第1 この記事が扱う範囲
本記事が扱う動揺関節は,膝関節における前十字靱帯・後十字靱帯・側副靱帯の損傷等によって生じる関節の不安定性を主に念頭に置く。もっとも,後述する認定基準は上肢・下肢の3大関節に共通して適用されるため,肘関節や足関節の動揺関節にも基本的な枠組みは共通する。靱帯損傷そのものの診断及び画像所見については交通事故による十字靱帯・側副靱帯損傷の後遺障害――動揺関節,MRI及び等級認定で扱っており,本記事は,動揺性の程度をどのように客観化するかという立証手段の側面に絞る。
ストレスレントゲン撮影は,動揺関節の等級認定において重要な役割を果たすと説明されることが多い。しかし,後述するとおり,その位置づけは「認定基準が明文で要求する要件」ではなく,「認定基準が定める要件を客観的に裏付けるための証拠方法」である。この区別は,撮影が実施できない場合の対応や,撮影結果の証拠価値をめぐる相手方との争いを検討する際の出発点となる。
本記事では,まず法令及び通達の構造を確認し,次に認定基準にいう「硬性補装具」が何を指すかを整理したうえで,応力を加える方向と膝の屈曲角度との対応関係,等級評価の対象となる不安定性の範囲,自賠責保険及び紛争処理機構の判断にみられる考慮要素,裁判例の順に検討する。
第2 動揺関節の等級を定める法令等の構造
1 自動車損害賠償保障法施行令別表第二と支払基準
自動車損害賠償保障法13条1項は,責任保険の保険金額を政令で定めると規定し,これを受けた自動車損害賠償保障法施行令2条が,後遺障害による損害について別表第一及び別表第二の等級に応ずる金額を定めている。関節の機能障害に関する別表第二の文言は抽象的であり,下肢について「一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの」を第8級(同7号),「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」を第10級(同11号),「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」を第12級(同7号)と定めるにとどまる。上肢についても同じ構造で第8級6号,第10級10号,第12級6号が置かれている。
別表第二には「動揺関節」という文言は存在しない。動揺関節がこの等級表に取り込まれるのは,別表第二の備考が「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であつて,各等級の後遺障害に相当するものは,当該等級の後遺障害とする」と定める相当等級(準用等級)の仕組みを介してである。そして,等級認定の具体的な内容は,自賠責保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3が「等級の認定は,原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」と定めていることから,労災保険の障害等級認定基準に委ねられている。
2 労働基準局長通達が定める硬性補装具の要否による区分
労災保険の障害等級認定基準のうち,動揺関節に関する部分を定めているのは,「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号)である。同通達は,下肢の動揺関節について,他動的なものであるか自動的なものであるかを問わず,常に硬性補装具を必要とするものは第8級に準ずる関節の機能障害として,時々硬性補装具を必要とするものは第10級に準ずる関節の機能障害として,重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないものは第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱うものとする。習慣性脱臼及び弾発ひざも第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱われる。
上肢では区分が異なり,常に硬性補装具を必要とするものが第10級,時々硬性補装具を必要とするものが第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱われ,下肢のような第8級相当の区分は置かれていない。すなわち,動揺関節の等級を分けるのは動揺の角度や移動量そのものを示す数値基準ではなく,「硬性補装具をどの程度必要とするか」という機能的・臨床的な判断であり,この点が,等級を争う際に何を立証すべきかを規定している。
3 認定基準はストレスレントゲン撮影を要件として明記していないこと
前記通達の本文には,ストレスレントゲン撮影を実施すべきこと,あるいは健側との差を何ミリメートル以上とすべきこと等の撮影方法・数値基準は定められていない。労災保険の障害認定実務を体系的に解説する資料においても,動揺関節の項目は硬性補装具の要否による区分を掲げるにとどまり,ストレスレントゲン撮影という語は用いられていない。したがって,ストレスレントゲン撮影は,認定基準が要求する法的要件そのものではなく,硬性補装具を必要とする程度の関節動揺性が存在することを客観的に裏付けるために実務が用いる証拠方法と位置づけられる。
もっとも,証拠方法にすぎないとはいえ,実務上はその有無が結論を大きく左右する。交通事故の後遺障害を扱う実務書には,動揺関節について「等級認定申請の際,ストレスXPの添付は必須である」とするもの,「ストレス撮影で動揺が立証されない限り,第12級以上の認定はなされない」とするものがあり,撮影がなければ動揺関節の主張は事実上取り上げられないという理解が共有されている。認定基準上の位置づけと実務上の重みとが異なることが,この論点の分かりにくさの一因である。
第3 認定基準にいう「硬性補装具」の意味
1 支柱付きの装具を指すとされていること
前記のとおり等級を分けるのは硬性補装具の要否であるから,何が硬性補装具に当たるかは,等級の当てはめを左右する。実務書には,損害保険料率算出機構の調査事務所が想定する硬性補装具は金属の支柱の入ったブレースであり,膝関節を固定していてもサポーターの類は硬性補装具として説明しない旨を明示して注意を促すものがある。別の実務書も,「硬性補装具」という語は一般にはプラスチック製のものなどを広く含むが,後遺障害の要件としての硬性補装具は一般的な定義に比してやや要件が厳しいとして,同じ方向の注意を促している。
この点は,装具の費用という別の局面にも波及する。下肢の硬性補装具は荷重を受けるため,常用した場合の耐用年数は数年程度とされており,将来の買替えを要することが指摘されている。装具の必要性に関する記録は,等級の当てはめを基礎づけると同時に,将来の装具費用を基礎づける資料にもなる。
2 医学上の装具の分類との対応
硬性と軟性の区別は,賠償実務のための便宜的な区分ではなく,医学上の装具分類にも対応している。整形外科の保存療法に関する実務書は,膝装具を用途別に整理し,前十字靱帯用装具には手術後に装着する治療用の硬性装具と社会復帰後に保護のために用いる軟性装具とがあること,内側・外側側副靱帯用装具は内外側に支柱が付いていること,側副靱帯が不安定な膝関節や関節内骨折後で骨癒合が不完全な症例には両側に支柱の付いた硬性膝装具が用いられることを述べており,膝蓋骨制動サポーターはこれらとは別の項目として扱われている。同書は,膝の支持性の補強に用いられるものとして,支柱付き膝装具とサポーター様軟性装具とを並べて掲げてもいる。
したがって,主治医に装具を処方してもらう場面では,採型して製作する支柱付きの装具であるのか,既製の軟性のものであるのかを区別して確認する実益がある。もっとも,後述する紛争処理事例には,自覚症状として「サポーターなしで軽度不安定感あり」との記載がある事案で第12級7号とされたものがあり,診療録上の語の選択だけで結論が決まるわけではない。区別が意味を持つのは,常時又は時々の装着を要件とする上位等級を主張する局面である。
第4 ストレスレントゲン撮影の内容と撮影方法
1 応力の方向と膝の屈曲角度の対応
ストレスレントゲン撮影は,動揺が疑われる関節に徒手又は器具によって一定方向の力(応力)を加えた状態でレントゲン撮影を行い,骨と骨のずれの程度を健側と患側とで対比して計測する検査である。ここで見落とされやすいのは,応力を加える方向によって評価される靱帯が異なり,かつ,方向ごとに撮影時の膝の屈曲角度が異なるという点である。
| 応力の方向 | 主として評価される靱帯 | 撮影時の膝の屈曲角度 |
|---|---|---|
