第1 本記事の対象と基準日
1 対象
本記事は,暴力団員であることを告げずにゴルフ場の施設利用を申し込んだ行為が詐欺罪に当たるかが争われた最高裁の判断3件(いずれも最高裁第二小法廷平成26年3月28日)と,暴力団員が反社会的勢力でないことを表明・確約して預金口座を開設した事件の最高裁第二小法廷平成26年4月7日決定を,判決文の原文に基づいて整理するものである。
同じ日に同じ小法廷で,ゴルフ場の利用について無罪の判決2件と有罪の決定1件が言い渡されており,結論を分けた事情を知ることは,事業者が反社会的勢力の排除の仕組みを設計する際にも,刑事弁護の場面でも役に立つ。
2 基準日と資料
本記事の調査基準日は令和8年9月26日であり,裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で判決文の全文を確認した。
判決文を「」で引用する場合,原文の表記をそのまま用いている。
いずれの事件でも,被告人以外の共犯者や関係者,ゴルフ場の名称は判決文で匿名化されているため,本記事でも判決文の表記(B倶楽部,Cクラブ等)に従う。
第2 詐欺罪にいう「人を欺く行為」
1 交付の判断の基礎となる重要な事項
刑法246条は,人を欺いて財物を交付させた者(1項)や,同様の方法により財産上不法の利益を得た者(2項)を詐欺罪として処罰している。
平成26年3月28日判決(後記第3の1)の小貫芳信裁判官の反対意見は,後記の平成19年決定と平成22年決定を参照して,「詐欺罪にいう人を欺く行為とは,財産的処分行為の判断の基礎となるような重要な事項を偽ることをいう」と説明している。
2 平成19年決定と平成22年決定
(1) 預金口座の開設
最高裁第三小法廷平成19年7月17日決定(平成18年(あ)第2319号,刑集61巻5号521頁)は,第三者に譲渡する意図を秘して自己名義の預金口座の開設等を申し込んだ事案について,「銀行支店の行員に対し預金口座の開設等を申し込むこと自体,申し込んだ本人がこれを自分自身で利用する意思であることを表しているというべきであるから」,その意図を秘して申込みを行う行為は詐欺罪にいう人を欺く行為に当たると判断した。
この決定は,申込みという行為自体が一定の意思を表している,という形で,明示的な虚偽の申告がない場合にも欺く行為を認めたものである。
(2) 航空機の搭乗券
最高裁第一小法廷平成22年7月29日決定(平成20年(あ)第720号,刑集64巻5号829頁)は,他の者を搭乗させる意図を秘して自己に対する搭乗券の交付を請求した事案について,「搭乗券の交付を請求する者自身が航空機に搭乗するかどうかは,本件係員らにおいてその交付の判断の基礎となる重要な事項であるというべきであるから」,その意図を秘して交付を請求する行為は詐欺罪にいう人を欺く行為に当たると判断した。
第3 平成26年3月28日の3件の判断
1 宮崎県のゴルフ場の事件(平成25年(あ)第3号)
(1) 事案
最高裁第二小法廷平成26年3月28日判決(平成25年(あ)第3号,刑集68巻3号582頁)の事案では,暴力団員である被告人が,宮崎県内の2つのゴルフ場(B倶楽部及びCクラブ)で,暴力団員であることを秘して施設利用を申し込み,利用したことが詐欺罪(刑法246条2項)に当たるとして起訴された。
被告人は,いずれのゴルフ場でも,フロントで「ビジター受付表」又は「ビジター控え」に氏名等を偽りなく記入して提出しており,これらの書面に暴力団関係者であるか否かを確認する欄はなく,暴力団関係者でないことを誓約させる措置も講じられていなかった。
両ゴルフ場は,利用細則又は約款で暴力団関係者の施設利用を拒絶し,出入口に「暴力団関係者の立入りプレーはお断りします」などと記載した立看板を設置していたが,それ以上の確認措置は講じていなかった。
また,判決は,周辺のゴルフ場で暴力団関係者の施設利用を許可,黙認する例が多数あり,「本件当時,警察等の指導を受けて行われていた暴力団排除活動が徹底されていたわけではない。」と認定している。
