第1 大腿骨骨折の傷病名や年齢だけでは等級は決まらない
1 最初に認定経路を分ける
高齢者が大腿骨を骨折しても,骨折名,年齢又は手術名から身体障害者手帳の等級が自動的に決まるわけではない。身体障害者障害程度等級表と厚生労働省の身体障害認定基準により,術後経過が安定した時点の永続する機能障害を,①一下肢全体の機能,②股関節又は膝関節一関節の機能,③下肢短縮,④複数の障害の総合認定に分けて判定する。
大腿骨頸部骨折後に人工骨頭を挿入した場合は股関節の機能が中心となるが,下肢全体の筋力と支持性をほとんど失えば3級も検討対象となる。骨幹部骨折では偽関節や短縮,遠位部骨折では膝関節機能が中心になるため,「大腿骨骨折なら何級か」という一つの対応表では正確に説明できない。
2 手帳の等級は障害年金・自賠責と別である
身体障害者手帳は身体障害者福祉法に基づく福祉制度であり,障害年金は所得保障,自賠責後遺障害は交通事故による損害填補の制度である。それぞれ目的,認定機関及び等級表が異なるため,手帳3級が障害年金3級又は自賠責3級を意味することはない。
とりわけ「人工骨頭なら3級」という説明は,初診日に厚生年金保険の被保険者であった人について問題となる障害厚生年金の基準を指すことが多い。身体障害者手帳と障害年金の違いは,大腿骨骨折の障害者手帳と障害年金――「3級」の違いと人工骨頭の認定基準で整理している。
第2 3級・4級・5級・7級の違い
1 3級は一下肢全体の機能全廃である
下肢不自由の3級は「一下肢の機能を全廃したもの」であり,股関節一関節の障害を3級とする基準ではない。身体障害認定基準は,下肢の運動性及び支持性をほとんど失った状態とし,具体例として,下肢全体の筋力低下のため患肢で立位を保持できないもの,大腿骨又は脛骨の骨幹部偽関節のため患肢で立位を保持できないものを挙げる。
したがって,人工骨頭を入れたこと,杖を使うこと又は股関節に痛みがあることだけでは3級にならない。一方,大腿骨骨幹部の偽関節があり,そのため患肢で立位を保持できない場合は,認定基準が明示する3級の具体例に当たり得る。偽関節という診断名に加え,立位保持ができない程度に支持性を失ったことまで診断書で裏付ける。
2 4級には一下肢全体と一関節の二つの経路がある
4級には「一下肢の機能の著しい障害」と「一下肢の股関節又は膝関節の機能を全廃したもの」という二つの機能障害がある。前者は下肢全体,後者は一関節を対象とするため,診断書ではどちらの項目を検討するのかを明確にしなければならない。
一下肢全体の著しい障害について,認定基準は,1km以上の歩行不能,30分以上の起立位保持不能,通常の駅の階段昇降に手すりを要すること,通常の腰掛けでは腰掛けることができないこと,正座・あぐら・横座りのいずれもできないこと等を例示する。これらは障害像を示す例であり,全項目を満たすことを要求する機械的なチェックリストではない。
股関節一関節の機能全廃については,各方向の連続した可動域が10度以下又は徒手筋力テストが2以下であることが具体例とされる。膝関節では,可動域10度以下又は徒手筋力テスト2以下のほか,高度の動揺関節又は高度の変形も具体例となる。
3 5級・7級は股関節又は膝関節の機能で分かれる
股関節又は膝関節の機能の著しい障害は5級であり,可動域30度以下又は徒手筋力テスト3相当が具体例である。膝関節については中等度の動揺関節も5級の例に含まれる。
股関節,膝関節又は足関節の軽度の障害は7級である。関節一般の軽度障害は,日常生活に支障を来すとみなされる可動域であるおおむね90度以下,又は徒手筋力テストの各運動方向平均が4に相当する状態を目安とする。ただし,数値は機能障害の一面を示すものであり,認定基準は機能全般を総合した判定を求めている。
股関節固有の7級例として認定基準が明記するのは,小児の股関節脱臼で軽度の跛行を呈するものである。高齢者の大腿骨骨折後について専用の数値表が別にあるわけではなく,関節一般の軽度障害の定義,跛行,歩行能力,筋力,疼痛等を合わせて判定する。
| 認定する部位・状態 | 3級 | 4級 | 5級 | 7級 |
|---|---|---|---|---|
| 一下肢全体の機能 | 全廃 | 著しい障害 | ― | 軽度の障害 |
| 股関節一関節 | ― | 全廃 | 著しい障害 | 軽度の障害 |
| 膝関節一関節 | ― | 全廃 | 著しい障害 | 軽度の障害 |
| 下肢短縮 | ― | 10cm以上又は健側長の10分の1以上 | 5cm以上又は健側長の15分の1以上 | 3cm以上又は健側長の20分の1以上 |
4 下肢短縮は別の基準で判定する
