◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯参照元の資料は以下のとおりであって,法務省の情報公開文書です。
① 民事裁判情報の活用の促進に関する法律の法律案審議録
→ 民事裁判情報の活用の促進に関する法律案(仮称)逐条説明資料(法務省大臣官房司法法制部)が含まれています。
② 民事裁判情報の活用の促進に関する法律の国会答弁資料(令和7年4月25日の衆議院法務委員会)
③ 民事裁判情報の活用の促進に関する法律の国会答弁資料(令和7年5月22日の参議院法務委員会)
◯noteに「民事判決情報(民事裁判情報)データベース化について 」(2026年2月14日付)(筆者は松尾剛行弁護士)が載っています。
目次
第1 はじめに
1 本法律の制定背景
2 本法律の目的(第1条関係)
3 デジタル化社会における民事裁判情報の意義
第2 用語の定義と対象となる情報の範囲
1 「民事裁判情報」の定義(第2条第1項第1号関係)
(1) 電子判決書(イ)
(2) 電子調書(ロ)
(3) 電子決定書(ハ)
2 その他の重要な定義
(1) 保有民事裁判情報(第2条第1項第2号関係)
(2) 仮名加工民事裁判情報(第2条第1項第3号関係)
(3) 民事裁判関連情報(第2条第1項第4号関係)
第3 国の責務と基本方針の策定
1 国の責務及び最高裁判所の措置(第3条関係)
2 基本方針の策定(第4条関係)
第4 指定法人の指定と業務
1 指定法人の指定(第5条関係)
(1) 全国一の指定
(2) 指定の要件
2 指定法人の業務(第6条関係)
(1) 民事裁判情報管理提供業務の内容
(2) 司法制度の充実に資する調査研究業務
第5 情報の取得及び仮名加工処理の実務
1 最高裁判所への情報提供の求め(第7条関係)
2 仮名加工処理の基準と運用(第13条関係)
(1) 仮名加工の方法
(2) 特定の個人の識別禁止
3 プライバシー保護と追加的措置
(1) 苦情の処理と追加的仮名処理
(2) 閲覧等制限決定との関係
第6 情報の提供・利用契約及び料金
1 利用者(一次利用者)の想定
2 情報提供契約(第10条関係)
3 利用料金の設定と認可(第8条・第9条関係)
第7 安全管理措置と業務の監督
1 保有民事裁判情報等の安全管理(第8条第2項第3号関係)
2 目的外使用の禁止(第12条関係)
3 業務の委託及び再委託(第14条関係)
4 法務大臣による監督権限(第16条〜第18条関係)
第8 罰則規定
1 不正提供及び盗用罪(第20条関係)
2 無許可廃止及び検査拒否等の罪(第21条関係)
第9 施行期日と将来の展望
1 施行のスケジュール(附則第1条関係)
2 今後の検討課題
第10 おわりに
第1 はじめに
1 本法律の制定背景
我が国においては,急速なデジタル化の進展に伴い,司法分野でも令和4年に民事訴訟手続のデジタル化を図る改正民事訴訟法が成立しました。これにより,判決書等が電磁的記録(電子判決書)として作成されることとなりました。
このデジタル化の成果を広く国民が享受できるよう,令和2年3月の「民事司法制度改革の推進に関する関係府省庁連絡会議」の取りまとめにおいて,電子判決書等の情報を広く国民に提供するための検討が必要であるとされました。その後,法務省において設置された「民事判決情報データベース化検討会」での計16回にわたる審議を経て,本法律案が取りまとめられました。
2 本法律の目的(第1条関係)
本法律第1条は,デジタル社会の進展に伴い民事裁判情報に対する需要が多様化していることに鑑み,国の責務,法務大臣による基本方針の策定,情報の加工・提供を行う法人の指定等を定めることを規定しています。その直接の目的は,「民事裁判情報の適正かつ効果的な活用のための基盤の整備を図ること」にあり,それを通じて「創造的かつ活力ある社会の発展に資すること」を究極の目的としています。
民事裁判情報は,紛争発生前には国民の行動規範となり,紛争発生後には解決の指針となる社会全体の重要な財産、すなわち「公共財」としての性格を有しています。本制度は、単なる情報のデジタル化ではなく、これらを「公共財」として社会全体で共有・活用することを基本理念としています。
3 デジタル化社会における民事裁判情報の意義
これまでの判例利用は,主に個別の事案の結論や先例性を分析することに限られてきました。しかし,デジタル技術の向上により,大量の情報を横断的に分析し,統計的な傾向を把握したり,人工知能(AI)の学習素材として利用したりといった新たなニーズが生じています。
