火葬許可証(AI作成)
本記事は,人の死亡後に火葬を行うために必要となる火葬許可証について,その根拠となる法令と手続の流れ,24時間規制とその例外,死産児の取扱い,身寄りのない方が死亡した場合の処理などを,弁護士が実務で用いることを想定して整理するものである。
火葬許可証は,日々の相続・成年後見・死後事務・葬送をめぐる相談の入口に位置するが,その法的な枠組みが正面から論じられる機会は多くない。本記事は,火葬という行為の許可がどのような要件と手続の下で与えられるのかを条文に即して確認し,紛争が生じ得る場面での確認事項を示す。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,個別の事案に対する法的助言ではない。具体的事件の処理に当たっては,最新の法令及び当該事案の事実関係に基づく個別の検討を要する。
第1 火葬許可証をめぐる法的枠組みの全体像
1 本記事の対象と射程
火葬許可証は,墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号。以下「墓地埋葬法」という。)に基づき市町村長が交付する書面である。同法5条1項は,「埋葬,火葬又は改葬を行おうとする者は,厚生労働省令で定めるところにより,市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の許可を受けなければならない」と定め,同法8条は,市町村長が火葬の許可を与えるときは「火葬許可証を交付しなければならない」と定めている。
本記事が主に扱うのは,個々の死亡について火葬を行うために必要となるこの許可証であり,火葬場や墓地の経営許可(同法10条)とは別の問題である。両者はいずれも墓地埋葬法上の「許可」であるが,名宛人も要件も異なるため,混同しないよう区別して論じる。
2 「埋葬許可証」と「火葬許可証」——用語の混同に注意
墓地埋葬法2条は,「埋葬」を「死体(妊娠四箇月以上の死胎を含む。以下同じ。)を土中に葬ること」,すなわち土葬をいい,「火葬」を「死体を葬るために,これを焼くこと」をいうと定義する。したがって,同法上の「埋葬許可証」は本来土葬のための書面であり,火葬のための書面が「火葬許可証」である。同法8条及び施行規則4条は,両者を別の様式として区別している。
もっとも,日本では火葬が葬送の圧倒的多数を占めるため,実務では納骨の際に用いる書面を通称として「埋葬許可証」と呼ぶことが多い。この通称の実体は,後述のとおり火葬済みの旨が裏書された火葬許可証である。相談者が「埋葬許可証」と述べていても,土葬の許可証を指すのか,火葬後に納骨で用いる書面を指すのかは,文脈により確認する必要がある。
第2 火葬許可証の根拠規定と交付の仕組み
1 許可制の趣旨(墓地埋葬法5条・8条)
墓地埋葬法1条は,同法の目的を,墓地,納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が「国民の宗教的感情に適合し,且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われる」ことに置く。火葬を市町村長の許可に係らしめる5条は,この目的の下で,自由な火葬を禁じ,公衆衛生と国民の宗教的感情の観点から支障なく行われるようにするための規定である。
許可の対象となる行為は,火葬という物理的な行為であり,許可を受けた者に対して火葬許可証という書面が交付される。火葬場は,この許可証の提示がなければ火葬を行うことができない(14条3項)。すなわち,火葬許可証は,適法に火葬を行うための不可欠の要件として制度上位置づけられている。
2 交付権限を持つ市町村長(5条2項)
火葬許可の権限を持つ市町村長は,どこの市町村長でもよいわけではない。墓地埋葬法5条2項は,埋葬及び火葬に係る許可は,「死亡若しくは死産の届出を受理し,死亡の報告若しくは死産の通知を受け,又は船舶の船長から死亡若しくは死産に関する航海日誌の謄本の送付を受けた市町村長」が行うと定める。
