NISA口座にある株式・投資信託は,自己破産を申し立てても当然に残せる財産ではなく,債権者から当然に差し押さえられない財産でもない。
NISAは運用益を非課税にする制度であり,保有商品を差押禁止財産にする制度ではないからである。
本記事は,破産財団,自由財産,民事執行,iDeCoとの違い及び申立前後にそろえる資料を整理する。
第1 結論――NISAであること自体は換価・差押えを妨げない
1 自己破産の結論
破産法34条1項は,破産手続開始時に破産者が有する一切の財産を原則として破産財団に属させる。
NISA口座内の上場株式や投資信託も経済的価値を有する本人の財産であり,NISAであることだけを理由に破産財団から外れる規定はない。
2 差押えの結論
民事執行でも,NISA口座内の商品又は証券会社に対する権利が,NISAであるという理由だけで差押禁止になるわけではない。
実際の執行方法は,上場株式,投資信託,預り金その他の資産の種類,保管・管理の仕組み及び証券会社との契約により異なるため,差押命令の対象を特定する必要がある。
3 iDeCoとの違い
確定拠出年金法32条1項は,給付を受ける権利について,譲渡,担保提供及び差押えを原則として禁止している。
この差押禁止は法律が特に設けたものであり,NISAには同じ規定がない。
第2 NISAとiDeCoを混同しない
1 制度の目的と法的効果が異なる
NISAは,金融庁のNISA説明のとおり,対象商品の売却益及び配当・分配金を非課税にする制度である。
iDeCoは,老後の所得確保を目的とする確定拠出年金制度であり,加入者等が有する給付請求権について法律上の処分・差押制限がある。
2 比較表
| 項目 | NISA | iDeCo |
|---|---|---|
| 中心的な法的効果 | 一定の運用益・配当等の非課税 | 老後給付のための年金制度と税制優遇 |
| 差押禁止 | NISA固有の差押禁止規定はない | 確定拠出年金法32条により給付を受ける権利は原則として差押禁止 |
| 中途換金 | 保有商品を売却できるが,商品・市場・金融機関の手続による | 原則として一定年齢まで給付を受けられず,例外は限定される |
| 破産時の出発点 | 保有商品を財産として評価する | 差押禁止財産として破産財団に属しないかを検討する |
iDeCo,小規模企業共済及び中小企業退職金共済の扱いは,自己破産するとiDeCo・小規模企業共済・中退共はどうなるかを参照されたい。
第3 自己破産でNISAはどう評価されるか
1 開始時点の財産を基準にする
破産手続では,原則として破産手続開始時に保有する財産が破産財団の基準になる。
NISA口座については,金融機関,口座区分,銘柄,数量,基準価額・市場価格,預り金及び未受渡取引を明らかにし,申立時と開始決定時の変動も説明できるようにする。
2 評価額と換価額は一致しないことがある
上場株式の市場価格,投資信託の基準価額,売却手数料,受渡日及び価格変動により,残高報告書の表示額と実際の換価額は一致しないことがある。
申立書へ記載する評価の基準日と,破産管財人が実際に売却する時点を区別する。
3 NISAの上限額は資産価値の上限ではない
非課税保有限度額は買付代金を基礎に管理される税制上の枠であり,現在の時価の上限ではない。
そのため,非課税保有限度額だけから破産財産の評価額を決めず,銘柄ごとの時価又は基準価額を確認する。
第4 自由財産として残せる場合があるか
1 99万円以下という説明の範囲
破産法34条3項1号は,民事執行法131条3号の金銭について,その額に2分の3を乗じた額までを破産財団に属しない財産とする。
政令で定める差押禁止の金銭66万円の1.5倍に当たる99万円という基準は現金に関するものであり,99万円以下のNISA商品が当然に自由財産になるという意味ではない。
2 自由財産拡張は裁判所の判断である
破産法34条4項は,裁判所が,破産者の生活状況,財産の種類・額その他の事情を考慮し,申立て又は職権で自由財産の範囲を拡張できると定める。
具体的運用は裁判所により異なり得るため,申立代理人は,NISA商品の内容,評価額,生活再建に必要とする理由,他の自由財産及び換価費用を資料化し,管財人・裁判所の手続に従って主張する。
3 少額なら必ず残るわけではない
少額管財の引継予納金,換価基準又は自由財産拡張の運用上の目安と,法律上当然に破産財団へ入らない財産は同じではない。
インターネット上の金額だけで処分せず,申立予定の裁判所の運用と個別財産の評価を確認する。
第5 申立前に売却・出金してよいか
1 売却しても財産が消えるわけではない
NISA商品を売却すると,商品が売却代金に形を変えるだけであり,残った代金は引き続き財産として申告する必要がある。
生活費,税金,弁護士費用その他に使用した場合は,使途,金額,時期及び相手方を通帳・領収書等で説明できるようにする。
2 家族名義への移転や一部債権者への弁済に注意する
申立前に家族へ贈与し,名義を変え,又は一部の債権者だけへ弁済した場合は,否認権,財産隠匿,偏頗行為又は免責判断の問題となり得る。
