膝関節や足関節の靱帯が損傷すると,関節が正常な範囲を超えて動いたり,異常な方向へずれたりすることがある。これが動揺関節(関節動揺性)であり,交通事故の後遺障害では,可動域の制限とは別の系統の障害として評価される。本記事は,この動揺関節の後遺障害等級を得るための立証手段として実務で用いられるストレスレントゲン撮影(実務ではストレスXPとも呼ばれる)について,適用される法令等の構造,医学的な位置づけ,手続の選択及び主張立証上の問題を整理し,弁護士が主張と証拠を検討し相手方の反論に備えるための実務的な視点を示すものである。到達し得る等級は個別の事案における医学的評価によって異なり,本記事の整理は具体的な検査結果及び診療録の記載に即して補う必要がある。
第1 本記事で扱う範囲
本記事が扱う動揺関節は,膝関節における前十字靱帯・後十字靱帯・側副靱帯の損傷等によって生じる関節の不安定性を主に念頭に置く。もっとも,後述する認定基準は上肢・下肢の3大関節に共通して適用されるため,肘関節や足関節の動揺関節にも基本的な枠組みは共通する。
ストレスレントゲン撮影は,動揺関節の等級認定において重要な役割を果たすと説明されることが多い。しかし,後述するとおり,その位置づけは「認定基準が明文で要求する要件」ではなく,「認定基準が定める要件を客観的に裏付けるための証拠方法」である。
この区別は,撮影が実施できない場合の対応や,撮影結果の証拠価値をめぐる相手方との争いを検討する際の出発点となるため,本記事ではまず法令等の構造を確認する。
第2 動揺関節の後遺障害等級を定める法令等の構造
1 自動車損害賠償保障法施行令別表第二と支払基準
自動車損害賠償保障法13条1項は,責任保険の保険金額を政令で定めると規定し,これを受けた自動車損害賠償保障法施行令2条が,後遺障害による損害について別表第一及び別表第二の等級に応ずる金額を定めている。関節の機能障害に関する別表第二の文言は抽象的であり,下肢について「一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの」を第8級(同7号),「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」を第10級(同11号),「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」を第12級(同7号)と定めるにとどまる。上肢についても同じ構造で第8級6号,第10級10号,第12級6号が置かれている。
別表第二には「動揺関節」という文言は存在しない。動揺関節がこの等級表に取り込まれるのは,別表第二の備考が「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であつて,各等級の後遺障害に相当するものは,当該等級の後遺障害とする」と定める相当等級(準用等級)の仕組みを介してである。
そして,等級認定の具体的な内容は,自賠責保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3が「等級の認定は,原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」と定めていることから,労災保険の障害等級認定基準に委ねられている。
2 労働基準局長通達が定める硬性補装具の要否による区分
労災保険の障害等級認定基準のうち,動揺関節に関する部分を定めているのは,「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号)である。同通達は,下肢の動揺関節について,他動的なものであるか自動的なものであるかを問わず,硬性補装具の必要の程度に応じて次のとおり等級を認定するものとする。
ア 下肢の動揺関節
常に硬性補装具を必要とするものは第8級に準ずる関節の機能障害として,時々硬性補装具を必要とするものは第10級に準ずる関節の機能障害として,重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないものは第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱う。習慣性脱臼及び弾発ひざは第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱う。
イ 上肢の動揺関節
上肢では区分が異なり,常に硬性補装具を必要とするものが第10級,時々硬性補装具を必要とするものが第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱われ,下肢のような第8級相当の区分は置かれていない。習慣性脱臼は第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱う。