戸籍法87条以下の死亡届は,死亡地のほか,届出人の所在地又は死亡者の本籍地でも受け付けられる(戸籍法25条・88条)。したがって,火葬許可証の交付を受けるべき市町村は,死亡届を提出した市町村と一致する。遠方で亡くなった場合にどの市町村で手続をするかは,死亡届の提出先の選択と連動して決まるため,実務では死亡届と火葬許可申請を同一の窓口で同時に行うのが通例である。
3 申請書の記載事項(施行規則1条)
火葬許可の申請書の記載事項は,墓地,埋葬等に関する法律施行規則(昭和23年厚生省令第24号。以下「施行規則」という。)1条が定める。具体的には,死亡者の本籍・住所・氏名,性別,出生年月日,死因,死亡年月日時,死亡の場所,火葬の場所,申請者の住所・氏名及び死亡者との続柄である。
このうち死因の欄は,感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)に規定する感染症に該当するか否かを区別して記載する構造になっている。これは,後述する24時間規制の例外(感染症法30条)と連動するものであり,死因が一定の感染症に当たる場合には,火葬・埋葬の時期に関する特則が適用される。
4 火葬場・墓地・納骨堂における受理義務と火葬後の裏書
墓地埋葬法14条は,管理者の側からの受入れ規制を定める。火葬場の管理者は,火葬許可証を受理した後でなければ火葬を行ってはならず(同条3項),墓地の管理者は許可証を受理した後でなければ埋葬又は焼骨の埋蔵をさせてはならず(同条1項),納骨堂の管理者も許可証を受理した後でなければ焼骨を収蔵してはならない(同条2項)。
火葬が行われた後の処理は施行規則8条が定める。すなわち,火葬場の管理者は,火葬を行ったときは「火葬許可証に火葬を行つた日時を記入し,署名し,印を押し,これを火葬を求めた者に返さなければならない」。この火葬済みの旨が裏書された火葬許可証が遺族に返還され,納骨(焼骨の埋蔵・収蔵)の際に墓地又は納骨堂の管理者へ提出される。
実務で「埋葬許可証」と呼ばれる書面の多くは,この裏書のある火葬許可証であり,1通の書面が,火葬前は火葬許可証として,火葬後は納骨のための書面として機能する。相続や納骨の相談で書面の所在が問題となる場合には,この一連の流れを踏まえて確認するとよい。
第3 24時間規制とその例外
1 24時間規制の趣旨(3条)
墓地埋葬法3条は,「埋葬又は火葬は,他の法令に別段の定があるものを除く外,死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ,これを行つてはならない。但し,妊娠七箇月に満たない死産のときは,この限りでない」と定める。
この規制は,死亡の判定を受けた者について蘇生の可能性がないことを確認するために置かれたものと説明されている。逐条解説は,死亡(医師が死亡診断書又は死体検案書に記載した時刻)から時を移さずに火葬を行うことにより人為による死が生ずることのないよう配慮した規定である旨を述べる。
24時間の起算点は,医師が死亡診断書又は死体検案書に記載した死亡時刻であり,死亡届の受理時刻ではない。この点は,死亡から火葬までの日程を組む際に前提となる。
2 例外1——感染症に汚染された死体(感染症法30条)
墓地埋葬法3条にいう「他の法令に別段の定があるもの」の代表は,感染症法30条である。同条3項は,「一類感染症,二類感染症,三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の病原体に汚染され,又は汚染された疑いがある死体は,二十四時間以内に火葬し,又は埋葬することができる」と定める。すなわち,一定の感染症に係る死体については,24時間の経過を待たずに火葬することが認められる。
もっとも,同項が定めるのは24時間以内に火葬することが「できる」という許容であって,義務ではない。他方,同条2項は,これらの死体は「火葬しなければならない」とし,十分な消毒を行い都道府県知事の許可を受けたときに限り埋葬することができるとする。したがって,対象となる感染症の死体については,火葬が原則とされている点に注意を要する。
