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AIに「判断」と「文章作成」を分けて任せる―判断だけするAI(Jev)から考える問いの立て方,定型処理及び期間計算をプログラムに任せる理由(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 扱う問い

法律事務所でAIを業務に組み込むとき,問い合わせを読んで分類し,対応を決め,返信文まで書くという一連の作業を,一つの指示で生成AIにまとめて任せる例が多い。
本記事は,この作業を「判断」と「文章作成」に分け,判断の後をできるだけ決まった手順で処理する設計を,法律事務所の業務に即して整理する。

契機は,YouTubeチャンネル「AIでサボろうチャンネル」が令和8年9月18日に公開した動画「爆速で”判断だけ”するAI「Jev」の何が重要なのかを理解する動画」である。
動画は,文章を書かずに判断だけを返すAI(Jev)を題材に,判断と文章作成を分ける理由と,決まった通りに動く部分を増やすことの意味を説明している。
基準日は令和8年10月1日であり,AI製品の仕様・料金はこの日に提供者の公式ページで確認したものである。
英文の公式資料の訳は,本記事によるものである。

判断専用AIが返す確信度の意味と,自動処理と人の確認を分ける閾値の決め方は,「AIが示す「確信度」はどこまで信じてよいか―較正の意味,自動振分けの閾値及び期限が絡む分類を人が見る理由」で扱った。
本記事は確信度の説明を繰り返さず,その前段にある「何をAIに判断させ,何をプログラムと人に残すか」を扱う。

2 結論の要旨

結論は次の6点である。

①分類,Yes/No,段階評価のような「判断」と,返信文や書面の「文章作成」は,別の工程に分ける。
②判断の後の処理は,定型の案内文,決まった手順又はテンプレートのように,同じ入力に同じ結果を返す仕組みにできるだけ置き換える。
③判断させる問いは,一つの問いに一つの判断とし,書いたとおりに読まれることを前提に条件と境界を明記し,「いずれにも当たらない」「判断できない」の選択肢を置く。
④日付の前後,期間の満了日,件数の数え上げ及び文字列の一致は,AIに判断させずプログラムで計算する。控訴期間の満了日の計算はその典型である。
⑤検証の工程にも判断を挟めるが,条文と裁判例の原典確認の代わりにはならない。
⑥判断専用AIは日本語の精度が英語と同等ではないと提供者自身が述べており,依頼者の情報を海外のサービスへ送る用途は現時点では控え,公開情報を扱う用途から試すのが穏当である。

第2 動画と公式資料が示す「判断だけするAI」

1 動画の説明

動画は,Jevの特徴を「判断だけをすること」と「とてつもなく速いこと」の二つに求めている。
判断の例として,クレジットカードの問い合わせ窓口のチャットボットで,届いた問い合わせのカテゴリーを分類し,その結果に応じて人のオペレーターへ回すか,チャットボットが続けて対応するかを分ける場面を挙げている。
投稿者がウェブ上の試用画面で試したところ,実行のボタンを押した直後に問い合わせを「盗難・紛失」と分類し,その判断の確信度も表示したという。

動画は,分類のほか,緊急度を5段階で採点させること,日程調整を求めているかをYes/Noで判定させること,及び1回の問合せで複数の判断を同時にさせることができると説明している。
料金は他社の最安モデルの5分の1程度であり,提供者が公表したベンチマークでは性能がGPT-5.6 Terraと同程度であるとも紹介している。

2 公式資料で確認できること

提供者のTypeSafe AIは,令和8年9月15日の公式ブログでJevを早期アクセスとして公開した。
同ブログは,応答時間を70ミリ秒~500ミリ秒とし,料金を入力100万トークン当たり0.042ドル,出力は無料としている。
既存の生成AIの入力料金を100万トークン当たり0.20ドル~10ドルとする同ブログの比較表によれば,動画の「5分の1程度」は,比較表の最も安い価格との対比として読める。