例えば,慰謝料額の算定傾向を地域や事案ごとに詳細に分析することで,紛争の予見可能性が高まり,裁判外での円滑な解決(ADRやODR)の促進が期待されます。また,民間のリーガルテック企業がこれらのデータを活用して高度な法的サービスを開発することにより,国民がより容易に司法へアクセスできる環境が整うこととなります。
一方で、特定の情報を一件だけ取得したいという「小口の提供」については、検索機能や決済手段の構築に相応の費用を要するため、まずは基幹となる網羅的なデータベース整備を先行させるという優先順位が当局より示されています。
第2 用語の定義と対象となる情報の範囲
1 「民事裁判情報」の定義(第2条第1項第1号関係)
本法律が対象とする「民事裁判情報」は,民事訴訟手続及び行政事件訴訟手続において作成された電磁的記録に記録されている情報に限定されています。
(1) 電子判決書(イ)
改正民事訴訟法第252条第1項に基づき作成され,同法第253条第2項の規定によりファイルに記録された電子判決書が中核となります。なお,人事訴訟手続における電子判決書については,手続は公開されるものの、事実の調査に係る部分の閲覧制限など通常の民事訴訟とは異なる規律が設けられており、事案の性質上,高度なプライバシー保護が必要であるため,本法律の対象からは除外されています。
(2) 電子調書(ロ)
民事訴訟法第254条第2項の規定により,電子判決書の作成に代えて理由の要旨等を記録した電子調書(いわゆる電子調書判決)が対象となります。
(3) 電子決定書(ハ)
決定及び命令については,判決と異なり多種多様であり,すべてを対象とすると管理の事務負担が過大となり、ひいては利用料金の高騰を招く懸念があります。そこで,法令の解釈適用について参考となる裁判に係るものとして「法務省令で定めるもの」に限定されています。具体的には,判決に対する更正決定,上告却下決定,文書提出命令に関する決定,行政事件訴訟における仮の救済に関する決定などが想定されています。
2 その他の重要な定義
(1) 保有民事裁判情報(第2条第1項第2号関係)
指定法人が最高裁判所から提供を受け,現に保有している民事裁判情報を指します。これは加工前のいわゆる「生データ」を含みます。
(2) 仮名加工民事裁判情報(第2条第1項第3号関係)
保有民事裁判情報に含まれる氏名,生年月日その他の特定の個人を識別できる情報を削除,または復元不可能な方法で置き換え(仮名処理),他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように加工した情報をいいます。これが利用者への提供の対象となります。
具体的な加工基準としては、個人の氏名の全部、生年月日のうち月日の情報(年月日の一部)、個人の住所のうち市郡より小さい行政区画の情報、およびマイナンバー等の個人識別符号の全部が削除・置換の対象として想定されています。
ただし,裁判をした裁判官や,訴訟代理人である弁護士・司法書士については,権利利益を害するおそれが少ないと考えられることから,法務省令により仮名処理の対象から除外され,実名のまま提供されることが想定されています。
(3) 民事裁判関連情報(第2条第1項第4号関係)
判決言渡し年月日,審級関係,上訴の有無といった,民事裁判情報の活用の促進に資するいわゆる「メタデータ」を指します。
第3 国の責務と基本方針の策定
1 国の責務及び最高裁判所の措置(第3条関係)
政府は,民事裁判情報の活用を促進するための施策を策定・実施する責務を負います。また,最高裁判所は,司法府としての立場を尊重しつつ,民事裁判情報を記録した電磁的記録の提供など,必要な措置を講ずるものとされています。これは,行政と司法が協力して情報基盤を整備することを法律上明確にしたものです。
2 基本方針の策定(第4条関係)
法務大臣は,民事裁判情報の活用の促進に関する基本的な方針(基本方針)を定めなければなりません。基本方針には,活用の促進の意義,施策の基本的事項,保有情報の管理及び提供に関する基本事項などを定めます。策定にあたっては最高裁判所の意見を聴くことが義務付けられており,策定後は遅滞なく公表されます。
第4 指定法人の指定と業務
1 指定法人の指定(第5条関係)
(1) 全国一の指定
民事裁判情報の適正かつ確実な実施を確保するため,法務大臣は一般社団法人や一般財団法人等の非営利法人を,全国に一つに限って「指定法人」として指定することができます。
一つに限定する理由は,情報の重複排除,仮名化基準の統一,情報漏えいリスクの集約管理,そして訴訟関係者の申出窓口の明確化を図るためです。仮に複数の法人が介在して競争が生じた場合、経費削減のために提供情報の選別や人員削減が行われるリスクがあり、事後的な修正措置が統一的に行われなくなる弊害が懸念されるため、一元化が最適と判断されました。
