労働法に関するメモ書き

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目次
第1 労働基準法に関するメモ書き
1 賃金の減額
2 労働時間の管理
3 労働基準法上の労働時間の意義
4 法定4帳簿
5 賃金支払の5原則
6 36協定
7 年次有給休暇
8 管理監督者
9 就業規則
10 働き方改革
11 その他
第2 「労働者性」の判断基準
1 労働基準法における「労働者性」の判断基準
2 労働組合法における「労働者性」の判断基準等
3 労災保険法における「労働者性」の判断事例
4 在宅勤務者が雇用保険の被保険者となる場合
第3 同一労働同一賃金
1 総論
2 同一労働同一賃金に関する最高裁判例
3 パートタイム・有期雇用労働法8条(不合理な待遇の禁止)の条文
4 その他
第4 労働安全衛生法に関するメモ書き
1 労働安全衛生法の概要
2 労働者の労働時間の状況の把握義務
3 労働災害防止計画
4 その他
第5 総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医並びに安全衛生推進者及び衛生推進者
1 総論
2 総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医
3 安全衛生推進者及び衛生推進者
4 労働安全コンサルタント試験及び労働衛生コンサルタント試験の試験区分
第6 従業員の健康診断
1 健康診断の実施
2 雇入時の健康診断
3 定期健康診断
4 健康診断実施後の措置
5 その他
第7 職場におけるハラスメント防止に関するメモ書き
第8 職業安定法に関するメモ書き
1 職業紹介事業の許可制
2 ハローワークインターネットサービス
3 社員紹介制度
4 職業紹介事業に係る法令・指針
5 その他
第9 労働者派遣法に関するメモ書き
1 労働者派遣法の沿革
2 労働者派遣の禁止業務
3 労働者供給事業の原則禁止
4 労働者派遣契約
5 紹介予定派遣
6 厚生労働省HPの説明
7 その他
第10 採用活動に関するメモ書き
1 公正な採用選考
2 求職者等の個人情報の取得制限
3 その他
第11 反社会的勢力排除条項に関するメモ書き
1 総論
2 従業員の採用と反社会的勢力排除
3 反社チェック
4 反社会的勢力が行う不当要求の類型
5 暴力団離脱者支援
6 警察は原則として,元暴力団員であるかどうかに関する情報を部外に提供していないこと
7 反社会的勢力排除条項の拡張は独占禁止法との関係で制限されると思われること
8 反社会的勢力排除条項がない場合,錯誤無効を主張できないこと
9 暴力団排除条項を確認する場合に気を付けるべき点
10 反社会的勢力に関する統一的な定義はないこと
11 その他
第12 関連記事その他

第1 労働基準法に関するメモ書き
1 賃金の減額
(1) 就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されます(山梨県民信用組合事件に関する最高裁平成28年2月19日判決)。
(2) 弁護士による労働問題総合サイト「労働条件の不利益な変更(賃金が減額の場合など)について」が載っています。


2 労働時間の管理
(1) 厚生労働省HPに「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)」が載っています。
(2) 名古屋の弁護士による企業法務相談HPに「-タイムカードの意味-打刻時間と残業時間」が載っています。
3 労働基準法上の労働時間の意義
(1) 労働基準法32条の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,右の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではありません(三菱重工業長崎造船所事件に関する最高裁平成12年3月9日判決)。
(2)ア 大星ビル管理事件に関する最高裁平成14年2月28日判決は,ビル管理会社の従業員が従事する泊り勤務の間に設定されている連続7時間ないし9時間の仮眠時間が労働基準法上の労働時間に当たるとされた事例です。
イ 大林ファシリティーズ事件に関する最高裁平成19年10月19日判決はマンションの住み込み管理員が所定労働時間の前後の一定の時間に断続的な業務に従事していた場合において,上記一定の時間が,管理員室の隣の居室に居て実作業に従事していない時間を含めて労働基準法上の労働時間に当たるとされた事例です。
4 法定4帳簿
(1) 労働基準法令に基づく法定4帳簿は以下のとおりです。
① 労働者名簿(労基法107条)
・ 労働者の死亡・退職・解雇の日から3年間保存する必要があります。
② 賃金台帳(労基法108条)
・ 労働者の最後の賃金について記入した日から3年間保存する必要があります。
③ 出勤簿等(労基法109条)
・ 労働者の最後の出勤日から3年間保存する必要があります。
④ 年次有給休暇管理簿(労基法施行規則24条の7)
・ 平成31年4月1日以降に法定帳簿となりました。
(2)ア 使用者は,労働者名簿,賃金台帳及び雇入れ,解雇,災害補償,賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければなりません(労働基準法109条・143条1項)。
イ 使用者は,年次有給休暇管理簿を,有給休暇を与えた期間の満了後3年間保存する必要があります(労働基準法施行規則24条の7・72条)。
(3) 社労士・行政書士はまぐち総合法務事務所HP「年次有給休暇管理簿【法定帳簿】」に,年次有給休暇管理簿の書式が載っています。


5 賃金支払の5原則
(1) 賃金支払の5原則は,①通貨で,②直接労働者に,③全額を,④毎月1回以上,⑤一定の期日を定めて支払わなければならないことをいいます(労働基準法24条)。
(2) 使用者は,労働者の同意を得た場合,労働者の預貯金口座に賃金を振り込むことができます(労働基準法施行規則7条の2第1項1号)。
6 36協定
(1) 36協定の正式名称は「時間外・休日労働に関する協定届」であり,労働基準法36条に基づく労使協定です。
(2) 平成31年4月1日以降については,36協定で定める時間数の範囲内であっても,時間外労働及び休日労働の合計の時間数については,1ヶ月100時間未満,2ヶ月から6ヶ月平均80時間以内とする必要があります。
(3)ア 厚生労働省に「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」が載っています。
イ 働き方改革研究所HPに「「知らなかった」では済まされない!36協定の基礎知識」が載っています。
7 年次有給休暇
(1)  労働基準法39条等の定め