性能の比較については,同ブログ自身が,比較に用いたGPT-5.6 Terraは平均して知能がJevに最も近いと同社が判断したモデルであると説明し,公表した速度の計測は主に米国西海岸の同社の端末から行ったものであるとしている。
これらは提供者自身の測定と評価であり,第三者による検証ではない。
同ブログは,料金が補助で安くなっていないことは証明できず,長期的に示す必要があるとも述べている。

公式ドキュメントによれば,Jevへの問いは,選択肢から一つを選ぶもの(Choice),順序のある段階で採点するもの(Score)及びYes/Noの確率を返すもの(Noul)の3種類である。
複数の問いは互いに独立して並行に評価され,一つの問いの結果が別の問いの結果に影響しないとされている。

3 動画の見通しと公式資料の違い

動画は,将来はAIベンダー各社がJevと同じ考え方のモデルを作り,Claude CodeやCodexのようなAIエージェント自体が速くなる可能性があると述べている。
これは投稿者の見通しであり,確認できる事実ではない。
現在のJevについて,公式ドキュメントは,Claude Code等のAIエージェントの背後にある生成AIの代わりに差し込んで使えるものではなく,AIエージェントを使ってJevを呼び出すプログラムを書くという使い方を案内している。

動画は,AIのブラウザ操作で知られるサービスがJevを使ってブラウザ操作を高速化した例にも触れている。
本記事では,この例を提供者又は当該サービスの公式資料で確認できなかったため,根拠として用いない。

第3 判断と文章作成を分ける理由

1 一度に多くのことを考えさせない

動画は,AIを組み込んだアプリケーションでは,判断と文章作成を分けて考えることがよくあると説明する。
問い合わせのカテゴリーだけを先に判断させ,例えば登録情報の変更と分かったら,その手続に特化した指示で改めて生成AIを呼び出すという2段階の構成である。
その理由として動画が挙げるのは,費用,速度及び品質の釣り合いである。
利用者が多い仕組みでは費用を抑えるために軽いモデルを使うことが多く,そのようなモデルに分類,対応方法の選択及び回答の作成を一度に頼むと,どこかで誤りやすくなるという。

TypeSafe AIの公式ドキュメントも,プログラムが処理の流れと決まったルールを持ち,AIにはその中の狭い判断だけを任せる設計を勧めている。
その要点は,①処理の流れ,決まったルール及び外部への作用はプログラムに置く,②広い判断を狭い問いに分ける,③各問いに必要な情報だけを渡す,④確率と確信度で実行・確認・人への回付を分ける,⑤独立した問いはまとめて聞き,答えの組合せはプログラムで行う,の5点である。

2 判断を足すと待ち時間が延びるという制約

動画によれば,簡単な指示でも生成AIの判断には1秒~2秒程度かかることが多い。
判断を2回重ねてから回答を作ると,利用者は回答が書き始められる前に10秒近く待つことになる。
そのため,精度のために判断の工程を足したくても,遅くなるので諦めるということが起きていた。
判断専用AIは,この1回の判断を1秒未満に縮めることで,工程を細かく分けることへのためらいを減らす,というのが動画の説明である。

法律事務所の内部の作業では,利用者を待たせる問題は小さいことが多い。
それでも,大量の書類や問い合わせを一件ずつ判断する作業,及びAIエージェントが作業の途中で何度も確認を繰り返す作業では,1回の判断の速さと費用の差が積み重なる。
動画が,判断の回数が多い仕事ほど恩恵を受けやすいとしているのは,この意味である。

3 法律事務所の作業に置き換える

法律事務所に届く問い合わせであれば,判断の工程は,例えば次のように分けられる。
①事件の依頼か,事件以外の問い合わせ(営業,取材,請求書等)か
②取扱分野のどれに当たるか
③時効,出訴期間その他の期限の記載又はその可能性があるか
④相手方として名前が挙がっている者がいるか