大腿骨骨折が変形して治癒した場合,下肢短縮は関節可動域とは別に判定する。4級は10cm以上又は健側長の10分の1以上,5級は5cm以上又は15分の1以上,7級は3cm以上又は20分の1以上の短縮であり,絶対値と健側に対する割合のいずれかを満たせばよい。
画像上の骨片の重なりと,認定に用いる左右の下肢長は同じ数値とは限らない。骨盤傾斜,股・膝関節の拘縮及び測定姿勢によって見かけの脚長差が生じるため,診断書では測定点と測定方法を明示し,左右を同じ条件で測定する必要がある。
第3 高齢者の認定で分けて考えるべき要素
1 高齢であることは認定除外事由ではない
身体障害認定基準は,加齢現象に伴う身体障害についても,日常生活能力の回復可能性又は身体障害の程度に着目して認定できるとする。年齢だけを理由に手帳の対象外とする基準も,高齢であることだけで重い等級とする基準もない。
日本整形外科学会の2022年調査では,登録された大腿骨近位部骨折の平均年齢は,頸部骨折81・16歳,転子部骨折85・39歳であった。この調査は回答施設の登録例であって全国の全症例数ではないが,大腿骨近位部骨折の認定を検討するとき,高齢者の術前機能と併存疾患を確認する必要が大きいことを示している。
2 骨折前の歩行能力と併存疾患を記録する
大腿骨頸部・転子部骨折の診療ガイドラインによれば,歩行回復には年齢だけでなく,骨折前の歩行能力,認知症,併存疾患,リハビリテーション開始の遅れ,反対側股関節骨折等が関係する。このため,現在の歩行困難を骨折側股関節だけで説明せず,骨折前の杖・歩行器使用,屋内外歩行,階段,介護状況,反対側下肢,神経疾患及び心肺機能の記録を分ける。
もっとも,認知症又は加齢があれば下肢障害を認定しないという意味ではない。身体障害認定基準は,知的障害等の有無にかかわらず法別表の身体障害が認められる者を対象とする一方,身体機能の障害が明らかに知的障害等に起因する場合は身体障害として認定することが適当でないとする。下肢の筋力・支持性と,指示理解,全身持久力又は恐怖心による動作制限を医学的に分けることが必要となる。
3 骨折部位により確認する関節が異なる
大腿骨頸部骨折では,骨接合術後の骨癒合,大腿骨頭壊死,人工骨頭・人工股関節置換後の股関節可動域,筋力及び疼痛を確認する。転子部・転子下骨折では,股関節周囲筋力,変形,短縮及び歩行能力が中心となる。
骨幹部骨折では,偽関節によって患肢で立位を保持できるか,変形又は短縮が残っているかを確認する。遠位部骨折は膝関節に近いため,膝関節可動域,筋力,動揺性及び変形を測定する。部位ごとの確認事項は異なるが,最終的には厚生労働省の一下肢全体・一関節・短縮という認定項目へ当てはめる。
第4 人工骨頭・人工股関節を一律4級とする基準は廃止された
1 平成26年4月から実際の機能で判定する
平成26年3月までの基準では,股関節又は膝関節に人工関節等を置換した場合,一律4級とする取扱いがあった。しかし,医療技術の進歩により置換後の機能が改善する例が多くなったことから,平成26年4月1日以後の新規申請では,人工骨頭又は人工関節の置換術後の経過が安定した時点の機能により,股関節・膝関節について4級,5級,7級又は非該当と判定する方式に改められた。
したがって,古い診断書,判決又はウェブ記事に「人工骨頭を入れたので身体障害者手帳4級」と書かれていても,現行の新規申請へそのまま用いることはできない。反対に,人工関節だから手帳を取得できないと一律に説明することも正確ではなく,置換後に残った機能障害が現行の4級,5級又は7級の基準に該当するかを確認する。
2 申請時期は術後経過の安定を基準とする
厚生労働省の認定要領は,機能回復訓練が終了し,障害が固定した時期に診断することを基本とする。人工骨頭又は人工関節についても「置換術後の経過が安定した時点」の機能で判定するのであり,全国一律に術後6か月又は1年とする法令上の期間は確認できない。
将来,障害程度の変化が予想される場合は,再認定の時期を付して手帳を交付することがある。平成26年改正前に取得した4級手帳が,改正だけを理由に当然に失効するわけではないが,手帳記載の程度と実際の障害が明らかに異なる場合や再認定時期が指定されている場合は,自治体による診査の対象となり得る。
第5 申請と診断書で確認する事項
1 指定医師の診断書を添えて自治体へ申請する
身体障害者福祉法15条により,都道府県知事の指定を受けた医師の診断書・意見書を添えて申請し,都道府県知事等が障害程度を審査して手帳を交付する。指定医師の等級意見は重要な資料であるが,認定権者を拘束する最終決定ではないため,意見欄と可動域,筋力及び日常生活動作には一致する記載が求められる。
申請書は,居住地の福祉事務所又は市町村の障害福祉担当窓口を経由して提出する。指定医師,診断書様式,写真その他の必要書類は自治体の案内で確認する必要があり,手術を担当した医師が身体障害者福祉法15条の指定医師とは限らない。