ア 雇入れの日から6か月間継続勤務し,全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては最低10日の年次有給休暇を与える必要があります(労働基準法39条1項)
イ 年次有給休暇の基準日を個々の労働者の採用日に関係なく統一的に定めることもできますところ,この場合,勤務期間の切捨ては認められず,常に切り上げる必要があります。
ウ 通常の労働者の年次有給休暇の日数は、その後、勤続年数が1年増すごとに所定の日数を加えた年次有給休暇を付与しなければなりません(労働基準法39条2項)。 
エ 年次有給休暇は,計画的付与の場合を除き,労働者の請求する時季に与えなければなりません。ただし,労働者が請求した時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては,使用者は他の時季に変更することができます(労働基準法39条5項)。
オ 年次有給休暇を取得した労働者に対して,賃金の減額や精皆勤手当,賞与の額の算定に際しての年次有給休暇取得日を欠勤として取扱う等の不利益な取扱いをしてはなりません(労働基準法附則136条)。
(2) 年次有給休暇と休業補償給付との関係
・ 労働災害無料相談金沢HP「労災の休業補償のポイントと注意点【弁護士が解説】」には以下の記載があります(休業補償給付が支給されるのは休業4日目からです。)。
休業補償給付を受け取るケースでも「年次有給休暇」を使うことは可能です。
休業補償給付からは賃金の80%までしか支給されないので、年次有給休暇によって100%の賃金をもらえればメリットはあるといえます。
もっとも,休業補償給付の対象日を年次有給休暇として扱ってしまうと,休業補償給付の支給対象外になってしまうので,年次有給休暇を利用するのか,労災の休業補償給付を利用するのかを,よく検討する必要があります。
(3) 年次有給休暇と傷病手当金
ア 業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後,4日目以降の仕事に就けなかった日に対しては,傷病手当金が支給されます(協会けんぽHPの「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」参照)。
イ 傷病手当金の支給条件の一つに「休業期間に給与支払いがされてないこと」とあります(健康保険法108条)から,有給休暇と傷病手当金の両方を受け取ることはできません。
(4) 年次有給休暇の買い取り
・ 有給休暇の買い取りは原則として禁止されているのであって,例外的に認められるのは以下の三つのケースです(HRソリューションラボHPの「有給休暇の買取は原則NG!例外で認められるケースとそのルールを解説」参照)。
① 法律で定められた日数を上回る有給休暇
② 退職時に残っている有給休暇
③ 時効により消滅した有給休暇
(5) その他
ア 厚生労働省HPの「年次有給休暇の時季指定義務」に「2019(平成31)年4月から、全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが必要となりました。」と書いてあります。
イ 厚生労働省HPの「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」には,4の問9の答えとして「年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものなので、使用者が一方的に取得させることはできません。」と書いてあります。
ウ ジンジャーブログに「有給休暇義務化における「基準日」とは?従業員管理の重要性を解説」が載っています。
8 管理監督者
(1)ア 管理監督者の場合,労働基準法で定められた労働時間(32条),休憩(34条)及び休日(36条及び37条)の制限を受けません(41条2号)。
イ 管理監督者であっても労働基準法37条3項に基づく深夜割増賃金を請求することはできるものの,管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約,就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合,その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることはできません(最高裁平成21年12月18日判決)。
(2) 管理監督者に該当するかどうかは以下の判断基準に基づき総合的に判断して決まるのであって,役職名で決まるわけではありません(厚生労働省HPの「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」参照)。
① 労働時間,休憩,休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるをえない重要な職務内容を有していること
② 労働時間,休憩,休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
③ 現実の勤務態様も,労働時間等の規制になじまないようなものであること
④ 賃金等について,その地位にふさわしい待遇がなされていること
(3) 平成31年4月1日以降については,使用者は管理監督者についても労働時間を把握する必要があります(労働安全衛生法66条の8の3)。
(4)ア 弁護士による企業経営に役立つ労働コラム「管理監督者の残業代|管理者との違いとは」には「管理職の肩書は与えられているものの、実際の働き方や待遇をみると管理監督者とはいえない「名ばかり管理職」に対しては、会社は残業代を支払わなければなりません。」と書いてあります。
イ 令和2年4月1日以降に発生した残業代の消滅時効は3年でありますところ,実際に2年以上前の残業代を請求できるようになるのは令和4年4月1日以降です。
ウ 労働問題弁護士ナビ「【2020年4月から】残業代請求の時効は3年に延長|時効を中断させる方法まで」が載っています(労働基準法115条・143条1項)。


9 就業規則
(1)ア 常時10人以上の労働者を使用する事業場が就業規則を作成し,又は変更する場合,所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法89条)。
イ 就業規則の一括届出制度は,一括して届け出る本社の就業規則と本社以外の事業場の就業規則が同じ内容であるものに限り利用できます(東京労働局HPの「就業規則一括届出制度」参照)。
(2) 就業規則を作成し,又は変更して労働基準監督署に届け出る場合,労働組合又は過半数代表者の意見書を添付する必要があります(労働基準法90条)。
(3) 就業規則は労働者に周知する必要がある(労働基準法106条1項)のであって,就業規則が法的規範として拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要します(最高裁平成15年10月10日判決)。
(4) 厚生労働省HPの「モデル就業規則について」モデル就業規則(令和3年4月)が載っています。
10 働き方改革
(1) 厚生労働省HPに「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法の施行について」(平成30年9月7日付の厚生労働省労働基準局長の通知)が載っています。
(2) 働き方改革の中身としては,年次有給休暇の時季指定時間外労働の上限規制及び同一労働同一賃金があります(厚生労働省の働き方改革特設サイト参照)。
11
 その他
(1) NTTコムオンライン「給与明細の電子化 労働条件通知書の電子化で業務効率アップ」には以下の記載があります。
時間や手間をなるべくかけないように工夫し、「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成する企業もあります。基本は労働条件通知書で作成し、書類の項目の1つに「そのほか」を設けるのです。「そのほか」の項目には、「社会保険の加入状況」「雇用保険の適用の有無」、そのほかに必要な事項の記載を加えます。さらに、日付や住所、名前などの署名欄スペースも作成して、雇用契約書としての役割も兼ねる書類にします。
(2) 就業規則の「賞与は決算期毎の業績により各決算期につき一回支給する。」との定めが「賞与は決算期毎の業績により支給日に在籍している者に対し各決算期につき一回支給する。」と改訂された場合において,右改訂前から,年二回の決算期の中間時点を支給日と定めて当該支給日に在籍している者に対してのみ右決算期を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在し,右就業規則の改訂は単に従業員組合の要請によつて右慣行を明文化したにとどまるものであって,その内容においても合理性を有するときは,賞与の支給日前に退職した者は当該賞与の受給権を有しません(最高裁昭和57年10月7日判決)。
(3) 公休とは,会社が社員に対して与えている「労働義務のない休み」のことであって,一般的な「週休二日制」で与えられる休日がこの公休に該当します(jinjerBlogの「公休とは?パート・アルバイトの公休の扱いなどの基礎知識を解説」参照)。
(4) 虎ノ門法律経済事務所HPに「新型コロナウイルス感染症に関連した労務トラブルQ&A」が載っています。
(5) 働き方・休み方改善ポータルサイト「病気療養のための休暇」が載っています。
(6)  懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為の存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることは,特段の事情のない限り,許されません(最高裁平成8年9月26日判決)。


