第1 この記事の対象と結論
1 対象,基準日及び他の記事との分担
本記事は,成年被後見人が死亡した直後に,成年後見人であった者が何を,どの根拠で,どの順序で行うことができるかを整理するものである。
調査の基準日は令和8年9月7日であり,法令は同日現在のe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
引用する家庭裁判所の資料は平成29年から平成30年までに公表されたもの,実務書は令和5年に発行されたものであり,資料の対象期間はこの範囲である。
令和8年法律第45号による改正法は本記事の作成時点で施行されておらず,改正後の姿は第11で別に扱う。
火葬許可証の交付手続そのものは火葬許可証で,遺骨の帰属及び葬儀費用の終局的な負担者は葬儀・火葬の実施で,本人の生前に締結する契約は死後事務委任契約の効力,内容及び作成時の注意点で扱っている。
本記事はこれらと重複する説明を置かず,後見人の側の判断だけを対象とする。
この論点には,参照できる裁判例がほとんどない。
裁判所ウェブサイトの裁判例検索を令和8年9月7日に行ったところ,全文検索の語を「民法873条の2」としたときの該当件数は0件,「八百七十三条の二」としたときも0件であった。
「873条の2」では2件が該当したが,いずれも著作権に関する知的財産の事件であって条文の引用として一致したものではない。
同じ検索式で「成年後見人」を検索すると102件が該当するから,検索の仕組み自体は動いている。
裁判所ウェブサイトに掲載がないことは裁判例が存在しないことの証明にはならないが,公開されている範囲で民法873条の2の解釈が正面から争われた例は見当たらないため,本記事は条文と,家庭裁判所自身が公表した運用の説明及び実務書の記述を根拠として組み立てている。
2 結論
本人の死亡により後見は終了し,成年後見人の代理権は消滅する。
それでも元後見人が死後の事務を行うことができる根拠は,①民法873条の2の死後事務,②民法874条が準用する同法654条の応急処分,③民法697条以下の事務管理の三つに分かれる。
どの根拠で動いているかによって,家庭裁判所の許可の要否,費用の求償先及び裁判所への報告の内容が変わる。
実務上の分岐点は三つである。
第一に,凍結された預貯金口座から金銭を払い戻す必要があるかどうかであり,払戻しが必要になった時点で民法873条の2第3号の家庭裁判所の許可(以下「3号許可」という。)が必要になる。
第二に,葬儀を行うかどうかであり,葬儀は3号許可の対象とされていないため,葬儀を行うのであれば事務管理の構成によることになる。
第三に,相続人が引継ぎを受けるかどうかであり,引継ぎは相続人の1人に対して行えば足りるが,その1人すら受け取らないときは弁済供託又は相続財産管理人の選任という別の出口が要る。
第2 本人の死亡で消えるもの,残るもの
1 代理権は消滅する
民法111条1項1号は,代理権が本人の死亡によって消滅すると定める。
民法653条1号も,委任が委任者又は受任者の死亡によって終了すると定めている。
大阪家庭裁判所家事第4部後見係「大阪家裁後見センターだより」第3回(月刊大阪弁護士会2017年10月号54頁~55頁)も,後見人は被後見人の死亡により代理権等の権限を失うことを出発点として説明している。
したがって,本人が死亡した後の元後見人の行為は,いずれも例外規定の上に立つことになる。
2 民法873条の2の死後事務
民法873条の2は,「成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限」という見出しの下に,「成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」と定める。
掲げられている行為は,①相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為(1号),②相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済(2号),③その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前2号に掲げる行為を除く。)(3号)の三つである。
この規定は,成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成28年法律第27号。以下「円滑化法」という。)により新設され,平成28年10月13日に施行された。
3 民法874条が準用する654条の応急処分
民法874条は,民法654条及び655条を後見について準用する。
民法654条は,「委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない」と定めている。
条文の文言が「しなければならない」である以上,これは権限であると同時に義務であり,家庭裁判所の許可を要しない。
4 民法697条以下の事務管理
民法697条1項は,義務なく他人のために事務の管理を始めた者が,その事務の性質に従い,最も本人の利益に適合する方法によって事務の管理をしなければならないと定める。
元後見人が相続人らのために事務管理を行い,その費用を民法702条1項の有益費償還請求により清算する,という構成である。
大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編「【全訂版】成年後見人の実務2023」(大阪弁護士協同組合,2023年)131頁~132頁は,この方法によれば裁判所の許可を得る必要はなく,事後的な報告で足りるとする。
もっとも,民法697条2項及び700条ただし書があるため,相続人の意思に反する対応はできない。
5 三つの関係――873条の2は上限ではない
