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拘縮と可動域制限の違い――裁判例,行政通達及び医学の見地から(AI作成)

第1 拘縮と可動域制限は同じ意味ではない

1 本記事の対象と射程

後遺障害等級の認定や医療過誤の場面では,「拘縮」と「可動域制限」という二つの語がほとんど同義のように用いられることがある。しかし,医学上も,労働者災害補償保険の障害等級認定基準上も,この二つは同じ外延をもたない。本記事は,拘縮という概念が医学の教科書,行政通達及び裁判例においてそれぞれどのように定義され,可動域制限とどのように切り分けられているかを,原典に当たって整理するものである。個々の関節ごとの認定基準,参考可動域角度及び代償動作については肩関節肘関節手関節股関節膝関節及び足関節の各記事で扱っており,本記事はその前提となる概念の整理に絞る。なお,本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,個別の事案に対する法的助言ではない。

2 二つの概念の関係

可動域制限は,関節の動く範囲が狭くなっているという現象そのものを指す語であって,その原因を含まない。これに対し拘縮は,可動域制限を生じさせる原因の一類型であり,後述するとおり関節周囲軟部組織の器質的変化に由来するものをいう。したがって可動域制限が上位の概念であり,拘縮はその下位に位置する原因概念であるから,可動域制限があるからといって直ちに拘縮があることにはならない。この関係を意識しないまま診断書の記載を読むと,疼痛,神経麻痺又は筋緊張に由来する可動域制限を拘縮と取り違え,障害等級の帰結を誤ることになる。

第2 医学における拘縮,強直及び可動域制限

1 標準的な教科書における定義

(1) 関節拘縮と関節強直

『標準整形外科学 第15版』(医学書院,令和5年)は,第12章の触診の項に「関節拘縮と関節強直」と題する記述を置き,「関節運動が制限された状態を関節拘縮 joint contracture といい,皮膚性,筋肉性,神経性,関節性に分けられる。軟部組織が原因で関節運動が制限された状態をさす。一方,関節強直 arthrokleisis は関節内に生じた病変で関節運動が著しく制限された状態をいう。関節可動域が全く消失したものを完全強直,わずかながら残存するものを不完全強直」とする。同書は,関節の病態を扱う章において,滑膜炎が沈静化した後の線維化により関節が「ほとんど不動となった状態を線維性強直 fibrous ankylosis とよび,関節を構成する両端の骨組織が骨性に癒合して可動域が全く消失した状態を骨性強直」と説明しており,強直の下位分類も示している。つまり,拘縮と強直を分ける基準は,制限の原因が関節の外にある軟部組織にあるか,関節そのものの内部にあるかという点に置かれている。

理学療法学の側でも同じ整理がされており,長崎大学の沖田実教授による総説は,「現在の拘縮の定義は,関節周囲軟部組織の器質的変化に由来したROM 制限と整理されており」と述べたうえで,可動域制限の原因を,皮膚,骨格筋,関節包などの関節周囲軟部組織にある場合と,骨及び軟骨といった関節構成体そのものにある場合とに大別し,前者のうち器質的変化によって生じたものを拘縮と呼ぶとする。関節内遊離体,脱臼に伴う骨の偏位及び強直は,いずれも拘縮とは別の原因として位置付けられている。

(2) 定義は一つに統一されていない

もっとも,同じ『標準整形外科学 第15版』の中でも,手の外科を扱う疾患各論では「拘縮とは関節運動制限のことであり,原因により先天性と外傷性に,組織により皮膚性,腱性,関節性,骨性に分類される」とされ,骨性のものまで拘縮に含める分類が採られている。同書のリハビリテーション治療の項では,「可動域制限の原因が皮膚,骨格筋,関節包,靱帯など,関節包外」にあるかどうかという,関節包を基準とする切り分けが用いられている。さらに『標準リハビリテーション医学 第4版』(医学書院,令和5年)の評価の章は,「関節の動きの異常には,可動域制限と可動域過〔大があ〕り,関節包内(骨や軟骨)が原因で生じるものを強直(ankylosis)という」として,やはり関節包の内外を基準としている。

このように,「関節の内か外か」で切るのか「関節包の内か外か」で切るのか,骨性の制限を拘縮に含めるのかという点は,同一の標準的教科書の中でも章によって異なっており,国内外を通じて一つの定義に収束していない。英語文献では contracture を「可動関節の他動可動域の制限」そのものと定義し,原因を限定しない用法も広く用いられているうえ,動物実験モデルを概観した総説自体が,拘縮の病態生理は十分に解明されておらず,原因因子や治療反応の予測に関する情報は限られていると述べている。主要関節の拘縮の疫学を検討した系統的レビューも,疫学データの不足が適切な治療の大きな障害になっていると指摘する。したがって,書面で拘縮の定義を論じるときは,どの文献のどの記述を採るのかを明示しておく必要があり,相手方が別の頁を引用してきた場合には,定義が統一されていないこと自体を指摘できる。

