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DNA鑑定で兄弟・親子関係と相続は変わるか――戸籍上の身分関係と科学的証拠(AI作成)

第1 この記事の概要

1 想定している場面

相続や死後の手続の場面では,次のような申出を受けることがある。
① 「本当に血がつながっているのか確かめたい。DNA鑑定の結果次第で、死後の手続にも相続にも関わるかどうかを決めたい。」という親族の申出
② 「亡くなった父の子とされている人は、本当は父の子ではないのではないか。」と疑う相続人の申出
③ 「成年後見人として、本人の検体を採って鑑定に回してほしい。」という親族の依頼

この記事は,弁護士・成年後見人・相続の相談者を読者として,こうした申出を受けたときに,DNA鑑定の結果によって法律上の親子関係・兄弟姉妹関係と相続がどこまで変わるのかを整理するものである。
結論を先に書くと,生物学上のつながりの有無は,法律上の親子関係が裁判で覆らない限り,相続権を左右しない。
また,嫡出推定が及ぶ父子関係は,科学的証拠によって生物学上の父子関係がないことが明らかであっても,親子関係不存在確認の訴えでは争えないというのが最高裁判例である。

2 基準日と資料の性質

この記事の基準日は令和8年9月18日である。
法令は,e-Gov法令検索(法令API)で基準日に取得した現行の条文及び改正附則によった。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で存在と裁判要旨を確認したものを挙げ,同サイトに掲載のないものはその旨を明記した。
この記事は一般的な整理であり,個別の事件では,戸籍の記載,子の出生の時期,認知の有無,当事者の生死等によって使える手続が大きく異なる。

第2 法律上の親子関係・兄弟姉妹関係は何で決まるか

1 母子関係は分娩の事実で決まる

最高裁昭和37年4月27日判決(昭和35年(オ)第1189号,民集16巻7号1247頁)の裁判要旨は,「母と非嫡出子間の親子関係は、原則として、母の認知をまたず、分娩の事実により当然発生する。」というものである。
民法779条は「嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。」と定めているが,母子関係については,認知ではなく分娩の事実が基準になるということである。

2 父子関係は嫡出推定か認知で決まる

婚姻中の夫婦の間に生まれた子について,民法772条1項は「妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。」と定めている。
同項後段は,婚姻前に懐胎した子であって婚姻成立後に生まれたものも同様としている。
懐胎の時期については,同条2項が,婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は婚姻前に懐胎したものと推定し,婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定すると定めている。
他方,嫡出でない子の父子関係は,父の認知(民法779条)又は認知の訴え(民法787条)によって生じる。
つまり,法律上の父子関係は,生物学上のつながりそのものではなく,嫡出推定又は認知という法律上の仕組みを通じて定まる。

3 兄弟姉妹関係は親子関係から導かれる

兄弟姉妹関係は,それ自体を独立に定める仕組みがあるわけではなく,共通の父又は母との法律上の親子関係から導かれる。
したがって,「兄弟かどうか」という疑いは,法律的には,「その人と共通の親との間に法律上の親子関係があるかどうか」という問題に置き換えて考えることになる。
父母の双方を同じくするか一方のみを同じくするかも,法律上の父母を基準に判断される。

4 戸籍の記載の位置付け

戸籍は,法律上の親子関係を公証するものであり,相続人の確定も実務上は戸籍によって行われる。
もっとも,戸籍の記載そのものが親子関係を創り出すわけではなく,戸籍の記載は身分関係を推認させる有力な証拠にとどまる。
真実の親子関係と戸籍の記載が異なる場合に,実親子関係不存在確認の訴えによって争う余地があることは,後記第5の最高裁平成18年7月7日判決も前提としている。
ただし,嫡出推定が及ぶ父子関係については,後記第3のとおり,争う方法そのものが制限されている。
戸籍の読み方については,法定相続情報一覧図の作成方法―戸籍謄本の読み方と相続人の確認(AI作成)を参照されたい。