重要なのは,民法873条の2が従前の対応を制限する規定ではないという点である。
前記「大阪家裁後見センターだより」第3回は,円滑化法の施行以前も,後見終了時の応急処分(民法654条)や相続人全員のための事務管理(民法697条)を根拠として一定の範囲の死後事務を行うことは可能であると解されていたとした上で,円滑化法は従前から行うことのできていた行為を制限する趣旨とは解されないので,応急処分等の要件を満たす行為は施行後も家庭裁判所の許可なくして適法に行うことが可能であるとする。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」128頁も,民法873条の2は保存行為の範囲内で成年後見人に権限があることを確認したものであって,これらが成年後見人の義務となるものではなく,従前の事務管理法理等による対応が否定されるものでもないと述べている。
したがって,3号許可が得られないことは,元後見人が何もできないことを意味しない。
第3 民法873条の2の柱書の要件
1 「必要があるとき」
前記「大阪家裁後見センターだより」第3回は,「必要があるとき」とは,相続人ではなく後見人が当該事務を行わなければならない場合をいうとする。
同回が挙げる例は,入院費等の支払を請求されているが,相続人の連絡先が不明で,成年後見人が支払をしないと相当期間債務の支払がされないこととなる場合である。
相続人が現に対応できる状況であれば,この要件は満たされない。
2 「相続人の意思に反することが明らかなとき」
同回は,これを,後見人が死後事務を行うことについて相続人が明確に反対の意思表示をしている場合をいうとし,相続人が不存在の場合や存否が明らかでない場合,相続人と連絡が取れない場合はこれに当たらないとする。
他方,相続人が複数いる場合には,一人でも反対の意思表示を明らかにしているときはこれに当たると考えられる旨が,同回の注に記されている。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」128頁~129頁も,相続人の意思を確認することは求められていないから,相続人はいるがすぐに連絡が取れないなどの場合であれば死後事務を行うことは可能であるとする。
実務上は,「連絡が取れない」のか「反対されている」のかを,時期と方法を含めて記録の上で区別しておくことが要点になる。
3 「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」
同書128頁は,相続人に引継ぎができる状況となったときは速やかに引継ぎをしてその後の対応は相続人に委ねるべきであるから,死後事務を行うことができるのはそれまでに限られるとする。
民法873条の2の権限は,引継ぎまでの暫定的なものである。
第4 1号及び2号――家庭裁判所の許可を要しない行為
1 1号の保存行為
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」129頁は,1号の例として,相続財産に属する債権について時効の完成が間近に迫っている場合に行う時効の完成猶予のための行為(民法147条1号の裁判上の請求等)や,相続財産に属する建物に雨漏りがある場合の修繕を挙げる。
これらは特定の財産に対する保存行為であり,家庭裁判所の許可を要しない。
2 2号の弁済
同頁は,2号について,本人が入院していた際の医療費や施設利用料等の支払を想定しつつ,特に債務の内容に限定はないため借入金であっても含まれるとする。
もっとも同頁は,存在する債務でなければならず,債務がないのに支払ったときは善管注意義務違反が問題となり得るため,債務の存否に疑義がある債務,例えば過払金があり得る借入金などの弁済は控えたほうがよいとしている。
3 払戻しが必要になった時点で3号許可が要る
ここが最も間違えやすい。
同書129頁は,1号の修繕費用を手持ち現金から支払うのではなく預貯金から払戻しを受ける必要がある場合,この預貯金の払戻しは全体としての相続財産に関わるため3号の許可が必要になるとし,2号の弁済費用についても同じであるとする。
すなわち,1号及び2号の行為それ自体に許可は要らないが,その原資を凍結された口座から出そうとすると,別に3号許可が必要になる。
「大阪家裁後見センターだより」第6回(月刊大阪弁護士会2018年4月号82頁~85頁)も,本人死亡直後に後見人の知らない間に全口座が凍結された場合について,弁済期にある債務の支払(民法873条の2第2号)に必要な金員は同条3号の許可により預金から払い戻せると説明している。
なお,同連載の第8回(月刊大阪弁護士会2018年8月号50頁~53頁)の注は,弁済の根拠を「民法873条の2第2項」と表記しているが,同条に項の区分はなく,弁済期の到来した債務の弁済は同条第2号である。
第5 3号許可の対象――「相続財産の保存に必要な行為」
1 判定の基準
前記「大阪家裁後見センターだより」第3回は,「相続財産の保存に必要な行為」とは,相続財産全体の保存に必要な行為であり,当該行為を行わなかった場合に相続財産の総額が減少することになる行為をいうと解されるとし,典型例として被後見人の契約していた電気・ガス等の供給契約の解約を挙げる。
判定の物差しは,その行為をしないと相続財産が減るかどうかであって,相続人にとって便利かどうかではない。
2 火葬,埋葬及び納骨
3号の「埋葬」はいわゆる土葬を意味すると解されているため,同回は,土葬を行う場合のみ申立ての趣旨に挙げるよう求めている。
納骨は火葬及び埋葬とは概念的に異なる行為であるが,これらに準ずるものとして3号許可の対象となると考えられており,被後見人に身寄りのない場合など納骨堂への納骨に関する契約まで締結する場合には,納骨も含めて許可を申し立てることになる。