2 数値と日常生活動作を対応させる
股関節・膝関節の申請では,関節可動域の測定方向,自動・他動,徒手筋力テスト,疼痛,代償動作,動揺性及び変形を記録する。一下肢全体の障害では,患肢による立位保持,無理のない歩行距離,起立保持時間,階段昇降,椅子又は床での動作を確認する。
認定基準は,無理をすれば1km歩けても,症状の悪化,疲労又は疼痛により翌日に休まなければならない状態を「1km歩行可能」とは扱わない。歩行距離だけでなく,補助具,休憩,所要時間,歩行後及び翌日の状態を診療記録やリハビリテーション記録に残す方が,認定基準と対応しやすい。
疼痛又は筋力低下も,医学的・客観的に証明されるか,障害部位の状態から妥当と認められる場合は機能障害として扱い得る。申請前には,手術記録,退院時要約,画像,関節可動域表,筋力評価,リハビリテーション記録及び下肢長測定を順に確認し,どの資料を見ても同じ機能状態が読み取れるようにする。
第6 7級相当が一つだけでは手帳は交付されない
1 7級と手帳交付を区別する
身体障害認定基準は,7級の障害一つだけでは身体障害者福祉法の対象にならないと明記する。したがって,片側の股関節が7級相当である場合,「股関節機能は7級相当」と評価されても,その一つだけを理由に身体障害者手帳は交付されない。
肢体不自由について7級相当の障害が二つ以上ある場合,又は7級相当の障害が6級以上の障害と重複する場合は法の対象となる。複数障害の総合等級は,最も重い一項目だけを表示するのではなく,認定基準の指数を用いて判定する。
2 両側人工股関節を総合6級とした答申
北海道行政不服審査会平成28年度答申第9号は,両側人工股関節置換後の左右の股関節について,徒手筋力テストがそれぞれ4で,各股関節を7級相当と判断した。各7級の指数0・5を合算して指数1となるため,総合6級とした処分を妥当と判断している。
この答申は,人工股関節を一律4級としない平成26年改正後の運用と,7級相当が二つあれば総合6級となり得ることを具体的に示す。他方,片側人工骨頭置換後の股関節だけが7級相当である場合に,同じ結論を当てはめることはできない。
第7 障害年金・自賠責後遺障害との役割分担
1 障害厚生年金の3級とは基準が異なる
障害厚生年金では,一下肢の三大関節中一関節以上に人工骨頭又は人工関節を挿入置換したものを原則として3級とする基準がある。しかし,身体障害者手帳3級は一下肢全体の機能全廃であるため,人工骨頭という同じ医学的事実から同じ等級になるわけではない。
障害基礎年金には3級がなく,障害厚生年金の受給には初診日の厚生年金加入,保険料納付要件等も必要となる。身体障害者手帳の交付を受けたことも,障害年金の受給を当然に決定するものではない。
2 交通事故の後遺障害等級は別に申請する
交通事故による大腿骨骨折では,自賠責保険の後遺障害等級を別に検討する。人工骨頭,股関節可動域及び下肢短縮の自賠責基準は,交通事故による大腿骨頸部骨折の後遺障害等級――人工骨頭,股関節可動域及び下肢短縮で扱っている。
可動域の測定値を用いる点は共通しても,身体障害者手帳と自賠責では等級表及び数値の当てはめ方が異なる。股関節の可動域制限と後遺障害12級7号――認定基準,測定方法,代償動作及び裁判例の自賠責基準を,身体障害者手帳の4級・5級・7級へ読み替えることはできない。
出典・参考資料
1 法令
①身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)4条・15条・別表(e-Gov法令検索)
②身体障害者福祉法施行令(昭和25年政令第78号)4条・5条(e-Gov法令検索)
③身体障害者福祉法施行規則(昭和25年厚生省令第15号)5条3項・別表第5(e-Gov法令検索)
2 厚生労働省の認定基準・通知
①厚生労働省「身体障害者障害程度等級表」1頁(PDF1頁)
②厚生労働省「身体障害者障害程度等級表の解説(身体障害認定基準)について」(平成15年1月10日障発第0110001号)
③厚生労働省「身体障害認定要領」
④厚生労働省「『身体障害者障害程度等級表の解説(身体障害認定基準)について』の一部改正について」(平成26年1月21日障発0121第1号)
⑤厚生労働省「身体障害者障害程度の再認定の取り扱いについて」
3 医学・統計資料
①日本整形外科学会「大腿骨近位部骨折全国調査2022年報告」
②日本整形外科学会・日本骨折治療学会監修『大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)』(南江堂,2021年)79頁,105頁(PDF94頁,120頁)