第3 最高裁平成26年7月17日の2つの判決

1 2つの判決の書誌

最高裁第一小法廷は,同じ日に,同じ論点について2つの判決をした。
① 最高裁平成26年7月17日判決(平成24年(受)第1402号,民集68巻6号547頁)
② 最高裁平成26年7月17日判決(平成25年(受)第233号,集民247号79頁)
いずれも,戸籍上夫の嫡出子とされている子が,夫を被告として提起した親子関係不存在確認の訴えであり,最高裁は原判決を破棄し,訴えを却下した。
いずれの判決にも補足意見及び反対意見が付されている。

2 裁判要旨

①の判決の裁判要旨は,次のとおりである。
「夫と民法772条により嫡出の推定を受ける子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係の存否を争うことはできない。」
②の判決の裁判要旨は,後段の事情が「子が現時点において妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情」となっているほかは,①と同旨である。
判決が用いている言葉は「科学的証拠」であり,判決の結論部分がDNA鑑定という語で要件を立てているわけではない点に注意が必要である。
①の判決の事実関係の中では私的に行われたDNA検査の結果に触れられているが,判断の枠組みは「科学的証拠により明らか」かどうかという形で示されている。

3 理由中の判示

①の判決は,理由の中で,夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし,かつ,出訴期間を定めたことは,身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有すると述べた上で,次のように判示している。
「子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。」
続けて,「法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合が生ずることになるが,同条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることをも容認しているものと解される。」と述べている。
この部分が,「科学的証拠で血縁がないと分かっても、それだけで法律上の父子関係は消えない」という結論の直接の根拠である。

4 推定の及ばない子という例外

同じ判決は,次の例外も示している。
民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,その子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるから,親子関係不存在確認の訴えで父子関係の存否を争うことができる。
この例外は,判決が引用する先例に由来する。
① 最高裁昭和44年5月29日判決(昭和43年(オ)第1184号,民集23巻6号1064頁)は,離婚の届出に先立ち約2年半以前から事実上の離婚をして別居し,まったく交渉を絶って夫婦の実態が失われていた場合には,婚姻解消後300日以内に出生した子であっても嫡出の推定を受けないとした。
② 最高裁平成10年8月31日判決(平成7年(オ)第2178号,集民189号497頁)は,妻が子を懐胎した時期に夫が出征中で妻が夫の子を懐胎することが不可能であったことが明らかであった事案で,夫の死亡後にその養子が提起した親子関係不存在確認の訴えを適法とした。
③ 最高裁平成12年3月14日判決(平成8年(オ)第380号,集民197号375頁)は,夫婦の婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情が存在することの一事をもって,夫が嫡出推定を受ける子に対して親子関係不存在確認の訴えを提起することは許されないとした。
例外として扱われるのは,懐胎時期の夫婦の状況という外形的な事情であり,後から得られた科学的証拠ではない。

5 射程

平成26年の2判決は,民法772条による嫡出推定が及ぶ父子関係について,親子関係不存在確認の訴えで争えるかを判断したものである。
したがって,母子関係,認知による父子関係,推定の及ばない子の父子関係については,直接の射程外である。
また,2判決は令和4年民法改正前の制度(否認権者は夫のみで,出訴期間は1年)を前提としている。
改正後も,嫡出推定が及ぶ父子関係を争う方法が嫡出否認の訴えに限られるという構造は変わっておらず,改正は,否認権者と出訴期間を広げることで調整を図ったものと理解できる。

第4 令和4年民法改正による嫡出推定・嫡出否認の見直し

1 改正の概要と施行日

民法等の一部を改正する法律(令和4年法律第102号)は令和4年12月16日に公布され,嫡出推定制度の見直し等に関する規定は令和6年4月1日から施行された。
法務省のウェブサイトは,改正のポイントとして,再婚後に生まれた子を再婚後の夫の子と推定すること,女性の再婚禁止期間の廃止,嫡出否認権を子及び母にも認めたこと,嫡出否認の訴えの出訴期間を1年から3年に伸長したことを挙げている。