この四つは互いに独立した問いであり,まとめて聞くことができる。
答えを受けた後の処理は,①が事件以外なら定型の振分け,②と④が出そろったら利益相反の確認の手順へ,③が「あり」又は「判断できない」なら弁護士へ直ちに回す,というように,プログラムで組み立てる。
弁護士職務基本規程34条は,「弁護士は、事件の依頼があったときは、速やかに、その諾否を依頼者に通知しなければならない。」と定めるから,①で事件の依頼ではないと判断したものも,確信度にかかわらず人が確認する経路を残しておく必要がある。
問い合わせのAIによる一次判定の注意は,「弁護士が事件の依頼を断るときの通知義務―弁護士法29条・職務基本規程34条とAIによる問い合わせの一次判定」で扱っている。

第4 決まった通りに動く部分を増やす

1 決定論的と非決定論的

動画は,同じ入力に対して毎回必ず同じ結果になる動き方を「決定論的」,生成AIの文章作成のように毎回結果が変わり得る動き方を「非決定論的」と呼んで区別している。
そして,AIで仕事を自動化するときは,何でもAIにやらせるのではなく,決定論的にできる部分をなるべく増やしていくことが大事だと述べる。
例として動画が挙げるのは,カードの新規入会の問い合わせと判断できたら,決まったURLを返すだけでよく,AIに文章を考えさせる必要すらないという場面である。

2 判断の後の処理を固定する

法律事務所でも,判断の後の処理には,文章を毎回生成しなくてよいものが多い。
相談予約の案内,初回相談に持参する資料の一覧,取扱分野外の問い合わせへの定型の返事及び事件記録の保管先の決定は,判断の結果ごとに用意した文面又は手順で足りる。
定型の文面は弁護士が事前に確認しておけるから,送るたびに生成された文章を読み直す手間が減り,送ってはならない表現が紛れ込むおそれも小さくなる。

これに対し,個別の事実関係に応じた法的な説明,相手方への反論及び依頼者への見通しの説明は,生成AIを使うとしても,下書きとして弁護士が確認する工程に置く。
条件と出力が固定され法的判断を伴わない処理はスクリプト等の決定論的な仕組みで実装し,送信,提出,公開,削除,期限の変更等の外部への作用は実行直前に弁護士の承認へ戻すという考え方は,「法律事務所のAIエージェント業務設計-目的・コンテキスト・権限・完了条件をどう分けるか」で整理している。

3 判断そのものを文章で受け取らない

生成AIに「分類結果をJSON形式で答えて」と指示する方法でも,判断を取り出すことはできる。
しかし,生成AIの出力は文章であるから,形式が崩れたり,用意していない分類名を答えたりすることがあり,受け取る側で読み取りと点検が要る。
提供者の説明によれば,判断専用AIは,答えがあらかじめ定めた選択肢の中に収まり,型の誤りが起きない仕組みであり,公式ドキュメントは,「JSONで返して」と頼む壊れやすい指示を,型の決まった値を返す呼出しに置き換える用途を挙げている。
生成AIを使う場合でも,判断の答えは決まった選択肢から選ばせ,選択肢の外の答えはプログラムで「判断できない」として扱うのが安全である。

第5 判断させる問いの立て方

1 書いたとおりに読まれる

TypeSafe AIは,Jevの現行版(jev-1.13)について,既知の弱点を一覧にして公表している(令和8年9月17日見直し)。
その最初に挙がるのが,問いを意図ではなく書かれた文言どおりに読むことである。
範囲を限る語,否定及び暗黙の条件は字面のまま読まれ,人なら汲み取る意図は汲み取られない。

同社は,答えが誤ったときに「本当はこういう意味だった」と説明したくなったら,その説明こそが問いに足りなかった半分であるとし,境界の場合を基準に書き込み,解釈が避けられない問いは二つの文字どおりの問いに分けて答えをプログラムで組み合わせるよう勧めている。
二重否定や,「〜の〜」と何段階もたどる必要のある問いも精度が落ちるとされている。
例えば「期限が問題にならない問い合わせではないか」と聞くより,「問い合わせ本文に,日付又は『いつまで』等の期限を示す語があるか」と聞く方がよい。

