第1 この記事が扱う対象
定額小為替は,弁護士が戸籍謄本や住民票の写し等を郵送で取り寄せる際に,手数料の支払手段として用いる証書である。券種が50円から1,000円までの12種類に限られ,発行手数料が1枚200円かかり,有効期間が発行日から6か月しかなく,さらに窓口で「おつり」を受け取れないという,やや特異な制度設計になっている。本稿は,この制度が令和8年8月現在どのような法令上の根拠に基づいて成立しているか,そしてなぜこのような設計になっているかを,郵便為替法の歴史から現行の関係法令まで一次資料に基づいて整理するものである。
第2 郵便為替法の制定から郵政民営化による廃止まで
1 郵便為替法(昭和23年法律第59号)による国営為替制度
定額小為替の直接の前身は,逓信省(後の郵政省)が所管した郵便為替法(昭和23年6月26日法律第59号)である。同法7条は,郵便為替を通常為替,電信為替及び小為替の3種に分け,10条で小為替の仕組み――差出人が現金を郵便局に差し出し,小為替証書の発行を受けて,これを受取人に送付する――を定めていた。当時の小為替証書の金額は1枚1,000円以下(16条),有効期間は発行日から2か月(20条),発行日から3年間権利行使がないと為替金に関する権利が消滅する(22条)とされており,現行制度(有効期間6か月・5年で失権)とは期間の長さが異なる。同法5条は,郵便為替に関する書類を印紙税の対象外とする免除規定も置いていた。
このように,定額小為替は当初から国営の郵便為替事業の一環として設計された制度であり,昭和36年(1961年)には発行手数料が1枚10円に改定され,以後長期間この水準が維持された(後掲第2の2で述べる国会答弁による)。
2 郵政民営化による郵便為替法の廃止(平成19年10月1日)
平成17年10月21日法律第102号「郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」1条は,郵便為替法(昭和23年法律第59号)を含む郵便貯金法,郵便振替法,簡易生命保険法等を廃止する旨を定めた。この廃止は郵政民営化の実施日である平成19年10月1日に効力を生じ,以後,郵便為替は国が営む公法上の制度ではなくなっている。e-Gov法令検索で「郵便為替法」を法令名検索しても,現在は該当する法令が存在しない。
民営化に伴い,郵便為替に関する取引は株式会社ゆうちょ銀行が銀行法上の銀行として行う私法上の契約に移行した。旧郵便為替法5条が定めていた印紙税免除の根拠も失われ,郵便為替に関する書類には新たに印紙税が課されることになった。日本郵政株式会社代表執行役社長であった西川善文は,平成19年10月30日の衆議院総務委員会において,「例えば定額小為替の手数料でございますが,これは昭和三十六年以来一枚十円ということでございましたが,実は直接原価が約四百円これにかかっておりますので……この十円を百円にさせていただいた」,「為替の手数料を値上げしたわけでございますが,その多くは印紙税の負担,これは,民営化されまして新たに印紙税が課せられる……このコストアップ分を手数料に加えさせていただいた」と答弁している。10円から100円への値上げの主因が,印紙税負担の発生と原価との乖離にあったことを,国会答弁の形で確認できる。この値上げについては,平成19年から21年にかけて,衆参両院の複数の委員会で値上げ幅の大きさを問題視する質疑が繰り返された。
3 現在の定額小為替はゆうちょ銀行の私法上の契約
現在の定額小為替は,株式会社ゆうちょ銀行が定める為替規定(Ⅱ-01-202601版)に基づく銀行取引である。同規定1条は普通為替及び定額小為替の2類型を定義し,9条3項で為替証書の有効期間を発行日から6か月,13条1項で発行日から5年間,払渡し・払戻し・再交付の請求がないときは契約を解除する旨を定めている。同項は,5年間権利行使がなくても差出人へは通知されないことも明記しており,長期未使用の証書は失権のリスクを利用者側で管理する必要がある。
発行手数料は,平成19年10月1日の民営化時に1枚10円から100円へ改定された後,令和4年1月17日に100円から200円へ改定され,現在に至っている。ゆうちょ銀行は,令和4年の改定について,「提供チャネルの利便性やコストに応じた料金とすることで,お客さまのニーズに応じたお取引チャネルやお取引方法をご提供するとともに,デジタル化・キャッシュレス化・ペーパーレス化を推進してまいります」と説明している。証書の紛失・汚損や有効期間経過後の再交付についても,令和4年1月16日以前は無料であったが,同月17日以降は発行と同額の1枚200円の手数料が必要になった。
第3 弁護士が定額小為替を用いる場面――戸籍謄本等・住民票の写しの職務上請求
1 戸籍謄本等の郵送請求(戸籍法10条の2)
戸籍法10条の2第3項は,受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合,弁護士が戸籍謄本等の交付を請求できる旨を定める。この請求をするときは,有する資格,業務の種類,依頼者の氏名又は名称及び1項各号に定める事項(権利義務の発生原因・内容等)を明らかにしなければならない。戸籍法10条3項は「郵便その他の法務省令で定める方法」により戸籍謄本等の送付を求めることができるとし,戸籍法施行規則11条がその方法を郵便及び信書便事業者による信書便に限定している。郵送請求における手数料は,この郵便による交付請求の対価として,定額小為替により納付するのが実務上の一般的な方法である。