この規律の運用は,新型コロナウイルス感染症の流行期に問題となった。同感染症は流行期には感染症法上の位置づけにより30条の対象に含まれ,24時間以内の火葬や遺族の対面制限を伴う取扱いが広く行われた。もっとも,同感染症は令和5年5月8日に感染症法上の位置づけが変更されて5類感染症とされ,30条3項の対象から外れている。厚生労働省及び経済産業省が公表したガイドライン(令和5年4月26日付け第4版)は,遺体からの感染対策の考え方を示しつつ,感染拡大防止上の支障がない場合には通常の葬儀を行うなど,できる限り遺族の意向を尊重した取扱いをすべきものとしている。
3 例外2——妊娠7月未満の死産,船舶内の死亡
墓地埋葬法3条ただし書は,妊娠7月未満の死産を24時間規制の例外とする。これは,妊娠7月未満の死産では胎児の蘇生の可能性がおよそ考えられないことによるものと説明されている。妊娠月数の計算については,逐条解説は1月を28日として算定し,7月未満とは169日未満をいうものと解説している。
また,船員法(昭和22年法律第100号)15条は,船舶の航行中に船内にある者が死亡したときの水葬を認めており,同法施行規則4条は,水葬の要件として原則として死亡後24時間の経過を求めつつ,伝染病による死亡の場合はこの限りでないとしている。船舶内の死亡については,これらの特則が墓地埋葬法3条にいう「別段の定」として機能する。
4 許可証の交付時期と火葬の実施時期は別である
実務上混同されやすいのは,24時間規制が制約するのは火葬という行為であって,火葬許可証の交付そのものではないという点である。墓地埋葬法3条は火葬を行う時期を規制し,5条・8条は許可及び許可証の交付を定めるものであって,両者は別の局面を規律している。
したがって,死亡届が受理されれば火葬許可証は交付され得るのであって,24時間の経過を待つ必要はない。他方,交付された許可証を用いて実際に火葬を行うことができるのは,感染症法30条等の例外に当たらない限り,死亡から24時間を経過した後である。日程の説明を求められた場合には,この区別を踏まえて回答するのが正確である。
第4 死産・死胎の取扱い
1 妊娠週数による3つの分岐
死産児・死胎の取扱いは,妊娠週数によって適用される規律が異なり,しかもその境界が規律ごとに異なる点に注意を要する。整理すると次のとおりである。
| 妊娠の段階 | 火葬許可の要否等 | 根拠 |
|---|---|---|
| 妊娠4月(12週)未満の死胎 | 墓地埋葬法上の「死体」に含まれず,火葬許可の対象外 | 墓地埋葬法2条1項 |
| 妊娠4月以上の死産 | 「死体」に含まれ,死産届を経て火葬許可(死胎火葬許可)が必要 | 墓地埋葬法2条1項,死産の届出に関する規程 |
| 妊娠7月未満の死産 | 24時間規制の適用外(火葬許可の要否とは別の軸) | 墓地埋葬法3条ただし書 |
すなわち,火葬許可の要否を分ける境界は妊娠4月であり,24時間規制の例外を分ける境界は妊娠7月であって,両者は一致しない。妊娠4月未満の死胎については墓地埋葬法上の火葬許可を要しないが,火葬を望む家族への対応や自治体ごとの運用は一様でないため,個別に確認するのが安全である。
2 死産届と死胎火葬許可証(死産の届出に関する規程)
妊娠4月以上の死産については,死産の届出に関する規程(昭和21年厚生省令第42号)が適用される。同規程2条は,死産を「妊娠第四月以後における死児の出産」と定義する。同規程4条は,死産の届出は医師又は助産師の死産証書又は死胎検案書を添えて死産後7日以内にしなければならないとし,同規程7条は,届出は父が行い,やむを得ない事由のため父が届出をすることができないときは母が行うと定める。
この死産届が受理されることにより,市町村長は死胎の火葬許可を行う。死産届と死胎火葬許可の申請は,通常の死亡の場合と同様に一連の手続として行われる。死産をめぐる相談では,届出義務者が父とされている点や,医師・助産師の証書が必要となる点が,通常の死亡届と異なるため確認を要する。
第5 届出義務者・資格者と身寄りのない死亡
1 死亡届の届出義務者・資格者(戸籍法86条・87条)