2 民法772条(嫡出の推定)

改正前の民法772条は,1項で「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」と定め,2項で婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子を婚姻中に懐胎したものと推定していた。
改正後の同条1項は,前記第2の2のとおり,婚姻前に懐胎し婚姻成立後に生まれた子も夫の子と推定することとした。
同条3項は,「女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。」と定める。
この結果,婚姻の解消等の日から300日以内に生まれた子であっても,母が再婚した後に生まれた子は,再婚後の夫の子と推定される。
同条4項は,再婚後の夫の子であることが否認された場合には,その夫との婚姻を除いて直近の婚姻を判断する旨を定めている。

3 民法774条・775条(否認権者と訴えの相手方)

民法774条は,否認権者を次のとおり定めている。
① 父(1項)
② 子(1項)。子の否認権は,親権を行う母,親権を行う養親又は未成年後見人が子のために行使することができる(2項)。
③ 母(3項)。ただし,否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは,この限りでない。
④ 前夫(4項)。民法772条3項により父が定められる場合に,子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた者であって子の父以外のものをいい,ただし書は母の場合と同じである。
民法775条1項は,訴えの相手方を,父の否認権については子又は親権を行う母,子及び母の否認権については父,前夫の否認権については父及び子又は親権を行う母と定めている。

4 民法777条・778条・778条の2(出訴期間)

民法777条は,嫡出否認の訴えを,次の時から3年以内に提起しなければならないと定める。
① 父の否認権は,父が子の出生を知った時から
② 子の否認権は,その出生の時から
③ 母の否認権は,子の出生の時から
④ 前夫の否認権は,前夫が子の出生を知った時から
改正前の民法777条は,「嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。」と定めていた。
民法778条は,再婚後の夫の子と推定された子について嫡出否認がされ,前の婚姻の夫が新たに父と定められた場合に,各否認権者が前の裁判の確定を知った時から1年以内とする特則である。
民法778条の2第2項は,子がその父と継続して同居した期間(二以上あるときは最も長い期間)が3年を下回るときは,子は21歳に達するまでの間,嫡出否認の訴えを提起することができると定める。
ただし,子の否認権の行使が父による養育の状況に照らして父の利益を著しく害するときは,この限りでない。
同条1項は親権を行う母等がない場合の期間の特則,同条4項は前夫の否認権に係る訴えは子が成年に達した後は提起できない旨を定めている。

5 経過措置

改正附則の要点は,次のとおりである。
① 新民法772条は施行日以後に生まれる子に適用し,施行日前に生まれた子の嫡出推定は従前の例による(附則3条)。
② 施行日前に生まれた子に対する父による嫡出否認の訴えは,従前の例による(附則4条1項)。
③ 子及び母の否認権に関する規定は,施行日前に生まれた子にも適用される。ただし,その場合の出訴期間は「民法等の一部を改正する法律(令和四年法律第百二号)の施行の時から一年を経過する時まで」と読み替えられる(附則4条2項)。
④ 前夫の否認権,民法778条,民法778条の2第2項から第4項まで等は,施行日以後に生まれる子に適用される(附則4条3項)。
③の特例は,法務省のウェブサイトでも,施行日前に生まれた人やその母も令和6年4月1日から1年間に限り嫡出否認の訴えを提起できると案内されていた。
基準日(令和8年9月18日)の時点では,この1年間は既に経過している。
したがって,施行日前に生まれた子について,今から子や母が嫡出否認の訴えを提起することはできず,父の否認権も従前の例による期間の制約を受ける。
相続の場面で問題になる親子関係の多くは施行日よりずっと前に生まれた人に関するものであるから,改正後の規定をそのまま当てはめないよう注意が必要である。