2 拘縮の責任病巣は不動期間により入れ替わる

拘縮の実務上の帰結を左右するのは,どの組織が可動域制限の主たる原因になっているかという点である。ラットの膝関節を屈曲位で固定し,関節をまたぐ筋を切離して関節性の成分だけを分離した実験によれば,関節性の成分は固定2週の時点で約13度であったものが固定32週では約51度に増加する一方,筋性の成分は約20度から約1度へと相対的に消失していく。同じ研究群が固定期間と回復期間を組み合わせて行った大規模な実験では,固定が2週以下の場合には関節性の制限が発生せず,拘縮の大部分は筋性であって放置により回復するのに対し,固定が4週以上に及ぶと関節性の制限が生じ,設定したすべての回復期間で対照群との有意差が残った。関節の再可動化と炎症・線維化の関係を検討した総説も,筋性の拘縮は自然に回復するが,関節性の拘縮は非可逆的であるか,むしろ悪化すると述べている。

沖田教授の総説も,ラットの膝関節を屈曲位で不動化した場合は2週後まで,足関節を底屈位で不動化した場合は4週後まで骨格筋が責任病巣の中心であり,それを超える不動期間では関節包が中心になるとし,可動域制限の約1割が皮膚に由来することも示している。組織学的には,皮膚,骨格筋及び関節包のいずれにおいてもコラーゲンの増生を伴う線維化が生じており,骨格筋の線維化にはマクロファージを介した炎症性サイトカインの経路が関与し,不動4週以降は低酸素に反応する転写因子が加わって線維化が助長される。ヒトの拘縮患者においても,後方の関節包が肥厚し,Ⅰ型コラーゲンとペリオスチンが豊富に沈着していることが確認されている。

臨床的な帰結として重要なのは,再可動化の初期に過度の運動を行うことが逆効果になるという点である。前記の総説は,早期の積極的な運動が関節内の炎症とその後の線維化を促進すると明言しており,『標準リハビリテーション医学 第4版』も,異所性骨化の初期症状の軽減と骨形成の進行に伴う「過度の ROM 訓練は,骨化を促進し関節拘縮悪化」を招くとしている。他方で,拘縮の予防及び治療としてのストレッチの効果を検討したコクランの系統的レビューは,神経疾患群で約2度,非神経疾患群で約1度の可動域改善しか得られず,その根拠の確実性は高いとしたうえで,関節可動性に臨床的に重要な効果はないと結論している。

3 拘縮と区別すべき病態

拘縮のほかに可動域制限を生じさせる原因としては,強直,痙縮,疼痛,神経麻痺,筋緊張,心因性の運動制限及び詐病がある。これらのうち,弛緩性麻痺による制限は,筋が自ら収縮できないために自動運動ができなくなるものであるから,他動運動では関節が正常に動くという点で拘縮と決定的に異なる。痙縮は上位運動ニューロンの障害による速度依存性の筋緊張亢進であり,検者が動かす速度によって抵抗が変わるほか,後述するとおり薬物療法に反応する点で,非可逆的な拘縮と区別される。疼痛による制限は,被験者が痛みを避けようとする防御的な筋収縮によるものであるから,麻酔下では消失する。

臨床的に拘縮の責任病巣を推定する手掛かりとして最も実用的なのは,隣接する関節の肢位を変えて測定する方法である。複数の関節をまたぐ筋や腱が原因となっている拘縮では,隣接関節の肢位によって当該関節の可動域が変化するのに対し,関節内部の器質的変化に由来する制限では,隣接関節の肢位を変えても値が変わらない。後述する労災保険の障害等級認定基準は,この現象を阻血性拘縮の例で明示している。

4 他動運動による測定値がもつ限界

障害等級の認定実務は原則として他動運動による測定値を用いるが,他動値がそのまま器質的変化の指標になるわけではない。沖田教授の総説は,拘縮の定義が「筋収縮が惹起されていないことが前提となっている」としたうえで,「症例が完全に睡眠している状態ではない限り,骨格筋が弛緩している状態は設定しにくいのが事実で,いくら慎重に他動ROM を測定したとしてもその結果には筋収縮の影響が少なからず含まれている可能性がある」とし,実際の症例の可動域制限の多くは,拘縮の病態に筋収縮の影響が加味された結果と捉えるべきであるとする。前記の動物実験がいずれも麻酔下で測定していることは,純粋な拘縮の値を得るためにはそれが必要だからである。したがって,覚醒下で測定された他動値が悪いことは器質的損傷の証明にはならず,逆に他動値が良好であることも拘縮の不存在を意味しない。この点は,被害者側にも相手方にも同じように働く。

