第1 総付景品の上限は既に変わったのか
令和8年8月31日現在,消費者庁が掲載する総付景品の一般的な数値上限は,取引価額が1000円未満の場合は200円,1000円以上の場合は取引価額の20%である(総付景品告示1項)。
令和8年7月21日に閣議決定された規制改革実施計画163頁~164頁は,上限の引上げについて調査・検討を進める方針と日程を定めたものである。
新しい金額・割合や具体的な施行日を定めたものではなく,本記事で確認した公表資料の範囲でも,これらを定めた改正告示は確認できない。
| 項目 | 決まったこと | まだ確定していないこと |
|---|---|---|
| 検討対象 | 200円の定額部分と20%の定率部分の双方 | 改定後の金額・割合 |
| 日程 | 令和8年度に検討開始,令和9年に結論,結論後速やかに措置 | 改正告示の具体的な施行日 |
| 将来の点検 | 措置後の再点検の実施・時期を検討する | 再点検までの年数,規制を廃止するかどうか |
本記事は,日本の一般的な総付景品規制と今回の見直しの現在地を扱い,個別企画の適法性やすべての業種別規制を判定するものではない。
景品表示法全体の仕組みは,本ブログの「景品表示法の仕組み―景品規制・不当表示・ステマ規制・法執行(AI作成)」を参照されたい。
第2 現在の200円・20%という上限
総付景品(総付け景品)とは,懸賞によらずに提供する景品類である。
購入者全員へのプレゼントのほか,原則として購入申込みや来店の先着順に提供する景品類も含まれる(消費者庁「総付景品について」Q109)。
一般的な数値上限は次のとおりであるが,告示1項は,正常な商慣習に照らして適当と認められる限度を超えないことも求めている。
したがって,数値以内であることだけで,すべての提供方法が認められるわけではない(総付景品告示1項)。
| 景品提供に係る取引の価額 | 総付景品の数値上限 |
|---|---|
| 1000円未満 | 200円 |
| 1000円以上 | 取引価額の20% |
この一般基準の算式を用いて本記事で計算すると,取引価額が1000円なら200円,2000円なら400円となる。
これは数値上限の計算例であり,個別企画の適法性を示すものではない。
市販されている物と同じ景品の価額は,受領者が通常購入するときの価格で評価する。
事業者の仕入値だけで,上限内かどうかを判断するものではない(「景品類の価額の算定基準について」1(1))。
同じ事業者が同一の取引に付随して二つ以上の景品類を提供する場合は,その合計額で基準を適用する。
別々の企画であることだけでは,合算の対象から外れない(総付景品告示の運用基準1(5)ア・1頁)。
なお,告示2項の適用除外や,備考に定める業種別告示との関係は,数値上限とは別に確認する事項である(告示2項・備考)。
過去には,平成19年3月7日の改正により,100円・10%という上限が200円・20%に引き上げられた。
これは既に実施された改正であり,今回の検討とは区別される(公正取引委員会の平成19年2月28日公表資料1頁~2頁)。
第3 閣議決定で決まった検討の内容
1 何を調べ,公表するのか
規制改革実施計画は,消費者庁が幅広い業界の事業者・事業者団体,消費者団体,研究者・実務家などを対象に調査し,200円の定額部分と20%の定率部分の双方について引上げを検討することとしている。
結論は調査結果の概要等と併せて公表し,その後に必要な措置を講ずるという順序である(同計画163頁~164頁・項目4a)。
調査事項には,販促活動や消費者行動の変化,事業者にとっての利益・不利益,海外制度,予想される消費者被害の内容や発生過程などが含まれる。
必要以上の分量を買うという例も挙げられているが,これは調査すべき問題の例示であり,被害に関する調査結果が既に出たという意味ではない(同計画163頁~164頁)。
2 令和9年の結論と施行日の違い
実施計画の時期欄は,令和8年度に検討を開始し,令和9年に結論を得て,結論を得次第速やかに措置を講ずるという内容である。
結論の時期は「令和9年」であって,「令和9年度」ではない(同計画163頁・項目4の実施時期欄)。
もっとも,検討の結論を出す時期と,改正後のルールが適用される日は別である。
この日程だけから,令和9年の特定の日に新上限が使えるようになるとはいえない。
3 閣議決定だけで上限変更や廃止が生じるのか
景品表示法4条は,景品類の提供を制限又は禁止する根拠を定めている。
同法6条1項は,制限等を変更する場合にも,公聴会を開いて関係事業者及び一般の意見を求め,消費者委員会の意見を聴くことを定めている。
同条2項により,変更等は告示によって行われるため,実施計画の閣議決定だけで現行の上限が置き換わるわけではない。
また,実施計画は,今回の措置から一定の年数が経過した際の再点検について,実施や時期を検討することとしている。
社会的な理解が得られる状況になった場合の廃止を検討すべきだという指摘にも触れるが,規制の廃止や,一定年数後の自動的な廃止を決定したものではない(同計画164頁・項目4b)。
第4 業界団体が示した二つの300円案
日本フランチャイズチェーン協会は,令和8年4月13日の会議資料で,次の二つの提案例を示した。
いずれも定額部分は300円であるが,定率部分と,定額・定率を分ける取引価額が異なる(同協会資料10頁・PDF11頁)。
| 案 | 取引価額 | 上限 |
|---|---|---|