6 父が死亡している場合

人事訴訟法41条1項は,父が子の出生前に死亡したとき,又は民法777条1号若しくは778条1号の期間内に嫡出否認の訴えを提起しないで死亡したときは,その子のために相続権を害される者その他父の三親等内の血族は,父の死亡の日から1年以内に限り,嫡出否認の訴えを提起することができると定める。
同条1項の改正後の規定も施行日以後に生まれる子に適用され,施行日前に生まれた子に対する父による嫡出否認の訴えは従前の例による(附則4条1項)。
いずれにしても期間は父の死亡の日から1年以内に限られており,父の死亡から相当の期間が経過した後の相続の場面で,この訴えを使える余地は小さい。

第5 嫡出推定が及ばない場合等の争い方

1 親子関係不存在確認の訴え

人事訴訟法2条2号は,人事訴訟の対象として「嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え、民法(明治二十九年法律第八十九号)第七百七十三条の規定により父を定めることを目的とする訴え並びに実親子関係の存否の確認の訴え」を挙げている。
嫡出推定が及ばない子(前記第3の4),推定されない嫡出子,戸籍上嫡出子とされているが分娩の事実がない子などについては,実親子関係の存否の確認の訴え(いわゆる親子関係不存在確認の訴え)で争うことになる。
認知による父子関係については,民法786条の認知の無効の訴えが問題となる。
同条1項は,子又はその法定代理人,認知をした者,子の母について,それぞれ定める時から7年以内に限り,認知について反対の事実があることを理由として認知の無効の訴えを提起することができると定める。
ただし,施行日前にされた認知に対する反対の事実の主張については従前の例による(附則5条2項)。
改正前の民法786条は,「子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。」と定めるだけで,主張できる期間を定めていなかった。
したがって,令和6年4月1日より前にされた認知については,改正後の7年の期間制限は及ばず,改正前の規定によって判断されることになる。

2 当事者の一方又は双方が死亡している場合の被告

人事訴訟法12条は,被告を次のとおり定めている。
① 身分関係の当事者の一方が提起するときは,特別の定めがある場合を除き,他の一方が被告となる(1項)。
② 身分関係の当事者以外の者が提起するときは,特別の定めがある場合を除き,当事者の双方が被告となり,その一方が死亡した後は,他の一方が被告となる(2項)。
③ 被告とすべき者が死亡し,被告とすべき者がないときは,検察官が被告となる(3項)。
たとえば,兄弟姉妹の一人が,亡くなった親と別の兄弟姉妹との間の親子関係の不存在確認を求めるときは,身分関係の当事者以外の者が提起する訴えになるから,②又は③の規律に従うことになる。
ただし,第三者が訴えるには確認の利益が必要であり,嫡出推定が及ぶ父子関係については前記第3のとおりこの訴えでは争えない。

この規律は,人事訴訟法の制定前から判例で形作られていた。
最高裁昭和45年7月15日大法廷判決(昭和43年(オ)第179号,民集24巻7号861頁)の裁判要旨は,「父母の両者または子のいずれか一方が死亡した後でも、生存する一方は、検察官を相手方として、死亡した一方との間の親子関係の存否確認の訴を提起することができる。」というものである(裁判所ウェブサイト)。
最高裁昭和56年10月1日判決(昭和56年(オ)第362号,民集35巻7号1113頁)の裁判要旨は,「第三者が死者と生存者間の親子関係存否確認の訴を提起する場合においては、生存者のみを被告とすれば足り、死者について検察官を相手方に加える必要はない。」というものである(裁判所ウェブサイト)。
同判決は,遺産分割の審判の前提問題として親子関係を争うことができるとしても,親子関係そのものの確認を求める訴えの利益は否定されないとし,その訴えが権利の濫用にも当たらないとした。
したがって,親が死亡し,戸籍上の兄弟姉妹が生存しているときは,その兄弟姉妹だけを被告とすれば足り,双方が死亡しているときは検察官が被告となる。