第3 行政通達及び行政実務における拘縮

1 労災保険の障害等級認定基準

(1) 器質的変化と機能的変化の区分

関節の機能障害の認定基準は,平成16年6月4日基発第0604003号「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」及びその別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」に定められている。自動車損害賠償責任保険の後遺障害等級も,支払基準が「等級の認定は,原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」としているため,実質的にこの通達によっている。

同別添は,「関節の機能障害は,関節そのものの器質的損傷によるほか,各種の原因で起こり得るから,その原因を無視して機械的に角度を測定しても,労働能力の低下の程度を判定する資料とすることはできない」としたうえで,「測定を行う前にその障害の原因を明らかにしておく必要がある」とし,可動域制限の原因を器質的変化によるものと機能的変化によるものとに大別する。そして「器質的変化によるもののうちには,関節それ自体の破壊や強直によるもののほかに,関節外の軟部組織の変化によるもの(例えば,阻血性拘縮)があり,また,機能的変化によるものには,神経麻痺,疼痛,緊張によるもの等がある」と述べており,前記の医学的な拘縮と強直の区分をそのまま採用している。せき柱については,「項背腰部軟部組織の器質的変化も認められず,単に,疼痛のために運動障害を残すものは,局部の神経症状として等級を認定すること」と明記されており,疼痛由来の運動障害が神経症状の等級にとどまることが通達上明らかにされている。

(2) 阻血性拘縮が例示されている理由

通達が拘縮の例として阻血性拘縮を挙げているのは偶然ではない。『標準整形外科学 第15版』は,阻血性拘縮について「筋は阻血により6時間で壊死に陥り,最終的には線維組織に置き換わり非可逆的な筋性拘縮」となると説明しており,関節外の軟部組織が器質的に変化して可動域制限を生じる典型例だからである。同別添は,測定時の注意として「被測定者の姿勢と肢位によって,各関節の運動範囲は著しく変化する。特に関節自体に器質的変化のない場合にはこの傾向が著しい。例えば,前述した阻血性拘縮では手関節を背屈すると各指の屈曲が起こり,掌屈すると各指の伸展が起こる」とし,体位を変えて測定した値も考慮して運動制限の範囲を判定しなければならないとしている。前記のとおり隣接関節の肢位によって値が変わるかどうかは責任病巣の推定に直結するから,後遺障害診断書に肢位を変えた測定値を記載してもらうことには実質的な意味がある。

なお同別添は,共働運動が無意識のうちに起こることを利用して「被測定者の注意をり患関節から外させて測定する方法」や筋電図等の電気生理学的診断により,心因性の運動制限の診断及び詐病の鑑別が可能であるとも述べている。

(3) 廃用性の機能障害

同通達の本体は,「廃用性の機能障害(たとえば,ギプスによって患部を固定していたために,治ゆ後に関節に機能障害を存するもの)については,将来における障害の程度の軽減を考慮して等級の認定を行うこと」としている。しかし前記のとおり,固定が2週以下であれば筋性の拘縮として回復が期待できる一方,4週以上の固定により生じた関節性の拘縮は動物実験の水準では非可逆とされており,ストレッチの効果も1度から2度にとどまる。したがって,将来の軽減を考慮するという取扱いが医学的に支持されるのは短期の固定に由来する場合に限られると考えられ,長期のギプス固定を経た事案で一律に軽減を見込むことには疑問がある。

2 介護保険の認定調査は疼痛由来を含める

同じ「拘縮」という語であっても,介護保険の要介護認定における外延は労災保険と大きく異なる。厚生労働省の認定調査員テキスト2009(平成30年4月改訂版)は,「1-2 拘縮の有無」の調査上の留意点として,「疼痛のために関節の動く範囲に制限がある場合も含まれる」と明記し,「あくまでも,他動運動により目的とする確認動作ができるか否かにより選択するものであり,『主治医意見書』の同様の項目とは,選択基準が異なることもある」としている。判定も角度によるのではなく,「傷病名,疾病の程度,関節の左右や関節の動く範囲の制限の程度,調査対象者の意欲等にかかわらず」,肩であれば肩の高さまで挙上できるか,股であれば仰臥位で90度程度屈曲できるか又は膝の内側を25センチメートル程度開くことができるか,膝であればほぼ伸展位から90度程度他動的に曲げられるかという粗大な確認動作の可否によって行われる。

