第1 本記事の対象と結論
1 対象,基準日及び主な資料
(1) 取り上げる場面
株主が取締役の責任を追及する株主代表訴訟(会社法847条)が起こされると,被告となった取締役から,会社の顧問弁護士に訴訟代理の依頼が来ることがある。
本記事は,この受任が弁護士職務基本規程の利益相反の規律に触れるかを,会社が取締役側に補助参加できるようになった後の議論まで含めて整理する。
あわせて,構造の似た住民訴訟(地方自治法242条の2)で,地方公共団体の顧問弁護士が被告の代理人になれるかも扱う。
(2) 基準日と主な資料
本記事の調査基準日は令和8年9月25日である。
会社法及び地方自治法は同日現在の条文をe-Gov法令検索で,弁護士職務基本規程は日本弁護士連合会関係法規集(令和7年9月1日現在)で確認した。
主な文献は,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,2026年9月。以下「第4版」という。)である。
第4版は,はしがきで,同書の見解は日弁連の公式見解ではないと明記しており,同書の法令等は令和8年3月1日現在のものである(同書凡例)。
そのため,本記事では,第4版の記述を日弁連の正式な解釈としてではなく,日弁連弁護士倫理委員会が編著した解説書の見解として紹介する。
2 結論の要旨
(1) 株主代表訴訟
第4版は,会社の補助参加が可能になった現在でも,特別の事情がない限り,会社の顧問弁護士は被告取締役の代理人にはなれないという立場をとる(同書122頁~123頁)。
会社の利益を守る役割の顧問弁護士は会社の側に就くべきだという理由による(同書123頁)。
会社に所属する組織内弁護士についても,同書は,同様に取締役からの受任を回避すべきであるとする(同書123頁)。
(2) 住民訴訟
住民訴訟については,第4版の結論は逆になる。
平成14年の地方自治法改正で4号請求の被告が職員個人から執行機関又は職員に改められたことを踏まえ,同書は,特段の事情がない限り,地方公共団体の顧問弁護士が被告代理人となることは許されると解すべきであるとする(同書124頁)。
ただし,同書自身がこの点はいまだ十分に議論されていないと述べており,改正前の代位訴訟については,日弁連懲戒委員会の議決に利益相反の疑いを指摘する有力な意見が付言されたこともある(第6の2で説明する)。
第2 株主代表訴訟で会社はどのような立場に立つか
1 提訴請求から代表訴訟の提起まで
(1) 株主の提訴請求と会社の判断
会社法847条1項は,6か月(定款でこれを下回る期間を定めたときはその期間)前から引き続き株式を有する株主が,会社に対し,役員等(同法423条1項)の責任を追及する訴え等の提起を請求できると定める(公開会社でない会社では保有期間の要件がない。同条2項)。
会社が請求の日から60日以内に訴えを提起しないときは,請求をした株主は「株式会社のために」責任追及等の訴えを提起できる(同条3項)。
会社は,訴えを提起しない場合に,請求をした株主又は責任追及の対象とされた役員等から請求を受けたときは,提訴しない理由を通知しなければならない(同条4項)。
監査役設置会社では,この提訴請求を受けるのは監査役であり(会社法386条2項1号),会社が取締役を訴えるときも監査役が会社を代表する(同条1項1号)。
(2) 顧問弁護士が会社の判断に関わる段階
提訴請求を受けた会社が訴えを提起するかどうかは,取締役の責任の有無を会社として判断する作業であり,監査役等が顧問弁護士に相談することが考えられる。
この段階で会社のために取締役の責任を検討した顧問弁護士が後に同じ取締役の弁護を受ければ,会社側の検討内容を知る弁護士が責任を問われる側に回ることになる。
2 会社が訴訟に関与する方法
(1) 訴訟告知と公告・通知
株主は,責任追及等の訴えを提起したときは,遅滞なく会社に訴訟告知をしなければならない(会社法849条4項)。
会社は,訴訟告知を受けたときは,遅滞なくその旨を公告し,又は株主に通知しなければならない(同条5項。公開会社でない会社では株主への通知による。同条9項)。
監査役設置会社では,この訴訟告知を受けるのも監査役である(会社法386条2項2号)。
(2) 補助参加と和解への関与
会社は,共同訴訟人として,又は当事者の一方を補助するため,責任追及等の訴えに係る訴訟に参加することができる(会社法849条1項本文)。
ただし,不当に訴訟手続を遅延させることとなるとき,又は裁判所に対し過大な事務負担を及ぼすこととなるときは,参加できない(同項ただし書)。
