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交通事故による上腕骨近位部骨折の後遺障害等級認定――骨折部位,画像所見及び証拠化(AI作成)

第1 上腕骨近位部骨折では傷病名だけで等級は決まらない

1 検討の出発点

上腕骨近位部骨折は,肩関節に近い上腕骨頭,解剖頚,外科頚,大結節又は小結節に生じる骨折の総称である。交通事故後に同じ傷病名が付いていても,骨折線の位置,骨片の転位,骨癒合,腱板等の合併損傷及び最終的な肩機能は事案ごとに異なるため,傷病名だけから後遺障害等級を決めることはできない。

等級認定では,①肩関節の機能障害,②上腕骨の変形障害,③疼痛又は神経障害,④人工骨頭又は人工関節,⑤複数障害の併合又は派生関係を分けて検討する必要がある。その上で,画像上の病態が残存症状を説明できるか,受傷直後から症状固定までの経過が整合するかを確認することになる。

肩関節の可動域の一般的な認定基準,測定方法及び代償動作については,肩関節の可動域制限と後遺障害12級6号で詳述している。本記事は,同記事と重複する測定論を最小限にし,上腕骨近位部骨折に固有の医学的機序と証拠化を中心に扱う。

2 最初に分けるべき評価経路

上腕骨近位部骨折後の肩が動きにくい場合,主たる評価経路は8級6号,10級10号又は12級6号の機能障害である。ただし,骨端部の癒合不全等があれば12級8号の変形障害,痛み又はしびれが中心であれば12級13号又は14級9号の神経障害も問題となる。

人工骨頭又は人工関節への置換,骨頭壊死,大結節の変形癒合,肩峰下インピンジメント,関節拘縮,腱板損傷及び腋窩神経障害は,それぞれ別の病態である。診断名を列挙するだけでなく,「どの病態が,どの運動を,どのような機序で制限しているか」を一つずつ結び付ける必要がある。

第2 現行の後遺障害等級と分岐

1 自賠責の等級表

自動車損害賠償保障法施行令別表第二における主な候補は,次のとおりである。自賠責の後遺障害等級の認定は,原則として労災保険の障害認定基準に準拠するものとされている。

評価対象自賠責等級障害の表示
肩関節の用廃8級6号1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
肩関節の著しい機能障害10級10号1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
肩関節の機能障害12級6号1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
上腕骨の変形12級8号長管骨に変形を残すもの
客観的に裏付けられる局部の神経症状12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの
局部の神経症状14級9号局部に神経症状を残すもの

労災の認定基準では,肩関節の著しい機能障害は10級9号,局部の頑固な神経症状は12級12号と表記される。自賠責の号数と混同しないよう,書面ではどの制度の号数であるかを明示する必要がある。

2 機能障害の基準

厚生労働省の上肢障害等級認定基準では,肩関節の主要運動を屈曲及び外転・内転とする。主要運動のいずれか一方が健側の2分の1以下であれば著しい機能障害,4分の3以下であれば機能障害となることが基本であり,原則として他動可動域を用いる。

もっとも,角度だけを機械的に測定しても足りない。同基準は,測定前に制限の原因を明らかにする必要があるとするため,骨折による関節面の変化,変形癒合,拘縮,腱板障害,神経麻痺又は疼痛等のうち,どれが測定値を生じさせているかを検討することになる。

8級6号の用廃は,関節の強直,完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態等が対象となる。肩甲上腕関節が骨性強直していても肩甲骨が胸郭上を動けば一定の挙上が可能であるため,見かけの挙上角度だけで骨性強直を否定してはならない。

3 人工骨頭又は人工関節

人工骨頭又は人工関節に置換した肩関節は,可動域が健側の2分の1以下であれば用廃として8級6号が問題となる。2分の1を超えていても,置換の事実によって著しい機能障害として10級10号が問題となる。

したがって,人工骨頭置換後に良好な可動域が得られたという一事だけで,機能障害が直ちに否定されるわけではない。他方で,手術名が「骨接合術」であり人工骨頭又は人工関節を挿入していない場合は,この特則を使わず,通常の可動域制限とその原因によって判断する。

4 変形障害と偽関節

上腕骨近位部骨折後に骨の盛り上がり又はわずかな位置異常が残っただけでは,当然に12級8号となるわけではない。認定基準が掲げる上腕骨の変形には,外部から見て分かる程度の15度以上の屈曲変形,骨端部の癒合不全,骨端部の大部分の欠損,骨端部を除く直径の所定以上の減少又は50度以上の回旋変形癒合等がある。

