遺言無効確認請求訴訟の審理期間は、遺言書の種類、争点、証拠の量、証人尋問の有無及び併合する請求によって大きく異なる。
本記事で確認した公開資料の範囲では、遺言無効確認請求事件だけを対象とする最新の公的な平均審理期間は確認できなかった。
過去の研究では1年以上2年未満が最も多いとされているものの、これは平成18年に公表された研究に基づく数字であり、現在の事件についての平均又は見通しとしてそのまま用いることはできない。
第1 結論
遺言無効確認請求訴訟が何年かかるかは、一律には答えられない。
もっとも、提訴前の資料収集、当事者及び請求の整理並びに証人候補者の検討を早期に行うことは、無用な長期化を避けるために重要である。
また、第一審判決までの期間だけでなく、控訴の可能性及び判決後に必要となる登記、金銭返還又は遺産分割の手続まで含めて見通しを立てる必要がある。
第2 審理期間に関する過去の研究
遺言無効確認請求訴訟に関するリンク集で引用した石田明彦ほか「遺言無効確認請求事件の研究(下)」判例タイムズ1195号86頁は、当時の事件について、審理期間は1年以上2年未満が最も多く、次いで6か月以上1年未満が多かったとしている。
ただし、この研究は平成18年2月1日号に掲載されたものである。
したがって、この数字は過去の事件分布を示す参考資料にとどまり、現在の個別事件の予測値ではない。
第3 訴訟が長期化する主な要因
1 遺言能力に関する資料の収集
遺言能力が争点となる場合、診療録、介護記録、要介護認定資料、金融機関資料、遺言作成時の録音・録画その他の客観資料を収集して検討する必要がある。
医療機関その他の第三者から資料を取り寄せる場合、その入手に時間を要することがある。
2 証人尋問及び事実関係の対立
公証人、証人、親族、医療・介護関係者その他の関係者について、陳述書の作成又は証人尋問が必要となる場合がある。
遺言作成に至る経緯について当事者の主張が大きく対立すると、争点整理及び証拠調べに時間を要する。
3 当事者が多い事件
相続人、受遺者及び遺言執行者の関係を整理し、誰との間でどの法律関係を確定させるかを検討する必要がある。
当事者が多い事件では、送達、期日調整及び主張整理に時間を要することがある。
4 控訴及び上告受理申立て
第一審判決に対して控訴が提起された場合、紛争の終結までの期間は当然に長くなる。
そのため、第一審の審理期間と判決確定までの期間は区別して考える必要がある。
第4 併合されることがある請求
遺言無効確認請求とともに、所有権確認、登記抹消、金銭返還、不当利得返還その他の請求が併合されることがある。
また、遺言の有効性だけでなく、遺産の範囲又は相続開始後の財産処分が争われることもある。
併合請求がある場合、遺言の有効性の判断だけで事件が終わらないため、審理が長くなることがある。
前記の平成18年公表の研究が挙げた併合事件の例は、①遺言が無効であることを前提とする登記請求、②不当利得返還請求、③遺言が有効である場合に備えた旧法上の遺留分減殺請求である。
現在は、旧法上の遺留分減殺請求に代わって、民法1046条に基づく遺留分侵害額請求を検討することになる。
そのため、遺言の無効を主張する請求と、遺言が有効である場合に備えた予備的な請求又は抗弁を同じ手続で扱うかを、請求期限及び証拠関係も含めて早期に検討する必要がある。
第5 期間を見積もる際の確認事項
①争点が遺言能力、方式違反、偽造その他のいずれであるかを確認する必要がある。
②診療録等の客観資料が既にそろっているかを確認する必要がある。
③証人尋問が見込まれる人数及び証人の所在を確認する必要がある。
④遺言無効確認以外の請求を併合する必要があるかを確認する必要がある。
⑤第一審だけでなく、控訴及び判決後の手続までを見込む必要がある。
第6 関連記事
⑤遺言無効確認請求訴訟の確認の利益―生前提訴・特別縁故者・後の遺言・登記後の扱い
⑥遺言無効確認請求訴訟では誰を被告にするか―相続人・受遺者・遺言執行者と必要的共同訴訟
第7 出典
①石田明彦ほか「遺言無効確認請求事件の研究(下)」判例タイムズ1195号(平成18年2月1日号)86頁(前記既存記事による引用)
②前記関連記事に掲げた裁判例及び参考文献
③民法1046条(e-Gov法令検索)