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交通事故による手舟状骨骨折の後遺障害等級認定と立証上の注意点(AI作成)

交通事故で手をついた後に母指側の手関節痛が続く場合,手舟状骨骨折が問題となることがある。舟状骨骨折は初期の単純X線で見えにくいことがあり,診断が遅れた事案では,骨折の有無だけでなく,事故との因果関係も争点になりやすい。

本記事は,手舟状骨骨折後に残る手関節可動域制限又は疼痛について,自賠責保険の後遺障害等級,画像資料,可動域測定及び異議申立ての要点を説明する。足の舟状骨骨折は対象としない。

第1 認定の基本構造

1 骨折名だけで等級は決まらない

手舟状骨骨折それ自体に固有の後遺障害等級が設けられているわけではない。症状固定時に残った手関節の可動域制限は関節機能障害,疼痛等は局部の神経症状として,それぞれの認定基準に当てはめる。

舟状骨は手関節を構成する手根骨であり,上肢の長管骨ではない。このため,舟状骨の偽関節又は変形癒合があるという理由だけで,長管骨の変形障害又は偽関節の等級へ直接当てはめることはできない。

2 中心となる四つの等級

自賠責保険で中心となる等級は次のとおりである。手関節の可動域制限による生活動作上の支障については,後遺障害12級相当の手関節可動域制限に伴う弊害及び代償動作の包括的解説で別に説明している。

残存障害自賠責の等級認定の中心
手関節の著しい機能障害10級10号原則として屈曲と伸展の合計可動域が健側の2分の1以下
手関節の機能障害12級6号原則として屈曲と伸展の合計可動域が健側の4分の3以下
頑固な局部神経症状12級13号疼痛等を説明する他覚的所見がある場合
局部の神経症状14級9号症状の残存を医学的に説明できる場合

3 骨癒合と等級は一対一に対応しない

画像上の骨癒合は,骨折部に連続性が得られたことを示す重要な所見である。しかし,骨癒合後にも関節症性変化,手根配列の異常,関節拘縮,軟骨又は軟部組織の障害,固定材料周囲の問題等が残り得るため,骨癒合だけを理由に可動域制限又は疼痛を否定することはできない。

反対に,偽関節が画像に写っているだけで12級になるわけでもない。偽関節等の器質的所見と,症状固定時の圧痛部位,可動域制限,運動時痛,握力低下及び仕事・生活上の支障が解剖学的かつ時間的に対応しているかが問題となる。

第2 舟状骨骨折の医学的特徴

1 初期の単純X線で見えにくいことがある

舟状骨は母指側の手根骨であり,手関節を背屈して手をつく外傷で骨折しやすい。骨の向きのため通常のX線撮影では骨折線が見えにくく,初期には捻挫として扱われることがあるほか,血行上の特徴から近位側の骨片では遷延癒合,偽関節又は骨壊死が問題になり得る。

したがって,事故直後のX線が陰性であっても,受傷機序,母指側の腫脹,解剖学的嗅ぎ煙草入れ部又は舟状骨結節部の圧痛,軸圧痛等がそろう場合には,舟状骨骨折を直ちに除外できない。急性期の診療録に圧痛部位と診察所見が具体的に記載されていることは,後日の画像所見と事故とを結ぶ重要な資料となる。

2 X線,MRI及びCTの役割を分ける

急性期には舟状骨を描出する複数方向のX線撮影を行い,臨床的に骨折が疑われるのにX線が陰性の場合には,固定を行った上でMRI又はCTを検討するのが現在の標準的な考え方である。MRIは潜在性骨折や骨髄内変化の把握に有用であり,CTは骨折の転位,骨癒合,偽関節の形態及び術後状態の評価に適する。

もっとも,MRIの信号変化には骨折以外の変化が含まれ得るため,「MRIで信号変化があった」という結論だけでは足りない。骨折線の位置と形,複数断面での連続性,周囲の浮腫,臨床所見,CT所見及び時間経過を統合して判断する必要がある。

3 症状固定前に改善可能性を確認する

偽関節手術,骨移植,抜釘又は追加のリハビリテーションにより医学的改善が合理的に期待できる段階では,症状固定の時期が問題となる。特に,固定材料の干渉,長期固定による拘縮,骨性の可動制限及び疼痛による防御性の制限は,原因と対応が異なる。

他方,治療後の画像所見が安定し,相当期間のリハビリテーションを行っても可動域又は疼痛の改善が止まっている場合には,症状固定の判断を検討することになる。等級申請の時期は,単なる治療期間ではなく,今後の治療でどの症状がどの程度改善する見込みかを主治医と確認して決めるべきである。

第3 手関節機能障害の評価

1 屈曲と伸展を合計して健側と比較する

手関節の主要運動は屈曲と伸展であり,原則として両者の角度を合計し,患側の合計値を健側の合計値と比較する。一方向の角度だけを見て4分の3以下かを判断するものではない。