B倶楽部はビジター利用客のみによる施設利用を認めていたのに対し,Cクラブは原則として会員又はその同伴者,紹介者に限って施設利用を認めており,被告人は会員であるEに誘われてCクラブを訪れていた。
(2) 判断
第1審判決と原判決は詐欺罪の成立を認めたが,最高裁は,原判決と第1審判決を破棄して被告人を無罪とした。
判決は,暴力団関係者であるビジター利用客が,暴力団関係者であることを申告せずに,氏名を含む所定事項を偽りなく記入した受付表等を提出して施設利用を申し込む行為自体は,「申込者が当該ゴルフ場の施設を通常の方法で利用し,利用後に所定の料金を支払う旨の意思を表すものではあるが,それ以上に申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められない。」とし,詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらないと判断した。
Cクラブについては,会員Eの予約等に「同伴者が暴力団関係者でないことの保証の趣旨を明確に読み取れるかは疑問もあり」,被告人がEに働き掛けて予約等をさせたわけでも,予約等がされている状況を積極的に利用したという事情も認められないとして,自己が暴力団関係者でないことの意思表示まで包含する挙動があったと評価することは困難であるとした。
(3) 小貫裁判官の反対意見
小貫芳信裁判官は,B倶楽部の事件については多数意見に賛成したが,Cクラブの事件については有罪とすべきであるとする反対意見を述べた。
反対意見は,欺く行為を,偽る対象(重要事項)と偽る行為の2つの要素から成るものと捉え,ゴルフ場の暴力団排除の措置として,「①立入禁止の掲示,②会員の紹介・同伴によるビジターについての人物保証,③フロントにおける書面・口頭による暴力団関係者でないことの確認,④その他の排除措置」を挙げた。
その上で,立入禁止の掲示だけでは重要事項に当たると認めるには十分ではないとする一方,Cクラブは原則として会員の紹介・同伴がある場合に限りビジターの利用を認め,本件の数か月前には会員Eに対して暴力団員をプレーメンバーとする申込みを拒絶していたことなどから,暴力団排除を重要な経営方針としていたことは客観的に明らかであるとした。
そして,会員の紹介・同伴によるビジターの施設利用申込みは,「紹介・同伴された者が暴力団関係者でないことを会員によって保証された申込みと評価することができるのであり,このような申込みは偽る行為に当たるといえる。」と述べている。
2 宮崎県のゴルフ場の別の事件(平成25年(あ)第911号)
最高裁第二小法廷平成26年3月28日判決(平成25年(あ)第911号,集刑313号329頁)は,別の被告人が同じ日に同じB倶楽部で,共犯者と共に暴力団員であることを秘して施設利用を申し込んだ事件である。
最高裁は,平成25年(あ)第3号判決のB倶楽部に関する判断とほぼ同じ文言の理由により,施設利用申込み行為は詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらないとして,原判決と第1審判決を破棄し,被告人を無罪とした。
この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
3 長野県のゴルフ場の事件(平成25年(あ)第725号)
(1) 事案
最高裁第二小法廷平成26年3月28日決定(平成25年(あ)第725号,刑集68巻3号646頁)の事案では,暴力団員である被告人が,長野県内のゴルフ倶楽部の会員Aと共謀の上,Aの同伴者として施設を利用した。
このゴルフ倶楽部は,入会の際に「私は,暴力団等とは一切関係ありません。また,暴力団関係者等を同伴・紹介して貴倶楽部に迷惑をお掛けするようなことはいたしません」と記載された誓約書に署名押印させており,Aもこの誓約書を提出して会員となっていた。
また,同倶楽部は,長野県防犯協議会事務局から提供される暴力団排除情報をデータベース化し,予約時又は受付時に利用客の氏名が登録されていないか確認するなどして,暴力団関係者の利用を未然に防いでいた。