(2) 指定の要件
指定を受けるには,業務を適正かつ確実に遂行するための「経理的基礎」及び「技術的能力」を有することが必要です。また,役員等の構成が公正な遂行に支障を及ぼさないことや,他の業務を行っている場合に不公正になるおそれがないことなどの要件が課されています。
2 指定法人の業務(第6条関係)
(1) 民事裁判情報管理提供業務の内容
指定法人の主たる業務は,(ア)保有情報の整理・加工(仮名加工民事裁判情報の作成),(イ)仮名加工民事裁判情報の電磁的方法による利用者への提供,(ウ)保有情報の管理,(エ)これらに附帯する業務(AI技術の調査研究や広報など)です。
(2) 司法制度の充実に資する調査研究業務
指定法人は,保有する仮名加工民事裁判情報等を利用して,自ら司法制度の充実に資する調査及び研究を行うことができます。これは,情報の活用による成果を社会に還元し,司法政策の立案等に役立てることを意図しています。
第5 情報の取得及び仮名加工処理の実務
1 最高裁判所への情報提供の求め(第7条関係)
指定法人は,業務遂行のため最高裁判所に対し情報の提供を求めることができます。ただし,民事訴訟法第92条等に基づく閲覧制限決定や,第133条に基づく秘匿決定の対象となっている情報は提供の対象から除外されます。これにより,企業の営業秘密や当事者の重大な秘密が指定法人に渡ることを未然に防いでいます。
2 仮名加工処理の基準と運用(第13条関係)
(1) 仮名加工の方法
指定法人は,法務省令で定める基準に従い,保有民事裁判情報を加工しなければなりません。具体的な基準としては,個人の氏名の全部,生年月日の月日部分,住所のうち市郡より小さい行政区画,個人識別符号(マイナンバー等)の全部を削除または置換することが想定されています。
(2) 特定の個人の識別禁止
指定法人は,加工後の情報を他の情報と照合して,特定の個人を識別してはなりません(第13条第2項)。これは,仮名処理の趣旨を没却する行為を禁止するものです。
3 プライバシー保護と追加的措置
(1) 苦情の処理と追加的仮名処理
通常の仮名処理を行っても,報道情報等と組み合わせることで個人が特定される「モザイクアプローチ」のリスクは残ります。そこで,訴訟関係者等からの申出(苦情処理)に基づき,個別の事案に応じて「追加的な仮名処理」を行う仕組みが導入されます。
具体例としては、パワーハラスメント事案において、法人名自体は一次的な仮名処理の対象外ですが、被害者の所属する課室の名称等が組み合わさることで個人特定につながる場合、申出によりこれらを追加で伏せ字とすることが想定されています。
(2) 閲覧等制限決定との関係
情報が利用者に提供される前であっても,追加的な仮名処理の申出を可能とする運用が期待されています。また,指定法人が情報を取得した後に裁判所で閲覧制限決定がなされた場合には,提供を一時停止し,必要な加工を追加するなどの措置を講じます。
第6 情報の提供・利用契約及び料金
1 利用者(一次利用者)の想定
指定法人から直接データの提供を受ける「一次利用者」としては,判例データベース事業者,法律系出版社,リーガルテック企業,研究機関などが想定されています。これらの事業者が高度な付加価値(検索,分析,解説等)を付けたサービスを,弁護士,企業,学生等の「二次利用者」が利用するという構造です。一般の個人が直接指定法人を利用することも制度上可能ですが,提供データが機械判読に適した形式(CSV等)であるため,利便性の観点からは民間事業者のサービスを通じた利用が現実的です。
2 情報提供契約(第10条関係)
指定法人は,正当な理由がある場合を除き,利用者との情報提供契約の締結を拒絶できません。これは情報の恣意的な独占を防ぐためです。一方で,利用者が訴訟関係者の権利利益を不当に侵害するような態様で情報を利用した場合には,指定法人は契約を解除することができます。これにより,「破産者マップ」のような不適切なサイトへの転載などを抑止します。
3 利用料金の設定と認可(第8条・第9条関係)
指定法人が収受する利用料金は,業務規程に定め,法務大臣の認可を受ける必要があります。料金は,特定のサービスの提供に要する費用は利益を受ける者が負担するという「受益者負担の原則」に基づき,システム整備費用や仮名処理の人件費を賄うのに必要な範囲で設定されます。
