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交通事故による肩甲骨骨折の後遺障害等級認定――変形,可動域制限,神経症状及び立証資料(AI作成)

第1 肩甲骨骨折の等級は傷病名だけでは決まらない

1 本記事の対象

交通事故で肩甲骨を骨折した場合,後遺障害等級は「肩甲骨骨折」という傷病名だけでは決まらない。骨折部位,転位・変形癒合・偽関節の有無,肩関節の可動域,疼痛・筋力低下・知覚障害の原因,事故前の状態及び治療経過を分けて検討する必要がある。

自賠責で主に問題となるのは,肩甲骨の変形障害である12級5号,肩関節機能障害である8級6号・10級10号・12級6号,疼痛等の神経症状である12級13号・14級9号である。これらは同じ資料で自動的に認定されるものではなく,障害ごとに要件と証拠が異なる。

損害保険料率算出機構の公表資料は,後遺障害の等級を原則として労災保険の障害認定基準に準じて認定すると説明している。以下では,自賠責の等級表と厚生労働省の認定基準を区別しながら用いる。

本記事は,公開資料に基づく一般的な情報を整理するものであり,個別事案の等級,症状固定時期又は医学的診断を示すものではない。

2 肩関節可動域の一般基準との役割分担

肩関節の主要運動,参考可動域,原則として他動値を用いること,代償動作を除く測定方法及び裁判例の詳しい整理は,肩関節の可動域制限と後遺障害12級6号――認定基準,測定方法,代償動作及び裁判例(AI作成)を参照されたい。

本記事では,その一般論を繰り返さず,肩甲骨のどの部位が損傷したか,骨の変形が外見上分かるか,肩甲帯の運動・腱板・末梢神経にどのような影響が残ったか,それをどの資料で立証するかに重点を置く。

第2 肩甲骨骨折で検討する後遺障害

1 肩甲骨の変形障害12級5号

自動車損害賠償保障法施行令別表第2は,鎖骨,胸骨,肋骨,肩甲骨又は骨盤骨に著しい変形を残す障害を12級5号としている。

もっとも,厚生労働省の障害等級認定基準では,「著しい変形」は裸体となったときに変形が明らかに分かる程度であり,エックス線写真によって初めて発見できる程度の変形は該当しないとされている。したがって,CTで転位又は変形癒合が確認できることと,12級5号に該当することは別問題である。

変形障害を検討するときは,画像だけでなく,正面・背面の左右対称写真,肩の下垂,肩甲棘又は下角の突出,肩甲骨の輪郭差及び診察所見を残す必要がある。写真は撮影姿勢,距離,照明及び上肢の位置をそろえなければ比較資料としての価値が下がる。

なお,同基準は,鎖骨と肩甲骨の双方など,二つ以上の「その他の体幹骨」に裸体で明らかな変形を残す場合について,併合の方法を用いて準用11級とする例を示している。

2 肩関節機能障害8級6号・10級10号・12級6号

肩甲骨は上腕骨と関節窩で肩甲上腕関節をつくり,鎖骨とともに肩甲帯を構成する。骨折後の関節面不整,偽関節,変形癒合,肩峰下スペースの狭小化,疼痛性拘縮,腱板損傷又は神経麻痺により,肩関節の可動域が制限されることがある。

自賠責では,一上肢の三大関節中の一関節について,機能を廃したものが8級6号,機能に著しい障害を残すものが10級10号,機能に障害を残すものが12級6号である。労災の認定基準では同じ「著しい機能障害」が10級9号であるため,制度間で号数を取り違えてはならない。

認定実務では,主要運動である屈曲及び外転・内転の他動可動域を原則として健側と比較する。弛緩性麻痺又は強い疼痛のため他動運動を適切に測定できないことが医学的に明らかな場合には,自動値による例外的な評価が問題となる。

肩甲骨骨折では,肩甲上腕関節だけでなく肩甲帯の動きが測定値に含まれる。体幹側屈,肩の挙上,胸郭の回旋等の代償動作を除外し,測定肢位,疼痛,終末感,他動・自動の別及び左右差を記録することが重要である。日本リハビリテーション医学会の令和4年改訂測定法は,肩関節の参考可動域を屈曲180度,伸展50度,外転180度,内転0度,外旋60度,内旋80度とし,原則として5度刻みで表示する。

3 疼痛・しびれ・筋力低下の神経症状

骨癒合後も局部の疼痛,しびれ又は筋力低下が残る場合には,12級13号又は14級9号が問題となる。条文上の等級名は,12級13号が「局部に頑固な神経症状を残すもの」,14級9号が「局部に神経症状を残すもの」である。