例えば,健側が屈曲80度と伸展70度で合計150度,患側が屈曲55度と伸展50度で合計105度であれば,患側は健側の70%であり,4分の3以下となる。もっとも,計算上の比率を満たすだけでなく,舟状骨骨折後の器質的又は機能的変化が制限原因であることを示す必要がある。

2 10級10号と12級6号

一上肢の三大関節の一つである手関節について,主要運動の可動域が原則として健側の2分の1以下に制限されれば,自賠責10級10号の「機能に著しい障害を残すもの」が問題となる。主要運動が健側の4分の3以下であれば,自賠責12級6号の「機能に障害を残すもの」が問題となる。

健側の手関節にも事故前から障害がある場合等には,単純な左右比較が適切でないことがある。その場合は公表された参考可動域角度との比較を検討するが,既存障害の内容と事故による新たな制限を区別しなければならない。

3 参考運動による評価

手関節の参考運動は橈屈と尺屈である。主要運動の合計値が2分の1又は4分の3の基準をわずかに上回る場合でも,参考運動がそれぞれ2分の1又は4分の3以下に制限されていれば,著しい機能障害又は機能障害として評価される余地がある。

公表基準上,「わずかに」は原則5度である。手関節の屈曲・伸展について10度とする例外は,2分の1基準の著しい機能障害を判断する場合であり,12級6号の4分の3基準では原則どおり5度である。

4 他動値を原則としつつ原因を明らかにする

関節可動域は原則として他動運動による測定値を用いる。ただし,末梢神経損傷による麻痺又は関節を動かすと耐え難い疼痛が生じる場合等,他動値の採用が適切でないと医学的に判断されるときは,自動運動による測定値を参考にする。

後遺障害診断書では,患側と健側の屈曲・伸展・橈屈・尺屈について,他動値と自動値の別を明示することが重要である。測定日,基本肢位,疼痛の有無及び制限原因が不明な数値や,時期により大きく変動する数値は,画像及び診療経過との整合性を検討される。

第4 疼痛による神経症状の評価

1 12級13号と14級9号

自賠責の等級表では,局部に頑固な神経症状を残すものが12級13号,局部に神経症状を残すものが14級9号である。労災の公表基準では同じ局部神経症状の12級が12級12号であるため,号数を混同してはならない。

労災の公表基準は,受傷部位の疼痛について,通常の労務はできるが時に強度の疼痛のためある程度差し支えるものを12級,受傷部位にほとんど常時疼痛を残すものを14級と説明している。実際の自賠責認定では,症状の強さだけでなく,画像等による他覚的所見の有無及び症状を医学的に説明できるかが重要となる。

2 疼痛と画像所見を対応させる

舟状骨骨折後の疼痛を説明し得る所見には,骨折痕,偽関節,骨硬化,嚢胞,骨壊死,変形癒合,関節症性変化,手根配列の異常及び固定材料の位置等がある。しかし,画像所見があるだけでは足りず,その部位と圧痛,運動時痛,誘発動作及び診療経過が一致するかを確認する必要がある。

疼痛の記録は,「痛い」という表現だけでなく,部位,頻度,安静時と動作時の違い,持続時間,鎮痛薬,仕事の中断,重量物把持,ひねり動作及び家事への支障を同じ尺度で経時的に残すとよい。握力は等級の直接基準ではないが,左右を同じ姿勢と条件で複数回測定した値は,機能低下の補助資料になり得る。

3 機能障害に通常伴う痛みは別に併合しない

一つの身体障害を複数の観点から評価する場合,又は一つの身体障害に他の障害が通常派生する関係にある場合には,公表基準上,上位の等級で評価する。したがって,12級6号の手関節機能障害の原因又は通常の派生症状である疼痛を,さらに12級13号又は14級9号として別に併合するものではない。

もっとも,骨移植の採骨部に別個の神経損傷が残った場合等,部位,原因及び障害系列が独立するときは別の検討を要する。単に診断名が二つあるかではなく,障害の原因と機能的影響が同一かを確認する必要がある。

第5 事故との因果関係の立証

1 診断の遅れだけで事故との関係は否定されない

舟状骨骨折は初期の単純X線で発見されにくいため,数日又は数週間後にMRI若しくはCTで判明する経過は医学的に起こり得る。この点では,初回X線陰性と後日の骨折診断は両立する。

ただし,受診又は検査までの空白が長いほど,事故後の症状の連続性,手の使用状況,再受傷の有無及び画像上の新鮮性が厳しく検討される。診断が遅れたという事実そのものより,空白期間を客観資料で説明できるかが重要である。

2 新鮮骨折か陳旧性骨折か

骨片辺縁の硬化,嚢胞性変化,骨折部の形態又は事故直後の腫脹の乏しさ等から,事故前から存在した陳旧性骨折ではないかが争われることがある。この争点では,事故当日の画像だけを単独で読むのではなく,事故前後の資料を時系列に並べる必要がある。

