第1 取材対応・秘密保持・私的交流を分けて考える
検察官と記者の接触を検討するときは、組織としての取材対応、公務員の守秘義務、接待や遊技等に関する倫理規制を区別する必要がある。取材窓口として説明する立場にあることから、非公開の捜査情報を自由に提供できることにはならない。
また、相手が倫理規程上の利害関係者に該当しない場合にも、過度の接待などは規制される。刑事罰に触れるかどうかと、公務員の信用を損なう行為であるかどうかも別の問題である。
本記事は、国家公務員法・倫理規程の現行条文と、東京地検の取材対応についての平成22年の政府答弁を整理する。黒川弘務元東京高検検事長の賭け麻雀問題の経緯及び人事上の措置は、事件の経緯をまとめた記事及び訓告処分に関する内閣答弁書を参照されたい。
第2 東京地検の取材窓口についての平成22年答弁
1 統一的な対応のための窓口
平成22年1月26日付答弁書は、東京地検について、部長・副部長以外の検察官や検察事務官には接触しないよう報道機関に依頼していると説明した。その理由を、報道機関に対する対応を統一するためとしている。
同答弁は、取材対応について特に定まった規定があるわけではなく、適宜適切に対応しているとも述べている。これは当時の東京地検の対応に関する説明であり、現在の全国の検察庁に共通する取材規則が示されたものではない。窓口以外への接触が、当然に特定の犯罪となるという意味でもない。
2 記者会見で説明する事項
同答弁は、検察活動は基本的には公開の法廷での主張・立証を通じて公にされるべきとし、起訴時の会見は、公訴事実の概要等を説明して検察活動の理解を得るためのものと説明した。
平成22年2月2日付答弁書は、捜査情報や方針を外部に漏らすことはないとの政府の認識を述べ、質問で挙げられた聴取予定や供述内容等の取材には対応しないと説明した。この政府の認識だけで、現実のあらゆる事案で情報漏えいがなかったことが立証されるわけではない。
第3 国家公務員の守秘義務と信用失墜行為
1 秘密の保持は退職後も必要である
検察官・検察事務官には、国家公務員法100条1項の守秘義務が適用される。職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならず、退職後にも義務が続く。
公務員法上の秘密は、単に組織が秘密と表示した事実だけで判断するものではない。西山事件の最高裁昭和53年5月31日決定は、非公知であり、実質的にも保護に値する事実であることを要求し、その判断は裁判所が行うとした。
平成22年答弁の罰則説明は、当時の懲役を用いている。現行の国家公務員法109条12号の罰則は1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金である。過去の説明と現行の刑の名称は区別される。
2 犯罪に当たるかと信用失墜行為かは別である
同法99条は、官職の信用を傷つけ、又は官職全体の不名誉となる行為を禁止している。秘密の漏えいが認定されないことや、他の犯罪に問われないことだけから、公務員として問題がないとは結論づけられない。
検察の理念7項も、関係者の名誉や捜査・公判への影響を考慮し、情報の適切な管理と厳格な秘密保持を求めている。
第4 国家公務員倫理規程が規制する接待と遊技
1 利害関係者であるかを職務との関係で判断する
国家公務員倫理規程2条は、許認可、補助金、検査、不利益処分、契約等の職務との関係から利害関係者を定める。相手の職業名だけで一律に判断することはできず、職員の担当職務と相手方の具体的な関係を確認する必要がある。
同規程3条1項は、利害関係者からの無償の役務提供や供応接待、利害関係者との遊技・ゴルフ等を禁止する。例外は3条2項以下や4条に定められており、費用を自己負担したという一点で、すべての行為が許されるわけではない。
2 利害関係者以外からの過度の接待も規制される
同規程5条1項は、利害関係者に該当しない事業者等からも、繰り返しの接待など、社会通念上相当な程度を超える接待や財産上の利益を受けることを禁止する。同条2項は、その場に居合わせない事業者等への支払いの付け回しを規制する。
したがって、「相手が利害関係者ではない」という説明だけで検討を終えることはできない。誰が何の費用を負担したか、交流の頻度・態様、公正な職務への疑惑を招く事情などを、適用される規定と照合する必要がある。
第5 黒川氏の事件で混同してはならない点
1 訓告と懲戒処分・刑事手続
令和2年6月の政府答弁は、黒川氏に対する訓告を、内規に基づく監督上の措置と説明している。国家公務員法上の免職・停職・減給・戒告とは区別される。措置が訓告であったことから、その行為が適法だったという結論は導けない。
人事上の措置の量定、刑法の賭博罪の成否、刑事手続で起訴するかどうかは、それぞれ判断の目的・根拠が異なる。過去の処分との比較では、行為、相手方、費用負担、職責、資料の対象期間などをそろえて検討する必要がある。
2 交流の事実と情報漏えいの認定
記者と私的に交流していたという事実から、特定の捜査情報が提供されたと推認して記事に記載することは適切でない。また、取材源を秘匿できる場合があることから、公務員側の守秘義務が解除されるわけでもない。
報道関係者側の証言拒絶と取材方法の限界は、取材源の秘匿はどこまで保護されるかで整理している。
第6 出典と関連記事
法令は令和8年10月12日に確認した現行条文を基礎とし、平成22年及び令和2年の政府答弁はそれぞれ当時の説明として扱う。過去の東京地検の窓口運用を、現在の全国一律の運用として紹介するものではない。
人事上の措置の資料は、平成14年5月以降の,検察官の懲戒処分事例、賭博罪の一般的な判断は、賭け麻雀と賭博罪を参照されたい。
東京高検の平成25年・平成31年のルールブックの掲載箇所は、黒川氏の賭け麻雀問題の資料集にある。これらは各版の当時の資料として、現行法令及び現在の組織内規とは区別して読む必要がある。