許可の申立先,別表上の位置付け及び不服申立ての可否は火葬許可証で扱っている。
3 残置動産の廃棄と借家の明渡し
同回は,被後見人が施設入所中に死亡した事案などで施設から残置動産の処理を求められる場合について,残置された動産の性質や量,動産の廃棄費用,廃棄しない場合に相続財産に生じ得る負担等を考慮し,廃棄を行わないことで相続財産が減少する場合には3号許可の対象となると考えられるとする。
もっとも,借家に家財道具が残っている場合は,これと同じには扱えない。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」130頁は,借家契約自体は相続の対象となるものであり,その解約は処分行為となるため,成年後見人が死後事務として行うことはできないとする。
その上で同頁は,死亡により当然終了となる契約のような場合であれば,明渡しをしないと賃料相当損害金が発生することになるので,動産の保管替えや無価値物の廃棄のための費用の支払のための払戻しであれば3号許可の対象となり得ると考えられるとし,無価値物かどうかの判断にはリスクがあるので慎重な検討が必要になるとしている。
「大阪家裁後見センターだより」第6回は,これを時間軸に展開している。
同回は,①民法873条の2第1号により動産を倉庫業者に寄託し,②同条3号の許可に基づき毎月保管費用を支払い,③一定期間(6か月から1年未満)の経過後に,保存について過分の費用を要するので「相続財産の保存に必要な行為」として3号許可の申立てをして動産を廃棄する,という運用も考えられるとする。
同回は,①から③までの各段階の前に,相続人にその旨を通告して引継ぎの催告を求めるのが相当であるとしている。
4 後見人報酬及び後見事務費の精算
元後見人にとって最も切実なのはこの点であるが,扱いは慎重であり,資料の間で強調点も分かれている。
前記「大阪家裁後見センターだより」第3回は,家庭裁判所から報酬付与の審判を受けた時点において,後見人の報酬を直ちに精算しなければ相続財産が全体として減少してしまうという事態は考えにくく,一般的には,報酬精算のための預貯金の払戻しは3号許可の対象となる「相続財産の保存に必要な行為」とはいいにくいように思われるとする。
同回の注は,後見事務費の精算についても同様の考え方になると思われるとしている。
もっとも同回は,現段階で報酬を確保しないと相続財産が総額として減少するおそれがあるという事情が認められる場合には許可の対象となる可能性があるとし,注において,将来的に後見報酬の支払をめぐって相続人と紛争が生じ相続財産にコストがかかるおそれがある場合や,すでに相続人に対して報酬の支払を請求しており遅延損害金が生じるような場合を想定例として挙げる。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」131頁は,この点を一歩進めて,後見人報酬も相続人に履行の請求をすれば弁済期が到来し,その後遅延損害金が発生する,この場合は相続財産が減少するため,これを精算するための預貯金の払戻しは3号許可の対象となると考えられるとする。
同頁はまた,相続人に後見人報酬の支払を請求したが,明確な支払拒絶ではなく支払がないという場合においても,3号許可の「相続人の意思に反することが明らかな場合」の要件には該当せず,3号許可を求めることは可能と考えられるとし,その根拠として「センターだより」第19回を挙げている。
他方,「大阪家裁後見センターだより」第3回の注は,相続人が報酬の支払すなわち預貯金の払戻しを拒んでいる状況であれば,「相続人が反対の意思を明らかにしている」との要件に当たることもあり得るのではないかと考えられるとしている。
そうすると,相続人に対して報酬の支払を請求する行為は,一方で弁済期を到来させて3号許可の要件を整えると同時に,他方で明確な拒絶を引き出せば柱書の要件を失わせる可能性を持つことになる。
本記事では,請求の仕方と,返ってきた反応の記録の残し方が結論を分けると整理する。
なお,「大阪家裁後見センターだより」第6回は,紛争が想定される場合等について,後見人報酬支払のための預金の払戻しについても「相続財産全体のための保存行為」として3号許可を認める場合があり得るとしており,同じ方向を示している。
5 申立ての実際
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」131頁は,3号許可について所定の書式が用意されており,これによって申立てをすること,契約書や請求書等の裏付け資料を添付することを述べる。
「大阪家裁後見センターだより」第3回の末尾は,申立書は大阪家庭裁判所のウェブサイトに掲載しているひな形を利用すること,死後事務の許可申立てのうち債務弁済のための預貯金の払戻しの許可を求める際は,債務の内容を特定し,その裏付けとなる資料を添付することを求めている。
大阪家庭裁判所の運用の詳細は大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務で扱っている。
第6 葬儀ができないときの経路
1 3号許可の対象外とされる理由
前記「大阪家裁後見センターだより」第3回は,葬儀について,火葬及び埋葬と違って公衆衛生上不可欠というわけではなく,宗派や規模も様々であり,相続人とトラブルになるおそれもあることから,3号許可の対象とされていないとする。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」130頁も,本条によって成年後見人が葬儀を行うことはできないと明記する。
2 大阪家庭裁判所の取扱い