実務上は,骨折部の変形,関節面不整,偽関節,筋萎縮,知覚・反射所見,MRI又は超音波による腱板所見,筋電図・神経伝導検査等と,症状の部位及び経過が対応するかが重要になる。画像上の骨癒合が良好であることだけでは,軟部組織損傷又は末梢神経障害を否定できない。

もっとも,筋電図等は負担のある検査であり,全例に必要なわけではない。筋萎縮,特定筋群の筋力低下,知覚障害,翼状肩甲又は肩甲骨周囲の限局した圧痛等から神経障害が疑われ,検査結果が診断又は等級判断を変える可能性がある場合に検討する。

4 複数の障害が残る場合

肩甲骨骨折後に変形,可動域制限及び疼痛が併存しても,常に各等級が単純に加算されるわけではない。同一の原因又は同一系列の症状が重複して評価されないか,各障害が別個の機能を害しているかを検討する必要がある。

厚生労働省の基準は,鎖骨の変形障害と肩関節の機能障害を別系列として併合する例を明示している。他方,肩甲骨の変形障害と肩関節機能障害の組合せを同じ文言で明示した例までは確認できないため,肩甲骨について当然に同じ扱いになると断定せず,障害の部位,原因及び系列を個別に示すべきである。

第3 骨折部位と残存障害の対応

1 体部骨折

体部骨折では保存療法が選択されることが多く,骨癒合後の機能が良好な例も多い。しかし,多発外傷,肋骨骨折又は胸部外傷を伴う例,転位が大きい例,変形癒合又は肩甲胸郭運動の不整が残る例では,疼痛,疲労感,可動域制限又は外見上の左右差が問題となり得る。

したがって,「体部骨折は一般に予後良好」という集団レベルの説明だけで個別の後遺障害を否定することはできない。事故直後のCT,骨片の位置,治癒後の形態,肩甲骨の動き及び職業動作を具体的に比較する必要がある。

2 頸部骨折とfloating shoulder

肩甲骨頸部骨折では,関節窩を支える部分の配列,肩甲骨と鎖骨で構成される上肩甲懸垂複合体の安定性及び鎖骨骨折等の合併が問題となる。肩甲骨頸部骨折と鎖骨骨折等が組み合わさった不安定損傷は,floating shoulderと呼ばれることがある。

この類型では,単なる骨折線の有無ではなく,関節窩の傾き,骨片転位,肩甲帯の下垂又は回旋,偽関節及び術後の配列を評価する。近年の系統的レビューでも,手術療法が保存療法を全体として明確に上回るとの結論には至っておらず,研究間の異質性が大きい。治療法だけから後遺障害の有無を推測せず,個別の最終状態を確認すべきである。

3 関節窩骨折

関節窩骨折は肩甲上腕関節の関節面に及ぶため,段差,欠損,骨片転位,関節不安定性,二次性関節症及び拘縮が重要である。単純エックス線で分かりにくい骨片又は関節面の形態は,薄切CT及び三次元再構成が有用なことがある。

症状固定時には,骨癒合の有無だけでなく,関節面の整復状態,上腕骨頭との位置関係,可動域制限の方向,疼痛の誘発動作及び腱板所見を対応させる必要がある。

4 肩峰・烏口突起・肩甲棘・下角骨折

肩峰骨折では肩峰下スペースと腱板の滑走,烏口突起骨折では靱帯・腱の付着部と肩甲帯の安定性,肩甲棘骨折では肩甲骨後面の筋付着部と局所痛,下角骨折では周囲筋の牽引と翼状肩甲様の変形が問題となり得る。

小さな骨片であっても,付着する筋・腱・靱帯又は近接する神経との関係により影響は異なる。骨折部位の名称だけでなく,転位方向,偽関節,圧痛点,特定動作での疼痛及び肩甲骨運動を記録する必要がある。

5 腱板・腕神経叢・肩甲上神経等の合併損傷

高エネルギー外傷による肩甲骨骨折では,腱板,腕神経叢,腋窩神経,肩甲上神経又は長胸神経等の損傷が併存することがある。肩甲上神経障害では肩甲骨後面の疼痛,棘上筋・棘下筋の筋力低下又は萎縮,長胸神経障害では翼状肩甲が手掛かりになる。

交通事故後の肩甲骨骨折に続く肩甲上神経障害が,受傷から長期間経過した後に筋電図で確認された症例報告もある。ただし,単一症例を一般化することはできない。症状の初発時期,診察所見,画像及び電気生理学的検査が整合するかを個別に検討する必要がある。

