労働基準法に関するメモ書き


目次
1 労働条件通知書
2 賃金の減額
3 労働者の賃金請求権の消滅時効期間の延長
4 法定4帳簿
5 賃金支払の5原則
6 解雇
7 解約権留保付雇用契約
8 働き方改革
9 最高裁判所の平成25年度労働実務研究会の結果概要
10 関連記事その他

1 労働条件通知書
(1)ア 使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(労働基準法15条1項)ところ,厚生労働省HPに「労働条件通知書」が載っています。
イ 労働条件通知書の絶対的記載事項及び相対的記載事項は労働基準法施行規則5条1項で定められています。
(2)ア 平成31年4月1日,労働者の希望があるような場合,FAX,電子メール又はSNSメッセージにより労働条件を通知できるようになりました(労働基準法施行規則5条4項のほか,厚生労働省HPの「平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります」参照)。
イ 令和6年4月1日,以下の事項が労働条件明示事項に追加されます(厚生労働省HPの「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」参照)。
① 就業場所・業務の変更の範囲
② 更新上限(通算契約期間又は更新回数の上限)の有無と内容
③ 無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件
(3) NTTコムオンライン「給与明細の電子化 労働条件通知書の電子化で業務効率アップ」には以下の記載があります。
    時間や手間をなるべくかけないように工夫し、「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成する企業もあります。基本は労働条件通知書で作成し、書類の項目の1つに「そのほか」を設けるのです。「そのほか」の項目には、「社会保険の加入状況」「雇用保険の適用の有無」、そのほかに必要な事項の記載を加えます。さらに、日付や住所、名前などの署名欄スペースも作成して、雇用契約書としての役割も兼ねる書類にします。
(4) 労働政策研究・研修機構HP「福利厚生と労働法上の諸問題」には以下の記載があります。
    労働契約の締結にあたり, 使用者が労働者に対して明示を義務づけられる労働条件については福利厚生を含めない限定的な取扱いがなされている (同法 15 条, 同法施行規則 (労基則) 5 条)
(中略)
    就業規則その他で支給条件等が定められた福利厚生については, 明示事項のどれかに該当すれば (例えば, 研修補助は 「職業訓練に関する事項」,永年勤続表彰金は 「表彰及び制裁に関する事項」) ,これに含めて明示されるべきことになろう。 また,後述のとおり福利厚生 (給付) でも支給基準が明確で賃金として扱われるもののうち, 住宅手当や家族手当等のように毎月 1 回以上一定期日に支払われる手当 (労基法 24 条 2 項本文参照) は賃金に含めて書面で明示すべき取扱いがされている (平成 11・3・31 基発 168 号) 。 しかし, それ以外の福利厚生については明示の必要はなく, 明示された場合でも明示の内容と事実とが異なっていても,労基法 15 条 2 項による労働契約の即時解除はできないと解される (昭和 23・11・27 基収 3514 号) 。


2 賃金の減額
(1) 就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されます(山梨県民信用組合事件に関する最高裁平成28年2月19日判決。なお,先例として,最高裁昭和48年1月19日判決及び最高裁平成2年11月26日判決等参照)。
イ 弁護士による労働問題総合サイト「労働条件の不利益な変更(賃金が減額の場合など)について」が載っています。
(2) 第四銀行事件に関する最高裁平成9年2月28日判決は,55歳から60歳への定年延長に伴い従前の58歳までの定年後在職制度の下で期待することができた賃金等の労働条件に実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更が有効とされた事例です。


3 労働者の賃金請求権の消滅時効期間の延長
(1) 令和2年4月1日以降に支払期日が到来するすべての労働者の賃金請求権の消滅時効期間は3年となりました(労働基準法附則143条3項)ところ,消滅時効期間延長の対象となる具体的な請求権は以下のとおりです。
・ 金品の返還(労働基準法23条。賃金の請求に限る。)
・ 賃金の支払(労働基準法24条)
・ 非常時払(労働基準法25条)
・ 休業手当(労働基準法26条)
・ 出来高払制の保障給(労働基準法27条)
・ 年次有給休暇中の賃金(労働基準法39条9項)
・ 未成年者の賃金(労働基準法59条)
(2) 退職手当の消滅時効期間は5年であり,災害補償請求権及び年次有給休暇請求権の消滅時効期間は2年のままです。
(3) 未払い残業代請求の法律相談(2022年9月20日付)60頁ないし63頁に詳しい説明が載っています。


4 法定4帳簿
(1) 労働基準法令に基づく法定4帳簿は以下のとおりです。
① 労働者名簿(労基法107条)
・ 労働者の死亡・退職・解雇の日から3年間保存する必要があります。
② 賃金台帳(労基法108条)
・ 労働者の最後の賃金について記入した日から3年間保存する必要があります。
③ 出勤簿等(労基法109条)
・ 労働者の最後の出勤日から3年間保存する必要があります。
④ 年次有給休暇管理簿(労基法施行規則24条の7)
・ 平成31年4月1日以降に法定帳簿となりました。
(2)ア 使用者は,労働者名簿,賃金台帳及び雇入れ,解雇,災害補償,賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければなりません(労働基準法109条・143条1項)。
イ 使用者は,年次有給休暇管理簿を,有給休暇を与えた期間の満了後3年間保存する必要があります(労働基準法施行規則24条の7・72条)。
(3) 社労士・行政書士はまぐち総合法務事務所HP「年次有給休暇管理簿【法定帳簿】」に,年次有給休暇管理簿の書式が載っています。