本制度には国費(補助金)の投入は想定されておらず、活用の促進という目的に照らし,「なるべく低廉なもの」であることが求められます。実証実験に基づく試算では、初期のシステム開発費用に約1億5000万円、年間のランニングコスト(人件費)に約4400万円を要するとされています。この人件費は、時給1500円、1日8時間、年間240日営業で15.2名の体制を前提とした極めて具体的なデータに基づいています。
第7 安全管理措置と業務の監督
1 保有民事裁判情報等の安全管理(第8条第2項第3号関係)
指定法人は,保有する情報の漏えい,滅失,毀損の防止のために必要な安全管理措置を業務規程に定め,大臣の認可を受けなければなりません。
これには、(ア)業務マニュアルの整備等の組織的措置、(イ)従業者に対する教育等の人的措置、(ウ)端末の盗難防止等の物理的措置、(エ)情報セキュリティ対策や災害リスクを考慮したデータの保管等の技術的措置という「安全管理の四つの柱」が含まれます。外資系事業者のクラウドを利用する場合であっても、政府のセキュリティ評価制度(ISMAP)の認証を受けたサービスを選択するなど、適切な管理が徹底されます。
2 目的外使用の禁止(第12条関係)
指定法人の役職員は,保有情報を業務の目的以外に使用してはなりません。判決書は閲覧可能な情報であるため「秘密」とは言い難い面がありますが,一箇所に集約された情報を不正に利用することによる社会的弊害が大きいため,厳格な禁止規定が設けられています。
3 業務の委託及び再委託(第14条関係)
指定法人は業務の一部を第三者に委託できますが,これには法務大臣の承認が必要です。再委託についても,指定法人の同意と大臣の承認が義務付けられています。委託先においても指定法人と同等の安全管理を確保させる義務があり,委託先従業員にも目的外使用の禁止規定が準用されます。
4 法務大臣による監督権限(第16条〜第18条関係)
法務大臣は,指定法人に対し,業務に関し監督上必要な命令を出すことができます。また,報告の徴求や事務所への立入検査も可能です。業務が適正に遂行されない場合には,指定の取消しや業務停止を命ずることができます。指定が取り消された場合,法人は管理する情報を後継の法人に速やかに引き継がなければなりません。
第8 罰則規定
1 不正提供及び盗用罪(第20条関係)
指定法人の役職員や委託先の従業員が,業務上知り得た保有情報の削除予定部分や加工方法に関する情報を,自己または第三者の不正な利益を図る目的で提供したり盗用したりした場合,1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(または併科)に処されます。これは情報の不正な売買等を禁圧するための重い罰則です。
2 無許可廃止及び検査拒否等の罪(第21条関係)
大臣の許可なく業務を廃止した場合や,帳簿の備付け違反,虚偽の報告,立入検査の拒絶等を行った場合には,30万円以下の罰金が科されます。これらは法人の責任を問う両罰規定の対象となります。
第9 施行期日と将来の展望
1 施行のスケジュール(附則第1条関係)
本法律は,公布の日から9月以内に先行して指定法人の指定に関する規定が施行され,公布後2年以内に業務の実施に関する規定が全面的に施行される予定です。これは,最高裁判所のシステムのデジタル化(令和8年5月まで)に合わせた段階的な運用を想定したものです。
2 今後の検討課題
本法律の全面施行から5年を経過した時点で,施行状況についての検討(見直し)を行うことが規定されています(附則第5条)。
重要な実務指針として、仮名加工前の情報は是正申出期間(約1年)等を経て利用の必要がなくなった段階で「遅滞なく削除」すべきとされる一方、仮名加工後の情報は基幹データベースの役割に鑑み「原則として消去せずに長期間保管」するという対比が示されています。
検討課題としては,(ア)特定の類型や一件ずつの小口提供への対応,(イ)既存の紙媒体の判決書のデジタル化と収録,(ウ)刑事事件の判決書への対象拡大の是非,(エ)民事執行・家事・非訟事件手続の電子裁判書の収録などが挙げられています。これらは,データベースの運用状況やデジタル技術の進展,社会的ニーズを勘案して慎重に議論されることとなります。
第10 おわりに
「民事裁判情報の活用の促進に関する法律」は,日本の司法情報をデジタルの力で開放し,社会の法的リテラシーを高め,司法の予見可能性を飛躍的に向上させるための礎石です。
一方で,膨大な個人情報を扱う制度である以上,プライバシー保護と利活用のバランスを絶えず最適化していく必要があります。司法制度のDXが社会の法的インフラをどう変え、創造的で活力ある社会をどう支えるか。我々実務家も,この新しい法的インフラを適切に活用し,より質の高い法的サービスの提供に努めていくことが求められています。