すなわち,動揺関節の等級を分けるのは動揺の角度や移動量そのものを示す数値基準ではなく,「硬性補装具をどの程度必要とするか」という機能的・臨床的な判断である。この点は,等級を争う際に何を立証すべきかを規定するため,実務上重要である。
3 認定基準はストレスレントゲン撮影を要件として明記していないこと
前記通達の本文には,ストレスレントゲン撮影を実施すべきこと,あるいは健側との差を何ミリメートル以上とすべきこと等の撮影方法・数値基準は定められていない。認定基準が定めるのは,あくまで硬性補装具の要否という機能的要件である。
労災保険の障害認定実務を体系的に解説する資料においても,動揺関節の項目は硬性補装具の要否による区分を掲げるにとどまり,ストレスレントゲン撮影という語は用いられていない。
したがって,ストレスレントゲン撮影は,認定基準が要求する法的要件そのものではなく,硬性補装具を必要とする程度の関節動揺性が存在することを客観的に裏付けるために実務が用いる証拠方法と位置づけられる。
もっとも,後遺障害等級の認定は,後遺障害診断書に記載された客観的な検査所見を基礎として行われるため,証拠方法にすぎないとはいえ,実務上はその有無が結論を大きく左右し得る。この位置づけの理解は,撮影が実施できない場合に代替的な立証をどう構成するか(第5参照)を考える前提となる。
第3 ストレスレントゲン撮影の医学的位置づけ
1 検査の内容と撮影方法
ストレスレントゲン撮影は,動揺が疑われる関節に徒手又は器具によって一定方向の力(応力)を加えた状態でレントゲン撮影を行い,骨と骨のずれの程度を健側と患側とで対比して計測する検査である。膝の前十字靱帯・後十字靱帯の機能不全では前後方向のずれを,内側側副靱帯・外側側副靱帯の機能不全では側方(内反・外反方向)のずれを評価する。
撮影の方法には,専用の応力測定器(テロス等)を用いる方法のほか,検者が徒手で応力を加える方法,患者自身の体重や下腿の重量を利用する重力法(後十字靱帯の後方動揺を側面像で評価する立て膝位・重力位撮影を含む)がある。
2 診断としての位置づけと程度評価としての位置づけの区別
ストレスレントゲン撮影の意義を検討する際は,「靱帯が損傷しているか否かの診断手段」としての側面と,「損傷によって生じている関節動揺性の程度を定量する手段」としての側面とを区別する必要がある。
診断手段としては,前十字靱帯損傷の診療ガイドラインが,ストレス撮影による前方不安定性の評価について,他の診断手段より有用であるかは一定の見解が得られていないとしており,靱帯損傷そのものの診断はラックマンテスト等の徒手検査及びMRIが中心とされる。
他方,靱帯機能の喪失が確認された関節において,その動揺の程度を健側と対比して定量する手段としては,撮影方法・肢位を標準化して左右差を計測すれば計測の再現性は高いとする報告がある。もっとも,重力法等では後方への移動量を実際より小さく評価し得るとの指摘もあり,撮影方法によって数値が変動し得る点には留意を要する。
動揺関節の等級認定で問題となるのは主として後者,すなわち損傷に伴う動揺性の程度であるから,靱帯の診断としての限界をもって,程度評価のための撮影の有用性まで否定されるものではない。
3 専用の応力測定器がなくても実施し得ること
ストレスレントゲン撮影には専用の応力測定器が必要であると理解されることがあるが,医学文献上は,専用機器を用いずに徒手法や重力法によって左右差を計測することが可能とされ,国内でも後十字靱帯の後方動揺を重力位の単純レントゲン側面像で経時的に計測する運用が報告されている。
したがって,専用機器を保有しないことは,撮影を実施できないことの十分な理由とは限らない。この点は,医療機関が撮影に消極的な場合の交渉(第5の2参照)において意味を持つ。
もっとも,撮影方法によって計測値が変わり得ること,及び痛みによる筋の防御的収縮があると正確な計測が困難になり得ることは,撮影を求める側にとっても留意すべき事情である。数値の意味は撮影方法及び計測条件と切り離して理解することができない。
第4 手続の選択
1 事前認定・被害者請求と異議申立て
後遺障害等級の認定は,加害者側の任意保険会社を通じて申請する事前認定と,被害者自身が自動車損害賠償保障法16条1項に基づき損害賠償額の支払を請求する被害者請求とのいずれによっても求めることができる。
ストレスレントゲン撮影の画像や医療照会に対する回答書等,被害者に有利な資料を過不足なく提出したうえで認定を求めるためには,提出資料を自ら管理できる被害者請求によることが検討に値する。
認定結果に不服がある場合の異議申立ては,回数に法律上の制限がなく,非該当や下位等級の認定を受けた後に,追加の検査所見や医師の意見書を補って再度の判断を求めることができる。
2 紛争処理機構と訴訟
自動車損害賠償保障法23条の5以下は,国土交通大臣及び内閣総理大臣が指定する紛争処理機関の制度を定めており,等級認定をめぐる紛争については,異議申立てとは別に,この指定紛争処理機関による調停を求める途がある。