5 賃金支払の5原則
(1) 賃金支払の5原則は,①通貨で,②直接労働者に,③全額を,④毎月1回以上,⑤一定の期日を定めて支払わなければならないことをいいます(労働基準法24条)。
(2) 使用者は,労働者の同意を得た場合,労働者の預貯金口座に賃金を振り込むことができます(労働基準法施行規則7条の2第1項1号)。
(3) 労働基準法24条1項の趣旨に徴すれば,労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても,その支払についてはなお同項が適用され,使用者は直接労働者に対して賃金を支払わなければならず,その賃金債権の譲受人は,自ら使用者に対してその支払を求めることは許されません(最高裁令和5年2月20日決定。なお,先例として,最高裁昭和43年3月12日判決参照)。


6 解雇
(1) 総論
ア 解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合,その権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。
イ 退職に関する時効(解雇の事由を含む。)は就業規則の絶対的記載事項です(労働基準法89条3号)。
ウ 労働基準法20条所定の予告手当として30日分以上の平均賃金の支払がされないなど即時解雇としては効力を生じない場合であっても,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り,通知後同条所定の30日の期間を経過したときなどには,解雇の効力を生じます(最高裁昭和35年3月11日判決参照)。
(2) 普通解雇
ア 最高裁判例
・ 就業規則所定の懲戒事由があることを理由に普通解雇をする場合,普通解雇の要件を備えていれば足り,懲戒解雇の要件を満たす必要はありません(最高裁昭和52年1月31日判決)。
 最高裁平成22年5月25日判決は,統括事業部長を兼務する取締役の地位にある従業員に対して会社がした普通解雇が,当該従業員に対する不法行為を構成するとはいえないとされた事例です。
イ 下級裁判所の裁判例
・ 東京地裁平成9年9月11日決定(判例体系に掲載)は,「使用者の行う普通解雇は、民法に規定する雇用契約の解約権の行使にほかならず、解雇理由には制限はない(但し、解雇権濫用の法理に服することはいうまでもない。)から、就業規則等に使用者が労働者に対して解雇理由を明示する旨を定めている場合を除き、解雇理由を明示しなかったとしても解雇の効力には何らの影響を及ぼさず、また、解雇当時に存在した事由であれば、使用者が当時認識していなかったとしても、使用者は、右事由を解雇理由として主張することができると解すべきである。」と判示しています。
・ 東京高裁平成22年1月21日判決(判例秘書に掲載)は,「普通解雇については,事後的に解雇事由を追加することができるものと解するのが相当である。被控訴人の援用する最高裁平成8年(オ)第752号同年9月26日第一小法廷判決・裁判集民事180号473頁は,懲戒解雇の事案に係るものであって,本件に適切でない。」と判示しています。
・ 東京高裁令和5年4月5日判決(判例タイムズ1516号)は,有期労働契約に設けられた試用期間中の解雇が有効と判断された事例です。
(3) 懲戒解雇
・ 最高裁平成6年12月20日判決は,私立学校の校内において教職員が組合活動として行ったビラの配布行為が無許可のビラ配布等を禁止する就業規則に違反しないとされた事例です。
・ 使用者が労働者に対して行う懲戒は,労働者の企業秩序違反行為を理由として,一種の秩序罰を課するものであるから,具体的な懲戒の適否は,その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものです。
そのため,懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は,特段の事情のない限り,当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかですから,その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできません(最高裁平成8年9月26日判決)。
・ 従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして,使用者が捜査機関による捜査の結果を待った上で上記事件から7年以上経過した後に諭旨退職処分を行った場合において,上記事件には目撃者が存在しており,捜査の結果を待たずとも使用者において処分を決めることが十分に可能であったこと,上記諭旨退職処分がされた時点で企業秩序維持の観点から重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況はなかったことなどといった事情の下では,上記諭旨退職処分は,権利の濫用として無効です(最高裁平成18年10月6日判決参照)。


7 解約権留保付雇用契約
(1)ア 試用契約における解約権の留保は,大学卒業者の新規採用にあたり,採否決定の当初においては,その者の資質,性格,能力その他いわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い,適切な判定資料
を十分に蒐集することができないため,後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解され,今日における雇用の実情にかんがみるときは,このような留保約款を設けることも,合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるが,他方,雇用契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮するとき,留保解約権の行使は,右のような解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されます(最高裁昭和54年7月20日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和48年12月12日判決)。
イ 企業の留保解約権に基づく大学卒業予定者の採用内定の取消事由は,採用内定当時知ることができず,また,知ることが期待できないような事実であつて,これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ,社会通念上相当として是認することができるものに限られます(最高裁昭和54年7月20日判決)。
(2) 試用期間付雇用契約により雇用された労働者が試用期間中でない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し,使用者の取扱いにも格段異なるところはなく,試用期間満了時に本採用に関する契約書作成の手続も採られていないような場合には,他に特段の事情が認められない限り,当該雇用契約は解約権留保付雇用契約です(最高裁平成2年6月5日判決)。