第2 「労働者性」の判断基準
1 労働基準法における「労働者性」の判断基準
(1) 労働基準法における「労働者性」の判断基準の概要は以下のとおりです(業務委託契約書の達人HP「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)とは」参照)。
ア 「使用従属性」に関する判断基準
① 「指揮監督下の労働」であること
a. 仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
b. 業務遂行上の指揮監督の有無
c. 拘束性の有無
d. 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
② 「報酬の労務対償性」があること
イ 「労働者性」の判断を補強する要素
① 事業者性の有無
② 専属性の程度
(2)ア  最高裁平成8年11月28日判決は,車の持込み運転手が労働基準法及び労災保険法上の労働者に当たらないとされた事例であり,最高裁平成19年6月28日判決は,作業場を持たずに1人で工務店の大工仕事に従事する形態で稼働していた大工が労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に当たらないとされた事例です。
イ 最高裁平成17年6月3日判決関西医科大学事件)は,臨床研修として病院において研修プログラムに従い臨床研修指導医の指導の下に医療行為等に従事する医師は,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り労働基準法上の労働者に当たるとされた事例です。
(3)ア 一人親方建設業共済会HPに載ってある「労働基準法研究会労働契約等法制部会 労働者性検討専門部会報告 」(平成8年3月)には,建設業手間請け従事者及び芸能関係者について,労働者性の判断基準が書いてあります。
イ 社会保険労務士法人大野事務所HP「労働基準法における「労働者性」の判断基準」では,「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日)」(略称は「フリーランスガイドライン」です。)で示された考え方が図解されています。
2 労働組合法における「労働者性」の判断基準等
(1) 厚生労働省HPの「「労使関係法研究会報告書」について~労働組合法上の労働者性の判断基準を初めて提示~」(平成23年7月25日付)では,労働組合法上の労働者に該当するかどうかについては,以下の判断要素を用いて綜合的に判断すべきものとしています。
(1)基本的判断要素
  1 事業組織への組み入れ
   労務供給者が相手方の業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているか。
  2 契約内容の一方的・定型的決定
   契約の締結の態様から、労働条件や提供する労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか。
  3 報酬の労務対価性
   労務供給者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するか。
(2)補充的判断要素
  4 業務の依頼に応ずべき関係
   労務供給者が相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあるか。
  5 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
   労務供給者が、相手方の指揮監督の下に労務の供給を行っていると広い意味で解することができるか、労務の提供にあたり日時や場所について一定の拘
  束を受けているか。
(3)消極的判断要素
  6 顕著な事業者性
   労務供給者が、恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し自らリスクを引き受けて事業を行う者と見られるか。
(2) 労働組合法上の労働者であると判断した最高裁判例としては以下のものがあります。
① 最高裁昭和51年5月6日判決(CBC管弦楽団労組事件)
・ 民間放送会社の放送管弦楽団員が労働組合法上の労働者と認められた事例です。
② 最高裁平成7年2月28日判決朝日放送事件)
・ 雇用主との間の請負契約により労働者の派遣を受けている事業主が労働組合法七条にいう「使用者」に当たるとされた事例です。
③ 最高裁平成23年4月12日判決新国立劇場運営財団事件)
・  年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員が,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例です。
④ 最高裁平成23年4月12日判決(INAXメンテナンス事件)
・  住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する受託者が,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例です。
・ Wikipediaの「INAX」には「INAX(イナックス)は、LIXILが展開する衛生陶器・住宅設備機器・建材のブランド名である。また、株式会社INAX(英: INAX Corporation)は、2011年3月までこれらの事業を展開していた企業で、現在のLIXILの前身の一つである。」と書いてあります。
⑤ 最高裁平成24年2月21日判決(ビクターサービスエンジニアリング事件)
・ 音響製品等の設置,修理等を業とする会社と業務委託契約を締結して顧客宅等での出張修理業務に従事する受託者につき,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(3)ア 人事・労働・労務相談ALG「労働組合法上の労働者性|労働基準法との違い」には以下の記載があります。
労働基準法上では、「労働者」は専用従属性を中心として判断されます。それとは異なり、労働組合法上の「労働者」は経済的従属性を中心として判断されることから、労働基準法上の労働者性よりも緩やかに認められるという点に特徴があります。
イ NHKの受託業務従事者(いわゆる地域スタッフ)は,労働基準法及び労働契約法上の労働者ではない(大阪高裁平成28年7月29日判決参照)ものの,労働組合法上の労働者ではあります(東京高裁令和元年5月15日判決参照)。
ウ vnnn’s blogの「NHK集金人には法人委託と地域スタッフの2種類います」には以下の記載があります。
あなたの部屋に何度もやってくるNHK集金人には、法人委託の集金人と地域スタッフの集金人の2種類います。法人委託の集金人は会社員でNHKが委託(仕事を頼んでいる)法人に所属している会社員です。それに対して、地域スタッフは個人事業主で個人でNHK業務委託契約を結んで、個人事業主として集金人をやっています。
3 労災保険法における「労働者性」の判断事例
・ 平成30年(労)第219号に関する労働保険審査会の裁決は,会社及びグループの代表者である一方、実質上のトップから業務全般の指示を受けていた者は労働者ではないと判断した事例でありますところ,一般論として以下の判断をしています。
労災保険法は、労働者について定義規定を置いていないが、同法制定の経緯等からみて、同法にいう労働者とは、労働基準法(昭和22年法律第49号)にいう労働者と同義であると解される。そして、昭和60年の労働基準法研究会報告書では、労働者性の判断基準が示され、仕事の依頼・業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、報酬の労務対償性の有無などの「使用従属性」に関する判断基準と「労働者性の判断を補強する要素」の諸要素を勘案して総合的に判断する必要があるとされているところであり、上記報告書の判断枠組みは当審査会としても合理性を有するものと考えるので、本件における労働者性の判断に当たっては、その判断枠組みを基準にして、判断の諸要素を総合的に検討すべきものと考える。
4 在宅勤務者が雇用保険の被保険者となる場合
・ 雇用保険に関する業務取扱要領20351(1)「労働者性の判断を要する場合」には「ル 在宅勤務者」として以下の記載があります(リンク先21頁及び22頁)。
    在宅勤務者(労働日の全部又はその大部分について事業所への出勤を免除され、かつ、自己の住所又は居所において勤務することを常とする者をいう。)については、事業所勤務労働者との同一性が確認できれば原則として被保険者となりうる。
    この事業所勤務労働者との同一性とは、所属事業所において勤務する他の労働者と同一の就業規則等の諸規定(その性質上在宅勤務者に適用できない条項を除く。)が適用されること(在宅勤務者に関する特別の就業規則等(労働条件、福利厚生が他の労働者とおおむね同等以上であるものに限る。)が適用される場合を含む。)をいう。
    なお、この事業所勤務労働者との同一性を判断するにあたっては、次の点に留意した上で総合的に判断することとする。
(イ) 指揮監督系統の明確性
    在宅勤務者の業務遂行状況を直接的に管理することが可能な特定の事業所が、当該在宅勤務者の所属事業所として指定されていること
(ロ) 拘束時間等の明確性
所定労働日及び休日が就業規則、勤務計画表等により予め特定されていること
各労働日の始業及び終業時刻、休憩時間等が就業規則等に明示されていること
(ハ) 勤務管理の明確性
    各日の始業、終業時刻等の勤務実績が、事業主により把握されていること
(ニ) 報酬の労働対償性の明確性
    報酬中に月給、日給、時間給等勤務した期間又は時間を基礎として算定される部分があること
(ホ) 請負・委任的色彩の不存在
a 機械、器具、原材料等の購入、賃借、保守整備、損傷(労働者の故意・過失によるものを除く。)、事業主や顧客等との通信費用等について本人の金銭的負担がないこと又は事業主の全額負担であることが、雇用契約書、就業規則等に明示されていること
b 他の事業主の業務への従事禁止について、雇用契約書、就業規則等に明示されていること
5 その他
(1) 厚生労働省HPに載ってある「「労働者」について」には,労働基準法上の労働者性に関する裁判例及び労働組合法上の労働者性に関する裁判例等が載っています。
(2) 労働安全衛生法の労働者は労働基準法の労働者と同じであり(同法2条2号),最低賃金法の労働者も労働基準法の労働者と同じです(同法2条1号)。
(3)  使用者が誠実に団体交渉に応ずべき義務に違反する不当労働行為をした場合には,当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても,労働委員会は,使用者に対して誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずることを内容とする救済命令を発することができます(山形大学不当労働行為救済命令取消請求事件に関する最高裁令和4年3月18日判決)。
(4) 東京都労働委員会は,令和4年11月25日,ウーバーイーツ配達員は労働組合法上の労働者であると判断しました(東京都労働委員会HPの「Uber Japan事件命令書交付について」参照)。