会社が取締役(監査等委員及び監査委員を除く。),執行役及び清算人並びにこれらの者であった者を補助するために参加するには,監査役設置会社では各監査役,監査等委員会設置会社では各監査等委員,指名委員会等設置会社では各監査委員の同意を得なければならない(同条3項)。
また,会社が和解の当事者でない場合,裁判所は会社に和解の内容を通知して,異議があれば2週間以内に述べるよう催告し,会社が期間内に書面で異議を述べなければ,株主がその内容で和解をすることを会社が承認したものとみなされる(会社法850条2項・3項)。
第3 顧問弁護士が被告取締役の代理人になるときの利益相反の構造
1 職務基本規程28条2号から見た場合
(1) 提訴株主を会社と同視する見方
職務基本規程28条2号は,「受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供を約している者を相手方とする事件」について,弁護士は職務を行ってはならないと定める。
第4版は,「継続的な法律事務の提供を約している者」は主として顧問先を指し,嘱託としての継続的な法律事務の提供先等も含むと説明する(同書106頁)。
代表訴訟の原告は形式上は株主であるが,第4版は,提訴する株主を会社と同視すれば,顧問弁護士が被告取締役の代理人となることは28条2号の問題になるとする(同書122頁)。
(2) 形式より実質的な対立関係
代表訴訟の訴訟物は,会社の取締役に対する損害賠償請求権であり,株主が勝訴すれば賠償金は会社に入る。
会社は訴訟の当事者ではないが,請求の中身をみれば,会社と被告取締役は損害賠償請求権の債権者と債務者の関係にある。
本記事では,株主を会社と同視できるかという形式面よりも,会社と取締役の間にこの実質的な対立があることが問題の核心であると考える。
2 職務基本規程28条3号から見た場合
(1) 取締役の出捐で会社が利得する関係
職務基本規程28条3号は,「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」について,弁護士は職務を行ってはならないと定める。
第4版は,原告の賠償請求が認められたときは取締役の出捐によって会社に利得が生じるから,代表訴訟は3号の問題であるともいえるとする(同書122頁)。
(2) 法律上保護に値する利益の相反
第4版は,3号の「依頼者の利益」は法律上保護に値する利益を指し,感情的な対立は含まず,形式的には相反するようにみえても実体的に相反しない場合や,潜在的な相反が顕在化していない場合は当たらないと説明する(同書107頁)。
代表訴訟では,取締役が敗訴すればその分だけ会社が回復を受けるという関係が請求の内容そのものであるから,潜在的な対立にとどまるとはいい難い。
3 同意による解除の限界
(1) 条文上必要な同意
職務基本規程28条ただし書は,2号の事件は依頼者及び相手方が同意した場合に,3号の事件は依頼者及び他の依頼者のいずれもが同意した場合に,職務禁止を解除する。
代表訴訟では,2号と3号のどちらの見方でも,被告取締役の同意だけでは足りず,顧問先である会社の同意が必要になる。
(2) 会社の同意を得ることの難しさ
第4版は,3号の同意を得るには互いの受任事件を説明しなければならず守秘義務と抵触するため,同意を得ることが実際には困難な場合が多いと思われるとしている(同書109頁)。
さらに,会社の意思を決める代表取締役自身が被告に含まれることもある(後記の最高裁決定の事案もそうであった)。
第4版の株主代表訴訟の項(同書122頁~123頁)は,同意による解除には触れず,特別の事情がない限り許されないという結論を示している。
本記事では,会社の同意を理由に受任を検討する場合でも,少なくとも取締役の職務執行を監査する立場にある監査役等の判断を経た同意でなければ,職務の公正を支える根拠になりにくいと考える。
第4 従来の見解と最高裁平成13年1月30日決定
1 従来の見解
第4版によれば,旧商法の下では,代表訴訟を株主が取締役の責任を追及しやすくするための制度と位置付け,この訴訟の中では会社と被告取締役の利益は対立するとみて,顧問弁護士は特別の事情がなければ取締役の側に付くことを控えるべきだと考えるのが一般的であった(同書122頁)。
この見解は,会社と被告取締役の間に利益相反関係があることを前提にしていた(同頁)。
2 最高裁平成13年1月30日決定
(1) 事案と判示