Aは,被告人が暴力団員であることが発覚するのを恐れ,同伴者5名については組合せ表に氏又は名を交錯させるなどして乱雑に書き込み,従業員に署名簿への代署を依頼するという異例な方法をとった。
被告人は,クラブハウスに寄らずに直接練習場に行き,結局フロントに立ち寄ることなくプレーを開始していた。
(2) 判断
最高裁は,「入会の際に暴力団関係者の同伴,紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるAが同伴者の施設利用を申し込むこと自体,その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表している」とした。
その上で,利用客が暴力団関係者かどうかは従業員において施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから,同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は,詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず,Aと意を通じた被告人が施設を利用した行為は刑法246条2項の詐欺罪を構成すると判断し,被告人に詐欺罪の共謀共同正犯が成立するとした原判断は結論において正当であるとして,上告を棄却した。
小貫裁判官は,多数意見の結論に賛同した上で,平成25年(あ)第3号判決での反対意見を引用し,会員による人物保証の下で申込みがされていることをもって偽る行為に当たると認めることができるとする意見を述べている。
4 裁判体
3件はいずれも,千葉勝美裁判官を裁判長とし,小貫芳信裁判官,鬼丸かおる裁判官及び山本庸幸裁判官で構成する第二小法廷の判断である。
第4 結論を分けた事情
1 比較
3件の判決文から,結論を分けた事情を整理すると,次のとおりである。
| 事情 | 宮崎(B倶楽部) | 宮崎(Cクラブ) | 長野 |
|---|---|---|---|
| ビジターの利用条件 | 会員の紹介・同伴がなくても利用可 | 原則として会員又はその同伴者,紹介者に限る | 会員の同伴者として利用 |
| 暴力団関係者でないことの誓約 | 受付表に確認欄なし,誓約させる措置なし | 控えに確認欄なし,誓約させる措置なし | 会員が入会時に,暴力団関係者を同伴・紹介しない旨を誓約 |
| その他の排除措置 | 立看板等 | 立看板等 | 暴力団排除情報のデータベースによる照会 |
| 申込みの態様 | 被告人らが自ら受付表を提出 | 被告人が自ら控えを提出 | 会員が署名簿への代署を依頼し,被告人はフロントを通らなかった |
| 最高裁の結論 | 無罪 | 無罪(小貫裁判官の反対意見あり) | 有罪 |
2 申込みが何を表しているか
平成19年決定から平成26年の各判断までを通じて,最高裁は,申込み行為が暗黙のうちに何を表しているかを,申込みの前提となる手続や約束を踏まえて認定している。
宮崎の事件では,申込みは施設を通常の方法で利用して料金を支払う意思を表すにとどまり,暴力団関係者でないことまでは表していないとされた。
長野の事件では,会員が入会時に暴力団関係者を同伴・紹介しないことを誓約していたため,会員による同伴者の申込みが,同伴者が暴力団関係者でないことの保証の意思を表すものとされた。
本記事では,両者の違いは,暴力団関係者でないことについての表明や保証が,申込みの前提となる手続の中に組み込まれていたかどうかにある,と整理する。
第5 反社会的勢力でないことの表明・確約と詐欺罪
1 平成26年4月7日決定
最高裁第二小法廷平成26年4月7日決定(平成24年(あ)第1595号,刑集68巻4号715頁)は,暴力団員である被告人が,郵便局で,総合口座利用申込書の「私は,申込書3枚目裏面の内容(反社会的勢力でないことなど)を表明・確約した上,申込みます。」と記載のある欄に氏名を記入するなどして,自己が暴力団員でないものと装い,総合口座通帳及びキャッシュカードの交付を受けた事案である。