もっとも同回は,実務上,被後見人に身寄りがない場合などに,後見人が火葬・埋葬と一緒に最小限の葬儀を執り行うニーズもあると思われるとした上で,後見センターでは,火葬及び納骨とセットで小規模で宗教色の薄い葬儀を行うという場合には,火葬に付随する事務として,その費用についても預貯金払戻しの許可をする取扱いをしていると説明する。
同回は,葬儀費用に係る預貯金等の払戻しも含めて3号許可を申し立てる際には,見積書やパンフレット,商品内容を説明する上申書等を提出するよう求めており,注では,葬祭業者も火葬・葬儀・納骨・永代供養までをセットにして費用を総額10万円から20万円台に抑えたパッケージプランを提供しているようであるとも述べている。
これは費用についての払戻しの許可であって,葬儀それ自体を民法873条の2の権限で行えるようになるという趣旨ではない。
3 事務管理による経路
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」132頁は,事務管理による対応について,債務の弁済や遺体の引取り,火葬,納骨等の処理を行い,その費用について払戻しを受けた現金から支払をするとした上で,「葬儀についても行うことは可能である」とする。
同頁は,預り現金から支出する場合も,法形式的には,成年後見人が有益費を支出したとして,有益費償還請求権と預り金返還債務との間で相殺するということになると説明し,報酬付与の審判を得た場合も立替事務費とともに預り現金からこれを引き去ることができるとも述べている。
ここでの制約は,事務管理である以上,相続人の意思に反する対応はできないこと(民法697条2項,700条ただし書)である。
同頁は,この処理を行った場合も裁判所に死亡後の収支報告をすることになるとし,手元に残った残現金については成年被後見人名義の預貯金口座に入金することで,相続人への現金引継ぎがないようにするのが望ましいとしている。
4 親族から依頼された場合
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」131頁は,親族に本人死亡の連絡をしたところ,親族から葬儀や火葬等について成年後見人で対応してほしいと言われる場合を取り上げ,成年後見人の死後事務の権限は義務ではないので,親族からの依頼があるなら親族との関係での(準)委任契約に基づくものとなり,その費用は親族から支払ってもらうべきことになると指摘する。
しかし同頁は,本人の財産をあてにしている場合もあるし,後日支払うと言われても確実かどうかは定かではないとし,「なお、この事務について親族等から報酬を受けることは問題がある」とする。
そこで同頁は,このような場合,成年後見人において対応しようとするのであれば,相続人の意思に反しないことが明らかであり,死後事務規定に基づいて対応する方が明確であると考えられるとしている。
親族に頼まれたという事実は,元後見人にとって有利な材料ではない。
依頼を受けたという形で動くと,費用の回収先が相続財産から親族個人へ移り,かつ報酬を受け取りにくくなるからである。
本記事では,同じ行為をするのであれば,親族の意向は相続人が反対していないことの裏付けとして記録にとどめ,根拠は民法873条の2又は事務管理に置くほうが整理しやすいと考える。
第7 原資の確保
1 死亡前の引出し
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」131頁は,被後見人が危篤となるなど死期が間近であると考えられるときは,死後事務のために必要な金額(最後の報酬,立替事務費を含む。)を想定し,「連絡票」で裁判所に連絡をした上で,その金額を預貯金から引き出すとする。
同頁は,あくまで例外的な管理として認められるものであり,引き出した現金は弁護士預り金口座で管理するなど適切な方法をとることが必要であること,本人の状態が改善したなどの場合は本人口座に戻しておくべきであることを付記している。
「大阪家裁後見センターだより」第6回も,本人の死期が迫った時点で家庭裁判所に報告の上で預金の一部を引き出して現金又は預り金口座等で保管し,そこからの出入金を現金出納帳によって管理するという取扱いを認めることがあるとする。
同回は,現金による財産管理は紛失,盗難等のリスクがあり家庭裁判所による監督も困難であることから,合理的な理由がない限り多額の現金保管は認めていないとし,右の取扱いは,本人死亡の前後に関して現金の支出の必要性が通常より高いことから,家庭裁判所への報告と現金出納帳による厳格な管理を条件として特別に認めているものであると念を押している。
同回によれば,この現金出納帳は,相続人への管理計算報告の対象となる。
2 死亡後の払戻し
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」131頁~132頁は,成年被後見人死亡の連絡を受けた後に,凍結されていない預貯金口座から成年後見人が払戻しを受けることについて,本来成年後見人の権限はなくなっており,金融機関に名義人死亡を知らせずに払戻しを受けることになる点に留意が必要であるとする。
その上で同書は,許可により払戻しを受ける権限はあり,金融機関は払戻しについて責任を負うことはなく,相続人との関係においても使途の適正は明確になることから,当然に違法とされるものではないと考えられるとしている。
死亡前の引出しと死亡後の払戻しは,外形は似ているが法的な位置付けが異なる。
3 年金受給口座と残す口座
同書127頁は,本人死亡後に振り込まれた年金は未支給年金となり,同居の親族等が手続をすればこれを取得できる場合もあるが,そうでなければ返還しなければならないとし,この返還手続には時間がかかるためそれまで職務を終了できなくなるので,年金受給口座は年金が振り込まれる前に凍結するのが相当であるとする。
他方で同頁は,預り現金がある場合には最終的に残金を本人名義の口座に入金して相続人らに引き継ぐのが相当であるから,凍結させる年金受給口座とは別の金融機関の口座を置いておくのが便宜であると付け加える。