最高裁第一小法廷平成13年1月30日決定(平成12年(許)第17号,民集55巻1号30頁)は,株主が,取締役らは粉飾決算を指示し又は粉飾の存在を見逃して会社に損害を与えたとして,旧商法267条に基づき損害賠償を求めた代表訴訟で,会社が取締役らのために補助参加を申し出た事案である。
原審は,会社と取締役らは実体法上利害が対立するから,取締役側への補助参加は民事訴訟の構造に反するとして,申出を却下すべきものとした。
最高裁は,取締役会の意思決定が違法であるとして取締役に対し提起された代表訴訟において,会社は「特段の事情がない限り,取締役を補助するため訴訟に参加することが許される」と判断し,原決定を破棄して補助参加を許可した。
理由として,取締役会の意思決定の違法を原因とする損害賠償請求が認められれば,その意思決定を前提として形成された会社の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがあり,会社は取締役の敗訴を防ぐことに法律上の利害関係を有すると述べた。
また,会社が代表訴訟について中立的立場を採るか補助参加をするかは,それ自体が取締役の責任にかかわる経営判断の一つであるとも述べている。
事案への当てはめでは,決算に関する計算書類は取締役会の承認を要するから,取締役会の意思決定が違法であるとして提起された代表訴訟に当たり,補助参加を否定すべき特段の事情はうかがわれないとした。
(2) 場面の限定と反対意見
決定の判示は,取締役会の意思決定が違法であるとして提起された代表訴訟という場面に限られており,決定自身が「取締役の個人的な権限逸脱行為ではなく」取締役会の意思決定の違法を原因とする請求であることを理由に挙げている。
したがって,取締役の個人的な権限逸脱行為を理由とする代表訴訟についてまで,会社の補助参加を当然に認めたものとは読めない。
決定には1名の裁判官の反対意見がある。
反対意見は,代表訴訟の訴訟物は会社の取締役らに対する損害賠償請求権であるから,会社は訴訟の構造上も実体法上も取締役らと対立する関係にあり,粉飾決算の有無について会社が持つ利害は事実上のものにとどまるとした。
さらに,被告の取締役らには会社の代表者も含まれているから,補助参加を認めなければ適切な訴訟資料等の提出が期待できないとも考えられないと指摘している。
3 会社法849条による補助参加
(1) 第4版が指摘する問題
第4版は,この決定が出され,さらに平成13年の商法改正とこれを引き継いだ会社法849条1項で,取締役に責任はないと判断した会社が一定の場合に取締役側へ補助参加できるようになったことから,それまでの解釈をそのまま維持できるかが問われることになったと指摘する(同書122頁)。
会社が取締役側に立てるのであれば,顧問弁護士が会社と取締役の双方の立場を兼ねても差し支えないのではないか,というのがここでの問いである。
(2) 現行法の仕組み
現行の会社法849条1項は,会社が「当事者の一方を補助するため」責任追及等の訴えに係る訴訟に参加できると定める。
同条3項は,取締役等を補助するための参加に監査役等の同意を要求しており,会社が取締役側に立つには監査役等の判断を経ることになる。
第5 第4版の立場―補助参加が認められても利益相反は解消されない
1 会社の代理人となるべきとする理由
(1) 第4版の結論
第4版は,取締役側への補助参加が可能になっても,特別の事情がなければ利益相反の問題は残るとして,「株主代表訴訟において会社の顧問弁護士が被告取締役の代理人となることは許されないと解すべきである」と述べる(同書122頁~123頁)。
同書は,その根拠として,補助参加によって会社自身が訴訟に加わる手段を得た以上,会社の利益を守る立場の顧問弁護士は会社の代理人として関わるべきで,取締役の側に立つべきではないと説明する(同書123頁)。
(2) 結論の読み方
最高裁決定が認めたのは,会社が取締役の敗訴を防ぐことに法律上の利害関係を持つ場合があるということであり,会社と取締役の利害が全面的に一致するということではない。
会社がどの立場を採るかは,最高裁も経営判断の一つとしており,監査役等の同意を含めて会社自身が決める事項である。
第4版の結論は,会社の立場が会社自身の判断で決まる以上,顧問弁護士は会社の側に置き,取締役には別の弁護士が付くべきだという考え方と理解できる。
2 組織内弁護士の場合
(1) 第4版の記述
第4版は,会社に所属する組織内弁護士も,顧問弁護士と同様に,取締役からの受任は回避すべきであるとする(同書123頁)。