火葬許可証の交付は死亡届の受理を前提とするため,誰が死亡届をすることができるかは,火葬手続の入口を左右する。戸籍法86条は,死亡の届出を,届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡があったときはその事実を知った日から3か月以内)にしなければならないとし,届書に診断書又は検案書を添付すべきものとする。
戸籍法87条1項は,届出義務者を,第1に同居の親族,第2にその他の同居者,第3に家主・地主又は家屋若しくは土地の管理人とし,その順序にかかわらず届出をすることができるとする。同条2項は,同居の親族以外の親族,後見人,保佐人,補助人,任意後見人及び任意後見受任者も届出をすることができると定める。第2項の者は届出をする資格を有するにとどまり,届出義務を負うものではない点で,第1項の届出義務者と区別される。
2 成年後見人による火葬と家庭裁判所の許可(民法873条の2)
独居の高齢者などで成年後見人が選任されている場合には,本人の死亡後に成年後見人がどこまでの行為をなし得るかが問題となる。民法(明治29年法律第89号)873条の2は,成年被後見人が死亡した場合において,成年後見人が,相続人の意思に反することが明らかなときを除き,相続人が相続財産を管理することができるに至るまで,一定の行為をすることができると定める。
同条は,相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為(1号)及び弁済期が到来した相続財産に属する債務の弁済(2号)とは別に,3号として「その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為」を掲げ,同号の行為をするには「家庭裁判所の許可を得なければならない」とする。したがって,成年後見人が火葬に関する契約を締結して火葬を手配するには,家庭裁判所の許可を要する。
成年後見人は,前記のとおり戸籍法87条2項により死亡届をする資格を有するため,死亡届を提出して火葬許可証の交付を受ける立場にも立ち得る。もっとも,火葬に関する契約の締結には家庭裁判所の許可が必要であることから,死亡届の提出(許可不要)と火葬契約の締結(許可必要)とを区別して手続を進める必要がある。
3 火葬を行う者がない場合(墓地埋葬法9条・行旅死亡人)
火葬を行う者がない場合の処理は,墓地埋葬法9条が定める。同条1項は,「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは,死亡地の市町村長が,これを行わなければならない」とし,同条2項は,その費用について行旅病人及行旅死亡人取扱法(明治32年法律第93号)の規定を準用するとする。
身元不明の死亡者については,行旅病人及行旅死亡人取扱法により,死亡地の市町村が火葬等を行い,官報による公告が行われる。身寄りのない方や引取り手のない方の死亡に関する相談では,まず死亡地の市町村がこの枠組みで対応する立場にあることを踏まえ,費用の負担や遺骨の取扱いを整理することになる。相続人が後に判明した場合の費用の求償や遺骨の引取りは,これらの規定を出発点として検討する。
第6 実務上の諸問題
1 火葬許可の法的性質と市町村長の審査
火葬許可は,墓地埋葬法5条により自由な火葬を禁じた上で,個別に禁止を解除する性質のものである。申請書の記載事項(施行規則1条)が具備され,前提となる死亡届が受理されれば許可証が交付される仕組みであり,市町村長が死因の当否などを実質的に審査して火葬の可否を裁量的に判断する構造にはなっていない。
もっとも,火葬許可証の交付又は不交付それ自体を正面から争った裁判例は,公表されたものの中では見当たらない。墓地埋葬法をめぐる公表裁判例は,墓地・納骨堂・火葬場の経営許可(同法10条)やその取消し(同法19条),管理者の受入れ義務(同法13条)に関するものが中心であり,個々の火葬許可証の交付をめぐる争訟は,手続が定型的であることもあって多くないと考えられる。この分野の運用は,通達や行政実例の蓄積によって形成されてきた面が大きく,個別の解釈問題は,所管する法務局又は市町村の取扱いを確認して対応することになる。