つまり介護保険の認定調査は,原因を問わず疼痛由来の制限も「拘縮」として扱い,角度も測らない。したがって認定調査票に「拘縮あり」と記載されていることは,労災保険又は自賠責保険にいう器質的な可動域制限の証拠にはならない。

3 身体障害者手帳の認定基準は拘縮概念を用いない

身体障害者手帳の等級認定は,平成15年1月10日障発第0110001号「身体障害者障害程度等級表の解説(身体障害認定基準)について」による。同基準は,「全廃とは,関節可動域(以下,他動的可動域を意味する。)が10度以内,筋力では徒手筋力テストで2以下に相当するものをいう」とし,機能の著しい障害についても「関節可動域が日常生活に支障をきたすと見なされる値(概ね90度)のほぼ30%(概ね30度以下)」と定めている。すなわち,他動的可動域の角度と徒手筋力テストの結果だけで判定する仕組みであって,「拘縮」という概念そのものを判定基準に用いていない。労災保険が健側比により3/4,1/2及び強直という段階を設けているのとも,介護保険が確認動作の可否によるのとも異なる第三の物差しである。

4 薬事上も痙縮と拘縮は区別されている

痙縮と拘縮の区別は,医薬品の承認事項としても明文化されている。A型ボツリヌス毒素製剤の電子添文は,効能又は効果として「上肢痙縮」及び「下肢痙縮」を掲げたうえ,効能又は効果に関連する注意として「本剤は非可逆的拘縮状態となった関節の可動域の改善に対しては効果を有しない」と定めている。つまり,神経性で可逆的な痙縮は薬物に反応するが,軟部組織の器質的変化である拘縮には反応しないという区別が,承認のレベルで確立している。逆にいえば,可動域制限がボツリヌス療法により改善したことは,その制限が拘縮ではなく痙縮であったことの傍証となる。

拘縮の本体がコラーゲンであることも,薬事の資料から確認できる。コラゲナーゼ(クロストリジウム ヒストリチクム)製剤の承認に際して発出された平成27年7月3日薬食審査発0703第5号は,効能又は効果を「デュピュイトラン拘縮」とし,「本剤による治療は触知可能な拘縮索に対して行うこと」としたうえ,「本剤はコラーゲン加水分解作用を有するため,手の腱や靭帯等のコラーゲン含有組織に作用すると,腱断裂,靭帯損傷等が起きるおそれがある」と注意を求めている。薬効がコラーゲンの加水分解であり,その副作用が正常なコラーゲン含有組織の断裂であるという構造は,拘縮の実体がコラーゲンの増生であるという前記の組織学的知見と整合する。

第4 裁判例における拘縮と可動域制限

交通事故及び労災の後遺障害等級を正面から争う下級審裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索の掲載対象になっていないことが多い。「拘縮」「関節拘縮」「阻血性拘縮」「廃用性」「可動域制限」等の語で全文検索を行っても,本記事の主題に関わる裁判例を同サイト上で確認することはできなかった。以下に取り上げる裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイト未掲載であり,判例秘書プラス又は第一法規D1-Lawにより全文又は判決要旨を確認したものである。

1 拘縮の定義を判示した裁判例

東京地方裁判所判決令和6年5月9日(令和元年(行ウ)第382号)は,業務上の負傷により障害等級第12級の12と認定された者が第7級の3に当たると主張した労災保険の処分取消訴訟において,前提事実として「拘縮とは,皮膚や骨格筋,腱,靭帯,関節包等の関節周囲軟部組織の器質的変化に由来した関節可動域制限をいう」と定義した。同判決は,医学文献から,不動により3日目から関節拘縮に関わる組織学的な変化が生じ,30日以内であれば可動域も正常に回復するのに対し,40日以上の固定では回復が遅くなり,60日以上では関節内に強い結合織性の癒着が生じて可動域の回復も期待し難いこと,長期固定による拘縮の改善の可能性の目安は正常な関節の場合で約1か月の固定が限度とされていることも認定している。

同判決は,カルテの「拘縮」という記載について,測定値の記載がないから疼痛による可動域制限か拘縮か不明であるという国側の主張に対し,「疼痛による可動域制限であるにもかかわらず,整形外科の医師も含む複数の医師が『拘縮』があるとするとは考え難い」として排斥し,可動域は日によって変動することも考えられるから値の悪化があることによって拘縮の存在が否定されるとまではいえないとした。もっとも同判決は,反射性交感神経性ジストロフィーの業務起因性を否定して請求自体は棄却しており,拘縮の存在を認めた判断がそのまま結論に結び付いたものではない。