特に重要なのは,骨端部の癒合不全と骨幹部又は骨幹端部の癒合不全を区別することである。上腕骨の骨端部に癒合不全を残す場合は12級8号の変形障害が問題となるのに対し,7級9号又は8級8号の偽関節は,上腕骨の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残すことが前提である。

7級9号は,骨幹部又は骨幹端部の癒合不全に加え,常に硬性補装具を必要とする場合である。8級8号は,同部位の癒合不全があるものの7級9号に当たらない場合が中心となるため,診断書に「上腕骨近位部偽関節」と書かれているだけでは分岐を確定できない。

骨折線又は癒合不全部が骨端部,骨幹端部又は骨幹部のどこにあるかは,単純X線,CT,手術記録及び主治医の説明によって特定する必要がある。この位置の確認をせず,診断名に含まれる「近位部」という語だけから7級又は8級を主張することはできない。

5 疼痛と複数障害の関係

可動域が等級基準に達しなくても,骨折部の変形,関節面不整,腱板損傷,固定材料の刺激,骨頭壊死又は神経損傷が痛みを裏付ける場合は,12級13号又は14級9号が問題となる。厚生労働省の神経系統の障害認定基準は,局部の神経症状を12級と14級に分けている。

ただし,同じ骨折から通常派生する可動域制限と疼痛は,常に別個の等級として併合されるわけではない。上腕骨の癒合不全又は変形と同部位の疼痛についても,認定基準は上位の等級による取扱いを示しているため,障害を細分化して機械的に併合するのではなく,原因と障害系列の関係を先に確認する必要がある。

第3 画像所見から残存障害の機序を説明する

1 骨折型の呼称だけでは足りない

上腕骨近位部骨折の分類は,骨折の複雑さを共有するために有用であるが,分類の再現性には限界がある。診療録に2-part又は3-partと記載されていることだけで,最終的な可動域,骨頭壊死の発生又は後遺障害等級を確定することはできない。

実務では,分類名よりも,①関節面への骨折線,②大結節及び小結節の転位方向,③骨頭と骨幹部の位置関係,④内側支持の破綻,⑤脱臼の有無,⑥骨癒合の推移を画像上で具体的に確認する方が重要である。単純X線だけでは骨片の重なりによって把握しにくい場合があるため,受傷時CTの薄いスライス及び三次元再構成画像が残っているかも確認する。

2 大結節の変形癒合とインピンジメント

大結節には腱板が付着している。大結節が上方又は後上方に転位したまま癒合すると,腱板の作用方向が変わり,肩峰下の空間が狭くなることで,挙上時痛,外転制限又は筋力低下を生じ得る。

この病態は,変形の存在と機能障害を橋渡しする典型例である。12級8号の外表変形の要件に届かない場合でも,大結節の変形癒合が肩峰下インピンジメントを起こしているなら,12級6号又は10級10号の機能障害を説明する器質的原因となり得る。

大結節の転位量には治療選択の目安として使われる数値があるが,その数値は後遺障害等級の境界値ではない。撮影方向,転位方向,患者の活動性,腱板の状態及び実際の肩機能を併せて評価しなければならない。

3 骨頭壊死と関節面の変化

解剖頚骨折又は骨折脱臼等では,骨頭への血流が損なわれ,遅れて上腕骨頭壊死又は圧潰が現れることがある。初期画像で骨頭の形が保たれていても,将来の壊死を否定できるとは限らないため,骨折型と臨床経過に応じた経時画像が重要となる。

医学研究は,内側支持の破綻,骨頭側骨幹端延長の短さ又は結節転位等を虚血又は固定失敗と関連付けているが,予測精度は完全ではない。個別事案では,危険因子があることと,実際に骨頭壊死が発生したことを区別し,後者は経時的なX線又はMRI等で確認する必要がある。

4 拘縮,腱板,固定材料及び神経

骨折後の肩関節拘縮は,関節包の線維化だけでなく,関節外癒着,変形癒合,肩峰下インピンジメント,腱板障害,上腕二頭筋長頭腱の病変,骨頭壊死,感染又は固定材料の突出によっても生じ得る。原因が異なれば,必要な検査と将来改善の見通しも異なる。

他動可動域も制限される場合は機械的拘縮を疑いやすいのに対し,他動では動くが自動挙上が難しい場合は,腱板,筋力又は神経の問題を検討する必要がある。腋窩神経障害が疑われるときは,三角筋萎縮,肩外側の感覚障害,自動と他動の差及び筋電図等を確認する。