同書136頁も,現金を弁済供託する場合には,供託時には既に成年後見人ではないため個人の氏名,住所を明記して供託しなければならないとされていることを挙げて,凍結させない口座を残しておくのが便宜であるとしている。
口座を一斉に止めるか1本残すかは,死亡直後ではなく本人の生前に決めておく事柄である。
第8 管理計算と引継ぎ
1 管理の計算
民法870条は,後見人の任務が終了したときは2箇月以内にその管理の計算をしなければならないと定め,この期間は家庭裁判所において伸長することができるとする。
期間伸長の申立ては,家事事件手続法別表第一の十六の項(成年後見に関する管理の計算の期間の伸長。民法870条ただし書)の審判事件に当たる。
「大阪家裁後見センターだより」第6回は,管理計算報告義務は後見人等の本人に対する善管注意義務(民法644条)の性質を有するので,その相手方は本人の相続人になるとする。
後見監督人があるときは,管理の計算はその立会いをもってしなければならない(民法871条)。
なお,前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」133頁は,成年後見人が家庭裁判所へ行う定期的な報告は家庭裁判所の監督に対応する報告であり,相続人に対する管理計算とは別のものであるとする。
同頁は,職務期間が長期にわたる場合はその量が多くなるため,例えば1年ごとに収支の内訳を計上した一覧表の形にすることも一つの方法であるとしている。
2 引継ぎは相続人1人で足りる
「大阪家裁後見センターだより」第6回は,管理計算義務は「なす債務」として性質上不可分の債務であるから,相続人が複数ある場合,後見人等は相続人の1人に対して管理計算の報告をすれば足りるとする(民法428条)。
民法428条は不可分債権に関する規定であり,相続人の側から見れば管理計算報告請求権が性質上不可分の債権に当たるという構成である。
同条が準用する民法432条は,債務者は全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができると定めている。
相続財産の引継ぎについても同回は,受任者の金銭その他の物の引渡しの義務(民法869条,644条,646条1項)の性格を有する行為であるとした上で,相続財産は本人の死亡により全相続人の遺産共有の状態となり(民法896条,898条),後見人等が受け取った金銭その他の物の権利移転は既に終了しているため,後見人等が行う「引継ぎ」とは,動産及び権利の徴表たる書類(預貯金通帳,証書,建物の鍵等)を相続人に引き渡すことを意味するとする。
その上で同回は,動産及び徴表書類の引渡しは,後見人等からみれば性質上不可分の債務であり,相続人からみれば保存行為であるため,相続人が複数ある場合も相続人の1人に対して行えば足りることになると説明する。
同回は,実務では,できる限り広く相続人を調査し,判明した相続人の意向等を確認した上,相続人全員又は全員により定められた代表者に対して報告及び引継ぎを行うことが多いと思われるとし,後見センターでもこのような形での円満な処理を試みることには問題がなく,むしろ事実上のトラブルを回避するためには有益であると考えているとする。
その上で同回は,引継ぎ困難事例については,法律上の義務自体は相続人の一人に対してこれを行えば免れるという原則に立ち返った上,事案に応じた適切な処理を図れば足りるものと思われるとしている。
円満な処理を目指すことと,法律上の義務の履行先を確定することとを混同しないことが要点である。
3 相続人の調査
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」134頁は,本人が死亡した後に相続人の1人を発見するために戸籍調査をすることは,成年後見人が自らの義務(引渡義務,管理計算報告義務)を履行するために必要がある場合として戸籍法10条の2第1項1号に基づいて行うことができるとする。
同号は,「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合」を掲げており,同条3項が定める弁護士等の受任事件に関する請求とは別の類型である。
同書134頁は,この場合の費用は原則として成年後見人の負担となるとしている。
同頁はまた,本人の生前のうちに,将来の引継ぎの相手となる推定相続人(兄弟姉妹)の戸籍調査をすることは認められていないとし,法務省民事局第一課平成28年8月4日付け事務連絡を挙げる。
もっとも同頁は,この事務連絡では,例えば医療同意や身上監護に関する親族の意向確認をするための成年後見人による戸籍調査は否定されていないので,それらを理由として調査をしておくことはできるとしている。
「大阪家裁後見センターだより」第6回は,知れたる相続人がないときは,相続人1人を発見する限度で調査を行った上でその相続人に管理計算報告及び引継ぎをすればよく,全相続人調査をするまでの必要はないと考えるとする。
同回の注は,実務上,後見開始申立時に甥姪までは同意書が提出されることが多いため,申立時の「親族関係図」によって相続人はある程度特定されているとも述べている。
生前に手元にある資料から相続人の見当を付けておくことが,死亡後の調査の量を決めることになる。
4 受領を拒絶された場合
「大阪家裁後見センターだより」第6回は,後見人等が本人死亡から2か月以内(伸長可)に管理の計算を行い,知れたる相続人に対し,管理計算報告書並びに相続財産(現金・動産)及びその徴表書類を引き渡す準備ができた旨の通知をして受領を催告し,催告を受けた相続人が指定された日時にこれらを受領しようと思えばできる程度に引渡しの準備をする,という手順を示す(民法493条)。
