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ロシアFSB(連邦保安局)が外国人記者をスパイ容疑で拘束する国内法上の根拠―刑法276条と刑事手続(AI作成)

第1 結論

1 国内法上の根拠は四つの段階に分かれる

ロシア連邦保安局(FSB)が外国人記者をスパイ容疑で拘束する国内法上の根拠は,①ロシア刑法276条が外国人又は無国籍者によるスパイ行為を犯罪とすること,②FSB法13条及び刑事訴訟法151条がこの犯罪の捜査をFSBの権限とすること,③刑事訴訟法91条及び92条が被疑者の一時的な拘束の要件と手続を定めること,④同法108条が裁判所の決定による勾留を定めることにある。
報道で一括して「拘束」又は「逮捕」と表現されても,ロシア法上の最初の身柄拘束(задержание)と,裁判所が選択する身柄拘束処分(заключение под стражу)は別の段階である。

2 記者であることだけでは刑事免責にならない

ロシア憲法29条とマスメディア法47条は,情報を適法な方法で探索し,取得し,伝達する自由及び記者の取材権を定めている。
しかし,同条は国家秘密等を含む文書へのアクセスを例外とし,記者という身分そのものに刑法276条の適用を排除する免責を与えていない。
したがって,国内法上の権限があることと,個別事件で犯罪の要件が証拠により立証されたことは分けて考える必要がある。

第2 外国人に適用される刑法276条

1 ロシア国民の国家反逆罪とは主体が異なる

ロシア刑法276条は,外国人又は無国籍者が同条所定の行為をした場合をスパイ罪としている。
これに対し,刑法275条の国家反逆罪はロシア国民を主体とし,スパイ行為,国家秘密の提供,敵側への移行及び外国の国家・組織等への援助を処罰対象とする。
外国人記者の事件で276条が示されるのは,職業が記者だからではなく,被疑者が外国人又は無国籍者であるという主体要件による。

2 国家秘密だけが対象とは限らない

刑法276条は,第一に,外国国家,国際機関若しくは外国組織又はその代表者へ渡す目的で,国家秘密に当たる情報を伝達し,収集し,窃取し,又は保管する行為を対象とする。
第二に,外国情報機関又はその利益のために行動する者の指示に基づき,ロシア連邦の安全に反して利用するための「その他の情報」を伝達し,又は収集する行為も対象とする。
第三に,武力紛争,軍事行動その他ロシア連邦が武器・軍事装備を用いる行動の状況下では,ロシア軍等に不利に利用され得る情報を敵へ渡す目的で伝達し,収集し,窃取し,又は保管する行為も定める。
このため,問題となる情報が形式上の国家秘密に指定されているかだけでなく,情報の種類,収集又は伝達の態様,依頼者,目的及び利用先が条文上のどの類型に当たると主張されているかを確認しなければならない。

3 法定刑と自首等による免責

刑法276条の法定刑は10年以上20年以下の自由剥奪である。
刑法15条5項は,10年を超える自由剥奪刑等が定められた故意犯を特に重大な犯罪に分類しているため,276条は刑事訴訟法108条が勾留の対象とする犯罪類型に入る。
また,刑法275条の注記3は276条にも適用され,任意かつ適時の当局への申告その他の方法でロシア連邦の利益に対するさらなる損害の防止に寄与し,かつ他の犯罪が成立しない場合には刑事責任を免れると定める。

第3 FSBが捜査を担当する根拠

1 FSB法13条の権限

FSB法13条は,FSBに対し,スパイ行為を発見し,予防し,阻止し,解明するための捜索・捜査活動を行う権限を与える。
同条は,法令によりFSBの管轄とされた犯罪について,照会及び予備捜査を行い,法令に従って拘置施設を使用する権限も定めている。
ただし,FSB法13条だけで身柄拘束の全要件が完結するわけではなく,刑事手続上の拘束は刑事訴訟法の要件に従う。