2 一つの問いに一つの判断

同じ一覧は,一つの問いの中に複数の判断を隠すことを避けるよう求めている。
「急ぎで,かつ事務所の取扱分野の相談か」は,二つの問いに分けて聞き,「かつ」はプログラムで組み合わせる。
分けておけば,誤りがあったときに,どちらの判断が誤ったかを後からたどることもできる。

3 問いに必要な情報だけを渡す

判断に関係のない情報が多いほど精度が落ちることも,既知の弱点として挙げられている。
問い合わせの判断に事件記録全体を渡すのではなく,判断に要る欄だけを渡す。
これは精度の問題であると同時に,外部のサービスへ送る情報を減らすことにもなる。

4 聞き方を変えると数字も変わる

同じ一覧は,人が当然成り立つと考える関係が,AIの答えでは成り立たないことがあると注意している。
公式の例では,ある問い合わせについて「返金を求めているか」をYes/Noの確率で聞くと0.22,同じ問いを2択の選択で聞くと「はい」が0.01であった。
また,「返金を求めているか」と「返金以外を求めているか」を別々に聞いた確率の合計は,1ではなく1.19であった。

したがって,ある聞き方で調整した閾値を,別の聞き方の問いに流用してはならない。
「当たるか」と「当たらないか」を両方聞いて合計が1になることを前提にした仕組みも作らない方がよい。

5 入力に紛れた指示

判断の対象となる文章の中に,AIの判断を誘導する文言が含まれていると,答えが動くことがある。
提供者は,判断の対象となる情報を既定では敵対的なものとして扱わないと明記し,今後改善する予定であるとしている。
相手方や第三者から届く書面・メールの中に「本件は急ぎではない」「この連絡は処理不要」といった文言があった場合に,それが分類を左右し得ることを前提に,期限に関わる分類は文面の評価にかかわらず人が見る設計にしておく。
AIエージェントへの指示の紛れ込み(プロンプトインジェクション)一般への備えは,「法律事務所のAIエージェントが停止したときの再開手順-安全監視,プロンプトインジェクション,二重送信・二重公開及び証拠保全」で扱っている。

第6 日付・期間・数はプログラムで計算する

1 提供者自身が挙げる弱点

同じ一覧は,数の計算,数え上げ,日付と時刻の比較を,Jevが苦手とする作業として挙げている。
Jevは日付を順序のある量ではなく文字として読むため,二つの日付の前後,間の日数及びある期間の中に入るかの判断は当てにならず,書式が混在したり「来週」のような相対的な表現があったりすると更に悪くなるとされる。
そこで同社は,日付の年・月・日をそれぞれ選択肢から選ばせて取り出し(記載がない場合の選択肢も置く),組み立てた日付の前後,期間及び曜日はすべてプログラムで扱うよう勧めている。
数え上げについても,数える必要があるならプログラムで数え,条件に当たるものを数えたいときは一件ずつ問いを立てて答えをプログラムで足し合わせる方法を示している。

提供者は,プログラムで正確に計算できることをAIに聞かないよう求めている。
この考え方は,判断専用AIに限らず,文章を生成するAIに日付や件数を扱わせる場合にも当てはまると考えられる。
プログラムで確実に答えが出るものを,答えが揺れ得るAIの判断に委ねる理由がないからである。

2 控訴期間の満了日の例

民事訴訟法285条は,「控訴は、電子判決書又は第二百五十四条第二項の規定により当事者及び法定代理人、主文、請求並びに理由の要旨が記録された電子調書の送達を受けた日から二週間の不変期間内に提起しなければならない。」と定める。
もっとも,同条を改めた令和4年法律第48号の附則20条により,その施行日前に提起された訴えに係る事件の判決に対する控訴期間については,なお従前の例による。
期間の起算の基準となる送達の対象は,事件が提起された時期によっても異なる。