2 住民票の写し等の郵送請求(住民基本台帳法12条の3)
住民基本台帳法12条の3は,弁護士等の「特定事務受任者」が,受任事件・事務の依頼者のために住民票の写し又は住民票記載事項証明書の交付を市町村長に申し出ることができる旨を定め(2項・3項),9項でこの申出について郵送による交付を求めうる旨を規定する。戸籍謄本等の職務上請求と同様,郵送請求の場面で定額小為替が用いられる。
3 弁護士会照会との違い
弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会は,所属弁護士会を通じて公務所又は公私の団体に必要事項の報告を求める制度であり,市区町村への戸籍謄本等・住民票の写しの直接請求とは制度が異なる。定額小為替は,あくまで戸籍法・住民基本台帳法に基づく職務上請求において,市区町村窓口へ郵送で手数料を納付する場面で用いられる支払手段であって,弁護士会照会とは別の場面のものである。
なお,職務上請求書そのものを利用目的を偽って濫用し,あるいは取得した戸籍謄本等を第三者に横流しする行為は,決済手段としての定額小為替の問題ではなく,職務上請求の権限そのものを濫用する問題であり,弁護士会の懲戒事例としても類型化されている。この点については,当事務所の別稿「個人情報漏洩に関する弁護士会の懲戒事例」で整理している。
第4 「おつりが出せない」制度設計と手数料標準額の法的根拠
1 地方自治法上の証券納付規定
普通地方公共団体が歳入を証券で収納できる根拠は地方自治法231条の2第3項に置かれ,同項の委任を受けた地方自治法施行令156条1項1号は,証券納付に使用できる証券を「持参人払式の小切手等……で,納付金額を超えないものに限る」と定める。定額小為替はこの号にいう証券として市区町村の窓口実務で扱われており,「納付金額を超えないものに限る」という文言が,窓口で定額小為替の「おつり」を出せない直接の法的根拠となっている。多くの自治体が郵送請求の案内で「おつりのないように」と注意喚起しているのは,この条文の反映である。
例えば大和市は,発行日から6か月とされる有効期間について,市役所側の事務処理期間を見込み「発行日から5か月と20日を越えないもの」で送付するよう案内している。おつりが生じた場合の返還方法についても,同市は現在は切手で返還するとした上で,かつては定額小為替で返還していたが,郵政民営化(平成19年10月1日。前掲第2の2)に伴い定額小為替証書の「指定受取人欄の記入が必須化」され「お釣としての使用ができなくなった」ため,切手による返還に切り替えたと説明している。おつりの返還方法は自治体によって異なり,定額小為替と切手を組み合わせて返還する例もある。
2 戸籍関係手数料の全国標準額
地方自治法228条1項は,手数料は条例事項であるとしつつ,「全国的に統一して定めることが特に必要と認められるものとして政令で定める事務」については,政令で定める金額を標準として条例を定める旨を規定する。この委任を受けた地方公共団体の手数料の標準に関する政令の別表八の項は,戸籍法に基づく事務の標準額として,戸籍謄本・抄本の交付を一通につき450円,除かれた戸籍(除籍)の謄本・抄本の交付を一通につき750円,戸籍に記載した事項に関する証明書の交付を証明事項一件につき350円などと定めている。これらの金額に発行手数料200円を加えた額が,定額小為替を用意する際の目安となる。もっとも,同政令の別表を確認した限り,住民票の写し等の手数料については全国一律の標準額を定める項目は見当たらず,この点は各市区町村が条例で個別に定めているものとみられる。
第5 定額小為替の法的性質を示した裁判例
郵便為替法時代の裁判例ではあるが,郵便為替(小為替を含む)の法的性質については,最高裁判所及び高等裁判所がいくつかの判断を残している。
①最高裁昭和43年12月5日判決(民集22巻13号2876頁)(昭和40年(オ)第1399号・電報送金払渡請求)は,銀行間の私的な電信送金契約と対比する形で,「郵便による電信送金業務は……郵便為替法による詳細な法的規制のもとに行なうものである」とした上で,「送金の委託を受けた郵便局は,郵便為替法九条,一二条等の規定に基づき,原則として,その送金の支払請求権を表章する一種の有価証券たる電信為替証書を発行することを要求される」と判示した。郵便為替証書を「支払請求権を表章する有価証券」と性質決定した判断として位置づけられる。
②最高裁昭和35年11月22日判決(民集14巻13号2827頁)(昭和33年(オ)第1068号・請求異議)は,金銭債務の弁済として小切手を提供しても原則として債務の本旨に従ったものといえないとした上で,「郵便為替の送付を以つて,金銭債務弁済の効力を生ずるものとする論旨引用の判例は,郵便為替が取引上現金と同一視して可なるものである以上,単なる銀行渡し小切手を問題とする本件に適切でない」と述べ,支払確実性の低い銀行渡し小切手と郵便為替とを区別した。