2 拘縮を肯定した判断と否定した判断の分かれ目

これと表裏の関係にあるのが,大阪地方裁判所判決令和4年7月28日(令和元年(行ウ)第117号)である。同判決は,通勤災害により左鎖骨を骨折した者が左肩関節の機能障害を主張して障害等級第14級の9とした処分の無効確認を求めた事案において,「本件障害の原因は,左肩関節の器質的変化ではなく,本件事故の受傷部位(左鎖骨部)の疼痛によるものというべきである」とし,「障害認定実務上,関節拘縮などの器質的変化ではなく,疼痛による関節の可動域制限の場合,疼痛の障害等級としての評価に含まれるとみなすべきとされている」と判示した。主治医が症状固定から2年9か月後に作成した回答書で軟部組織の拘縮を指摘した点については,当初の診断書が原因を「左鎖骨の疼痛による動作障害」としていたのと内容を異にする合理的説明がないこと,同医師自身が画像診断上は可動域制限の原因となり得る異常所見を認めないと判断していること,治療期間中の拘縮について何ら経時的記録が存在しないことを挙げて,採用できないとしている。

この二つの判断を並べると,拘縮の存否を分ける最も重要な事情は,治療期間中の診療録に拘縮の所見が経時的に記録されているかどうかであると整理することができる。金沢地方裁判所判決令和2年11月12日(平成28年(ワ)第552号)も同じ方向にあり,複合性局所疼痛症候群の認定要件である関節拘縮,骨の萎縮及び皮膚の変化について「一定の不可逆性が客観的に確認できることが求められる」という趣旨から「相応の合理性がある」としつつ「上記①ないし③の要件を絶対視することも相当でない」とし,関節拘縮については,最初に症状固定の診断を受けた時点の記録に可動域制限の言及がないこと,脊髄刺激療法の実施後には右手で普通に字を書くことができるようになっていることを理由に,これを認めなかった。拘縮が非可逆的な病態であるという医学的性質が,治療により改善したのであれば拘縮ではないという形で立証命題になっている。

他方,画像所見がないことだけを理由に拘縮を否定することはできない。福岡地方裁判所判決令和元年6月19日(平成29年(ワ)第3163号,自保ジャーナル2062号51頁)は,左膝関節の機能障害について,医師の意見書が「拘縮による関節可動域制限の可能性については言及しておらず,少なくとも画像診断上判断される器質的な可動域制限の要因はないことをいうにとどまるものと理解される」として,「これをもって,拘縮による可動域制限の存在を否定することはできない」と判示した。拘縮の実体が軟部組織の線維化である以上,通常の単純エックス線写真,CT又はMRIの読影項目には現れないのであるから,この判断は前記の医学的知見と整合する。

もっとも,関節外の軟部組織の変化であればどのようなものでも足りるわけではない。大阪地方裁判所判決平成25年12月3日(平成24年(ワ)第4040号,交通事故民事裁判例集46巻6号1543頁)では,原告が「皮下組織の断裂は関節外の軟部組織の変化に当たる」として器質的な可動域制限であると主張したのに対し,被告が,皮下組織の断裂遺残は骨,筋,腱の異常でも神経系の障害でもなく他に可動域制限をもたらす医学的要因はないと反論し,裁判所は後者を容れて第14級該当を基本とする判断をした。通達が例示する阻血性拘縮に照らせば,筋,腱又は関節包の水準の器質的変化が要求されているとみるのが自然である。

3 拘縮か否かが他動値と自動値の選択を決めた裁判例

名古屋高等裁判所判決平成24年4月19日(平成23年(ネ)第1039号,同第1196号)は,右足趾の機能障害について,自動ではほとんど可動できないのに他動による可動域は比較的制限されていないという状態を捉え,「原因を関節の拘縮によるものと考えるにはなお疑問がないではない」として,自賠責保険が関節の拘縮を原因とするとした判断を採らなかった。同判決は,原因を関節を可動させる筋の弛緩性の麻痺又は腱の断裂若しくは腱の癒着によるものと推認し,「他動によっては後遺障害を正当に評価することはできないから,自動による可動域を前提に後遺障害を評価するのが相当」として,第9級の15に該当すると認めている。拘縮であれば他動でも制限されるはずであるという医学的な前提が,他動値と自動値のいずれによるかという評価方法の選択に直結した例であり,拘縮でないと判断したことによって等級が上がっている点も重要である。