第3 同一労働同一賃金
1 総論

(1) 同一労働同一賃金の導入は,同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者,派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指すものであります。
(2) 厚生労働省の同一労働同一賃金特集ページには,「同一労働同一賃金ガイドライン」及び「派遣労働者の同一労働同一賃金について」が載っています。
2 同一労働同一賃金に関する最高裁判例
・ 労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止を定めたものであり,令和2年4月1日以降のパートタイム・有期雇用労働法8条に相当する条文です。)に基づく同一労働同一賃金に関する最高裁判例としては以下のものがあります(東京都労働相談情報センターHPの「2-2-2 同一労働・同一賃金をめぐる最高裁判所判例」参照)。
① 最高裁平成30年6月1日判決ハマキョウレックス事件)
→ 原告はドライバーと働く有期雇用労働者であり,通勤手当,皆勤手当,休職手当,作業手当及び無事故手当を支給しない待遇差は不合理であるとされました。
② 最高裁平成30年6月1日判決長澤運輸事件)
→ 原告は定年後に再雇用された嘱託乗務員であり,精勤手当及び時間外手当を支給しない待遇差は不合理であるとされました。
③ 最高裁令和2年10月13日判決大阪医科大学事件)
→ 原告はアルバイト職員であり,賞与のほか,私傷病による欠勤中の賃金を支給しない待遇差は不合理ではないとされました。
④ 最高裁令和2年10月13日判決メトロコマース事件)
→ 原告は有期労働契約社員であり,退職金を支給しない待遇差は不合理ではないとされました。
⑤ 最高裁令和2年10月15日判決(日本郵便事件。東京大阪及び佐賀があります。)
→ 原告は有期の時給制契約社員(いずれも契約更新を繰り返している社員)であり,年末年始勤務手当,年始期間の勤務に対する祝日給,扶養手当,病気休暇及び夏季冬季休暇を与えない待遇差は不合理であるとされました。
3 パートタイム・有期雇用労働法8条(不合理な待遇の禁止)の条文
    事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
4 その他
(1) 同一労働同一賃金について事業者側が抱える問題点としては,①人件費が高くなること,②賃金格差が消えるわけではないこと,及び③労働者への説明が必要になることがあるみたいです(jinjerBlog「同一労働同一賃金の問題点と日本・海外との考え方の違い」参照)。
(2) 厚生労働省HPの「配偶者手当の在り方の検討」に,「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会報告書」 (平成28年4月)が載っています。
(3) 厚生労働省HPの「女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)」には「令和4年7月8日に女性活躍推進法に関する制度改正がされ、情報公表項目に「男女の賃金の差異」を追加するともに、常時雇用する労働者が301人以上の一般事業主に対して、当該項目の公表が義務づけられることとなりました。」と書いてあります。
(4) COMPANY HP「同一労働同一賃金における企業が対応すべきポイントと手順【対応状況アンケート公開】」には以下の記載があります。
    厚生労働省によると、
・有期雇用契約労働者
・パートタイム労働者
・派遣労働者
の3種類を「非正規雇用労働者」と表現し、同一労働同一賃金の対象としています。
反対に、同一労働同一賃金の対象とならないのは「正社員(無期雇用フルタイム労働者)」と示されています。


第4 労働安全衛生法に関するメモ書き
1 労働安全衛生法の概要
    厚生労働省HPの「安全・衛生」には「労働安全衛生法の概要」として以下の記載があります。
・ 事業場における安全衛生管理体制の確立
 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医等の選任
 安全委員会、衛生委員会等の設置
・ 事業場における労働災害防止のための具体的措置
 危害防止基準:機械、作業、環境等による危険に対する措置の実施
 安全衛生教育:雇入れ時、危険有害業務就業時に実施
 就業制限 :クレーンの運転等特定の危険業務は有資格者の配置が必要
 作業環境測定:有害業務を行う屋内作業場等において実施
 健康診断 :一般健康診断、有害業務従事者に対する特殊健康診断等を定期的に実施
・ 国による労働災害防止計画の策定
 厚生労働大臣は、労働災害を減少させるために国が重点的に取り組む事項を定めた中期計画を策定。
※ 労働安全衛生法のほか、労働安全衛生分野の法律として、じん肺法や作業環境測定法がある。
2 労働者の労働時間の状況の把握義務
(1) 平成31年4月1日以降,事業者は,タイムカードによる記録,パソコン等の電子計算機の使用時間の記録その他の適切な方法により,労働者の労働時間の状況を把握しなければならなくなりました(労働安全衛生法66条の8の3及び労働安全衛生規則52条の7の3のほか,労務SEARCH「【社労士監修】労働時間の把握が義務化!企業の管理方法や罰則は?」参照)。
(2) 厚生労働省HPの「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法及びじん肺法関係の解釈等について」(平成30年12月28日付の厚生労働省労働基準局長の通知)8頁ないし11頁に,労働時間の状況の把握に関する問答が載っています。
(3) 労務事情2022年11月1日号に「〈Q&A〉労働時間管理に関する実務対応」及び「〈Q&A〉自動車管理に関する法的留意点」が載っています。


3 労働災害防止計画
(1) 厚生労働大臣は,労働政策審議会の意見をきいて、労働災害の防止のための主要な対策に関する事項その他労働災害の防止に関し重要な事項を定めた計画(労働災害防止計画)を作成し(労働安全衛生法6条),公表する必要があります(労働安全衛生法8条)。
(2) 厚生労働省HPの「2018年4月から第13次労働災害防止計画が始まります。」には以下の記載があります。
 「労働災害防止計画」とは、労働災害を減少させるために国が重点的に取り組む事項を定めた中期計画です。
 厚生労働省は、過労死やメンタルヘルス不調への対策の重要性が増していることや、就業構造の変化及び労働者の働き方の多様化を踏まえ、労働災害を少しでも減らし、安心して健康に働くことができる職場の実現に向け、国、事業者、労働者等の関係者が目指す目標や重点的に取り組むべき事項を定めた 2018 年 4 月~ 2023 年 3 月までの 5 年間を計画期間とする「第 13 次労働災害防止計画」を 2018 年 2 月 28 日に策定し、 3 月 19 日に公示しました。
4 その他
・ 一般財団法人中小建設業特別教育協会HP「職長・安全衛生責任者教育 教育課程」が載っています。