価格下落が心配であっても,申立代理人へ伝えずに売却・送金せず,保有状況と処分理由を先に相談する。
3 損失は他口座と通算できない
国税庁のNISA案内のとおり,NISA口座内の商品を売却して生じた損失はないものとみなされ,課税口座の利益との損益通算又は繰越控除はできない。
換価の必要性と価格変動リスクに加え,損失の税務上の取扱いも区別して説明する。
第6 債権者がNISAを差し押さえる場合
1 まず金融機関と権利の内容を特定する
差押えを申し立てる側は,NISA口座を管理する金融機関と,対象となる株式,投資信託,預り金その他の権利を特定する必要がある。
預貯金の差押えと同じ書き方で足りるとは限らず,商品と保管関係に応じて執行対象・換価方法を検討する。
2 差押えと直ちに全商品が売却されることは同じではない
差押命令が発令・送達された場合の効果,債務者による売買・出金の制限,取立て又は売却の手続は,対象権利に応じて異なる。
税制上NISAであることは差押禁止の根拠にはならないが,強制換価後の口座処理や非課税枠の扱いは金融機関へ確認する。
3 税金の滞納処分は別手続である
民事執行による差押えと,国税・地方税の滞納処分は手続と根拠法が異なる。
差押禁止の例外を含め,債権の種類と処分庁を確認し,民事執行の説明をそのまま滞納処分へ当てはめない。
第7 個人再生・任意整理との違い
1 個人再生では清算価値に影響する
個人再生では,NISA商品を直ちに換価して配当に回す手続ではないが,保有財産の清算価値として再生計画の最低弁済額に影響し得る。
評価時点,価格変動及び売却時の税務を踏まえ,残す場合の弁済原資と実行可能性を検討する。
2 任意整理でも返済可能性の資料になる
任意整理では法律上当然にNISA商品の換価を求められるわけではないが,債権者との交渉,家計の改善及び返済原資の検討で保有資産を正確に把握する必要がある。
債務を伏せて積立てを継続することが適切かは,生活維持,返済能力及び債権者間の公平を踏まえて判断する。
第8 相談時にそろえる資料
①NISA口座と課税口座の金融機関名,支店名及び口座番号
②銘柄,数量,取得価額,現在価額及び預り金が分かる残高報告書
③少なくとも直近1年分の取引履歴,売却・出金及び入出金先の記録
④証券口座へ入出金した銀行口座の通帳・取引明細
⑤全債権者,残高,滞納状況及び差押え・訴訟・支払督促の有無
⑥生活費,税金,弁護士費用その他の支出を示す領収書・請求書
⑦家族への贈与,名義変更,一部債権者への弁済及び担保提供の有無
⑧iDeCo,共済,保険,退職金その他の資産に関する資料
第9 よくある質問
1 NISAが100万円未満なら自由財産になるか
ならない。
99万円の基準は現金に関するものであり,NISA商品の評価額が99万円以下であるというだけで当然に自由財産になるわけではない。
2 自己破産の前にNISAを解約すれば申告しなくてよいか
よくない。
売却代金,出金先及び使途を含めて申告・説明する必要があり,財産を隠し又は家族へ移す行為は重大な問題になり得る。
3 NISAとiDeCoはどちらも差し押さえられないか
扱いは異なる。
iDeCoの給付を受ける権利には確定拠出年金法32条の差押禁止があるが,NISAには同じ差押禁止規定がない。
4 NISAを売却すると税金がかかるか
NISAの要件を満たす口座内の売却益は原則として非課税である。
ただし,口座外への払出し後の取引,配当の受取方法,強制換価時の口座処理その他の事情で扱いが変わり得るため,実際の処理を金融機関・税務資料で確認する。
第10 関連記事と主な一次・公式資料
NISAの相続,離婚,贈与,未成年者,認知機能低下及び海外転出を含む全体像は,NISAで困ったときの法律問題を参照されたい。
①破産法34条 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000075
②民事執行法131条その他 https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004
③民事執行法施行令1条 https://laws.e-gov.go.jp/law/355CO0000000230
④確定拠出年金法32条 https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000088
⑤金融庁「NISAを知る」 https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/know/index.html
⑥国税庁タックスアンサーNo.1535「NISA制度」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1535.htm
⑦日本証券業協会「NISAのよくある質問」 https://www.jsda.or.jp/nisa/faq/
⑧東京地方裁判所の個人破産手続に関する案内 https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section20/index.html