| 内反・外反(側方) | 外側側副靱帯・内側側副靱帯 | 伸展位及び屈曲30度前後 |
| 前方(脛骨を前方へ) | 前十字靱帯 | 屈曲15度から25度前後(ラックマン肢位) |
| 後方(脛骨を後方へ) | 後十字靱帯 | 屈曲90度前後 |
後十字靱帯の後方動揺を屈曲90度前後で評価することは,国内の実務書にも「膝を90度屈曲すると下腿の重みで脛骨が後方に落ち込む」という形で現れており,後方移動量の計測に関する海外の総説でも,屈曲90度が最も一般的で,屈曲85度から92度の範囲で再現性が高いとされている。この対応関係を踏まえると,撮影の可否や結果を検討する際に確認すべきは「何度で撮影したか」だけではなく,「どの方向に応力を加えたか」である。伸展位と屈曲30度前後の組合せは側方の動揺を評価する標準的な肢位であるから,これのみが実施されている場合には,前後方向の動揺は評価されていない可能性がある。
2 健側との左右差を計測することの意味
動揺性の評価は,患側の移動量の絶対値ではなく,健側と対比した左右差によって行うのが基本である。関節の弛緩性には個人差があるため,患側のみの数値からは,受傷によって生じた不安定性の程度を判定することができない。したがって,健側を同一の条件で撮影していない撮影は,実施されていても評価資料としては不十分となる。後方移動量については,左右差5ミリメートル以下,6ミリメートルから10ミリメートル,10ミリメートル以上という区分で重症度を評価するのが一般的である。
また,撮影がされていても,左右差が何ミリメートルであるかが診療録及び後遺障害診断書に記載されていなければ,等級認定の資料としては機能しにくい。画像の交付を受けたことと,計測値が文書として残っていることとは別であるから,撮影を依頼する際には,計測及びその記載までを併せて依頼する必要がある。
3 撮影方法による数値の変動と診断上の限界
撮影の方法には,専用の応力測定器(テロス等)を用いる方法のほか,検者が徒手で応力を加える方法,患者自身の体重や下腿の重量を利用する重力法がある。専用の応力測定器が必要であると理解されることがあるが,医学文献上は,専用機器を用いずに徒手法や重力法によって左右差を計測することが可能とされ,国内でも後十字靱帯の後方動揺を重力位の単純レントゲン側面像で経時的に計測する運用が報告されている。専用機器を保有しないことは,撮影を実施できないことの十分な理由とは限らない。
もっとも,重力法では後方への移動量を実際より小さく評価し得るとの指摘があり,痛みによる筋の防御的収縮があると正確な計測が困難になり得る。数値の意味は撮影方法及び計測条件と切り離して理解することができないから,撮影方法(徒手法・重力法・応力測定器の別),肢位及び加えた力の程度を診療録に残してもらうことが望ましい。
なお,ストレスレントゲン撮影の意義を検討する際には,「靱帯が損傷しているか否かの診断手段」としての側面と,「損傷によって生じている関節動揺性の程度を定量する手段」としての側面とを区別する必要がある。前十字靱帯損傷の診療ガイドラインは,ストレス撮影による前方不安定性の評価が他の診断手段より有用であるかについて一定の見解が得られていないとしており,靱帯損傷そのものの診断はラックマンテスト等の徒手検査及びMRIが中心とされる。動揺関節の等級認定で問題となるのは主として後者,すなわち損傷に伴う動揺性の程度であるから,靱帯の診断としての限界をもって,程度評価のための撮影の有用性まで否定されるものではない。
第5 等級評価の対象となる不安定性
1 十字靱帯の損傷が中心となること
撮影の方向が問題となるのは,どの靱帯の機能不全による動揺性が等級評価の対象となるかが一様でないからである。実務書には,膝の動揺関節は前十字靱帯及び後十字靱帯の損傷によって生じるものであり,内側側副靱帯の損傷だけにとどまるものは後遺障害の対象とならないとするものがある。紛争処理事例にも,内側側副靱帯損傷が認められた事案について,同靱帯損傷は一般に保存的に改善が得られるうえ,ストレス撮影でも動揺関節と評価できる程度の異常可動性は認められないとして動揺関節としての評価を否定し,膝痛を神経症状として第12級13号とした例がある。