決定は,政府が平成19年6月に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」等を策定したこと,株式会社ゆうちょ銀行がこれを踏まえて平成22年に貯金等共通規定等を改訂し,反社会的勢力でないこと等の表明,確約を求めることとしていたこと,局員が申込書の記述を指でなぞって示すなどの方法により確認していたことを認定した。
その上で,申し込む者が暴力団員を含む反社会的勢力であるかどうかは局員らにおいて交付の判断の基礎となる重要な事項であるから,「暴力団員である者が,自己が暴力団員でないことを表明,確約して上記申込みを行う行為は,詐欺罪にいう人を欺く行為に当たり」,総合口座通帳等の交付を受けた行為は刑法246条1項の詐欺罪を構成すると判断した。
この決定は,鬼丸かおる裁判官を裁判長とし,千葉勝美裁判官,小貫芳信裁判官及び山本庸幸裁判官で構成する第二小法廷の全員一致によるものである。
2 表明・確約と挙動による欺罔との違い
平成26年4月7日決定の事案では,申込書に反社会的勢力でないことの表明・確約の文言があり,局員がその部分を示して確認していたため,申込みそれ自体が暴力団員でないことを表明するものであることは明らかであった。
これに対し,宮崎のゴルフ場の事件では,そのような表明や確認の手続がなく,申込みという挙動から暴力団関係者でないことの意思表示を読み取れるかが問題となった。
本記事では,最高裁の各判断を,表明や誓約の手続が申込みの過程に組み込まれている場合には欺く行為が認められやすく,そうでない場合には挙動から意思表示を読み取ることに慎重である,という方向で整理する。
第6 実務上の示唆
1 事業者の側から
事業者が反社会的勢力の利用や取引を拒絶したいと考えるときは,約款や掲示で拒絶の意思を示すだけでなく,申込みの手続の中で,反社会的勢力でないことの表明・確約を求める欄を設け,その内容を申込者に示して確認することが考えられる。
平成26年4月7日決定の事案で,局員が申込書の記述を指でなぞって示すなどの方法で確認していたことは,申込みが表明・確約を含むことを基礎付ける事情として認定されている。
反社会的勢力排除条項の設計については,反社会的勢力排除条項の作り方と運用上の注意点で扱っている。
2 刑事弁護の側から
暴力団員であることを秘した取引等が詐欺罪として起訴された事件では,申込書や約款の文言,表明・確約の有無,確認の方法,同伴者や紹介者の有無,その者が誓約をしていたか,当時の業界での暴力団排除の徹底の程度といった事情を,判決文の認定と対照して検討することになる。
宮崎の事件では,周辺のゴルフ場で暴力団関係者の利用を許可,黙認する例が多数あったことが,暴力団排除が徹底されていなかった事情として認定されている。
最高裁が被告人に有利に原判決を破棄した刑事判決については,被告人側の上告があり,最高裁が被告人に有利に原判決を破棄した刑事判決で一覧にしている。
第7 出典
1 裁判例
①最高裁第三小法廷平成19年7月17日決定(平成18年(あ)第2319号,刑集61巻5号521頁,裁判所ウェブサイト)
②最高裁第一小法廷平成22年7月29日決定(平成20年(あ)第720号,刑集64巻5号829頁,裁判所ウェブサイト)
③最高裁第二小法廷平成26年3月28日判決(平成25年(あ)第3号,刑集68巻3号582頁,裁判所ウェブサイト)
④最高裁第二小法廷平成26年3月28日決定(平成25年(あ)第725号,刑集68巻3号646頁,裁判所ウェブサイト)
⑤最高裁第二小法廷平成26年3月28日判決(平成25年(あ)第911号,集刑313号329頁,裁判所ウェブサイト)
⑥最高裁第二小法廷平成26年4月7日決定(平成24年(あ)第1595号,刑集68巻4号715頁,裁判所ウェブサイト)
2 法令
刑法246条(e-Gov法令検索)