2 再交付と分骨証明
火葬許可証を紛失した場合の再交付や,火葬後の焼骨を複数の場所に分けて納める分骨の場面では,証明書の取扱いが問題となる。分骨については,施行規則5条が,墓地等の管理者及び火葬場の管理者は,焼骨の分骨を埋蔵し又は収蔵を委託しようとする者の請求があったときは,焼骨の埋蔵又は火葬の事実を証する書類を交付しなければならないと定めている。この書類が,実務でいう分骨証明書に当たる。
火葬許可証そのものの再交付の可否や手数料,5年を超える期間が経過した場合の火葬証明書による代替などは,市町村ごとの取扱いによる部分が大きい。相談を受けた場合には,交付を受けた市町村又は火葬を行った火葬場に対し,具体的な再交付の方法を個別に確認するのが確実である。
3 土葬(埋葬)の可否と自治体の規制
火葬は法律上の義務ではなく,墓地埋葬法2条にいう「埋葬」,すなわち土葬も法律上は禁止されていない。ただし,同法4条1項は,埋葬又は焼骨の埋蔵は墓地以外の区域で行ってはならないと定め,土葬を行うには墓地でこれを行う必要がある。加えて,同法10条の許可を受けた墓地であっても,個々の墓地の管理規則や各自治体の条例により土葬が制限されている例が多く,実際に土葬を行える墓地は限られている。
この問題は,宗教上の理由から土葬を要する信徒の埋葬地の確保という形で現実の課題となっている。近時,九州において,イスラム教徒の土葬用墓地の設置をめぐり,自治体の対応が二転三転して計画が停滞した事例が報じられている。土葬を希望する相談を受けた場合には,土葬が可能な墓地が地域的に極めて限られている実情を前提に,墓地の管理者及び自治体の条例・規則を個別に確認する必要がある。
4 遺骨の帰属・祭祀承継との接続(民法897条)
火葬許可証を申請して火葬を行う者は,多くの場合,葬儀を主宰し,遺骨を管理する者と重なる。そのため,相続人間に対立がある事案では,誰が火葬を行い遺骨を保持するかが,その後の紛争の起点となることがある。
関連する規律として,民法897条は,系譜,祭具及び墳墓の所有権は,慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継し,被相続人の指定があるときはその者が承継するとし,慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定めるとする。もっとも,焼骨(遺骨)そのものの帰属については同条に明文がなく,その帰属をめぐって相続人間に争いが生ずる余地がある。火葬をめぐる事実経過は,後の祭祀承継や遺骨の引渡しをめぐる紛争において意味を持ち得るため,火葬許可証の申請者や葬儀の主宰者が誰であったかは,事実関係として確認しておく意味がある。
5 手続のデジタル化の動向
死亡後の各種手続については,政府において死亡・相続に関する手続の負担軽減とデジタル化が進められている。令和6年3月から戸籍証明書等の広域交付制度が開始され,本籍地以外の市区町村でも戸籍謄本等を取得できるようになったほか,死亡届の受理に伴いマイナンバーカードが失効する取扱いなどが整備されている。
もっとも,死亡届及び火葬許可申請の全面的なオンライン化は,本記事の作成時点では全国的な実装には至っていない。制度は変更が見込まれる領域であるため,具体的な手続を案内する際には,該当する市区町村及びデジタル庁等の公表する最新の運用を確認する必要がある。
第7 弁護士のための確認事項
1 依頼者からの聴取事項
火葬又は納骨をめぐる相談を受けた場合には,法的な整理の前提として,事実関係を具体的に聴取する。少なくとも次の事項を確認しておくと,適用される規律の見当がつけやすい。
①死亡の日時・場所及び死亡診断書又は死体検案書の有無,②死亡届を誰が,どの市町村に提出したか(又は提出予定か),③死因が感染症に関わるものか,④死産の場合は妊娠週数,⑤成年後見人その他の法定代理人が関与しているか,⑥火葬許可証(火葬済みの裏書の有無を含む。)の所在,⑦分骨や納骨をめぐる相続人間の意向の対立の有無。
2 想定される紛争と主張・反論