もっとも,紛争処理機関の判断を求める手続は,異議申立てのように繰り返し利用できる性質のものではないため,どの段階でどの手続を用いるかは,手持ちの資料の充実度をみて検討する必要がある。
訴訟においては,裁判所は自賠責保険の等級認定に法的に拘束されるものではなく,提出された証拠に基づいて後遺障害の内容及び程度を独自に判断する。
現に,後記第6で紹介する大阪地方裁判所の判決は,自賠責保険が第12級と認定した膝の動揺関節について,裁判所がより上位の等級に相当すると判断した事例である。したがって,自賠責保険の段階で十分な評価が得られなかった場合でも,訴訟において改めて動揺性の程度を主張立証する余地がある。
第5 主張立証上の問題と証拠の収集
1 立証責任と後遺障害診断書への記載
後遺障害による損害を請求する被害者は,後遺障害の存在及びその程度について主張立証責任を負う。動揺関節についていえば,靱帯損傷等による関節の不安定性が存在すること,及びそれが硬性補装具を必要とする程度に至っていることを,客観的資料によって基礎づける必要がある。
等級認定は後遺障害診断書に記載された所見を基礎に行われるため,検査を実施しても,その結果や硬性補装具の必要性が診断書に記載されなければ評価の対象とならないおそれがある。
このため,症状固定の前後を通じて,徒手ストレステストの所見,ストレスレントゲン撮影による健側との対比,硬性補装具の処方及び装着の必要性が診療録及び後遺障害診断書に反映されているかを確認することが,立証上の要点となる。
2 撮影の実施をめぐる隘路と被害者側の対応
ストレスレントゲン撮影は,すべての医療機関が日常的に実施しているわけではなく,撮影の可否や方法は各医療機関の判断による。被害者側としては,主治医に対し,動揺性の評価を目的とする撮影の実施を依頼し,実施が困難な場合には,撮影を実施し得る医療機関への紹介(診療情報提供)を求めることが考えられる。
診療録や画像は被害者本人の同意に基づいて取得するものであり,加害者側が被害者の診療情報を当然に入手できるわけではない。この点で,被害者側と加害者側とでは,動揺性を裏付ける医学的資料への到達可能性が異なる。
他方,被害者側が相手方(加害者側)の関与する資料を要する場面もあり得るが,相手方の占有・支配下にある資料や第三者が保有する記録を求めるには,弁護士会照会,訴訟における調査嘱託,文書送付嘱託又は文書提出命令等の手続を要し,職務上の秘密その他の理由により開示が認められない可能性がある。証拠収集の手段は,いずれの立場から実行するものかを区別して検討する必要がある。
3 動揺性を裏付けるその他の資料
ストレスレントゲン撮影は有力な客観的資料であるが,これのみで動揺関節が評価されるわけではない。徒手による不安定性検査の所見,ギプス等による固定期間や筋萎縮の所見,下肢装具の装着状況等も,硬性補装具の必要性を基礎づける資料となり得る。
逆に,靱帯損傷が認められる場合であっても,動揺性を裏付ける自覚症状が判然としないとして動揺関節としての評価が困難とされた申請事例もあり,膝くずれ(giving way)の有無・頻度・生じる場面等の自覚症状を,日常動作や就労上の具体的な支障に即して記録することも軽視できない。
第6 裁判例にみる動揺関節の等級判断
動揺関節に関する交通事故の裁判例の多くは下級審のものであり,裁判所ウェブサイトには掲載されていない。以下では,判決全文を確認できた事例を,いずれもその事案限りの判断として紹介する。認定されている等級は,確認できた範囲では第12級7号を中心とし,重度の動揺性については第8級とされた例がある。
1 常時硬性補装具を要するとして第8級と判断した例
大阪地方裁判所平成27年2月10日判決(平成25年(ワ)第6910号,自保ジャーナル1947号55頁,裁判所ウェブサイト未掲載)は,自転車と大型自動二輪車の交差点での衝突事故につき,右膝の動揺関節(脛骨顆部の骨折及び前十字靱帯の脛骨付着部の剥離骨折等に伴うもの)が問題となった事案である。
自賠責保険は,右膝の動揺性を第12級7号(一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの)と認定していたが,裁判所は,症状固定時から右膝の動揺性があり常時硬性補装具を必要とする状況であったとして,膝関節の用を廃したものとして第8級7号に該当すると判断した。将来人工関節による手術が必要となる可能性が高い旨の診断も前提とされている。労働能力喪失率は45パーセント,就労可能期間は症状固定時(54歳)から14年とされ,後遺障害逸失利益は1580万円余と算定された。
2 第12級7号とされた例
東京地方裁判所平成24年8月22日判決(平成22年(ワ)第3551号,裁判所ウェブサイト未掲載,判例秘書プラスに登載)は,右膝の動揺関節が問題となった事案である。リハビリテーション科での前後・内外反へのストレステストで軽度の動揺があると評価され,関節鏡検査も実施されている。