| ① | 1000円未満 | 300円 |
| ① | 1000円以上 | 取引価額の30% |
| ② | 1500円未満 | 300円 |
| ② | 1500円以上 | 取引価額の20% |
提案例①は割合も引き上げる案であり,提案例②は20%を維持し,境目となる取引価額を1500円に変更する案である。
したがって,両案を混ぜて「1000円未満は300円,1000円以上は20%になる」と説明することは,原資料の提案例を正確に表したものではない。
これに対し,7月21日の実施計画には,このいずれかを採択したとの記載はない。
300円や30%は,改正済みの上限としてではなく,検討過程で示された提案として読むことになる(同計画163頁~164頁)。
第5 見直しをめぐる意見と判断材料
1 定額と割合で異なる論点
令和8年4月13日の会議で,宮下和昌専門委員は,物価上昇を踏まえた200円の定額部分の引上げに前向きな意見を述べる一方,20%の割合部分については,現行基準で生じる具体的な支障の精査を求めた。
規制自体の必要性を認めており,定額を300円にするなら割合も30%にするという単純な連動を支持したものではない(議事録12頁~13頁)。
消費者機構日本の鈴木敦士氏は,実用的な景品を提供したいという事情に理解を示している。
その上で,特に割合を引き上げる需要,商品価格への費用転嫁,弱い立場の取引先への負担や市場競争への影響を調べる必要性を指摘した(議事録18頁~19頁)。
大高友一弁護士は,過剰な購入や子供等の判断への影響から規制の必要性を述べる一方,現行ルールをそのまま維持することにも疑問を示し,宮下委員の提案に共感するとした。
この発言は,日弁連や委員会を代表する意見ではなく,個人の意見であると明示されている(議事録20頁~21頁)。
平山賢太郎弁護士は,総付景品が消費者の選択肢や体験を豊かにする面にも言及し,被害防止との両立のため,被害が生じる過程の実証的な調査と結果の公表を求めた。
同弁護士も個人の意見であると明示しており,これらの発言を団体全体の統一見解として扱うことはできない(議事録21頁~22頁)。
2 執行件数や利用率から分かる範囲
消費者庁の会議資料では,令和3年度から令和7年度までの総付景品規制に関する「措置命令」(令和6年度・令和7年度は「措置命令等」)の処理件数は,各年度0件である。
「指導」の件数は,順に6件,4件,2件,0件,3件とされている(消費者庁資料5頁)。
本記事では,この集計を消費者被害が存在しないことの根拠にはできないと考える。
特定の機関・期間・処理種別の集計であり,すべての被害や他の法令による対応を測ったものではないからである。
また,協会資料の販促企画の利用率は,A社へのヒアリングに基づく数字である(協会資料9頁・PDF10頁)。
本記事では,その利用率だけから,一般消費者の利益や被害の大小を判断することもできないと考える。
企画が利用された割合と,その企画によって消費者に生じた利益・被害とは,測っている対象が異なるためである。
第6 今後の企画で確認する公表資料
本記事の実務上の提案は,将来の制度について,①調査結果と検討の結論,②改正告示の金額・割合,③施行日と経過措置,④運用基準・Q&Aの変更を分けて確認することである。
特に,購入日と景品提供日が異なる企画では,どの取引から新しい基準が適用されるかを,実際に公表された規定で確認することになる。
本記事の確認範囲は,令和8年8月31日時点の消費者庁の告示・Q&A・意見募集等の掲載,内閣府の実施計画と会議資料,及びこれらを対象とする検索であり,非公表の調査進捗や今後の政策判断は含まれない。
企画の実施前には,消費者庁の告示一覧や意見募集の掲載等で,その後の公表状況を再確認されたい。
第7 出典
1 法令・告示
①e-Gov法令検索「不当景品類及び不当表示防止法」(昭和37年法律第134号。令和8年5月21日施行版の本則4条・6条を確認)。
②「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第5号。消費者庁掲載。全1頁)。
2 行政機関の解説・運用資料
①「『一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準について」(昭和52年事務局長通達第6号。消費者庁掲載。1頁~3頁)。
②「景品類の価額の算定基準について」(昭和53年事務局長通達第9号。消費者庁掲載。全1頁)。
③消費者庁「総付景品について」(Q109・Q110)。
④公正取引委員会「『一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の一部改正について」(平成19年2月28日。1頁~2頁)。
⑤消費者庁「告示」及び「パブリック・コメント」(令和8年8月31日確認)。
3 閣議決定・会議記録・行政説明資料
①「規制改革実施計画」(令和8年7月21日閣議決定。内閣府公表。163頁~164頁,PDF167頁~168頁)。
②第13回スタートアップ・イノベーション促進ワーキング・グループ議事録(令和8年4月13日開催。内閣府公表。12頁~13頁・18頁~22頁の各発言)。
③消費者庁表示対策課「消費者庁資料」(令和8年4月13日。同会議資料1。5頁)。
4 業界団体の提案資料
①日本フランチャイズチェーン協会「『景品表示法(総付景品)の見直し』について」(令和8年4月13日。同会議資料2。9頁~10頁,PDF10頁~11頁)。