第5 総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医並びに安全衛生推進者及び衛生推進者
1 総論
(1) 公益社団法人労務管理教育センターHP「公益社団法人 労務管理教育センターは、厚生労働省令に定める「安全衛生推進者」、「衛生推進者」を養成する講習の登録機関です。」には以下の記載があります。
    労働者が、50名を超える事業場やさらに大規模な事業場では、支店長、工場長等の管理責任者を総括安全管理者とし、安全管理者、衛生管理者を指揮して事業場の安全衛生管理を行う体制となっていますが、50人未満の小規模事業場においては、事業主、管理責任者が安全衛生管理の責任者となり、安全衛生管理の実務を「安全衛生推進者」「衛生推進者」が行うこととなっています。
(2) 総括安全衛生管理者等は選任が必要な状態になった日から14日以内に選任し,かつ,労基署に報告する必要がありますところ,厚生労働省HPに「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」が載っています。
(3) 安全衛生推進者及び衛生推進者については労基署への報告義務はないものの,選任が必要な状態になった日から14日以内に選任する必要があります(労働安全衛生法施行規則12条の3第1項1号)。
2 総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医
(1) 総括安全衛生管理者(労働安全衛生法10条)は,建設業,運送業等については100人以上の事業場で必要となり,製造業等については300人以上の事業場で必要となり,その他の業種では1000人以上の事業場で必要となります(労働安全衛生法施行令2条)ところ,当該事業場においてその事業の実施を実質的統括管理する権限及び責任を有する者(例えば,支店長及び工場長)から専任する必要があります。
(2) 安全管理者(労働安全衛生法11条)は,50人以上の事業場で必要となりますし,建設業等については300人以上の事業場で専任の安全管理者が必要となります(労働安全衛生法施行令3条)ところ,産業安全に関する実務経験又は労働安全コンサルタントの資格が必要になります。
    また,新たに安全管理者を選任する場合,従来の学歴と実務経験に加え,厚生労働大臣が定める安全管理者選任時研修を修了している必要があります(労働安全衛生法施行規則5条)。
(3) 衛生管理者(労働安全衛生法12条)は,50人以上の事業場で必要となります(労働安全衛生法施行令4条)ところ,衛生管理者免許,衛生工学衛生管理者免許,医師,歯科医師,労働衛生コンサルタント等の資格が必要になります。
    なお,製造業,運送業等の衛生管理者については第二種衛生管理者免許では足りません。
(4) 産業医(労働安全衛生法13条)は,50人以上の事業場で必要となります(労働安全衛生法施行令5条)ところ,医師であることに加え,労働衛生コンサルタント試験(試験区分は保健衛生)に合格していること等が必要になります。
(5) 東京労働局HPの「共通 3 「総括安全衛生管理者」 「安全管理者」 「衛生管理者」 「産業医」のあらまし」が参考になります。
3 安全衛生推進者及び衛生推進者
(1) 安全衛生推進者又は衛生推進者(労働安全衛生法12条の2)は,10人以上の事業場で必要となります(労働安全衛生法施行規則12条の2)ところ,労働安全コンサルタント又は労働衛生コンサルタント等でない限り,事業場に専属の者を選任する必要があります(労働安全衛生法施行規則12条の3第1項)し,関係労働者に氏名を周知させる必要があります(労働安全衛生法施行規則12条の4)。
(2) 建設業,運送業,製造業,自動車整備業等の業種の場合,安全衛生推進者が必要となり,その他の業種の場合,衛生推進者が必要となります。
(3) 安全衛生推進者及び衛生推進者は,都道府県労働局長の登録を受けたもの(例えば,公益社団法人労務管理教育センター)が行う講習(安全衛生推進者養成講習及び衛生推進者養成講習)の修了者でもなることができます。
4 労働安全コンサルタント試験及び労働衛生コンサルタント試験の試験区分
(1) 労働安全コンサルタント試験の試験区分は機械,電気,化学,土木及び建築です。
(2) 労働衛生コンサルタント試験の試験区分は保健衛生及び労働衛生工学です。


第6 従業員の健康診断
1 健康診断の実施
(1) 労働者を雇い入れた場合,事業主は健康診断を行う必要があります(労働安全衛生法66条・労働安全衛生規則43条)。
(2) 事業主は,1年以内ごとに1回,労働者の健康診断を行う必要があります(労働安全衛生法66条・労働安全衛生規則44条)。
(3) RELO総務人事タイムズHP「健康診断の代行業者を活用する。業務負担軽減に役立つ代行業者3社」が載っています。
2 雇入時の健康診断
(1) 栃木労働局HPの「定期健康診断等について」には以下の記載があります。
 パート・アルバイトについても、次の1~3までのいずれかに該当し、かつ1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であるときは、健康診断を実施する必要があります。
 なお、4分の3未満であっても、1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の概ね2分の1以上であるときは、健康診断を実施することが望ましいとされています。
1. 雇用期間の定めのない者
2. 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上(注)使用される予定の者
3. 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上(注)引き続き使用されている者
(注)特定業務従事者(深夜業、有機溶剤等有害業務従事者)にあっては6ヶ月以上 
(2) 例えば,「雇入れ時健康診断 大阪市」でグーグル検索すれば,大阪市内で雇入れ時健康診断を実施している医療機関を調べることができます。
3 定期健康診断
(1) 定期健康診断の場合,身長,腹囲,胸部X線検査,喀痰(かくたん)検査,貧血検査,肝機能検査,血中脂質検査,血糖検査及び心電図検査については,それぞれの基準に基づき,医師が必要でないと認めるときは省略できます。
(2) Sanpo Naviの「定期健康診断の費用は会社負担?健診の種類・項目・義務内容のおさらい」には以下の記載があります。
健康診断は法律により企業に実施が義務付けられているものですので、費用は企業が全額負担することが労働安全衛生法にて定められています。
健康診断は保険適用外のため自由診療となり、費用はさまざまです。
定期健康診断の場合、一人当たり5000円~15000円前後に設定している医療機関・健診機関が多いようです。
(3) 例えば,「定期健康診断 大阪市」でグーグル検索すれば,大阪市内で定期健康診断を実施している医療機関を調べることができます。
4 健康診断実施後の措置
(1) 健康診断個人票の作成及び定期健康診断結果報告書
ア 健康診断の結果は,健康診断個人票を作成し,5年間は保存しておく必要があります(労働安全衛生法66条の3)。
イ 長崎労働局HPの「健康診断個人票」に,健康診断個人票(雇入時)健康診断個人票(定期)等の書式が載っています。
ウ 常時50人以上の労働者を使用する事業者は,所轄の労働基準監督署に対し,定期健康診断結果報告書を提出する必要があります(岡山労働局HPの「健康診断の種類及び報告義務」参照)。
エ 定期健康診断結果報告書は,労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービスを利用して作成することもできます。
(2) 健康診断の結果に基づく措置
ア 健康診断の結果に基づき,健康診断の項目に異常の所見のある労働者について,労働者の健康を保持するために必要な措置について,医師(歯科医師による健康診断については歯科医師)の意見を聞く必要があります(労働安全衛生法66条の4)。
イ 医師又は歯科医師の意見を勘案し必要があると認めるときは,作業の転換,労働時間の短縮等の適切な措置をとる必要があります(労働安全衛生法66条の5)。
ウ 健康診断結果は、労働者に通知する必要があります(労働安全衛生法66条の6)。
エ  健康診断の結果に基づく保健指導健康診断の結果,特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し,医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません(労働安全衛生法66条の7)。
5 その他
(1) 厚生労働省HPに「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~」が載っています。
(2) Carely「定期健康診断の健診項目は省略してはいけません、その理由はこれです。」が載っています。
(3) 労務事情1251号(2013年5月1日付)に「従業員の健康管理にかかわる留意点」が載っています。
(4)ア 濱田会計事務所HPの「Q12 人間ドック費用・健康診断費用等が福利厚生費となる条件/医療費控除や消費税との関係は?」には,健康診断費用を福利厚生費とするための条件の一つとして以下の記載があります。
●健康診断や人間ドック費用は、会社から直接診療機関への支払が必要です。 負担部分を従業員に直接「金銭」で支給した場合は、給与課税されます。例えば、業務上やむを得ず指定日に受診できなかった社員に対し、後日、「人間ドック費用相当」の現金を支給する場合も認められません。
イ 国税庁HPに「人間ドックの費用負担」が載っています。


第7 職場におけるハラスメント防止に関するメモ書き
1 職場におけるパワーハラスメントとは,職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって,②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,③労働者の就業環境が害されるものであり,①から③までの要素を全て満たすものをいいます(厚生労働省HPの「2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!」参照)。
2 職場で発生しやすいハラスメントとしては,セクシュアルハラスメント(セクハラ),パワーハラスメント(パワハラ),マタニティハラスメント(マタハラ),アルコールハラスメント(アルハラ)及び時短ハラスメント(ジタハラ)があります(弁護士法人ALG&Associates HP「職場でのハラスメントを防止するために取るべき対応策」参照)。
3 派遣のミカタHP「パワハラ防止法はなぜできた?法制定の歴史と判例を紹介」には以下の記載があります。
    ハラスメントという言葉が広く知られるきっかけとなったひとつが、1970年代にアメリカで「セクシャルハラスメント(いわゆるセクハラ)」という性的嫌がらせを意味する造語が誕生したことです。その10年後となる1980年代には、日本でもセクハラという言葉を耳にするようになりました。
    日本では、それまでにも性別に端を発した言動が問題にはなっていたものの、それが「セクハラ」という名前であると認知されたことで社会問題となり、今では多くの人に認知されることになりました。
4 厚生労働省HPの「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」には各種ハラスメントの防止に関するパンフレット,事業主指針,施行通達等が載っています。