第4版の考え方からは,社内で法務を担当する弁護士が,上司である取締役や同僚の役員から個人として代表訴訟の弁護を頼まれた場合も,会社の立場で関与し,取締役には外部の弁護士を選任してもらうことが基本になる。
(2) 組織内弁護士の範囲
職務基本規程50条は,官公署又は公私の団体において職員若しくは使用人となり,又は取締役,理事その他の役員となっている弁護士を組織内弁護士と定義している。
第4版は,株式会社の監査役は同条の「その他の役員」に含まれないと解されていると説明する一方,「その他の役員」の範囲や,非常勤の社外取締役を組織内弁護士とするのが妥当かについては議論があるとしている(同書169頁)。
3 顧問契約が終わった後の制約
(1) 28条2号は現在の顧問先に限られる
第4版は,28条2号の「約している者」は現に顧問契約等を締結している者をいい,かつて契約を締結していた者を含まないと説明する(同書107頁)。
ただし,同号の適用がない場合でも,秘密保持義務との関係で弁護士の職務遂行に制約があり得ることに留意する必要があるとしている(同書107頁)。
(2) 日弁連綱紀委員会平成24年2月15日議決
元顧問弁護士が代表訴訟に関わって問題とされた例として,日弁連綱紀委員会平成24年2月15日議決(弁護士懲戒事件議決例集第15集135頁)がある。
会社グループの顧問弁護士が,顧問契約期間中に会社及びその役員等の関係者らの脱税事件の弁護人を務め,代表取締役の会社に対する貸付金の存在を情状として主張した後,顧問を辞任し,株主である元役員の代理人として,その貸付金は存在しないとして代表取締役に対する代表訴訟を提起した事案である。
同委員会は,事件の同一性は訴訟物だけでなく事件の基礎をなす紛争の実体等によって判断され,この理は「刑事手続と民事手続との間においても妥当する」とした(同集140頁)。
その上で,代表訴訟は代表取締役から協議を受けて賛助した事件等に当たり,その受任は職務基本規程27条1号・2号及び弁護士法25条1号・2号に違反するとした(同集140頁~141頁)。
同委員会は,同じ弁護士が別の民事訴訟の証人尋問でした不規則発言等(職務基本規程5条・74条違反とされた。)と基本的な事実を共通にするとして一括し,原弁護士会の懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とした(同集137頁,142頁~143頁)。
同集の付記によれば,原弁護士会はその後,これらを併せた事案について戒告の処分をした(同集137頁)。
顧問契約を終えた後も,顧問時代に関与した事件と基礎を同じくする紛争では,同意によっても解除できない27条1号・2号の問題が残ることを示す例である。
第6 住民訴訟で自治体の顧問弁護士は被告の代理人になれるか
1 住民訴訟の4類型と被告
(1) 1号から3号までの請求
地方自治法242条の2第1項は,住民監査請求をした住民が,監査の結果等に不服があるときに,訴えをもって4類型の請求をすることができると定める。
1号は執行機関又は職員に対する行為の差止め,2号は行政処分たる行為の取消し又は無効確認,3号は執行機関又は職員に対する怠る事実の違法確認の請求である。
第4版によれば,これらの請求は住民と執行機関の見解の相違が訴訟になったものであり,地方公共団体と被告の執行機関・職員の利害がいつも対立するわけではないため,顧問弁護士が被告側を代理しても,特別の事情がなければ利益相反には当たらないと考えられてきた(同書124頁)。
(2) 現行の4号請求
現行の4号は,「当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求」である(同号本文)。
4号の訴えが提起されると,執行機関又は職員は,損害賠償等を請求される職員や相手方に対し,遅滞なく訴訟告知をしなければならない(同条7項)。
出訴期間や各類型の詳細は,住民訴訟とは―住民監査請求前置・出訴期間・4類型と主要判例で扱っている。
2 改正前の4号請求と日弁連懲戒委員会の議決
(1) 改正前の構造と従来の解釈
平成14年改正前の4号請求は,地方公共団体が職員個人に対して有する損害賠償請求権を住民が代位行使する形式をとっており,職員個人が被告となっていた。
第4版によれば,職員個人を被告とし,住民が地方公共団体の損害賠償請求権を代わりに行使するという形式である以上,地方公共団体と被告職員の利害は対立していると考えるほかなく,一定の場合を除き,顧問弁護士が被告職員を代理することには慎重な姿勢が求められると理解されていた(同書124頁)。