8 働き方改革
(1)ア 厚生労働省HPに「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法の施行について」(平成30年9月7日付の厚生労働省労働基準局長の通知)が載っています。
イ 厚生労働省HPに「労働基準法に関するQ&A」「「働き方」が変わります!!2019年4月1日から働き方改革関連法が順次施行されます」が載っています。
ウ 厚生労働省HPの「「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書を公表します」(令和5年10月20日付)新しい時代の働き方に関する研究会の報告書及び参考資料が載っています。
(2) 働き方改革の中身としては,年次有給休暇の時季指定時間外労働の上限規制及び同一労働同一賃金があります(厚生労働省の働き方改革特設サイト参照)。
(3) 働き方・休み方改善ポータルサイト「病気療養のための休暇」が載っています。
(4) 働き方改革研究所HP「労基法改正に向けて、今知っておきたい「フレックスタイム制」の基礎知識」が載っています。


9 最高裁判所の平成25年度労働実務研究会の結果概要
・ 最高裁判所の平成25年度労働実務研究会の結果概要を以下のとおり掲載しています。
①   「労働事件の一般的問題」結果概要
→ 時間外手当(実労働時間),時間外手当(審理運営),時間外手当(固定残業代),定年後の再雇用拒否,セクハラ・パワハラ,労働契約法18条,降格,就業規則の不利益変更,普通解雇及び懲戒解雇に関する裁判官の議論が載っています。
②   「労働事件を巡る実務上の諸問題」結果概要
→ 休職,使用者がとるべき対応,業務起因性,労働時間の認定方法,時間外手当,定年後の再雇用拒否,労働契約法20条,労働審判(セクハラ・パワハラ等の審理運営),労働審判(テレビ会議システム等)及び労働審判(適正な手続選択)に関する裁判官の議論が載っています。


10 関連記事その他
(1) 東京地裁の場合,11民,19民及び36民が労働専門部となっています(東京地裁HPの「労働審判手続の迅速・適正な進行へのご協力のお願い」参照)。
(2)ア 経営ハッカーHP「労働基準監督官が実施する「臨検(りんけん)」では、具体的に何が調査されるのか 」及び「労働基準監督官とは,どのような権力を持っている人物なのか」が載っています。
イ 労働基準監督署対策相談室HPが参考になります。
ウ ろーきしょ!ブログに労働基準監督官に関する様々な説明が載っています。
(3)ア 二弁フロンティア2023年7月号「裁判官から見た労働関係訴訟の主張立証のポイント」(講演者は36期の渡邉弘裁判官)が載っています。
イ 大阪府HPに「労働相談ポイント解説」が載っています。
(4)ア 東弁リブラ2012年11月号の「東京地裁書記官に訊く─ 労働部 編 ─ 」には以下の記載があります。
    労働債権の場合の義務履行地というのは,普通は会社から給料をもらうという発想から,営業所の所在地が義務履行地とされますが,退職金については,すでに会社を辞めているのだから,労働者の住所地が義務履行地になるという考え方になります。
イ 影山法律事務所HPの「賃金債権の義務履行地はどこか」には以下の記載があります。
    賃金債権も金銭債権の一種ですから、その義務履行地は債権者、すなわち労働者の現在の住所であることになりそうです。そうであれば、労働者の現在の住所を管轄する裁判所に提訴できる、ことになります。実際、賃金債権の一種である退職金債権について、この理を認めた裁判例があります(東高決S60.3.20東高民時報36巻3号40頁)。
ところが、古い裁判例には、この理を否定し、「給料債権」の義務履行地は使用者の営業所であるとしたものがあります(東高決S38.1.24下民集14巻1号58頁)。
(5) 最高裁平成9年3月27日判決は,一部の組合員の定年及び退職金支給基準率を不利益に変更する労働協約の規範的効力が認められた事例です。
(6)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 労働審判手続における当事者に対する住所・氏名等の秘匿制度に関する事務処理上の留意点について(令和4年12月22日付の最高裁行政局第二課長の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 年次有給休暇に関するメモ書き
・ 有期労働契約に関するメモ書き
・ 同一労働同一賃金
・ 高年齢者雇用安定法に関するメモ書き
・ 個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き
・ 社会保険に関するメモ書き
(労災保険関係)
・ 労働保険に関するメモ書き
・ 労災隠し
・ 損益相殺
・ 反社会的勢力排除条項に関するメモ書き
・ 労災保険の特別加入制度
・ 労災保険の給付内容
・ 労災保険に関する書類の開示請求方法
・ 労災保険の特別加入制度
・ 労災保険に関する審査請求及び再審査請求
・ 厚生労働省労働基準局の,労災保険に係る訴訟に関する対応の強化について


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