同判決は,複数の医師の測定値が食い違った場合の処理についても,労災保険審査官が健側の測定値がより参考可動域角度に近いことを理由に一方の医師の値を採用したのに対し,「可動域については個人差が考えられるのであるから,測定値が参考可動域に近いからといって,測定内容の正確性が必ずしも高いとはいえない」として,その論法を採らなかった。

大阪地方裁判所判決平成25年12月3日(平成24年(ワ)第2920号)は,同じ推論をせき柱について用いている。同判決は,後遺障害診断書上の測定が自動運動によるものであることに照らすと,胸腰椎部の可動域制限があるとしてもその原因は圧迫骨折という器質的変化にあるというよりは疼痛にあるものと解されるとし,これを脊柱の変形障害に含めて評価するのが相当であるとした。

4 器質的な制限と疼痛による制限を度数で按分した裁判例

広島高等裁判所判決平成22年1月28日(平成21年(ネ)第119号,判例タイムズ1346号203頁)は,頸椎固定術後の可動域制限について,器質的な原因により説明できる範囲を解剖学的に算出し,これを超える部分を疼痛によるものとして切り分けた。第4頸椎と第5頸椎の間の運動幅が20度,第5頸椎と第6頸椎の間の運動幅が22度であり,全屈曲・伸展が120度とされることから,固定術によって失われ得る可動域は合計42度であるとしたうえ,「各運動幅の合計42度を超えるものは,神経症状(疼痛による可動域制限)によるものというべきである」と判示し,第8級の2ではなく,第11級の7と第12級の13との併合第11級に当たるとした。同判決は,疼痛による可動域制限についても,頸椎固定術が事故による症状に対して執られた外科的療法である以上,これによる可動域制限も事故に起因するとして,事故との因果関係を肯定している。

同様の発想は前記の大阪地方裁判所判決平成25年12月3日(平成24年(ワ)第2920号)にも現れており,胸腰部の可動域は椎間関節の可動域の総和であるから,第3腰椎が関係する椎間関節は二か所にすぎず,最大限に見積もっても腰椎の可動域が障害され得る関節の比率は三分の一にとどまるという主張が容れられている。器質的な原因により説明できる限度を数量的に画するという手法は,せき柱のように可動域が複数の関節の総和として決まる部位で特に有効である。

5 廃用性拘縮が成立する範囲を限定した裁判例

前記の大阪地方裁判所判決平成25年12月3日(平成24年(ワ)第2920号)は,コルセット等による安静固定が長期に及んだために可動域が制限されたという主張についても判断を示している。同判決は,軟性装具や腰部固定帯でも30%から50%の可動域制限が生ずるとしつつ,「手足の関節をギプス固定する場合と異なり,装具,コルセットの場合には,完全に関節を動かせないという状況は考えられず,それによって,胸腰椎部の関節が拘縮するという事態は想定できない」とした。前記の動物実験がいずれも関節を外科的に完全固定して行われていることに照らせば,廃用性の拘縮を主張するためには関節を完全に動かせない状態での固定が前提として必要であるという理解は,医学的にも支持し得る。

拘縮の発生時期に着目して判断した例もある。名古屋高等裁判所判決平成22年2月12日(平成20年(ネ)第469号)は,「外傷性の中枢性麻痺で疼痛や関節の拘縮が発生するのは,痙性麻痺が始まって以降であり,弛緩性麻痺の時期に拘縮が発生することはなく,疼痛が発生することも稀である」という医学的知見を認定したうえ,麻痺の出現からわずか数日で疼痛が始まり2週間後には肩関節の拘縮と診断されているという経過は,弛緩性麻痺が認められないか,通常その時期には生じないような症状が発生していることを意味するとして,主治医の「麻痺がなければ,関節の拘縮は起こらないから」左半身麻痺が存在するという意見を採らなかった。同判決は高次脳機能障害も否定し,「事故後の有痛性の可動制限」による併合第12級として労働能力喪失率を14%とし,70%とした原審を変更している。拘縮の存在から器質的損傷を逆に推認する論法は,発生時期の医学的整合性によって検証し得る。