プレート,髄内釘又はスクリューが機能障害の原因となっている場合は,抜去後の状態で評価すべきかが問題となる。固定材料が機能に影響しない場合は抜去前でも評価し得るため,単に将来抜釘の予定があるという理由だけで症状固定時期が自動的に決まるものではない。

第4 症状固定までに残すべき証拠

1 受傷直後の画像データ

単純X線及びCTのDICOMデータは,画像レポートだけでなく元データを保存することが望ましい。後日になって大結節骨折,関節面の陥没又は骨片転位が争われた場合,受傷時画像がなければ,治療後に整復された形から受傷時の状態を正確に復元することが難しくなる。

画像所見は,①所見そのもの,②医師による医学的評価,③事故との医学的因果関係,④法的な等級評価を分けて記載する必要がある。CTで変形が見えることから,直ちに交通事故との因果関係又は特定等級が認められるわけではない。

2 可動域の全時系列

後遺障害診断書の一回の測定値だけでなく,リハビリ開始時から症状固定までの屈曲,外転,外旋及び内旋の推移を確認する。測定姿勢,他動又は自動,肩甲骨固定の有無,疼痛性終末感,測定者及び健側値が分かれば,数値の比較可能性が高まる。

治療の進行に伴って改善していた可動域が,症状固定直前だけ急激に悪化した場合は,測定条件,疼痛増悪又は別の病態を説明できなければ,測定値の信用性が争われやすい。反対に,一貫した制限が画像上の病態及び診療録の訴えと対応していれば,単発の数値より強い資料となる。

3 必要な検査を病態ごとに選ぶ

CTは骨折線,骨片転位,骨癒合,関節面及び固定材料の位置に適する。MRI又は超音波は腱板等の軟部組織及び骨頭壊死の評価に,筋電図又は神経伝導検査は神経障害の評価に用いられる。

もっとも,検査は多ければよいのではない。診察所見と既存画像から仮説を立て,その仮説を確認又は除外するために必要な検査を選ぶべきであり,医学的必要性の乏しい侵襲的検査を後遺障害申請だけのために求めるべきではない。

4 主治医への照会事項

主治医には,①骨折線及び癒合不全の解剖学的位置,②変形癒合又は骨頭壊死の有無,③大結節と肩峰下インピンジメントの関係,④腱板又は神経の合併損傷,⑤他動可動域制限の原因,⑥今後の改善可能性,⑦固定材料の影響を具体的に確認する。

質問は,結論としての等級だけを尋ねるより,等級判断の前提となる医学的事実を分けて尋ねる方が有用である。医師が法的評価を行う必要はなく,画像,診察及び治療経過に基づく医学的判断を記載できる形にすることが重要である。

第5 争われやすい論点

1 既存の腱板変性と事故後の症状

中高年では,事故前から無症候性の腱板変性又は骨粗鬆症が存在することがある。事故後のMRIに腱板断裂が写っている場合でも,その断裂が新鮮外傷か既存変性か,骨折後の機能障害にどの程度寄与したかは別途検討を要する。

事故前の肩症状,通院歴,就労及びスポーツ活動,事故直後の症状発現,初期診察所見,筋萎縮,脂肪変性並びに連続性のある画像を総合する必要がある。既存変性があることだけで事故との因果関係を否定することも,事故後に見つかったことだけで全てを外傷性とすることも適切ではない。

2 手術か保存療法か

上腕骨近位部骨折の治療成績を比較した無作為試験では,対象となる骨折型及び年齢によって結果が異なり,手術が保存療法を一律に上回るとはいえない。反対に,特定の複雑骨折では,人工肩関節がプレート固定より良好であった研究もある。

したがって,「手術をしたから重症である」,「保存療法だから軽症である」又は「手術をしなかったから後遺障害は自己責任である」という推論は成り立たない。等級認定では,治療法の名称ではなく,当該骨折型,整復位,合併損傷,合併症及び症状固定時の機能を評価する。

3 リハビリの開始時期と治療中断

長期固定は拘縮の一因となり得るが,早期運動には再転位又は固定破綻の危険もある。リハビリ開始時期だけから被害者の努力不足又は医療上の過誤を推認することはできず,骨折の安定性,主治医の指示,疼痛,実施内容及び改善曲線を確認する必要がある。