同回は,知れたる相続人がこれらを受領しなかった場合には,全相続人について受領遅滞の効果が生じ,後見人等は以後,管理計算報告及び引継ぎについて債務不履行の責任を問われることはなくなるが(民法492条),それによって上記債務が消滅するわけではないとする。
引継ぎの債務を消滅させるためには,当該相続人がその後財産を受領するか,後見人等が弁済供託をする必要がある。
同回は,現金については後見人等が債務者として供託すれば債務は消滅する(民法494条1項1号)とする一方,預貯金通帳・証書,登記関係書類等は権利を徴表する書類にすぎないので引継ぎは不要と考えられるとし,動産については,相続人が受領を拒絶している限り引継債務は消滅せず,引継債務について消滅時効が完成した後も,相続人から所有権に基づく引渡請求を受けた場合には後見人等はこれに応じる義務があると考えられるとする。
すなわち,現金には出口があり,書類は割り切ることができるが,動産だけが残る。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」136頁も,預貯金通帳は権利の徴表書類にすぎず,それ自体に価値があるものではないから無価値物として廃棄することも可能であるとし,その他の動産類についても無価値物と判断できれば廃棄が可能であるとする。
5 相続財産管理人と相続財産清算人
民法897条の2第1項は,家庭裁判所が,利害関係人又は検察官の請求によって,いつでも,相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができると定める。
この申立ては,家事事件手続法別表第一の八十九の項(相続財産の保存に関する処分。民法897条の2第1項及び第2項)の審判事件に当たり,同法190条の2第1項により相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
この規定は,民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号。令和3年4月28日公布,令和5年4月1日施行)により新設されたものであり,それ以前は民法918条2項が「家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。」と定めていた。
現在の民法918条は,相続人による管理を定める1項だけの条文になっている。
そのため,改正前に書かれた資料は民法918条2項を引いており,「大阪家裁後見センターだより」第6回及び第7回並びに大阪家庭裁判所の書式の説明も同様で,別表第一の項番号も改正前は九十の項であった。
現在の条文と項番号に読み替えて参照する必要がある。
「大阪家裁後見センターだより」第7回(月刊大阪弁護士会2018年6月号77頁~79頁)は,選任を検討すべき類型として,①相続人間の対立が激しく,誰が引継ぎを受けるかも定まらない場合,②相続人が後見人等の財産管理に不信感を抱いており,引継ぎを受けると後見人等の財産管理を追認することになるとして引継ぎを拒否する場合という,紛争性が極めて高い類型を挙げる。
同回は他方で,相続財産管理人に求められる事務が「相続人全員と交渉し,相続人代表者を決めてその者への引継ぎの同意を取る」だけであれば,管理すべき財産の価値に比べて管理費用が不相当に高額となり,選任までの必要性はないと考えられるとする。
同回の注は,後見センターでは,法律専門職以外の第三者が後見人等である場合に,財産引継ぎの前提としての全相続人調査等を目的として申立てを行うことを想定しているが,弁護士が後見人である場合は自ら戸籍等の資料を取得して相続人調査を行うことができるため,このような目的の申立ては想定されていないとし,「親族間紛争型」及び「相続人調査型」の2類型に分けて呼んでいると説明する。
これに対し,相続人がいないが財産が残存した場合は,民法952条の相続財産清算人の選任申立てである。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」136頁は,この場合,申立人は「相続人のあることが明らかでないこと」を証明しなければならないため,引継ぎをする場合とは異なり,全相続人の戸籍調査が必要となるとする。
同頁は,実務では裁判所が相続財産清算人の報酬に充てるため申立人に対し予納金の納付を求めることがあり,相続財産清算人の報酬は事案により30万円から100万円程度であると述べる。
「大阪家裁後見センターだより」第8回の注も,引き継ぐべき相続人が不存在である場合には相続財産管理人(現在の相続財産清算人)の選任申立てをすることになるが,残余財産が少額の場合には申立てを行う必要がない場合もあるとしている。
相続人が1人でもいるのか1人もいないのかで,調査の範囲も費用の桁も変わる。
第9 監督,報酬及び終了登記
大阪家庭裁判所は,平成30年8月1日から,本人死亡後,相続人等への財産引継ぎまでを監督する運用を採っており,死亡時3点セット,収支報告書及び引継関係書類の提出期限が定められている(「大阪家裁後見センターだより」第8回)。
その内容は大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務で扱っている。
報酬について注意を要するのは,申立費用の負担である。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」128頁は,報酬付与の申立ては後見事務に含まれるとは言えず,申立費用は原則として申立人の負担とされている(家事事件手続法28条1項)ので,後見人の負担となるとする。
報酬額の水準は成年後見人等の報酬額の目安――大阪家裁の基準,令和7年全国実績及び申立手続で扱っている。