2 刑事訴訟法151条の捜査管轄

ロシア刑事訴訟法151条2項2号は,刑法275条から280条の2までの犯罪等について,FSBの捜査官が予備捜査を担当すると定めており,276条もこの範囲に含まれる。
したがって,スパイ容疑の実体法上の根拠が刑法276条であるのに対し,FSBが捜査主体となる直接の手続法上の根拠は刑事訴訟法151条である。

第4 最初の拘束から裁判所の勾留決定まで

1 刑事訴訟法91条の拘束要件

刑事訴訟法91条は,自由剥奪刑を科し得る犯罪について,①犯行中又は直後に発見された場合,②被害者又は目撃者が犯人として指示した場合,③身体,衣服,所持品又は住居に明白な犯罪の痕跡が見つかった場合に,被疑者を拘束できるとする。
その他の疑いを基礎付ける資料がある場合には,逃亡を試みたこと,住居又は滞在場所がないこと,身元が確認できないこと,又は裁判所に勾留請求が提出されたことのいずれかが追加して必要となる。
スパイ容疑という罪名が示されたことだけで,この初期拘束要件が自動的に満たされるわけではない。

2 拘束記録,弁護人及び通知

刑事訴訟法92条は,被疑者を捜査機関へ連行してから3時間以内に拘束記録を作成し,権利を説明した旨を記載するよう求める。
同条は,実際の拘束時から弁護人が関与している場合には拘束記録の作成への弁護人の参加を必要とし,取調べ前に被疑者の求めにより弁護人との秘密の面会を保障する。
同法96条は,原則として連行から3時間以内に親族等へ電話で通知する権利を定め,外国人の場合には12時間以内に当該国の大使館又は領事館へ通知すると定める。
もっとも,捜査上拘束の事実を秘密にする必要がある場合には,検察官の同意を得た理由付き決定により通知を行わないことができるという例外がある。

3 48時間と裁判所の勾留決定

刑事訴訟法94条は,疑いが確認されない場合,勾留を選択する根拠がない場合又は91条に違反して拘束した場合の釈放を定める。
裁判所が勾留を選択せず,拘束期間を延長しないときは,原則として実際の拘束から48時間で釈放しなければならない。
現行条文は,戒厳令下で重大又は特に重大な犯罪の被疑者を拘束する場合について30日の例外を置いているため,報道された時間制限を読む際は当該地域と時点に適用された法状態も確認する必要がある。
同法108条は,より軽い処分では足りない場合に,重大又は特に重大な犯罪の被疑者・被告人を裁判所の決定で勾留できるとする。
裁判官の決定には具体的な事実上の事情を示す必要があり,捜査官は理由及び他の処分では足りない事情を記載した申立てと資料を裁判所へ提出する。

第5 取材の自由と刑事責任の境界

1 情報収集権にも法律上の限定がある

ロシア憲法29条4項は,何人も適法な方法で情報を自由に探索し,取得し,伝達し,作成し,頒布する権利を有するとし,5項はマスメディアの自由を保障して検閲を禁じる。
マスメディア法47条は,記者が情報を探索・請求・取得・頒布し,国家機関等を訪問し,文書を複製する権利を定める一方,国家秘密,営業秘密その他法律上保護される秘密を含む部分へのアクセスを例外としている。
したがって,通常の取材活動であるとの説明は重要な反対評価になり得るが,それだけで276条の適用可能性が消えるという条文構造ではない。

2 マスメディア法51条とスパイ罪を混同しない

マスメディア法51条は,社会的に重要な情報の隠蔽・改ざん,事実を装った噂の流布又はマスメディアではない外部の者・組織のための情報収集に記者の権利を利用することを禁じる。
しかし,同条の違反と刑法276条の成立は同じ問題ではなく,スパイ罪では276条が定める主体,情報,指示,目的及び行為を個別に立証する必要がある。