第4 等級認定のために集める資料

1 事故直後の資料

事故直後には,救急搬送記録,初診カルテ,事故態様,胸部・肋骨・鎖骨等の合併損傷,単純エックス線及びCTの原画像を確保する。画像は報告書だけでなく,可能であればDICOM形式のデータを取得し,骨折部位,転位,関節面への波及及び周囲組織との位置関係を再評価できるようにする。

多発外傷では,生命維持又は他部位の治療が優先され,肩の訴え又はリハビリ開始が遅れることがある。初期記録に肩の詳細な訴えが少ないことだけを理由に因果関係を否定せず,当時の全身状態と治療優先順位を確認する必要がある。

2 治療経過の資料

治療中は,骨折型,転位量,関節面の段差,手術内容,固定期間,骨癒合・偽関節・変形癒合の推移,リハビリ開始時期,中断理由,実施頻度,疼痛及び可動域の推移を時系列で整理する。

可動域値は単発の最大値だけを抜き出さず,測定者,他動・自動の別,測定肢位,疼痛又は代償動作の有無とともに並べる。測定条件が異なる数値をそのまま比較すると,改善又は悪化を誤って評価するおそれがある。

3 症状固定時の資料

症状固定時には,次の資料を障害の経路に応じてそろえる。

  • ① 変形障害について,裸体での左右差が分かる正面・背面写真,診察所見及び治癒後画像。
  • ② 機能障害について,左右の他動・自動可動域,疼痛,終末感,代償動作及び測定条件。
  • ③ 腱板損傷について,徒手検査,MRI又は超音波検査及び筋力所見。
  • ④ 神経障害について,筋萎縮,徒手筋力,反射,知覚分布,翼状肩甲,必要に応じた筋電図・神経伝導検査。
  • ⑤ 日常・職業上の支障について,具体的な動作,頻度,重量,持続時間及び代替方法。

後遺障害診断書の傷病名欄と数値欄だけでは,障害の原因を十分に示せないことがある。診療録,画像,検査報告書及びリハビリ記録から,事故直後から症状固定までの連続性を示すことが重要である。

4 資料取得の順序と高負担検査の停止基準

最初に,既存のカルテ,画像,画像診断報告書,リハビリ記録及び事故資料を収集し,骨折部位と主張する障害が解剖学的に対応するかを確認する。その上で,欠けている争点に限って診察所見の補充又は追加検査を検討するのが合理的である。

追加検査は,結果が診断,等級又は反論の結論を変え得る場合に限るべきである。既存資料で結論が十分に説明できる場合,医学的適応が乏しい場合又は結果にかかわらず判断が変わらない場合には,費用,身体負担及び紛争の遅延を考慮して深追いしないことも必要である。

第5 認定を分ける対立軸

1 骨癒合良好と機能障害は同じではない

保険者側から「骨癒合は良好である」と指摘されても,それだけで可動域制限又は疼痛の原因が消えるわけではない。関節面不整,肩甲帯の配列,腱板損傷,拘縮又は末梢神経障害が残っていないかを別に検討する。

反対に,画像上の変形が大きくても,症状の部位又は機能障害と解剖学的に対応しなければ,その画像だけで等級は決まらない。画像所見から症状に至る機序を説明する必要がある。

2 可動域の単発値と経時的整合性

症状固定時の可動域値は重要であるが,単発の数値だけでは測定誤差,疼痛の変動又は代償動作を評価できない。受傷後からの推移,他の医療機関の測定値,リハビリ場面の動作及び診察所見との整合性が争点になる。

可動域が途中で大きく悪化又は改善した場合には,拘縮,手術,固定,疼痛増悪,測定方法の変更等の理由を記録から説明する。理由の説明がない大幅な変動は,数値の信用性を下げることがある。

3 リハビリ不足の主張

リハビリ回数が少ないという形式的な事情だけで,事故との因果関係又は後遺障害を否定することは適切でない。骨折の安定性,医師による運動制限,疼痛,多発外傷,通院困難及び自主訓練の内容を確認する必要がある。

他方,医学的制限がなく,長期間にわたり合理的な説明なく治療又は訓練が中断されている場合には,事故による不可避の障害か,廃用又は別原因が寄与したかが問題となる。中断の理由を当時の記録で示すことが重要である。

4 既往変性・腱板損傷・神経障害

中高年では腱板変性又は無症候性断裂が事故前から存在することがある。事故後画像だけで新旧を断定せず,事故前の症状,既往歴,左右差,外傷直後の所見,陳旧性変化及び事故後の急激な機能低下を総合する。

神経障害についても,症状の分布が神経解剖に合うか,筋力低下と筋萎縮が対応するか,検査時期が適切かを確認する。陰性検査一つで直ちに否定するのではなく,検査の対象神経,時期及び限界を確認する一方,非解剖学的又は著しく変動する訴えは慎重に評価する。