このことは,前記第4の1の対応関係と併せると実務的な意味を持つ。側方の動揺のみを撮影しても,等級評価に直接結びつく所見が得られない場合があり得るからである。もっとも,側方の撮影が無意味であるという趣旨ではない。後述するとおり,複合靱帯損傷の事案では,側方や回旋方向の不安定性の有無が上位等級の判断要素とされている。
2 筋力低下に起因する不安定性は対象とならないこと
もう一つ注意を要するのは,不安定性の原因である。紛争処理事例を分析した実務書は,動揺性については関節の骨性構築や靱帯を中心とした軟部支持組織の破綻によるものが評価対象となり,筋萎縮による筋力低下に起因する不安定性は動揺関節としての評価対象にはならないとされていることを指摘する。実際に,膝の動揺性の訴えに対し,不安定性は筋力低下によるものと診断されたことを理由に動揺関節としての評価が得られなかった事例が紹介されている。
したがって,大腿周径の左右差や筋萎縮の所見は,装具の必要性や日常生活・就労上の支障を基礎づける文脈で用いることが穏当であり,動揺性の原因としては,靱帯の損傷及び未再建の状態や骨性の破綻に関する所見を前面に置いて主張を構成する必要がある。なお,靱帯損傷を伴わず,専ら骨性構築の破綻によって動揺関節が生じる事案もあるとされている。
第6 手続の選択
1 事前認定・被害者請求と異議申立て
後遺障害等級の認定は,加害者側の任意保険会社を通じて申請する事前認定と,被害者自身が自動車損害賠償保障法16条1項に基づき損害賠償額の支払を請求する被害者請求とのいずれによっても求めることができる。ストレスレントゲン撮影の画像や医療照会に対する回答書等,被害者に有利な資料を過不足なく提出したうえで認定を求めるためには,提出資料を自ら管理できる被害者請求によることが検討に値する。
認定結果に不服がある場合の異議申立ては,回数に法律上の制限がなく,非該当や下位等級の認定を受けた後に,追加の検査所見や医師の意見書を補って再度の判断を求めることができる。後述する認定理由の例のように,当初は評価されなかった動揺性が,追加の検査結果と医療照会回答書によって異議申立ての段階で認められることがある。
2 紛争処理機構と訴訟
自動車損害賠償保障法23条の5以下は,国土交通大臣及び内閣総理大臣が指定する紛争処理機関の制度を定めており,等級認定をめぐる紛争については,異議申立てとは別に,この指定紛争処理機関による調停を求める途がある。もっとも,紛争処理機関の判断を求める手続は,異議申立てのように繰り返し利用できる性質のものではないため,どの段階でどの手続を用いるかは,手持ちの資料の充実度をみて検討する必要がある。
訴訟においては,裁判所は自賠責保険の等級認定に法的に拘束されるものではなく,提出された証拠に基づいて後遺障害の内容及び程度を独自に判断する。現に,後記第9で紹介する大阪地方裁判所の判決は,自賠責保険が第12級と認定した膝の動揺関節について,裁判所がより上位の等級に相当すると判断した事例である。したがって,自賠責保険の段階で十分な評価が得られなかった場合でも,訴訟において改めて動揺性の程度を主張立証する余地がある。
第7 主張立証上の問題と証拠の収集
1 立証責任と後遺障害診断書への記載
後遺障害による損害を請求する被害者は,後遺障害の存在及びその程度について主張立証責任を負う。動揺関節についていえば,靱帯損傷等による関節の不安定性が存在すること,及びそれが硬性補装具を必要とする程度に至っていることを,客観的資料によって基礎づける必要がある。等級認定は後遺障害診断書に記載された所見を基礎に行われるため,検査を実施しても,その結果や硬性補装具の必要性が診断書に記載されなければ評価の対象とならないおそれがある。
このため,症状固定の前後を通じて,徒手ストレステストの所見,ストレスレントゲン撮影による健側との対比,硬性補装具の処方及び装着の必要性が診療録及び後遺障害診断書に反映されているかを確認することが,立証上の要点となる。なお,動揺関節がある場合には,可動域が正常な可動域の範囲を超える測定値であっても,そのまま後遺障害診断書に記載してよいとされている。
2 撮影の実施をめぐる隘路と被害者側の対応
ストレスレントゲン撮影は,すべての医療機関が日常的に実施しているわけではなく,撮影の可否や方法は各医療機関の判断による。実務書にも,膝関節装具が処方されていたり十字靱帯の損傷があるにもかかわらずストレス撮影がされていないことがあるとして,被害者に確認したうえで撮影を依頼するべきであり,ただし不得手な医師もいるため注意を要する,と指摘するものがある。装具に関する話が先行して撮影が抜け落ちるという経過は,実務上想定されている失敗の型である。