他方,第三者であれば誰でも他人間の身分関係を争えるわけではない。
最高裁昭和63年3月1日判決(昭和59年(オ)第236号,民集42巻3号157頁)の裁判要旨は,「第三者の提起する養子縁組無効の訴えは、養子縁組が無効であることによりその者が自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けないときは、訴えの利益を欠く。」というものである(裁判所ウェブサイト)。
養子縁組の事案ではあるが,第三者が他人間の身分関係を争うには自己の身分上の地位に直接の影響があることを要するという考え方を示している。
兄弟姉妹は,親子関係の有無によって自分が相続人となる範囲や相続分が変わる立場にあり,前記昭和56年判決や後記の各判決でも兄弟姉妹等からの訴えが本案で判断されているが,兄弟姉妹であれば常に確認の利益があると最高裁が一般的に述べたものではない。

3 調停前置と合意に相当する審判

家事事件手続法244条は,人事に関する訴訟事件を家事調停の対象としており,同法257条1項は,調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は,まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならないと定める。
同法277条1項は,人事に関する訴え(離婚及び離縁の訴えを除く。)を提起することができる事項についての家事調停で,当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立し,かつ,当事者の双方が身分関係の存否の原因について争わない場合には,家庭裁判所は,必要な事実を調査した上,合意を正当と認めるときは,合意に相当する審判をすることができると定める。
もっとも,同項ただし書は,「当該事項に係る身分関係の当事者の一方が死亡した後は、この限りでない。」と定めている。
したがって,親と子のいずれかが既に亡くなっている場面では,合意に相当する審判は使えず,人事訴訟によることになる。
相続の場面では親が既に亡くなっていることが多いので,この点は見落としやすい。

4 長期間の親子としての実態と権利の濫用

最高裁平成18年7月7日判決(平成17年(受)第833号,民集60巻6号2307頁)は,戸籍上の父母の長女が,戸籍上の弟について,父母との実親子関係の不存在確認を求めた事案である。
同判決は,真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には,実親子関係が存在しないことの確認を求めることができるのが原則であるとした上で,実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ,不存在を確定することにより子及び関係者の被る精神的苦痛・経済的不利益,改めて養子縁組をして嫡出子の身分を取得する可能性の有無,請求をするに至った経緯及び動機・目的等の諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには,確認請求は権利の濫用に当たり許されないとした。
同判決の事案では,不存在確認の訴えが,父母の遺産を承継した二女の死亡により相続が問題となってから提起されたことも考慮されている。
相続をきっかけに親子関係を争おうとする場合には,この判断枠組みを踏まえる必要がある。

同じ日に,同じ小法廷は,戸籍上の母自身が,約51年間実親子と同様に暮らしてきた戸籍上の子に対して実親子関係の不存在確認を求めた事件でも,権利の濫用に当たらないとした原審の判断を違法として破棄している(最高裁平成18年7月7日判決,平成17年(受)第1708号,集民220号673頁,裁判所ウェブサイト)。
さらに,最高裁平成20年3月18日判決(平成18年(受)第2056号,集民227号571頁,裁判所ウェブサイト)は,大韓民国の民法が準拠法となる事案であるが,親の子らが,親の死亡の約10年後まで戸籍上の兄弟の実子性を否定したことがなく,その兄弟との間で遺産分割協議を成立させた後に,遺産の返還を求める訴訟とともに実親子関係の不存在確認を求めたという事情の下で,権利の濫用に当たらないとした原審の判断を違法として破棄した。

これに対し,最高裁平成9年3月11日判決(平成3年(オ)第399号,集民182号1頁,裁判所ウェブサイト)は,戸籍上の父母の養子が,戸籍上の嫡出子と父母との親子関係の不存在確認を求めた事案で,権利の濫用に当たり許されないとはいえないとした。
この事案では,戸籍上の母が存命で,判決の確定後に母と戸籍上の子とが養子縁組をして身分を回復する余地があったことも考慮されている。
これらを並べると,長年にわたる実親子同様の生活,親の死亡によって養子縁組による回復ができないこと,遺産をめぐる経済的な動機,遺産分割が済んだ後の蒸し返しといった事情が重なるほど,親の死後に兄弟姉妹が親子関係を争う請求は権利の濫用とされやすいといえる。
DNA鑑定の結果を得たとしても,それだけでこの判断枠組みが変わるわけではない。