(2) 議決の内容
改正前の4号訴訟については,日弁連懲戒委員会平成13年10月9日議決(弁護士懲戒事件議決例集第8集63頁)がある。
町長らを被告とする4号訴訟で,町の顧問弁護士が町長ら個人の代理人となったことについて懲戒請求がされた事案である。
原弁護士会の綱紀委員会は,被告個人と地方公共団体の利害が常に一致するとは断定できないとして,顧問弁護士が被告個人の代理人となることは「適切妥当なものではない」としつつ,日弁連の公式見解がないこと等から,懲戒手続で禁止すべきほどの重大かつ明白な違反行為とは断定できないとして懲戒しないこととした(同集64頁~66頁)。
日弁連懲戒委員会は,原弁護士会の決定を相当として異議の申出を棄却したが,4号訴訟は地方公共団体が職員個人に対して有する損害賠償請求権を住民が代位行使する形式なので利益相反があるとみざるを得ず,顧問弁護士が長個人の代理人となることは当時の弁護士倫理26条2号に「抵触する疑いが強い」との有力な意見があったことを付言した(同集64頁)。
付言は,日弁連がこの問題について明白な姿勢を公式に示すことが適切であり必要であるとも述べている(同集64頁)。
(3) 原弁護士会の綱紀委員会が挙げた理由
原弁護士会の綱紀委員会は,被告個人が敗訴して判決に従わない場合,顧問弁護士が地方公共団体の代理人として,かつての依頼者である被告個人に同じ事件で請求しなければならなくなると指摘した(同集66頁)。
また,地方公共団体が被告個人を補助するため訴訟に参加する場合でも,それは地方公共団体の立場から主張すべき事項を主張するためであって,被告個人の代理人とは別の代理人弁護士が選任されることが要請されるとも述べている(同集65頁~66頁)。
この後者の指摘は,第4版が代表訴訟について示す考え方と同じ方向にある。
3 改正後の4号請求と第4版の見解
(1) 改正による被告の変更
平成14年の改正で,4号請求は,職員等に損害賠償等の請求をすることを地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求に改められた。
第4版は,改正後の4号請求では職員個人はもう被告にならず,住民が地方公共団体に代わって請求権を行使する仕組みでもなくなったと指摘する(同書124頁)。
(2) 特段の事情がない限り許されるとする見解
第4版は,この点の議論はまだ尽くされていないと断りつつ,改正後の4号請求を1号から3号までの請求と区別する理由は乏しくなったとして,特段の事情がない限り,「地方公共団体の顧問弁護士が被告代理人となることは許されるものと解すべきである」とする(同書124頁)。
平成13年の議決は改正前の代位訴訟についての判断であり,改正後の4号請求について日弁連の懲戒機関の判断を示した議決例は,本記事で調べた議決例集の範囲では見当たらなかった。
4 改正後も残る注意点
(1) 代表訴訟と結論が分かれる理由
代表訴訟では,株主は現在も会社のために取締役に直接賠償を求めており,第4版はこの構造の下で利益相反を認める。
これに対し,改正後の4号請求では,被告は執行機関等であり,地方公共団体の請求権を被告に対して行使する形にはなっていない。
第4版が代表訴訟と住民訴訟で結論を分けるのは,この訴訟構造の違いによるものと理解できる。
(2) 職員個人の代理と判決確定後の請求
もっとも,4号請求の訴訟では,損害賠償等を請求される職員個人に訴訟告知がされる(地方自治法242条の2第7項)。
請求を命ずる判決が確定すれば,長は確定日から60日以内の日を期限として支払を請求しなければならず,支払がなければ地方公共団体は訴訟を提起しなければならない(同法242条の3第1項・2項)。
4号の訴訟の裁判が訴訟告知を受けた者に対しても効力を有するときは,地方公共団体とその者との間でも効力を有し(同条4項),長に対する訴訟では代表監査委員が地方公共団体を代表する(同条5項)。
第4版が許されるとするのは被告である執行機関又は職員の代理人となることであり,訴訟告知を受けた職員を個人として代理することまで述べたものではない。
判決確定後に地方公共団体が請求する相手となる職員を,顧問弁護士が個人として代理することは,改正前の議決で指摘された問題と同じ構造を持つから,第4版のいう特段の事情を検討すべき典型的な場面の一つと考えられる。
第7 実務上の判断手順
1 顧問契約の相手方と関与の経過を確認する
(1) 顧問契約の相手方