第8 職業安定法に関するメモ書き
1 職業紹介事業の許可制
(1) 求人及び求職の申込みを受け,求人者と求職者の間の雇用関係の成立をあっせんするという意味での職業紹介事業(職業安定法4条1項)を営むためには,管轄都道府県労働局を経由して,厚生労働大臣の許可を受ける必要があります(職業安定法30条1項及び33条1項の他,厚生労働省HPの「職業紹介事業制度の概要」参照)。
(2) 職業安定法4条1項(成立時の職業安定法5条1項)の「雇用関係」とは,必ずしも厳格に民法623条の意義に解すべきものではなく,広く社会通念上被用者が有形無形の経済的利益を得て一定の条件の下に使用者に対し肉体的,精神的労務を供給する関係にあれば足ります(最高裁昭和29年3月11日判決)。
2 ハローワークインターネットサービス
・ ハローワークインターネットサービスには,「仕事をお探しの方へのサービスのご案内」及び「事業主の方へのサービスのご案内」とかが載っています。
3 社員紹介制度
(1) 社員紹介制度と労働基準法6条及び職業安定法40条との関係については,BUSINESS LAWYERS HP「社員紹介制度における法的な問題はどこにあるか」が参考になります。
(2)    単発で社員候補者を紹介した社員に対し,就業規則に基づく賃金等として支払うのであれば,問題ありません。
4 職業紹介事業に係る法令・指針
・ 厚生労働省HPの「職業紹介事業に係る法令・指針」には以下の資料が掲載されています。
① 職業安定法
② 職業安定法施行令
③ 職業安定法施行規則
④ 職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針
⑤ 職業安定法施行規則第二十条第二項の規定に基づき厚生労働大臣の定める額
5 その他
・ 職業安定法2条(職業選択の自由)は「何人も、公共の福祉に反しない限り、職業を自由に選択することができる。」と定めていて,職業安定法3条(均等待遇)本文は「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。」と定めています。


第9 労働者派遣法に関するメモ書き
1 労働者派遣法の沿革
・ ①労働者派遣法が施行された昭和61年当時,労働者派遣業の対象業務は専門知識が必要な13業務(ただし,施行後直ちに3業務が追加されて16業務)とされていて,②平成8年に10業務が追加されて26業務となり,③平成11年に対象業務が原則として自由化され(「対象業務のネガティブリスト化」といいます。),④平成16年に製造業務への派遣解禁及び派遣期間の延長があり,⑤平成24年に日雇い派遣の原則禁止があり,⑥平成27年に派遣期間の上限の3年統一及び労働者派遣事業の許可制への統一があり,⑦令和2年に同一労働同一賃金が導入があり,⑧令和3年に派遣労働者への説明義務の強化がありました(アデコHPの「労働者派遣法とは? 改正の歴史や罰則まで押さえるべきポイントをまとめて解説」参照)。
2 労働者派遣の禁止業務
(1) 労働者派遣の禁止業務としては,港湾運送業務,建設業務,警備業務があり(労働者派遣法4条1項),労働者派遣の原則禁止業務としては病院等における医療関連業務があります(労働者派遣法施行令2条)。
(2) 厚生労働省HPの「労働者派遣事業を行うことができない業務は・・・」には「2 その他労働者派遣事業ができない業務等」として以下の記載があります。
◯ 次の業務は、当該業務について定める各法令の趣旨から、労働者派遣事業を行うことはできません。
① 弁護士、外国法事務弁護士、司法書士、土地家屋調査士の業務
② 公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士の業務(それぞれ一部の業務を除きます。)
③ 建築士事務所の管理建築士の業務
◯ 人事労務管理関係のうち、派遣先において団体交渉又は労働基準法に規定する協定の締結等のための労使協議の際に使用者側の直接当事者として行う業務は、法第25条の趣旨に照らして行うことはできません。
◯ 同盟罷業(ストライキ)若しくは作業所閉鎖(ロックアウト)中又は争議行為が発生しており、同盟罷業や作業書閉鎖に至るおそれの多い事業所への新たな労働者派遣を行ってはなりません。(法第24条、職業安定法第20条)
◯ 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をすることはできません。(法第58条)
3 労働者供給事業の原則禁止との関係
(1) リクルートスタッフィングHP「労働者派遣法①|わかりやすく解説「派遣法」の歴史【前編1986〜2004】」には「強制的な労働や搾取が横行した人材ビジネス」として以下の記載があります。
    江戸時代から戦前までの労働者供給は「人貸し」「組請負」などと呼ばれ、供給業者による労働者の不当な支配が伴っていました。雇用関係や責任所在が曖昧だったため、劣悪な労働環境や供給元による賃金の搾取(いわゆるピンハネ)といった問題が蔓延します。これらの問題を受け、戦後1947年に公布された職業安定法第44条により、「労働者供給事業」は原則として禁止されるに至りました。
(2) 大阪労働局HPの「労働者派遣事業の概要」には以下の記載があります。
    労働者派遣事業は、昭和61年の労働者派遣法の施行に伴い改正される前の職業安定法第44条によって労働組合が厚生労働大臣の許可を受けて無料で行う場合を除き、全面的に禁止されていた労働者供給事業(下図 i. 参照)の中から、供給元と労働者との間に雇用関係があり、供給先と労働者との間に指揮命令関係しか生じさせないような形態を取り出し、種々の規制の下に適法に行えることとしたものです。
4 労働者派遣契約
(1) 派遣元である派遣会社と労働者を派遣してもらう派遣先は労働者派遣契約を締結する必要がありますところ,派遣契約には労働者派遣法26条及び労働者派遣法施行規則22条所定の事項を定める必要があります。
(2) 労働者派遣契約には基本契約及び個別契約の2種類がありますところ,①基本契約書には料金(通常の派遣料金や派遣先都合による損害金など)やお互いが履行すべき義務(法令遵守や守秘義務),損害賠償に関する取り決め,禁止事項,知的所有権の帰属,契約解除に関する事項など,契約の基本となる内容を盛り込み,②個別契約書には業務内容や派遣期間,人数,就業日,就業時間,残業など,具体的な就業条件を盛り込みます(マネーフォワードクラウド契約「労働者派遣契約法とは?個別契約と基本契約についてもご紹介」参照)。
5 紹介予定派遣
・ 紹介予定派遣の場合,派遣先の企業は直接雇用を前提にしていることを事前に明示する必要がありますし,就業前の書類選考や面接が認められていますし,派遣期間は6ヶ月だけですし,契約期間の途中に直接雇用に切り替えることができます(アデコHPの「紹介予定派遣とは?通常の派遣との違いとメリット」参照)。
6 厚生労働省HPの説明
(1) 平成24年10月1日,労働者派遣法の正式名が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」から「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に改正され,法律の目的にも,派遣労働者の保護のための法律であることが明記されました(厚生労働省HPの「労働者派遣法が改正されました」参照)。
(2) 厚生労働省HPの「平成27年労働者派遣法の改正について」には以下の記載があります。
派遣労働という働き方、およびその利用は、臨時的・一時的なものであることを原則とするという考え方のもと、常用代替を防止するとともに、派遣労働者のより一層の雇用の安定、キャリアアップを図るため、労働者派遣法が改正されました(「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律」平成27年9月11日成立、平成27年9月30日施行)。
(3) 厚生労働省HPの「派遣労働者の同一労働同一賃金について」には以下の記載があります。
働き方改革関連法による改正労働者派遣法により、派遣元事業主は、
1「派遣先均等・均衡方式」(派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇の確保)、
2「労使協定方式」(一定の要件を満たす労使協定による待遇の確保)
のいずれかの待遇決定方式により派遣労働者の待遇を確保することとされ、令和2年4月1日に施行されました。
7 その他
(1) 労働者派遣の形態としては,有期雇用派遣,無期雇用派遣及び紹介予定派遣があります。
(2) 厚生労働省HPの「労働者派遣事業に係る法令・指針・疑義応答集・関連情報等」には例えば,以下の資料が載っています。
・ 労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド
・ 労働者派遣と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示
・ 「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)関係疑義応答集
・ 派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針
・ 派遣先が講ずべき措置に関する指針


