioya_shien/youikuhikakuho
③大阪市「養育費の保証促進補助金」:https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000468039.html
④大阪市「養育費に関する公正証書等作成促進補助金」:https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000468018.html
⑤大阪市「養育費に関する強制執行着手金補助金」:https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000658374.html
⑥こども家庭庁「ひとり親家庭等関係」:https://www.cfa.go.jp/policies/hitori-oya