期間の計算について,民事訴訟法95条1項は,「期間の計算については、民法の期間に関する規定に従う。」と定める。
民法140条は,「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。」と定めている。
さらに民事訴訟法95条3項は,「期間の末日が日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日、一月二日、一月三日又は十二月二十九日から十二月三十一日までの日に当たるときは、期間は、その翌日に満了する。」と定めている。

この計算を分けると,AIに任せてよいのは,届いた書類が判決書かどうかの判断と,送達日の候補を書面から取り出す作業までである。
初日を算入せずに2週間を数え,末日が休日等に当たるかを確かめて翌日に送る部分は,休日の一覧を持ったプログラムで計算する。
さらに,送達日の候補そのものは,送達の方法によって確定の仕方が異なり,事務所内の受領・取次ぎの誤りで期間を過ぎた場合に訴訟行為の追完が認められなかった判例もあるから,AIが取り出した日付は人が送達記録と照らして確定させる。
その理由と判例は,前記の確信度の記事の第5と,「訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)―控訴期間を過ぎた場合の救済,送達日の誤認,通知メールの見落とし及び事務所内の事務処理」で整理している。

3 数える作業

書証の通数,頁数,引用した条文の数,期日までの残日数のように,数えれば答えが一つに決まるものは,プログラムで数える。
AIの役割は,例えば「この頁は書証の表紙か本文か」のように,一件ごとの判断に限る。
書証と準備書面の援用箇所の照合については,「AIで証拠説明書を作成・監査する方法―原資料・援用箇所・立証趣旨・頁の四点照合」で扱っている。

第7 検証の工程に判断を挟む

1 引用の照合の例

動画は,AIエージェントの作業が「情報を集める,操作する,結果を検証する」の繰返しであることを踏まえ,判断専用AIを検証の工程に使う例を挙げる。
スライドの文字数や色のように機械的に確かめられる規則はプログラムで確かめ,見出しがその頁の主題を表しているか,専門用語を説明なしで使っていないかのような機械的に判断できない品質を判断専用AIに確かめさせ,引っかかった頁だけをAIエージェントに直させるという使い方である。

TypeSafe AIの公式の作例には,生成AIの回答に付いた引用を確かめる手順がある。
まず,引用された文言が出典の文書の中に実在するかを,通常の文字列の一致で確かめ,見つからないものは「捏造」とする。
次に,残った引用について,出典のその部分が主張を「支える」「否定する」「何も言っていない」のどれかを選択の問いで判断させ,確信度が0.8未満のものは人が確認する。
作例では,英文の技術仕様書についての8件の引用のうち,正しい4件はいずれも確信度0.93以上で「確認済み」となり,意図的に誤りを仕込んだ4件(捏造1件,否定1件,裏付けなし2件)はすべて検出されたとされている(jev-1.12,令和8年8月16日の結果)。
これは提供者が用意した題材による作例であり,日本語の法律文書で同じ結果になることを示すものではない。

2 法律文書の引用確認に当てはめる

この作例の要点は,文字列の一致のように機械で確かめられる部分を先に済ませ,AIの判断は「文脈が主張を支えるか」という残りの部分に限っていることである。
準備書面の引用確認に置き換えると,①事件番号,裁判年月日及び条番号が実在するか,②「」で引いた文言が原典に一字一句あるかは,データベースと文字列の照合で確かめる。
③その判示や条文が書面の主張を支えるか,射程が及ぶかの判断は,AIで疑わしいものを洗い出す程度にとどめ,最後は弁護士が原典を読む。

弁護士職務基本規程37条1項は,「弁護士は、事件の処理に当たり、必要な法令の調査を怠ってはならない。」と定めている。
AIの照合で問題が見つからなかったことは,この調査を済ませたことを意味しない。
AIエージェントを使って裁判所提出書面を作るときの確認の手順は,「AIエージェントを使って裁判所提出書面を作成するときに行うべきハルシネーション防止方法」で扱っている。