5 判決の効力と戸籍の訂正

人事訴訟法24条1項は,人事訴訟の確定判決は第三者に対してもその効力を有すると定める。
戸籍法116条は,確定判決によって戸籍の訂正をすべきときは,訴えを提起した者は,判決が確定した日から1か月以内に,判決の謄本を添附して戸籍の訂正を申請しなければならないと定める。
逆にいえば,確定判決等によって親子関係が否定され戸籍が訂正されるまでは,私的な鑑定結果があるだけでは,戸籍上の身分関係に基づく相続手続が進むことになる。

第6 相続への影響

1 兄弟姉妹の相続順位と相続分

民法889条1項は,被相続人の子(代襲者を含む。)がいない場合に,第一に直系尊属,第二に兄弟姉妹が相続人となると定めている。
兄弟姉妹は,子及び直系尊属がいないときに相続人となる第三順位の相続人である。
兄弟姉妹が相続開始以前に死亡しているときは,民法889条2項が準用する民法887条2項により,その子が代襲相続人となる。
兄弟姉妹が数人あるときの相続分について,民法900条4号は,各自の相続分は相等しいものとした上で,ただし書で「父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。」と定める。
配偶者と兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者の相続分が4分の3,兄弟姉妹の相続分が4分の1である(民法900条3号)。

2 生物学上のつながりの有無は相続権を左右しない

相続人となるかどうかは,法律上の親子関係を基礎として決まる。
そのため,DNA鑑定の結果,ある兄弟姉妹と被相続人との間に生物学上のつながりがないことが示唆されても,法律上の親子関係が裁判で覆らない限り,その人は相続人のままである。
反対に,生物学上のつながりがあることが示されても,認知等によって法律上の親子関係が生じていない人は,そのことだけで相続人になるわけではない。
全血か半血か(民法900条4号ただし書)も,法律上の父母を基準に判断される。
したがって,「鑑定で血縁が確かめられなければ相続しない」という申出は,法律的には,鑑定結果によって相続権が消えるという意味ではなく,本人が相続を望まないという意思表明にすぎないと整理するのが適切である。

3 「相続しない」ことの法的な意味

相続を望まない相続人が相続人でなくなるためには,相続放棄の手続が必要である。
民法938条は,相続の放棄をしようとする者はその旨を家庭裁判所に申述しなければならないと定め,民法939条は,相続の放棄をした者はその相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなすと定める。
申述の期間は,民法915条1項により,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内であり,家庭裁判所で伸長することができる。
単に遺産を受け取らないと言うだけでは相続放棄にはならず,相続債務の承継等の問題も残る。
逆に,相続を望む人にとっては,鑑定を経なくても戸籍上の相続人として手続を進めることができる。
いずれにせよ,鑑定の実施を相続の前提条件とする法律上の根拠はない。

第7 私的なDNA鑑定を求められたときの実務

1 相手方の同意なしに検体を取ることの問題

DNA鑑定には,口腔内の細胞,血液,毛髪等の検体が必要になる。
遺伝情報は高度の個人情報であり,本人の同意なく検体を採取したり,本人の所持品から検体を持ち出したりして鑑定に回すことは,本人のプライバシーを侵害するおそれがある。
鑑定を求める側から「本人に知られずに検体を取ってほしい」と頼まれても,これに応じるべきではないと考える。

