第1 昼休みの電話番は,対応義務の実態で判断する
昼休み中に電話や来客への対応を求められ,労働から離れることが保障されていない場合は,実際に対応していない待機時間も労働時間となる。
厚生労働省も,昼当番として電話・来客対応をする時間は勤務時間に含まれ,昼休みが費やされた場合には別途休憩を与える必要があると説明している(昼当番に関するQ&A)。
ただし,本来自由に休める時間に単発の対応をした場合と,昼休み全体にわたり応答を求められた場合とでは,計上する時間の範囲が異なる。
①労働時間に含める範囲,②法定休憩の不足,③通常賃金及び割増賃金の不足を分けて確認する必要がある。
本記事は,令和8年8月31日現在の法令等を基に,民間事業場の通常の日中勤務を扱うものである。
公務員,管理監督者等の適用除外,変形労働時間制等に固有の問題は対象とせず,計算例は1日8時間・1週40時間制を前提とする。
第2 昼休み全体の待機と単発の対応を分ける
1 電話が鳴らなくても待機義務が続く場合
12時から13時まで電話当番を命じられ,電話が鳴れば直ちに応答しなければならない場合,通話が5分で終わったからといって,残り55分を当然に休憩とすることはできない。
食事ができたことや,その日に来客がなかったことだけでは,対応義務が解除されていたとはいえない。
厚生労働省の「労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集」問6も,電話・来客への対応が要求される場合には,実際の対応がない時間も労働時間に該当すると説明している。
客が途切れたときに休んでよいという運用でも,来店があれば即座に業務へ戻る必要があるなら,労働から離れることを保障した休憩ではないとされている(同資料20頁~21頁〔PDF27頁~28頁〕)。
2 自由な休憩中に一度だけ対応した場合
同じ問6は,外出等が自由で,電話・来客対応を義務付けられていなかった時間を休憩としている。
そのような休憩中に顧客対応を余儀なくされた場合には,その対応に要した時間を労働時間として扱うと説明している。
したがって,対応の前後に自由な休憩へ戻れたのか,対応後も電話のそばで待つよう求められたのかを区別する必要がある。
「1件電話を受けた」という事実だけから,昼休み全部又は通話時間だけのいずれかに決めることはできない。
なお,この参考事例集は,脳・心臓疾患及び精神障害の労災認定に用いる業務参考資料である。
休憩の実態を整理する参考にはなるが,それ自体が民事の賃金請求について裁判所を拘束する基準というわけではない。
3 当番表がなくても実際の指示と運用を確認する
労働時間適正把握ガイドラインは,明示又は黙示の指示による業務を労働時間とし,即時の業務対応を求められ,労働から離れることが保障されない待機も含めている(1頁~2頁)。
書面の当番表がなくても,受付に残るよう求められたことや,電話に出ないと注意されたことなど,実際の運用が問題となる。
反対に,別の担当者が応答し,本人は対応不要で自由に休めたのであれば,自分の判断で事務所に残ったというだけで労働時間にはならない。
外出の可否,応答しなかった場合の扱い,交代要員の有無及び上司の認識を組み合わせて確認するのが相当である。
第3 大星ビル管理事件の判断と昼休みへの射程
1 実作業のない仮眠時間も労働時間とした理由
最高裁判所第一小法廷平成14年2月28日判決(平成9年(オ)第608号・第609号,民集56巻2号361頁。大星ビル管理事件)は,ビル管理会社の従業員の仮眠時間を扱ったものである。
最高裁は,実作業をしていないことだけで使用者の指揮命令下から離れたとはいえず,労働からの解放が保障されているかによって判断するとした。
同事件では,仮眠室での待機と警報・電話等への即時対応が義務付けられ,実質的にその義務がないといえる事情もなかったため,仮眠時間全体の労働時間性が認められた(判決7頁~8頁)。
昼休みそのものの判決ではないが,対応のない時間にも役務提供の義務が続くかという判断の参考になる。