3 速さが効く場面と効かない場面

AIエージェントに自分で品質を確かめさせると,1回の確認に数十秒かかることがあり,確認を何度も繰り返す作業では,判断専用AIへの置換えで大きく速くなる可能性があると動画は述べる。
他方,1件の書面を1回確認するだけの作業では,判断が数秒速くなっても全体の時間はほとんど変わらない。
検証の工程に判断専用AIを入れる価値があるのは,同じ種類の判断を大量に,又は何度も繰り返す作業である。
生成AIが書いた複数の案から一つを選ぶ工程に,項目別の採点を使う方法は,「AIに主張案を複数書かせて選ぶとき―項目別の採点,弁護士が決める重み,書き手と別の採点役及び選び方が割れた案の確認」で扱っている。

第8 法律事務所で使う前に確かめること

1 日本語での精度

公式ドキュメントは,英語が主な学習言語で精度も英語が最も高く,日本語を含む他の言語は扱えるが同等ではないとし,英語以外で使うときは自分のデータで試し,確信度に注意するよう求めている。
動画の例も,日本語の法律相談や裁判書類で精度を確かめたものではない。
使うとしても,答えの分かっている過去の問い合わせや書類で,判断の当たり外れを数えてからにする。

2 依頼者の情報を送るか

弁護士職務基本規程23条は,「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。」と定める。
TypeSafe AIのプライバシーポリシー(令和7年11月19日更新)は,利用者が入力した情報でAIモデルを学習・調整しないとする一方,サービスは米国でホストされており,米国外から利用すると個人データを米国へ移して保存・処理することになるとしている。
同社の公式ドキュメントは,入力を保存しない取扱いを企業向けの顧客に限って案内している。
入力を学習に使わないことと,入力から作られる記録や分類結果を提供者が使わないことは別の問題であり,この点は「「学習に使わない」と書いてあっても―AIサービス規約の派生データ条項(ログ・分類結果・利用統計・フィードバック)の読み方と弁護士の守秘義務」で扱っている。

以上から,本記事では,現時点で依頼者の相談内容や事件記録をJevへ送る用途は控え,公開済みの裁判例の分類,ブログ記事の表記の点検その他の公開情報を扱う用途から試すことを基本形とする。
外部のAIサービスを使う前に確かめる契約上の事項は,「法律事務所が生成AIのDPAを確認するときのチェックリスト-学習不使用,保持期間,ZDR,再委託,国外処理及びコネクタ」で整理している。

3 早期アクセスであること

Jevは早期アクセスとして順次利用者を受け入れている段階であり,公式ドキュメントは,需要が大きいため利用量の上限が予告なく変わり得ると注記している。
モデルの別名(jev-latest等)が新しい版を指すように切り替わると,こちらの設定を変えなくても答えが変わり得るため,閾値を調整した場合は版を固定して指定し,答えた版を記録するよう同ドキュメントは案内している。
業務の流れの中に組み込むなら,サービスが止まったときや答えが変わったときに,人の処理へ戻せるようにしておく。

第9 導入の手順

判断と文章作成を分ける設計は,次の順で進めることが考えられる。
①一つの業務(例えば問い合わせの受付)の作業を書き出し,各作業を「プログラムで計算できる」「定型の手順で処理できる」「判断が要る」「文章作成が要る」「弁護士が決める」の五つに分ける
②「プログラムで計算できる」作業(日付,期間,件数,文字列の一致)は,AIを使わずに実装する
③「判断が要る」作業を,一つの問いに一つの判断の形に分け,選択肢と境界を文章で定め,「いずれにも当たらない」「判断できない」を置く
④過去の実例で正解を作り,判断の当たり外れを数える
⑤判断の後の処理を,判断の結果ごとの定型の文面又は手順にする
⑥期限,受任の諾否及び外部への送信に関わる判断は,答えと確信度にかかわらず人へ回す
⑦判断の結果,確信度,使ったモデルの版,確認した人及び訂正を記録する

④と⑦の記録の取り方と,導入後に精度が落ちていないかの確かめ方は,「法律事務所の生成AIをどう評価・改善するか―トレース,評価データセット,回帰試験,一次資料確認及び守秘義務」で整理している。