2 成年後見人には検体採取に同意する権限がない

成年後見人の職務は,民法858条が定めるとおり,成年被後見人の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務であり,その際には本人の意思を尊重し,心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
他方,成年後見人が本人に代わって身体への侵襲を伴う行為に同意できることを定めた規定は,現行民法にない。
検体の採取は,治療のためではなく,親族の身分関係の疑いを確かめるためのものであり,本人の利益のために行うものともいえない。
したがって,成年後見人が,親族の依頼を受けて本人の採血等の検体採取に同意したり,医療機関等に採取を依頼したりすることは,権限の範囲外であると考える(私見)。
医療行為一般についての成年後見人の同意の問題は,成年後見人の医療行為の同意を参照されたい。
本稿で引用した民法858条及び873条の2は,基準日現在の条文である。
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)の施行後は,e-Govに掲載された未施行の改正内容によれば,858条は未成年後見人が数人ある場合の規定となり,意向の把握・尊重と心身の状態及び生活の状況への配慮は補助人について876条の11に,本人の死亡後の権限は876条の26に定められ,873条の2は置かれなくなる。
施行日は政令で定める日であり,施行日前に開始した後見の扱いは,成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理で扱っている。

3 本人が死亡した後の検体

本人が死亡すると,成年後見は終了する。
民法873条の2は,成年後見人が本人の死亡後にすることができる行為として,相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為,弁済期が到来した相続債務の弁済,死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(家庭裁判所の許可が必要)を挙げているが,身分関係を確かめるための検体の採取や提供はこれに含まれない。
遺体からの検体の採取・提供を認めるかどうかは,遺族,とりわけ祭祀を主宰すべき立場の者の判断に委ねられる事柄であり,元成年後見人が判断すべきものではないと考える(私見)。
死後事務の範囲については,成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理を参照されたい。

4 費用と手続は鑑定を求める側が担う

私的なDNA鑑定は,鑑定を求める側が,鑑定機関を選び,対象者の同意を得て,費用を負担して行うのが原則である。
成年後見人や相続手続を進める側が,鑑定の段取りや費用の負担を引き受ける義務はない。
鑑定の結果を裁判で使う場合でも,その評価は裁判所に委ねられ,前記第3のとおり,嫡出推定が及ぶ父子関係では,鑑定結果があっても親子関係不存在確認の訴えそのものが許されない。

5 鑑定の精度について

DNA鑑定の精度や,親子鑑定と兄弟姉妹鑑定の違いについては,様々な数値が語られることがある。
しかし,本稿では,一次資料で裏付けの取れない数値は記載しない。
相談者に説明する際も,鑑定機関の説明をそのまま法的な結論に結び付けないよう注意したい。

第8 遺体・遺骨の引取りとの関係

身分関係に疑いがあることと,遺体・遺骨の引取りとは,法律上は別の問題である。
最高裁平成元年7月18日判決(昭和63年(オ)第969号,家月41巻10号128頁,裁判所ウェブサイト未掲載)は,遺骨の所有権は,慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属したとした事例判断である。
判例秘書で確認した判示事項は,「遺骨の所有権は、慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属したとして、祭祀を主宰すべき者への遺骨の引渡しを命じた原審の結論を維持した事例」であり,最高裁自身が一般論を述べたものではない。
民法897条1項は,系譜,祭具及び墳墓の所有権は,慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継すると定めている。
また,墓地,埋葬等に関する法律9条1項は,死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは,死亡地の市町村長がこれを行わなければならないと定める。
親族が「血縁が確認できなければ引き取らない」と述べる場合でも,成年後見人がDNA鑑定の段取りをしてまで引取りを求める必要はなく,引取りを拒まれたときの対応は別途検討することになる。
この点は,姉妹記事の親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないとき-成年後見人の対応と意向照会書及び葬儀・火葬の実施を参照されたい。