判決は,実作業の必要が生じることが皆無に等しいなど,実質的な義務付けがない場合も検討している。
ただし,ある日にたまたま電話が鳴らなかったことと,実質的に対応義務がなかったこととは別である。
2 契約上の手当と法定割増賃金は別に判断した
同判決は,労働基準法上の労働時間であることから,当然に労働契約所定の賃金請求権が生じるわけではなく,賃金についての合意内容を確認するとした。
一方で,明確な支払規定がないというだけで無給と解釈することも相当ではないと述べている(判決9頁)。
同事件では,月給や泊り勤務手当等を踏まえ,契約の定めだけに基づく追加の時間外勤務手当等の請求は認められなかったが,労働基準法13条・37条による法定割増賃金の支払義務は別に判断された。
昼当番についても,労働時間に当たるかを確定した後,雇用契約,賃金規程及び既払額を確認する必要がある。
月給制又は当番手当の支給があるという理由だけで,法定割増賃金の不足がないと判断することはできない。
主文は原判決を破棄して東京高裁へ差し戻すものであり,最高裁が請求額をそのまま全額認めたものではない(判決9頁~13頁)。
第4 休憩不足と残業代を別々に計算する
1 実労働時間が8時間を超えると必要な休憩も変わる
労働基準法34条1項・3項は,実労働時間に応じた休憩を勤務の途中に与え,自由に利用させることを求めている。
最低時間は次のとおりであり,終業後に休ませることを勤務途中の休憩の代わりにはできない。
| その日の実労働時間 | 法定休憩の最低時間 |
|---|---|
| 6時間以下 | 同項による付与義務はない |
| 6時間を超え,8時間以下 | 45分 |
| 8時間を超える | 1時間 |
昼休みの対応を加えて実労働時間が8時間を超える場合,必要な休憩も1時間となる。
就業規則や労働契約が法定最低時間より長い休憩を定めている場合には,その定めも確認する必要がある。
2 勤務時間帯と実際の休憩による四つの設例
次の表は説明のための仮設例であり,予定された昼休みは1時間,表に示すもの以外の休憩はなく,実休憩は労働から離れて自由に利用できるものとする。
週単位の超過が別途発生せず,法定休日・深夜労働を含まない通常の1日8時間・1週40時間制を前提としている。
| 設例 | 勤務と昼休みの実態 | 実労働時間 | 法定休憩との関係 | 1日8時間を超える時間 |
|---|---|---|---|---|
| ① | 9時~18時。昼1時間の全体で電話当番 | 9時間 | 実休憩0分。必要な1時間を欠く | 1時間 |
| ② | 9時~18時。自由な昼休み中に単発対応10分 | 8時間10分 | 実休憩50分。必要な1時間に10分不足 | 10分 |
| ③ | 9時~17時。昼1時間の全体で電話当番 | 8時間 | 実休憩0分。必要な45分を欠く | 0分 |
| ④ | ②に加え,9時~18時の途中で自由な休憩を10分追加 | 8時間 | 実休憩60分。法定最低45分と予定休憩60分を満たす | 0分 |
設例③では休憩不足が問題となるが,日単位の法定時間外労働は生じない。
設例④は勤務時間帯の内側で休憩を追加する例であり,その分だけ終業を遅らせて同じ時間だけ働く場合にまで,労働時間が減るという意味ではない。
また,厚生労働省は,ごく短く分割された休憩では自由利用が事実上制限され,休憩と評価できない場合があると説明している(休憩分割に関するQ&A)。
細切れの空き時間を合計するだけでは足りず,実際に業務から離れて休めたかも確認する必要がある。
3 25%割増の対象と既払額を確認する
通常の労働時間制度では,1日8時間又は1週40時間を超える労働が法定時間外労働の問題となる(労働基準法32条)。
最低割増率は原則25%であり,1か月60時間を超える法定時間外労働の超過部分は50%以上となる(同法37条1項,割増率の最低限度を定める政令)。