被害者側としては,主治医に対し,動揺性の評価を目的とする撮影の実施を依頼し,実施が困難な場合には,撮影を実施し得る医療機関への紹介(診療情報提供)を求めることが考えられる。診療録や画像は被害者本人の同意に基づいて取得するものであり,加害者側が被害者の診療情報を当然に入手できるわけではないから,この局面では被害者側の方が資料への到達可能性が高い。
他方,被害者側が相手方(加害者側)の関与する資料を要する場面もあり得るが,相手方の占有・支配下にある資料や第三者が保有する記録を求めるには,弁護士会照会,訴訟における調査嘱託,文書送付嘱託又は文書提出命令等の手続を要し,職務上の秘密その他の理由により開示が認められない可能性がある。証拠収集の手段は,いずれの立場から実行するものかを区別して検討する必要がある。
3 動揺性を裏付けるその他の資料
ストレスレントゲン撮影は有力な客観的資料であるが,これのみで動揺関節が評価されるわけではない。徒手による不安定性検査の所見,ギプス等による固定期間の記録,下肢装具の処方及び装着状況等も,硬性補装具の必要性を基礎づける資料となり得る。徒手検査については,検査の名称,どの方向にどの程度の不安定性があるか,健側と比較した結果を診療録に残してもらうことが有用である。
逆に,靱帯損傷が認められる場合であっても,動揺性を裏付ける自覚症状が判然としないとして動揺関節としての評価が困難とされた申請事例もあり,膝くずれ(giving way)の有無・頻度・生じる場面等の自覚症状を,日常動作や就労上の具体的な支障に即して記録することも軽視できない。
第8 自賠責保険及び紛争処理機構の判断にみる考慮要素
1 認定理由に示された考慮要素
自賠責保険の認定理由が何を考慮しているかは,実務書に収録された認定理由書から窺うことができる。内側側副靱帯及び後十字靱帯の損傷に伴う膝の動揺性が異議申立てを経て第12級7号と認定された事例では,認定理由に「ストレスX-P上の動揺性の程度,装具の装着状況等を勘案し」と記載されている。ストレス撮影による動揺性の程度と,装具の装着状況という二つの要素が,並んで判断の基礎とされていることになる。
同じ認定理由は,屈伸時の鈍痛,正座ができないこと,むくみ及びしびれ感といった症状について,動揺関節と「通常派生する関係にある障害」として前記等級に含めて評価する旨を述べている。これらの症状は,動揺関節とは別個の後遺障害として上乗せされるものではないから,主張の組立てにおいても,独立の等級を導く事情としてではなく,動揺性の程度及び日常生活上の支障を具体化する事情として位置づけるのが実際に近い。
2 紛争処理事例にみる等級の分布
紛争処理事例を分析した実務書によれば,補装具装着の必要性については,補装具の日常の装着状況ではなく動揺性の程度により評価するとされた事例があり,装具を現に装着しているかどうかよりも動揺性の程度が判断の中心に置かれている。前記1の認定理由が装具の装着状況にも言及していることと併せると,実務は双方を見つつ,重心を動揺性の程度に置いていると整理することができる。
等級の分布については,同書は,靱帯損傷はあるものの動揺性の証明がない場合には動揺関節としての評価はできないが疼痛があれば第12級13号と認定される可能性があること,1つの靱帯の損傷で動揺性も1方向かつ軽度の場合は第12級7号にとどまる傾向があること,複合靱帯損傷の場合には複数方向で動揺性が生じやすいため第10級の認定となりやすいこと,常に硬性補装具を必要とする第8級の認定例は近年ではあまり見られず,平成17年以前の第8級認定事例では複合靱帯損傷であること,前後に加え側方動揺性も認められること,靱帯損傷に加えて骨性構築の破綻も認められること及び固定装具が常時必要である旨の診断医所見があること等の事情が考慮されていることを指摘する。