火葬許可証の交付そのものが訴訟で争われる例は多くないが,火葬をめぐる事実は,相続や親族間の紛争の中で問題となることがある。典型的には,誰が葬儀を主宰し火葬を行ったか,遺骨を誰が保持するか,葬儀・火葬に要した費用を誰が負担するか,といった場面である。
これらの争点は,火葬許可証という書面の帰趨だけで決まるものではなく,祭祀承継(民法897条),葬儀費用の負担に関する当事者間の合意や慣習,相続財産の範囲など,別個の法的枠組みに従って判断される。相手方の主張に備えるには,火葬に至る事実経過を時系列で整理した上で,火葬許可証の申請者・葬儀の主宰者・費用の出捐者の各点を切り分けて検討することが有用である。
3 結論を左右し得る不確実な要素
本記事で整理した枠組みのうち,条文から一義的に導かれる部分と,自治体の運用に委ねられている部分とを区別しておく必要がある。火葬許可の要否や24時間規制の適用のように条文で定まる事項に対し,妊娠4月未満の死胎の取扱い,火葬許可証の再交付の方法,土葬が可能な墓地の存否,デジタル化の進捗などは,市町村ごとの取扱いや時期により異なり得る。
したがって,個別事案の見通しを述べる際には,条文で確定できる部分については条文に即して説明し,運用に委ねられている部分については所管する市町村・法務局・火葬場に確認すべき事項として明示するのが適切である。感染症をめぐる取扱いのように,社会状況に応じて運用が変わる領域については,その時点で公表されている行政資料を確認することが欠かせない。
第8 出典・参考資料
1 法令(いずれもe-Gov法令検索により現行条文を確認)
- 墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)1条,2条,3条,4条,5条,8条,9条,10条,14条,21条 e-Gov法令検索
- 墓地,埋葬等に関する法律施行規則(昭和23年厚生省令第24号)1条,4条,5条,8条 e-Gov法令検索
- 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)30条 e-Gov法令検索
- 戸籍法(昭和22年法律第224号)25条,86条,87条,88条 e-Gov法令検索
- 民法(明治29年法律第89号)873条の2,897条 e-Gov法令検索
- 死産の届出に関する規程(昭和21年厚生省令第42号)2条,4条,7条 e-Gov法令検索
- 船員法(昭和22年法律第100号)15条,同法施行規則4条(水葬の要件) e-Gov法令検索
- 行旅病人及行旅死亡人取扱法(明治32年法律第93号) e-Gov法令検索
2 行政資料
- 厚生労働省・経済産業省「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置,搬送,葬儀,火葬等に関するガイドライン(令和5年4月26日第4版)」(24時間以内の火葬の位置づけ及び遺族の意向の尊重に関する記述) https://www.meti.go.jp/covid-19/covid-19001066173.pdf
- 内閣官房・デジタル庁「死亡・相続ワンストップサービスの推進」(死亡・相続手続のデジタル化及び戸籍証明書の広域交付に関する動向) https://cio.go.jp/onestop-sibousouzoku
3 文献
- 墓地埋葬法の逐条解説書(第一法規。3条の24時間規制の趣旨,死亡時刻の起算点,妊娠7月未満を169日未満とする月数計算等の記述を参照)。書名・版等の書誌については確認中であるため,参照箇所の趣旨のみを記載している。
4 報道
- 大分県日出町におけるイスラム教徒の土葬用墓地設置をめぐる自治体の対応に関する報道(土葬が可能な墓地が地域的に限られている実情を示す事例として参照)。
補足 本記事で言及する火葬許可証の交付をめぐる争訟については,これを正面から扱った公表裁判例を確認できなかった。墓地埋葬法をめぐる裁判例は,墓地・納骨堂・火葬場の経営許可及びその取消し,管理者の受入れ義務に関するものが中心である。火葬許可証の交付それ自体を争った裁判例の存否については,なお留保する。