第9 まとめ

① 法律上の母子関係は分娩の事実で,父子関係は嫡出推定又は認知で決まり,兄弟姉妹関係は共通の親との法律上の親子関係から導かれる。
② 嫡出推定が及ぶ父子関係は,科学的証拠によって生物学上の父子関係がないことが明らかであっても,親子関係不存在確認の訴えでは争えない(最高裁平成26年7月17日判決)。
③ 令和4年改正により否認権者と出訴期間が広げられたが,施行日前に生まれた子については経過措置があり,子及び母の否認に関する1年間の特例期間は基準日現在既に経過している。
④ 嫡出推定が及ばない場合等は親子関係不存在確認の訴え等で争えるが,当事者の一方が死亡した後は合意に相当する審判は使えず,長期間の親子としての実態がある場合には権利の濫用とされることがある。
⑤ 生物学上のつながりの有無は,法律上の親子関係が裁判で覆らない限り相続権を左右せず,相続を望まない人は相続放棄の手続をとる必要がある。
⑥ 成年後見人には本人の検体採取に同意する権限はなく,私的な鑑定は鑑定を求める側が同意の取得・費用・手続を担うのが原則である。

第10 出典・参考資料

1 法令

① 民法(明治29年法律第89号)772条,774条,775条,777条,778条,778条の2,779条,786条,787条,858条,873条の2,887条,889条,897条,900条,915条,938条,939条,改正前の786条(令和5年6月14日施行時点の版),令和8年法律第45号による改正後の858条・876条の11・876条の26(未施行)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
② 民法等の一部を改正する法律(令和4年法律第102号)附則3条,4条,5条(民法の改正附則として確認)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
③ 人事訴訟法2条,12条,24条,41条
https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000109
④ 家事事件手続法244条,257条,277条
https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052
⑤ 戸籍法116条
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224
⑥ 墓地,埋葬等に関する法律9条
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000048

2 裁判例

① 最高裁昭和37年4月27日判決(民集16巻7号1247頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/57715/detail2/index.html
② 最高裁昭和44年5月29日判決(民集23巻6号1064頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/54117/detail2/index.html
③ 最高裁平成元年7月18日判決(家月41巻10号128頁,裁判所ウェブサイト未掲載。判例秘書 L04410070 で確認)
④ 最高裁平成10年8月31日判決(集民189号497頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/76124/detail2/index.html
⑤ 最高裁平成12年3月14日判決(集民197号375頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/62797/detail2/index.html
⑥ 最高裁平成18年7月7日判決(民集60巻6号2307頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/33298/detail2/index.html
⑦ 最高裁平成26年7月17日判決(平成24年(受)第1402号,民集68巻6号547頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/84337/detail2/index.html
⑧ 最高裁平成26年7月17日判決(平成25年(受)第233号,集民247号79頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/84344/detail2/index.html
⑨ 最高裁昭和45年7月15日大法廷判決(民集24巻7号861頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/54123/detail2/index.html
⑩ 最高裁昭和56年10月1日判決(民集35巻7号1113頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/54265/detail2/index.html
⑪ 最高裁昭和63年3月1日判決(民集42巻3号157頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/52188/detail2/index.html
⑫ 最高裁平成9年3月11日判決(集民182号1頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/63024/detail2/index.html
⑬ 最高裁平成18年7月7日判決(平成17年(受)第1708号,集民220号673頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/33299/detail2/index.html
⑭ 最高裁平成20年3月18日判決(集民227号571頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/36087/detail2/index.html

3 公的資料

① 法務省「民法等の一部を改正する法律について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00315.html

4 関連記事

① 成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/09/07/seinenhikoukennin-shibou-shigojimu-873jo2/
② 成年後見人の医療行為の同意
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/07/24/seinenkoukennin-iryoukoui-doui/
③ 葬儀・火葬の実施
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/07/24/sougi-kasou/
④ 法定相続情報一覧図の作成方法―戸籍謄本の読み方と相続人の確認(AI作成)
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/08/30/hotei-sozoku-joho-ichiranzu-sakusei-koseki-yomikata/
⑤ 親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないとき-成年後見人の対応と意向照会書(AI作成)
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/09/18/shinzoku-ikotsu-hikitori-kyohi-seinenkoukennin/