第10 採用活動に関するメモ書き
1 公正な採用選考

(1) 厚生労働省HPの「新たな履歴書の様式例の作成について~「様式例」を参考にして、公正な採用選考をお願いします~」には「厚生労働省が作成した履歴書様式例」(令和3年4月16日付)が載っていますところ,【厚生労働省履歴書様式例とJIS規格様式例の相違点】として以下の記載があります。
1. 性別欄は〔男・女〕の選択ではなく任意記載欄としました。なお、未記載とすることも可能としています。
2.「通勤時間」「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」の各項目は設けないことにしました。
(2) 厚生労働省HPの「公正な採用選考チェックポイント」では,例えば,以下の事項はNGとなっています。
・ 応募者から戸籍謄(抄)本・住民票の写しを提出させている。
・ 面接において、本人が生まれたところや家族構成・家族の職業などを尋ねることがある。
・ 面接において、人生観・生活信条・尊敬する人・愛読書などを尋ねることがある。
・ 家庭状況等の身元調査を実施している。
・ 内定者から、戸籍謄(抄)本等を一律に提出させている。
(3) 職業安定法2条(職業選択の自由)は「何人も、公共の福祉に反しない限り、職業を自由に選択することができる。」と定めていて,職業安定法3条(均等待遇)本文は「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。」と定めています。
2 求職者等の個人情報の取得制限
(1) 労働者の募集を行おうとする者は,求職者等の個人情報を収集し,保管し,又は使用するに当たっては,本人の同意がある場合を除き,その業務の目的の達成に必要な範囲内で,収集し,保管し,及び使用しなければなりません(職業安定法5条の5第1項)。
(2)ア 個人情報取扱事業者は,偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはなりません(個人情報保護法20条1項)。
イ 探偵業者は,当該探偵業務に係る調査の結果が犯罪行為,違法な差別的取扱いその他の違法な行為のために用いられることを知ったときは,当該探偵業務を行ってはなりません(探偵業の業務の適正化に関する法律9条1項)。
3 その他
(1) 労働問題.comに「経歴詐称でいかなる懲戒処分ができるか?」が載っています。
(2) 労務事情2022年7月15日号に「〈Q&A〉採用にまつわる労務管理上の諸問題への対応」が載っています。