通院間隔が空いている場合も,仕事,家庭事情,転医,医師の指示又は自主訓練の有無を確認する。診療録に継続的な症状と自主訓練の指示が残っていれば,単純な受診回数だけとは異なる評価が可能である。

4 将来改善と症状固定

骨癒合後の廃用性拘縮は改善することがあるため,認定基準も将来の障害軽減を考慮する。症状固定の判断では,治療期間の長短だけでなく,直近数か月の可動域推移,治療変更の余地,抜釘の影響及び主治医の見通しを確認する。

他方,骨頭圧潰,関節面不整又は大結節の明確な変形癒合等が残り,十分な治療後も機能が安定している場合は,単に若年であること又はリハビリ継続中であることだけで症状固定を否定できない。医学的な改善可能性と,法的に治療効果が期待しにくい状態を区別する必要がある。

第6 申請又は異議申立ての確認表

1 症状固定前

①受傷時の単純X線及びCTのDICOMデータを確保する。

②骨折線,大結節転位,脱臼,関節面及び内側支持の状態を確認する。

③屈曲,外転,外旋及び内旋について,他動・自動の別を含む経時記録を集める。

④痛みの部位,挙上時痛,筋力低下,感覚障害及び日常生活上の支障を診療録に残す。

⑤骨頭壊死,腱板損傷,インピンジメント又は神経障害が疑われる場合は,病態に適した検査の必要性を主治医と検討する。

2 後遺障害診断書の作成時

①傷病名だけでなく,骨折後に残った器質的病態を確認する。

②可動域について,患側・健側,他動・自動及び測定日を確認する。

③人工骨頭又は人工関節への置換の有無を確認する。

④癒合不全がある場合は,骨端部,骨幹端部又は骨幹部の別を確認する。

⑤疼痛が残る場合は,部位,性状,誘発動作及び客観的裏付けを確認する。

⑥可動域制限,変形及び疼痛の原因が共通するかを整理し,併合又は上位等級の取扱いを検討する。

3 非該当又は想定より低い等級となった場合

認定理由を,①角度不足,②器質的原因の不足,③画像と症状の不整合,④経過の不整合,⑤健側異常,⑥症状固定又は改善可能性,⑦障害系列の取扱いに分解する。その上で,既に提出した資料の見落としなのか,新たな医学的資料が必要なのかを区別する。

追加資料は,結論だけを述べる意見書よりも,原画像,読影結果,手術記録,可動域一覧及び病態別の主治医回答を優先する。異議申立ては,前回と同じ資料を再提出するのではなく,認定理由に対応する客観資料を補うことが基本となる。

本記事は一般的な法制度及び医学的知見の説明であり,個別事案の診断,治療又は法的結論を示すものではない。個別事案では,担当医及び弁護士が原画像,診療録,事故態様及び認定理由を確認する必要がある。

第7 出典

1 法令・行政資料

e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」

厚生労働省「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」平成16年6月4日基発第0604003号

厚生労働省「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」平成15年8月8日基発第0808002号

国土交通省「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」

2 医学書

① 土屋弘行・紺野愼一・田中康仁・田中栄・岩崎倫政・松田秀一編『今日の整形外科治療指針第8版』医学書院,令和3年,427頁~429頁

② 井樋栄二・津村弘編『標準整形外科学第15版』医学書院,令和5年,814頁ほか

③ 加藤義治『医師と損保のためのわかりやすい交通事故外傷ガイドQ&A整形外科編』保険毎日新聞社,令和6年,46頁~49頁

3 医学論文

① Sidor ML et al., The Neer classification system for proximal humeral fractures. An assessment of interobserver reliability and intraobserver reproducibility, J Bone Joint Surg Am, 1993, PMID 8258543(Europe PMC

② Mattyasovszky SG et al., Isolated fractures of the greater tuberosity of the proximal humerus: a long-term retrospective study of 30 patients, Acta Orthop, 2011, PMID 21895502, PMCID PMC3247891(Europe PMC

③ Hertel R et al., Predictors of humeral head ischemia after intracapsular fracture of the proximal humerus, J Shoulder Elbow Surg, 2004, PMID 15220884(Europe PMC

④ EFORT Open Reviews, How to treat stiffness after proximal humeral fractures, 2023, PMCID PMC10441249(Europe PMC

⑤ Launonen AP et al., Surgery with locking plate or hemiarthroplasty versus nonoperative treatment of 3–4-part proximal humerus fractures in older patients, PLOS Medicine, 2023(原著