第6 国家秘密事件で公開情報が少なくなる理由

1 非公開審理の法的根拠

刑事訴訟法241条は公開審理を原則とするが,審理により国家秘密その他連邦法で保護される秘密が明らかになるおそれがある場合には,裁判所の決定で全部又は一部を非公開にできる。
非公開決定には具体的な事実上の事情を記載する必要がある一方,秘密に関わる証拠の内容は一般の報道から確認しにくくなる。

2 発表,主張,裁判所の認定及び不明点を分ける

国家秘密事件を読むときは,①現行法令の内容,②捜査機関・検察の発表,③被疑者・被告人及び弁護側の主張,④裁判所が公開した判断,⑤公開資料からは分からない証拠内容を分ける必要がある。
検察が「捜査で確認した」と発表したことは,検察がそのように主張した事実を確認する資料にはなるが,公開されていない証拠の信用性や反対証拠まで第三者が検証したことを意味しない。
逆に,外国政府又は報道機関が不当拘束だと主張したことも,その見解が表明された事実の資料であり,それだけでロシア法上の全ての要件の存否が確定するわけではない。

第7 ゲルシュコビッチ事件から分かること

1 ロシア検察の発表

ロシア検察は,2024年6月13日の発表で,米国籍のウォール・ストリート・ジャーナル記者エヴァン・ゲルシュコビッチについて,刑法276条違反で起訴し,FSB捜査局が予備捜査を行ったと説明した。
同発表は,2023年3月にCIAの指示でスベルドロフスク州の防衛企業による軍事装備の生産・修理に関する秘密情報を収集したと述べているが,これはロシア検察による訴追内容の説明である。

2 反対見解とその後の経過

米国務省は同人を不当に拘束された者と認定し,犯罪の証拠が示されていないとの立場を表明した。
ジャーナリスト保護委員会(CPJ)も,本人,所属社及び米国政府が容疑を否定したと報告し,2024年7月19日の16年の自由剥奪刑を批判した。
その後,米国務省は,2024年8月1日の発表で,身柄交換の合意により同人がロシアから帰国する途上にあると公表した。
公開資料だけでは非公開審理で調べられた証拠全体を検証できないため,本件から確実に読み取れるのは,ロシア側が276条とFSBの捜査管轄を用いたこと,米国側等が事実認定と手続の正当性を争ったこと,及び最終的に身柄交換で帰国したことである。

第8 外国での記者拘束報道を読むときの確認事項

1 法令と個別事件の立証を分ける

確認事項は,①被疑者の国籍,②適用条文と現行版,③疑われている情報の種類,④収集・保管・伝達のどの行為か,⑤外国機関等の指示と利用目的がどのように主張されているか,⑥初期拘束と裁判所の勾留決定の時刻・根拠,⑦弁護人及び領事への通知,⑧公開審理か非公開審理か,⑨検察発表と裁判所の認定の区別である。
外国語の「detention」「arrest」又はロシア語の手続名を日本法の逮捕・勾留へ機械的に置き換えず,その法域の判断主体と時間制限を確認する必要がある。

2 日本の弁護士実務への示唆

国外で日本人の記者,研究者又は企業関係者が拘束された事件では,現地の弁護人による刑事手続対応,日本の在外公館による領事支援,所属組織の危機対応及び日本国内での説明を分けて進める必要がある。
公表文を作る際は,容疑を既定の事実とせず,現地当局の発表,弁護側の説明,自ら確認できた事実及び確認できない事項を表示することが重要である。

第9 出典及び関連記事

本記事は,2026年10月15日現在のロシア刑法,刑事訴訟法,FSB法,憲法及びマスメディア法の公開条文を基礎とする。
ロシア法の日本語説明は条文の趣旨を示す要約であり,個別事件では現行のロシア語正文と現地専門家の確認が必要である。
捜査・訴追機関の発表と裁判所の認定を区別する一般的な考え方については,検察官と報道機関の接触―取材対応・守秘義務・国家公務員倫理(AI作成)を参照されたい。
弁護士が外国事件について取材対応をする際の確認事項については,弁護士が報道機関の取材を受けるときの確認事項―守秘義務,オフレコ及び原稿確認(AI作成)を参照されたい。