具体例として同書が挙げるもののうち,内側側副靱帯・前十字靱帯・後十字靱帯の損傷につき各靱帯とも縫合・再建術が施行され,ストレス撮影でも前方及び後方への動揺性が窺われるものの,手術により関節の安定性が画像上一定程度保たれていることから関節の用を廃するほどの高度な障害とはいえないとして第10級11号とされた事例は,複合靱帯損傷であっても修復の程度が上位等級の可否を左右することを示している。動揺量については,同書は,ストレス撮影で5ミリメートルから8ミリメートルであれば第12級7号,8ミリメートルから10ミリメートルで第10級11号,12ミリメートル以上で第8級7号とする経験則上の目安を紹介しつつ,実際の事例では左右差4ミリメートルの後方落ち込みで第12級7号にとどまったもの,後方引き出し7ミリメートル及び9ミリメートルから10ミリメートルの左右差で第10級とされたものがあるとする。
これらは認定基準そのものではなく,個別事例の集積から読み取られた傾向であるから,数値のみを取り出して等級を予測することはできない。もっとも,動揺性の程度が数値として記録されているか否かで判断の出発点が変わることは,この分布からも確認できる。
第9 裁判例にみる動揺関節の等級判断
動揺関節に関する交通事故の裁判例の多くは下級審のものであり,裁判所ウェブサイトには掲載されていない。以下では,判決全文を確認できた事例を,いずれもその事案限りの判断として紹介する。
1 常時硬性補装具を要するとして第8級と判断した例
大阪地方裁判所平成27年2月10日判決(平成25年(ワ)第6910号,自保ジャーナル1947号55頁,裁判所ウェブサイト未掲載)は,自転車と大型自動二輪車の交差点での衝突事故につき,右膝の動揺関節(脛骨顆部の骨折及び前十字靱帯の脛骨付着部の剥離骨折等に伴うもの)が問題となった事案である。
自賠責保険は,右膝の動揺性を第12級7号(一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの)と認定していたが,裁判所は,症状固定時から右膝の動揺性があり常時硬性補装具を必要とする状況であったとして,膝関節の用を廃したものとして第8級7号に該当すると判断した。将来人工関節による手術が必要となる可能性が高い旨の診断も前提とされている。労働能力喪失率は45パーセント,就労可能期間は症状固定時(54歳)から14年とされ,後遺障害逸失利益は1580万円余と算定された。将来の人工関節置換術と等級との関係については交通事故後の人工関節置換術と後遺障害等級――上肢・下肢の8級・10級,事故起因性及び遅発性置換で別に扱っている。
2 第12級7号とされた例
東京地方裁判所平成24年8月22日判決(平成22年(ワ)第3551号,裁判所ウェブサイト未掲載,判例秘書プラスに登載)は,右膝の動揺関節が問題となった事案である。リハビリテーション科での前後・内外反へのストレステストで軽度の動揺があると評価され,関節鏡検査も実施されている。自賠責保険は,右膝痛や膝崩れ等を含めて第12級7号と認定し,原告は,動揺関節により常時硬性装具が必要であるとして第8級7号に当たると主張したが,裁判所は労働能力喪失率を16パーセントと認めた。自賠責保険の認定した等級を前提とした判断であり,原告が求めた上位等級への引上げは認められなかった例である。
東京地方裁判所平成17年6月21日判決(平成16年(ワ)第17372号,交通事故民事裁判例集38巻3号831頁,裁判所ウェブサイト未掲載)は,左膝の動揺関節が残存した事案である。自賠責保険の事前認定手続において第12級7号と認定され,歩行時に週1回の膝崩れがあること,正座ができないこと,左下腿の知覚異常等が訴えられていた。裁判所は,労働能力喪失率を14パーセントとし,就労可能期間を67歳までの43年間として後遺障害逸失利益を1656万円余と算定した。後遺障害慰謝料は435万円とされているが,これは,労災保険では左膝・下腿部の神経症状が別途第12級12号に該当すると認定されて実質的に2つの後遺障害が残存したこと,加害者側の事故後の対応等の事情を考慮した増額であり,動揺関節のみを理由とするものではない。
3 考慮要素と射程・限界
これらの裁判例から読み取ることができるのは,第1に,等級を分ける中心的な要素が硬性補装具の必要性の程度であり,常時これを要する重度の動揺性は膝関節の用を廃したもの(第8級)と評価され得ることである。第2に,自賠責保険の等級認定と裁判所の判断とは必ずしも一致せず,第12級とされた事案を裁判所が第8級と判断した例(前記大阪地方裁判所の判決)がある反面,原告が第8級を主張したのに対し裁判所が自賠責保険の第12級を前提とした例(前記東京地方裁判所平成24年8月22日判決)もあることである。第3に,ストレステストや関節鏡検査といった他覚的所見,及び膝崩れの頻度・正座の可否等の日常動作上の具体的な支障が,判断の基礎とされていることである。