第6 原本確認できた認定事例

1 紛争処理事例H25-31

右肩甲骨関節窩骨折が明瞭で,腱板所見及び上腕骨頭上方化を認めた一方,骨折部の明らかな変形又は関節面不整はなく,可動域が経時的に悪化していた事例である。疼痛による拘縮を否定できず,既往歴及び十分でないリハビリの影響も検討された上で,肩関節の著しい機能障害として10級10号が認定された。

出典は,榎木貴之・小杉晴洋『自賠責・紛争処理事例と判例から読み解く後遺障害等級認定の判断-傾向を踏まえた交通事故事件処理-』(新日本法規,令和8年)403頁の事例H25-31であり,掲載紙面を確認した。これは裁判例ではなく,自賠責保険・共済紛争処理機構の個別事例である。

2 紛争処理事例H20-46

エックス線・CTで重い肩甲骨骨折を認め,烏口突起・肩峰の転位,肩甲骨偽関節,腱板損傷又は腋窩神経麻痺の可能性が問題となった事例である。他動屈曲70度,自動屈曲20度であり,弛緩性麻痺又は疼痛のため他動値による評価が適切でないとして自動値が用いられ,肩関節の用廃として8級6号が認定された。

出典は,同書411頁の事例H20-46であり,掲載紙面を確認した。この事例も裁判例ではない。

3 事例から導ける範囲

二つの事例は,骨折名又は一つの可動域値だけでなく,画像,腱板又は神経の所見,疼痛,測定方法及び治療経過を総合している点で参考になる。

もっとも,個別の認定事例には固有の事実関係がある。関節窩骨折なら10級,偽関節なら8級になるという先例ではなく,自己の事案で同じ要件と医学的所見を立証できるかを検討するための資料として用いるべきである。

第7 申請・異議申立て・損害賠償の実務

1 初回申請では障害ごとに証拠を対応させる

初回申請では,変形,可動域制限,疼痛・神経障害のうち,現実に残る障害を選別し,各要件に対応する資料を添付する。診断書に多くの傷病名を列挙するよりも,画像,診察所見及び機能障害のつながりを明確にすることが重要である。

変形障害を主張するなら裸体での外見所見,可動域制限を主張するなら適切な測定,神経障害を主張するなら解剖学的に対応する所見を中心にする。障害と無関係な大量の資料は,重要な争点を埋没させることがある。

2 非該当又は低い等級となった場合

異議申立てでは,結論だけを争うのではなく,理由書及び既提出資料から判断の分岐点を特定する。裸体で明らかな変形が否定されたのか,可動域値又は測定方法が採用されなかったのか,症状の医学的裏付け又は事故との連続性が不足したのかによって,必要な補充資料は異なる。

既提出資料の読み直しで足りる場合は,まず該当頁と画像を特定して説明する。追加検査又は意見書は,その不足を実質的に埋める場合に限定する。

3 労働能力喪失の立証

後遺障害等級が認定されても,逸失利益の労働能力喪失率及び期間は,年齢,職種,作業内容,利き手,代替動作,配置転換,減収及び将来の症状経過により争われることがある。

肩甲骨骨折では,頭上作業,重量物の持上げ,反復する押引き,長時間の運転,上肢を支持する姿勢等について,重量,回数,持続時間及び事故前後の変化を具体化する。家事従事者についても,洗濯物を干す,調理器具を持つ,掃除をする等の動作を抽象語だけでなく頻度と支障内容で示す。

4 深追いしない判断

等級要件に達しないことが既存資料から明らかであり,追加資料によっても結論が変わる合理的可能性が乏しい場合には,申請又は異議申立てを深追いしない判断も必要である。

特に,変形が画像でしか分からないのに12級5号だけを求める場合,適切に測定された可動域が基準を超えているのに機能障害だけを求める場合又は症状と解剖学的所見が対応しないのに高負担検査を重ねる場合には,別の障害経路又は損害賠償上の具体的支障の立証へ重点を移すべきかを検討する。

出典・参考資料

1 法令・公的基準

2 書籍

  • ① 松野丈夫ほか監修『標準整形外科学』第13版(医学書院,平成29年)760頁~761頁。
  • ② 土屋弘行ほか編『今日の整形外科治療指針』第8版(医学書院,令和3年)413頁。
  • ③ 榎木貴之・小杉晴洋『自賠責・紛争処理事例と判例から読み解く後遺障害等級認定の判断-傾向を踏まえた交通事故事件処理-』(新日本法規,令和8年)403頁及び411頁。

3 医学文献