本人死亡により後見は終了するため,成年後見登記については成年後見人が終了の登記を申請しなければならない(後見登記等に関する法律8条1項)。
同書133頁は,東京法務局宛てに成年後見人の資格で終了登記申請書を郵送提出すればよく,住民基本台帳ネットワークにより法務局が死亡の事実を確認できるときは除籍謄本等の資料も不要であり,収入印紙等も不要であるとする。
死亡届については,成年後見人は届出義務者ではないが,戸籍法87条2項により届出をする資格がある。
その詳細は死亡届の届出人で扱っている。
第10 保佐人及び補助人
民法876条の5第3項は,保佐人の任務が終了した場合について,民法654条,655条,870条,871条及び873条を準用すると定め,民法876条の10第2項は,補助人の任務が終了した場合について同じ規定を準用する。
いずれにも民法873条の2は含まれていない。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」129頁は,この規定により死後事務を行うことができるのは包括的な権限を有していた成年後見人に限られ,保佐人や補助人には認められないとし,同書132頁は,もともと限られた権限で職務を行う保佐人や補助人にそれ以上の死後事務の権限を認めることはできず,適用も準用もされないとする。
したがって,保佐人や補助人が死後事務を行う必要がある場合は,事務管理等の構成によることになる。
同頁は,保佐人や補助人が凍結されている預貯金口座から払戻しを受ける必要がある場合について,民法897条の2第1項の「相続財産の保存に必要な処分」として預貯金の払戻しを命じる審判を得ることにより預貯金を払い戻すことができると考えられるとする。
第11 令和8年法律第45号による改正
1 民法876条の26の構造
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)により,民法873条の2は削られ,補助の節に民法876条の26が置かれる。
改正後の民法876条の26第1項は,「補助人は、補助開始の審判を受けた者が死亡した場合において、必要があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結をすることができる」と定める。
同条2項は,現行の民法873条の2の柱書に対応する規定であり,「必要があるときは、補助開始の審判を受けた者の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為(当該死亡した時における権限内の行為に限る。)をすることができる」とした上で,1号に相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為,2号に相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済,3号に「前二号に掲げるもののほか、相続財産の保存に必要な行為」を掲げ,ただし書で3号の行為に家庭裁判所の許可を要するとする。
条文の並べ方が変わっている点に注意を要する。
現行法では,火葬又は埋葬に関する契約の締結は3号の中に置かれており,柱書の要件,すなわち相続人の意思に反することが明らかでないこと及び相続人が相続財産を管理することができるに至るまでであることに服する。
改正後は,火葬又は埋葬に関する契約の締結だけが1項に切り出され,2項の柱書の要件も,2項が新たに加えた「当該死亡した時における権限内の行為に限る」という限定も,1項には及ばない条文の形になっている。
代理権の範囲が限られる補助人でも遺体の処置だけは動けるようにする趣旨と読めるが,運用がどうなるかは施行後の実務を見ることになる。
2 施行日前に開始した後見の扱い
同法附則1条本文は,「この法律は、公布の日から起算して二年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定める。
同法は令和8年6月24日に公布されており,2年6月の期間が満了するのは令和10年12月23日である。
本記事の基準日である令和8年9月7日現在,施行期日を定める政令は確認できていない。
より重要なのは経過措置である。
同法附則2条1項は,施行日前に改正前の民法7条の規定により後見開始の審判がされた場合における当該審判を受けた成年被後見人並びにその成年後見人及び成年後見監督人に関する民法の規定の適用については,同附則に特別の定めがある場合を除き,なお従前の例によると定める。
同附則2条2項から7項までが置く特別の定めは,成年後見人及び成年後見監督人の解任,本人の意向の尊重,補助開始の審判の請求及び後見開始の審判の取消しに関するものであり,死後事務に関する特別の定めは置かれていない。
したがって,施行日前に後見開始の審判がされた事件については,施行後も民法873条の2がそのまま適用されることになる。
改正法の施行によって,手元の後見事件の死後事務の根拠が直ちに入れ替わるわけではない。
改正法の全体像と後見業務への影響は令和8年成年後見制度改正で弁護士の後見業務は採算が悪化するかで扱っている。
第12 実務上の確認手順と停止基準
1 死亡の連絡を受けた時点で確認する事項
死亡の連絡を受けた時点で確認すべき事項は,次のとおりである。
①死亡の日時及び死亡診断書(死体検案書)の入手並びに家庭裁判所への連絡
②相続人が1人でも判明しているか,その者と連絡が取れるか,死後事務に反対していないか
③手元の預り現金の額と凍結されていない口座の有無
④弁済期が到来している債務の有無と額
⑤遺体の引取り,火葬及び納骨の要否並びに葬儀を行う必要があるか
⑥居室の残置動産の有無と,賃貸借契約が死亡により終了するか
⑦年金受給口座を凍結する時期
⑧報酬及び後見事務費の精算原資をどこから出すか