もっとも,いずれも下級審の事案限りの判断であり,動揺関節一般について裁判所の傾向を断定することはできない。硬性補装具の必要性の程度や将来の手術の見込みは事案ごとの医学的評価に依存するため,個別事案での射程は,当該事案の靱帯損傷の内容及び装具・予後に関する所見に即して検討する必要がある。なお,時々硬性補装具を必要とするもの(第10級11号相当)として動揺関節そのものを評価した交通事故の裁判例は,今回確認した範囲では見当たらなかった。この点は,前記第8の2で紹介した紛争処理事例において複合靱帯損傷で第10級とされた例が複数挙げられていることと対照的であるが,確認できた裁判例の範囲が限られていることによるものと考えられ,第10級の裁判例が存在しないことを意味するものではない。
第10 依頼者からの聴取事項と相手方の反論への備え
1 依頼者から聴取すべき事項
動揺関節の主張を検討するにあたり,依頼者からは,少なくとも次の事項を聴取することが有用である。①受傷した関節の靱帯損傷の有無・内容(診断名,手術の有無,どの靱帯が再建されたか),②膝くずれ等の不安定感の有無,頻度,生じる場面(平地歩行時か,階段昇降・不整地歩行・重量物取扱い等の負荷時か),③装具の処方の有無並びに装具が支柱付きの硬性のものか既製の軟性のものかの別,実際の装着頻度及び装着する場面,④就労・日常生活上の具体的な支障(従前できていた動作との対比),⑤ストレスレントゲン撮影その他の検査の実施状況,実施医療機関,応力を加えた方向及び健側を撮影したか否か。
これらは,硬性補装具の要否がどの区分に当たるかの当てはめと,撮影等の検査を尽くす必要性の判断に直結する。特に不安定感については,漠然とした訴えでは評価につながりにくいため,動作・場面・程度・頻度を具体的に確認することが望ましく,⑤については,撮影の有無だけを確認して足りるとせず,前後方向の撮影がされているか,健側との比較が可能かまで確認する必要がある。
2 相手方から想定される反論
相手方(加害者側)からは,動揺性を裏付ける客観的所見が不足しているという反論のほか,撮影方法や計測条件によって数値が変動し得ることを指摘して計測結果の信頼性を争う反論,前記第5の2の考え方を前提として,不安定性は筋力低下によるものであって靱帯性のものではないとする反論が想定される。また,硬性補装具が現に処方・装着されていないことや,重量物を取り扱う業務に復帰していること等を捉えて,硬性補装具を必要とする程度の動揺性はないとする反論も考えられる。
これらに対しては,撮影方法・肢位を明示したうえで健側と対比した計測結果を示すこと,徒手検査所見や装具の必要性に関する主治医の判断を診療録・意見書として補うこと,未再建の靱帯の存在など不安定性の器質的な基礎を示す所見を明らかにすること,就労の継続が経済的事情によるものであって関節の状態が良好であることを意味しないことを,事実に即して説明することが考えられる。もっとも,就労状況をどう評価するかは事案の具体的事情によるため,装具の必要性に関する医学的所見と整合する形で主張を構成する必要がある。
第11 確認の手順
以上を踏まえ,動揺関節の立証を検討する際の確認の手順を整理すると,次のとおりである。①靱帯損傷の内容と関節動揺性の有無を,診断名・手術記録・徒手検査所見によって確認し,不安定性の原因が靱帯性又は骨性のものとして説明できるかを検討する。②硬性補装具の必要性がどの区分(常時・時々・重激な労働等の際)に当たるかを,処方された装具の種類,装着状況及び主治医の判断に即して検討する。③ストレスレントゲン撮影の実施状況を確認し,実施済みであれば,応力を加えた方向,撮影時の肢位,健側の撮影の有無及び左右差の計測値が記録されているかを確認する。④未実施又は前後方向の撮影が欠けている場合は,撮影方法(徒手法・重力法・応力測定器の別)を含めて実施又は実施医療機関への紹介を主治医に依頼する。⑤検査結果・装具の必要性が後遺障害診断書に記載されているかを確認する。⑥手続として,事前認定・被害者請求・異議申立て・紛争処理機関・訴訟のいずれをどの段階で用いるかを,手持ち資料の充実度に応じて選択する。⑦撮影方法による数値の変動可能性や就労状況の評価など,結論を左右し得る不確実な要素について,相手方の反論を想定した備えを検討する。