最初に,顧問契約の相手方が誰かを契約書で確認する。
代表訴訟の対象会社か,その親会社や子会社か,取締役個人か,によって,28条2号の「継続的な法律事務の提供を約している者」に当たる者が変わる。
第4版は,企業グループの場合に各企業を単体で捉えてよいかは難しい問題であると述べており(同書106頁),グループ会社が顧問先であるときは,形式上の契約当事者だけで判断しないことが考えられる。
(2) 提訴請求の段階での関与
次に,提訴請求の段階で,会社(監査役等)から取締役の責任の有無について相談を受けていないかを確認する。
第4版は,27条1号の「相手方」を,同一案件の事実関係において利害の対立する状態にある当事者と説明している(同書105頁)。
会社のために取締役の責任を検討した弁護士が,同じ事実関係でその取締役の弁護に回る場合は,28条にとどまらず,同意によって解除できない27条1号・2号の問題となる余地もあると考えられる。
2 会社の代理人として関与する
(1) 補助参加するかどうかの検討
第4版の考え方に従えば,顧問弁護士は会社の代理人として,会社が中立を保つか,取締役側に補助参加するか,原告側に参加するかの検討を支える立場に立つ。
取締役側に補助参加するには監査役等の同意が必要であり(会社法849条3項),監査役設置会社では訴訟告知を受けるのも監査役であるから(会社法386条2項2号),顧問弁護士としては,代表取締役だけでなく監査役等との連絡の経路を確保しておくことが考えられる。
(2) 和解への対応
株主と被告取締役が和解しようとするときは,会社に和解の内容が通知され,2週間以内に書面で異議を述べなければ承認したものとみなされる(会社法850条2項・3項)。
会社の代理人として異議の要否を検討する弁護士が,同時に取締役の代理人として和解を進めることは,立場が両立しないと考えられる。
3 取締役から依頼されたときの対応
(1) 断るときの説明
第4版の立場では,顧問弁護士は,特別の事情がない限り被告取締役の依頼を受けない。
断るときは,顧問先である会社との関係で受任できないことを説明することになるが,その際に会社から得た情報の内容に触れないよう注意を要する。
(2) 別の弁護士を紹介するとき
取締役に別の弁護士を紹介する場合,同じ事務所の弁護士を紹介すると職務基本規程57条の問題が生じる。
同条は,共同事務所の所属弁護士は,他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が27条又は28条の規定により職務を行い得ない事件については,職務の公正を保ち得る事由がない限り,職務を行ってはならないと定める。
また,弁護士は依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価を受け取ってはならない(職務基本規程13条2項)。
紹介に当たっては,顧問弁護士が会社から受け取った資料や聴き取った情報を,取締役側の弁護士に渡さないことにも注意を要する。
(3) それでも受任を検討する場合
第4版の立場を前提とすれば,それでも取締役の代理人となることを検討するのは,同書のいう特別の事情がある場合に限られる。
その場合も,28条ただし書により取締役と会社の双方の同意が必要であり,会社の同意は,取締役の職務執行を監査する監査役等の判断を経たものとすることが考えられる。
会社の補助参加と取締役の代理を同じ弁護士が担うときは,同一の事件に複数の依頼者がいることになるから,受任に当たって辞任の可能性その他の不利益を説明し(職務基本規程32条),現実に利害が対立したときは,それぞれに事情を告げて辞任その他の適切な措置を採らなければならない(同規程42条)。
4 被告取締役と法務担当者が確認すること
(1) 被告となった取締役
被告となった取締役は,会社の顧問弁護士には弁護を頼めないことを前提に,早い段階で自分の代理人を探すことになる。
会社が取締役側に補助参加しても,それは会社の立場から主張するためのものであり,取締役個人の主張立証を会社が代わりに行うわけではない。
(2) 会社の法務担当者
会社は,提訴請求の日から60日以内に訴えを提起しなければ,株主から代表訴訟を提起され得る(会社法847条3項)。
法務担当者としては,提訴請求を受けた直後に,顧問弁護士が会社側で関与すること,取締役には別の弁護士が必要になり得ることを整理し,監査役等と共有しておくと,補助参加や和解の場面で判断が遅れにくい。