6 阻血性拘縮(フォルクマン拘縮)に関する裁判例

通達が拘縮の例として挙げる阻血性拘縮については,主として医療過誤の事案として裁判例が蓄積している。浦和地方裁判所判決昭和53年3月31日(昭和47年(ワ)第615号,判例タイムズ366号311頁)は,上腕骨顆上骨折の治療において重度のフォルクマン拘縮を発生させた医師の過失を認めた事案であり,同拘縮を「一八七二年リヒアルト・フオン・フオルクマンによりはじめて報告された前腕のとくに屈筋が外傷後急激な筋変性に陥り,のち拘縮を起して手はクローハンドといわれる特有な変形を示すとともに高度の機能障害を訴える疾患」であり,「三〇歳以下の若年者,特に一〇歳以下の小児に多く,しばしば顆上骨折または前腕部骨折,肘関節脱臼などに引き続いて発生する」と認定した。同判決は,筋変性の程度に応じた三段階の重症度分類も認定しており,第Ⅰ度は尺側の二,三指のみの屈曲拘縮にとどまるもの,第Ⅱ度は深部の屈筋が高度に変性する一方で浅層の屈筋がほぼ正常の機能を保ち正中神経が半分程度に絞扼されるもの,第Ⅲ度は浅層の筋もほとんど壊死に陥り正中神経のみならず尺骨神経も瘢痕組織により正常の二分の一から四分の一程度に縮小するものとされている。

過失の判断において注目されるのは,医師が何をしたかという点である。前記の浦和地方裁判所判決は,「一両日その初期症状等について看視を厳重にすべきであるのに,爪の色が変わつたら知らせるよう指示しただけで,この間診察もせずに放置し,血行改善の措置等をとらなかつた」ことを理由に過失を認めた。仙台地方裁判所判決平成13年4月26日(平成8年(ワ)第1378号,判例タイムズ1181号307頁,判例時報1773号113頁)は,同種の事案について,医師に阻血看視義務及び阻血回避義務を怠った過失があるとし,担当医らが適期に自ら視診や検査を行わず阻血徴候の出現を看過した点を捉えている。名古屋地方裁判所判決昭和51年9月27日(昭和47年(ワ)第2879号,判例タイムズ348号257頁,判例時報831号20頁)も,ギプス固定の後に手指が紫色に変色し腫脹しているのに,その比較検討を怠り一時的な血行障害と速断してギプスを一部切開しただけで放置した点を過失としている。

これに対し,東京高等裁判所判決昭和53年11月15日(昭和52年(う)第963号,刑事裁判月報10巻11号・12号1390頁)は,業務上過失傷害の事案で原判決を破棄して無罪を言い渡した。同判決は,疼痛及び腫脹は程度の差はあれ常に随伴する症状であって多くの場合はフォルクマン拘縮にならずに治癒しているから拘縮の発生を確実に予見することは非常に困難であること,垂直牽引療法は転位の著しい上腕骨顆上骨折に対する正当な療法として一般に是認されており弾力包帯を一時的にせよ解くことは治療の放棄にほかならないこと,拘縮の発生が相当程度懸念される症状があっても「ただちに観血的療法をとることなく,症状の推移を見守るにとどめるのが,大多数の医師における現実の治療方法である」ことを挙げている。横浜地方裁判所判決昭和55年9月25日(昭和51年(ワ)第1843号,判例時報1010号102頁)も,牽引療法について重りの程度,牽引の強さ及び方向に気を配り,腫れや血行障害等に注意して阻血性拘縮の後遺症を残さないよう注意していたとして過失を否定している。

これらを通覧すると,症状の推移を見守ること自体が過失とされているのではなく,阻血徴候に対して医師自身が診察,視診又は検査を行ったか,患者及び家族の申告に委ねたにとどまるかが判断を分けていると整理することができる。民事の事案と刑事の事案とで注意義務の水準が異なるという説明だけでは,民事の裁判例の中で過失の有無が分かれていることを説明できない。なお,福岡地方裁判所判決昭和59年8月10日(昭和57年(ワ)第1713号,判例時報1140号110頁)は,交通事故の傷害治療の過程に医療過誤が存在する場合であっても加害運転者は被害者の被った全損害を賠償すべきであるとしており,事故から骨折を経て阻血性拘縮に至る経過においても,被害者は加害者に対して全損害を請求し得ることになる。

第5 制度をまたぐときに生じる齟齬

1 同一の障害について労災と自賠責の結論が分かれた例

前記の大阪地方裁判所判決令和4年7月28日は,同一人の同一の障害について,労災保険では第14級の9,自賠責保険では第10級の10という正反対の認定がされていた事案である。同判決は,その理由について,労働者災害補償保険診断書には本件障害の原因が「左鎖骨の疼痛による動作障害」と明記されていたのに対し,自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書には原因が疼痛である旨が明記されていなかったことから,自賠責保険において疼痛による動作障害の点が十分に考察されずに認定がされた可能性が相応に考えられると述べ,自賠責保険の認定は結論を左右しないとした。後遺障害診断書の原因欄に何が記載されているかが等級を決定的に左右し得ること,裁判所は自賠責保険の認定に拘束されないことが,正面から示された例である。