自賠責保険は,右膝痛や膝崩れ等を含めて第12級7号と認定し,原告は,動揺関節により常時硬性装具が必要であるとして第8級7号に当たると主張したが,裁判所は労働能力喪失率を16パーセントと認めた。自賠責保険の認定した等級を前提とした判断であり,原告が求めた上位等級への引上げは認められなかった例である。
東京地方裁判所平成17年6月21日判決(平成16年(ワ)第17372号,交通事故民事裁判例集38巻3号831頁,裁判所ウェブサイト未掲載)は,左膝の動揺関節が残存した事案である。自賠責保険の事前認定手続において第12級7号と認定され,歩行時に週1回の膝崩れがあること,正座ができないこと,左下腿の知覚異常等が訴えられていた。
裁判所は,労働能力喪失率を14パーセントとし,就労可能期間を67歳までの43年間として後遺障害逸失利益を1656万円余と算定した。後遺障害慰謝料は435万円とされているが,これは,労災保険では左膝・下腿部の神経症状が別途第12級12号に該当すると認定されて実質的に2つの後遺障害が残存したこと,加害者側の事故後の対応等の事情を考慮した増額であり,動揺関節のみを理由とするものではない。
3 考慮要素と射程・限界
これらの裁判例から読み取ることができるのは,第1に,等級を分ける中心的な要素が硬性補装具の必要性の程度であり,常時これを要する重度の動揺性は膝関節の用を廃したもの(第8級)と評価され得る一方,多くは第12級7号にとどまっていることである。
第2に,自賠責保険の等級認定と裁判所の判断とは必ずしも一致せず,第12級とされた事案を裁判所が第8級と判断した例(前記大阪地方裁判所の判決)がある反面,原告が第8級を主張したのに対し裁判所が自賠責保険の第12級を前提とした例(前記東京地方裁判所平成24年8月22日判決)もある。第3に,ストレステストや関節鏡検査といった他覚的所見,及び膝崩れの頻度・正座の可否等の日常動作上の具体的な支障が,判断の基礎とされている。
もっとも,いずれも下級審の事案限りの判断であり,動揺関節一般について裁判所の傾向を断定することはできない。硬性補装具の必要性の程度や将来の手術の見込みは事案ごとの医学的評価に依存するため,個別事案での射程は,当該事案の靱帯損傷の内容及び装具・予後に関する所見に即して検討する必要がある。
なお,時々硬性補装具を必要とするもの(第10級11号相当)として動揺関節そのものを評価した交通事故の裁判例は,今回確認した範囲では見当たらなかった。第10級とされた例が皆無であることを意味するものではないが,確認できた裁判例は第12級7号と第8級に分布していた。
第7 依頼者からの聴取事項と相手方の反論への備え
1 依頼者から聴取すべき事項
動揺関節の主張を検討するにあたり,依頼者からは,少なくとも次の事項を聴取することが有用である。
- ① 受傷した関節の靱帯損傷の有無・内容(診断名,手術の有無,再建の有無)
- ② 膝くずれ等の不安定感の有無,頻度,生じる場面(平地歩行時か,階段昇降・不整地歩行・重量物取扱い等の負荷時か)
- ③ 硬性補装具の処方の有無,実際の装着頻度及び装着する場面
- ④ 就労・日常生活上の具体的な支障(従前できていた動作との対比)
- ⑤ ストレスレントゲン撮影その他の検査の実施状況及び実施医療機関
これらは,硬性補装具の要否がどの区分に当たるかの当てはめと,撮影等の検査を尽くす必要性の判断に直結する。特に不安定感については,漠然とした訴えでは評価につながりにくいため,動作・場面・程度・頻度を具体的に確認することが望ましい。
2 相手方から想定される反論
相手方(加害者側)からは,動揺性を裏付ける客観的所見が不足しているという反論のほか,撮影方法や計測条件によって数値が変動し得ることを指摘して,計測結果の信頼性を争う反論が想定される。
また,硬性補装具が現に処方・装着されていないことや,重量物を取り扱う業務に復帰していること等を捉えて,硬性補装具を必要とする程度の動揺性はないとする反論も考えられる。
これらに対しては,撮影方法・肢位を明示したうえで健側と対比した計測結果を示すこと,徒手検査所見や装具の必要性に関する主治医の判断を診療録・意見書として補うこと,就労の継続が経済的事情によるものであって関節の状態が良好であることを意味しないことを,事実に即して説明することが考えられる。
もっとも,就労状況をどう評価するかは事案の具体的事情によるため,装具の必要性に関する医学的所見と整合する形で主張を構成する必要がある。
第8 確認の手順
以上を踏まえ,動揺関節の立証を検討する際の確認の手順を整理すると,次のとおりである。
- 靱帯損傷の内容と関節動揺性の有無を,診断名・手術記録・徒手検査所見によって確認する。
- 硬性補装具の必要性がどの区分(常時・時々・重激な労働等の際)に当たるかを,処方・装着状況及び主治医の判断に即して検討する。
- 動揺性の程度を客観的に裏付けるため,ストレスレントゲン撮影の実施状況を確認し,未実施であれば,撮影方法(徒手法・重力法・応力測定器の別)を含めて実施又は実施医療機関への紹介を主治医に依頼する。