訴訟告知後の対応は,訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備えも参考になる。
5 住民訴訟で依頼を受けたとき
(1) 被告の執行機関等の代理人となる場合
住民訴訟では,第4版の見解によれば,顧問弁護士が被告である執行機関等の代理人となることは,特段の事情がない限り許される。
もっとも,4号請求で訴訟告知を受けた職員個人の代理も併せて頼まれた場合や,地方公共団体と請求の対象となる職員との立場が分かれてきた場合は,第6の4で述べた構造に戻って検討することになる。
(2) 職員個人から依頼されたとき
職員個人の代理人を地方公共団体の顧問弁護士とは別の弁護士とすることは,改正前の議決で指摘された,判決確定後に元の依頼者へ請求する事態を避ける方法となる。
住民訴訟の題材となる財務会計行為の例は,自治体の補助金や公有財産の無償使用は憲法89条後段に違反するか―「公の支配」の判断基準と住民訴訟の裁判例で扱っている。
第8 確認範囲と残る論点
1 資料の性格と確認できなかった事項
(1) 第4版の位置付け
第4版の結論は,日弁連弁護士倫理委員会が編著した解説書の見解であり,同書自身が日弁連の公式見解ではないと明記している。
代表訴訟で会社の顧問弁護士が被告取締役を代理したことについて判断した議決例は,本記事で調べた議決例集の範囲では見当たらなかった。
(2) 第4版が触れていない場面
第4版の株主代表訴訟の項は,旧株主による責任追及等の訴え(会社法847条の2)や最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴え(同法847条の3)には触れておらず,完全親会社の顧問弁護士が子会社の取締役を代理する場面の扱いは本記事でも検討の対象外とした。
2 会社側の弁護士が取締役を追及する場面との違い
会社が設けた取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が,会社の代理人として取締役らに損害賠償を請求することについて,最高裁第一小法廷令和4年6月27日決定は弁護士法25条2号・4号の類推適用を否定した。
会社側の弁護士が取締役を追及する場面であり,顧問弁護士が取締役を弁護する本記事の場面とは向きが逆である(取締役責任調査委員会の委員弁護士は後続訴訟を代理できるかで扱っている)。
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会社法等に関する最高裁判例―裁判所HP掲載判例の論点別索引
取締役が会社に不相当な価格で資産を買わせた場合―会社法423条・429条・株主代表訴訟
住民訴訟とは―住民監査請求前置・出訴期間・4類型と主要判例
自治体の補助金や公有財産の無償使用は憲法89条後段に違反するか―「公の支配」の判断基準と住民訴訟の裁判例
第10 出典・参考資料
1 法令・会規
①会社法(平成17年法律第86号)847条,847条の2,847条の3,848条,849条,849条の2,850条及び386条(e-Gov法令検索,令和8年9月25日確認)
②地方自治法(昭和22年法律第67号)242条の2及び242条の3(e-Gov法令検索,令和8年9月25日確認)
③弁護士職務基本規程(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)13条,27条,28条,32条,42条,50条及び57条(日本弁護士連合会関係法規集(令和7年9月1日現在)で確認)
2 裁判例
①最高裁第一小法廷平成13年1月30日決定(平成12年(許)第17号,民集55巻1号30頁),裁判所HPの裁判例結果詳細
②最高裁第一小法廷令和4年6月27日決定(令和4年(許)第3号,集民268号323頁),裁判所HPの裁判例結果詳細
3 弁護士懲戒の議決例
①日弁連懲戒委員会平成13年10月9日議決(平成11年懲(異)第232号),日本弁護士連合会『弁護士懲戒事件議決例集(第8集)』63頁~66頁
②日弁連綱紀委員会平成24年2月15日議決(平成23年綱第136号),日本弁護士連合会『平成24年弁護士懲戒事件議決例集(第15集)』135頁~143頁
4 文献
①日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,2026年9月)105頁~109頁(28条の解説),122頁~124頁(利益相反に関する諸問題のうち株主代表訴訟及び住民訴訟),168頁~169頁(50条の解説)並びにはしがき及び凡例