具体的には,事故機序,事故直後の画像,初診時の圧痛部位,事故前の同部位の症状・通院・生活制限の有無,事故後の診療と症状の連続性,後日のMRI・CT,手術記録及び病理所見等を対置する。どの所見が新鮮性又は陳旧性を示すのかを,画像を示して主治医又は画像診断医へ具体的に質問する方法が有効である。

3 証拠を一つの連鎖にする

等級認定に必要なのは,骨折,痛み及び可動域という三つの事実を別々に並べることではない。事故時の手のつき方から,急性期の診察所見,画像診断,固定又は手術,骨癒合過程,症状固定時の器質的変化,可動域測定及び仕事・生活上の支障までを,一つの因果経過として示す必要がある。

画像は医療機関名,撮影日及び画像番号を整理し,診断書の所見と対応させる。画像所見と可動域制限の原因が結びつかない場合には,拘縮,疼痛,軟部組織障害,固定材料の干渉等のどれを主治医が想定しているかを確認する。

第6 被害者請求と異議申立ての実務

1 最初に集める資料

まず,交通事故証明書,事故状況資料,初診から症状固定までの診断書及び診療報酬明細書,後遺障害診断書,診療録,X線・MRI・CTの画像,画像診断報告書並びに手術記録を収集する。画像は報告書だけでなく,可能であれば実画像も確保する。

その上で,①事故直後の舟状骨部の所見,②骨折が最初に確認された画像と撮影日,③転位・偽関節・骨癒合・関節症性変化,④症状固定時の残存所見,⑤可動域値の計算,⑥疼痛との部位的一致を一覧化する。この段階で資料の欠落又は矛盾を発見できれば,申請前に医療機関へ事実確認を求められる。

2 後遺障害診断書を点検する

後遺障害診断書では,傷病名,症状固定日,自覚症状,画像所見,手関節の患側・健側可動域,今後の見通し及び増悪・緩解の見込みを点検する。可動域は屈曲と伸展の個別値だけでなく合計値と比率を再計算し,橈屈・尺屈による参考運動の評価も確認する。

診断書の記載を増やすこと自体が目的ではない。診療録及び画像に存在する事実が診断書へ正確に反映され,症状固定時の機能制限又は疼痛を医学的に説明できる構造になっているかが重要である。

3 異議申立ては不認定理由に対応させる

異議申立てでは,当初申請と同じ資料を再提出するだけではなく,認定結果の理由を分解する。事故との因果関係,骨折の新鮮性,可動域の基準未達,測定値の信用性,器質的所見の不足,症状固定時期又は症状との不一致のうち,どこが否定されたのかを特定する。

追加資料は争点に応じて選ぶ。低負担の対応として既存画像の時系列表,可動域の再計算及び診療録の該当箇所を整理し,なお医学的評価が不足するときは,主治医への照会,放射線科又は手外科医による画像所見書等を検討する。専門家意見は,判断してほしい医学的質問を絞り,既存資料だけでは埋まらない争点がある場合に用いるべきである。

第7 本記事の利用上の注意

1 等級と損害賠償額は別に検討する

自賠責の等級認定は重要であるが,裁判又は示談における労働能力喪失率及び喪失期間が,等級だけから自動的に決まるわけではない。利き手,職種,具体的作業,疼痛の頻度,代償動作,配置転換,収入への影響及び将来の症状経過を個別に検討する必要がある。

2 一般的情報であること

本記事は公表資料に基づく一般的な説明であり,個別事案について等級認定又は賠償結果を保証するものではない。診断及び治療は整形外科又は手外科の医師へ相談し,申請又は異議申立ては,事故日,治療経過,画像及び既存障害を確認した上で判断する必要がある。

第8 出典・参考資料

1 法令・行政資料

自動車損害賠償保障法施行令・別表第2(e-Gov法令検索)

国土交通省「限度額と補償内容」

厚生労働省「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号)

厚生労働省「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(平成15年8月8日基発第0808002号)

厚生労働省「障害等級認定基準の一部改正について」(平成16年6月4日基発第0604002号)

2 医学資料

日本整形外科学会「舟状骨骨折」

日本手外科学会「手外科シリーズ9 舟状骨骨折」2頁

British Society for Surgery of the Hand, Scaphoid fracture standards, 2頁

④ Dietrich et al., Interdisciplinary consensus statements on imaging of scaphoid fractures, European Radiology, 令和8年6月11日オンライン公表,DOI 10.1007/s00330-026-12629-x

⑤ Bulstra et al., Routine MRI Among Patients With a Suspected Scaphoid Fracture Risks Overdiagnosis, Clinical Orthopaedics and Related Research 481巻12号2309頁~2315頁,2023年,DOI 10.1097/CORR.0000000000002851

3 書籍

① 土屋弘行・紺野愼一・田中康仁・田中栄・松田秀一編集,『今日の整形外科治療指針(第7版)』(医学書院,2016年)冊子478頁~479頁(PDF504頁~505頁)

② 中村利孝・松野丈夫監修,井樋栄二・吉川秀樹・津村弘編集,『標準整形外科学(第13版)』(医学書院,2017年)冊子483頁及び489頁(PDF498頁及び504頁)