第10 本記事の確認状況

動画の内容は,自動生成字幕と概要欄で確認した。
画面に表示された試用画面の細部は確認していない。
動画の説明のうち,Jevの公開日,応答時間,料金,問いの種類,並行評価,比較に使ったモデル及びAIエージェントとの関係は,TypeSafe AIの公式ブログ及び公式ドキュメントで確認した。
AIのブラウザ操作サービスでの利用例は,公式資料で確認できなかったため用いていない。

民事訴訟法(令和4年法律第48号の附則を含む。)及び民法の条文は,判例秘書の「現行法令アーカイブ」に収録された令和8年8月1日現在の現行法令で確認した。
弁護士職務基本規程の条文は,日本弁護士連合会の公表PDFで確認した。
本記事は裁判例を根拠とする新たな命題を採用しておらず,裁判例への言及は既存記事への案内にとどめたため,判例秘書の検索は行っていない。

第11 関連記事

①AIが示す「確信度」はどこまで信じてよいか―較正の意味,自動振分けの閾値及び期限が絡む分類を人が見る理由
②法律調査AIの検索・再順位付けをどう評価するか-正解資料の取りこぼしと人の確認負荷
③法律事務所のAIエージェント業務設計-目的・コンテキスト・権限・完了条件をどう分けるか
④法律事務所のAI・事件管理システム連携-問い合わせ,LINE,メール,FAX,期限及び書類をどうつなぐか
⑤弁護士が事件の依頼を断るときの通知義務―弁護士法29条・職務基本規程34条とAIによる問い合わせの一次判定
⑥訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)―控訴期間を過ぎた場合の救済,送達日の誤認,通知メールの見落とし及び事務所内の事務処理
⑦「学習に使わない」と書いてあっても―AIサービス規約の派生データ条項(ログ・分類結果・利用統計・フィードバック)の読み方と弁護士の守秘義務
⑧法律事務所の生成AIをどう評価・改善するか―トレース,評価データセット,回帰試験,一次資料確認及び守秘義務
⑨AIに主張案を複数書かせて選ぶとき―項目別の採点,弁護士が決める重み,書き手と別の採点役及び選び方が割れた案の確認

第12 出典・参考資料

1 提供資料

①AIでサボろうチャンネル「爆速で”判断だけ”するAI「Jev」の何が重要なのかを理解する動画」(YouTube,令和8年9月18日)

2 法令・会規

①民事訴訟法95条1項・3項,285条(判例秘書「現行法令アーカイブ」の令和8年8月1日現在の現行法令で確認)
②民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)附則20条(同上)
③民法140条(同上)
④日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」23条,34条,37条1項

3 AI提供者の公式資料

①TypeSafe AI「Introducing System One Models & Jev」(令和8年9月15日)
②TypeSafe AI Docs「How to build with TypeSafe」
③TypeSafe AI Docs「Jev with coding agents」
④TypeSafe AI Docs「Intent routing」
⑤TypeSafe AI Docs「Jev 1.13 jaggedness」
⑥TypeSafe AI Docs「Double-checking citations」
⑦TypeSafe AI Docs「Models」
⑧TypeSafe AI「Privacy policy」(令和7年11月19日更新)

第13 別の機会に掘り下げる点

本記事のテーマは「AIに判断と文章作成を分けて任せ,計算と定型処理をプログラムに残す設計」である。
次の点は,本記事では検討しておらず,別の機会に掘り下げる。
①日本語の問い合わせ・裁判書類で,判断専用AIと生成AIの分類精度が過去の人の分類とどの程度一致するか(事務所の過去データを使った実測)
②システム送達(電子送達)の閲覧日・通知日と送達日の関係を,プログラムで期限を計算する仕組みにどう組み込むか
③定型の文面で返信する場合に,弁護士職務基本規程上の受任の諾否の通知や広告規制との関係で,文面に何を含めるべきか
④判断専用AIを公開情報(公開裁判例,ブログ記事)の点検に使った場合の実測結果