このうち②と③は,どの根拠で動くかを決める分岐に直結するため,最初に確定させることになる。
2 根拠を選ぶ順序
本記事では,根拠を選ぶ順序を次のとおり整理する。
第一に,手元の預り現金で足りるのであれば,民法873条の2の1号及び2号,応急処分又は事務管理により処理し,家庭裁判所の許可を要しない。
第二に,凍結された口座から払い戻す必要があるのであれば,債務の内容を特定した裏付け資料を添付して3号許可を申し立てる。
第三に,葬儀を行う必要があるのであれば,火葬及び納骨とセットの小規模なものについては費用の払戻しを含めて3号許可を申し立てることを検討し,それを超えるものは事務管理により行い,民法702条1項の有益費償還請求で清算する。
第四に,親族から依頼された場合であっても,(準)委任の形をとらず,相続人が反対していないことを記録した上で死後事務規定又は事務管理により行う。
第五に,引継ぎは相続人1人に対して行い,受領を拒絶された場合には現金を弁済供託する。
3 高負担の手続へ進まない基準
民法897条の2第1項の相続財産管理人の選任及び民法952条の相続財産清算人の選任は,いずれも管理人又は清算人の報酬という負担を相続財産に生じさせる。
「大阪家裁後見センターだより」第7回は,求められる事務が相続人全員との交渉と代表者の決定だけであれば,管理費用が不相当に高額となり選任の必要性はないとしており,前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」136頁も,相続人の誰も引継ぎを受けない場合で相続財産管理人を選任する必要性も乏しい場合があると述べる。
本記事では,相続人の1人に対する履行の提供と現金の弁済供託で処理を終えられる事案では,相続財産管理人の選任申立てへ進まないことを基本形とする。
相続財産清算人については,全相続人の戸籍調査という負担が加わり,残余財産が少額であれば申立て自体が不要な場合もあるため,残余財産の額と調査の負担を先に見積もることになる。
4 結論を左右し得る不確実な要素
本記事の整理のうち,事案の事情によって結論が変わり得るのは次の四点である。
第一に,後見人報酬及び後見事務費の精算のための払戻しについて3号許可が得られるかどうかは,相続人への請求の有無と相続人の反応に左右される。
第二に,葬儀の範囲について家庭裁判所ごとに扱いが異なり得る。
第三に,本記事が引く家庭裁判所の運用は大阪家庭裁判所のものであり,他の家庭裁判所で同じ扱いがされるとは限らない。
第四に,令和8年法律第45号の施行期日及び施行後の運用は確定していない。
第13 出典・参考資料
1 法令
①民法(明治29年法律第89号)111条,147条,428条,432条,492条,493条,494条,644条,646条,653条,654条,655条,697条,700条,702条,869条,870条,871条,873条,873条の2,874条,876条の5,876条の10,896条,897条の2,898条,918条,952条(e-Gov法令検索)
②家事事件手続法(平成23年法律第52号)28条,190条の2,別表第一の十六の項,別表第一の八十九の項(e-Gov法令検索)
③戸籍法(昭和22年法律第224号)10条の2,87条(e-Gov法令検索)
④後見登記等に関する法律(平成11年法律第152号)8条(e-Gov法令検索)
⑤成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成28年法律第27号)(平成28年4月13日公布,平成28年10月13日施行。e-Gov法令検索)
⑥民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)(令和3年4月28日公布,令和5年4月1日施行。e-Gov法令検索)
⑦民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)(令和8年6月24日公布。改正後の民法876条の26並びに同法附則1条及び2条は,e-Gov法令検索の民法の未施行の改正内容により確認した。)
2 裁判例
①名古屋地方裁判所岡崎支部令和3年1月28日判決(平成30年(ワ)第624号,令和2年(ワ)第282号,預金返還請求事件・預金債権名義変更手続請求事件,裁判所ウェブサイト)
裁判所ウェブサイトの裁判例検索で「死後事務」を検索した際の唯一の該当例であり,特定非営利活動法人の身元保証契約及び死因贈与契約が問題となった事案である。民法873条の2の適用は問題となっていない。
3 家庭裁判所の資料
①大阪家庭裁判所家事第4部後見係「大阪家裁後見センターだより」第3回(回送嘱託,死後事務)月刊大阪弁護士会2017年10月号54頁~55頁
②同第6回(本人死亡後の監督に関する運用の概要)月刊大阪弁護士会2018年4月号82頁~85頁
③同第7回(相続財産管理人の選任)月刊大阪弁護士会2018年6月号77頁~79頁
④同第8回(本人死亡後の後見人等の事務)月刊大阪弁護士会2018年8月号50頁~53頁
4 文献
①大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年)126頁~136頁
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⑤死亡届の届出人(AI作成)――戸籍法87条2項による届出資格を扱っている。
⑥成年後見人等の報酬額の目安――大阪家裁の基準,令和7年全国実績及び申立手続(AIリライト)――報酬額の水準と申立手続を扱っている。
⑦令和8年成年後見制度改正で弁護士の後見業務は採算が悪化するか(AI作成)――令和8年法律第45号の全体像を扱っている。
⑧大阪家裁後見センターだより――本記事が引用した連載の一覧を扱っている。