メインコンテンツへスキップ
       

遺言無効確認請求訴訟における公証人の証言の取扱い及び公証人の補助参加(AI作成)

目次

第1 遺言無効確認請求訴訟における公証人の証言

1 公証人の証言の信用性

遺言無効確認請求訴訟では、公正証書遺言を作成した公証人の証言又は回答書が、口授の有無、作成時の遺言者の状態及び作成手順を認定するための重要な証拠となることがある。

石田明彦ほか「遺言無効確認請求事件の研究(上)」(判例タイムズ1194号44頁、54頁~55頁)は、平成7年以降に大阪地裁民事部が受理し、判決に至った遺言無効確認請求事件等40件を検討している。

その調査対象では、口授等の作成状況を認定するため、公証人又は立会証人の証言が用いられていた。

公証人の証言の信用性を特に検討せずに事実認定をした裁判例が多かった一方、公証人の専門的知識及び通常の作成手順への留意を理由として、立会証人の証言よりも公証人の証言を信用した裁判例も紹介されている。

もっとも、これは上記調査の対象となった裁判例の傾向であり、公証人の証言が常に立会証人の証言より信用されるという意味ではない。

公証人の証言又は回答書の信用性は、作成当時の面接メモその他の記録、供述内容の具体性、当事者との利害関係、反対尋問への応答、立会証人の証言及び医療・介護記録等との整合性を踏まえて、個別に判断される。

中根秀樹『遺言無効紛争事件実務マニュアル』(新日本法規出版、2023年)175頁~176頁、227頁、232頁も、公証人及び立会証人の供述を重要な証拠として挙げる一方、公証人が遺言無効を主張する側に協力的とは限らないこと、事案により書面尋問又は調査嘱託等を検討し得ることを説明している。

2 公証人の証言拒絶権

公証人又は公証人の職にあった者は、職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合、証言を拒むことができる(民事訴訟法197条1項2号)。

最高裁平成16年11月26日第二小法廷決定(平成16年(許)第14号・民集58巻8号2393頁)は、「黙秘すべきもの」とは、一般に知られていない事実のうち、事務を依頼した本人が、これを秘匿することについて、単に主観的利益だけでなく、客観的にみて保護に値する利益を有するものをいうとしている。

また、公証人法4条は、法律に別段の定めがある場合又は嘱託人の同意を得た場合を除き、公証人が取り扱った事件を漏らしてはならないと定める。

東京高裁平成4年6月19日決定(判例タイムズ856号257頁、裁判所HP未掲載)は、公正証書遺言の作成時における遺言者の意思能力が争われ、公証人の証言に代わる適切な証拠方法がない事案において、争点の判断に必要な限度で証言することを拒めないとした。

同決定は、遺言者の死亡によって守秘義務が当然に消滅するとしたものではない。

秘密の内容及び性質、開示によって害される利益、証言の必要性並びに代替証拠の有無を比較衡量した事例である。

3 公証人に具体的な記憶がない場合の証拠評価

東京高裁平成29年6月26日判決(判例秘書掲載、裁判所HP未掲載)は、公証人が遺言者本人を記憶していないことについて、問題のある応答があれば作成を中断するか検討するため記憶に残ると考えられることから、記憶に残っていないことは、作成が問題なく行われたことと整合すると判示した。

さらに、同判決は、看護経過記録、公証人の回答書及び通常の作成手順等を総合し、遺言者が公証人とのやり取りを通じて遺言内容を了承する旨を述べたと推認している。

したがって、同判決は、公証人に具体的な記憶がないという一事だけで、遺言能力又は作成手順の適法性を推認したものではない。

近時の裁判例を整理した藤井伸介ほか『ストーリーと裁判例から知る 遺言無効主張の相談を受けたときの留意点』(日本加除出版、2020年)266頁も、公証人の回答書が信用された事情として、現在の記憶だけでなく、遺言作成時の面接メモに基づくこと、メモが紛争発生前に職務上作成されたと推認できること及び記載が具体的であること等を挙げている。

公証人に具体的な記憶がない場合には、作成当時のメモ、遺言公正証書の原案、公証人への依頼資料、証人の供述、録音・録画の有無及び医療・介護記録等を併せて検討する必要がある。

第2 遺言無効確認請求訴訟における公証人の補助参加

1 補助参加の要件及び手続

訴訟の結果について利害関係を有する第三者は、当事者の一方を補助するため、その訴訟に参加することができる(民事訴訟法42条)。

最高裁平成13年1月30日第一小法廷決定(平成12年(許)第17号・民集55巻1号30頁)は、当該訴訟の判決が第三者の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合に、法律上の利害関係が認められるとしている。