昼の対応を加えても法定労働時間を超えないなら,法定時間外労働としての25%割増は当然には発生しない。
ただし,その時間の通常賃金や契約上の手当が支払われているかは別に確認し,日単位と週単位の超過を計算する際には同じ時間を重複計上しない。
通常賃金の時間単価を1200円とし,賃金本体も未払いで,25%割増が適用される1時間なら,支払額は1200円×1.25=1500円となる。
同じ条件で10分なら250円であるが,実際の請求額は,適用される割増率,賃金規程及びその時間に対する既払額を確認して算定する。
賃金を精算することと,勤務の途中に法定休憩を与えることは別の義務である。
働いた分を支払っても,休憩を与えなかったことが解消されるわけではない(労働基準法34条・37条,前記昼当番Q&A)。
第5 当番の実態と時間をどの資料で示すか
1 従業員は手元の資料から指示・時間・控除を具体化する
請求を検討する従業員は,いつ,誰の指示で,どの時間帯に対応義務が続き,何分が賃金計算から除かれたのかを具体化するのが出発点となる。
次の表は,前記参考事例集問6の調査事項を踏まえ,昼当番について資料を整理するための実務上の提案である。
| 確認する事実 | 従業員が先に確認する資料 | 会社等の保有資料と取得上の限界 |
|---|---|---|
| 当番の指示と継続時間 | 配布された当番表,本人宛てのメール・チャット,交代時刻のメモ | 業務分担表や受付マニュアルの全版は会社が保有する場合がある。書面と実際の運用も照合する |
| 実際の電話・来客対応 | 本人の対応記録,送信メール,日々のメモ | 代表電話の履歴や受付簿を会社側が管理している場合には,記録の作成・保存の有無と提供の可否も確認を要する |
| 自由に休めた時間 | 外出・休憩・引継ぎの記録,同僚が直接見聞きした具体的事情 | 別担当者の勤務表等は会社側で照合する。食事や在席の記録だけでは結論は決まらない |
| 休憩控除と賃金計算 | 本人が確認できる勤怠,修正申請,給与明細,雇用契約書 | 勤怠の自動控除設定,賃金台帳,賃金規程は会社側の確認も必要となる |
通話履歴は実際の応答時刻を示す資料であり,それだけで通話のない時間の待機義務まで証明できるわけではない。
逆に,着信のない日でも当番の指示が続いていたことを示す資料があれば,履歴が空であることだけで休憩とは決まらない。
日々のメモには,①始業・終業と予定休憩,②当番の指示者・開始終了・交代,③実際の応対時刻,④待機や呼戻しの有無,⑤別に取った休憩と勤怠修正への回答を記録することが考えられる。
当日の記録と後日の追記を区別し,元のデータを改変せずに保存することが望ましいが,特定の様式だけで認定が保証されるものではない。
2 会社は自動控除と実際の当番を照合する
会社側では,当番表,交代要員,実際の応答記録及び勤怠処理を照合し,従業員の申告した休憩が本当に業務から離れた時間だったかを確認する。
労働時間適正把握ガイドラインも,休憩という申告があっても実際には指揮命令下にあった時間を労働時間として扱い,自己申告と客観的記録に著しい乖離がある場合には実態調査と補正を求めている(2頁~3頁)。
「システムで毎日1時間引いている」という説明だけでは,実際に休憩を取れたことの確認にはならない。
他方,パソコンの起動時間を全て労働時間とみなすこともできず,待機の指示や実際の業務との対応を調べる必要がある。
3 追加調査へ進む条件と調査を広げない基準
従業員側では,まず手元の勤怠・当番表・給与明細を日付ごとに突き合わせ,会社へ確認したい日と事項を絞る方法が考えられる。
会社だけが保有するログ等については,対象期間と必要な項目を示して保存・提供を求めることを検討するが,申出だけで必ず取得できるものではなく,既に記録が残っていない場合もある。
資料がそろった段階で,①継続待機を裏付ける日,②単発対応だけを裏付ける日,③自由に休めた日,④資料が足りない日を分け,会社の説明と合わない箇所を特定するのが有用である。