2 他制度の認定を援用するときの限界

前記のとおり,労災保険及び自賠責保険は拘縮を器質的変化に限定し疼痛由来の制限を神経症状として別に評価するのに対し,介護保険の認定調査は疼痛由来の制限を明文で「拘縮」に含め,身体障害者手帳の認定基準は拘縮という概念を用いず他動的可動域の角度と徒手筋力テストのみで判定する。したがって,介護保険の認定調査票や身体障害者手帳の等級を後遺障害等級の主張の裏付けとして援用するときは,各制度の判定基準が異なることを明示しなければ,かえって信用性を損なうことになりかねない。

3 「将来における障害の程度の軽減」の医学的射程

労災保険の認定基準が廃用性の機能障害について将来の軽減を考慮するとしている点は,前記のとおり,固定期間が短く筋性の拘縮にとどまる場合には医学的にも支持される。しかし,4週を超える固定によって関節性の拘縮が生じている場合には,動物実験の水準でも回復が確認されておらず,前記の東京地方裁判所判決令和6年5月9日が引用した文献も,長期固定による拘縮の改善の可能性の目安は正常な関節の場合で約1か月の固定が限度であるとしている。したがって,固定期間の長短は,将来の軽減を考慮すべきかどうかを判断する際の重要な事実であり,診療録によりギプス又は創外固定が装着されていた期間を確定しておくことに意味がある。

出典・参考資料

法令・通達・行政資料

裁判例

いずれも裁判所ウェブサイト未掲載であり,判例秘書プラス又は第一法規D1-Lawにより全文又は判決要旨を確認した。

  • 東京地方裁判所判決令和6年5月9日 令和元年(行ウ)第382号(判例秘書プラスにより全文確認)
  • 大阪地方裁判所判決令和4年7月28日 令和元年(行ウ)第117号(判例秘書プラスにより全文確認)
  • 名古屋高等裁判所判決平成24年4月19日 平成23年(ネ)第1039号,同第1196号(判例秘書プラスにより全文確認)
  • 広島高等裁判所判決平成22年1月28日 平成21年(ネ)第119号 判例タイムズ1346号203頁(判例秘書プラスにより全文確認)
  • 名古屋高等裁判所判決平成22年2月12日 平成20年(ネ)第469号(判例秘書プラスにより全文確認)
  • 福岡地方裁判所判決令和元年6月19日 平成29年(ワ)第3163号 自保ジャーナル2062号51頁(判例秘書プラスにより全文確認,書誌は第一法規D1-Lawにより確認)
  • 金沢地方裁判所判決令和2年11月12日 平成28年(ワ)第552号 自保ジャーナル2134号41頁(判例秘書プラスにより全文確認)
  • 大阪地方裁判所判決平成25年12月3日 平成24年(ワ)第2920号(判例秘書プラスにより全文確認)
  • 大阪地方裁判所判決平成25年12月3日 平成24年(ワ)第4040号 交通事故民事裁判例集46巻6号1543頁(判例秘書プラスにより全文確認,書誌は第一法規D1-Lawにより確認)
  • 浦和地方裁判所判決昭和53年3月31日 昭和47年(ワ)第615号 判例タイムズ366号311頁(判例秘書プラスにより全文確認)
  • 仙台地方裁判所判決平成13年4月26日 平成8年(ワ)第1378号 判例タイムズ1181号307頁,判例時報1773号113頁(判例秘書プラスにより全文確認)
  • 名古屋地方裁判所判決昭和51年9月27日 昭和47年(ワ)第2879号 判例タイムズ348号257頁,判例時報831号20頁(判例秘書プラスにより全文確認)
  • 東京高等裁判所判決昭和53年11月15日 昭和52年(う)第963号 刑事裁判月報10巻11号・12号1390頁,東京高等裁判所判決時報刑事29巻11号190頁(判例秘書プラスにより全文確認)
  • 横浜地方裁判所判決昭和55年9月25日 昭和51年(ワ)第1843号 判例時報1010号102頁(判例秘書プラスにより全文確認)
  • 福岡地方裁判所判決昭和59年8月10日 昭和57年(ワ)第1713号 判例時報1140号110頁(判例秘書プラスにより全文確認)

文献

  • 井樋栄二・津村弘監修『標準整形外科学 第15版』(医学書院,2023年)84頁,138頁,206頁,525頁~526頁
  • 上田敏・伊藤利之監修,佐伯覚・高岡徹・藤谷順子編集『標準リハビリテーション医学 第4版』(医学書院,2023年)104頁,272頁
  • 沖田実「関節可動域制限の発生メカニズムとその治療戦略」理学療法学41巻8号(2014年)523頁~530頁 J-STAGE(PDF)
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