補助参加の申出に当事者が異議を述べた場合、参加人は参加の理由を疎明しなければならず、裁判所が参加の許否を決定する(民事訴訟法44条1項)。

当事者が異議を述べず、参加人とともに又は参加人に対して弁論等をしたときは、異議を述べる権利を失う(同条2項)。

したがって、「公証人が補助参加の申出をすることができるか」と、「当事者が異議を述べた場合にも参加の利益が認められるか」は、区別して考える必要がある。

2 公証人による補助参加の申出を却下した裁判例

東京高裁平成2年1月16日決定(判例タイムズ754号220頁、裁判所HP未掲載)は、公正証書遺言を作成した公証人が遺言をめぐる訴訟で補助参加を申し出た事案について、参加の利益を認めなかった。

同事案では、公証人について、懲戒又は刑事責任、名誉への影響及び後の責任追及等の不利益が主張されたが、東京高裁はこれらを具体的に検討した上で、補助参加の申出を却下した。

他方、高橋宏志『重点講義民事訴訟法(下)〔第2版補訂版〕』(有斐閣、2014年)474頁~478頁は、同決定を紹介した上で、争点ごとの参加や訴訟資料の充実という観点から、参加の利益をより柔軟に認める余地を論じている。

以上からすれば、公証人は補助参加の申出をすることができるものの、当事者が異議を述べた場合にも参加の利益が認められるかは、後の責任追及が具体的に予想されるか、当該訴訟の判断が公証人の法的地位にどのように影響するか等を踏まえた個別判断となる。

公証人が将来、国家賠償法上の求償を受ける可能性が抽象的にあるというだけで、常に補助参加が認められると断定することはできない。

3 国家賠償請求及び国から公証人に対する求償

公証人は、国家公務員法上の公務員ではないが、国の公務をつかさどる実質的意義における公務員であり、国家賠償法上の「公務員」に当たると解されている(法務省「公証制度について」)。

公正証書遺言が有効であれば利益を受けたはずの者等は、公証人の職務上の違法及び故意・過失並びに損害との因果関係があると主張して、国に国家賠償を求めることがあり得る。

もっとも、遺言無効確認請求訴訟で遺言が無効と判断されたことのみから、公証人の職務上の違法又は過失が直ちに導かれるわけではない。

国が賠償責任を負った場合に、公証人に故意又は重大な過失があれば、国は公証人に求償権を有する(国家賠償法1条2項)。

しかし、遺言無効確認請求訴訟の判決は、当事者でない公証人に既判力を及ぼさない。

また、国家賠償請求訴訟で公務員の故意又は重大な過失が認定されても、その判断は判決主文に含まれず、公証人自身も当事者ではないため、後の求償訴訟で当然に既判力を有するものではない。

4 公証人の身元保証金

公証人は、任命の辞令書を受けた日から15日以内に、所属する法務局又は地方法務局に身元保証金を納めなければならない(公証人法19条)。

身元保証金の額は、東京都の区にある区域又は大阪市に役場を設ける公証人が3万円、人口7万人以上の地に役場を設ける公証人が2万円、その他の地に役場を設ける公証人が1万円である(公証人身元保証金令1条)。

日本公証人連合会編『新訂 公証人法』(ぎょうせい、2011年)43頁は、国が公証人に対して取得した求償権について、身元保証金から弁済を受け得ると説明している。

身元保証金は、遺言無効により損害を受けた者が国に対する国家賠償請求を経ずに直接受領する補償基金ではない。

第3 出典

① 民事訴訟法

② 公証人法

③ 国家賠償法

④ 公証人身元保証金令

⑤ 最高裁平成16年11月26日第二小法廷決定(平成16年(許)第14号・民集58巻8号2393頁)

⑥ 最高裁平成13年1月30日第一小法廷決定(平成12年(許)第17号・民集55巻1号30頁)

⑦ 東京高裁平成4年6月19日決定(判例タイムズ856号257頁、裁判所HP未掲載)

⑧ 東京高裁平成2年1月16日決定(判例タイムズ754号220頁、裁判所HP未掲載)

⑨ 石田明彦ほか「遺言無効確認請求事件の研究(上)」判例タイムズ1194号44頁、54頁~55頁

⑩ 高橋宏志『重点講義民事訴訟法(下)〔第2版補訂版〕』(有斐閣、2014年)474頁~478頁

⑪ 中根秀樹『遺言無効紛争事件実務マニュアル』(新日本法規出版、2023年)175頁~176頁、227頁、232頁

⑫ 秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅳ〔第2版〕』(日本評論社、2010年)248頁~251頁

⑬ 藤井伸介ほか『ストーリーと裁判例から知る 遺言無効主張の相談を受けたときの留意点』(日本加除出版、2020年)266頁

⑭ 日本公証人連合会編『新訂 公証人法』(ぎょうせい、2011年)32頁~33頁、43頁

⑮ 宇賀克也・小幡純子編著『条解 国家賠償法』(弘文堂、2019年)169頁~170頁

⑯ 法務省「公証制度について」

関連記事

公正証書遺言及び遺言無効確認請求訴訟に関する関連論点は,公正証書遺言の「口授」とは―要件・判例・無効訴訟の実務の「関連記事その他」も参照してください。