繁忙日の記録だけから全勤務日を一律に1時間とするのではなく,同じ運用が続いていた期間と交代・解除のあった期間を分けて評価する。
大量のログ分析など負担の大きい追加調査は,残る争点,その資料で判明する事実,結論や金額が変わる見込みを説明できる場合に限って検討するのが相当である。
本人と無関係な顧客情報や会社情報まで広く取得せず,適法に扱える資料と必要範囲に絞る必要がある。
対応義務も実際の対応も裏付ける手掛かりがなく,追加資料の所在も特定できない場合には,その時点で請求期間や調査範囲を広げることは勧めにくい。
これは直ちに権利を放棄すべきという意味ではなく,既に説明できる部分を再評価し,時効の確認を先行させた上で,追加調査の費用と得られる情報を比較するという趣旨である。
第6 時効の確認と昼当番の運用改善
1 賃金の時効と記録保存期間を混同しない
労働基準法115条の賃金請求権の消滅時効は条文上5年であるが,附則143条3項により,退職手当を除く賃金は当分の間3年である。
請求できる時から進行するため,各賃金の支払期日を確認し,資料が全部そろうまで時効の検討を後回しにしないことが重要である。
また,同法109条の労働関係記録の保存期間は5年とされ,附則143条1項により当分の間3年とされている。
これは賃金請求権の時効とは別の制度であり,会社の通話履歴やチャットが全て一律に3年間保存され,従業員へ当然に開示されることを意味しない。
記録ごとの保存期間の起算日等は,労働基準法に関するメモ書きで整理している。
具体的な請求では,対象となる支払期日と,時効の完成を防ぐために必要な対応を個別に確認する必要がある。
2 会社は対応を引き継ぎ,勤務途中に休憩を確保する
昼当番が必要な場合,会社は休憩中の従業員に応答を求め続けるのではなく,別の担当者への引継ぎ等によって,業務から離れられる時間を確保する必要がある。
当番の終了時刻,代わりに対応する者,途中で呼び戻した場合の勤怠修正と休憩の確保を明確にすることが考えられる。
交代で休憩を取る仕組みを導入する際には,休憩の一斉付与の原則も確認する。
労働基準法34条2項は,過半数労働組合又は過半数代表者との書面による協定がある場合を例外とし,労働基準法施行規則31条は一定の事業について同項の適用を除外しているが,一斉付与の例外であることだけで休憩時間数や自由利用の義務がなくなるわけではない。
第7 出典
1 法令
①労働基準法(昭和22年法律第49号)13条,32条,34条,37条,109条,115条及び附則143条(e-Gov法令検索)
②労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)31条(e-Gov法令検索)
③労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(平成6年政令第5号)(e-Gov法令検索)
2 裁判例
①最高裁判所第一小法廷平成14年2月28日判決(平成9年(オ)第608号・第609号,民集56巻2号361頁,裁判所ウェブサイト。大星ビル管理事件)
3 所管行政機関の解説・Q&A・運用資料
①厚生労働省「私の職場では,昼休みに電話や来客対応をする昼当番が月に2~3回ありますが,このような場合は勤務時間に含まれるのでしょうか。」(労働基準法に関するQ&A。公表日表示なし)
②厚生労働省「労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集」問6,20頁~21頁(PDF27頁~28頁),令和3年3月30日付け基補発0330第1号・労働基準局補償課長通知の別添(労災認定の業務参考資料)
③厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日),1頁~3頁(PDFも同頁)
④厚生労働省「休憩時間を分割する場合どのようなことに注意が必要でしょうか。」(労働基準法に関するQ&A。公表日表示なし)