個別事案における到達可能な等級は,靱帯損傷の内容,硬性補装具の必要性の程度,検査所見及び予後に関する医学的評価によって異なる。本記事の整理を出発点としつつ,具体的な検査結果及び診療録の記載に即して,追加の確認を行う必要がある。
第12 出典・参考資料
1 法令・告示・通達
①自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)13条1項・16条1項・23条の5(e-Gov法令検索)
②自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)2条及び別表第二(備考を含む。e-Gov法令検索)
③自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3(損害保険料率算出機構ウェブサイト掲載)
④「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号。厚生労働省法令等データベース掲載)
2 裁判例
本文で言及する裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトには掲載されておらず,判例秘書プラスで判決全文を確認した(認証付き商用データベースであるためURLは記載しない)。
①大阪地方裁判所平成27年2月10日判決(平成25年(ワ)第6910号,自保ジャーナル1947号55頁。裁判所HP未掲載。判例秘書プラスにより全文確認)
②東京地方裁判所平成24年8月22日判決(平成22年(ワ)第3551号,判例秘書登載。裁判所HP未掲載。判例秘書プラスにより全文確認)
③東京地方裁判所平成17年6月21日判決(平成16年(ワ)第17372号,交通事故民事裁判例集38巻3号831頁。裁判所HP未掲載。判例秘書プラスにより全文確認)
3 文献
①労災サポートセンター編『労災補償 障害認定必携(第14版)』(労災サポートセンター,2018年)
②榎木貴之・小杉晴洋『自賠責・紛争処理事例と判例から読み解く後遺障害等級認定の判断――傾向を踏まえた交通事故事件処理』(新日本法規出版,2026年)398頁~415頁
③アディーレ法律事務所編『申請事例からみる交通事故後遺障害の等級認定』(中央経済社,2022年)26頁・636頁~637頁・679頁~691頁
④宮尾一郎『交通事故後遺障害診断書3(下肢と足指)』(かもがわ出版,2011年)
⑤宮尾一郎『交通事故後遺障害 等級獲得マニュアル 改訂増補版』(かもがわ出版,2021年)
⑥平岡将人ほか編『適切な賠償額を勝ち取る 交通事故案件対応のベストプラクティス』(中央経済社,2020年)197頁~209頁
⑦小松初男ほか編『後遺障害入門 補訂版』(青林書院,2022年)302頁
⑧日本臨床整形外科学会編『運動器スペシャリストのための整形外科保存療法実践マニュアル』(中山書店,2017年)159頁~166頁
⑨日本整形外科学会・日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会監修『前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン2019(改訂第3版)』(南江堂,2019年)(Mindsガイドラインライブラリ掲載)
⑩中村樹ほか「後十字靱帯再建術後の脛骨後方移動量の経時的変化」整形外科と災害外科74巻3号648頁(2025年)
⑪ストレスレントゲン撮影による関節動揺性計測の再現性,撮影時の膝屈曲角度及び撮影方法による差異に関する医学文献として,Guth JJ, et al. “Reliability of Stress Radiography in the Assessment of Posterior Knee Laxity”, Arthroscopy, Sports Medicine, and Rehabilitation, 2022;4(5):e1851-e1860