- 検査結果・装具の必要性が後遺障害診断書に記載されているかを確認する。
- 手続として,事前認定・被害者請求・異議申立て・紛争処理機関・訴訟のいずれをどの段階で用いるかを,手持ち資料の充実度に応じて選択する。
- 撮影方法による数値の変動可能性や就労状況の評価など,結論を左右し得る不確実な要素について,相手方の反論を想定した備えを検討する。
個別事案における到達可能な等級は,靱帯損傷の内容,硬性補装具の必要性の程度,検査所見及び予後に関する医学的評価によって異なる。本記事の整理を出発点としつつ,具体的な検査結果及び診療録の記載に即して,追加の確認を行う必要がある。
第9 出典・参考資料
1 法令
- 自動車損害賠償保障法(e-Gov法令検索)13条1項,16条1項,23条の5。責任保険金額の政令委任,被害者請求及び指定紛争処理機関の根拠として参照した。
- 自動車損害賠償保障法施行令(e-Gov法令検索)2条及び別表第二。関節の機能障害に関する第8級・第10級・第12級の文言,並びに相当等級を認める備考の根拠として参照した。
2 行政資料(告示・通達)
- 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3。等級認定を労災保険の基準に準じて行う旨の根拠として参照した(損害保険料率算出機構ウェブサイト掲載)。
- 「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号)。下肢及び上肢の動揺関節を硬性補装具の要否により区分する根拠として参照した(厚生労働省法令等データベース掲載)。
- 労災サポートセンター編『労災補償 障害認定必携(第14版)』(2018年)。動揺関節の等級区分に関する労災認定実務の解説として参照した。
3 裁判例
本文で言及する裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトには掲載されておらず,判例秘書プラスで判決全文を確認した(認証付き商用データベースであるためURLは記載しない)。
- 大阪地方裁判所平成27年2月10日判決(平成25年(ワ)第6910号,自保ジャーナル1947号55頁)。右膝の動揺関節につき常時硬性補装具を要するとして第8級7号・労働能力喪失率45パーセントと判断した事例。
- 東京地方裁判所平成24年8月22日判決(平成22年(ワ)第3551号,判例秘書登載)。右膝の動揺関節につき第12級7号を前提に労働能力喪失率16パーセントと認めた事例。
- 東京地方裁判所平成17年6月21日判決(平成16年(ワ)第17372号,交通事故民事裁判例集38巻3号831頁)。左膝の動揺関節につき第12級7号・労働能力喪失率14パーセントとした事例。
4 文献
- アディーレ法律事務所編『申請事例からみる交通事故後遺障害の等級認定』(中央経済社,2022年)656頁以下,679頁以下,690頁以下。動揺関節の検査方法及び等級認定事例として参照した。
- 平岡将人ほか編『適切な賠償額を勝ち取る 交通事故案件対応のベストプラクティス』(中央経済社,2020年)197頁以下,204頁,209頁。ストレスレントゲン撮影の実務上の位置づけとして参照した。
- 小松初男ほか編『後遺障害入門 補訂版』(青林書院,2022年)302頁。関節機能障害の等級認定基準として参照した。
- 日本整形外科学会・日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会監修『前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン2019(改訂第3版)』(南江堂,2019年)。ストレス撮影の診断手段としての位置づけとして参照した(Mindsガイドラインライブラリ掲載,https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00503/ )。
- ストレスレントゲン撮影による関節動揺性計測の再現性及び撮影方法による差異に関する医学文献として,Guth JJ, et al. “Reliability of Stress Radiography in the Assessment of Posterior Knee Laxity”, Arthroscopy, Sports Medicine, and Rehabilitation, 2022;4(5):e1851-e1860(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9596873/ )を参照した。
- 後十字靱帯の後方動揺を重力位単純レントゲン側面像で計測する国内の運用例として,中村樹ほか「後十字靱帯再建術後の脛骨後方移動量の経時的変化」整形外科と災害外科74巻3号648頁(2025年)を参照した。