③高松高裁昭和40年2月25日判決(高等裁判所民事判例集18巻2号143頁)(昭和38年(ネ)第248号・損害賠償請求事件)は,電信為替(居宅払)の送達遅延によって受取人が被った損害の賠償を,郵便局員の過失を理由に民法715条により求めた事案である。判決は,国が郵便物を取り扱うに当たり生じた損害の賠償については郵便法68条が国家賠償法5条にいう「別段の定」に当たり,民法の適用が排除されると判断した上で,郵便為替法15条(現金に余裕がないとき等の免責規定)が「普通為替,電信為替および定額小為替のすべてに適用がある」ことを明らかにし,控訴人の請求を棄却した。この判示は,郵便為替法15条の免責規定が定額小為替を含む郵便為替の全類型に共通して適用される枠組みであったことを示している。
以上の3件は,いずれも郵政民営化前の郵便為替法時代の裁判例である。現行のゆうちょ銀行の為替規定を見る限り,旧郵便為替法15条に相当する明文の免責規定は見当たらず,第17条の「災害等による免責」等,より限定的な規定に整理されている。したがって,これらの判例が示した法的性質や免責の考え方が,民営化後の現行制度の下でそのまま維持されているかどうかは,判例上確立しているとまではいえない点に留意する必要がある。
第6 登記事項証明書・訴訟費用との対比及び消費税の取扱い
1 手数料納付手段の違い
弁護士が郵送で取得する証明書等の手数料納付手段は,請求先の機関によって異なる。法務局に対する登記事項証明書の郵送請求は収入印紙(又は登記印紙)によって手数料を納めるのが原則であり,熊本地方法務局が公表する案内でも「本手数料は,収入印紙……で納めていただく必要があり」,「平成23年4月1日からは,収入印紙で納めていただくことになりました」とされ,定額小為替についての言及はない。他方,裁判所に対する郵便費用の予納についても,従来は郵便切手(予納郵券)が用いられてきた実務であり,令和8年5月のオンライン申立ての制度整備以降も,オンライン化されていない手続では予納の取扱いが残っている(当事務所の別稿「訴訟費用とは」を参照)。
このように,市区町村(戸籍・住民票)は定額小為替,法務局(登記)は収入印紙,裁判所は郵便切手という,異なる決済手段が制度ごとに並存している。弁護士実務ではこれらを混同しやすく,請求先を誤った決済手段で送付すると,証明書の交付や訴訟手続に遅延を生じさせることになる。
2 消費税の取扱い
ゆうちょ銀行が公表する定額小為替の商品概要説明書は,「料金には消費税(地方消費税を含みます。)が含まれています。」と明記しており,発行手数料200円は課税取引に当たる。消費税法の非課税規定(別表)を確認した限り,郵便為替を非課税とする明文の項目は見当たらず,発行手数料が原則として課税取引に当たることと整合する。他方,定額小為替の額面部分は現金の代替物であって資産の譲渡等の対価に当たらないため,消費税の課税対象外(不課税)として扱うのが一般的な理解である。
出典
法令
①郵便為替法(昭和23年法律第59号,平成19年10月1日廃止)5条,7条,9条,10条,12条,15条,16条,20条,22条(衆議院「制定法律の一覧」)
②郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第102号)1条(衆議院「制定法律情報」)
③戸籍法(昭和22年法律第224号)10条,10条の2(e-Gov法令検索)
④戸籍法施行規則(昭和22年司法省令第94号)11条(e-Gov法令検索)
⑤住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)12条の3(e-Gov法令検索)
⑥弁護士法(昭和24年法律第205号)23条の2(e-Gov法令検索)
⑦地方自治法(昭和22年法律第67号)228条,231条の2(e-Gov法令検索)
⑧地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)156条(e-Gov法令検索)
⑨地方公共団体の手数料の標準に関する政令(平成12年政令第16号)別表八の項(e-Gov法令検索)
⑩消費税法(昭和63年法律第108号)(e-Gov法令検索)
裁判例
①最高裁昭和43年12月5日判決(民集22巻13号2876頁)(昭和40年(オ)第1399号・電報送金払渡請求)
②最高裁昭和35年11月22日判決(民集14巻13号2827頁)(昭和33年(オ)第1068号・請求異議)
③高松高裁昭和40年2月25日判決(高等裁判所民事判例集18巻2号143頁)(昭和38年(ネ)第248号・損害賠償請求事件)
国会会議録
①第168回国会衆議院総務委員会議録(平成19年10月30日)西川善文発言(国会会議録検索システム)
ウェブ資料
①「定額小為替」商品概要説明書(株式会社ゆうちょ銀行,2022年1月17日現在)
②為替規定(Ⅱ-01-202601版)(株式会社ゆうちょ銀行)
③「一部商品・サービスの料金新設・改定について」(株式会社ゆうちょ銀行,2021年7月2日公表,同年12月27日更新。現行サイトでは既に非公開のため,インターネットアーカイブの保存版を示す)
④会社・法人の登記事項証明書の郵送請求について(熊本地方法務局)
⑤定額小為替に関するQ&A(大和市)