第11 反社会的勢力排除条項に関するメモ書き
1 総論
(1) 反社会的勢力排除条項(略称は「反社条項」です。)は,契約を締結する際,反社会的勢力ではないことや,暴力的な要求行為等をしないことなどを相互に示して保証する条項であって,暴力団排除条項(略称は「暴排条項」です。)ともいいます(KEIYAKU-WATCHの「反社条項(暴排条項)とは? 契約書に定めるべき理由・条項の例文(ひな形)などを解説!」参照)。
(2) 大阪府暴力団排除条例5条(府民及び事業者の責務)2項は「事業者は、基本理念にのっとり、その事業に関し、暴力団との一切の関係を持たないよう努めるとともに、府が実施する暴力団の排除に関する施策に協力するものとする。」と定めています。
(3) 大阪府警察HPに「暴力団排除条項の記載例」が載っています。
2 従業員の採用と反社会的勢力排除
(1) 企業法務の扉HP「暴力団排除条例と暴力団排除条項」には「取引時の「誓約書」に倣い,従業員の採用時に従業員から暴排の「誓約書」の提出を求めるのも一計です。採用時の提出書類として、従業員から誓約書を提出してもらう事業者がほとんどですので、この誓約書に暴排の条項を入れることになるでしょう。」と書いてあります。
(2) 「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」と定める労働契約法12条からすれば,就業規則にも暴力団排除条項を入れておく必要があると思います。
(3) Legal Expressに「従業員・労働者が反社会的勢力に該当する場合、会社がとるべき対策を弁護士が解説!」が載っています。
3 反社チェック
(1) 企業法務弁護士ナビ「反社チェック6つの方法|契約後に取引先が怪しいと感じたら?」には,取引開始前にすべき反社チェックの方法として,①会社情報の確認,②インターネットによる検索,③新聞記事・Webニュース記事(帝国データバンク及び日経テレコン等)の検索,④風評の調査及び⑤外部機関(警察及び暴力追放運動推進センター)への相談が挙げられています。
(2) 反社会的勢力と認定された人は銀行口座を持つことが非常に難しいことからすれば,反社チェックの方法の一つとして,採用面接の交通費の支払等の名目で求職者の銀行口座を確認した方がいい気がします。
(3) RoboRoboコラム「反社会的勢力の具体的な調査方法は?おすすめのツールや反社への対応方法も解説!」(2022年11月8日付)が載っています。
4 反社会的勢力が行う不当要求の類型
・ 法務省HPの「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(平成19年6月19日付の犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)には「不当要求の二つの類型 接近型と攻撃型」として以下の記載があります。
    反社会的勢力による不当要求の手口として、「接近型」と「攻撃型」の2種類があり、それぞれにおける対策は、次のとおりである。
① 接近型(反社会的勢力が、機関誌の購読要求、物品の購入要求、寄付金や賛助金の要求、下請け契約の要求を行うなど、「一方的なお願い」あるいは「勧誘」という形で近づいてくるもの)
→ 契約自由の原則に基づき、「当社としてはお断り申し上げます」「申し訳ありませんが、お断り申し上げます」等と理由を付けずに断ることが重要である。理由をつけることは、相手側に攻撃の口実を与えるのみであり、妥当ではない。
② 攻撃型(反社会的勢力が、企業のミスや役員のスキャンダルを攻撃材料として公開質問状を出したり、街宣車による街宣活動をしたりして金銭を要求する場合や、商品の欠陥や従業員の対応の悪さを材料としてクレームをつけ、金銭を要求する場合)
→ 反社会的勢力対応部署の要請を受けて、不祥事案を担当する部署が速やかに事実関係を調査する。仮に、反社会的勢力の指摘が虚偽であると判明した場合には、その旨を理由として不当要求を拒絶する。また、仮に真実であると判明した場合でも、不当要求自体は拒絶し、不祥事案の問題については、別途、当該事実関係の適切な開示や再発防止策の徹底等により対応する。
5 暴力団離脱者支援
(1) 公益財団法人大阪府暴力追放推進センターHP「暴追センター案内」には「暴力団離脱者受入協賛企業」として以下の記載があります。
    暴力団離脱者を、雇用してくださる企業を募集しています。
    暴力団対策法施行後、暴追センター等に暴力団員やその家族から「暴力団をやめて、まじめに働きたい。」等の相談が寄せられています。離脱した暴力団員が一般社会人として社会復帰をするためには、生活の基礎となる就労が是非とも必要です。真撃な気持ちで暴力団をやめ、社会復帰を望む人には、「大阪府暴力団離脱者支援対策連絡会」が手助けをしています。
(2)ア 警察庁HPに「暴力団離脱者の口座開設支援について」(令和4年2月1日付の警察庁刑事局組織犯罪対策部暴力団対策課長の文書)が載っています。
イ 日刊ゲンダイHPに「元暴力団員に聞いてわかった「辞めてから5年間の厳しすぎる現実」保険も入れず、保育園の入園拒否も…」(2019年1月24日付)が載っています。
6 警察は原則として,元暴力団員であるかどうかに関する情報を部外に提供していないこと
・ 暴力団排除等のための部外への情報提供について(平成31年3月20日付の警察庁刑事局組織犯罪対策部帳の通達)4頁には,元暴力団員に関する情報提供について以下の記載があります。
    現に自らの意思で反社会的団体である暴力団に所属している構成員の場合と異なり、元暴力団員については、暴力団との関係を断ち切って更生しようとしている者もいることから、過去に暴力団員であったことが法律上の欠格要件となっている場合や、現状が暴力団準構成員、共生者、暴力団員と社会的に非難されるべき関係にある者、総会屋及び社会運動等標ぼうゴロとみなすことができる場合は格別、過去に暴力団に所属していたという事実だけをもって情報提供しないこと。
7 反社会的勢力排除条項の拡張は独占禁止法との関係で制限されると思われること
(1) 反社会的勢力排除条項の中には「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」を従業員としている企業を反社会的勢力とした上で,「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」を従業員としている企業についても下請業者,委託業者,外注先及び調達先(以下「下請業者等」といいます。)から排除するように求めている条項を見かけることがあります。
    しかし,職業安定法5条の5(求職者等の個人情報の取扱い)との関係で自社の従業員でも必ず調査することは難しいと思いますが,下請業者等の従業員が「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」に該当するかどうかまで必ず調査することは不可能と思います。
    また,このような条項をそのまま適用した場合,暴力団離脱者受入協賛企業まで下請業者等から排除する必要がありますところ,警察及び暴力追放運動推進センターの活動を否定する側面があることをも考慮すれば,そのような行為は独占禁止法19条(不公正な取引方法の禁止)に違反して独占禁止法20条に基づく排除措置命令の対象となる可能性があると思います。
(2) 不公正な取引方法に関しては例えば,以下の条文があります(「不公正な取引方法」は独占禁止法2条9項6号に基づくものです。)。
① 独占禁止法2条9項5号
五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
(中略)
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。
② 不公正な取引方法12項(拘束条件付取引)
法第二条第九項第四号又は前項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること
(3)ア 独占禁止法に違反する事実があると思うときは,だれでも,公正取引委員会にその事実を報告し,適当な措置を採るよう求めることができます(独占禁止法45条1項)。
    また,独占禁止法に違反する事実があるという報告が報告者の氏名又は名称及び住所が記載された書面で行われ,具体的な事実を示しているものである場合,公正取引委員会は,その報告に係る事件についてどのような措置を採ったか,又は措置を採らなかったかを報告者に通知することになっています(独占禁止法45条3項のほか,公正取引委員会HPの「申告」参照)。
イ 公正取引委員会HPに「相談・届出・申告の窓口」が載っていますところ,大阪府の事業所の場合,近畿中国四国事務所が窓口となります。
8 反社会的勢力排除条項がない場合,錯誤無効を主張できないこと
・ 信用保証協会と金融機関との間で保証契約が締結され融資が実行された後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合において,信用保証協会の保証契約の意思表示に要素の錯誤がないと判示した最高裁平成28年1月12日判決からすれば,仮に下請業者等が反社会的勢力に該当したとしても反社会的排除条項を含む契約書を作成していない限り,下請け業者等との取引について錯誤無効(令和2年4月1日以降は「錯誤取消し」)を主張することはできません。
    そのため,反社会的勢力排除条項がない限り,反社会的勢力排除に該当する下請先等との取引を当然に打ち切ることはできないと思います。
9 暴力団排除条項を確認する場合に気を付けるべき点
    暴力団排除条項を確認する場合,以下の事項を受け入れるかどうかについては特に気をつけた方がいいと思います。
① 「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」を排除の対象に含めること。
・ 反社5年ルール(「暴力団員でなくなつた日から5年を経過しない者」まで反社会的勢力とするルール)はよく見かけるものの,元暴力団員であるかどうかを調査することは容易ではありません。
・ 役員に元暴力団員がいる企業であってもハローワークに求人の申込みを提出できます(職業安定法5条の6第1項5号)。
② 従業員を排除の対象に含めること。
・ 厚生労働省の「公正な採用選考の基本」からすれば,
家族に関すること,生活環境・家庭環境に関すること,人生観・生活信条に関することを聞いてはいけませんし,身元調査などの実施は禁止されているわけですから,採用時点で暴力団員であるかどうかが分かるとは限りません。
・ 採用した従業員が暴力団員であることが判明した場合において,当該従業員の日頃の業務遂行状況に特段の問題がないのであれば,重要な経歴の詐称を理由に解雇することは非常に難しいと思いますし,元暴力団員にすぎない場合についてはなおさら解雇することは難しいです。
・ 役員に暴力団員がいる企業はハローワークに求人の申込みを提出できない(職業安定法5条の6第1項5号)ものの,従業員に暴力団員がいるに過ぎない企業はハローワークに求人の申込みを提出できます。
③ 下請業者等を排除の対象に含めること。
・ 反社会的勢力排除条項を入れた契約書を交わしていない限り,反社会的勢力排除に該当するというだけの理由で取引を打ち切ることはできないと思います(最高裁平成28年1月12日判決参照)。
10 反社会的勢力に関する統一的な定義はないこと
・ 参議院議員熊谷裕人君提出反社会的勢力の定義に関する質問に対する答弁書(令和元年12月13日付)には以下の記載があります。
    政府としては、「反社会的勢力」については、その形態が多様であり、また、その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難であると考えている。 
11 その他

(1) 反社5年ルールを定めた業法の例としては,建設業法,宅建業法,貸金業法,廃棄物処理法及び労働者派遣法があります(RoboRoboコラムの「反社排除の5年条項があれば大丈夫? 反社チェックの必要性を解説」参照)。
(2) 平成23年6月2日付で改正された銀行取引約定書の参考例において,反社5年ルールが記載されるようになりました(全銀協HPの「融資取引および当座勘定取引における暴力団排除条項参考例の一部改正について」(平成23年6月2日付)参照)。
(3) 令和2年4月1日以降につき,暴力団員でなくなつた日から5年を経過しない者は不動産の買受の申出をすることはできません(民事執行法65条の2第1号)。
(4) 取締役等の役員が暴力団員となっている法人は,ハローワークに求人を出すことはできません(職業安定法5条の6第1項5号ロ)。



第12 関連記事その他

1 LISKUL HPに「【2022年最新版】オンラインアシスタントサービス48選を徹底比較!」が載っています。
2(1) 京都府HPに「<労働者向け>新型コロナウイルス感染症に関する支援制度について」が載っています。
(2) 新型コロナにつき,感染者で症状がある人の療養期間は7日間であり,感染者で症状がない人の療養期間は5日間(再検査あり)又は7日間(再検査なし)であり,濃厚接触者の自宅待機期間は5日間です(大阪府HPの「新型コロナウイルス感染症の療養期間及び自宅待機期間について」参照)。
3 以下の記事も参照してください。
・ 個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き
 労災保険の特別加入制度
 労災保険の給付内容
 労災保険に関する書類の開示請求方法
 労災保険の特別加入制度
 労災保険に関する審査請求及び再審査請求
 厚生労働省労働基準局の,労災保険に係る訴訟に関する対応の強化について
 労災隠し
 損益相殺

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